第2節 法令用語
第1章 法学
法令を読み解くには、法令特有の用語と解釈ルールを理解することが不可欠です。この節では、及びと並びにの使い分けや、新法優先の原則など、試験で頻出する法令用語と法の適用ルールを学びます。これらは択一式で確実に得点すべき最重要論点です。
「又は」と「若しくは」
簡単にいうと
どちらも「どれかを選ぶ」ときの言葉です。段階があるときは、大きい選択に「又は」、小さい選択に「若しくは」を使います。
「又は」と「若しくは」はいずれも事柄のどちらか一方を選択する場合に用いられる接続語(選択的連結)です。
段階がないとき(単なる選択)
選択の段階がない場合は、すべて「又は」を使います。
例:A又はB
例:詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。
段階があるとき
選択に段階がある場合は、一番大きな段階のみ「又は」を使い、それより小さな段階には「若しくは」を使います。
例:A若しくはB又はC(CとA・Bの選択が大きな段階→「又は」、A・B間の選択は小さな段階→「若しくは」)。
例:相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること(民法13条1項6号)。
具体例
民法13条1項6号は「相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること」と定めています。ここでは、まず「承認か、放棄か」という小さな選択があり、その全体と「遺産の分割」との間に大きな選択があります。だから小さい方に「若しくは」、大きい方に「又は」が使われています。読むときは「又は」を探して、そこで文を大きく二つに割るとほどけます。
重要メモ
- ・「又は」が大きい選択、「若しくは」が小さい選択、というのがポイント
- ・段階がないときは、すべて「又は」を使う(例:詐欺又は強迫/民法96条1項)
- ・段階があるときは、一番大きな段階だけ「又は」、それより小さな段階は「若しくは」
- ・並列の「及び・並びに」とは大小が逆になるので混同しない
「並びに」と「及び」
簡単にいうと
どちらも「全部まとめる」ときの言葉です。段階があるときは、小さい並列に「及び」、大きい並列に「並びに」を使います。
「並びに」と「及び」は2つ以上の事柄を並列する場合に用いられる接続語(並列的連結)です。
段階がないとき(単なる並列)
並列に段階がない場合は、すべて「及び」を使います。
例:A及びB
例:債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為(民法108条1項)。
段階があるとき
並列に段階がある場合は、一番小さな段階のみ「及び」を使い、それより大きな段階には「並びに」を使います。
例:A及びB並びにC(A・B間が小さな並列→「及び」、その集合とCの大きな並列→「並びに」)。
例:両議院は、〜証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができます(憲法62条)。
重要な対比
選択と並列の違いは以下のとおりです。
・選択=「又は・若しくは」(大きな段階に「又は」、小さな段階に「若しくは」) ・並列=「及び・並びに」(小さな段階に「及び」、大きな段階に「並びに」)→ 逆になるので注意が必要です。
具体例
憲法62条は「証人の出頭及び証言並びに記録の提出」と定めています。「出頭と証言」がひとまとまりの小さな並列で「及び」、そのまとまりと「記録の提出」との大きな並列が「並びに」です。選択の「又は・若しくは」とは大小が逆で、こちらは小さい方が「及び」になります。
重要メモ
- ・「及び」が小さい並列、「並びに」が大きい並列、というのがポイント
- ・段階がないときは、すべて「及び」を使う(例:債務の履行及び本人が許諾した行為/民法108条1項)
- ・段階があるときは、一番小さな段階だけ「及び」、それより大きな段階は「並びに」
- ・選択(又は・若しくは)は大きい方が「又は」。並列とは逆になる点が頻出
「適用」と「準用」
簡単にいうと
「適用」はそのまま当てはめること、「準用」は少し手直しして当てはめることです。
適用とは
適用とは、ある事項について規定されている法令を、そのままその事項に当てはめることをいいます。
準用とは
準用とは、本来Aという事項について規定されている法令を、Aに類似するB事項に当てはめること(一定の修正を加えつつ適用すること)をいいます。
準用は、法律が明文で認めた類推解釈といえます。条文上「〜を準用する」と明記されます。
例:民法304条の先取特権の代位規定は、民法372条により質権・抵当権に準用されます。
「過去問チャレンジ」より:ある事項に関する法令の規定をそれと本質の異なる事項に対して、当然必要な若干の変更を加えつつ当てはめることをいう(98-47-5)→ これは「準用」の説明です(正しい)。
具体例
民法372条は、抵当権について先取特権の規定である304条を「準用する」と定めています。304条はもともと先取特権のための条文ですが、抵当権にも同じ考え方があてはまるので、そのつど条文を書き直す代わりに準用でつないでいます。準用された条文を読むときは、「先取特権」を「抵当権」に読み替えながら読むことになります。
重要メモ
- ・そのまま当てはめるのが適用、読み替えて当てはめるのが準用、というのがポイント
- ・適用:規定が本来対象とする事項に、その規定をそのまま当てはめる
- ・準用:本来は別の事項に関する規定を、類似する事項に必要な変更を加えて当てはめる
- ・準用は法律が明文で認めた類推解釈にあたる。条文上「〜を準用する」と書かれる
- ・「本質の異なる事項に必要な変更を加えて当てはめる」は準用の説明(98-47-5)
「みなす」と「推定する」
簡単にいうと
「みなす」は反証を許さない確定的な扱い、「推定する」は反証で覆せる暫定的な扱いです。
「みなす(看做す)」と「推定する」は、いずれも本来AとはB性質を異にするものについて、一定の場合に限り、AとBが同じと考えることをいいます。
みなす
Aでないという反証を許さず、法的に確定的にBと同じとして扱います。
例:胎児は、相続については、既に生まれたものとみなします(民法886条1項)。
→ 胎児が既に生まれていないことの反証を許しません(確定的)。
推定する
Aでないという反証を許し、反証があれば覆すことができます。
例:妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定します(民法772条1項)。
→ 後に親子関係不存在確認訴訟等で覆すことができます(反証可能)。
「過去問チャレンジ」より:ある事物と性質を異にする他の事物を、一定の法律関係につき、その事物と同一視し、同一の事物でないことの反証を許さないところに特色がある(98-47-1)→ これは「みなす」の説明です。
具体例
父が亡くなったとき、子がまだ母のお腹の中にいたとします。民法886条1項は胎児を相続については既に生まれたものと「みなす」ので、まだ生まれていないという反証は通らず、この子は相続人として扱われます。一方、婚姻中に妻が妊娠した子は夫の子と「推定する」だけなので(772条1項)、嫡出否認の訴えによって覆すことができます。
重要メモ
- ・反証できるかどうかが分かれ目、というのがポイント
- ・みなす(擬制):反証を許さず、法的に確定的に同一のものとして扱う
- ・例:胎児は相続については既に生まれたものとみなす(民法886条1項)
- ・推定する:暫定的に同一として扱い、反証があれば覆せる
- ・例:婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する(民法772条1項)。嫡出否認の訴えで覆せる
「遅滞なく」と「直ちに」と「速やかに」
簡単にいうと
3つとも「早くしなさい」という意味ですが、急ぎ具合に差があります。強い順に、直ちに・速やかに・遅滞なくです。
「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」はいずれも時を表す言葉です。即時性の強さは次のとおりです。
直ちに(最も強い)> 速やかに > 遅滞なく(最も弱い)
直ちに
即時性が最も強く、一切の遅延が許されないという意味です。
速やかに
「直ちに」よりは即時性が弱く、「遅滞なく」より強い表現です。
遅滞なく
即時性が最も弱く、相当の期間内に行えばよいという意味です(正当な理由のある遅延は許容されます)。
「過去問チャレンジ」より:「遅滞なく」、「直ちに」、「速やかに」のうち、時間的即時性が最も高いのは「直ちに」であり、その次が「遅滞なく」である(14-2-5)→ 誤りです(次は「速やかに」が正解です)。
具体例
警察官が現行犯人を逮捕したときは、身柄を「直ちに」引き渡さなければなりません。一切の遅れが許されない場面です。これに対し、行政庁が申請に対する処分の理由を示すような場面では「遅滞なく」と書かれることが多く、事務処理に必要な相当の期間は許容されます。条文で3語のどれが使われているかを見れば、その手続にどれだけの緊急性が求められているかが読み取れます。
重要メモ
- ・強い順に 直ちに > 速やかに > 遅滞なく、というのがポイント
- ・直ちに:一切の遅滞が許されない。最も強い
- ・速やかに:「直ちに」より弱く「遅滞なく」より強い中間
- ・遅滞なく:正当な理由があれば多少の遅れは許される。最も弱い
- ・「直ちに」の次が「遅滞なく」とする出題は誤り。次は「速やかに」(14-2-5)
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