第1節 債権の意義
第3章 債権法
債権とは、特定の人が他の特定の人に対して一定の行為を請求できる権利です。この節では、債権の発生原因(契約・不法行為等)と物権との違いを理解し、債権の種類(特定物債権・種類債権・利息債権)とその法的性質を学びます。債権法全体の入口として、基本的な構造をしっかり押さえましょう。
債権・債務とは何か
399条簡単にいうと
債権は、特定の人に対して一定の行為を求められる権利です。その裏側で義務を負うのが債務者で、2つは必ずセットで生まれます。
債権と債務はセットで生まれる
債権とは、特定の人が他の特定の人に対して、一定の行為を請求することができる権利です。請求される側が負う義務を債務といいます。
AがBに土地を1,000万円で売る契約をすると、Aには代金を請求する債権が、Bには土地の引渡しを請求する債権が生まれます。同時にAは土地を引き渡す債務を、Bは代金を支払う債務を負います。1つの契約から4つの権利義務が同時に生まれる、という見方ができます。
発生原因は2つ
第1は契約です。売買・贈与・消費貸借・賃貸借・請負・委任など、当事者の合意によって債権が生まれます。
第2は契約以外です。不法行為(709条)が代表例で、暴行を受けた被害者は加害者に対して損害賠償を請求する債権を取得します。このほか事務管理や不当利得でも契約なしに債権が生まれます。
物権との違い
物権は誰に対しても主張できますが、債権は特定の相手にしか主張できません。
そのため、物権と債権が対立した場合には原則として物権が優先します。Aが所有する車をBに貸していたところ、Aがその車をCに売ったとします。Bは賃借権という債権しか持っていないので、所有権という物権を取得したCから「返せ」と言われれば返さなければなりません。
これを「売買は賃貸借を破る」と表現することがあります。先に賃貸借契約があっても、後からの売買が勝つということです。
例外がある
ただし、住むために土地や建物を借りている場合には、借地借家法によって借主を守る特別のルールが置かれています。この場合は賃借人が対抗できることがあります。詳しくは賃貸借のところで扱います。
具体例
AがBに土地を1,000万円で売ったとします。Aは代金1,000万円を請求する債権を持ち、Bは土地の引渡しを請求する債権を持ちます。これに対し、AがCに暴行を加えた場合は、契約がなくてもCはAに対して損害賠償を請求する債権を取得します(709条)。

債権・債務の発生
ポイント整理
- ・特定の債権者が特定の債務者に対して一定の行為を請求できること
- ・発生原因は、契約と、不法行為・事務管理・不当利得などの契約以外のものに分かれること
効果
- ・債権者は債務者に対して給付を請求できます
- ・債権は特定の相手にしか主張できません
- ・物権と債権が対立したときは、原則として物権が優先します
条文(399条)
第399条 債権は、金銭に見積もることができないものであっても、その目的とすることができる。
重要メモ
- ・物権と債権が対立したときは原則として物権が優先する点に注意
- ・債権は特定の相手にしか主張できない。物権は誰に対しても主張できる
- ・発生原因は、契約と、不法行為・事務管理・不当利得などの契約以外のもの
- ・「売買は賃貸借を破る」。後からの売買が先の賃貸借に勝つ
- ・借地借家法によって賃借人が保護される場合がある
特定物債権
400条・483条簡単にいうと
この中古車を売る、と物を決めて取引した場合の債権です。代わりがきかないので、引き渡すまで大切に保管する義務が生まれます。
特定物債権とは
物の引渡しを求める債権のうち、物の個性に着目して取引した場合に生じるものを特定物債権といいます。中古車、絵画、特定の土地や建物のように、ほかの物では代えられない物が対象です。
「あの赤い中古車が欲しい」と言って買うのであれば、その1台でなければ意味がありません。世の中にそれしかない物を目的とする債権だ、と捉えると分かりやすくなります。
滅失すれば履行不能
目的物が滅失した場合、代わりの物がないため履行不能となります。別の中古車を持ってきても契約を果たしたことになりません。
善管注意義務
債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもってその物を保存しなければなりません(400条)。これを善管注意義務といいます。
自分の物であれば雑に扱っても自由ですが、他人に引き渡す物なので、自分の物以上に注意して扱いなさい、という意味です。代わりがきかない物だからこそ課される義務です。
この義務に違反して物を傷つければ、債務不履行として損害賠償の責任を負います(415条)。
債権者が受け取らない場合
もっとも、債権者が受領を拒んだり受け取れなかったりしたときは、債務者は履行の提供をした時から引渡しまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって保存すれば足ります(413条1項)。注意の水準が1段下がります。
品質が決まらない場合
引き渡すべき品質は、契約や取引上の社会通念によって決まります。それでも定めることができないときは、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければなりません(483条)。
中等の品質の物を用意する必要はありません。現状のまま渡せばよい、という点が種類債権との違いになります。
所有権の移転時期
特定物の所有権は、原則として契約が成立した時に移転します。引渡しを待つ必要はありません。
具体例
Aが所有する中古車をBに売ったとします。引渡しまでの間、Aは善良な管理者の注意をもってその車を保管しなければなりません。Aが不注意で傷つければ損害賠償の責任を負います。もっともBが受取りを拒んでいる場合は、Aは自己の財産に対するのと同一の注意で保存すれば足ります。また、引き渡すべき品質が決まらないときは、引渡しの時の現状のまま渡せばかまいません。

特定物債権の仕組み
ポイント整理
- ・物の個性に着目して取引されたこと
- ・債務者は引渡しまで善良な管理者の注意をもって保存すること(400条)
- ・債権者が受領しないときは、自己の財産に対するのと同一の注意で足りること(413条1項)
効果
- ・目的物が滅失すれば履行不能となります
- ・善管注意義務に違反すれば損害賠償の責任を負います(415条)
- ・品質を定められないときは、引渡しの時の現状で引き渡します(483条)
- ・所有権は原則として契約の成立時に移転します
条文(400条・483条)
第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
重要メモ
- ・品質が定まらないときは現状のまま引き渡せばよい点に注意
- ・400条: 引渡しまで善良な管理者の注意をもって保存する
- ・413条1項: 債権者が受領しないときは自己の財産に対するのと同一の注意で足りる
- ・483条: 品質を定められないときは、引渡しの時の現状で引き渡す
- ・所有権は契約の成立時に移転し、滅失すれば履行不能になる
不特定物債権(種類債権)と特定
401条簡単にいうと
新車を1台、のように種類と数量だけ決めて取引した場合の債権です。どの1台かが決まる「特定」の瞬間で扱いが変わります。
不特定物債権とは
物の引渡しを求める債権のうち、物の個性に着目せず、種類と量を指示して取引した場合に生じるものを不特定物債権といいます。種類債権ともいいます。新車、米、灯油のように、同じ物が市場にいくらでもある場合です。
特定する前
特定する前は、目的物が滅失しても履行不能になりません。債務者は代わりの物を調達して引き渡す義務を負います。在庫が焼けても、別のところから同じ物を手に入れて渡すことになります。
そして、まだどれを引き渡すか決まっていないので、債務者は善管注意義務を負いません。所有権も移転していません。
品質について当事者が決めていない場合は、中等の品質を有する物を給付しなければなりません(401条1項)。一番よい物である必要も、一番悪い物でよいわけでもありません。
特定の要件
どこかの時点で「これを引き渡す」と決まらなければ引渡しができません。これを特定といい、2つの場合に生じます(401条2項)。
1つは、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了したときです。もう1つは、債権者の同意を得て給付すべき物を指定したときです。
債務者が債権者のところまで持参する約束であれば、持参して提供したときに特定します。債権者が債務者のところまで取りに行く約束であれば、債務者が目的物を準備し、ほかの物と分離して、債権者に通知したときに特定します。
特定した後
特定した後は、特定物債権と同じ扱いになります。善管注意義務が生じ、目的物が滅失すれば履行不能となり、調達義務もなくなります。所有権も特定の時に移転するのが原則です。
特定の前後で結論が入れ替わるため、どの時点の話なのかを必ず確認する必要があります。
具体例
AがBに新車を1台売る契約をしたとします。Aが車を用意する前に工場の在庫がすべて焼失しても、Aは別の販売店から調達してBに引き渡さなければなりません。これに対し、AがBの指定した場所に車を持参して提供した時点で特定が生じます。その後に車が盗まれた場合は履行不能となり、Aは代わりの車を用意する義務を負いません。

不特定物債権(種類債権)の分類
ポイント整理
- ・物の個性に着目せず、種類と量を指示して取引したこと
- ・特定: 債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了したこと(401条2項)
- ・特定: または債権者の同意を得て給付すべき物を指定したこと(401条2項)
効果
- ・特定する前は、滅失しても代わりの物を調達して引き渡す義務を負います
- ・特定する前は善管注意義務を負わず、所有権も移転しません
- ・特定した後は善管注意義務が生じ、滅失すれば履行不能となります
- ・品質の定めがないときは中等の品質の物を給付します(401条1項)
条文(401条)
第401条(種類債権) 1 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。 2 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。
重要メモ
- ・特定の前と後で結論が入れ替わる点に注意
- ・特定前は調達義務があり、善管注意義務はなく、所有権も移らない
- ・401条2項: 給付に必要な行為を完了したとき、または債権者の同意を得て指定したときに特定する
- ・持参する約束なら提供した時、取りに来る約束なら準備・分離・通知の時に特定する
- ・401条1項: 品質の定めがないときは中等の品質の物を給付する
利息債権と法定利率
404条・405条・419条・589条簡単にいうと
お金を貸しただけでは利息を請求できません。利息を取るという合意が別に必要です。合意がないときに使う法定利率は年3パーセントです。
利息には合意が要る
民法では、お金を貸す契約をしただけでは利息を請求することができません。利息を取るという意思表示が別に必要です。
貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができないと定められています(589条1項)。タダで貸すのが民法の出発点だ、と捉えておきます。
なお、商人の間で金銭の消費貸借をしたときは、貸主は法定利息を請求することができます(商法513条)。民法とは出発点が逆になります。
法定利率は年3パーセント
利率について当事者が決めていれば、その約定利率によります。決めていない場合や、法律が法定利率によると定めている場合には、法定利率が使われます。
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときの法定利率は、年3パーセントです(404条1項・2項)。
この法定利率は固定ではなく、3年を1期として見直される変動制になっています(404条3項)。
遅れたときの損害賠償
金銭債務の履行が遅れた場合の損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって決まります(419条1項)。
途中で法定利率が変わっても、その時点の利率で固定されます。後から利率が上がったり下がったりしても影響しません。
利息を元本に組み入れる
利息の支払が1年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても債務者がその利息を支払わないときは、債権者はこれを元本に組み入れることができます(405条)。
組み入れられた分には、その後さらに利息が付きます。1年分以上の延滞と催告の2つがそろって初めて認められる、という点を押さえます。
具体例
AがBに100万円を貸したとします。利息を取る合意をしていなければ、Aは利息を請求できません(589条1項)。一方、Bが返済期日に返さなかった場合は、Bが遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率、つまり年3パーセントで遅延損害金が発生します(419条1項・404条2項)。また、利息の支払が1年分以上延滞し、Aが催告してもBが支払わないときは、Aはその利息を元本に組み入れることができます(405条)。
ポイント整理
- ・利息を請求するには特約が必要であること(589条1項)
- ・約定利率がないときは法定利率によること(404条1項)
- ・元本への組入れには、1年分以上の延滞と催告が必要であること(405条)
効果
- ・特約がなければ利息を請求できません(589条1項)
- ・法定利率は年3パーセントで、3年を1期として変動します(404条2項・3項)
- ・金銭債務の遅延損害金は、遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率で決まります(419条1項)
- ・1年分以上延滞し催告しても支払わないときは、利息を元本に組み入れられます(405条)
条文(404条・405条・419条・589条)
第404条第2項(法定利率)法定利率は、年三パーセントとする。
重要メモ
- ・利息は特約がなければ請求できない点に注意
- ・589条1項: 貸主は特約がなければ利息を請求できない
- ・404条2項・3項: 法定利率は年3パーセントで、3年を1期として変動する
- ・419条1項: 遅延損害金は遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率で固定される
- ・405条: 1年分以上の延滞と催告があれば、利息を元本に組み入れられる
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