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テキスト/民法/第9節 事務管理・不当利得・不法行為

第9節 事務管理・不当利得・不法行為

第3章 債権法

この節では、法律上の原因なく他人に損害を与えた場合や、契約なくして他人の利益を得た場合の処理を学びます。不法行為・不当利得・事務管理は、契約とは別のルートで債権債務が発生する重要な制度であり、本試験で極めて頻出です。

1

事務管理

697

事務管理とは、義務なく他人のために事務を管理することです。管理者は本人の意思や利益に適合する方法で管理を継続する義務を負い、本人は有益費用を償還する義務を負います。

具体例

Aさんが長期入院中、隣人Bさんが無断でAさん宅の庭木に水やりをした。BさんはAさんに水道代を請求できる。

要件

  • 他人のために事務を管理する意思があること
  • 法律上の義務がないこと
  • 本人の意思・利益に適合すること(管理開始時)

効果・結論

  • 管理者は本人の意思に従い、または本人の利益に適合する方法で管理を継続する義務を負う
  • 本人は管理者が支出した有益な費用を償還する義務を負う

条文(第697条)

第697条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。

場合
効果
本人の意思・利益に適合
事務管理成立、費用償還請求可
本人の意思に反することが明らか
事務管理不成立、費用償還請求不可
緊急事務管理(698条)
本人の意思・利益不適合でも成立可

試験のポイント

  • 本人の意思に反することが明らかな場合は事務管理不成立
  • 緊急事務管理(698条)では本人の意思・利益への不適合が許容される
  • 有益費用償還請求権は管理開始時点で有益であれば認められる
2

不当利得

703

不当利得とは、法律上の原因なく他人の財産・労務により利益を受け、これにより他人に損失を及ぼすことです。受益者は利得の返還義務を負います。

具体例

Aさんの預金口座に銀行の誤操作で100万円が振り込まれた。Aさんは法律上の原因なく利益を得たため、銀行に返還義務を負う。

要件

  • 他人の財産または労務により利益を受けたこと
  • そのために他人に損失を及ぼしたこと
  • 法律上の原因がないこと

効果・結論

  • 受益者は受けた利益を返還する義務を負う
  • 善意の受益者は現存利益のみ返還(703条)
  • 悪意の受益者は受けた利益全部と利息を返還(704条)

条文(第703条)

第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

場合
効果
善意の受益者
現存利益のみ返還
悪意の受益者
受けた利益全部+利息+損害賠償

試験のポイント

  • 善意の受益者は現存利益のみ返還(消費・浪費した分は不要)
  • 悪意の受益者は受けた利益全部+利息を返還し、損害があればさらに賠償
  • 転用物訴権との違い:所有権に基づく返還請求は原物返還、不当利得は価額返還
3

不法行為の成立要件

709

不法行為とは、故意または過失により他人の権利・法律上保護される利益を侵害し、損害を発生させる行為です。加害者は損害賠償責任を負います。

具体例

Aさんが脇見運転でBさんの車に追突し、Bさんが怪我をした。AさんはBさんに治療費や慰謝料を賠償する義務を負う。

要件

  • 故意または過失があること
  • 権利または法律上保護される利益の侵害があること
  • 損害の発生
  • 行為と損害との因果関係
  • 責任能力があること(712・713条)

効果・結論

  • 加害者は被害者に対し損害賠償義務を負う
  • 財産的損害と精神的損害(慰謝料)の両方を賠償
  • 金銭賠償が原則(722条・417条)

条文(第709条)

第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

場合
効果
責任能力あり
本人が709条で責任を負う
責任能力なし
本人は責任を負わず、監督義務者が714条で責任

試験のポイント

  • 過失とは注意義務違反であり、予見可能性と結果回避可能性が必要
  • 責任能力は自己の行為の責任を弁識する能力(一般に12歳前後)
  • 責任無能力者の監督義務者責任(714条)との関係を整理
4

特殊な不法行為

715-719

民法は一般不法行為(709条)のほか、使用者責任(715条)、工作物責任(717条)、共同不法行為(719条)など特殊な類型を規定します。これらは立証責任や無過失責任の点で709条と異なります。

具体例

会社員Aさんが配達中に事故を起こした場合、雇用主B会社も使用者責任を負う。Aさんを選任・監督したことに過失がなければB会社は免責される。

要件

  • 【使用者責任】被用者の事業執行につき不法行為、使用者の選任監督上の過失推定
  • 【工作物責任】工作物の設置・保存の瑕疵により損害発生、占有者は無過失免責可、所有者は無過失責任
  • 【共同不法行為】複数人の行為が共同して損害発生、各自が全額連帯責任

効果・結論

  • 使用者責任:使用者も損害賠償責任を負う(被用者との連帯責任)
  • 工作物責任:占有者が第一次的責任、免責されれば所有者が無過失責任
  • 共同不法行為:各行為者は連帯して全損害を賠償

条文(第715-719条)

第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

場合
効果
使用者責任・選任監督に相当注意
使用者は免責される
工作物責任・占有者が必要注意
占有者免責、所有者が無過失責任
共同不法行為
各自が全額連帯責任

試験のポイント

  • 使用者責任の免責は選任監督の相当注意を使用者側が立証(立証責任転換)
  • 工作物責任で占有者が免責されるには損害防止の必要な注意を立証
  • 共同不法行為では各自の寄与度不明でも全額連帯、求償は内部関係で調整

まとめ

テーマ
ポイント
注意点
事務管理
義務なく他人のために事務管理→有益費用償還請求可
本人の意思に反することが明らかなら不成立
不当利得
法律上の原因なく利益→善意は現存利益返還、悪意は全部+利息
善意と悪意で返還範囲が異なる点を混同しない
不法行為(709条)
故意・過失+権利侵害+損害+因果関係→損害賠償
責任能力の有無で本人責任か監督義務者責任かが分かれる
使用者責任(715条)
被用者の事業執行中の不法行為→使用者も責任、選任監督注意で免責
免責の立証責任は使用者側にある
工作物責任(717条)
工作物の瑕疵→占有者は注意で免責、所有者は無過失責任
占有者と所有者の責任の違いを正確に
共同不法行為(719条)
複数人が共同して損害→各自全額連帯責任
寄与度不明でも連帯、求償は内部で調整

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