第7節 契約総論
第3章 債権法
この節では、契約の成立・種類・効果を学びます。同時履行の抗弁権、危険負担、解除は試験で最頻出の重要テーマです。令和元年改正で解除要件から債務者の帰責事由が不要となり、催告解除(541条)と無催告解除(542条)に整理された点に注意しましょう。
契約の成立
522条簡単にいうと
買いたいという申込みと、売ってもいいという承諾がそろったときに契約は成立します。意思表示が届いた時が基準です。
申込みと承諾がそろえば成立する
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して、相手方が承諾をしたときに成立します(522条1項)。申し入れる側の意思表示を申込み、応じる側の意思表示を承諾といいます。
中古の時計を「10万円で買いたい」と申し入れ、相手が「売ってもいい」と答えれば、その時点で売買契約が成立します。
書面は要らない
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除いて、書面の作成その他の方式を備えることを要しません(522条2項)。口約束でも契約は成立します。
契約書を作るのは、後から言った言わないの争いになったときに証拠として使うためであって、契約を成立させるためではありません。
効力が生じるのは到達した時
申込みの意思表示も承諾の意思表示も、相手方に到達した時から効力を生じます(97条1項)。これを到達主義といいます。
発信した時ではなく、相手のところに届いた時が基準になります。意思表示のところで学んだルールが、契約の成立の場面でもそのまま働きます。
条件を付けて承諾したら
承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えて承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなされます(528条)。
「10万円で買いたい」に対して「8万円なら売る」と答えた場合、承諾にはなりません。もとの申込みを断ったうえで、8万円という新しい申込みをしたことになります。この新しい申込みに相手が応じて、はじめて契約が成立します。
具体例
AがBに「この時計を10万円で売ってほしい」と手紙で申し込み、Bが「売ってもよい」と返事を出したとします。契約が成立するのはBの返事がAに届いた時です。もしBが「12万円なら売る」と答えたのであれば、これは承諾ではなく、Aの申込みを断ったうえでの新しい申込みになります。
ポイント整理
- ・契約の内容を示して締結を申し入れる意思表示があること(522条1項)
- ・それに対する相手方の承諾があること(522条1項)
- ・書面その他の方式は、法令に特別の定めがある場合を除いて要らないこと(522条2項)
効果
- ・申込みと承諾が合致した時に契約が成立します
- ・申込みも承諾も、相手方に到達した時から効力を生じます(97条1項)
- ・条件を付けた承諾は、申込みの拒絶と新たな申込みとみなされます(528条)
条文(522条)
第522条第1項(契約の成立と方式)契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
重要メモ
- ・条件を付けた承諾は承諾ではなく、新たな申込みになる点に注意
- ・522条1項: 申込みに対して相手方が承諾をしたときに契約が成立する
- ・522条2項: 成立に書面その他の方式は要らない
- ・97条1項: 意思表示は相手方に到達した時から効力を生じる(到達主義)
- ・出題実績の少ない重要度Cの項目。一読しておけば足りる
契約の種類
522条・587条の2簡単にいうと
民法には13種類の典型契約があります。双務か片務か、有償か無償か、諾成か要物かという3つの軸で整理します。
典型契約とは
民法は、日常生活でよく行う契約を典型契約として13種類規定し、いろいろな目線からそれぞれを分類しています。贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解の13種類です。
表をまるごと覚える必要はありません。どういう分類の仕方があるのかをつかんでおけば足ります。
3つの分類軸
第1の軸は双務契約か片務契約かです。契約によってお互いに義務が発生すれば双務契約、どちらか一方だけなら片務契約です。
第2の軸は有償契約か無償契約かです。経済的な支出をする契約が有償契約、しない契約が無償契約です。
第3の軸は諾成契約か要物契約かです。約束だけで成立する契約が諾成契約、約束に加えて物の引渡しが必要な契約が要物契約です。
主な典型契約の分類
贈与は片務・無償・諾成です。売買は双務・有償・諾成です。
消費貸借は片務・無償・要物が原則です。ただし利息付きであれば有償になり、書面でする場合は諾成契約になります(587条の2)。
使用貸借は片務・無償・諾成、賃貸借は双務・有償・諾成、請負は双務・有償・諾成です。
委任と寄託は、報酬の定めがなければ片務・無償・諾成で、報酬付きであれば双務・有償になります。組合は双務・有償・諾成です。
なぜ分類するのか
双務契約かどうかは、このあと学ぶ同時履行の抗弁権や危険負担が働くかどうかにつながります。双務契約でなければ、お互いの債務を引き換えにする話が出てきません。
有償契約かどうかは、売買の規定が準用されるかどうかにつながります。分類そのものを問う出題は多くありませんが、ほかの論点の前提になります。
具体例
友人に本をあげる贈与は、あげる側だけが義務を負うので片務契約、対価がないので無償契約、口約束で成立するので諾成契約です。これに対して本を売る売買は、引き渡す義務と代金を払う義務の両方が生じるので双務契約、有償契約、そして合意だけで成立する諾成契約になります。
ポイント整理
- ・双務契約と片務契約は、お互いに義務が生じるかどうかで分かれる
- ・有償契約と無償契約は、経済的な支出をするかどうかで分かれる
- ・諾成契約と要物契約は、物の引渡しが成立に必要かどうかで分かれる
効果
- ・双務契約では同時履行の抗弁権や危険負担の問題が生じます
- ・有償契約には売買の規定が準用されます
重要メモ
- ・消費貸借は原則要物だが、書面でするときは諾成契約になる点に注意(587条の2)
- ・典型契約は13種類。双務/片務、有償/無償、諾成/要物の3つの軸で分類する
- ・贈与と使用貸借は片務・無償・諾成
- ・委任と寄託は、報酬の定めがあれば双務・有償になる
- ・出題実績の少ない重要度Cの項目。分類の表を見ておく程度で足りる
①同時履行の抗弁権とは
533条簡単にいうと
相手が渡してくれないのに自分だけ払うのは不公平です。そこで、相手がやらないなら自分もやらないと言える権利が認められています。
相手がやらないなら自分もやらない
民法上の多くの契約は双務契約で、当事者がお互いに債務を負っています。この場合、自分だけが債務を履行しても相手が履行してくれなければ不公平です。
そこで、双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができます(533条本文)。これを同時履行の抗弁権といいます。
時計の売買で、売主Aが時計を渡さないまま代金を請求してきたのであれば、買主Bは「時計をもらうまで代金は払わない」と言えます。逆にAも、「代金を払ってくれるまで時計は渡さない」と言えます。
相手の債務が弁済期になければ使えない
もっとも、相手方の債務が弁済期にないときは主張できません(533条但書)。
自分の債務の期限は来ているが相手の債務の期限はまだ、という場面では、先に履行する約束をしているのと同じです。この場合に履行を拒めることにすると、約束を反故にすることになります。
主張している間は履行遅滞にならない
同時履行の抗弁権を主張し続けた結果、弁済期を過ぎたとしても、履行遅滞にはなりません。
正当な理由があって履行していないので、遅れたことの責任を負わされないという扱いです。したがって遅延損害金も発生しませんし、これを理由に解除されることもありません。
一度提供しただけでは足りない
一度物を提供したのに受け取ってもらえなかった場合、相手に請求するには再度物の提供をする必要があります(大判明44.12.11)。
「自分は一度持って行ったのだから代金を払ってくれ」と主張しても、相手は同時履行の抗弁権を主張できる、ということです。
裁判所は引換給付判決をする
裁判で同時履行の抗弁権が主張されると、裁判所は請求を棄却するのではなく、引換給付判決をします(大判明44.12.11)。
引換給付判決とは、お互いに義務を果たしなさいという判決です。「代金の支払と引換えに時計を引き渡せ」という形の主文になります。
具体例
AがBに時計を10万円で売り、まだ時計を渡していないのに代金を請求してきたとします。Bは「時計をもらうまで代金は払わない」と主張できます。Aが一度時計を持って行ったがBが受け取らなかったという場合でも、Aが改めて請求するにはもう一度時計を提供しなければなりません。

同時履行の抗弁権とは
ポイント整理
- ・双務契約であること(533条)
- ・相手方の債務が弁済期にあること(533条但書)
- ・相手方がその債務の履行を提供していないこと(533条本文)
効果
- ・自己の債務の履行を拒むことができます(533条本文)
- ・主張している間は、弁済期を過ぎても履行遅滞になりません
- ・裁判で主張されると、裁判所は引換給付判決をします(大判明44.12.11)
条文(533条)
第533条(同時履行の抗弁)双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
重要メモ
- ・主張している間は弁済期を過ぎても履行遅滞にならない点に注意
- ・533条本文: 相手方が履行を提供するまでは自己の債務の履行を拒める
- ・533条但書: 相手方の債務が弁済期にないときは主張できない
- ・一度提供したが受け取ってもらえなかった場合、再度の提供が必要(大判明44.12.11)
- ・裁判で主張されると、裁判所は引換給付判決をする(大判明44.12.11)
②同時履行の関係の有無
533条・546条簡単にいうと
何と何が同時履行の関係に立つのかは、場面ごとに決まっています。関係にあるものと、どちらかが先履行になるものを分けて覚えます。
関係にあるものとないもの
同時履行の抗弁権が使えるのは、2つの債務が引き換えの関係にある場合に限られます。どちらかが先に履行すべき約束になっているのであれば、先に履行する側は抗弁権を使えません。
場面ごとに結論が決まっているので、対になるものを並べて覚えるのが早道です。
同時履行の関係にあるもの
弁済と受取証書(領収書)の交付は同時履行の関係にあります。お金を払うのと引き換えに領収書をもらえる、ということです。
契約の取消しや解除における双方の原状回復義務も同時履行の関係にあります(546条は533条を準用しています)。
請負人の目的物引渡義務と注文者の報酬支払義務も同時履行の関係にあります。
建物買取請求権が行使された場合の、土地引渡義務と建物代金支払義務も同時履行の関係にあります。借りた土地の上に建物を建てた賃借人は、契約終了後に建物を買い取ってくれと請求できます。この買取代金の支払と土地の引渡しが引き換えになります。
売買契約における代金支払義務と所有権移転登記義務も、引き換えの関係に立ちます。
同時履行の関係にないもの
弁済と債権証書(借用証書)の返還は同時履行の関係にありません。弁済が先履行です。
領収書は払った証拠なので引き換えにできますが、借用証書は借りた事実を示す書面であって、返してもらうのは弁済が終わってからになります。領収書と借用証書を取り違えないでください。
弁済と担保権消滅手続も同時履行の関係にありません。弁済が先履行です。
建物の明渡しと敷金の返還も同時履行の関係にありません。建物の明渡しが先履行です。
請負人の仕事完成義務と注文者の報酬支払義務も同時履行の関係にありません。仕事の完成が先です。先ほどの目的物引渡義務とは結論が逆になるので、区別してください。
造作買取請求権が行使された場合の、建物明渡義務と造作代金支払義務も同時履行の関係にありません。建物の明渡しが先です。
建物買取と造作買取で結論が逆になる
借りた土地に建てた建物を買い取ってもらう場合は同時履行の関係にあるのに、借りた建物に取り付けたエアコンなどの造作を買い取ってもらう場合は同時履行の関係にありません。
建物は土地に比べて価値が大きく、代金をもらう前に土地を返せというのは酷です。これに対して造作の代金は建物の価値に比べて小さいので、造作代金のために建物を占有し続けることは認められません。
具体例
借りていた建物を明け渡すときに、敷金を返してくれるまで出ていかないと主張することはできません。明渡しが先で、敷金の返還はその後だからです。これに対して、代金を払うときに領収書をくれるまで払わないと主張することはできます。
ポイント整理
- ・2つの債務が引き換えの関係に立つこと
- ・どちらかが先履行とされていないこと
効果
- ・同時履行の関係にあれば、相手が履行するまで自分の履行を拒めます
- ・先履行とされている側は、同時履行の抗弁権を主張できません
重要メモ
- ・領収書の交付は同時履行だが、借用証書の返還は弁済が先履行である点に注意
- ・敷金の返還より建物の明渡しが先履行になる
- ・建物買取請求権の場合は同時履行だが、造作買取請求権の場合は建物明渡しが先履行になる
- ・請負では、目的物引渡義務と報酬支払義務は同時履行だが、仕事完成義務は先履行になる
- ・契約の取消し・解除における双方の原状回復義務は同時履行の関係にある
③同時履行の抗弁権と第三者
533条・295条簡単にいうと
同時履行の抗弁権は契約から生まれた権利です。契約していない相手には使えません。記述式で問われたことがあります。
契約した相手にしか主張できない
同時履行の抗弁権は、契約から発生した権利です。したがって、契約当事者以外の者に対して主張することはできません。
AがBに時計を売り、代金を受け取らないまま時計も渡していないとします。この状態でBが時計をCに転売し、Cが所有権にもとづいてAに引渡しを求めてきました。
AはBに対してであれば「代金を払うまで渡さない」と主張できます。しかしCに対しては主張できません。AとCの間には契約がないからです。
留置権なら第三者にも主張できる
もっとも、この場面のAは時計について留置権を持ちます(295条)。
留置権は物権なので、契約の当事者でないCに対しても主張できます。結論としてAは時計を渡さずに済みますが、その根拠は同時履行の抗弁権ではなく留置権だということになります。
債権である同時履行の抗弁権と、物権である留置権の違いが、そのまま第三者に主張できるかどうかの違いになって表れています。
過去問の確認
Aが自己所有の事務機器甲をBに売却したが、BはAに代金を支払わないうちに甲をCに転売した。Aが甲をまだBに引き渡していない場合に、CがAに対して所有権にもとづいてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、同時履行の抗弁権を行使してこれを拒むことができる、と出題され、誤りとされました(13-29-2改題)。
同時履行の抗弁権は契約当事者以外の第三者に主張することができない、というのが理由です。
記述式で問われたこともある論点なので、「契約当事者以外の第三者には主張することができない」という言い回しをそのまま書けるようにしておきます。
具体例
AがBに時計を売り、代金も受け取らず時計も渡していないうちに、BがCに時計を転売したとします。Cが所有権にもとづいてAに引渡しを求めてきたとき、AはCに対して同時履行の抗弁権を主張できません。もっとも、Aは時計について留置権を持つので、こちらであればCに主張できます。

同時履行の抗弁権と第三者
ポイント整理
- ・同時履行の抗弁権は契約から発生する権利であること
- ・主張できる相手は契約の当事者に限られること
効果
- ・契約当事者以外の第三者に対しては主張できません
- ・留置権は物権なので、第三者に対しても主張できます(295条)
重要メモ
- ・同時履行の抗弁権は契約当事者以外の第三者には主張できない点に注意
- ・記述式の答案では「契約当事者以外の第三者には主張することができない」と書く
- ・留置権は物権なので第三者にも主張できる。結論は同じでも根拠が違う
- ・過去問13-29-2改題: 転売先の第三者に同時履行の抗弁権を行使できるという出題は誤り
- ・債権か物権かという性質の違いが、第三者に主張できるかどうかを分ける
危険負担
536条簡単にいうと
引渡し前に落雷で建物が焼けてしまったら、買主は代金を払わないといけないのか。誰のせいで滅失したのかで結論が変わります。
どちらが損をするのか
建物の売買契約を結んだ後、引渡しの前に落雷で建物が焼けてしまったとします。売主の引渡債務は履行不能になって消滅しますが、買主の代金債務は消えません。
このとき買主は代金の支払いを拒めるのか、というのが危険負担の問題です(536条)。
ここで押さえておきたいのは、代金債権は消えていないという点です。消えていないからこそ、支払いを拒めるかどうかが問題になります。
双方に帰責事由がないとき
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができます(536条1項)。
落雷のように誰のせいでもない場合は、買主は代金の支払いを拒めます。損をするのは売主のほうだ、という考え方です。これを債務者主義といいます。
2017年の改正前は、特定物については債権者主義がとられており、買主が代金を払わなければなりませんでした。改正でこの扱いが変わりました。
債権者に帰責事由があるとき
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができません(536条2項前段)。
買主が火をつけて建物が焼けたのであれば、買主は代金を払わなければなりません。自分のせいで引渡しができなくなったのに支払いを免れるのは筋が通らないからです。
この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければなりません(536条2項後段)。建築費を払わずに済んだといった分は、買主に返すということです。
債務者に帰責事由があるとき
売主の不注意で建物が焼けた場合は、危険負担ではなく債務不履行の問題になります。買主は損害賠償を請求でき、契約を解除することもできます。
代金債権を消したければ解除する
ここで注意したいのは、536条1項で拒めるのはあくまで支払いであって、代金債権そのものは残っているという点です。
契約関係そのものを終わらせたいのであれば、別に解除をする必要があります。全部の履行が不能であれば催告なしに解除できます(542条1項1号)。
引渡しの後は拒めない
目的物が買主に引き渡された後に、当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失したときは、買主は代金の支払いを拒むことができません(567条1項)。
引渡しを受けた後は買主が管理しているのだから、その後の損失は買主が負うという趣旨です。
具体例
引渡し前の建物が落雷で焼けた場合、買主は代金の支払いを拒めます。これに対して、買主の火の不始末で焼けた場合は拒めません。すでに引渡しを受けた後に落雷で焼けた場合も、買主は代金を支払わなければなりません。

危険負担(民法536条)
ポイント整理
- ・双務契約において一方の債務が履行不能になったこと
- ・双方に帰責事由がないこと(536条1項)
- ・または債権者に帰責事由があること(536条2項)
効果
- ・双方に帰責事由がないときは、債権者は反対給付の履行を拒めます(536条1項)
- ・債権者に帰責事由があるときは、拒めません(536条2項前段)
- ・この場合、債務者は免れたことで得た利益を債権者に償還します(536条2項後段)
- ・引渡し後の滅失であれば、買主は代金の支払いを拒めません(567条1項)
条文(536条)
第536条第2項(債務者の危険負担等)債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
重要メモ
- ・拒めないのは買主(債権者)に帰責事由があるときである点に注意
- ・536条1項: 双方に帰責事由がなければ、債権者は反対給付の履行を拒める
- ・536条2項: 債権者に帰責事由があれば拒めない。債務者は免れて得た利益を償還する
- ・拒めるのは支払いであって代金債権は消えない。契約を終わらせるには解除が必要
- ・567条1項: 引渡しを受けた後に滅失したときは、買主は代金の支払いを拒めない
①解除の意義
540条・545条簡単にいうと
一度結んだ契約を、相手の同意なしに最初からなかったことにする制度です。相手が約束を守らないときに使います。
契約を最初からなかったことにする
解除とは、契約が締結された後に、当事者の一方的な意思表示によって、契約が最初からなかったのと同じ状態に戻すための制度です。
債務者が債務を履行しない場合に、その契約を打ち切ってほかの者と契約を結びたい、という場面で使われます。いつまでも履行しない相手に縛られ続けるのでは、債権者が身動きをとれないからです。
一方的な意思表示でできる
契約または法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってします(540条1項)。相手の同意は要りません。
契約を結ぶには双方の意思表示が必要だったのに、やめるときは一方の意思表示で足りる。ここが解除の特徴です。
そして、この意思表示を撤回することはできません(540条2項)。いったん解除すると言った以上、やはりやめたとは言えないということです。相手は解除されたものとして動き出すからです。
債務者に帰責事由がなくてもよい
2017年の改正で変わった点です。債務者に帰責事由のない履行遅滞であっても、債権者は契約を解除することができます。
解除は、履行されない契約から債権者を解放するための制度であって、債務者を責めるための制度ではないと整理されたためです。
これに対して損害賠償請求は、債務者に帰責事由がなければできません(415条1項但書)。解除は帰責事由が要らない、損害賠償は要る。この違いを対で覚えます。
解除と損害賠償は両立する
解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げません(545条4項)。
契約を解除したうえで、さらに損害賠償を請求することができます。どちらか一方しか選べないわけではありません。
解除されるとどうなるか
解除すると、各当事者は相手方を原状に復させる義務を負います(545条1項本文)。受け取ったものを返し合うということです。詳しくは解除の効果のところで見ます。
具体例
AがBに車を売り、引渡し期日を過ぎてもAが車を渡さないとします。BはAの同意を得なくても、一方的に解除の意思表示をして契約を打ち切り、別の店で車を買うことができます。このときAに帰責事由がなくても解除はできますが、損害賠償を請求するにはAに帰責事由が必要です。

解除の意義と種類
ポイント整理
- ・解除権が発生していること(約定・合意・法定のいずれか)
- ・解除権を持つ側が相手方に解除の意思表示をすること(540条1項)
- ・相手方の同意は要らないこと
効果
- ・契約が最初からなかったのと同じ状態に戻ります
- ・解除の意思表示を撤回することはできません(540条2項)
- ・各当事者は相手方を原状に復させる義務を負います(545条1項本文)
- ・解除をしても損害賠償の請求は妨げられません(545条4項)
重要メモ
- ・債務者に帰責事由がなくても解除できる点に注意。2017年の改正で変わった
- ・540条: 解除は相手方に対する意思表示によってし、これを撤回することはできない
- ・損害賠償請求には債務者の帰責事由が必要(415条1項但書)。解除と対で覚える
- ・545条4項: 解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない
- ・545条1項本文: 解除すると各当事者が原状回復義務を負う
②解除の種類
541条・542条簡単にいうと
解除には、あらかじめ決めておく型、双方で合意する型、法律が認める型の3つがあります。試験では3つ目が中心です。
3つの型
解除には3つの種類があります。何を根拠に解除権が生じるのかで分かれます。
約定解除
当事者が契約であらかじめ解除の原因を決めておき、それが起きたときに解除できるとする型です。
売買契約で「引渡しが1か月遅れたら解除できる」と決めておくようなものです。法律が決めたわけではなく、当事者が自分たちで決めた解除権なので約定解除といいます。
合意解除
すでに結んだ契約を、当事者双方の意思で解消する型です。解除契約ともいいます。
ここは注意が必要なところです。約定解除と法定解除は一方的な意思表示でできますが、合意解除は双方の合意が必要です。名前のとおり、新たに「やめましょう」という合意をするものだからです。
法定解除
債務不履行があった場合に、法律の規定にもとづいて認められる解除です。541条と542条が根拠になります。
相手が約束を守らないのであれば、あらかじめ決めていなくても、相手が同意しなくても解除できる。これが法定解除です。
試験で問われるのは法定解除
出題されるのはほとんどが法定解除です。催告が必要かどうか、どういう場合に催告なしで解除できるのかが問われます。
約定解除と合意解除は、法定解除との違いを説明できる程度で足ります。
具体例
引渡しが遅れたら解除できると契約書に書いておいたうえで解除するのが約定解除、AとBが話し合って契約をやめることにするのが合意解除、Aが引渡しをしないのでBが541条にもとづいて一方的に解除するのが法定解除です。
ポイント整理
- ・約定解除は、契約で定めた解除原因が発生したこと
- ・合意解除は、当事者双方が解消することに合意したこと
- ・法定解除は、法律が定める解除原因が発生したこと(541条・542条)
効果
- ・約定解除と法定解除は、一方的な意思表示で効力が生じます
- ・合意解除は、双方の合意によって契約が解消されます
重要メモ
- ・合意解除だけは一方的にできず、双方の合意が必要である点に注意
- ・約定解除は、当事者が契約であらかじめ解除原因を定めておくもの
- ・法定解除は、債務不履行があった場合に法律が認めるもの(541条・542条)
- ・試験で問われるのはほとんどが法定解除
- ・約定解除と法定解除は、解除権を持つ側の一方的な意思表示で効力が生じる
③法定解除(債務不履行に基づく解除)
541条・542条・543条簡単にいうと
相手が約束を守らないときの解除です。原則としてまず催告が必要ですが、催告なしで解除できる場合も決まっています。
原則は催告が必要
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は契約の解除をすることができます(541条本文)。
いきなり解除できるわけではありません。債務者がただ忘れているだけかもしれないので、解除の前に一度履行を促す催告をすることにしています。
履行遅滞による解除の5つの要件
第1に、債務者が履行期に債務を履行しないこと。
第2に、債権者が相当の期間を定めて履行の催告をすること。
第3に、債務者が相当の期間内に履行しないこと。
第4に、相当の期間を経過した時における債務の不履行が、契約および取引上の社会通念に照らして軽微でないこと(541条但書)。
第5に、解除の意思表示をすること。催告をしただけでは解除になりません。
期間を定めない催告でも有効
あまりにも短い期間を定めた催告や、期間の定めのない催告であっても、催告そのものは有効です。客観的に相当な期間を経過すれば解除することができます。
過去問では、期間を定めずに催告した場合は改めて相当の期間を定めて催告しなければ解除できない、と出題され、誤りとされました(13-31-イ)。
催告が不要な場合
次の場合には、債権者は催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができます(542条1項各号)。
第1号は、債務の全部の履行が不能であるときです。売買の目的物である建物が火災で全部焼失した場合などです。もはや催告をしても意味がありません。
第2号は、債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときです。売主が引渡しを拒絶する意思を書面で強固に表示した場合や、繰り返し表示した場合などです。
第3号は、債務の一部の履行が不能である場合、または債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないときです。繁殖用にオスとメスの動物を買ったのにメスが死亡した場合などです。
第4号は、契約の性質または当事者の意思表示により、特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したときです。これを定期行為といいます。クリスマスケーキが年明けに届いたような場合です。
第5号は、債務者がその債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるときです。工事の進捗からみて期日までに建物が完成する見込みがない場合などです。
債権者に帰責事由があるときは解除できない
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は541条・542条による解除をすることができません(543条)。
自分のせいで履行されなかったのに解除するのは筋が通らないからです。
具体例
引渡し期日を過ぎてもAが建物を引き渡さないとき、Bは相当の期間を定めて催告し、その期間内に引渡しがなければ解除できます。これに対して、その建物が火災で全部焼失してしまった場合は、催告をしても意味がないので、Bは直ちに解除できます。

法定解除(債務不履行に基づく解除)
ポイント整理
- ・債務者が履行期に債務を履行しないこと
- ・債権者が相当の期間を定めて履行の催告をすること
- ・債務者が相当の期間内に履行しないこと
- ・期間経過時の債務の不履行が軽微でないこと(541条但書)
- ・解除の意思表示をすること
効果
- ・要件を満たせば契約を解除できます(541条本文)
- ・542条1項各号にあたるときは、催告なしで直ちに解除できます
- ・不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるときは解除できません(543条)
条文(541条・542条・543条)
第541条(催告による解除)当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
重要メモ
- ・期間を定めない催告でも有効で、客観的に相当な期間を経過すれば解除できる点に注意
- ・541条但書: 期間経過時の不履行が軽微であるときは解除できない
- ・催告をしただけでは解除にならない。別に解除の意思表示が必要
- ・542条1項各号にあたるときは催告なしで直ちに解除できる
- ・543条: 不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるときは解除できない
④解除権の不可分性
544条簡単にいうと
当事者が複数いるときは、全員でまとめて解除しなければなりません。一部の人だけで解除することはできません。
全員から、全員に対して
当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から、またはその全員に対してのみすることができます(544条1項)。これを解除権の不可分性といいます。
A・B・Cの3人が共有する建物をDに売ったという場面で考えてください。この契約を解除するには、A・B・Cの3人そろってDに解除の意思表示をしなければなりません。Aだけが解除しても効力は生じません。
逆にDの側から解除するときも、A・B・Cの3人全員に対して解除の意思表示をする必要があります。AとBにだけ伝えたのでは足りません。
なぜこうなっているのか
一部の人だけで解除できることにすると、解除された部分とされていない部分が混在してしまいます。
後から「私は聞いていない」「私は認めていない」という人が出てくると、契約関係がどうなっているのか分からなくなります。それを避けるために、まとめて処理させることにしました。
一人について消滅すれば全員について消滅する
解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅します(544条2項)。
全員そろわなければ解除できない以上、一人でも解除権を失えば、残りの人が解除することもできなくなるからです。
過去問の確認
AとBが共有する建物をCに売却する契約を締結したが、その後、AとBは引渡し期日が到来してもCに建物を引き渡していない。Cが当該売買契約を解除するためには、Aに対してのみ解除の意思表示をするのでは足りない、と出題され、正しいとされました(13-31-ウ)。
具体例
AとBが共有する建物をCに売ったとします。Cが契約を解除するには、AとBの両方に解除の意思表示をしなければなりません。Aにだけ伝えたのでは解除の効力は生じません。

解除権の不可分性
ポイント整理
- ・当事者の一方が数人あること(544条1項)
- ・解除がその全員から、またはその全員に対してされること(544条1項)
効果
- ・全員からまたは全員に対してしなければ、解除の効力は生じません(544条1項)
- ・解除権が一人について消滅したときは、他の者についても消滅します(544条2項)
条文(544条)
第544条第1項(解除権の不可分性)当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。
重要メモ
- ・一人でも欠けると解除の効力が生じない点に注意
- ・544条1項: 解除は全員から、または全員に対してのみすることができる
- ・544条2項: 解除権が一人について消滅したときは、他の者についても消滅する
- ・過去問13-31-ウ: 共有者の1人にだけ解除の意思表示をするのでは足りない。正しい
- ・解除する側が複数の場合も、解除される側が複数の場合も同じ扱いになる
⑤解除の効果
545条・546条簡単にいうと
解除すると契約は最初からなかったことになります。受け取ったものはお互いに返し合うことになります。
原状回復義務を負う
当事者の一方が解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負います(545条1項本文)。これを原状回復義務といいます。
車の売買を解除したのであれば、買主Bは受け取った車をAに返します。Bがまだ代金を払っていなければ、代金支払義務は消滅します。すでに払っていれば、AがBに代金を返します。
金銭には利息を付ける
金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければなりません(545条2項)。
解除した日からではなく、受け取った日からの利息です。その間ずっと相手のお金を使っていたことになるからです。
物からは果実も返す
金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければなりません(545条3項)。
貸駐車場として使える土地の売買を解除したのであれば、土地そのものだけでなく、受け取ってから解除までに得た駐車料金も返すことになります。
損害賠償は別に請求できる
解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げません(545条4項)。解除したうえで、さらに損害賠償を請求することができます。
返し合うのは同時履行
解除による双方の原状回復義務には、533条が準用されます(546条)。
したがって、車を返すのと代金を返すのは同時履行の関係に立ちます。自分だけ先に返さなければならないわけではありません。
第三者の権利は害せない
原状回復をするといっても、第三者の権利を害することはできません(545条1項但書)。
AがBに土地を売り、BがそれをCに転売した後で、AがBとの契約を解除したという場面です。この場合のCは、解除の効果が及ばず保護されます。
ただし判例は、ここで保護される第三者は登記を備えていることを要するとしています(大判大10.5.17)。登記のないCは保護されません。
なお、545条1項但書が守るのは解除前に現れた第三者です。解除後に現れた第三者との関係は、177条の対抗問題として処理されます。
具体例
AがBに車を100万円で売り、Bが代金を払って車を受け取った後で契約が解除されたとします。Bは車とその間に生じた果実をAに返し、Aは100万円に受領の時からの利息を付けてBに返します。この2つは同時履行の関係に立つので、Bだけが先に車を返さなければならないわけではありません。

⑤解除の効果
ポイント整理
- ・解除権が行使されたこと(545条1項本文)
- ・返還するものが金銭であれば受領の時からの利息を付すこと(545条2項)
- ・返還するものが金銭以外であれば受領の時以後の果実も返すこと(545条3項)
効果
- ・各当事者が相手方を原状に復させる義務を負います(545条1項本文)
- ・双方の原状回復義務は同時履行の関係に立ちます(546条・533条)
- ・解除をしても損害賠償の請求は妨げられません(545条4項)
- ・第三者の権利を害することはできません(545条1項但書)
条文(545条・546条)
第545条第1項(解除の効果)当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
重要メモ
- ・利息も果実も、解除の時からではなく受領の時から計算する点に注意
- ・545条1項本文: 各当事者が相手方を原状に復させる義務を負う
- ・546条: 双方の原状回復義務は同時履行の関係に立つ
- ・545条4項: 解除をしても損害賠償の請求は妨げられない
- ・545条1項但書の第三者は解除前の第三者であり、保護されるには登記が必要(大判大10.5.17)
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