第7節 担保物権
第2章 物権法
担保物権とは、債権の確実な回収を目的として、債務者や第三者の財産を担保とする物権です。金銭の貸し借りなど取引の安全を守る重要な制度で、試験では抵当権を中心に頻出します。留置権・先取特権・質権・抵当権の4つを体系的に理解することが合格の鍵です。
担保物権とは・担保物権の性質
第295条・303条・342条・369条条簡単にいうと
簡単にいうと、お金を貸すときに「返せなかったら土地を売っていい」という約束が担保物権です。全部で4種類あり、どれも共通する4つの性質があるのがポイントです。
■ 担保物権とは
担保物権とは、債権者が債務の弁済を確実に受けられるように、債務者または第三者の財産(不動産・動産など)に設定される物権をいいます。銀行が住宅ローンを融資する際に土地や建物を担保とするのが典型例であり、債務が弁済されない場合にはその財産を競売にかけて売却代金から優先的に回収を受けることができます。
■ 担保物権の4種類
民法が規定する担保物権には4種類あります。第1に抵当権(369条)は不動産を担保とする最も重要な担保物権であり、設定者が引き続き不動産を使用・収益できる非占有担保です。第2に質権(342条)は動産・不動産・財産権を担保として債権者が直接占有する占有担保です。第3に先取特権(303条)は法律が定める特定の債権者に当然に認められる法定担保物権であり、当事者間の契約は不要です。第4に留置権(295条)は他人の物を占有する者がその物に関して生じた債権の弁済を受けるまで留置できる権利です。
■ 担保物権に共通する4つの性質
担保物権に共通する4つの性質として、①付従性・②随伴性・③不可分性・④物上代位性があります。付従性とは、被担保債権が存在しなければ担保物権も成立せず、被担保債権が消滅すれば担保物権も消滅するという性質です。随伴性とは、被担保債権が譲渡されるなどして移転した場合に、担保物権もそれに伴って移転するという性質です。不可分性とは、債権者は被担保債権の全額の弁済を受けるまで目的物全体について担保物権を行使できるという性質であり、一部弁済を受けても目的物全体に対して権利行使できます。物上代位性とは、担保目的物が売却・賃貸・滅失・損傷された場合に、債務者が受けるべき金銭やその他の物(売却代金・保険金・賃料など)に対しても担保物権を行使できるという性質です(372条・304条)。ただし、物上代位を行使するには払い渡し前に差押えをすることが必要であり(304条1項但書)、留置権には物上代位性が認められない点に注意が必要です。
具体例
AがBに1000万円を貸すにあたり、BがAのためにB所有の土地に抵当権を設定した。この場合、①Bが土地を使い続けられる(非占有担保)、②BがAへの返済を怠れば土地が競売される、③Bが土地を売却した場合は売却代金にも物上代位できる(差押え必要)。
ポイント整理
- ・担保物権の4要素:付従性・随伴性・不可分性・物上代位性
- ・物上代位の行使には払渡し前の差押えが必要(304条1項但書)
- ・留置権には物上代位性なし
効果
- ・債権者は目的物から優先弁済を受けられる
- ・被担保債権が移転すれば担保物権も随伴して移転する
- ・一部弁済があっても目的物全体に担保物権が及ぶ(不可分性)
条文(第295条・303条・342条・369条条)
第295条(留置権)、第303条(先取特権)、第342条(質権)、第369条(抵当権)
重要メモ
- ・「担保物権の4性質(付従・随伴・不可分・物上代位)と4種類(抵当権・質権・留置権・先取特権)を丸ごと覚える」のがポイント
- ・付従性:被担保債権が消滅すれば担保物権も自動的に消滅する(借金を完済したら抵当権は自動消滅)
- ・随伴性:被担保債権が譲渡・移転されると、担保物権もそれに伴って移転する
- ・不可分性:一部弁済があっても目的物全体に担保物権が及ぶ(半分返しても抵当権は半分にならない)
- ・物上代位性:担保目的物が売却・賃貸・滅失・損傷された場合に代替金銭等にも担保権行使可(304条・372条)
- ・物上代位の行使には払渡し前の差押えが必須(304条1項但書)
- ・留置権のみ物上代位性が認められない点に要注意(他の3種類はすべて認められる)
- ・重要度Bテーマだが、付従性と物上代位性の意味は必ず理解しておくこと
抵当権とは・抵当権の設定
第369条条簡単にいうと
簡単にいうと、抵当権は「不動産を担保にしながら、設定者がそのまま使い続けられる」のが最大の特徴です。銀行のローンでおなじみの仕組みを押さえましょう。
■ 抵当権とは
抵当権とは、債務者または第三者(物上保証人)が占有を移転しないで提供した不動産について、債権者が他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受けることのできる権利をいいます(369条1項)。抵当権は当事者間の契約によって設定される約定担保物権であり、設定登記が対抗要件となります(177条)。
■ 抵当権の特徴
抵当権の最大の特徴は、抵当権設定者が引き続き目的物を使用・収益できる点にあります(非占有担保)。例えば、住宅を担保に提供した債務者は、融資を受けた後も自宅に住み続けることができます。これは質権(占有担保)とは大きく異なる点です。抵当権の目的物は、不動産(土地・建物)のほか、地上権・永小作権にも設定できます(369条2項)。
■ 当事者の区別
抵当権を巡る当事者の区別は試験でも重要です。抵当権者(融資した債権者)・抵当権設定者(担保提供者=債務者または物上保証人)・物上保証人(他人の債務のために自己の不動産を担保提供した第三者)・第三取得者(抵当権付き不動産を取得した者)の4者を正確に区別する必要があります。抵当権設定登記がなければ第三者に対抗できないため、実務上は設定と同時に登記することが一般的です。一般債権者に対しては債権者平等の原則が適用されますが、抵当権者は登記を備えることで他の債権者に優先して弁済を受けられます。
具体例
AがBに1000万円を融資し、B所有の不動産(2000万円相当)に抵当権を設定・登記した。Bが返済できなくなったとき、Aはその不動産を競売にかけて優先的に1000万円を回収できる。一般債権者Cは残余があれば回収できるにすぎない。

抵当権とは
ポイント整理
- ・抵当権設定契約の締結(書面不要だが登記が対抗要件)
- ・目的物:不動産(土地・建物)または地上権・永小作権
- ・登記により第三者対抗力を取得(177条)
効果
- ・抵当権者は目的物の競売代金から他の債権者に優先して弁済を受けられる
- ・設定者(債務者)は引き続き目的物を使用・収益できる
- ・抵当権は被担保債権とともに移転する(随伴性)
条文(第369条条)
第369条① 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。② 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。
重要メモ
- ・「抵当権は非占有担保=設定者が引き続き使える」「対抗要件は登記」「当事者4者(抵当権者・設定者・物上保証人・第三取得者)の区別」が頻出
- ・抵当権設定者は抵当権設定後も不動産を引き続き使用・収益できる(非占有担保・質権との最大の違い)
- ・抵当権の設定登記が第三者への対抗要件(177条)。登記なければ第三者に対抗不可
- ・物上保証人とは:他人(債務者以外)の債務のために自己の不動産を担保提供した第三者
- ・第三取得者とは:抵当権付き不動産を購入した者。登記の先後で抵当権者と優劣が決まる
- ・抵当権の目的物は不動産(土地・建物)のほか、地上権・永小作権にも設定できる(369条2項)
- ・一般債権者は債権者平等の原則、抵当権者は登記により優先弁済を受けられる
抵当権の順位
第373条・374条条簡単にいうと
簡単にいうと、1つの不動産に複数の抵当権を設定でき、競売されたときにどの抵当権者が先に回収できるかは「登記の先後」で決まります。順位の変更もできる点がポイントです。
■ 抵当権の順位の決まり方
1つの不動産に対して、複数の抵当権を設定することができます。抵当権も物権であるため、その優先順位は登記の先後によって決まり、先に登記をした者が1番抵当権者、次が2番抵当権者という順になります(373条)。
■ 順位と配当の関係
抵当権の順位は競売代金の分配に直接影響します。例えば、1200万円の土地に対してAが1番抵当権(被担保債権1000万円)、Cが2番抵当権(被担保債権1000万円)を設定していた場合、競売で1000万円の売却代金が得られたとすると、1番抵当権者Aが優先して1000万円全額を回収し、2番抵当権者Cは残余がないため何も回収できないことになります。
■ 順位の変更
抵当権の順位は当事者間の合意によって変更することもできます(374条1項)。順位の変更には、その順位変更について利害関係を有する者全員の承諾が必要であり(374条1項但書)、さらに登記をしなければ効力が生じません(374条2項)。なお、抵当権者が複数いる場合でも、1番抵当権者が弁済を受けた分だけ後順位抵当権者の優先弁済額が増加するという「代位の法理」が働くことがあります。後順位抵当権者は、先順位抵当権者と債務者の間の抹消合意等によって不測の損害を被ることがないよう、順位変更登記制度によって保護されています。
具体例
土地(評価額1500万円)に1番抵当権(A・800万円)と2番抵当権(C・700万円)が設定されている。競売で1500万円が得られれば、Aが800万円、Cが700万円をそれぞれ回収できる。しかし競売で1000万円しか得られなければ、Aが800万円、Cは残り200万円しか回収できない。

抵当権の順位
ポイント整理
- ・登記の先後で優先順位が決まる(373条)
- ・順位変更には利害関係人全員の承諾が必要(374条1項但書)
- ・順位変更は登記しなければ効力を生じない(374条2項)
効果
- ・1番抵当権者が最優先で競売代金から回収できる
- ・後順位抵当権者は残余から順番に回収する
- ・合意と登記により順位変更が可能(374条)
条文(第373条・374条条)
第373条 同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。第374条① 抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
重要メモ
- ・「抵当権の優先順位は登記の先後で決まる(373条)」「順位変更は利害関係人全員の承諾+登記が必要(374条)」の2点
- ・1つの不動産に複数の抵当権設定が可能。登記が早い方が高順位となる(373条)
- ・競売代金は高順位の抵当権者から優先弁済され、残余があれば低順位の者が回収できる
- ・順位変更には①各抵当権者の合意、②利害関係人全員の承諾、③登記の3つがすべて必要(374条)
- ・競売代金の分配計算問題も出るので、数字を当てはめて練習しておくこと
- ・後順位抵当権者は先順位者の被担保債権額が小さいほど残余が多くなり有利になる
抵当権と第三取得者の保護
第378条・379条条簡単にいうと
簡単にいうと、抵当権の付いた不動産を買ってしまった第三取得者には競売で所有権を失うリスクがあります。民法は保護制度を2つ用意していますが、主導権がどちら側にあるかが重要です。
■ 第三取得者とは
第三取得者とは、抵当権が設定されている不動産を取得した者をいいます。第三取得者は、不動産取得時に抵当権が設定されていることを知りながら購入するのが通常ですが、後に抵当権が実行(競売)されれば所有権を失うという不安定な地位に置かれます。
■ 保護制度①:代価弁済
民法は第三取得者を保護するために2つの制度を設けています。第1が代価弁済(378条)です。抵当権者の請求があった場合に、第三取得者がその代価(売買代金)または指定の金額を抵当権者に弁済したときは、抵当権は消滅します。これは抵当権者の側から請求する制度であり、抵当権者が承諾するかどうかは自由ではない(請求があれば応じれば消滅する)という点が重要です。
■ 保護制度②:抵当権消滅請求
第2が抵当権消滅請求(379条)です。第三取得者が抵当権消滅請求を行い、自己が定めた金額(評価額以下の金額でも可)を提供し、抵当権者がそれを承諾すれば抵当権が消滅します。抵当権者が2ヶ月以内に競売を申し立てなければ承諾したものとみなされます(384条)。なお、主債務者・保証人およびこれらの承継人は抵当権消滅請求をすることができません(380条)。代価弁済は抵当権者が請求する制度、抵当権消滅請求は第三取得者が請求する制度という点で、主導権が異なる点が試験での区別のポイントとなります。
具体例
AのBに対する1000万円の貸金債権を担保するために、B所有の不動産(時価1500万円)に抵当権が設定された。その後、Cがその不動産を1200万円で購入した(第三取得者)。Aから代価弁済の請求があれば、Cが1200万円をAに払うことで抵当権が消滅する(378条)。あるいはCから抵当権消滅請求を行い、Aが承諾すれば抵当権が消滅する(379条)。

抵当権と第三取得者の関係
ポイント整理
- ・代価弁済(378条):抵当権者の請求+第三取得者が代価を弁済
- ・抵当権消滅請求(379条):第三取得者が申出+抵当権者が承諾(2ヶ月以内に競売不申立てで承諾とみなす)
- ・抵当権消滅請求は主債務者・保証人・その承継人はできない(380条)
効果
- ・代価弁済:第三取得者が代価を支払うことで抵当権消滅
- ・抵当権消滅請求:第三取得者提示額で合意成立時に抵当権消滅
- ・いずれも第三取得者が所有権を確定的に取得できる
条文(第378条・379条条)
第378条(代価弁済)抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権はその第三者のために消滅する。第379条(抵当権消滅請求)抵当不動産の第三取得者は、第383条の書面を抵当権者に送付して、抵当権の消滅を請求することができる。
重要メモ
- ・「代価弁済(378条)は抵当権者側が請求」「抵当権消滅請求(379条)は第三取得者側が請求」という主導権の違いが最重要
- ・代価弁済(378条):抵当権者から第三取得者への請求→第三取得者が代価を弁済すれば抵当権消滅
- ・抵当権消滅請求(379条):第三取得者から抵当権者への申出→抵当権者が2ヶ月以内に競売申立なければ承諾とみなす(384条)
- ・主債務者・保証人・その承継人は抵当権消滅請求を行使できない(380条)
- ・第三取得者が所有権確定を望む場合の選択肢として両制度を使い分ける
- ・抵当権消滅請求の際、第三取得者は自分が定めた金額(評価額を下回ってもよい)で申し出られる
抵当権の効力範囲・利息の制限
第370条・375条条簡単にいうと
簡単にいうと、抵当権は建物の構成部分にも当然に及びますが、利息については「最後の2年分」だけという制限があります。付加一体物の範囲と利息制限の趣旨を押さえましょう。
■ 付加一体物への効力
抵当権の効力は、抵当不動産に付加して一体となった物(付加一体物)に及びます(370条本文)。付加一体物とは、不動産に物理的・経済的に結合して一体となった物のことであり、例えば建物に固定して設置されたエアコンや造作が含まれます。ただし、抵当権設定時に分離することができない物または抵当権者に損害を与えない分離された物については、対象外となります(370条但書)。
■ 判例による効力範囲の確定
抵当権の効力が及ぶ範囲については、判例の積み重ねが重要です。農地に設定された抵当権の効力は、収穫した農作物には及ばないと解されています(大判大7.4.27)。また、抵当不動産に設定後に設置された機械については、不動産に強固に付着していれば付加一体物として抵当権の効力が及ぶとされています。
■ 利息の制限
利息についての制限として、抵当権者は最後の2年分の利息についてのみ抵当権を行使することができます(375条1項)。これは後順位抵当権者や一般債権者の利益を保護するためのルールです。ただし、後順位抵当権者がいない場合には、2年分を超える利息についても抵当権を行使することができると解されています(最判昭3.1.30の趣旨)。なお、375条は任意規定であり、後順位抵当権者等の利害関係人が同意すれば2年を超える利息についても優先弁済を受けることができます。
具体例
Aの土地・建物に抵当権が設定されている。競売によって売却代金が得られたとき、元本1000万円についてはAが全額回収できる。利息については「最後の2年分」のみ抵当権を行使できるので、3年分の利息があったとしても2年分についてのみ優先弁済を受けられる。

抵当権の効力(定期金の範囲と後順位者保護)
ポイント整理
- ・370条:付加一体物(不動産に物理的に結合した物)に抵当権の効力が及ぶ
- ・375条:利息は最後の2年分についてのみ抵当権行使可
- ・後順位抵当権者がいない場合は2年を超える利息にも行使可
効果
- ・付加一体物も競売対象に含まれ、売却代金から回収できる
- ・利息の抵当権行使は最後2年分に制限(後順位抵当権者保護)
- ・後順位抵当権者がいなければ全額の利息について行使可能
条文(第370条・375条条)
第370条 抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となった物に及ぶ。第375条① 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。
重要メモ
- ・「375条の利息制限(最後2年分のみ)+370条の付加一体物への効力」の2点セット
- ・利息の優先弁済範囲は「満期となった最後の2年分」に限定(375条1項)。後順位抵当権者・一般債権者を保護するため
- ・後順位抵当権者がいない場合は2年超の利息にも抵当権を行使できる(375条は後順位者保護の任意規定)
- ・債務者の側から「2年分の利息で抵当権を消してくれ」という都合よい主張はできない
- ・付加一体物(不動産に物理的・経済的に一体化した物)には抵当権の効力が及ぶ(370条)
- ・付加一体物から除かれるもの:分離できる物・抵当権者に損害を与えない分離物(370条但書)
- ・記述式でも出るテーマ。元本+最後2年分の利息という計算式を押さえる
物上代位
第372条・304条条簡単にいうと
簡単にいうと、抵当物件が火事で焼けても保険金に抵当権を行使できる制度が物上代位です。ただし「払われる前に差押え」が必須条件になる点がポイントです。
■ 物上代位とは
物上代位とは、担保目的物が売却・賃貸・滅失・損傷された場合に、担保権者がその目的物の代わりとなる金銭やその他の物(売却代金・賃料・保険金等)に対しても担保権を行使できる制度をいいます(372条・304条)。抵当権のほか、先取特権・質権にも認められますが、留置権には認められません。
■ 差押えの要件
物上代位を行使するためには、目的物の代わりとなる金銭等が払い渡されまたは引き渡される前に、差押えをしなければなりません(304条1項但書)。差押えが必要とされる理由は、第三債務者の二重払いのリスクを防ぎ、一般債権者との優先関係を明確にするためです。
■ 物上代位が認められる場面
物上代位が認められる具体的な場面として、①目的物の売却による代金請求権(転売代金)、②目的物の滅失・損傷によって債務者が受けるべき保険金請求権(火災保険金など)、③抵当不動産の賃料債権があります。これに対して、転貸料債権については原則として物上代位が認められないとされています。抵当権の登記と一般債権者の差押えが競合した場合、抵当権の登記が先であれば抵当権者が優先します(最判平10.1.30)。これは抵当権者が登記により公示されており、一般債権者はその存在を知り得る状態にあるためです。
具体例
AがBの土地・建物に抵当権を設定していた。その建物が火災で全焼し、Bが火災保険金1000万円を受け取る予定となった。Aは保険金が支払われる前に差押えをすれば、その保険金に対して抵当権(物上代位)を行使して優先的に回収できる。

物上代位の仕組みと要件
ポイント整理
- ・目的物が売却・賃貸・滅失・損傷されたこと
- ・債務者が金銭等を受け取るべき権利(代金請求権・保険金請求権・賃料債権等)が生じたこと
- ・払渡し・引渡し前に差押えをすること(304条1項但書)
効果
- ・抵当権者は代わりの金銭等から優先弁済を受けられる
- ・差押えにより第三債務者はその抵当権者に弁済しなければならない
- ・抵当権登記が先なら一般債権者の差押えに優先する(最判平10.1.30)
条文(第372条・304条条)
第304条① 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。第372条(抵当権への準用)
重要メモ
- ・「物上代位は払渡し前の差押えが必須(304条1項但書)」「賃料債権への物上代位は可・転貸料債権は原則不可」「最判平10.1.30:登記が先なら一般差押えに優先」の3点が最頻出
- ・物上代位が認められる対象:①売却代金、②保険金(滅失・損傷)、③損害賠償請求権、④賃料債権、⑤買戻代金債権(いずれも差押え必要)
- ・転貸料債権への物上代位は原則不可(最決平12.4.14)。債務者Bがお金を受ける立場にないため
- ・物上代位を行使するには「払渡し・引渡しの前」に差押えが必要(304条1項但書)
- ・一般債権者の差押えと競合した場合:抵当権の登記が先であれば抵当権者が優先(最判平10.1.30)
- ・物上代位は物権の効力であるため、登記の先後で優劣が決まり、差押えの先後ではない点に注意
- ・BとCを同視できる特段の事情がある場合は、転貸料にも物上代位可能
抵当権の侵害・妨害排除請求権
第最大判平11.11.24条簡単にいうと
簡単にいうと、抵当物件が不法占拠されて競売できなくなりそうなとき、原則として抵当権者は妨害排除を請求できませんが、一定の要件を満たす場合には例外的に認められます。この要件が重要です。
■ 原則:妨害排除請求権は認められない
抵当権は不動産を占有する権利ではないため、抵当不動産が第三者によって不法占拠されたとしても、抵当権者は原則として直接に妨害排除を請求することはできません。抵当権の本質はあくまで優先弁済権であり、占有権能を含まないからです。
■ 例外:判例による妨害排除請求権の認容
しかし判例は、一定の要件を満たす場合には抵当権に基づく妨害排除請求権を認めています(最大判平11.11.24)。この判例によれば、第三者が抵当不動産を不法占拠することによって同不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は当該第三者に対して、抵当権に基づく妨害排除請求として、その不法占拠の排除を求めることができるとされました。
■ 要件と明渡し先
要件としては、①抵当不動産の交換価値の実現が妨げられること、②抵当権者の優先弁済権行使が困難となるような状態があること、の2点が必要です。単に不法占拠があるだけでは足りず、それによって競売等が実質的に困難になっている状況が必要とされます。なお、この場合に抵当権者が明渡しを求める相手方は不法占拠者であり、明渡し先については抵当権設定者ではなく直接抵当権者への明渡しを求めることができるとされています(同判決)。
具体例
AがBの土地・建物に抵当権を設定していたところ、暴力団員Cが建物を不法占拠し、誰も競落しない状態となった(競売が事実上不可能な状態)。この場合、Aは優先弁済権の行使が困難であることを理由に、Cに対して抵当権に基づく妨害排除請求ができる(最大判平11.11.24)。

抵当権の侵害と妨害排除請求権
ポイント整理
- ・第三者による不法占拠の存在
- ・不法占拠により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられること
- ・抵当権者の優先弁済権行使が困難となるような状態があること
効果
- ・要件を満たせば抵当権者は第三者に対し妨害排除請求できる
- ・抵当権者への直接の明渡しを求めることができる
- ・要件を満たさない単純な不法占拠の場合は請求不可
条文(第最大判平11.11.24条)
最大判平11.11.24:抵当権者は、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて優先弁済権の行使が困難となる状態があれば、抵当権に基づく妨害排除請求権を行使できる。
重要メモ
- ・「原則として抵当権には占有権能がないため妨害排除請求不可」「例外として交換価値の実現が妨げられ優先弁済権行使が困難な状態なら妨害排除請求可(最大判平11.11.24)」という判例ルール
- ・抵当権は優先弁済権であり占有権能を含まない。よって第三者の不法占拠でも原則として直接の明渡し請求はできない
- ・例外的に妨害排除請求が認められる要件:①抵当不動産の交換価値の実現が妨げられること、②抵当権者の優先弁済権行使が困難な状態があること(最大判平11.11.24)
- ・妨害排除請求は抵当権設定者ではなく、直接抵当権者への明渡しも求めることができる(最判平17.3.10)
- ・賃貸借契約による占拠の場合も、同様の要件を満たせば妨害排除請求可(最判平17.3.10)
- ・記述式でも出るテーマ。判例の要件を正確に再現できるようにしておくこと
法定地上権
第388条条簡単にいうと
簡単にいうと、土地と建物が同じ人の持ち物だったのに競売で別々の所有者になってしまったとき、建物所有者が土地を使える権利を自動的に取得するのが法定地上権です。4つの成立要件と判例ルールが重要です。
■ 法定地上権とは
法定地上権とは、抵当権が実行(競売)された結果、土地と建物が別々の所有者になった場合に、建物所有者が引き続き土地を使用・収益できるよう、法律上当然に発生する地上権をいいます(388条)。これは法律の規定によって自動的に成立する権利であるため「法定」地上権と呼ばれます。
■ 成立要件(4つ)
法定地上権の成立要件は388条に規定されており、4つの要件を全て満たす必要があります。第1に、抵当権設定当時に建物が存在していたこと(更地に抵当権を設定した場合は成立しません)。第2に、抵当権設定当時に土地と建物が同一の所有者に属していたこと(設定当初から別々の所有者の場合は成立しません)。第3に、土地または建物の一方または双方に抵当権が設定されていたこと。第4に、競売の結果、土地と建物が別々の所有者となったことです。
■ 判例上の重要ルール
判例上重要なルールとして、①抵当権設定後に建物が取り壊されて新築された場合は原則として法定地上権は成立しません(大判昭4.7.1)、②抵当権設定当時の建物を取り壊して同一の場所に再建した場合は、当初から建物の存在を意識した抵当権設定であったとして法定地上権が成立します(大判昭10.8.10)とされています。抵当権者が複数いる場合は1番抵当権者設定時を基準として法定地上権の成否を判断します(最判昭53.7.6)。
具体例
BがB所有の土地・建物のうち土地だけにAのために抵当権を設定した。その後、BのAへの返済が滞り、Aが土地を競売にかけてCが落札した。この時点でCが土地所有者、Bが建物所有者となり、Bは法定地上権(388条)によって引き続き土地を利用できる。

法定地上権の成立要件と効果
ポイント整理
- ・抵当権設定当時に建物が存在していたこと
- ・抵当権設定当時に土地・建物が同一の所有者に属していたこと
- ・土地または建物(一方または双方)に抵当権が設定されていたこと
- ・競売の結果、土地と建物が別々の所有者となったこと
効果
- ・建物所有者は法律上当然に地上権を取得し、土地を使用・収益できる
- ・地上権は登記なく競落人に対抗できる(388条の法定効果)
- ・地代は当事者間の合意、合意できなければ裁判所が定める
条文(第388条条)
第388条 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。
重要メモ
- ・「法定地上権の4要件(①設定当時建物存在②設定当時同一所有者③一方または双方に抵当権④競売で別所有者)」を全部満たすかどうかの判定が頻出
- ・4要件:①抵当権設定当時に建物が存在、②設定当時に土地・建物が同一所有者、③土地または建物(一方または双方)に抵当権設定、④競売の結果土地と建物が別々の所有者に(388条)
- ・要件①の例外・注意判例:更地設定後の建物建築→成立しない(大判大4.7.1)、建物取壊し・同一場所再建→成立する(大判昭10.8.10)、土地建物共同抵当後に建物取壊し・新築→原則成立しない(最判平9.2.14)
- ・要件②については例外なし。設定当時に別々の所有者であれば、後で同一所有者になっても成立しない(最判昭44.2.14)
- ・抵当権者が複数いる場合は1番抵当権者設定時を基準に判断(最判昭53.7.6)
- ・土地に1番抵当権設定時に要件②を満たさない→成立しない(最判平2.1.22)(土地価値が下がるから)
- ・建物に1番抵当権設定時に要件②を満たさなくても2番抵当権設定時に満たす→成立する(大判昭14.7.26)(建物価値が上がるから)
- ・土地が共有の場合→法定地上権成立しない。建物が共有の場合→成立する
土地と建物の一括競売
第389条条簡単にいうと
簡単にいうと、土地に抵当権を設定した後に建物が建てられた場合、法定地上権は成立しませんが、一括競売制度があります。ただし建物分の優先弁済はもらえない点がポイントです。
■ 一括競売の必要性
土地に抵当権を設定した後に建物が建てられた場合、法定地上権の成立要件(抵当権設定当時に建物が存在していたこと)を満たさないため、法定地上権は成立しません。しかし、このような場合に土地と建物を別々に競売すると、建物を買い受けても土地を利用できる根拠がなく、建物が無価値になってしまうという問題が生じます。
■ 一括競売制度(389条)
そこで民法389条は、一括競売制度を定めています。土地の抵当権者は、土地とともにその上の建物を一括して競売に付することができます(389条1項)。これにより、買受人は土地・建物の両方を取得でき、建物の利用価値が確保されます。ただし、この一括競売においても、抵当権者が優先弁済を受けることができるのは土地の代価についてのみであり、建物の代価から優先弁済を受けることはできません(389条1項後段)。
■ 一括競売の選択的行使
一括競売は抵当権者の権利であり、義務ではありません。したがって、抵当権者は土地のみを競売することも、一括競売することも選択できます。実際には、土地単独の競売では買受人が建物の存在で利用を妨げられることが多く、売却代金が低くなるため、一括競売が行われることが多いです。なお、建物が第三者に売却されている場合など、抵当権設定者の所有でない建物については一括競売は原則として認められません(389条1項但書)。
具体例
AがBの更地(土地のみ)に抵当権を設定した後、Bがその土地上に建物を建てた。Bが返済できなくなった場合、Aは土地と建物を一括して競売にかけることができる(389条)。Cが土地1000万円・建物300万円で落札した場合、Aが優先弁済を受けられるのは土地代金1000万円からのみ。

土地と建物の一括競売(民法389条1項)
ポイント整理
- ・土地に抵当権が設定されていること
- ・抵当権設定後に建物が建てられたこと(法定地上権不成立の場面)
- ・建物が抵当権設定者の所有であること(389条1項但書)
効果
- ・抵当権者は土地と建物を一括して競売できる(389条1項)
- ・買受人は土地・建物の両方を取得できる
- ・ただし建物代価からの優先弁済は受けられない(389条1項後段)
条文(第389条条)
第389条① 抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。
重要メモ
- ・「一括競売は可(389条)だが建物代価への優先弁済は不可」という2点セット。法定地上権が成立しない場面(更地設定後の建物築造)と結びつけて理解する
- ・土地抵当権設定後に建物が築造された場合、法定地上権が成立しない(設定当時に建物が存在しないため)
- ・そのまま土地のみ競売すると、買受人が建物所有者に退去請求するコストが発生するため、一括競売制度がある(389条1項)
- ・一括競売は抵当権者の権利(義務ではない)。土地のみの競売も選択可
- ・一括競売をしても抵当権者が優先弁済を受けられるのは土地の代価からのみ(389条1項後段)。建物代価は対象外
- ・建物が第三者の所有に移っている場合(抵当権設定者の所有でない)は原則一括競売不可(389条1項但書)
抵当権と賃借権・建物明渡し猶予制度
第387条・395条条簡単にいうと
簡単にいうと、抵当権の付いた建物に住んでいる賃借人は競売で新所有者になると追い出されるリスクがありますが、6ヶ月間の猶予制度があります。猶予が失われる条件も押さえましょう。
■ 抵当権設定後の賃貸借の原則
抵当権設定後に締結された賃貸借は、原則として抵当権者に対抗できません(後から設定された賃借権は登記で劣後するから)。そのため、競売で買受人が建物を取得すると、賃借人は明渡しを求められることになります。
■ 抵当権者の同意の登記(387条)
賃借権を抵当権者に対抗させる制度として、387条1項の「抵当権者の同意の登記」があります。抵当権者全員の同意を得て、その同意を登記すれば、賃借権は全ての抵当権者に対抗できるようになり、競売後も賃借権を維持できます。ただし、この同意は全員の同意が必要であり、後順位抵当権者もいる場合はその全員の承諾も要します(387条1項)。
■ 建物明渡し猶予制度(395条)
建物明渡し猶予制度(395条1項)は、競売で建物が売却された場合に、賃借人保護のために設けられた制度です。抵当権設定後に締結された賃貸借であっても、競売による買受けの時(買受人が所有権を取得した時)から6ヶ月間は、建物の明渡しが猶予されます。この猶予制度は、賃借権が抵当権に劣後する場合でも適用されます。ただし、買受人が相当の期間を定めて使用の対価の支払を賃借人に求め、その期間内に支払が行われなかった場合には、猶予制度の適用がなくなります(395条2項)。なお、競売前から対抗要件を備えた賃借権(先行する賃借権)については、猶予制度の適用はなく、そもそも買受人に対抗できます。
具体例
AがBの建物に抵当権を設定した後、BがCに建物を賃貸した。Aが抵当権を実行してDが建物を競落(買受)した場合、Cの賃借権はAの抵当権に劣後するため、DはCに明渡しを求めることができる。ただし、Dが所有権を取得した日から6ヶ月間はCに明渡しの猶予がある(395条1項)。

抵当権と賃借権の関係
ポイント整理
- ・抵当権者の同意の登記(387条):全抵当権者の同意+登記
- ・建物明渡し猶予(395条):競売による建物取得から6ヶ月以内
- ・猶予制度の失効(395条2項):使用対価の支払請求後、期間内に不払い
効果
- ・同意の登記(387条):賃借権が全抵当権者に対抗可能となり競売後も維持
- ・建物明渡し猶予(395条):競売買受後6ヶ月間は明渡しを猶予される
- ・使用対価不払いの場合:猶予期間中でも明渡し義務が生じる(395条2項)
条文(第387条・395条条)
第387条① 登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有する全ての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。第395条① 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって…買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
重要メモ
- ・「建物明渡し猶予制度(395条)は競売買受時から6ヶ月」「猶予中も使用対価不払いで猶予消滅(395条2項)」「抵当権者全員の同意+登記で賃借権が対抗力取得(387条)」の3点が頻出
- ・抵当権設定後の賃借権は抵当権に劣後し、競売で新所有者に対抗できない(原則、追い出される)
- ・抵当権者の同意の登記(387条):全抵当権者の同意+登記があれば賃借権が全抵当権者に対抗可能となり競売後も維持される
- ・建物明渡し猶予制度(395条1項):抵当権設定後の賃借でも、買受けの時から6ヶ月間は建物の明渡しが猶予される
- ・猶予制度の失効(395条2項):買受人が相当期間を定めて使用対価の支払いを求め、期間内に不払いがあれば6ヶ月待たずに即時明渡し請求可
- ・抵当権設定前から対抗要件を備えた賃借権(先行賃借権)は猶予制度の適用なく、そもそも買受人に対抗できる
- ・記述式でも出るテーマ。395条の猶予期間と猶予失効の条件を正確に押さえること
質権とは・動産質・不動産質
第342条・352条・353条・356条条簡単にいうと
簡単にいうと、質権は「物を預けて担保にする」仕組みで、質屋さんに時計を預けてお金を借りるのが典型です。動産質と不動産質で対抗要件・使用収益のルールが異なる点が重要です。
■ 質権とは
質権とは、債権者が弁済を受けるまで債務者または第三者から受け取った物(質物)を留置することができ、かつその物について他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受けることのできる権利をいいます(342条)。質権は当事者間の合意のほか、目的物の引渡しがあって初めて成立する要物契約であり(344条)、書面の作成は不要です。
■ 動産質(352条〜)
動産質の特徴として、①対抗要件は占有の継続であり、質権者が物を占有し続けることが必要となります(352条)。質権者が物を奪われた場合には、占有回収の訴えによって取り戻すことができます(353条)。②質権者は、設定者の承諾なしに質物を使用・収益・賃貸することはできません(298条2項・350条)。ただし、保存に必要な使用は承諾なく行えます。
■ 不動産質(356条〜)
不動産質の特徴として、①対抗要件は登記であり(177条)、登記により第三者に対抗できます。②不動産質権者は、設定者の承諾がなくても質物を使用・収益することができます(356条)。これは動産質と大きく異なる点です。③不動産質において質権者が目的物を使用収益した場合は、利息は請求できないのが原則です(358条)。なお、財産権を目的とする質権(権利質)も認められており(362条)、債権・株式・著作権なども質権の目的にできます。
具体例
AがBに100万円を貸し、Bが所有するブランドバッグを質権の目的として引き渡した(動産質)。BがAへの返済を怠った場合、Aはそのバッグを競売にかけて100万円を優先回収できる。Aはバッグを使用するにはBの承諾が必要。

建物明渡し猶予制度
ポイント整理
- ・質権設定契約の締結(合意)
- ・目的物の引渡し(344条・要物契約)
- ・動産質の対抗要件:占有の継続(352条)
- ・不動産質の対抗要件:登記(177条)
効果
- ・質権者は弁済を受けるまで質物を留置できる
- ・質権者は他の債権者に優先して弁済を受けられる
- ・動産質:質権者の使用収益には設定者の承諾が必要(298条2項・350条)
- ・不動産質:質権者は設定者の承諾なく使用収益できる(356条)
条文(第342条・352条・353条・356条条)
第342条 質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。第344条 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
重要メモ
- ・「質権は引渡しで成立する要物契約(344条)」「動産質の対抗要件は占有継続(352条)・使用には承諾必要」「不動産質の対抗要件は登記・使用収益は承諾不要(356条)」という動産質と不動産質の対比が頻出
- ・質権は目的物の引渡しがなければ効力を生じない(要物契約・344条)。書面は不要だが引渡しが必須
- ・動産質の対抗要件は「占有の継続」(352条)。占有を失うと第三者に対抗不可。占有を奪われた場合は占有回収の訴えのみ(質権に基づく返還請求は不可・353条)
- ・動産質権者は設定者の承諾なく質物を使用・収益できない(298条2項・350条)。保存に必要な使用は例外で承諾不要
- ・不動産質の対抗要件は「登記」(177条)
- ・不動産質権者は設定者の承諾なく質物を使用・収益できる(356条)。これが動産質との最大の違い
- ・不動産質権者が使用収益をした場合、原則として利息請求不可(358条)。使用収益が利息の代わりとなる
- ・財産権(債権・株式・著作権等)を目的とする権利質も可能(362条)
留置権とは・成立要件
第295条条簡単にいうと
簡単にいうと、修理代を払ってもらえるまで時計を返さないのが留置権です。法律上自動的に発生する権利で契約は不要であり、4つの成立要件を押さえましょう。
■ 留置権とは
留置権とは、他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる権利をいいます(295条1項)。留置権は法律の定める要件を充たすことで当然に成立する法定担保物権であり、当事者間の合意は不要です。また、動産・不動産を問わず、様々な物に成立しうます。
■ 成立要件(4つ)
留置権の成立要件は4つあります。第1に、債権と目的物との間に牽連関係があること(目的物に関して生じた債権であること)が必要です。牽連関係の典型例は修理代金と修理された物(時計の修理代金と時計)です。これに対して、判例は土地の二重譲渡においてCが先に登記を備えた場合にAが主張する損害賠償請求権と土地との間に牽連関係はないとして留置権の成立を否定しました(最判昭43.11.21)。第2に、債権が弁済期にあることが必要です(295条1項本文)。第3に、留置権者が目的物を占有していることが必要です。第4に、占有が不法行為によって始まったものでないことが必要です(295条2項)。
■ 牽連関係の判断基準
牽連関係の判断は実務・試験ともに重要であり、「目的物から生じた債権」または「目的物の引渡請求権と同一の法律関係・事実関係から生じた債権」に牽連関係が認められると解されています。例えば、売買代金債権と目的物(売主が売買代金を受け取るまで物を留置できる)には牽連関係が認められます。
具体例
AがBに時計の修理を依頼し、修理代金(牽連関係あり)を支払わなかった場合、Aは修理代金の弁済を受けるまで時計を留置できる(295条1項)。一方、AがBに土地を売却したが、Cが先に登記を備えて所有権を取得した場合、BのAへの損害賠償債権と土地には牽連関係がなく留置権は成立しない(最判昭43.11.21)。

質権とは・動産質と不動産質
ポイント整理
- ・① 債権と目的物との間に牽連関係があること(目的物に関して生じた債権)
- ・② 債権が弁済期にあること(295条1項本文)
- ・③ 留置権者が目的物を占有していること
- ・④ 占有が不法行為によって始まったものでないこと(295条2項)
効果
- ・債権の弁済を受けるまで目的物を留置(返還を拒否)できる
- ・留置権は目的物を占有し続ける限り存続する
- ・優先弁済権はない(留置的効力のみ)
条文(第295条条)
第295条① 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。② 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。
重要メモ
- ・「留置権の4要件(①牽連関係②弁済期③占有④適法な占有開始)を全て満たす必要がある」こと。牽連関係の有無の判断が出題の核心
- ・留置権は法定担保物権(法律上当然に成立。契約不要)。動産・不動産を問わず成立しうる(295条)
- ・4要件:①債権と目的物との牽連関係、②債権が弁済期にあること、③占有の存在、④占有が不法行為により始まったものでないこと(295条2項)
- ・牽連関係あり(留置権成立)の例:時計修理代金と時計、売買代金と売買目的物、賃借建物の費用償還請求権と建物、建物買取請求権と土地の留置、造作買取請求権と建物の留置
- ・牽連関係なし(留置権不成立)の例:不動産二重譲渡における損害賠償請求権と当該不動産(最判昭43.11.21)、敷金返還請求権と建物(判例否定)
- ・最初は適法な占有でも後に不法占有に変わった場合は留置権を主張できない
- ・留置権には優先弁済権がない(留置的効力のみ)。あくまで「返さない」という抵抗権
留置権の対抗力・留置物の保管と使用
第298条・299条条簡単にいうと
簡単にいうと、留置権は占有している限り誰に対しても主張でき、所有者が変わっても引き続き留置できます。ただし留置物を勝手に使ったり貸したりすることはできません。
■ 留置権の対抗力
留置権の対抗力は占有によって生じます。留置権者が目的物の占有を継続している限り、目的物の所有者が誰に変わっても留置権を主張することができます。例えば、Aが時計の修理代金10万円をBに請求しBがそれを支払わないでいる間に、BがCに時計を売却したとしても、AはCに対しても留置権を主張して時計の返還を拒むことができます(判例)。これは留置権の追及効によるものです。
■ 留置物の保管義務
留置物の保管について、留置権者は留置物の保管について善管注意義務(善良な管理者の注意義務)を負います(298条1項)。善管注意義務を怠って留置物を毀損した場合には、損害賠償責任を負います。
■ 留置物の使用制限
留置物の使用について、留置権者は原則として所有者の承諾なしに留置物を使用・賃貸・担保提供することはできません(298条2項)。ただし、留置物の保存に必要な使用については所有者の承諾は不要です(298条2項但書)。所有者の承諾なく留置物を使用した場合、所有者は留置権の消滅を請求することができます(298条3項)。
■ 費用償還請求権
留置物に費用を支出した場合の扱いとして、必要費(保存のための費用)については全額を所有者に請求でき、有益費(改良のための費用)については費用または価値増加額の低い方を請求できます(299条)。
具体例
AがBに時計を修理し、修理代未払いのまま留置していた。BがCに時計を売却しても、AはCにも留置権を主張できる。ただし、Aが無断でその時計を使用したり、第三者Dに貸したりすることは原則としてできない(298条2項)。Aが無断使用した場合、Bは留置権の消滅を請求できる(298条3項)。

留置権とは・留置権の成立要件
ポイント整理
- ・留置権の対抗力:占有の継続(占有継続中は所有者の変更に関わらず対抗可)
- ・保管義務:善管注意義務(298条1項)
- ・使用の禁止:原則として所有者の承諾が必要(298条2項)
- ・例外:保存に必要な使用は承諾不要(298条2項但書)
効果
- ・占有継続中は誰に対しても留置権を主張できる(追及効)
- ・無断使用・賃貸をした場合、所有者から留置権消滅請求ができる(298条3項)
- ・必要費・有益費の支出は所有者に償還請求できる(299条)
条文(第298条・299条条)
第298条① 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。② 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。③ 留置権者が前項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
重要メモ
- ・「留置権の対抗力は占有継続(所有者変更に関わらず誰にでも主張可)」「無断使用・賃貸は禁止(298条2項)→違反すれば消滅請求可(298条3項)」の2点が頻出
- ・留置権の対抗力は占有の継続。目的物の所有者が誰に変わっても留置権を主張できる(動産・不動産問わず登記不要)
- ・留置権者は善管注意義務を負う(298条1項)。善管注意義務違反により毀損した場合は損害賠償責任
- ・留置物の使用:原則として所有者の承諾が必要(298条2項)
- ・例外:留置物の保存に必要な使用は承諾不要(298条2項但書)
- ・無断使用・無断賃貸・無断担保提供があった場合、所有者は留置権の消滅を請求できる(298条3項)
- ・必要費(保存のための費用)は全額、有益費(改良のための費用)は費用または価値増加額の低い方を所有者に請求できる(299条)
先取特権とは・先取特権の種類と順位
第303条・306条・311条・325条・329条・330条・331条条簡単にいうと
簡単にいうと、先取特権は特定の債権者が他の債権者より優先して回収できる法律上当然に発生する権利です。種類と優先順位の整理が試験のポイントです。
■ 先取特権とは
先取特権とは、法律の規定する一定の債権を有する者が、債務者の財産(全財産または特定財産)から他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利をいいます(303条)。先取特権は法定担保物権であり、当事者間の契約によらずに法律の要件を満たすことで当然に成立します。これが抵当権(約定担保物権)との最大の違いです。
■ 先取特権の3種類
先取特権は目的財産の範囲によって3種類に分かれます。①一般先取特権(306条)は、債務者の全財産(総財産)を対象として優先弁済を受ける権利であり、具体的には共益費用(307条)・雇用関係(308条)・葬式費用(309条)・日用品供給(310条)の4種類があります(この順に優先順位が高いです)。②動産先取特権(311条)は、特定の動産から優先弁済を受ける権利であり、不動産賃貸・旅館宿泊・運輸(第1順位)、動産保存(第2順位)、動産売買(第3順位)等があります(330条1項)。③不動産先取特権(325条)は、特定の不動産から優先弁済を受ける権利であり、不動産保存(第1順位)・不動産工事(第2順位)・不動産売買(第3順位)の順となっています(331条1項)。
■ 抵当権との競合
先取特権と抵当権が競合する場合、一般先取特権と抵当権では登記の先後等で優先順位が決まりますが(336条)、不動産先取特権の保存・工事は登記を備えれば抵当権にも優先する場合があります(339条)。
具体例
会社が倒産した場合、従業員の給料債権は「雇用関係の先取特権」(308条・一般先取特権2位)として、会社の全財産から一般債権者に優先して回収できる。また、動産を売却した売主は「動産売買の先取特権」(311条5号)として、売却した動産から優先回収できる。

留置権の対抗要件・留置物の保管と使用
ポイント整理
- ・法律の定める特定の債権であること(303条)
- ・一般先取特権:共益費用・雇用関係・葬式費用・日用品供給(306条)
- ・動産先取特権:311条各号の規定する債権(不動産賃貸・動産売買等)
- ・不動産先取特権:325条各号の規定する債権(不動産保存・工事・売買)
効果
- ・一般先取特権:債務者の総財産から他の一般債権者に優先して弁済を受けられる
- ・動産先取特権:特定の動産から優先弁済を受けられる
- ・不動産先取特権:特定の不動産から優先弁済を受けられる
条文(第303条・306条・311条・325条・329条・330条・331条条)
第303条 先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。第306条(一般先取特権の種類)第311条(動産先取特権の種類)第325条(不動産先取特権の種類)
重要メモ
- ・「先取特権は法定担保物権(契約不要)」「一般先取特権4種類の優先順位(共益費用>雇用関係>葬式費用>日用品供給)」「動産・不動産先取特権の各順位」を丸ごと覚えること
- ・先取特権は法定担保物権(303条)。当事者の合意なしに法律の規定により当然に成立する点が抵当権(約定担保物権)との違い
- ・一般先取特権(306条):債務者の総財産が対象。優先順位:第1位共益費用(307条)→第2位雇用関係(308条)→第3位葬式費用(309条)→第4位日用品供給(310条)
- ・動産先取特権(311条):特定の動産が対象。第1位:不動産賃貸・旅館宿泊・運輸、第2位:動産保存、第3位:動産売買(330条1項)
- ・不動産先取特権(325条):特定の不動産が対象。第1位:不動産保存、第2位:不動産工事、第3位:不動産売買(331条1項)
- ・一般先取特権と特別の先取特権が競合した場合は特別の先取特権が優先。ただし共益費用はすべての債権者に優先する(329条2項)
- ・先取特権と抵当権の競合:一般先取特権は抵当権より登記の先後等で優劣が決まる(336条)。不動産保存・工事先取特権は登記を備えれば抵当権にも優先できる(339条)
先取特権と第三取得者・先取特権の物上代位
第304条・333条条簡単にいうと
簡単にいうと、動産の先取特権は第三取得者に物を引き渡されると追いかけられなくなります(追及効の制限)。ただし代わりの金銭(転売代金等)には物上代位できる点が重要です。
■ 第三取得者に対する効力の違い
先取特権と第三取得者の関係については、不動産先取特権と動産先取特権で大きく異なります。不動産先取特権は、登記をすることにより抵当権と同様に第三取得者に対抗できます(337条・338条)。これに対して、動産先取特権は登記制度がないため、対抗力に限界があります。
■ 動産先取特権の追及効の制限
動産先取特権の追及効の制限として、333条は「先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない」と規定しています。すなわち、動産が第三者に引き渡されてしまうと、先取特権者はその動産に対して先取特権を行使できなくなります(追及効の制限)。これは動産取引の安全を保護するためのルールです。
■ 先取特権の物上代位
先取特権の物上代位については、先取特権者も抵当権者と同様に、目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭等に対して先取特権を行使できます(304条1項本文)。ただし、先取特権者は、その払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければなりません(304条1項但書)。動産売買の先取特権については、動産が第三者に転売された場合に、売主は買主(債務者)の転買主に対する代金請求権に対して物上代位できます(最判昭14.3.30)。ただし、先取特権者が対抗要件を備えた後は物上代位を行使できない場合があります。
具体例
AがBに動産(機械)を売却したが代金が未払い(動産売買の先取特権・311条5号)。BがCにその機械を転売した場合、AはBのCに対する転売代金請求権に対して物上代位(差押え必要)できる。しかし、BがCに機械を引き渡した後は、Aはその機械自体に対して先取特権を行使することはできない(333条)。

先取特権の分類
ポイント整理
- ・動産先取特権の追及効制限:第三取得者への引渡しがあったこと(333条)
- ・物上代位の行使:払渡し・引渡し前に差押えが必要(304条1項但書)
- ・不動産先取特権は登記により第三取得者にも対抗可(337条・338条)
効果
- ・動産先取特権:第三取得者に引渡し後は先取特権行使不可(333条)
- ・物上代位:売却代金・保険金・賃料等への先取特権行使可(差押え必要)
- ・不動産先取特権:登記により第三取得者にも対抗可
条文(第304条・333条条)
第304条① 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。第333条 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
重要メモ
- ・「動産先取特権は333条により第三取得者への引渡しで追及効消滅」「物上代位(304条)は差押え必要」「不動産先取特権は登記で第三取得者にも対抗可」の3点が頻出
- ・動産先取特権の追及効の制限(333条):動産が第三取得者に引き渡されると、その動産に対して先取特権を行使できなくなる。動産取引の安全保護のため
- ・333条の「引渡し」には占有改定も含まれる点に注意
- ・物上代位(304条):先取特権者も目的物の売却・賃貸・滅失・損傷による代替金銭等に先取特権を行使できる。払渡し前の差押えが必要(304条1項但書)
- ・動産売買の先取特権では、動産の転売代金債権への物上代位が可能。ただし転売代金債権が第三者に譲渡され対抗要件を備えた後は物上代位権を行使できない(最判参照)
- ・不動産先取特権(保存・工事):登記により第三取得者に対抗可(337条・338条)
- ・不動産売買先取特権:移転登記と同時に登記することで第三取得者に対抗可(340条)
- ・一般先取特権は登記なしで第三者に対抗可(336条)。動産先取特権のみ追及効に大きな制限がある
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不特定物債権において、債務者が具体的に引き渡すべき物を決定・分離することで、特定物債権に変わること。
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