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テキスト/民法/第3節 責任財産の保全

第3節 責任財産の保全

第3章 債権法

債権者が債務者から確実に弁済を受けるためには、債務者の財産(責任財産)が保全されていることが重要です。債務者が財産を減少させたり、本来行使すべき権利を放置したりすると、債権者は債権を回収できなくなります。この節では、債権者代位権(債務者の権利不行使への対応)と詐害行為取消権(債務者の財産減少行為への対応)を、要件・行使方法・効果・転用事例まで体系的に学びます。

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債権者代位権とは

423条

簡単にいうと

お金を貸した相手が財産を持っているのに権利行使をサボって回収できない——そんなとき債権者が「代わりに」権利を行使できる制度が債権者代位権だよ。

債権者代位権(民法423条)とは、債権者が自己の債権を保全するため、債務者が有する権利を債務者に代わって行使できる制度をいいます。債務者が自ら権利を行使しないまま放置すると、その財産的基盤(責任財産)が空洞化し、債権者が強制執行しようにも差し押さえる財産がなくなってしまいます。そこで民法は、債権者が債務者の財産を積極的に保全するための手段として本制度を用意しています。

制度のイメージとして重要なのは「代理ではなく代位」という点です。代理は本人のために行動しますが、代位権行使は債権者自身の債権を守ることが目的です。また、行使の結果として得た財産は債務者のもとに帰属し(または直接受領できる場合もある)、それを強制執行の引当財産とする仕組みになっています。

行使方法については、裁判上・裁判外いずれでも行使できます(代位訴訟を提起することも可能)。目的が金銭の場合は、債務者が第三債務者から直接自己に引き渡すよう請求することができます(423条の3)。目的が不動産の登記請求の場合は、直接自己名義への移転を求めることはできず、債務者名義への移転を求めるにとどまります。

行使できる範囲は被保全債権額の範囲内に限られます(423条の2)。代位権の行使後も、債務者は自ら取り立てやその他の処分をすることが妨げられません(423条5項前段)。これは代位権行使の効果が「相対効」にとどまることを意味し、債務者が勝手に処分してもそれを止めることはできないため、実務では仮差押えと組み合わせることが重要です。

具体例

AはBに1,000万円を貸している。BはCに対して1,000万円の売買代金債権を持っているが、Bは無資力で自ら取り立てようとしない。この場合、AはBの代わりにBのCに対する代金債権を行使し、直接AへCから支払いを受けることができる(423条の3)。

債権者代位権とは・要件

債権者代位権とは・要件

ポイント整理

  • ①被保全債権が金銭債権であること(原則)
  • ②債務者が無資力であること(債務超過状態)
  • ③債務者が被代位権利を行使していないこと
  • ④被保全債権が弁済期にあること(ただし保存行為は弁済期前でも可)

効果

  • 債権者は債務者の権利を代わりに行使できる
  • 金銭債権の場合は直接自己への引渡しを請求できる(423条の3)
  • 行使後も債務者は自ら処分・取立てが可能(相対効)
  • 行使できる範囲は被保全債権額を超えられない

条文(第423条条)

第423条(債権者代位権の要件)債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じた権利は、この限りでない。

比較項目
債権者代位権
詐害行為取消権
根拠条文
423条
424条
目的
責任財産の保全(積極的)
逸出財産の回復(消極的)
行使方法
裁判上・裁判外どちらでも可
裁判上のみ(訴訟提起必須)
主観的要件
不要(債務者・第三者の悪意不問)
債務者の詐害意思+受益者の悪意が必要
無資力要件
必要(原則)
必要
期間制限
なし
知った時から2年/行為から10年(426条)

重要メモ

  • 「債権者が債務者に代わって取立てに行く制度」——債務者が無資力で権利行使しない場合に責任財産を保全する
  • 4要件セットで覚える:①金銭債権・②無資力・③債務者の不行使・④弁済期到来(423条)
  • 保存行為(時効完成猶予等)は弁済期前でも代位行使できる——弁済期前の例外として頻出
  • 一身専属権(婚姻・認知・離婚請求・扶養請求など)は絶対に代位不可(423条1項但書)
  • 金銭・動産は自己への直接引渡し請求OK(423条の3)、不動産登記は自己名義不可(債務者名義への移転まで)
  • 代位権行使後も債務者は自ら取り立て・処分できる(相対効・423条の5前段)——ここが頻出の引っかけポイント
  • 行使方法は裁判上・裁判外どちらでも可(詐害行為取消権との重要な違い)
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債権者代位権の要件詳細と行使の範囲

423条・423条の2・423条の3

簡単にいうと

代位権を行使するには4つの要件を満たす必要があって、行使できる範囲にも限界がある。それぞれの内容をきちんと整理しておこう。

債権者代位権の要件は4つあります(423条)。第一に、被保全債権が金銭債権であることが原則として必要です。これは責任財産全体の保全が目的だからです。ただし、転用の場合(後述)は金銭債権でなくても認められます。

第二に、債務者が無資力であることが必要です。無資力とは、債務者の財産の総額が債務の総額を下回る状態(債務超過)をいいます。無資力要件を課すのは、債務者に十分な財産があれば強制執行で回収できるため、代位権を行使する必要性がないからです。

第三に、債務者が被代位権利を行使していないことが必要です。債務者自身が既に権利行使しているなら、代位する必要がありません。債務者が訴訟中であれば代位権は行使できません。

第四に、被保全債権が弁済期にあることが必要です(423条2項本文)。ただし、保存行為(時効完成猶予の申立て等)については弁済期前でも行使できます(同項ただし書)。

行使の範囲については、423条の2により「その権利の価値の限度において」行使できると定められており、被保全債権額を超えて行使することはできません。たとえば、被保全債権が500万円であれば、2,000万円の被代位権利があっても500万円の範囲内でしか行使できません。代位行使の請求の内容については、目的が不動産登記請求の場合は直接自己名義への移転は求められず(債務者名義への移転を求めることのみ可能)、金銭・動産の引渡しの場合は直接自己への引渡しを請求できます(423条の3)。

具体例

Aの被保全債権が500万円のとき、BのCに対する代金債権2,000万円を代位行使する場合、Aは500万円の範囲内でしかCに請求できない(423条の2)。

債権者代位権の転用

債権者代位権の転用

ポイント整理

  • ①被保全債権が金銭債権(原則)
  • ②債務者の無資力(債務超過)
  • ③債務者の不行使
  • ④被保全債権の弁済期到来(保存行為は期前でも可)

効果

  • 要件充足で裁判上・裁判外いずれでも代位行使可
  • 行使範囲は被保全債権額を上限とする(423条の2)
  • 金銭・動産は直接自己への引渡し請求可(423条の3)
  • 不動産登記は債務者名義への移転請求のみ(直接自己名義不可)
  • 一身専属権・差押禁止権利は対象外(423条1項但書)

条文(第423条・423条の2・423条の3条)

第423条の2(被代位権利の行使の範囲等)債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。 第423条の3(債権者への支払又は引渡し)債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。

場面
直接自己への引渡し請求
備考
金銭・動産の引渡し
できる(423条の3)
自己の口座へ振込を求められる
不動産の登記移転
できない
債務者名義への移転を求めるのみ
保存行為(時効完成猶予等)
弁済期前でも可
緊急性・保全の必要性が理由

重要メモ

  • 「4要件を全て満たさないと代位権は行使できない、かつ行使範囲にも上限がある」
  • 弁済期前でも保存行為(時効完成猶予等)なら行使可——緊急性・保全の必要性が理由
  • 一身専属権(婚姻・認知・離婚請求・扶養など)は代位不可(423条1項但書)——絶対例外
  • 目的債権が可分(金銭など)の場合:行使範囲は被保全債権額が上限(423条の2)——超えて請求は不可
  • 目的債権が不可分(不動産の引渡しなど)の場合:被保全債権額を超えて行使できる——ここは盲点
  • 不動産登記の代位行使:自己名義への直接移転は不可、債務者名義への移転のみ——記述式でも問われる
  • 金銭・動産の引渡し:直接自己に請求OK(423条の3)
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債権者代位権の転用

423条の7・605条の4第2号

簡単にいうと

代位権って本来はお金を回収するための制度だけど、「登記を移してもらいたい」「不法占拠者を追い出したい」という場面でも使えるんだ。これが「転用」だよ。

債権者代位権の転用とは、被保全債権が金銭債権でない場合であっても、特定の法律関係を保全するために代位権を行使することが認められる場合をいいます。転用が認められる場合は無資力要件が不要とされる点が重要です(判例・最判昭58.10.6等)。

転用事例①は、不動産の転売と登記の代位行使です(423条の7)。例えば、A所有の土地がA→B→Cと売買されたが、登記はまだAにある場合を考えます。Cは直接AにC名義への移転登記を求めることができません(登記請求権は売主と買主の間にしか発生しないため)。そこでCは、BのAに対する登記請求権を代位行使してA→B名義への移転登記をさせ、その後B→C名義への移転登記を取得することができます。これは423条の7に明文化されており、無資力要件は不要です。ただし、直接C名義への移転登記を求めることはできません(最判昭35.4.21)。

転用事例②は、賃借人による妨害排除請求です(605条の4第2号)。例えば、AがBから土地を借りており、Cが不法占拠しているとします。AはBの所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使して、Cに対し土地の明渡しを求めることができます。賃借人Aは占有権に基づく占有回収の訴えも使えますが、所有者Bの権利を代位行使することによっても対抗できるとされています。この場合も、Aが無資力でなくても代位権の転用が認められます。

転用が認められる理論的根拠は、これらの場合に代位権を行使しなければAの権利が保全できず、そのためにBの権利行使が必要不可欠であるという「保全の必要性」にあります。

具体例

A所有の土地がB→Cへと転売されたが登記はBにある。CはAのBに対する登記請求権を代位行使し、まずA→B名義の移転登記をさせてから、B→C名義への移転登記を自ら行う(423条の7)。Cが直接A名義からC名義へ移転登記を求めることはできない(最判昭35.4.21)。

詐害行為取消権とは・要件

詐害行為取消権とは・要件

ポイント整理

  • ①保全すべき権利(被保全権利)の存在
  • ②債務者(B等)が被代位権利を行使していないこと
  • ③保全の必要性があること
  • ④無資力要件は不要(転用の場合)

効果

  • 金銭債権がなくても代位権を行使できる
  • 不動産転売型:A→B名義の登記を代位行使できる(B→C名義は別途Cが取得)
  • 賃借人型:賃借人が所有者の妨害排除請求権を代位行使できる
  • 無資力要件が不要になる

条文(第423条の7・605条の4第2号条)

第423条の7(登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権)登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前三条の規定を適用しない。

転用事例
根拠条文
無資力要件
直接自己名義への請求
不動産転売と登記の代位行使
423条の7
不要
不可(債務者名義まで)
賃借人による妨害排除請求
605条の4第2号
不要
賃借人が直接占有者に請求可
通常の金銭債権保全
423条
必要
金銭は直接自己への引渡しOK

重要メモ

  • 「転用=金銭債権がなくても無資力でなくても使える代位権」——通常の2要件が不要になる
  • 転用では①金銭債権要件・②無資力要件がともに不要——保全の必要性があれば認められる
  • 登記転用(423条の7):A所有→B→Cと転売で登記がCにある場合、AはBのCへの登記請求権を代位行使してB名義にさせる——C名義への直接移転は不可(最判昭35.4.21)
  • 賃借人による妨害排除請求権の代位行使(605条の4第2号):不法占拠者Cがいる場合、賃借人Aは所有者Bの妨害排除請求権を代位行使してCに明渡しを直接請求できる
  • 転用事例の共通ポイント:代位行使しないと被保全権利が守れないという「保全の必要性」が根拠
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詐害行為取消権とは・要件

424条

簡単にいうと

債務者がわざと財産を第三者に渡して「もうお金ないよ」と逃げようとしたら——その行為自体を取り消せる制度が詐害行為取消権だよ。

詐害行為取消権(民法424条)とは、債務者が債権者を害することを知りながら財産を処分した場合に、債権者がその行為を取り消して財産を取り戻すことができる制度です。債権者代位権が「責任財産の積極的保全(債務者の財産を守る)」であるのに対し、詐害行為取消権は「責任財産の消極的保全(逸出してしまった財産を取り戻す)」という性質を持ちます。

詐害行為取消権の要件は6つあります(424条)。第一に、被保全債権が金銭債権であることが必要です。第二に、被保全債権が詐害行為前の原因に基づいて生じたものであることが必要です(424条3項)。詐害行為後に発生した債権では取消権を行使できません。第三に、被保全債権が強制執行により実現できるものであることが必要です(424条4項)。これは判決を得て差し押さえるなど実際に執行可能な債権を指します。第四に、行為が債権者を害するものであることが必要です——つまり債務者の財産が減少して弁済不能・弁済困難になること(詐害性)です。第五に、債務者に詐害意思(詐害行為であることの認識)があること(424条1項本文)。第六に、受益者に悪意(債権者を害することを知っていること)があることが必要です(424条1項但書)。

詐害行為取消権は必ず裁判上で行使しなければなりません(424条1項)。これは債権者代位権と異なる重要な違いです。また、債務者・受益者を共同被告として訴訟提起します(最判平成22.10.19)。取消権行使には期間制限があり、債権者が詐害行為を知った時から2年、または詐害行為から10年が経過すると消滅します(426条)。

具体例

AはBに1,000万円を貸している。Bは無資力になったことを知りながら、自己所有の土地をCに贈与した。AはBのCへの贈与契約を詐害行為として取り消し、土地をBのもとへ戻すよう請求できる(424条)。CがBから土地を受け取った際に「Bが債権者を害することを知っていた」悪意の場合に限る。

詐害行為取消権の行使方法・効果

詐害行為取消権の行使方法・効果

ポイント整理

  • ①被保全債権が金銭債権であること
  • ②被保全債権が詐害行為前の原因に基づいて生じたこと(424条3項)
  • ③被保全債権が強制執行により実現できるものであること(424条4項)
  • ④行為が債権者を害するものであること(詐害性)
  • ⑤債務者に詐害意思があること(424条1項本文)
  • ⑥受益者が悪意であること(424条1項但書)

効果

  • 詐害行為を取り消して財産を債務者のもとへ回復させる
  • 金銭の場合は直接債権者への支払いを求めることもできる
  • 取消しの効果は相対効(425条)——債権者と受益者の間のみで効力を生じ、債務者には直接及ばない

条文(第424条条)

第424条(詐害行為取消請求)債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

要件
内容
条文
①被保全債権の種類
金銭債権であること
424条
②被保全債権の発生時期
詐害行為前の原因に基づくもの
424条3項
③強制執行可能性
強制執行により実現できる債権
424条4項
④詐害性
行為により債権者が害される
424条1項
⑤債務者の主観
詐害意思があること
424条1項本文
⑥受益者の主観
悪意であること(善意なら取消不可)
424条1項但書

重要メモ

  • 「債務者が財産逃がしをしたときに取り消せる権利」——責任財産の消極的保全(逸出財産の回復)
  • 6要件:①金銭債権・②詐害行為前の原因に基づく債権・③強制執行可能・④詐害性・⑤債務者の詐害意思・⑥受益者の悪意(424条)
  • 特に重要な要件②:詐害行為後に発生した債権では取消権行使不可——「詐害行為前の原因」が条件
  • 特に重要な要件⑥:受益者が善意なら取消不可(424条1項但書)——悪意の場合のみ取り消せる
  • 行使方法は裁判上のみ——裁判外での行使は不可(債権者代位権との最重要な違い)
  • 期間制限:知った時から2年・行為から10年(426条)——超頻出、代位権には期間制限なし
  • 離婚に伴う財産分与は原則詐害行為にならないが、不当に過大な場合は詐害行為となる(最判平12.3.9)
5

詐害行為の類型(相当対価処分・特定債権者への弁済)

424条の2・424条の3

簡単にいうと

「相場通りの値段で売ったなら詐害行為にならないんじゃないの?」——原則そうだけど例外あり。特定の債権者だけへの弁済や担保供与も要注意だよ。

詐害行為の成否は行為の類型によって判断が異なります。民法は主要な場面を条文で明確にしています。

相当対価を得てした財産処分(424条の2)については、原則として詐害行為にはなりません。なぜなら、相当な対価で売却すれば財産が減少しないからです(現金という別の財産が入ってくる)。ただし、次の3要件が全て揃う場合は例外的に詐害行為となります。すなわち、①その行為が、不動産の金銭への換価など「隠匿・費消しやすい財産への変換」であること、②行為当時に債務者がその行為が将来的に隠匿等の処分をする意図を有していたこと(当時の詐害意思)、③受益者が債務者の意図を知っていたこと(悪意)です。典型例は、土地を売ってその代金を隠してしまう場合で、土地は差し押さえやすいが現金は隠しやすいため詐害性が認められるのです。

特定の債権者への担保供与・弁済(424条の3)については、複数の債権者がいる中で、一部の債権者にだけ債務の消滅を図る(弁済・担保供与)行為の詐害性が問題になります。原則として弁済は正当な行為であり詐害行為にはなりませんが、①既存の債務について担保を供与しまたは弁済をした、かつ②当該行為が既存の債務以外の義務を生じさせるものであって債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図を有していた場合(424条の3第1項2号・2項)には詐害行為となります。過大な代物弁済(債務額を超える財産を代物弁済として供与する場合)については、超過部分に詐害行為取消しを認める条文(424条の4)も存在します。

具体例

Bが唯一の資産である土地を相当価格でCに売却し、得た現金を隠匿しようとした。Bは売却時から隠匿の意図があり、Cもそれを知っていた。この場合、424条の2の例外として詐害行為取消権を行使できる。

ポイント整理

  • 【相当対価処分・例外的詐害行為の要件】
  • ①隠匿しやすい財産への変換(不動産→現金等)
  • ②行為当時の債務者の隠匿意図
  • ③受益者がその意図を知っていたこと(悪意)
  • 【特定債権者への弁済・詐害行為の要件】
  • ④既存の債務に対する担保供与または弁済であること
  • ⑤債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図を有していたこと

効果

  • 相当対価処分は原則詐害行為にならない(例外3要件充足で詐害行為)
  • 特定債権者への弁済は原則詐害行為にならない(通謀的害意がある場合のみ詐害行為)
  • 過大な代物弁済は超過部分について詐害行為取消し可(424条の4)

条文(第424条の2・424条の3条)

第424条の2(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について詐害行為取消請求をすることができる。一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

行為の類型
原則
例外(詐害行為となる場合)
相当対価での財産処分
詐害行為でない
①換価しやすい財産への変換+②隠匿意図+③受益者の悪意(424条の2)
特定債権者への弁済
詐害行為でない
債務者・受益者の通謀的害意がある場合(424条の3第1項2号)
過大な代物弁済
超過部分は詐害行為
超過部分について取消可(424条の4)
無償行為(贈与など)
詐害行為となる
善意の受益者のみ取消不可(424条1項但書)

重要メモ

  • 「相当対価処分は原則セーフ、3要件が揃って初めて詐害行為になる」
  • 相当対価処分が例外的に詐害行為となる3要件(424条の2):①隠匿しやすい財産への換価(不動産→現金等)+②行為当時の債務者の隠匿意図+③受益者がその意図を知っていた(悪意)——3つ全て必要
  • 特定債権者への弁済は原則詐害行為にならない——弁済は正当な義務履行だから
  • 特定債権者への弁済が詐害行為となる例外(424条の3):①支払不能時の弁済・担保供与+②債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図——通謀的害意がポイント
  • 過大な代物弁済:超過部分について詐害行為取消し可(424条の4)——債務500万円に対して800万円の土地なら300万円部分が対象
  • 弁済期前の代物弁済:過大かどうかを問わず詐害行為となりうる(424条の3第2項)——盲点の論点
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詐害行為取消権の行使方法と効果

424条の6・424条の8・424条の9・425条・426条

簡単にいうと

詐害行為取消権を行使して財産を取り戻したとき、その財産は誰のもの?転得者がいたらどうなるの?——効果のルールも整理しておこう。

詐害行為取消権は、裁判上のみで行使できます(424条1項)。これは代位権と異なる重要な違いで、必ず訴訟を提起しなければなりません。被告は受益者または転得者です(424条の7)。

行使の範囲については、424条の8により、債権者は被保全債権額の範囲内でのみ取消しを請求できます。目的が金銭・動産の場合は、直接自己への引渡しを求めることができます(424条の9第1項)。目的が不動産の場合は、価額賠償(現物返還が不可能・困難な場合の金銭賠償)を求めることもできます(424条の6第2項)。

取消しの効果は相対効です(425条)。詐害行為の取消しは、全ての債権者の利益のためにその効力を生じます(425条)。ただし、その効果は「取消権を行使した債権者と受益者・転得者との間」でのみ生じ、債務者には直接的な効力は及びません。したがって、取り戻した財産は直ちに債権者のものになるわけではなく、債務者の責任財産として一般の債権者の引当てになります。

転得者がいる場合のルールも重要です(424条の5)。転得者(受益者からさらに取得した者)に対しても、全ての転得者が悪意である場合にのみ取消権を行使できます。転得者の一人でも善意であれば、その後の転得者に対しては取消権を行使できません。

受益者・転得者の地位については、取消しが認められた場合、受益者が反対給付(売買代金等)を既にしていれば、債務者に対して反対給付の返還を求めることができます(425条の2)。

行使期間は426条で定められており、債権者が詐害行為を知った時から2年、または行為の時から10年で消滅します(出訴期間)。

具体例

AはBに1,000万円の債権を持つ。Bは土地(時価1,500万円)をCに贈与し(詐害行為)、さらにCはDに転売した。DがBの詐害意思を知っていた(悪意)場合、AはDに対し詐害行為取消権を行使できる。DがCの悪意を知らなかった(善意)場合は取消不可。

ポイント整理

  • ①必ず裁判上(訴訟提起)で行使すること
  • ②受益者または転得者を被告とすること
  • ③転得者に対しては全ての転得者が悪意であること(424条の5)
  • ④行使範囲は被保全債権額の範囲内(424条の8)

効果

  • 詐害行為の取消し(効果は相対効:425条)
  • 金銭・動産は直接自己への引渡しを求めることができる(424条の9第1項)
  • 現物返還が困難な場合は価額賠償を求められる(424条の6第2項)
  • 取消しの効果は全債権者の利益のためのもの(425条)
  • 受益者は反対給付の返還を債務者に求めることができる(425条の2)
  • 行使期間:知った時から2年・行為から10年で消滅(426条)

条文(第424条の6・424条の8・424条の9・425条・426条条)

第425条(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。 第426条(詐害行為取消権の期間の制限)詐害行為取消権は、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から十年を経過したときも、同様とする。

比較項目
債権者代位権(423条)
詐害行為取消権(424条)
行使方法
裁判上・裁判外いずれも可
裁判上のみ(訴訟必須)
主観的要件
不要
債務者の詐害意思+受益者の悪意
無資力要件
必要(原則)
必要
行使範囲
被保全債権額の範囲内
被保全債権額の範囲内(424条の8)
効果
相対効(債務者は処分可)
相対効(425条)・全債権者に確定判決の効力
期間制限
なし
知った時から2年・行為から10年(426条)
被告
第三債務者(代位行使の相手)
受益者または転得者

重要メモ

  • 「詐害行為取消権は裁判上のみ・受益者/転得者の善悪で結論が変わる・2年/10年の期間制限」の3点セット
  • 行使方法:裁判上のみ(424条1項)、被告は受益者または転得者
  • 受益者・転得者への行使可否:受益者悪意+転得者悪意→両方に行使可/受益者悪意+転得者善意→受益者のみ(価格賠償)/受益者善意→いずれに対しても行使不可
  • 転得者への取消しは「全ての転得者が悪意」の場合のみ可——一人でも善意がいれば以後の転得者に対しては取消不可(424条の5)
  • 取消しの効果は相対効(425条)——確定判決は債務者及び全ての債権者に及ぶ(全債権者の利益のための制度)
  • 金銭・動産は直接自己への引渡し請求OK(424条の9)、不動産は価額賠償も選択可(424条の6第2項)
  • 受益者が反対給付を既にしていた場合、債務者に反対給付の返還を求めることができる(425条の2)
  • 期間制限:知った時から2年・行為から10年(426条)——出訴期間(除斥期間)

まとめ

テーマ
ポイント
注意点
責任財産
強制執行の対象となる債務者の財産総体
差押禁止財産(給料の4分の3等・年金等)は含まれない
債権者代位権(要件・行使)
①保全の必要②一身専属権でない③差押禁止でない④履行期到来⑤強制執行可能⑥権利不行使
保存行為は履行期前でも可。可分なら被保全債権額の限度内。裁判外行使可
債権者代位権(転用型)
特定債権保全のため。登記請求権代位は423条の7に明文化
無資力不要。登記代位は直接自己名義への移転不可(まず債務者名義に)
詐害行為取消権(要件)
詐害行為前の原因による金銭債権保全。債務者の詐害意思+受益者の悪意(原則)
無償行為は受益者善意でも取消可。行使期間:知った時から2年・行為時から10年
受益者・転得者の善悪
受益者悪意→取消可。受益者善意→転得者が悪意でも取消不可(受益者善意で遮断)
取消判決の効果は全債権者に及ぶ(425条・絶対的効力)
両者の比較
行使方法:代位権は裁判外可、取消権は裁判上のみ
代位権は権利不行使への対応、取消権は財産減少行為への対応

関連判例

離婚に伴う財産分与の詐害行為該当性

最判昭58.12.19

債務超過という一事だけでは詐害行為にならない。特段の事情(不相当に過大 かつ 財産分与に仮託した財産処分)が必要 詐害行為として取り消せるのは不相当に過大な部分に限られ、財産分与全体が取り消されるわけではない 注意:相続放棄は身分行為として詐害行為の対象にならないが、遺産分割協議は財産権を目的とする行為として対象となる(最判平11.6.11)との対比を押さえること 離婚慰謝料の合意については別途基準があり、負担すべき損害賠償額を超えた部分が詐害行為の対象となる(最判平12.3.9) 民法424条2項「財産権を目的としない行為には適用しない」との関係で、財産分与の身分行為的性質と財産的性質の両面を理解しておくこと

特定債権保全のための詐害行為取消権

最大判昭36.7.19

詐害行為取消権の被保全債権の原則は金銭債権 特定物引渡請求権でも、目的物が処分されて無資力になった場合は被保全債権になりうる(例外) 理由:特定物債権も最終的には損害賠償債権(金銭債権)に転化しうるから、一般財産による担保が必要な点は金銭債権と同じ 大法廷判決である点に注目(小法廷ではなく大法廷が判断した重要判例) 不動産の二重譲渡で第一買主が詐害行為取消権を使うケースの典型例(登記を備えられなかった買主が詐害行為取消で対抗するルート) 対比:単純な二重譲渡で第二買主が登記を備えた場合、第一買主は原則として第二の売買を詐害行為として取り消せない(本判決は無資力要件が満たされた場合に限り例外を認めた)

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