【合格者リレー⑥】相続で行政書士ができること・できないこと。開業2年で学んだ線引き
相続・遺言専門で開業した修さん(54歳)が、行政書士が扱える業務と扱えない業務の線引きを解説。遺産分割協議書・戸籍収集・法定相続情報一覧図は可能、相続登記は司法書士、争いがあれば弁護士。開業2年で実際に直面した場面から語ります。
合格者リレーブログ 今回の語り手
修
54歳・元銀行員・早期退職して相続専門で独立
地方銀行に30年勤めた元融資担当。セカンドキャリアを見据えて52歳で学習を開始し、1年目は8点差で不合格。敗因分析から学習法を全面的に見直し、2度目の挑戦で合格。退職後、銀行時代の人脈を活かして相続・遺言専門の事務所を開業した。
修です。相続・遺言を専門に事務所を開いて2年になります。今回は、実務でいちばん神経を使っている「行政書士ができること・できないこと」の線引きについて書きます。
これは受験生のうちに知っておいて損のない話です。私自身、開業前は理解があいまいでした。相続の相談は入口が幅広く、気づかないうちに他士業の領域に踏み込んでしまう危険があります。
まず結論。相続業務の担当は4つに分かれます
相続の一連の流れの中で、誰が何を担当するのかを整理すると、こうなります。
| やること | 担当 |
|---|---|
| 相続人の調査(出生から死亡までの戸籍収集) | 行政書士でできる |
| 相続財産の調査、相続関係説明図の作成 | 行政書士でできる |
| 遺産分割協議書の作成 | 行政書士でできる |
| 法定相続情報一覧図の申出代理 | 行政書士でできる |
| 預貯金の解約手続、自動車の名義変更 | 行政書士でできる |
| 遺言書の起案・作成指導 | 行政書士でできる |
| 不動産の相続登記 | 司法書士 |
| 相続人間に争いがある場合の交渉・調停 | 弁護士 |
| 相続税の申告・税務相談 | 税理士 |
この表を、私は開業当初、机の前に貼っていました。相談を受けながら「いまどこの話をしているか」を確認するためです。
いちばん危ないのは「争いがあるかどうか」の判断
実務で最も神経を使うのが、ここです。
行政書士は、相続人が全員合意している前提で、その内容を書面にすることはできます。しかし相続人の間に対立がある案件で、一方の代理人として交渉することはできません。これは弁護士法が禁じる非弁行為にあたります。
難しいのは、依頼者が最初から「揉めています」と言ってくれるとは限らないことです。むしろ「弟とはちょっと話が合わなくて」「まあ最終的にはまとまると思うんですが」という形で来ます。私が実際に経験したのは、こういう場面でした。
遺産分割協議書の作成を依頼され、相続人4人のうち3人とは連絡が取れたのですが、1人だけ電話に出ない。依頼者から「先生の方から説得してもらえませんか」と言われました。ここが分かれ目です。「説得」を始めた瞬間、それは交渉になります。
私はその場でお断りし、弁護士を紹介しました。売上としては数万円を失いますが、この判断だけは迷ってはいけないと思っています。銀行にいたころ、コンプライアンスで人生が変わる人を何人か見てきたので、そこは体に染みついていました。
いまは初回面談で必ず「相続人の間で、分け方について意見の違いはありますか」と直接聞くようにしています。曖昧なまま進めるより、最初にはっきりさせた方がお互いのためです。
相続登記は絶対にできません。ただし連携はできます
不動産の名義変更、いわゆる相続登記は司法書士の独占業務です。行政書士が報酬を得て代理することはできません。
ところが実務では、遺産に不動産が含まれるケースが大半です。つまり相続案件のほとんどは、行政書士だけでは完結しません。これは開業前に想像していたより大きな現実でした。
私がとっている形は、こうです。戸籍収集・相続人調査・財産目録の作成・遺産分割協議書の作成までを私が行い、その協議書を使って登記が必要な部分は、提携している司法書士にバトンを渡します。依頼者から見れば窓口は1つで済みますし、私が集めた戸籍一式はそのまま登記にも使えるので、二度手間になりません。
この連携先を作れるかどうかが、相続分野で開業するときの実質的な条件だと思います。私は単位会の研修と、地域の異業種交流で知り合った司法書士・税理士と組んでいます。銀行時代の人脈が使えた面もありました。
なお、相続登記は義務化されています。相談に来られる方の多くがこの話を気にされるので、制度の概要は説明します。ただし具体的な登記手続の相談になったら、司法書士につなぎます。
知っておくと武器になる「法定相続情報一覧図」
受験生にはなじみがないと思いますが、実務でよく使う制度なので紹介します。
相続手続では、銀行・証券会社・保険会社と、行く先々で戸籍の束を提出させられます。1つの金融機関に出すと、返ってくるまで次に行けません。相続人が多いと戸籍だけで数十通になり、これを何度も出し直すのは大変な負担です。
そこで使えるのが法定相続情報一覧図です。法務局に戸籍一式と一覧図を提出すると、法務局が内容を確認して認証してくれます。以後は、この認証された一覧図の写しを出せば、多くの手続で戸籍一式の提出を省略できます。しかも交付は無料です。
この申出の代理を、行政書士は行うことができます。相続人が5人いて金融機関が6つ、といった案件では、これがあるかないかで手続のスピードがまるで違います。
紛らわしいのが「相続関係説明図」です。名前が似ていますが、別物です。
- 相続関係説明図:戸籍を整理して家系を図にした内部資料。作成に決まった様式はなく、法的な証明力もありません。
- 法定相続情報一覧図:法務局が認証したもの。戸籍一式の代わりとして通用します。
お客様に説明するときは「前者は下書き、後者は公的なお墨付き」という言い方をしています。
遺言書は、自筆と公正証書で何が違うか
遺言の相談も多いので、ここも整理しておきます。行政書士は遺言書の起案・作成指導ができます。
| 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
|---|---|---|
| 作成 | 本人が全文を自書(財産目録のみパソコン可) | 公証人が作成 |
| 証人 | 不要 | 2名必要 |
| 費用 | 基本的に無料 | 公証人手数料がかかる |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 |
自筆証書遺言は手軽ですが、紛失・改ざん・そもそも発見されないというリスクがあります。これを補うのが法務局の自筆証書遺言書保管制度です。手数料を払って法務局に預けることができ、この制度を使えば検認も不要になります。
私が相談を受けたときは、財産の内容と家族関係を伺ったうえで、争いが起きそうな要素があれば公正証書遺言をおすすめしています。手数料はかかりますが、遺言が無効になって家族が争う損失に比べれば安いものです。
報酬の話も書いておきます
開業を考えている方のために、金額感も共有します。日本行政書士会連合会が実施している報酬額の統計調査によると、相続関連の平均額はおおよそ次のとおりです。
- 遺産分割協議書の作成:平均7万円前後
- 遺言書の起案および作成指導:平均7万〜8万円前後
- 相続人および相続財産の調査:平均6万円前後
実際には、戸籍収集から協議書作成まで一括で受けると20万〜60万円、部分的な依頼だと3万〜10万円というのが私の周りの相場感です。相続人の人数と、遠方の役所への戸籍請求がどれだけ発生するかで、手間がまるで変わります。
前回も書きましたが、行政書士全体では年間売上高が500万円未満の方が8割近くを占めます。相続分野は単価がそれなりにありますが、依頼が安定して入るまでには時間がかかりました。
受験生のうちに知っておいてほしいこと
- 相続業務の多くは、行政書士だけでは完結しません。不動産があれば司法書士、税額の話が出れば税理士が必要です。連携先を作れるかどうかが実務の条件になります。
- 「争いがあるか」の見極めを、最初の面談で必ず行ってください。説得を頼まれた時点で、それは交渉です。
- 法定相続情報一覧図は、覚えておくと確実に武器になります。申出の代理ができるのは行政書士の強みです。
- できないことを即座に言えることが、信用になります。「それは司法書士の先生の領域です」と言える人の方が、結果的に相談は増えます。
試験勉強をしているときは、他士業との業際なんて遠い話に感じると思います。私もそうでした。ですが実務では、これが日々の判断そのものです。行政書士法や民法の相続分野を勉強するとき、「これは自分がやれることなのか」という視点を少し持っておくと、合格後の立ち上がりが早くなると思います。
3人でのリレーはここまでです。読んでくださった方の中から、次に体験記を書く側になる方が出てくれたら、これほど嬉しいことはありません。
この記事の執筆
行政書士になる子ちゃん編集部
行政書士試験の学習コンテンツを制作する編集チーム。判例解説・テキスト・過去問解説を、判例原文・条文などの一次資料に基づいて執筆しています。
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