【合格者リレー①】育児のスキマだけで1日90分。2児の母が14ヶ月で行政書士に受かるまで
第二子の育休中に学習を始めたゆかりさん(36歳)が、1日90分のスキマ時間だけで14ヶ月かけて行政書士試験に合格するまでの記録。時間の作り方、教材の絞り方、試験当日の預け先問題、挫折しかけた時期の乗り越え方を具体的に語ります。
合格者リレーブログ 今回の語り手
ゆかり
36歳・2児の母・自宅で行政書士事務所を開業
元アパレル販売員。第二子の育休中に「手に職を」と思い立ち、育児のスキマ時間だけで学習を開始。1日90分×14ヶ月の独学で合格し、現在は自宅を事務所に相続・遺言分野で開業している。
こんにちは、ゆかりです。36歳、6歳と2歳の子どもを育てながら、自宅の一室で行政書士事務所をやっています。今でこそ「先生」と呼ばれることもありますが、勉強を始めたときの私は、法律のホの字も知らないアパレル販売員でした。この記事では、育児のスキマ時間だけで14ヶ月かけて合格するまでを、きれいごと抜きで書いていきます。
きっかけは、保育園の申請書類が1枚も書けなかったこと
第二子の育休に入ってすぐ、保育園の入園申請でつまずきました。書類の言葉の意味がわからない。役所に電話しても、返ってくる説明がまた別の専門用語で、結局わからないまま窓口へ行きました。あのとき感じたのは、恥ずかしさよりも「このまま何も知らずに歳を取るのが怖い」という感覚でした。
もう一つ、現実的な事情もありました。アパレルの仕事はシフト制で、小さい子ども2人を抱えて復職するイメージがまったく持てなかったのです。家で、自分の裁量で働ける手段が欲しい。そう考えたときに目に入ったのが、行政書士という資格でした。受験資格がなく、学歴も職歴も問われない。それが決め手でした。
私に許された勉強時間は、1日90分だった
まず自分の1日を紙に書き出して、勉強に使える時間を探しました。結果はこうです。
| 時間帯 | 確保できる時間 | やること |
|---|---|---|
| 朝5:30〜6:15 | 45分 | テキストを読む(1人の静かな時間) |
| 下の子の昼寝中 | 30分 | 過去問を解く |
| 寝かしつけ後〜就寝前 | 15分 | その日の間違いを見直す |
合計90分。世の中の合格体験記に出てくる「1日3時間」には遠く及びません。最初は絶望しました。でも計算してみると、90分×週6日×60週で、およそ540時間。独学の目安と言われる800〜1000時間には届きませんが、「教材を絞って無駄をゼロにすれば戦えるかもしれない」と考え直しました。結果として、実際にかかったのは約620時間です。
朝の45分が、いちばん大事な時間だった
結果的にいちばん効いたのは、朝5時半からの45分です。理由ははっきりしていて、この時間だけは絶対に誰にも邪魔されないからです。
昼寝中や夜の時間は、子どもが起きればそこで終わりです。「今日は30分できるはず」と思っていた日がゼロ分で終わることもざらでした。予定が崩れる前提の時間割で、崩れない枠を1つだけ持っておく。これが精神的にとても大きかったです。1日が終わったとき「朝の45分はやった」という事実が残るので、自己嫌悪で寝る夜が減りました。
早起きのコツを聞かれることが多いのですが、私がやったのは「夜に頑張ることを完全に諦める」ことだけです。子どもと一緒に21時に寝る。夜の自由時間を手放す代わりに、朝を手に入れる。この交換をしただけでした。
もう一つ、意外に効いたことがあります。子どもと遊ぶ時間を先に決めてしまうことです。最初のころは、子どもが遊んでいる横で問題集を開いては「今この子に向き合っていない」と罪悪感を覚えていました。そこで「16時から17時は絶対に勉強しない」と決めたところ、罪悪感が減っただけでなく、しっかり相手をした日は子どもが早く寝てくれて、結果的に勉強時間が増えました。中途半端に両方やろうとするのが、いちばん損だったのだと思います。
教材は1冊だけ。買い足したい衝動との戦い
時間がない人ほど、教材を増やしてはいけないと思います。私は基本テキスト1冊と肢別の過去問集、それにスマホで解ける問題演習だけで通しました。
とはいえ、何度も揺らぎました。SNSを開けば「この参考書が神」という投稿が流れてくるし、模試で点が取れないと「教材が悪いのでは」と疑いたくなります。実際に一度、書店で別のテキストを手に取ってレジに向かいかけました。踏みとどまったのは、店頭でパラパラめくったときに「ここ、家のテキストにも書いてあった」と気づいたからです。
知識が足りないのではなく、持っている教材を読み込めていないだけでした。それ以降、「新しい教材が欲しくなったら、手持ちのテキストの同じ範囲をもう一度読む」というルールを自分に課しました。
正直に書くと、失敗もあります。条文の素読を勧める声が多かったので試したのですが、行政法以外はまったく頭に入らず、2週間でやめました。時事対策の本も買いましたが、最後まで使いませんでした。限られた時間しかない人間が手を広げると、こうやって無駄が出ます。
細切れ時間に合わせて、やることを決めておく
育児のスキマ時間は、長さが読めません。30分あると思ったら5分で終わることもある。だから「時間の長さ別にやることを決めておく」のが、私にとっては必須でした。
- 5分未満:用語の確認、間違えた肢の見直し。子どもが遊んでいる横でスマホ片手にできる範囲。
- 15〜30分:過去問演習。1問ずつ区切れるので、中断されてもダメージが小さい。
- 45分以上:新しい範囲のインプット。朝の時間だけに割り当てる。
特に「新しいことを学ぶのは朝だけ」と決めたのが良かったです。細切れ時間に新しい分野を始めると、中断されたときに何もかも忘れてしまい、次に再開するときにゼロから読み直すことになります。この無駄が、いちばん時間を溶かしていました。
7ヶ月目、模試で98点。いちばん折れかけた時期
学習開始から7ヶ月目に受けた市販の模試が、300点満点中98点でした。合格ラインは180点です。そのときの記憶ははっきり残っていて、結果を見た瞬間に「私は何をやっているんだろう」と涙が出ました。子どもの寝顔を見ながら、この時間を勉強じゃなく子どもに使うべきなのでは、と本気で考えました。
1週間ほど何も手につかなかったあと、気を取り直して答案を分析しました。すると、意外なことがわかりました。
- 行政法の失点の大半が、まだ手をつけていない範囲(行政事件訴訟法)だった
- すでに学習を終えた行政手続法の分野は、7割正解できていた
- 民法は事例問題でほぼ全滅。これは知識ではなく「読み方」の問題だった
つまり「実力がない」のではなく「まだ半分しか習っていない状態で受けた」だけでした。模試の点数そのものより、どこで落としたかを見ることの方がずっと大事だと、このとき初めて実感しました。
ちなみに、その後の模試も9月で142点、10月で168点と、最後まで一度も合格ラインには届いていません。それでも本番で超えられたので、模試の点数が180に届かないことは、思っているほど致命的ではないのだと思います。
民法の事例問題は、図を描いたら急に解けるようになった
民法だけは、最後まで苦戦しました。転機になったのは、判例の解説で使われている関係図を見たときです。AさんとBさんとCさんの関係が矢印で描いてあるだけなのに、文章で3回読んでも入ってこなかった話が、一目でわかりました。
それ以来、事例問題は必ず紙に人物を描いてから解くようにしました。誰が誰に何を請求しているのか、矢印を引くだけです。ノートの端っこの落書きみたいな図ですが、これで民法の正答率が目に見えて上がりました。子どものお絵かき帳の裏が、私の民法ノートでした。
誰も教えてくれなかった、試験当日の「預け先」問題
ここは、育児中の方に絶対に読んでほしいところです。私は試験の1ヶ月前まで、当日の段取りをまったく考えていませんでした。
受験案内を読んで青ざめました。公式に、こう書かれていたのです。
- 試験場に託児施設や待機場所はありません。同伴者の入場もできません
- 駐車場・駐輪場の用意はなく、車での送迎も固く禁止されています
- 試験場に弁当を食べる場所はないので、昼食を済ませてから来場してください
つまり「夫に子どもを連れて会場まで来てもらい、近くで待っていてもらう」という案は、制度上まったく成立しません。車で送ってもらうこともできません。子どもを完全に預けたうえで、自力で会場まで行くしかないのです。
しかも拘束時間が長い。入室開始が11時50分、着席期限が12時20分、試験は13時から16時までです。移動を含めれば、朝から夕方まで半日以上、子どもと離れることになります。試験日は11月の第2日曜日なので、日曜に預けられる先を確保しなければなりません。
私は夫に丸一日の休みを取ってもらい、下の子のミルクの時間・おむつ替え・昼寝のタイミングを紙に書いて渡しました。日曜に一時保育を使うつもりだった友人は、枠が埋まっていて直前に慌てていました。受験を決めた時点で、当日の預け先だけは先に押さえておくことをおすすめします。
3時間、水も飲めません
これも知らなかったことです。試験中の飲食は原則として認められておらず、机の上にペットボトルを置くことすらできません。13時から16時まで、水分を取らずに座り続けることになります。
机に置けるものは決まっていて、受験票、鉛筆かシャープペン、プラスチック消しゴム、蛍光ペン、そして時計です。試験室に時計はありません。これも公式に明記されています。腕時計を身につけたままにするのではなく、外して机の上に置く必要があります。スマートウォッチは使えません。
私は模試を自宅で受けるとき、あえて水を飲まず、机の上を本番と同じ状態にして3時間座る練習を2回だけしました。体力的にきついというより、「トイレに行きたくなったらどうしよう」という不安が本番で集中力を削ぐので、その不安を先に潰しておくのが目的です。実際の当日は、緊張のせいか喉の渇きも尿意もまったく感じないまま3時間が過ぎました。
なお、途中でトイレに行きたくなった場合は、手を挙げれば試験官が付き添ってくれます。ただし試験開始から14時30分までと、終了前10分は退室できない決まりになっています。
本番当日と、結果
会場は近くの大学でした。最寄り駅から人の流れができていて、道中で予備校のチラシを配っている人がいます。教室の前の廊下では、参考書を開いて座り込んでいる人が何人もいました。
解く順番は決めていきました。私の場合は文章理解と基礎知識からです。基礎知識は14問中6問取れないと、他がどれだけ良くても不合格になります。この足切りだけは絶対に避けたかったので、頭がいちばんクリアな最初の30分をここに使いました。そのあと行政法、民法と進み、記述式は最後に30分残す配分にしました。
3時間ぶっ通しで机に向かうのは、実に14ヶ月ぶりでした。手応えは半々で、帰りの電車では落ちたと思っていました。
結果は188点。内訳はこうです。
| 区分 | 得点 |
|---|---|
| 法令等・択一(40問中26問正解) | 104点 |
| 多肢選択式 | 16点 |
| 記述式 | 32点 |
| 基礎知識(14問中9問正解) | 36点 |
| 合計 | 188点 |
合格ラインの180点を、たった8点上回っただけです。記述式で拾えた32点がなければ届いていませんでした。決して余裕のある合格ではありませんが、限られた時間で積み上げた点数だと思うと、いまでも誇らしい数字です。
いま、自宅の一室で開業しています
合格後、相続と遺言を専門に開業しました。子どもが学校に行っている時間に面談を入れ、書類作成は夜にやります。収入は前職を超えた月もあれば、依頼がゼロの月もあります。安定しているとは言えませんが、自分で時間を決められることの価値は、想像していたよりずっと大きいです。
あのとき保育園の書類が読めなかった私が、いまは同じように困っている人の書類を作っています。この変化が、勉強を続けてよかったと思える一番の理由です。
同じ状況の方へ、私から伝えたいこと
- 1日90分でも届きます。足りないのは時間ではなく、時間を無駄にしない仕組みです。
- 絶対に邪魔されない枠を1つ確保してください。私の場合は朝の45分。ここが崩れなければ、他が全部崩れた日も自分を責めずに済みます。
- 子どもと向き合う時間を先に決めてください。罪悪感が減るうえ、結果的に勉強時間も増えます。
- 教材は増やさない。新しい本が欲しくなったら、手持ちの同じ範囲をもう一度読んでください。たいてい、そこに書いてあります。
- 模試の点数で落ち込まないでください。私は最後まで一度も180点に届きませんでした。見るべきは点数ではなく、どこで落としたかです。
- 当日の預け先は、受験を決めた時点で確保してください。会場に託児はなく、同伴も車での送迎もできません。
子育てをしながらの勉強は、思い通りにいかないことの連続です。でも「思い通りにいかない前提」で計画を立てれば、ちゃんと前に進めます。今日90分取れなくても、15分だけでも開いてみてください。私はその積み重ねだけで、ここまで来ました。
次回のリレーは、建設会社にお勤めの大輝さんです。通勤電車の往復だけで一発合格された方なので、社会人の方はぜひ読んでみてください。
この記事の執筆
行政書士になる子ちゃん編集部
行政書士試験の学習コンテンツを制作する編集チーム。判例解説・テキスト・過去問解説を、判例原文・条文などの一次資料に基づいて執筆しています。
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