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A民法債権各論(契約・不法行為等)

医師の過失により医療水準にかなった医療行為が行われなかった場合

最高裁判所2000-09-22最判平12.9.22
医師の過失医療水準相当程度の可能性因果関係不法行為生命の保護

「助かったかも」という可能性も法が守る!相当程度の可能性で医師に賠償責任

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なる子ちゃん

事案の概要

患者Aが胸の痛みを訴えて診察を受けましたが、担当医C(被告)は触診・聴診のみを行い、血圧・脈拍の測定や心電図検査、ニトログリセリンの投与といった当時の医療水準が求める基本的な処置を怠りました。その後Aは死亡しました。遺族は医師の過失を主張しましたが、「適切な治療をしていれば必ず助かった」という高度の確実性(蓋然性)の証明が困難な状況でした。救命可能性は20%以下とされており、直接的な因果関係を証明できない中で、医師が民法709条の不法行為責任を負うかどうかが争われました。
争点

争点

医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかった場合に、その過失と患者の死亡との間の直接的な因果関係が証明できなくても、「適切な医療が行われていれば患者がその時点でなお生存していた相当程度の可能性」の証明があれば、医師が民法709条の不法行為責任を負うのかというのがこの事件の争点です。
判旨

判旨

医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかったことと患者の死亡との間の因果関係は証明されなかったものの、適切な医療が行われていれば患者がその死亡の時点においてなお生存していた「相当程度の可能性」は証明されました。裁判所は、生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であり、この「生存できた可能性」は法によって保護されるべき利益にあたると判断しました。医師の過失によってその可能性が侵害された以上、医師は「可能性を侵害されたことによって被った損害」を賠償すべき不法行為責任を負います。つまり、死亡との直接的な因果関係の証明がなくても、生存可能性の侵害だけで賠償責任が成立するということです。
【原文】

医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかったことと患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、右医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には、医師は、患者が右可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。

【判決理由(原文) 】

 生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、右の可能性は法によって保護されるべき利益であり、医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができるからである。
判決

判決

医師の過失による医療水準を下回る治療が行われ、適切な治療があれば患者が生存していた相当程度の可能性が証明される場合、医師は不法行為による損害賠償責任を負うと判断されました(認容)。
関連法令の解説

関連法令の解説

民法709条(不法行為による損害賠償)
この条文は、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、損害を賠償する責任を負うと定めています。不法行為責任の成立には、①故意・過失、②違法性、③損害の発生、④因果関係の4要件が必要とされています。本判例の重要性は、④の因果関係について「高度の蓋然性」の証明がなくても、「生存できた相当程度の可能性」という利益そのものを「法律上保護される利益」と認定することで、③損害の発生を新たに構成し、医師の賠償責任を認めた点にあります。
身近な例え

身近な例え

タクシーが来なくて大事な試験に間に合わなかった場合、「合格できたはず」と確実には言えなくても、「合格の可能性」を奪われた損害は認められる、という考え方に似ています。
なる子ちゃん

ざっくりまとめ

「適切な治療をしていたら100%助かった」って証明できなければ賠償ゼロ、では患者があまりにも可哀想だよね。この判例は「たとえ因果関係が証明できなくても、適切な治療があればまだ生きていた可能性が相当程度あった」ってことが証明されれば、その「生きていられた可能性」自体が法律で守られるべき利益だって言ったんだ。「可能性を奪われた」ことへの損害賠償を認めた、医療訴訟における超重要判例だよ!

試験対策ポイント

不法行為の因果関係の証明は原則として「高度の蓋然性」(通常人が疑いを差し挟まない程度の確信)が必要だが、本判例はその例外を認めた
証明が必要なのは「相当程度の可能性」であり、「高度の蓋然性」は不要。この2つの概念の違いを明確に押さえること

本判例の理論的な核心は、「生存できた可能性」自体を民法709条の「法律上保護される利益」として新たに認定した点にある

注意:認められる損害は慰謝料が中心であり、逸失利益など財産的損害の全額賠償が認められるわけではない点に注意

注意:「必ず助かった」(高度の蓋然性あり)→死亡との因果関係あり→全損害の賠償、「助かっていた可能性がある」(相当程度の可能性あり)→可能性侵害→慰謝料等の限定的賠償という2段階の構造を整理しておくこと

法令

関連法令

関連判例

関連判例

民法最高裁判所

相続の対象(慰謝料請求権)

慰謝料請求権は一身専属権ではない→被害者が生前に請求の意思表示をしていなくても相続の対象となる 根拠:慰謝料請求権は単純な金銭債権であり、相続を禁じる法的根拠がない 民法711条の固有の慰謝料請求権と、被害者本人の慰謝料請求権は別個に併存する(711条があることは相続否定の理由にならない) 本判決以前の「残念判決」:被害者が「残念残念」と口にした程度でも意思表示とみなして相続を認めていた→本判決でその必要なしと変更 大法廷判決(9名中4名が反対意見)であり、それまでの大審院判例を変更した重要判例 姉妹は711条の固有慰謝料の対象外であるため、相続によってのみ慰謝料請求できる→本判決の実益が大きかった

民法最高裁判所

不法行為に基づく損害賠償請求権の相殺

民法509条は「不法行為による損害賠償債務を受働債権(相殺される側)とする相殺」を禁止する規定であり、加害者側の相殺を制限するものである 被害者が損害賠償請求権を自動債権(相殺する側)として相殺することは禁止されない 注意:「不法行為が絡んだ相殺はすべて禁止」という誤解が典型的なひっかけ。禁止されるのは加害者が受働債権として使う場合に限られる 相殺の用語として、相殺を主張する側が持つ債権が自動債権、相手方の債権が受働債権であることをしっかり整理しておくこと 2020年改正民法509条では、①故意による不法行為と②人の生命・身体を害する不法行為の損害賠償債務を受働債権とする相殺を禁止と明確化されており、改正前との違いも確認すること

民法最高裁判所

民法711条の固有の慰謝料請求

民法711条の固有慰謝料請求権者は原則「父母・配偶者・子」の3種類 列挙外の者でも①実質的に同視しうべき身分関係+②甚大な精神的苦痛の2要件を満たせば類推適用により請求可能(本判決) 類推適用の決め手は血縁・親族の近さではなく、長年の同居・庇護・依存という生活実態 注意:類推適用の主張・立証責任は請求者側が負う。関係があれば自動的に認められるわけではない 対比:711条の固有慰謝料と、被害者本人の慰謝料請求権(相続によるもの)は別個の権利として併存する(最大判昭42.11.1) 類推適用が認められうる者の例:内縁の配偶者・祖父母・孫・兄弟姉妹・事実上の養子など(ただし実態による個別判断が必要)

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