第5節 多数当事者間の債権債務関係
第3章 債権法
一つの債権・債務について、当事者が複数いる場合のルールを学びます。分割債務・連帯債務、保証・連帯保証など、日常の金銭貸借で頻繁に登場する制度であり、試験でも極めて出題頻度が高い最重要分野です。令和元年改正で連帯債務の絶対的効力事由が大幅に縮小された点、および事業に係る保証債務の保証意思宣明公正証書が必要とされる点に注意しましょう。
分割債務・分割債権
427条簡単にいうと
複数人でお金を借りたときの民法の出発点は頭割りです。各自が等しい割合だけ義務を負うため、債権者にとっては回収しにくい形になります。
何も決めなければ頭割りになる
A・B・Cの3人がお金を出し合ってXから600万円の車を購入した場合、特約も法律の規定もなければ、各自が200万円ずつの債務を負います(427条)。これを分割債務といいます。
逆に3人がXに600万円を貸した場合は、各自が200万円ずつの債権を持ちます。これが分割債権です。
数人が同一の可分な給付について債権を持ち、または債務を負う場合には、別段の意思表示がないときは、各自が等しい割合で権利を有し、義務を負う、というのが民法の出発点です。
債権者にとっては不利
分割債務では、債権者XはA・B・Cにそれぞれ200万円ずつしか請求できません。
仮にBとCが支払えなくなっても、残ったAに600万円を請求することはできません。Aに請求できるのは200万円のままです。Xから見れば回収できなくなる危険が高い形態だ、ということになります。
連帯債務につなげる
そこで実務では、より確実に回収できるように連帯債務の合意をするのが通例です。
分割債務そのものが単独で出題されることはあまりありません。次に学ぶ連帯債務がどれだけ債権者に有利なのかを理解するための比較対象として位置づけておきます。
具体例
A・B・Cの3人がXから600万円を借りた。特段の合意がなければ各自200万円ずつの分割債務となり、XはAに対しても200万円しか請求できない。

分割債務(民法427条)
ポイント整理
- ・数人の債権者または債務者が存在すること
- ・給付が可分であること
- ・連帯債務・不可分債務等の特約や法律規定がないこと
効果
- ・各自が等しい割合で債権を有し、または債務を負う(427条)
- ・1人の不履行は他の者の債務に影響しない(完全な独立性)
- ・債権者は各自の負担部分についてのみ請求できる
条文(427条)
第427条(分割債権及び分割債務)数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
重要メモ
- ・何も決めなければ分割債務になる点に注意
- ・427条: 別段の意思表示がないときは各自が等しい割合で権利を有し、義務を負う
- ・債権者は各自の分しか請求できず、1人が無資力でもほかの者に上乗せできない
- ・連帯債務になるには、当事者の意思表示か法律の規定が必要
- ・可分な給付であることが前提。不可分な給付なら不可分債権・不可分債務になる
連帯債務
436〜445条簡単にいうと
複数人が全員で全額の責任を負うのが連帯債務です。債権者は誰にでも全額を請求できます。1人に生じたことがほかの人に及ぶかどうかが分かれ目になります。
連帯債務とは
分割債務では債権者が不利になります。そこで、より確実に債権を回収できるように連帯債務という制度が置かれています(436条)。
A・B・Cが600万円の連帯債務を負う場合、3人それぞれが600万円の債務を負います。債権者XはA・B・Cの誰に対しても600万円の全額を請求できます。BとCが支払えなくなっても、Aに600万円全額を請求できます。
連帯債務は、法令の規定または当事者の意思表示によって成立します。法令の規定による例が共同不法行為(719条)です。
負担部分と請求額は別物
連帯債務者が内部的に責任を負う金額の割合を負担部分といいます。取決めがなければ平等になるので、600万円であれば各自200万円です。
ここで間違えやすいのは、負担部分に応じた200万円しか請求できないわけではない、という点です。債権者Xは誰に対しても600万円を請求できます。負担部分は債務者どうしの内部の問題であって、債権者の請求額とは関係ありません。
Aが600万円を弁済すれば、AはBとCに200万円ずつ求償できます(442条1項)。
相対効が原則
連帯債務者の1人に生じたことは、ほかの連帯債務者には影響しないのが原則です(441条)。これを相対効といいます。
履行の請求、承認、免除、時効の完成はいずれも相対効です。XがAにだけ裁判上の請求をしてもXA間でしか時効の完成猶予は生じませんし、XがAにだけ免除してもAの債務が消えるだけです。
なお、債権者と連帯債務者が特約を結べば、相対効とされているものを絶対効とすることもできます(441条但書)。
絶対効になるもの
例外として、ほかの連帯債務者にも影響するものがあります。これを絶対効といいます。
第1は、連帯債務の性質上当然のものです。弁済・代物弁済・相殺などがこれにあたります。Aが600万円を弁済すればB・Cの債務も消滅します。もし弁済が相対効なら、Xは600万円×3人分を回収できることになっておかしいからです。
第2は、債権者に不利なものです。更改(438条)、混同(440条)、そしてほかの連帯債務者が反対債権を有する場合の履行拒絶(439条2項)です。
Aの債務を消滅させて時計の引渡債務を発生させる契約をすれば更改となり、B・Cの債務も消滅します。Aが死亡して債権者Xが相続すれば混同となり、同じくB・Cの債務も消滅します。
反対債権を持つ者がいる場合
Cが債権者Xに対して反対債権を持っている場合に、XがAに支払いを請求してきたとします。
このときAは、Cの負担部分である200万円の限度で弁済を拒むことができます(439条2項)。600万円のうち400万円を払えば足りる、ということです。
拒めるだけであって、AがCの債権を使って相殺できるわけではありません。
具体例
A・B・Cが連帯してXから600万円を借りた。XはAだけに600万円全額を請求できる。Aが全額弁済すればB・Cの債務も消滅し、AはB・Cに各200万円ずつ求償できる。

連帯債務の構造と効力
ポイント整理
- ・数人の債務者が存在すること
- ・当事者間の連帯合意または法律の規定(719条等)があること
- ・各債務者が同一内容の給付について全部の履行義務を負うこと
効果
- ・債権者は連帯債務者の一人に対して全額請求できる(436条)
- ・1人が全部弁済すれば他の者の債務も消滅する(438条)
- ・絶対効:弁済・代物弁済・相殺・混同(438〜440条)
- ・相対効(原則):免除・時効の完成・請求等(441条)
- ・負担部分超過分について他の連帯債務者に求償できる(442条1項)
条文(436〜445条)
第436条(連帯債務者に対する履行の請求)債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。
重要メモ
- ・履行の請求が相対効である点に注意。2020年改正で変わった
- ・絶対効は、弁済・代物弁済・相殺・更改・混同と、反対債権がある場合の履行拒絶
- ・相対効は、履行の請求・承認・免除・時効の完成(441条)。特約で絶対効にもできる(441条但書)
- ・負担部分は債務者どうしの内部の割合で、債権者は全額を請求できる
- ・439条2項: ほかの連帯債務者の負担部分の限度で履行を拒めるだけで、相殺はできない
保証債務
446〜465条の10簡単にいうと
主たる債務者が返せなかったときに代わりに払うのが保証です。保証人には、先に主債務者へ請求せよと言える2つの抗弁権があります。
保証とは
保証とは、主たる債務者が弁済できなくなったときのために代わりに弁済する者を立てておくことで、債権の回収をより確実にする制度です。
AがBに100万円を貸し、Cが保証人になったとします。Bが支払えない場合、CはAに弁済する義務を負います。このとき、元本の100万円だけでなく、Bが払えなかった利息や損害金なども負担します(447条1項)。
保証人となる契約を保証契約といい、これは債権者Aと保証人Cの間で結ばれます。主たる債務者Bは当事者ではありません。
書面がなければ無効
保証契約は、書面でしなければ効力を生じません(446条2項)。電磁的記録によってされたときは書面によるものとみなされます(446条3項)。
口約束で保証人にされてしまうことを防ぐための要式性です。
主債務者と保証人の関係
主たる債務者に起こった事由は保証人に影響します(絶対効)。AがBに裁判上の請求をすれば、Cの保証債務についても時効の完成が猶予されます。
これに対し、保証人に起こった事由は主たる債務者に影響しません(相対効)。AがCに裁判上の請求をしても、Bの主債務の時効の完成は猶予されません。
向きによって結論が変わるため、どちらに生じた事由なのかを必ず確認します。
催告の抗弁権
保証人が弁済する義務を負うとはいえ、順番としては先に主たる債務者が弁済すべきです。
そこで、債権者が主たる債務者に請求しないでいきなり保証人に請求してきた場合、保証人はまず主たる債務者に催告をするよう請求できます(452条本文)。これを催告の抗弁権といいます。
ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、または行方が知れないときは主張できません(452条但書)。
検索の抗弁権
債権者が主たる債務者に催告をした後であっても、保証人は、主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ執行が容易であることを証明すれば、まず主たる債務者の財産について執行するよう請求できます(453条)。これを検索の抗弁権といいます。
なお、物上保証人はそもそも債権者から履行の請求を受けないため、催告の抗弁権も検索の抗弁権もありません。
求償権
保証人が弁済した場合、主たる債務者に対して求償できます。弁済した額のすべてについて求償できます。
ほかに保証人がいる場合は、その保証人に対しても求償できますが、こちらは自分の負担部分を超えた額についてだけです。保証人CとDがいて主債務が100万円であれば、各自の負担部分は50万円です。Cが100万円を弁済すればDに50万円を求償できますが、Cが25万円しか弁済していなければDには求償できません。
債権者の情報提供義務
保証人にとって主たる債務者の履行状況は重大な関心事です。そこで債権者は、委託を受けた保証人から主たる債務者の履行状況について情報の提供を求められたときは、これに応じなければなりません(458条の2)。
委託を受けない保証人に対しては、この義務はありません。
事業に係る債務の個人保証
事業に関する融資は多額になりがちです。そこで、事業のために負担した貸金等債務について個人が保証をすることは原則として禁止されています(465条の6第1項)。
例外は2つです。保証人になろうとする個人が、契約の締結の日前1か月以内に作成された公正証書で保証債務を履行する意思を表示した場合(465条の6)と、主たる債務者が法人である場合のその理事・取締役等による経営者保証またはこれに準じる場合(465条の9)です。
なお、保証人が法人である場合にはこの規定の適用がありません(465条の6第3項)。
具体例
AがBに100万円を貸し、CがBの保証人となった。Bが返済しない場合、AはCに請求できるが、CはまずBに請求するよう主張できる(催告の抗弁権)。

保証制度の基本構造と権利関係
ポイント整理
- ・主たる債務の存在(付従性)
- ・保証契約が書面または電磁的記録でなされていること(446条2項)
- ・保証契約が債権者と保証人の間で締結されていること(主債務者の意思不要)
効果
- ・主たる債務者が履行しない場合に保証人が履行義務を負う(446条1項)
- ・催告の抗弁権(452条):まず主債務者に請求せよと主張可
- ・検索の抗弁権(453条):まず主債務者の財産に執行せよと主張可
- ・主たる債務者に生じた事由はすべて保証人に影響する(絶対効)
- ・保証人に生じた事由は主たる債務者に影響しない(相対効)
- ・弁済後に主たる債務者へ求償できる(459条)
条文(446〜465条の10)
第446条(保証人の責任等)①保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。②保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。③保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
重要メモ
- ・主債務者への事由は保証人に影響し、保証人への事由は主債務者に影響しない点に注意
- ・446条2項: 保証契約は書面でしなければ効力を生じない
- ・452条: 催告の抗弁権。主債務者が破産手続開始の決定を受けたときや行方が知れないときは使えない
- ・453条: 検索の抗弁権。弁済の資力があり執行が容易であることの証明が要る
- ・465条の6: 事業に係る債務の個人保証は、契約前1か月以内の公正証書が原則として必要
連帯保証
454条簡単にいうと
連帯して保証すると、催告の抗弁権も検索の抗弁権もなくなります。最初から全額を請求される形になり、債権者にとって有利です。
連帯保証とは
連帯保証とは、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担する約束をした場合の保証です(454条)。
連帯債務と同じように、債権者にとっては通常の保証よりも有利になります。
通常の保証と同じ点
主たる債務者に生じたことは、すべて連帯保証人に影響します。主債務について時効の完成が猶予されれば、連帯保証債務の時効の完成も猶予されます。
保証債務の一種なので付従性があり、主債務が消滅すれば連帯保証債務も消滅します。書面でしなければ効力を生じないという要式性(446条2項)も同じです。
催告・検索の抗弁権がない
通常の保証と違うのは、連帯保証人には催告の抗弁権も検索の抗弁権もないという点です(454条)。
債権者がいきなり連帯保証人に全額を請求してきても、連帯保証人は拒むことができません。主たる債務者に十分な資力があったとしても、そちらに先に執行せよと言うこともできません。
連帯保証人に生じた事由
連帯保証人に生じたことは、連帯債務の絶対効の規定に従います(458条)。
弁済・更改・相殺・混同は連帯債務では絶対効なので、これらが連帯保証人に起こった場合は主たる債務者にも影響します。債権者が死亡して連帯保証人が相続した場合には混同となり、主債務も消滅します。
これに対し、裁判上の請求や免除、消滅時効の完成は連帯債務でも相対効なので、連帯保証人に起こっても主たる債務者には影響しません。
過去問では「債権者が連帯保証人に対してした債務の履行の請求は、主たる債務者に対して効力が生じることはなく、主たる債務について時効の完成猶予および更新の効力は生じない」と出題され、正しいとされました。
分別の利益がない
保証人が複数いる場合、通常の保証であれば主債務を平等に分割した額だけを負担すれば足ります。これを分別の利益といいます。
連帯保証にはこの分別の利益がありません。連帯保証人が2人いても、それぞれが主債務の全額を負担する義務を負います。
連帯債務との違い
連帯保証は名前が似ているため連帯債務と混同されがちですが、連帯保証はあくまで保証債務の一種です。主債務に従属する付従性がある点で、独立した債務である連帯債務とは異なります。
具体例
Bの1,000万円の借入についてCが連帯保証人となった。AはBに請求することなくCに1,000万円全額を請求でき、Cは催告・検索の抗弁権を行使できない。

連帯保証の仕組みと効力
ポイント整理
- ・主たる債務の存在(付従性)
- ・連帯保証の合意が書面でなされていること(446条2項)
- ・保証人が主たる債務者と連帯して責任を負う旨の合意
効果
- ・催告の抗弁権なし(454条)
- ・検索の抗弁権なし(454条)
- ・分別の利益なし(456条反対解釈)。複数の連帯保証人がいても各自が全額負担
- ・連帯保証人への請求は主たる債務者に効力を生じない(458条・441条準用)
- ・主たる債務者への事由はすべて連帯保証人に影響する(付従性)
- ・弁済後に主たる債務者へ求償できる(459条)
条文(454条)
第454条(連帯保証の場合の特則)保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担することを約したときは、前二条の権利(催告の抗弁権・検索の抗弁権)を有しない。
重要メモ
- ・催告の抗弁権と検索の抗弁権がなく、分別の利益もない点に注意
- ・454条: 連帯保証人には催告の抗弁権も検索の抗弁権もない
- ・458条: 連帯保証人に生じた事由は連帯債務の絶対効の規定に従う
- ・連帯保証人への履行の請求は相対効なので、主たる債務者に影響しない
- ・連帯保証は保証債務の一種で付従性がある。独立した債務である連帯債務とは異なる
まとめ
関連判例
連帯債務者の相続人
最判昭34.6.19連帯債務は可分債務であるため、連帯債務者の一人が死亡した場合、相続人は法定相続分に応じて分割された債務を承継する 各相続人は、承継した範囲においてのみ本来の連帯債務者とともに連帯債務者となる 相続人が全額の連帯債務を引き継ぐわけではない点に注意:相続人が増えることで債権者が「得をする」解釈は採用されていない 可分債務の当然分割は相続開始と同時に自動的に生じ、遺産分割協議を待つ必要はない 注意:遺産分割協議で誰か一人が全額負担する合意をすることはできるが、それは相続人間の内部合意にすぎず、債権者に対して主張することはできない(民法899条)
南九州税理士会政治献金事件
最判平8.3.19結論は「目的の範囲外・総会決議無効」。「法律改正のためだからOKでは?」という引っかけに注意 判断の決め手は**「強制加入団体」**という性質。脱退の自由がない以上、個人の思想・信条に関わる事柄を多数決で強制することには自ずと限界がある 会社との対比を必ず押さえること:会社の政治献金→目的の範囲内・有効(最判昭45・八幡製鉄事件)、税理士会の政治献金→目的の範囲外・無効(本判例) 注意:目的の正当性(税理士法改正という業務関連の目的)ではなく、手段の性質(政治献金という思想・信条に深く関わる手段)が判断のポイント 関連判例として群馬司法書士会事件(最判平14)も重要。司法書士会が阪神大震災の復興支援として日本司法書士会連合会に復興支援拠出金を寄付することは目的の範囲内・有効とされており、「政治性のない公益的活動」との区別が試験で問われやすい
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