第2節 債権の効力
第3章 債権法
債権とは、特定の人に対して一定の行為(給付)を請求できる権利です。この節では、債権者が債務者に対して持つ権利をどのように実現するか、債務者が約束を守らない場合(債務不履行)にどう対応するか、そして損害賠償・過失相殺・金銭債務の特則など実践的なルールを学びます。また、債権者代位権・詐害行為取消権による責任財産の保全、同時履行の抗弁権についても押さえましょう。試験最頻出分野です。
債務不履行の3類型
415条簡単にいうと
お金を払う約束を守らない、物を渡せない、渡したけど欠陥品だった。債務不履行には大きく3つのパターンがある。
債務不履行とは
債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った履行をしないことをいいます。約束どおりに履行されなかった、という状態をまとめて指す言葉です。
3つの型
第1は履行遅滞です。履行することはできるのに、履行期を過ぎても履行されていない場合をいいます。売主が引渡しを忘れていた、という場面です。
第2は履行不能です。目的物が焼失するなどして、履行そのものができなくなった場合をいいます。渡せなくなった、という場面です。
第3は不完全履行です。履行はされたものの、その内容が債務の本旨に適合していない場合をいいます。渡された物が壊れていた、という場面です。
どの型にあたるかで、解除に催告が要るかどうかなどの結論が変わってきます。
効果
債務不履行があると、債権者は損害の賠償を請求できます(415条1項本文)。このほか、履行の強制を裁判所に請求することもできますし(414条1項)、契約を解除することもできます(541条・542条)。
帰責事由がないときは賠償できない
もっとも、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、損害賠償を請求できません(415条1項但書)。
地震で建物が倒壊したために引き渡せなくなった、というように債務者に落ち度がない場合まで賠償させるのは酷だからです。
なお、帰責事由がないことは債務者の側で主張立証することになります。債権者が債務者の落ち度を証明しなければならないわけではありません。
具体例
AがBに対して代金100万円で車を売る契約を締結した。①Bが代金を期日に支払わなかった(履行遅滞)、②車が引渡し前に全焼した(履行不能)、③引き渡した車にエンジン不良の欠陥があった(不完全履行)。
ポイント整理
- ・有効な債権・債務が存在すること
- ・債務の本旨に従った履行がされていないこと
- ・債務者に帰責事由(故意・過失)があること(原則)
- ・損害が発生していること(損害賠償請求の場合)
効果
- ・損害賠償請求権の発生(415条)
- ・強制履行の請求(414条)
- ・契約の解除権の発生(541条・542条)
- ・危険負担の移転に影響
条文(415条)
(債務不履行による損害賠償)第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
重要メモ
- ・3つの型で解除に催告が要るかどうかが変わる点に注意
- ・履行遅滞は履行できるのに遅れている、履行不能は履行できなくなった、不完全履行は内容が不十分
- ・415条1項本文: 債務不履行があれば損害の賠償を請求できる
- ・415条1項但書: 債務者の責めに帰することができない事由によるときは請求できない
- ・帰責事由がないことは債務者の側が主張立証する
履行遅滞
412条簡単にいうと
「払います」と約束したのに、期日を過ぎても払わない。これが履行遅滞。いつから「遅滞」になるかは、債務の種類によってルールが違う。
いつから遅滞になるか
履行遅滞で問題になるのは、いつから遅滞になるのかです。遅滞に陥った時から損害賠償や解除の話が始まるため、起算点が重要になります。
民法412条は、債務の種類に応じて3つに分けています。
確定期限のある債務
その期限が到来した時から遅滞となります(412条1項)。「5月1日に支払う」という約束であれば、その日が来た時点で遅滞です。債権者から催告をする必要はありません。
不確定期限のある債務
不確定期限とは、いつか必ず来るけれども、いつ来るか分からない期限です。「私が死んだらこの時計をあげる」という約束がこれにあたります。
この場合は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時、または債務者がその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞となります(412条2項)。
期限の定めのない債務
債権者から履行の請求を受けた時から遅滞となります(412条3項)。期限を決めていないのだから、請求されるまでは遅れようがない、という考え方です。
遅滞に陥るとどうなるか
損害の賠償を請求され(415条1項)、契約を解除される可能性があります(541条)。
さらに、遅滞の責任を負っている間に、当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行が不能となったときは、その不能は債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなされます(413条の2第1項)。
5月1日に引き渡すはずの建物を忘れていて、5月10日に落雷で焼失した、という場面です。落雷そのものに売主の落ち度はありませんが、遅滞していなければ焼失を免れたはずなので、売主が損害賠償の責任を負います。
具体例
2月1日を返済期日として100万円を貸した場合、2月1日の到来時点で債務者は遅滞に陥る(確定期限)。「Aが死亡したら返済する」という約束でAが死亡した場合、その後に債権者から請求があった時か、債務者がAの死亡を知った時の早い方から遅滞となる(不確定期限)。
ポイント整理
- ・有効な債権・債務の存在
- ・債務の履行が可能であること
- ・弁済期(履行期)が到来していること
- ・債務者の帰責事由(故意・過失)があること
効果
- ・損害賠償請求権の発生(遅延損害金を含む)
- ・解除権の発生(催告解除:541条)
- ・遅滞中の履行不能について債務者が責任を負う(413条の2第1項)
条文(412条)
(履行期と履行遅滞)第412条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
重要メモ
- ・確定期限のある債務は催告なしに期限到来で遅滞になる点に注意
- ・412条1項: 確定期限のある債務は期限が到来した時から
- ・412条2項: 不確定期限のある債務は、請求を受けた時か期限の到来を知った時の早いほう
- ・412条3項: 期限の定めのない債務は履行の請求を受けた時から
- ・413条の2第1項: 遅滞中に双方無帰責で履行不能になれば、債務者の帰責事由とみなされる
履行不能
412条の2簡単にいうと
売るはずだった家が火事で全焼した。もう履行できない。これが履行不能。物理的に無理な場合だけじゃなく、社会通念上「無理」とされる場合も含む。
履行不能とは
履行不能とは、債務の履行ができなくなった場合をいいます。建物が焼失して引き渡せなくなった、という場面が典型です。
物理的に履行できない場合だけではありません。債務の履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして不能であるときも履行不能として扱われます(412条の2第1項)。
二重譲渡の場合
不動産が二重に譲渡され、第2買主が先に登記を備えた場合、第1買主への引渡債務は原則として履行不能になります(最判昭35.4.21)。
物理的には建物も土地もそこにありますが、登記を備えた第2買主が所有者として確定した以上、第1買主に引き渡すことは社会通念上できません。これが社会通念に照らして不能という場面の代表例です。
効果
履行が不能であるときは、債権者はその債務の履行を請求することができません(412条の2第1項)。できないことを求めても意味がないからです。
債務者に帰責事由があれば、債権者は損害の賠償を請求できます(415条1項)。また、履行の全部が不能であるときは、債権者は催告をすることなく直ちに契約を解除できます(542条1項1号)。催告をしても履行される見込みがないからです。
契約の時にすでに不能だった場合
契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったとしても、そのことは損害賠償の請求を妨げません(412条の2第2項)。
最初から不能だった契約は当然に無効になる、という扱いはされません。契約は成立したうえで、履行不能の問題として処理されます。
具体例
AがBに甲土地を売却したが引渡し前に甲土地が収用されてしまった場合(物理的・法的不能)。不動産の二重譲渡でBが先に登記を備えた場合、先行するAへの引渡債務は社会通念上履行不能となる。

履行不能の成立要件と効果
ポイント整理
- ・有効な債権・債務の存在
- ・契約・社会通念に照らして債務の履行が不能であること
- ・債務者に帰責事由があること(損害賠償の場合)
効果
- ・履行請求権の消滅(412条の2第1項)
- ・損害賠償請求権の発生(415条1項)
- ・催告なしの解除権(542条1項1号)
- ・反対給付請求の存否(536条1項・2項)
条文(412条の2)
(履行不能)第412条の2 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
重要メモ
- ・物理的な不能だけでなく社会通念に照らした不能も含まれる点に注意
- ・412条の2第1項: 社会通念に照らして不能なら履行を請求できない
- ・二重譲渡で第2買主が登記を備えれば、第1買主への引渡債務は履行不能になる(最判昭35.4.21)
- ・542条1項1号: 全部が履行不能なら催告なしに解除できる
- ・412条の2第2項: 契約成立時に不能であっても損害賠償の請求は妨げられない
不完全履行
415条簡単にいうと
一応は履行したけど、品質が悪かったり数量が足りなかったりした。これが不完全履行。「不良品を渡した」ケースが典型例。
不完全履行とは
不完全履行とは、履行はされたものの、その内容が債務の本旨に適合していない場合をいいます。
渡された物が壊れていた、数量が足りなかった、といった場面です。まったく履行されていない履行遅滞とも、履行できなくなった履行不能とも違い、「やったけれども不十分」という点に特徴があります。
追完できるかどうかで分かれる
不完全履行への対応は、やり直しができるかどうかで変わります。
追完が可能であれば、まず完全な履行を求めることになります。売買であれば、買主は目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しによる履行の追完を請求できます(562条1項)。
相当の期間を定めて追完を催告してもされないときは、代金の減額を請求でき(563条1項)、損害賠償の請求や契約の解除もできます(564条・541条)。
追完が不可能であれば、催告をしても意味がないため、催告なしに解除できます(542条)。
売買では契約不適合責任として扱われる
引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないものであるときの処理は、売買のところで契約不適合責任として詳しく学びます。
不完全履行という言葉は債務不履行の3類型を整理するための分類であり、実際の条文の適用は契約不適合責任の規定を通じて行われる、という関係になります。
具体例
Aが注文した建材100個のうち10個に亀裂があったまま引き渡した(数量・品質の不完全履行)。食品業者が消費期限切れ間近の食品を「新鮮」と偽って販売した(付随義務違反)。
ポイント整理
- ・有効な債権・債務の存在
- ・一応の履行行為があること
- ・履行内容が債務の本旨に適合していないこと
- ・債務者に帰責事由があること
効果
- ・追完請求権(追完可能な場合)
- ・代金減額請求(562条・563条準用)
- ・損害賠償請求権(415条)
- ・解除権(541条・542条)
条文(415条)
(債務不履行による損害賠償)第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
重要メモ
- ・履行はあったが内容が不十分という点で、遅滞とも不能とも違う
- ・追完が可能なら、修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しを請求できる(562条1項)
- ・催告しても追完されないときは代金の減額を請求できる(563条1項)
- ・追完が不可能なら催告なしに解除できる(542条)
- ・売買では契約不適合責任の規定によって処理される
損害賠償の範囲と方法
416条・417条簡単にいうと
債務不履行があったら損害を賠償してもらえる。でも、どんな損害でも全部もらえるわけじゃない。「通常損害」と「特別損害」でルールが違う。
どこまで賠償するのか
債務不履行があれば損害を賠償してもらえますが、どこまでの損害が対象になるのかが問題になります。因果関係をたどればいくらでも広がってしまうからです。
民法416条は、これを2段階に分けて定めています。
通常生ずべき損害
債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とします(416条1項)。
購入した建物が引き渡せなくなった場合であれば、履行不能になった時点の建物の価格が通常生ずべき損害にあたります。
特別の事情による損害
特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者はその賠償を請求することができます(416条2項)。
土地の引渡しが履行不能になった後に土地の価格が上がっていた場合、売主がその値上がりを予見すべきであったのであれば、買主は上がった後の価格を基準に賠償を請求できます。
予見すべきであったかどうかを判断する時点は、契約を結んだ時ではなく債務不履行の時です。過去問では「契約締結時に予見できなかったとしても、債務不履行時までに予見可能であったと認められるときは賠償しなければならない」と出題され、正しいとされました。
賠償の方法
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定めます(417条)。壊した物を直して返す、といった現物による賠償は、特約がなければ認められません。
過失相殺
債務の不履行またはこれによる損害の発生もしくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所はこれを考慮して、損害賠償の責任およびその額を定めます(418条)。
損害額が1,000万円でも債権者の過失が2割とされれば、賠償額は800万円に減らされます。責任そのものを否定することもできる点が、不法行為の過失相殺と違うところです。
具体例
売主Aが買主Bへの不動産引渡しを遅滞した。Bの通常損害は遅延期間中の利用不能による通常の損失。もしBが事前に転売契約を結んでいた場合の転売利益は特別損害であり、Aがその事情を知っていれば賠償対象となる。

損害賠償請求の仕組み
ポイント整理
- ・債務不履行の存在
- ・損害の発生
- ・債務不履行と損害の間の相当因果関係
- ・特別損害は当事者の予見可能性が必要(416条2項)
効果
- ・通常損害は相当因果関係の範囲で賠償(416条1項)
- ・予見可能な特別損害も賠償対象(416条2項)
- ・原則として金銭賠償(417条)
- ・債権者過失により賠償額が減額または免除(418条)
条文(416条・417条)
(損害賠償の範囲)第416条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。2 特別の事情によって生じた損害については、当事者がその事情を予見すべきであったときに限り、その賠償を請求することができる。(損害賠償の方法)第417条 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
重要メモ
- ・特別の事情を予見すべきだった時点は契約締結時ではなく債務不履行時である点に注意
- ・416条1項: 通常生ずべき損害が賠償の範囲になる
- ・416条2項: 特別の事情による損害は、当事者が予見すべきであったときに賠償される
- ・417条: 別段の意思表示がなければ金銭で賠償する
- ・418条: 債権者に過失があれば、裁判所は責任の有無と額を定めるにあたり考慮する
金銭債務の特則
419条簡単にいうと
お金を払う義務は特別扱い。「履行不能がない」「損害の証明が不要」「不可抗力は言い訳にならない」。金銭債務には独自の3つのルールがある。
金銭債務は別扱いになる
代金の支払のように、金銭の給付を目的とする債務を金銭債務といいます。物の引渡債務とは違う特別のルールが置かれています(419条)。
お金はどこにでもあり、誰が持っていても同じです。この性質から、ほかの債務とは違う扱いが正当化されます。
履行不能がない
金銭債務には履行不能がありません。常に履行遅滞の問題になります。
お金がない、経営が苦しい、といった事情があっても履行不能とは扱われません。世の中からお金が消えることはないので、調達してくれば履行できるはずだ、と考えるからです。
損害を証明しなくてよい
金銭債務の不履行による損害賠償については、債権者は損害の証明をすることを要しません(419条2項)。
通常であれば、いくらの損害が生じたのかを債権者が証明しなければなりません。しかし金銭債務では、遅れた分だけ利息相当額の損害が生じたと当然に扱われます。
その額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めます(419条1項本文)。ただし約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率によります(419条1項但書)。
不可抗力を理由にできない
金銭債務の不履行による損害賠償については、債務者は不可抗力をもって抗弁とすることができません(419条3項)。
支払期日に地震が起きて支払に行けなかったとしても、履行遅滞になります。物の引渡債務であれば帰責事由がないとして免れる場面でも、金銭債務では免れません。
具体例
AがBに100万円を貸した。Bが返済期日を過ぎても返済しない場合、Aは具体的損害の証明なしに法定利率(年3%)の遅延損害金を請求できる。Bが「コロナで仕事がなくなった」と主張しても、不可抗力として免責されない。
ポイント整理
- ・金銭の給付を目的とする債務であること
- ・弁済期が到来していること
- ・履行がないこと
効果
- ・履行不能は生じない(常に遅滞の問題となる)
- ・遅延損害金は法定利率・約定利率で算定(損害証明不要)
- ・不可抗力は免責事由とならない
条文(419条)
(金銭債務の特則)第419条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。3 第1項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
重要メモ
- ・不可抗力を理由に免れることができない点に注意
- ・金銭債務には履行不能がなく、常に履行遅滞の問題になる
- ・419条1項: 賠償額は遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率による
- ・419条2項: 債権者は損害の証明をしなくてよい
- ・419条3項: 債務者は不可抗力をもって抗弁とすることができない
損害賠償額の予定
420条簡単にいうと
「遅延したら1日1万円払う」という契約。これが損害賠償額の予定。裁判所はこの予定額を勝手に変えることができないのが重要ポイント。
賠償額をあらかじめ決めておく
当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができます(420条1項)。契約を結ぶ段階で「違反したら100万円」と決めておく、という形です。
決めておけば、実際に債務不履行があったときに損害額を証明する手間が省けます。争いになりにくいため、不動産の売買や業務委託の契約でよく使われます。
裁判所が介入できる
ここが改正で変わった部分です。かつては「裁判所はその額を増減することができない」という定めがありましたが、2017年の改正で削除されました。
現在は、予定額が高すぎる場合などに、裁判所がこれを無効としたり減額したりすることができます。公序良俗違反(90条)や、消費者契約法による制限がはたらく場面です。「裁判所は一切介入できない」という理解は現行法に合いません。
履行の請求や解除は妨げられない
賠償額の予定は、履行の請求または解除権の行使を妨げません(420条2項)。
賠償額を決めてあるからといって、「お金を払えばそれで終わり」ということにはなりません。債権者は、予定額を請求したうえで、なお履行を求めたり契約を解除したりできます。
違約金は賠償額の予定と推定される
違約金は、賠償額の予定と推定されます(420条3項)。
契約書に「違約金」と書かれていても、特に定めがなければ損害賠償額の予定として扱われます。推定なので、制裁として別に支払わせる趣旨(違約罰)であることを立証すれば、その扱いを覆すことはできます。
具体例
AとBが建築工事の請負契約を結び、「工期に遅れた場合は1日あたり10万円を支払う」と定めたとします。Bが10日遅れた場合、Aは実際の損害額を証明しなくても100万円を請求できます。もっとも、この額があまりに高すぎる場合には、裁判所がこれを無効としたり減額したりすることがあります。また、Aは100万円を請求したうえで、なお工事の完成を求めることもできます。
ポイント整理
- ・当事者間で損害賠償額の予定の合意があること
- ・債務不履行が発生したこと
効果
- ・債権者は損害額を証明しなくても予定額を請求できます(420条1項)
- ・予定額が高すぎる場合などには、裁判所が無効としたり減額したりできます
- ・賠償額の予定は、履行の請求や解除権の行使を妨げません(420条2項)
- ・違約金は賠償額の予定と推定されます(420条3項)
条文(420条)
第420条(賠償額の予定) 1 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。 2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。 3 違約金は、賠償額の予定と推定する。
重要メモ
- ・裁判所が予定額を無効としたり減額したりできる点に注意
- ・420条1項: 当事者は債務不履行について損害賠償の額を予定できる
- ・「裁判所は増減できない」という旧420条1項後段は2017年改正で削除された
- ・420条2項: 賠償額の予定は履行の請求や解除権の行使を妨げない
- ・420条3項: 違約金は賠償額の予定と推定される
強制履行
414条簡単にいうと
「払え」と言っても払わない。だったら裁判所の力を借りて無理やり履行させることができる。これが強制履行(強制執行)。
強制履行とは
債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができます(414条1項本文)。
損害賠償は「払ってもらって終わり」ですが、強制履行は約束の内容そのものを実現させる手段です。
3つの方法
直接強制は、執行機関が直接に債務の内容を実現する方法です。預金を差し押さえる、建物から退去させる、といった場面で使われます。最も直接的な方法です。
代替執行は、債務者以外の者に債務の内容を実現させ、その費用を債務者に負担させる方法です。建物を取り壊す債務のように、誰がやっても結果が同じ債務で使われます。
間接強制は、履行しない場合に一定の金銭を支払わせることを予告して、心理的に履行を促す方法です(民事執行法172条)。直接強制も代替執行もできない債務で使われます。
使えない場合
債務の性質がこれを許さないときは、強制履行を請求できません(414条1項但書)。
歌手に歌わせる、画家に絵を描かせるといった債務を力ずくで実現させることはできません。夫婦の同居義務のような身分に関わる義務も同じです。本人の意思を無視して実現させるのは行き過ぎだからです。
損害賠償と両立する
履行の強制を請求したからといって、損害賠償の請求が妨げられるわけではありません(414条2項)。
遅れたことによる損害は、履行してもらっても残ります。強制履行で目的物を手に入れたうえで、遅延による損害の賠償を求めることができます。
具体例
Aが貸したお金を返さないBに対して、Aは強制執行でBの預金を差し押さえることができる(金銭債務の直接強制)。建物の取壊し義務を履行しないBに対して、Aは代替執行で第三者に取り壊させてその費用をBに請求できる。
ポイント整理
- ・有効な債権・債務の存在
- ・債務者が任意に債務を履行しないこと
- ・強制履行が性質上可能であること(身分行為等は不可)
効果
- ・直接強制:国家機関が直接債務を実現
- ・代替執行:第三者が代わりに実行し費用を債務者負担
- ・間接強制:一定額の金銭支払命令で履行を促す
- ・損害賠償請求は妨げられない(414条2項)
条文(414条)
(履行の強制)第414条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。
重要メモ
- ・債務の性質が許さないときは強制履行できない点に注意
- ・414条1項本文: 直接強制・代替執行・間接強制その他の方法を裁判所に請求できる
- ・直接強制は執行機関が直接実現、代替執行は第三者に実現させ費用を負担させる方法
- ・間接強制は金銭の支払を予告して心理的に履行を促す方法(民事執行法172条)
- ・414条2項: 履行の強制を請求しても損害賠償の請求は妨げられない
受領遅滞
413条簡単にいうと
約束どおり持っていったのに、相手が受け取らない。これが受領遅滞。債権者が受け取りを拒んでいる状態で、どちらがリスクを負うかがポイント。
受領遅滞とは
債権者が債務の履行を受けることを拒み、または受けることができない場合を受領遅滞といいます。売主が建物を引き渡そうとしたのに買主が受け取らない、という場面です。
債務者は履行しようとしているのに完了できないため、そのまま放置すると債務者に負担が残ります。そこで民法は債務者の負担を軽くする扱いを置いています。
保存義務が軽くなる
その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足ります(413条1項)。
本来は善良な管理者の注意が必要でしたが(400条)、受領を拒まれている以上、自分の物と同じ程度の注意で足りる、という扱いに下がります。
増えた費用は債権者が負担する
債権者が履行を受けることを拒み、または受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は債権者の負担となります(413条2項)。
受け取ってもらえないために保管料がかさんだ、という場合の増加分は債権者が持ちます。
その後に履行不能になった場合
債権者が履行を受けることを拒み、または受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなされます(413条の2第2項)。
受け取ってもらえないまま預かっていた建物が落雷で焼失した、という場面です。誰にも落ち度はありませんが、受領を拒んでいた債権者の側に帰責事由があるものとして扱われます。
その結果、債権者は反対給付である代金の支払を拒むことができなくなります(536条2項)。
具体例
AがBに引き渡すべき特定の絵画を持参したが、Bが「今は受け取れない」と拒否した。その後、地震で絵画が損壊した場合、この危険はBが負う(債権者帰責の履行不能として扱われる)ため、BはAに代金を支払わなければならない。
ポイント整理
- ・債務者が有効に履行の提供(弁済の提供)をしたこと
- ・債権者が受領を拒否または受領できない状態にあること
効果
- ・債務者の保存義務の軽減(善管注意義務→自己財産同一注意義務:413条1項)
- ・増加費用は債権者負担(413条1項後段)
- ・受領遅滞後の履行不能は債権者帰責とみなされる(413条2項)
- ・危険の移転(債権者が危険を負担:567条1項類推)
条文(413条)
(受領遅滞)第413条 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。この場合においては、履行の費用の増加額は、債権者の負担とする。2 債務者が履行の提供をした時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
重要メモ
- ・受領を拒んだ後の双方無帰責の不能は債権者の帰責事由とみなされる点に注意
- ・413条1項: 特定物の保存義務が自己の財産に対するのと同一の注意に下がる
- ・413条2項: 増加した履行の費用は債権者の負担になる
- ・413条の2第2項: 提供後に双方無帰責で不能になれば債権者の帰責事由とみなす
- ・その結果、債権者は反対給付の履行を拒むことができない(536条2項)
第三者のためにする契約
537条簡単にいうと
AとBが契約して、その利益をCに与える。第三者Cに直接権利を取得させる「第三者のためにする契約」。Cが受益の意思表示をして初めて権利が確定する。
第三者のためにする契約とは
契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有します(537条1項)。これを第三者のためにする契約といいます。
生命保険が分かりやすい例です。保険契約者と保険会社が契約を結びますが、保険金を受け取るのは契約当事者ではない受取人です。
契約のときに第三者がいなくてもよい
この契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合、または第三者が特定していない場合であっても、そのために効力を妨げられません(537条2項)。
まだ生まれていない子を受取人にする、という形でも契約は有効に成立します。
権利はいつ発生するか
第三者の権利は、その第三者が債務者に対して契約の利益を享受する意思を表示した時に発生します(537条3項)。これを受益の意思表示といいます。
契約が結ばれただけでは、第三者の権利はまだ発生していません。
発生した後は変更できない
第三者の権利が発生した後は、当事者はこれを変更し、または消滅させることができません(538条1項)。
受益の意思表示をする前であれば、契約の当事者どうしで内容を変えたり契約をやめたりできます。しかし意思表示がされた後は、第三者の権利が確定しているため勝手に動かせません。
さらに、第三者の権利が発生した後に債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ契約を解除することができません(538条2項)。
債務者は抗弁を主張できる
債務者は、537条1項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができます(539条)。
契約の相手方が自分の債務を果たしていないのであれば、そのことを理由に第三者への給付を拒めます。第三者だからといって、契約から切り離された強い立場になるわけではありません。
具体例
生命保険契約:保険会社(諾約者)と契約者A(要約者)が保険契約を締結し、受取人B(受益者)を指定する。BがAの死後に受益の意思表示をすると、BはAの遺産とは別に直接保険会社に保険金を請求できる(537条1項)。
ポイント整理
- ・要約者と諾約者との間の有効な契約の存在
- ・第三者(受益者)に給付をする旨の合意
- ・第三者が受益の意思表示をすること(権利確定のため)
効果
- ・第三者は諾約者に対して直接の請求権を取得(537条1項)
- ・受益の意思表示後は当事者は第三者の同意なく契約変更・消滅不可(537条3項)
- ・諾約者は基本契約の抗弁を第三者に対抗可能(539条)
- ・第三者は要約者に対して直接の請求権は持たない
条文(537条)
(第三者のためにする契約)第537条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。3 第1項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
重要メモ
- ・第三者の権利は受益の意思表示をした時に発生する点に注意
- ・537条1項: 第三者は債務者に対して直接に給付を請求する権利を有する
- ・537条2項: 契約の成立時に第三者が存在せず、特定していなくても効力を妨げられない
- ・537条3項: 第三者の権利は受益の意思表示をした時に発生する
- ・538条1項: 権利の発生後は当事者が変更したり消滅させたりできない
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