第5節 国際経済
第2章 経済
国際経済の節では、国境を越えたモノ・サービス・お金の動きと、それを支える国際的な仕組みを学びます。グローバル化が進む現代では、貿易や為替、国際機関の役割を理解することが不可欠です。行政書士試験では経済の基礎知識として頻出分野です。
貿易と国際分業
簡単にいうと
「なぜ国同士で貿易するの?」という疑問に答えるのが国際分業の考え方。自分が得意なものに集中して作り、苦手なものは輸入すれば、どの国も豊かになれるんです。
国際貿易とは、国境を越えた財・サービスの輸出入のことをいい、世界経済の根幹をなす仕組みです。単なる物のやり取りではなく、各国が互いの得意分野を活かして生産を分担する「国際分業」と深く結びついています。
国際分業の理論的根拠として最も重要なのが、イギリスの経済学者リカードが唱えた「比較優位の原則」です。比較優位の原則とは、絶対的な生産コストの優劣ではなく、相対的なコスト比較(比較優位)に基づいて各国が特化することで、貿易に参加するすべての国が利益を得られるという考え方です。たとえばある国がすべての商品を効率よく生産できる場合でも、相対的に最も得意な分野に特化して輸出し、その他の商品は輸入したほうが全体的な豊かさは増します。
貿易政策の考え方には大きく二つの立場があります。一つは「自由貿易主義」で、関税・輸入制限を撤廃して自由な貿易を促進する政策です。消費者の選択肢拡大や価格低下・経済効率向上が期待されますが、国内産業への打撃や雇用喪失というデメリットもあります。WTO(世界貿易機関)の基本理念はこの自由貿易主義に基づいています。もう一つは「保護貿易主義」で、関税や輸入クオータなどを課して国内産業・雇用を守る政策です。国内産業保護には効果がありますが、消費者の負担増大や貿易摩擦を引き起こすリスクがあります。
FTA(自由貿易協定)は特定の国・地域間で関税撤廃や輸入制限の廃止を約束する協定です。EPA(経済連携協定)はFTAをさらに発展させ、関税撤廃に加えて投資・サービス・知的財産・人の移動など幅広い分野を包括する協定で、日本がASEAN各国やEUとの間に多数締結しています。
具体例
日本はコメの生産に比較優位があるとはいえないが、自動車や精密機器の生産に比較優位があるため、これらを輸出し、農産物を輸入するという国際分業が成立している。
ポイント整理
- ・比較優位の原則:絶対的コストでなく相対的コスト比較に基づく特化
- ・自由貿易主義:関税・輸入制限の撤廃(WTOの基本理念)
- ・保護貿易主義:関税・輸入クオータ等で国内産業を保護
- ・FTA(自由貿易協定):特定国間の関税撤廃等
- ・EPA(経済連携協定):FTA+投資・サービス・知財等を包括
効果
- ・自由貿易:消費者の選択肢拡大・価格低下・経済効率向上(国内産業への打撃リスクあり)
- ・保護貿易:国内産業・雇用の保護(消費者負担増・貿易摩擦リスクあり)
- ・EPA締結:投資環境の整備・労働力の相互提供・サービス市場の開放
重要メモ
- ・「比較優位の原則=各国が相対的に有利な財の生産に特化し貿易することで双方が利益を得られる・自由貿易vs保護貿易」
- ・比較優位の法則(リカード):各国がより効率よく生産できる財の生産に特化し貿易することで、双方の国に利益が生じる——国際分業の理論的根拠
- ・自由貿易:関税・輸入制限なしに財・サービスが自由に取引される——WTO・FTA・EPAが推進
- ・保護貿易:関税や輸入数量制限で国内産業を保護する——幼稚産業保護論・国家安全保障上の理由
- ・FTA(自由貿易協定):2国間・地域間で関税撤廃・貿易自由化を定める協定
- ・EPA(経済連携協定):FTAを包含し、投資・知的財産・人の移動等も含む包括的な協定——日本はTPPやEPAを通じて多国間で締結
- ・貿易収支:輸出額−輸入額——黒字は外国に対する債権増加・円高要因
為替相場と国際収支
簡単にいうと
「円安・円高って結局どっちが得なの?」という疑問、輸出企業には円安が有利で輸入企業には円高が有利、という使い分けで整理しましょう。
為替相場とは、異なる通貨を交換する際の比率(レート)のことです。たとえば「1ドル=150円」という形で表します。この数字が大きくなる(1ドル=160円になる)と「円安」、小さくなる(1ドル=140円になる)と「円高」といいます。
円安とは円の価値が下がり、相対的にドルの価値が上がる状態です。円安になると、日本の輸出品が外国から見て割安になるため輸出に有利になります。一方で、輸入品の円換算価格が上がるため輸入企業には不利で、原材料・エネルギー価格の上昇が国内インフレを引き起こすこともあります。訪日外国人にとっては日本が安く感じるためインバウンド需要が増加しますが、日本人が海外旅行をする費用は増大します。円高はその逆で、輸出に不利・輸入に有利・日本人の海外旅行費用が低下・訪日外国人は減少する傾向があります。
国際収支とは、一定期間における居住者と非居住者の間で行われたすべての経済取引を体系的に記録したものです。大きく経常収支・資本移転等収支・金融収支の三つに分かれます。経常収支はさらに、貿易収支(財の輸出入の差)・サービス収支(輸送・旅行・金融等サービスの受け払い)・第一次所得収支(海外からの利子・配当等)・第二次所得収支(無償援助等)に分かれます。日本は近年、貿易収支が赤字傾向にある一方で、海外投資からの収益(第一次所得収支)が大幅黒字となり、経常収支全体としては黒字を維持しています。
購買力平価説とは、二国間の為替レートは長期的には物価水準の比率によって決まるという理論で、「同じ商品は世界中どこでも同じ価格になるはず」という一物一価の法則を国際的に拡張したものです。
具体例
1ドル=150円のとき、100ドルの輸入品は円換算で15,000円。円安で1ドル=160円になると同じ商品が16,000円となり輸入企業には不利になる。
ポイント整理
- ・円安:1ドル=円の数値が大きくなる(円の価値低下・ドルの価値上昇)
- ・円高:1ドル=円の数値が小さくなる(円の価値上昇・ドルの価値低下)
- ・経常収支の構成:貿易収支+サービス収支+第一次所得収支+第二次所得収支
- ・購買力平価説:物価水準の比率が長期的為替レートを決定
効果
- ・円安:輸出有利・輸入不利・インバウンド増加・海外旅行費用増大・輸入インフレ
- ・円高:輸出不利・輸入有利・インバウンド減少・海外旅行費用低下・輸入デフレ効果
- ・経常収支黒字:対外純資産の増加・資金が国内に蓄積
重要メモ
- ・「円高=1ドルに必要な円が少なくなる・輸入有利・輸出不利・円安はその逆・国際収支は経常収支・資本収支・金融収支に区分」
- ・円高:1ドルを得るのに必要な円が少なくなること(例:1ドル=150円→100円)——輸入品が安くなる・輸出競争力が低下
- ・円安:1ドルを得るのに必要な円が多くなること(例:1ドル=100円→150円)——輸出競争力が高まる・輸入品価格が上昇
- ・変動相場制:市場の需給により為替レートが決まる——日本は1973年から変動相場制へ移行(プレトンウッズ体制崩壊)
- ・国際収支:一定期間の国際間の経済取引の記録——経常収支(貿易・サービス・所得収支)・資本移転等収支・金融収支に区分
- ・円高要因:日本の貿易黒字拡大・日本への資金流入増加・日米金利差縮小など
- ・為替介入:財務大臣の指示のもと日本銀行が外国為替市場で実施——自国通貨を売る介入(円売り・ドル買い)など
国際経済機関と協定
簡単にいうと
戦後の世界経済を支える「WTO・IMF・世界銀行」の三本柱と、近年急増するFTA・EPAの違いを整理しましょう。TPPやRCEPも試験頻出の時事知識です。
第二次世界大戦後の国際経済秩序は、1944年のブレトン・ウッズ会議で設計されました。この体制は、為替安定を担うIMF(国際通貨基金)、戦後復興・開発途上国支援を担うIBRD(国際復興開発銀行、通称「世界銀行」)、そして自由貿易を推進するGATT(関税及び貿易に関する一般協定)の三本柱から成り立っています。
GATTは1947年に発効し、自由・無差別・多角主義の原則のもとで貿易の自由化を推進してきましたが、1995年にWTO(世界貿易機関)へと発展的に移行しました。WTOはGATTの原則を継承しつつ、農業・サービス・知的財産権などより広範な分野をカバーし、貿易紛争解決手続き(DSU)も整備されています。WTOの基本原則として「最恵国待遇原則」(ある加盟国に与えた最も有利な待遇を他のすべての加盟国にも与える義務)と「内国民待遇原則」(輸入品を国内品と同等に扱う義務)が重要です。
近年はWTOの枠外で特定の国・地域間の経済連携が進んでいます。FTA(自由貿易協定)は関税撤廃・輸入制限廃止を中心とする協定で、EPA(経済連携協定)はFTAに加えて投資・サービス・知的財産・人の移動など幅広い分野を包括します。日本はASEAN・EU・英国・豪州など多数の国・地域とEPAを締結しています。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)はアメリカが離脱後、日本主導でCPTPP(TPP11)として2018年に発効し、11か国が参加しています。RCEP(地域的な包括的経済連携)は2022年に発効し、日本・中国・韓国・ASEAN・豪州・ニュージーランドの15か国が参加する世界最大規模の自由貿易圏です。
OECD(経済協力開発機構)は先進国間の経済政策協力・情報共有を目的とした国際機関であり、日本も加盟しています。
具体例
日本とベトナムのEPAでは、ベトナムからの看護師・介護士の受け入れ(労働力の提供)と日本からの自動車部品の輸出削減(関税撤廃)が実現している。
ポイント整理
- ・WTO:1995年設立・GATT後継・最恵国待遇原則・内国民待遇原則・紛争解決手続(DSU)
- ・IMF:為替相場の安定・国際収支支援・特別引出権(SDR)発行
- ・IBRD(世界銀行):開発途上国への長期融資・戦後復興支援
- ・OECD:先進国の経済政策協力
- ・FTA:特定国間の関税撤廃・輸入制限廃止
- ・EPA:FTA+投資・サービス・知財・労働力移動等を包括
- ・CPTPP(TPP11):2018年発効・11か国・日本が主導
- ・RCEP:2022年発効・15か国・中国・ASEAN等含む世界最大規模
効果
- ・WTO加盟:最恵国待遇・内国民待遇の享受義務・自由貿易体制への参加
- ・EPA締結:関税撤廃による輸出入の拡大・投資環境の整備・人的交流の促進
- ・CPTPP・RCEP参加:広域の自由貿易圏での市場アクセス向上
重要メモ
- ・「WTO=自由貿易推進の国際機関(GATT後継)・IMF=国際通貨安定・IBRD=開発途上国融資・OECD=先進国の経済協力機関」
- ・GATT(関税と貿易に関する一般協定・1947年):関税引き下げ・自由貿易推進のための多国間協定——ウルグアイラウンド交渉後にWTOへ移行
- ・WTO(世界貿易機関・1995年設立):GATT後継——自由貿易の推進・貿易紛争の解決・多国間貿易ルールの制定
- ・IMF(国際通貨基金):国際通貨制度の安定維持・加盟国の国際収支危機への融資支援——国連の専門機関
- ・IBRD(国際復興開発銀行・世界銀行):開発途上国への融資・開発支援——国連の専門機関
- ・OECD(経済協力開発機構):主要先進国が加盟する経済協力機関——経済政策協調・開発援助・統計データの共有
- ・TPP(環太平洋パートナーシップ協定):日本・オーストラリア等が参加した高水準のFTA——アメリカ離脱後、CPTPP(TPP11)として発効
国際金融と国際通貨体制
簡単にいうと
戦後の固定相場制(ブレトン・ウッズ体制)がニクソン・ショックで崩れ、今の変動相場制になるまでの歴史の流れを、年表で頭に入れましょう。
現在の国際通貨体制は、第二次世界大戦後の歴史的変遷を経て形成されました。1944年、アメリカのブレトン・ウッズで開かれた国際通貨金融会議において、ドルを基軸通貨とし、ドルと金を1オンス=35ドルで交換する金・ドル本位制(固定相場制)が確立されました。これをブレトン・ウッズ体制といいます。この体制のもとで日本円は1ドル=360円という固定相場が設定され(ドッジ・ライン、1949年)、日本の輸出主導型経済成長の基盤となりました。
1960年代にアメリカのベトナム戦争介入による財政赤字の拡大・インフレの進行により、金・ドル交換の維持が困難になってきました。1971年8月、アメリカのニクソン大統領はドルと金の交換を一方的に停止する「ニクソン・ショック」を宣言し、ブレトン・ウッズ体制は事実上崩壊しました。同年12月にはスミソニアン協定により各国通貨の新たな固定相場が設定されましたが、定着せず、1973年には主要国が変動相場制へと移行しました。変動相場制とは、為替レートを外国為替市場における通貨の需要と供給によって自由に決定させる制度です。
1985年9月、ニューヨークのプラザホテルで開催されたG5(日・米・英・独・仏の財務相・中央銀行総裁会議)において「プラザ合意」が成立しました。当時アメリカは大幅な貿易赤字に悩んでおり、ドル高是正のための協調介入(各国が市場でドルを売る)が合意されました。この結果、急激な円高が進行し、1ドル=240円程度から翌年には150円台にまで円が上昇しました。円高による輸出産業の打撃が「円高不況」を招き、その後の景気対策としての低金利政策がバブル経済の遠因となりました。
現在は変動相場制のもとで為替レートが市場の需給によって日々変動していますが、急激な為替変動に対しては中央銀行による為替介入(外国為替市場への参入)が行われることもあります。
具体例
プラザ合意(1985年)後の急激な円高により、日本の自動車・電機メーカーは輸出競争力が低下。対応策として海外現地生産(工場の海外移転)が加速した。
ポイント整理
- ・ブレトン・ウッズ体制(1944〜1973年):ドル基軸通貨・1オンス=35ドルで金交換保証・固定相場制
- ・日本の固定相場:1ドル=360円(ドッジ・ライン、1949年)
- ・ニクソン・ショック(1971年):アメリカが金・ドル交換を一方的に停止
- ・スミソニアン協定(1971年):ドル切り下げ・各国通貨の新固定相場設定
- ・変動相場制への移行(1973年):主要国が市場での需給による為替決定へ
- ・プラザ合意(1985年):G5によるドル高是正の協調介入→急激な円高進行
効果
- ・ブレトン・ウッズ体制:為替の安定により戦後貿易・復興が促進
- ・ニクソン・ショック:ブレトン・ウッズ体制崩壊・各国通貨の変動相場移行へ
- ・プラザ合意:急激な円高→輸出産業の打撃・円高不況→低金利政策→バブル経済の遠因
- ・変動相場制:市場の需給で為替が決定・為替リスクが増大するが自動調整機能あり
重要メモ
- ・「ブレトンウッズ体制=金・ドル本位制(1944〜1971年)→変動相場制へ移行・SDR=IMFの特別引出権」
- ・ブレトンウッズ体制(1944〜1971年):金1オンス=35ドルで固定し、各国通貨をドルに固定する金・ドル本位制——国際通貨体制の安定を図った
- ・ニクソンショック(1971年):アメリカが金とドルの兌換停止を宣言——ブレトンウッズ体制崩壊のきっかけ
- ・スミソニアン協定(1971年):ドルの切り下げで固定相場を維持しようとしたが失敗——1973年に主要国が変動相場制へ移行
- ・SDR(特別引出権):IMFが創設した国際準備資産——加盟国が外貨不足時にSDRをIMFに提出して外貨を引き出せる
- ・プラザ合意(1985年):G5が協調してドル高を是正——日本に急激な円高をもたらした(1ドル240円→120円台へ)
まとめ
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