第6節 債権譲渡・債務引受
第3章 債権法
債権譲渡・債務引受は、債権・債務の当事者が契約後に変わる場面を規律する制度です。ビジネス取引では債権譲渡が資金調達手段として活用され、債務引受は事業承継などで頻繁に利用されます。対抗要件の理解が試験の最重要ポイントです。
①債権譲渡とは
466条簡単にいうと
土地や建物と同じように、お金を受け取る権利も他人に譲り渡せます。誰が債権者になるのかが入れ替わる場面です。
債権も譲り渡せる
土地や建物を自由に売れるのと同じように、財産的な価値がある金銭債権も自由に譲り渡すことができます(466条1項)。これを債権譲渡といいます。
AがBに対して100万円の債権を持っているとします。Aがこの債権をCに譲渡すると、Cが新しい債権者になります。譲り渡す側のAを譲渡人、譲り受ける側のCを譲受人といいます。
債権はそのままの形で移る
ここで押さえておきたいのは、債権の内容が変わるわけではないという点です。Aが持っていた債権がそのままCに移ります。
したがって、債権の弁済期がまだ到来していなければ、譲受人Cは債務者Bに履行を請求することができません。Aが請求できなかったものを、Cになったとたんに請求できるようになるわけではないからです。
同じように、Bが持っていた抗弁も原則としてCに対して主張できます。
債務者は契約の当事者ではない
債権譲渡の契約は、譲渡人Aと譲受人Cの間で結ばれます。債務者Bは当事者ではありません。Bの同意がなくても債権譲渡は有効に成立します。
もっとも、Bからすれば誰に払えばよいのか分からなくなります。そこでBに対して債権譲渡を主張するための仕組みが別に用意されています。これが対抗要件の問題です。
何が問題になるのか
債権譲渡で出題されるのは、主に3つです。譲渡を禁止する特約があった場合にどうなるか、債務者に主張するために何が必要か、そして同じ債権が二重に譲渡された場合にどちらが優先するかです。
このうち二重譲渡の場面が中心になります。順に見ていきます。
具体例
AがBに100万円を貸し、その債権をCに譲渡したとします。Cが新しい債権者となり、BはCに100万円を支払うことになります。ただし返済期日がまだ来ていなければ、CはBに対して直ちに支払えと請求することはできません。Aが持っていた債権がそのままの形でCに移るからです。

債権譲渡とは
ポイント整理
- ・譲渡の対象が債権であること(466条1項本文)
- ・債権の性質が譲渡を許さないものでないこと(466条1項但書)
- ・譲渡人と譲受人の間の契約で成立し、債務者の同意は不要であること
効果
- ・譲受人が新しい債権者になります
- ・債権はそのままの形で移るため、弁済期が来ていなければ請求できません
- ・債務者が持っていた抗弁は原則として譲受人にも主張できます
条文(466条)
第466条第1項(債権の譲渡性)債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
重要メモ
- ・債権はそのままの形で移るので、弁済期前なら譲受人も請求できない点に注意
- ・466条1項: 債権は譲り渡すことができる。性質が許さないときは別
- ・契約は譲渡人と譲受人の間で結ばれ、債務者の同意は要らない
- ・債務者が持っていた抗弁は原則として譲受人にも主張できる
- ・出題の中心は、譲渡を禁止する特約、債務者への対抗要件、二重譲渡の優劣の3つ
②譲渡禁止特約と債権譲渡
466条・466条の5簡単にいうと
譲渡してはいけないと約束しても、それを破った債権譲渡は有効です。ただし事情を知っていた譲受人は保護されません。
譲渡を禁止する約束
AとBの契約で、あらかじめ「この債権の譲渡は禁止する」と取り決めることができます。これを譲渡制限の意思表示、いわゆる譲渡禁止特約といいます。
債務者からすれば、見ず知らずの相手が債権者になるのは困ります。払う相手が変わると事務も煩雑になります。そこで特約を結ぶ実務上の必要があります。
それでも譲渡は有効
では、特約があるのに譲渡してしまった場合はどうなるでしょうか。
当事者が譲渡制限の意思表示をしたときであっても、債権の譲渡はその効力を妨げられません(466条2項)。つまり譲渡そのものは有効です。
2017年の改正でこの扱いになりました。譲渡を無効にしてしまうと、債権を担保にした資金調達ができなくなり、かえって不便だからです。
事情を知っていた譲受人は保護されない
もっとも、譲受人が特約を知っていた場合まで守る必要はありません。
譲渡制限の意思表示がされたことを知り、または重大な過失によって知らなかった譲受人に対しては、債務者はその債務の履行を拒むことができます(466条3項)。さらに、譲渡人に対する弁済など債務を消滅させる事由をもって譲受人に対抗することもできます。
悪意または善意かつ重過失であれば履行を拒める、善意かつ重過失がなければ拒めない、という線引きです。
債務者が払わないまま放置した場合
債務者が履行を拒んだまま、譲渡人にも払わないという状態が続くと、譲受人は回収できません。
そこで、債務者が債務を履行しない場合において、譲受人が相当の期間を定めて譲渡人への履行を催告し、その期間内に履行がないときは、債務者は履行を拒めなくなります(466条4項)。
催告をするのは譲受人であり、催告の内容は譲渡人に対して履行せよということです。
債務者は供託できる
譲渡制限の意思表示がされた金銭債権が譲渡されたとき、債務者は誰に払えばよいのか判断に困ります。
そこで債務者は、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができます(466条の2第1項)。供託したときは、遅滞なく譲渡人と譲受人に通知をしなければなりません(同条2項)。供託された金銭の還付を請求できるのは譲受人に限られます(同条3項)。
預貯金債権は別扱い
預貯金債権に譲渡制限の意思表示が付いている場合は扱いが変わります。悪意または善意かつ重過失の譲受人に対しては、債務者は譲渡制限の意思表示そのものを対抗することができます(466条の5第1項)。
その結果、譲渡は効力を生ぜず、譲受人は債権を取得できません。466条2項で譲渡が有効とされるのとは正反対の結論になります。
銀行の口座は数が膨大で、いちいち譲渡の有無を確認していられないためです。
具体例
AとBが譲渡禁止の特約を結んでいたのに、AがCに債権を譲渡したとします。この譲渡自体は有効です。CがBから取り立てようとした場合、Cが特約を知っていたか、知らなかったことに重大な過失があれば、Bは支払いを拒めます。もっとも、BがAにも支払わないままでいるときは、Cが相当の期間を定めてAへ履行するよう催告し、それでも履行がなければ、BはCへの支払いを拒めなくなります。
ポイント整理
- ・当事者が譲渡を禁止し、または制限する意思表示をしたこと(466条2項)
- ・債務者が履行を拒むには、譲受人が悪意または善意かつ重過失であること(466条3項)
- ・譲受人が相当の期間を定めて譲渡人への履行を催告し、履行がないこと(466条4項)
効果
- ・譲渡制限の意思表示があっても、債権の譲渡は効力を妨げられません(466条2項)
- ・悪意または善意かつ重過失の譲受人に対しては、債務者は履行を拒めます(466条3項)
- ・譲受人の催告後に履行がなければ、債務者は履行を拒めなくなります(466条4項)
- ・債務者は債権の全額に相当する金銭を供託できます(466条の2第1項)
- ・預貯金債権では、悪意または善意かつ重過失の譲受人に譲渡制限の意思表示を対抗できます(466条の5第1項)
条文(466条・466条の5)
第466条第2項(債権の譲渡性)当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
重要メモ
- ・特約を破った譲渡でも有効である点に注意。2017年改正で変わった
- ・466条2項: 譲渡制限の意思表示があっても債権の譲渡は効力を妨げられない
- ・466条3項: 悪意または善意かつ重過失の譲受人には、債務者は履行を拒める
- ・466条4項: 譲受人が譲渡人への履行を催告し履行がなければ、債務者は拒めなくなる
- ・466条の5第1項: 預貯金債権では、悪意または善意かつ重過失の譲受人に譲渡制限の意思表示を対抗できるので、譲受人は債権を取得できない
③債務者に対する対抗要件
467条・468条簡単にいうと
債権が譲られたことを債務者が知らなければ、誰に払えばよいのか分かりません。債務者に主張するために必要なものを見ます。
債務者に主張するために必要なもの
債権譲渡の契約は譲渡人と譲受人の間で結ばれます。債務者は当事者ではないため、そのままでは譲渡があったことを知りません。
そこで民法は、債権の譲渡は譲渡人が債務者に通知をし、または債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができないと定めました(467条1項)。
通知は譲渡人がする
ここが引っかけどころです。通知をするのは譲渡人であって、譲受人ではありません。
譲受人が通知をしても対抗要件になりません。譲受人が勝手に「私が新しい債権者です」と名乗れることにすると、嘘の通知で取り立てる人が出てきてしまうからです。
もっとも、譲受人が譲渡人の代理人として通知をすることは認められます。あくまで通知の名義が譲渡人になっていることが必要だという趣旨です。
承諾は債務者がする
通知ではなく、債務者の承諾でも対抗要件を満たせます。この承諾は、譲渡人に対してするのでも譲受人に対してするのでも構いません。
ここでいう承諾は、譲渡を認めるという意思表示ではなく、譲渡があったことを知っているという認識を示すものです。債務者の同意がないと譲渡できないわけではない点とあわせて押さえます。
方式は自由
通知も承諾も、方式は決まっていません。口頭でも有効です。書面でなければならないわけではありません。
後で見る第三者に対する対抗要件では確定日付のある証書が必要になるので、どちらの話なのかを区別してください。
対抗要件を備える前に生じた事由
債務者は、対抗要件を備える時までに譲渡人に対して生じた事由をもって、譲受人に対抗することができます(468条1項)。
たとえば、通知が届く前に債務者が譲渡人に弁済していたのであれば、債務は消滅しているので譲受人に払う必要はありません。相殺できる状態にあったのであれば、譲受人に対して相殺を主張できます。
具体例
AがBに対する債権をCに譲渡したとします。AがBに「Cに譲った」と通知をすれば、CはBに請求できます。CがBに通知をしても対抗要件にはなりません。なお、通知が届く前にBがAに弁済していたのであれば、債務はすでに消滅しているので、BはCへの支払いを拒めます。

債務者に対する対抗要件
ポイント整理
- ・譲渡人が債務者に通知をすること、または債務者が承諾をすること(467条1項)
- ・通知の名義が譲渡人であること。譲受人の通知では対抗要件にならない
- ・方式は問わず、口頭でもよい
効果
- ・対抗要件を備えれば、譲受人は債務者に履行を請求できます
- ・債務者は、対抗要件を備える時までに譲渡人に対して生じた事由を譲受人に主張できます(468条1項)
条文(467条・468条)
第467条第1項(債権の譲渡の対抗要件)債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
重要メモ
- ・通知をするのは譲渡人であって譲受人ではない点に注意
- ・467条1項: 譲渡人の通知または債務者の承諾がなければ債務者に対抗できない
- ・譲受人が譲渡人の代理人として通知をするのは認められる
- ・通知も承諾も口頭でよい。書面は要らない
- ・468条1項: 債務者は、対抗要件を備える時までに譲渡人に対して生じた事由を譲受人に主張できる
④第三者に対する対抗要件
467条簡単にいうと
同じ債権が二重に譲渡されたとき、どちらの譲受人が勝つのかを決める必要があります。出題の中心になる場面です。
二重譲渡が起きたとき
AがBに対する100万円の債権を、CとDの両方に譲渡してしまうことがあります。債権は目に見えないので、二重に譲ることが物理的に可能です。
しかしBが払う相手はひとりです。CとDのどちらが債権者になるのかを決めなければなりません。
確定日付のある証書による通知または承諾
債権譲渡は、確定日付のある証書によって通知または承諾がされなければ、債務者以外の第三者に対抗することができません(467条2項)。
確定日付のある証書とは、内容証明郵便や公証人が日付を付した書面などです。あとから日付をさかのぼって作ることができないものをいいます。
債務者に対する対抗要件は口頭でもよかったのに対し、第三者に対しては確定日付のある証書が必要です。ここが対比の軸になります。
優劣は到達の先後で決まる
ここで注意したいのは、証書に書かれた日付の先後では決まらないという点です。
優劣は、確定日付のある証書による通知が債務者に到達した時の先後によって決まります(最判昭49.3.7)。
Cへの譲渡通知の証書の日付が4月1日、Dへの譲渡通知の証書の日付が4月3日であっても、Dの通知が先にBに届いていればDが優先します。債務者からすれば、どちらの通知が先に届いたかしか分からないからです。
同時に到達した場合
CとDの通知が同時に到達した場合、または到達の先後が不明な場合は、どちらが優先するとも決められません。
この場合、CもDもそれぞれBに対して全額の履行を請求することができます。先に履行を請求したほうが債権者となり、Bはこれに応じなければなりません(最判昭55.1.11)。
同時到達だから半分ずつになる、という処理ではありません。
譲受人と差押債権者の関係
譲受人と差押債権者が競合する場合も同じ考え方です。確定日付のある証書による通知が債務者に到達した時と、差押命令が債務者に送達された時の先後で優劣が決まります。
具体例
AがBに対する100万円の債権をCとDに二重譲渡し、どちらについても内容証明郵便で通知が出されたとします。Cへの通知の日付が先であっても、Dへの通知が先にBへ届いていればDが優先します。両方の通知が同時にBへ届いた場合は、CもDもBに全額を請求でき、先に請求したほうが受け取れます。

債権譲渡の第三者に対する対抗要件
ポイント整理
- ・確定日付のある証書によって通知または承諾がされること(467条2項)
- ・内容証明郵便や公証人が日付を付した書面などであること
- ・優劣は証書の日付ではなく、債務者への到達の先後で決まること
効果
- ・確定日付のある証書による通知が先に到達した譲受人が優先します(最判昭49.3.7)
- ・同時到達または先後不明の場合は、各譲受人が全額を請求でき、先に請求したほうが受け取れます(最判昭55.1.11)
- ・差押債権者との優劣も、通知の到達と差押命令の送達の先後で決まります
条文(467条)
第467条第2項(債権の譲渡の対抗要件)前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
重要メモ
- ・優劣は証書の日付ではなく、債務者への到達の先後で決まる点に注意
- ・467条2項: 第三者に対抗するには確定日付のある証書による通知または承諾が必要
- ・最判昭49.3.7: 優劣は確定日付のある証書による通知が債務者に到達した時の先後で決まる
- ・最判昭55.1.11: 同時到達や先後不明なら各譲受人が全額を請求でき、先に請求したほうが債権者になる
- ・同時到達で按分されるわけではない
①債務引受とは
470条・472条簡単にいうと
債権譲渡が債権者の交代なら、債務引受は債務者側に人が加わる場面です。2017年の改正で条文が置かれました。
債務者の側で人が替わる
債権譲渡は債権者が入れ替わる話でした。これに対して、債務を他人が引き受けることを債務引受といいます。
AがBに100万円の債務を負っているとして、Cがこの債務を引き受ける、という場面です。引き受ける側のCを引受人といいます。
2種類ある
債務引受には2つの型があります。
ひとつは免責的債務引受です。引受人Cが債務を負い、もとの債務者Aは債務を免れます。債務者がAからCに入れ替わる形です。
もうひとつは併存的債務引受です。引受人Cが債務を負いますが、もとの債務者Aも債務を負ったままです。AとCの2人が債務者になります。
名前のとおり、Aが免責されるかどうかが分かれ目になります。
債権者にとっての意味
債権者Bからすれば、免責的債務引受は取り立てる相手が替わるだけなので、Cに支払能力がなければ損をします。だからBの関与なしに成立させることはできません。
これに対して併存的債務引受は、請求できる相手が増えるだけなのでBに不利益がありません。
この違いが成立の仕方に表れます。どちらの型でも債権者は関与しますが、免責的債務引受を債権者と引受人の契約でするときは、債権者が債務者に通知をしないと効力が生じません。債務を免れる債務者の側に、その事実を知らせる必要があるからです。併存的債務引受にはこの通知が要りません。
条文が置かれたのは2017年の改正
債務引受は長く条文のない制度で、判例と学説で運用されていました。2017年の改正で470条から472条の4までの規定が置かれました。
条文の新しい分野なので、条文そのままの出題がされやすいところです。
具体例
AがBから100万円を借りていて、Aの事業を引き継いだCがこの借入れを引き受けるとします。Aが債務を免れてCだけが債務者になるのが免責的債務引受、AとCの2人が債務者になるのが併存的債務引受です。
ポイント整理
- ・他人の債務と同一の内容の債務を引受人が負担すること
- ・免責的債務引受では、もとの債務者が債務を免れること(472条1項)
- ・併存的債務引受では、もとの債務者も債務を負ったままであること(470条1項)
効果
- ・免責的債務引受では、債務者が入れ替わります
- ・併存的債務引受では、債務者が2人になり連帯債務の関係になります
重要メモ
- ・免責されるのはもとの債務者であって引受人ではない点に注意
- ・免責的債務引受では債務者が入れ替わり、併存的債務引受では債務者が2人になる
- ・併存的債務引受では、もとの債務者と引受人が連帯債務の関係になる
- ・債権者に不利益が生じうる免責的債務引受のほうが、債権者の関与が厳しく要求される
- ・2017年の改正で470条から472条の4までの規定が置かれた
②免責的債務引受
472条簡単にいうと
もとの債務者が抜けて引受人だけが債務者になる型です。債権者が関与しなければ成立しません。
どういう効果が生じるか
免責的債務引受の引受人は、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れます(472条1項)。
AのBに対する100万円の債務をCが免責的に引き受けると、Cが100万円の債務を負い、Aは債務から解放されます。
成立の仕方は2つ
第1に、債権者と引受人となる者との契約によってすることができます。この場合、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に効力が生じます(472条2項)。
債権者Bと引受人Cが合意し、BがAに通知する、という流れです。Aは債務を免れるだけなので、Aの同意は要りません。
第2に、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもできます(472条3項)。
債務者Aと引受人Cが合意し、債権者Bが承諾する、という流れです。
債権者の関与が必ず必要
どちらの型でも債権者が関与しています。債権者の関与なしに免責的債務引受をすることはできません。
取り立てる相手が替わるため、Cに支払能力がなければ債権者が損をするからです。
引受人は抗弁を主張できる
引受人は、債務引受の効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって、債権者に対抗することができます(472条の2第1項)。
引き受けた債務はもとの債務と同一の内容なので、もとの債務者が言えたことは引受人も言えるという扱いです。
引受人に求償権はない
免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しません(472条の3)。
ここは引っかけどころです。Cが100万円を支払っても、Aに対して100万円を返せと請求することはできません。AとCの間でどう精算するかは、両者の間の別の合意にゆだねられています。
担保を移すには手続が要る
債権者は、債務者が免れる債務の担保として設定された抵当権などを、引受人が負担する債務に移すことができます。ただし、引受人以外の者がこれを設定していた場合には、その設定者の承諾を得なければなりません(472条の4第1項)。
Aの債務のためにDが物上保証として抵当権を設定していたのであれば、Dの承諾なしに引受人Cの債務の担保に移すことはできません。知らないうちに別人の債務の担保にされては困るからです。
また、この担保権の移転は、あらかじめまたは同時に引受人に対してする意思表示によってしなければなりません(472条の4第2項)。
もとの債務者が設定していた抵当権が自動的に引受人の債務の担保になるわけではない、という点を押さえます。
具体例
AがBから100万円を借りていて、BとCが合意してCが免責的に引き受け、BがAに通知したとします。Cが100万円の債務を負い、Aは債務を免れます。CがBに100万円を支払っても、CはAに対して求償することはできません。

免責的債務引受の仕組み
ポイント整理
- ・債権者と引受人の契約によること。この場合は債権者が債務者に通知した時に効力が生じる(472条2項)
- ・または債務者と引受人が契約をし、債権者が引受人に承諾をすること(472条3項)
- ・いずれの型でも債権者の関与が必要であること
効果
- ・引受人がもとの債務と同一の内容の債務を負い、債務者は自己の債務を免れます(472条1項)
- ・引受人は、効力が生じた時に債務者が主張できた抗弁をもって債権者に対抗できます(472条の2第1項)
- ・引受人は債務者に対して求償権を取得しません(472条の3)
- ・担保権を引受人の債務に移せますが、引受人以外の者が設定していたときはその承諾が必要です(472条の4第1項)
- ・担保権の移転は、あらかじめまたは同時に引受人に対してする意思表示によってします(472条の4第2項)
条文(472条)
第472条第1項(免責的債務引受の要件及び効果)免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
重要メモ
- ・引受人は債務者に対して求償権を取得しない点に注意(472条の3)
- ・472条1項: 引受人が同一の内容の債務を負い、債務者は自己の債務を免れる
- ・472条2項: 債権者と引受人の契約でできる。債権者が債務者に通知した時に効力が生じる
- ・472条3項: 債務者と引受人の契約でもできるが、債権者が引受人に承諾をすることが必要
- ・472条の4第1項: 担保権を引受人の債務に移せるが、引受人以外の者が設定したときはその承諾が必要
③併存的債務引受
470条・471条簡単にいうと
もとの債務者が残ったまま引受人が加わる型です。請求できる相手が増えるので、債権者に不利益がありません。
どういう効果が生じるか
併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担します(470条1項)。
AのBに対する100万円の債務をCが併存的に引き受けると、AとCがそろって100万円の債務を負います。
ここで押さえておきたいのは、AとCが連帯債務の関係になるという点です。分割債務になるわけではありません。Aが50万円、Cが50万円という形にはならず、BはAにもCにも100万円を請求できます。
成立の仕方は2つ
第1に、債権者と引受人となる者との契約によってすることができます(470条2項)。債務者の同意は要りません。
免責的債務引受と違い、債権者から債務者への通知も効力の要件になっていません。債務者は債務を負ったままなので、不利益がないからです。
第2に、債務者と引受人となる者との契約によってもできます。この場合、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に効力が生じます(470条3項)。
この型でする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従います(470条4項)。債務者と引受人が、債権者という第三者に利益を与える契約を結んでいる形だからです。
債権者には不利益がない
併存的債務引受では、債権者は請求できる相手が増えるだけです。損をすることがありません。
そのため、債権者と引受人が合意すればそれだけで効力が生じます。免責的債務引受では、同じく債権者と引受人が合意する型であっても、債権者が債務者に通知をするまで効力が生じません。ここが対比されます。
引受人は抗弁を主張できる
引受人は、債務引受の効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって、債権者に対抗することができます(471条1項)。
過去問の確認
併存的債務引受について「引受人は債務者と分割債務の関係に立つ」と出題され、誤りとされました(14-32-ウ)。連帯債務の関係になるというのが正解です。
過去問では、誰と誰が契約するのか、連帯債務なのか分割債務なのか、という2点が問われています。
具体例
AがBから100万円を借りていて、BとCが合意してCが併存的に引き受けたとします。AとCが連帯して100万円の債務を負い、BはAにもCにも100万円全額を請求できます。AとCが50万円ずつを負うわけではありません。

併存的債務引受
ポイント整理
- ・債権者と引受人の契約によること。債務者の同意も通知も要らない(470条2項)
- ・または債務者と引受人が契約をし、債権者が引受人に承諾をすること(470条3項)
効果
- ・引受人が債務者と連帯して、同一の内容の債務を負担します(470条1項)
- ・債権者は債務者にも引受人にも全額を請求できます
- ・引受人は、効力が生じた時に債務者が主張できた抗弁をもって債権者に対抗できます(471条1項)
条文(470条・471条)
第470条第1項(併存的債務引受の要件及び効果)併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
重要メモ
- ・引受人ともとの債務者は連帯債務の関係になる。分割債務ではない点に注意
- ・470条1項: 引受人は債務者と連帯して同一の内容の債務を負担する
- ・470条2項: 債権者と引受人の契約でできる。債務者への通知は要らない
- ・470条3項: 債務者と引受人の契約でもできるが、債権者が引受人に承諾をした時に効力が生じる
- ・過去問14-32-ウ: 分割債務の関係に立つという出題は誤り
まとめ
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