第7節 担保物権
第2章 物権法
担保物権とは、債権の確実な回収を目的として、債務者や第三者の財産を担保とする物権です。金銭の貸し借りなど取引の安全を守る重要な制度で、試験では抵当権を中心に頻出します。留置権・先取特権・質権・抵当権の4つを体系的に理解することが合格の鍵です。
担保物権とは・担保物権の性質
295条・303条・342条・369条簡単にいうと
お金を貸すときに「返せなかったら土地を売っていい」と決めておくのが担保物権です。4種類あり、共通する4つの性質があります。
担保物権とは
担保物権とは、債権者が債務の弁済を確実に受けられるように、債務者または第三者の財産(不動産・動産など)に設定される物権をいいます。銀行が住宅ローンを融資する際に土地や建物を担保とするのが典型例であり、債務が弁済されない場合にはその財産を競売にかけて売却代金から優先的に回収を受けることができます。
担保物権の4種類
民法が規定する担保物権には4種類あります。第1に抵当権(369条)は不動産を担保とする最も重要な担保物権であり、設定者が引き続き不動産を使用・収益できる非占有担保です。第2に質権(342条)は動産・不動産・財産権を担保として債権者が直接占有する占有担保です。第3に先取特権(303条)は法律が定める特定の債権者に当然に認められる法定担保物権であり、当事者間の契約は不要です。第4に留置権(295条)は他人の物を占有する者がその物に関して生じた債権の弁済を受けるまで留置できる権利です。
担保物権に共通する4つの性質
担保物権に共通する4つの性質として、①付従性・②随伴性・③不可分性・④物上代位性があります。付従性とは、被担保債権が存在しなければ担保物権も成立せず、被担保債権が消滅すれば担保物権も消滅するという性質です。随伴性とは、被担保債権が譲渡されるなどして移転した場合に、担保物権もそれに伴って移転するという性質です。不可分性とは、債権者は被担保債権の全額の弁済を受けるまで目的物全体について担保物権を行使できるという性質であり、一部弁済を受けても目的物全体に対して権利行使できます。物上代位性とは、担保目的物が売却・賃貸・滅失・損傷された場合に、債務者が受けるべき金銭やその他の物(売却代金・保険金・賃料など)に対しても担保物権を行使できるという性質です(372条・304条)。ただし、物上代位を行使するには払い渡し前に差押えをすることが必要であり(304条1項但書)、留置権には物上代位性が認められない点に注意が必要です。
具体例
AがBに1000万円を貸すにあたり、BがAのためにB所有の土地に抵当権を設定した。この場合、①Bが土地を使い続けられる(非占有担保)、②BがAへの返済を怠れば土地が競売される、③Bが土地を売却した場合は売却代金にも物上代位できる(差押え必要)。
ポイント整理
- ・担保物権の4要素:付従性・随伴性・不可分性・物上代位性
- ・物上代位の行使には払渡し前の差押えが必要(304条1項但書)
- ・留置権には物上代位性なし
効果
- ・債権者は目的物から優先弁済を受けられる
- ・被担保債権が移転すれば担保物権も随伴して移転する
- ・一部弁済があっても目的物全体に担保物権が及ぶ(不可分性)
条文(295条・303条・342条・369条)
第295条(留置権)、第303条(先取特権)、第342条(質権)、第369条(抵当権)
重要メモ
- ・留置権だけ物上代位性がない点に注意
- ・4つの性質は、付従性・随伴性・不可分性・物上代位性
- ・付従性: 被担保債権が消滅すれば担保物権も消滅する。随伴性: 債権が移れば担保物権も移る
- ・不可分性: 一部の弁済を受けても目的物の全部について権利を行使できる
- ・物上代位性: 売却・賃貸・滅失・損傷による金銭に権利を行使できる。払渡し前の差押えが必要(304条1項但書)
抵当権とは・抵当権の設定
369条簡単にいうと
不動産を担保に入れながら、設定者がそのまま使い続けられるのが抵当権です。銀行の住宅ローンで使われている仕組みです。
抵当権とは
抵当権とは、債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、債権者が他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(369条1項)。
お金を貸すときに土地を担保に取っておけば、返してもらえなくても土地を競売にかけて売却代金から優先的に回収できます。
抵当権がない場合との違い
AとCがそれぞれBに1,000万円を貸しているとします。Bの土地が1,000万円で売れた場合、どちらも担保を取っていなければ、AとCは平等に500万円ずつしか回収できません。これを債権者平等の原則といいます。
これに対し、Aだけが土地に抵当権を設定していれば、Aが1,000万円を先に回収し、Cは残りがあればそこから回収することになります。
占有が移らない
抵当権の特徴は、設定者が引き続き目的物を使用し収益できる点にあります。自宅を担保に入れてもそのまま住み続けられます。質権では質権者が物を預かるので、ここが大きく違います。
目的物は不動産のほか、地上権と永小作権にも設定できます(369条2項)。
登場人物の区別
抵当権者は、融資をして抵当権の設定を受けた債権者です。抵当権設定者は、担保を差し出した側です。
自分の債務のために自分の不動産を担保にするのが普通ですが、他人の債務のために自分の不動産を担保に差し出すこともできます。この第三者を物上保証人といいます。
そして、抵当権が付いたままの不動産を買い受けた人を第三取得者といいます。この4者は事例問題でそのまま登場するので、図に書き分けられるようにしておきます。
対抗要件は登記
抵当権も物権なので、登記がなければ第三者に対抗できません(177条)。設定と同時に登記をするのが通常です。
具体例
AがBに1000万円を融資し、B所有の不動産(2000万円相当)に抵当権を設定・登記した。Bが返済できなくなったとき、Aはその不動産を競売にかけて優先的に1000万円を回収できる。一般債権者Cは残余があれば回収できるにすぎない。

抵当権とは
ポイント整理
- ・抵当権設定契約の締結(書面不要だが登記が対抗要件)
- ・目的物:不動産(土地・建物)または地上権・永小作権
- ・登記により第三者対抗力を取得(177条)
効果
- ・抵当権者は目的物の競売代金から他の債権者に優先して弁済を受けられる
- ・設定者(債務者)は引き続き目的物を使用・収益できる
- ・抵当権は被担保債権とともに移転する(随伴性)
条文(369条)
第369条① 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。② 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。
重要メモ
- ・設定者が引き続き使い続けられる非占有担保である点に注意
- ・369条1項: 占有を移転しないで提供した不動産から優先弁済を受ける権利
- ・対抗要件は登記(177条)。登記がなければ第三者に対抗できない
- ・369条2項: 地上権と永小作権にも抵当権を設定できる
- ・当事者の区別: 抵当権者・抵当権設定者・物上保証人・第三取得者
抵当権の順位
373条・374条簡単にいうと
1つの不動産に抵当権を2つ以上設定できます。競売されたときにどちらが先に回収できるかは、設定ではなく登記の先後で決まります。
順位は登記の先後で決まる
1つの不動産に対して、抵当権を2つ以上設定することもできます。抵当権も物権なので、その優劣は登記の先後で決まります(373条)。
ここで注意したいのは、設定の順番ではなく登記の順番だという点です。Aが先に抵当権の設定を受けていても、Cが先に登記をすればCの抵当権が優先します。
順位が配当を左右する
1,200万円の土地に、Aが1番抵当権(被担保債権1,000万円)、Cが2番抵当権(被担保債権1,000万円)を持っているとします。
競売で1,200万円が得られれば、1番抵当権者Aが1,000万円を回収し、2番抵当権者Cは残りの200万円しか回収できません。Cは1,000万円を貸しているのに200万円しか戻らないことになります。
抵当権を持っていても、順位が後ろであれば回収できないことがある、というのが順位の意味です。
順位の変更
抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができます(374条1項)。
ただし利害関係を有する者がいるときは、その承諾を得なければなりません(374条1項但書)。そして順位の変更は、その登記をしなければ効力を生じません(374条2項)。合意しただけでは足りない点が問われます。
具体例
土地(評価額1500万円)に1番抵当権(A・800万円)と2番抵当権(C・700万円)が設定されている。競売で1500万円が得られれば、Aが800万円、Cが700万円をそれぞれ回収できる。しかし競売で1000万円しか得られなければ、Aが800万円、Cは残り200万円しか回収できない。

抵当権の順位
ポイント整理
- ・登記の先後で優先順位が決まる(373条)
- ・順位変更には利害関係人全員の承諾が必要(374条1項但書)
- ・順位変更は登記しなければ効力を生じない(374条2項)
効果
- ・1番抵当権者が最優先で競売代金から回収できる
- ・後順位抵当権者は残余から順番に回収する
- ・合意と登記により順位変更が可能(374条)
条文(373条・374条)
第373条 同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。第374条① 抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
重要メモ
- ・設定の順番ではなく登記の順番で決まる点に注意
- ・373条: 同一の不動産に数個の抵当権が設定されたときは、登記の前後による
- ・順位が後ろだと、競売代金が足りず回収できないことがある
- ・374条1項: 順位の変更には各抵当権者の合意と、利害関係人の承諾が要る
- ・374条2項: 順位の変更は登記をしなければ効力を生じない
抵当権と第三取得者の保護
378条・379条簡単にいうと
抵当権の付いた不動産を買うと、競売で所有権を失うおそれがあります。民法は保護の方法を2つ置いていますが、どちらから言い出すかが違います。
第三取得者の立場
抵当権が付いている土地や建物を購入した人を第三取得者といいます。
第三取得者は所有権を取得しますが、その不動産には抵当権が付いたままです。抵当権が実行されて競売にかけられれば、所有権を失ってしまいます。登記の先後で決まる以上、先に登記された抵当権には勝てません。
そこで民法は、第三取得者が所有権を守るための方法を2つ用意しています。どちらが言い出す制度なのかが、区別の手がかりになります。
代価弁済(378条)
抵当不動産について所有権または地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じて、その抵当権者に代価を弁済したときは、抵当権はその第三者のために消滅します(378条)。
言い出すのは抵当権者の側です。抵当権者が「代金をこちらに払ってくれ」と請求し、第三取得者がそれに応じて払えば抵当権が消えます。
抵当権消滅請求(379条)
抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をすることができます(379条)。
今度は第三取得者の側から言い出します。第三取得者が自分で決めた金額を書面で申し出て、抵当権者がそれを承諾すれば抵当権は消滅します。抵当権者が書面の送付を受けてから2か月以内に競売の申立てをしなければ、承諾したものとみなされます(384条1号)。
使えない人がいる
主たる債務者、保証人、およびこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができません(380条)。自分で全額を支払う義務がある人が、安い金額で抵当権を消せるとすればおかしいからです。
具体例
AのBに対する1000万円の貸金債権を担保するために、B所有の不動産(時価1500万円)に抵当権が設定された。その後、Cがその不動産を1200万円で購入した(第三取得者)。Aから代価弁済の請求があれば、Cが1200万円をAに払うことで抵当権が消滅する(378条)。あるいはCから抵当権消滅請求を行い、Aが承諾すれば抵当権が消滅する(379条)。

抵当権と第三取得者の関係
ポイント整理
- ・代価弁済(378条): 所有権または地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じて代価を弁済すること
- ・抵当権消滅請求(379条): 第三取得者が書面で申し出て、抵当権者が承諾すること
- ・抵当権者が書面の送付を受けてから2か月以内に競売を申し立てなければ、承諾したものとみなされること(384条1号)
- ・主たる債務者・保証人・これらの承継人は抵当権消滅請求ができないこと(380条)
効果
- ・代価弁済:第三取得者が代価を支払うことで抵当権消滅
- ・抵当権消滅請求:第三取得者提示額で合意成立時に抵当権消滅
- ・いずれも第三取得者が所有権を確定的に取得できる
条文(378条・379条)
第378条(代価弁済)抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権はその第三者のために消滅する。第379条(抵当権消滅請求)抵当不動産の第三取得者は、第383条の書面を抵当権者に送付して、抵当権の消滅を請求することができる。
重要メモ
- ・代価弁済は抵当権者から、抵当権消滅請求は第三取得者から言い出す点に注意
- ・378条: 所有権または地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じて代価を弁済すれば抵当権は消滅する
- ・379条: 第三取得者の側から抵当権消滅請求ができる
- ・384条1号: 書面の送付を受けてから2か月以内に競売の申立てがなければ承諾したものとみなす
- ・380条: 主たる債務者・保証人・これらの承継人は抵当権消滅請求ができない
抵当権の効力範囲・利息の制限
370条・375条簡単にいうと
抵当権の効力がどこまで及ぶかと、利息は何年分まで優先されるかの2つを扱います。土地の抵当権がその上の建物に及ばない点が出発点です。
付加一体物に及ぶ
抵当権の効力は、抵当不動産に付加して一体となっている物に及びます(370条本文)。建物に固定して取り付けられた設備などがこれにあたります。
ここで押さえておきたいのが、条文が「抵当地の上に存する建物を除き」と定めている点です。土地に抵当権を設定しても、その土地の上に建っている建物には抵当権の効力は及びません。土地と建物は別個の不動産として扱われるからです。
効力が及ばない場合
370条但書は、効力が及ばない場合を2つ定めています。設定行為に別段の定めがある場合と、債務者の行為について詐害行為取消請求をすることができる場合です。
当事者が「この設備は対象外とする」と決めていればそれに従い、また債務者が抵当権者を害する意図で付加した場合には効力が及ばない、ということです。
利息は最後の2年分だけ
抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、抵当権を行使することができます(375条1項本文)。
なぜ制限するのかというと、後順位抵当権者を守るためです。利息が無制限に優先されると、利息がふくらむほど後順位抵当権者の取り分が削られ、いくら担保を取っても安心できなくなります。
ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時から抵当権を行使することができます(375条1項但書)。
後順位抵当権者がいない場合
375条は後順位抵当権者などを守るための規定なので、守るべき相手がいなければ制限する理由がありません。後順位抵当権者がいなければ、抵当権者は元本と2年分を超える利息を土地から回収できます。
逆に、債務者の側から「元本と2年分の利息を払うから抵当権を消してくれ」という都合のよい主張をすることはできません。
具体例
AがBに1,000万円を貸し、利息5年分200万円が生じているとします。Bの土地に後順位抵当権者Cがいる場合、Aが抵当権によって優先回収できるのは元本1,000万円と最後の2年分の利息までです。これに対しCがいなければ、Aは5年分の利息も土地から回収できます。また、土地に抵当権を設定していても、その土地の上に建つ建物には抵当権の効力は及びません。

抵当権の効力(定期金の範囲と後順位者保護)
ポイント整理
- ・抵当不動産に付加して一体となっている物であること(370条本文)
- ・抵当地の上に存する建物は対象から除かれること(370条本文)
- ・設定行為に別段の定めがある場合と、詐害行為取消請求ができる場合は及ばないこと(370条但書)
効果
- ・付加一体物に抵当権の効力が及びます
- ・利息その他の定期金は、満期となった最後の2年分についてのみ抵当権を行使できます(375条1項本文)
- ・それ以前の定期金も、満期後に特別の登記をすればその時から行使できます(375条1項但書)
- ・後順位抵当権者がいない場合は、2年分を超える利息も回収できます
条文(370条・375条)
第375条第1項(抵当権の被担保債権の範囲)抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
重要メモ
- ・土地の抵当権はその上の建物には及ばない点に注意
- ・370条本文: 抵当地の上に存する建物を除き、付加して一体となっている物に及ぶ
- ・370条但書: 設定行為に別段の定めがある場合と、詐害行為取消請求ができる場合は及ばない
- ・375条1項: 利息は満期となった最後の2年分のみ。特別の登記をすればそれ以前の分も行使できる
- ・後順位抵当権者がいなければ2年分を超える利息も回収できる。債務者からの主張はできない
物上代位
372条・304条簡単にいうと
担保の目的物が火事で焼けても、代わりに入ってくる保険金に抵当権を行使できます。ただし払われる前に差押えをする必要があります。
物上代位とは
物上代位とは、担保目的物が売却・賃貸・滅失・損傷された場合に、担保権者がその目的物の代わりとなる金銭やその他の物(売却代金・賃料・保険金等)に対しても担保権を行使できる制度をいいます(372条・304条)。抵当権のほか、先取特権・質権にも認められますが、留置権には認められません。
差押えの要件
物上代位を行使するためには、目的物の代わりとなる金銭等が払い渡されまたは引き渡される前に、差押えをしなければなりません(304条1項但書)。差押えが必要とされる理由は、第三債務者の二重払いのリスクを防ぎ、一般債権者との優先関係を明確にするためです。
物上代位が認められる場面
物上代位が認められる具体的な場面として、①目的物の売却による代金請求権(転売代金)、②目的物の滅失・損傷によって債務者が受けるべき保険金請求権(火災保険金など)、③抵当不動産の賃料債権があります。これに対して、転貸料債権については原則として物上代位が認められないとされています。抵当権の登記と一般債権者の差押えが競合した場合、抵当権の登記が先であれば抵当権者が優先します(最判平10.1.30)。これは抵当権者が登記により公示されており、一般債権者はその存在を知り得る状態にあるためです。
具体例
AがBの土地・建物に抵当権を設定していた。その建物が火災で全焼し、Bが火災保険金1000万円を受け取る予定となった。Aは保険金が支払われる前に差押えをすれば、その保険金に対して抵当権(物上代位)を行使して優先的に回収できる。

物上代位の仕組みと要件
ポイント整理
- ・目的物が売却・賃貸・滅失・損傷されたこと
- ・債務者が金銭等を受け取るべき権利(代金請求権・保険金請求権・賃料債権等)が生じたこと
- ・払渡し・引渡し前に差押えをすること(304条1項但書)
効果
- ・抵当権者は代わりの金銭等から優先弁済を受けられる
- ・差押えにより第三債務者はその抵当権者に弁済しなければならない
- ・抵当権登記が先なら一般債権者の差押えに優先する(最判平10.1.30)
条文(372条・304条)
第304条① 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。第372条(抵当権への準用)
重要メモ
- ・払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければならない点に注意
- ・304条1項但書: 払渡しまたは引渡しの前に差押えをすることが必要
- ・賃料債権には物上代位できるが、転貸賃料債権には原則としてできない(最決平12.4.14)
- ・一般債権者の差押えと競合したときは、抵当権の登記と差押えの早いほうが優先する(最判平10.1.30)
- ・留置権には物上代位性がない
抵当権の侵害・妨害排除請求権
第明文の規定はなく、判例によって認められる条簡単にいうと
抵当不動産が不法占拠されても、原則として抵当権者は妨害排除を請求できません。例外が認められるのはどういう場合かを見ていきます。
原則は妨害排除を請求できない
抵当権には不動産を使用する権限がありません。抵当権者が持っているのは、競売して優先的に回収する権利だけです。
そのため、抵当不動産が第三者に不法占拠されていても、抵当権にもとづく妨害排除請求はできないのが原則です。占有を回復しても抵当権者が使うわけではないからです。
例外として認められる場合
しかし、不法占拠のせいで誰も競落しようとせず、競売が成り立たなくなることがあります。そうなると抵当権者は回収できません。
判例は、第三者が抵当不動産を不法占有することによって、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権にもとづく妨害排除請求ができるとしました(最大判平11.11.24)。
単に占拠されているだけでは足りません。それによって競売が実質的に難しくなっていることが必要です。
賃借人の場合
占有しているのが不法占拠者ではなく賃借人であっても、その賃貸借契約が競売手続の妨害のために結ばれたものであった場合には、同じように抵当権にもとづく妨害排除請求権を行使できます(最判平17.3.10)。
形だけ賃貸借にしておけば妨害排除を免れる、ということにはなりません。
誰に明け渡させるか
明渡しを求める先についても判例があります。抵当不動産の所有者が抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は直接自己に明渡しを求めることができます(最判平17.3.10)。
抵当権者は所有者ではないので本来は所有者に明け渡させるのが筋ですが、所有者に任せても状況が改善しない場合には直接の明渡しが認められます。
具体例
AがBの土地・建物に抵当権を設定していたところ、暴力団員Cが建物を不法占拠し、誰も競落しない状態となった(競売が事実上不可能な状態)。この場合、Aは優先弁済権の行使が困難であることを理由に、Cに対して抵当権に基づく妨害排除請求ができる(最大判平11.11.24)。

抵当権の侵害と妨害排除請求権
ポイント整理
- ・第三者による不法占拠の存在
- ・不法占拠により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられること
- ・抵当権者の優先弁済権行使が困難となるような状態があること
効果
- ・要件を満たせば抵当権者は第三者に対し妨害排除請求できる
- ・抵当権者への直接の明渡しを求めることができる
- ・要件を満たさない単純な不法占拠の場合は請求不可
条文(第明文の規定はなく、判例によって認められる条)
最大判平11.11.24:抵当権者は、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて優先弁済権の行使が困難となる状態があれば、抵当権に基づく妨害排除請求権を行使できる。
重要メモ
- ・占拠されているだけでは足りず、競売が実質的に困難であることが要る点に注意
- ・原則として抵当権には使用の権限がないため、妨害排除請求はできない
- ・交換価値の実現が妨げられ、優先弁済権の行使が困難な状態なら請求できる(最大判平11.11.24)
- ・賃貸借契約が競売手続の妨害のために結ばれたものなら、賃借人にも請求できる(最判平17.3.10)
- ・所有者による適切な維持管理が期待できない場合は、直接自己への明渡しを求められる(最判平17.3.10)
法定地上権
388条簡単にいうと
競売で土地と建物の所有者が別々になったとき、建物のために土地の利用権が自動的に生じる制度です。4つの要件の判定が中心になります。
法定地上権とは
土地と建物を同じ人が持っている場合、自分の土地に自分の建物が建っているだけなので、地上権や賃借権を設定する必要はありません。
ところが抵当権が実行されると、土地だけ、あるいは建物だけが競落され、土地と建物の所有者が別々になることがあります。このとき建物の所有者には土地を使う権利がないため、不法占拠者として立退きを求められてしまいます。
それでは建物を取り壊すしかなくなり、社会的な損失も大きくなります。そこで、一定の要件を満たせば土地に地上権が自動的に成立することにしました。これが法定地上権です(388条)。
4つの成立要件
第1に、抵当権の設定当時に建物が存在していたことです。
第2に、抵当権の設定当時に土地と建物が同一の所有者に属していたことです。
第3に、土地と建物の一方または双方に抵当権が設定されていることです。
第4に、競売が行われて、土地と建物が別々の所有者になったことです。
要件1をめぐる3つの場面
更地に抵当権が設定された後に建物が建てられた場合は、設定当時に建物がないので成立しません(大判大4.7.1)。
土地に抵当権が設定された後に建物を取り壊し、建物が再築された場合は成立します(大判昭10.8.10)。設定当時に建物があったからです。
これに対し、土地および地上建物に共同抵当権が設定された後に、その建物が取り壊されて新たに建物が建築された場合は成立しません(最判平9.2.14)。要件1を満たしていても成立しない唯一の場面として押さえます。
要件2をめぐる2つの場面
設定当時は同一の所有者だったが、その後に別々の所有者になった場合は成立します(大判大12.12.14)。
設定当時は別人だったが、その後に同一の所有者になった場合は成立しません(最判昭44.2.14)。要件2には例外がなく、設定当時に満たしているかどうかだけで決まります。
抵当権者が複数いる場合
1番抵当権者を基準に考えます。土地に抵当権を設定した1番抵当権者にとっては、法定地上権が成立すると土地の価値が下がって困るため、成立させません(最判平2.1.22)。建物に抵当権を設定した1番抵当権者にとっては、法定地上権が成立しても建物の価値が上がるので困りません。そのため成立させます(大判昭14.7.26)。
土地や建物が共有の場合
建物が共有の場合は成立し、土地が共有の場合は成立しません。土地について法定地上権が成立すると土地の価値が下がるため、土地の共有者を巻き込めないからです。
具体例
BがB所有の土地・建物のうち土地だけにAのために抵当権を設定した。その後、BのAへの返済が滞り、Aが土地を競売にかけてCが落札した。この時点でCが土地所有者、Bが建物所有者となり、Bは法定地上権(388条)によって引き続き土地を利用できる。

法定地上権の成立要件と効果
ポイント整理
- ・抵当権設定当時に建物が存在していたこと
- ・抵当権設定当時に土地・建物が同一の所有者に属していたこと
- ・土地または建物(一方または双方)に抵当権が設定されていたこと
- ・競売の結果、土地と建物が別々の所有者となったこと
効果
- ・建物所有者は法律上当然に地上権を取得し、土地を使用・収益できる
- ・地上権は登記なく競落人に対抗できる(388条の法定効果)
- ・地代は当事者間の合意、合意できなければ裁判所が定める
条文(388条)
第388条 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。
重要メモ
- ・4要件のうち、設定当時に建物があったか、設定当時に同一所有者だったかが中心
- ・要件は、設定当時に建物が存在、設定当時に同一所有者、一方または双方に抵当権、競売で別所有者(388条)
- ・要件1を満たしても成立しないのは、共同抵当の建物を取り壊して新築した場合だけ(最判平9.2.14)
- ・要件2に例外はない。設定当時に別人なら、後で同一所有者になっても成立しない(最判昭44.2.14)
- ・抵当権者が複数なら1番抵当権者が基準。土地なら成立させず、建物なら成立させる
土地と建物の一括競売
389条簡単にいうと
土地に抵当権を設定した後に建物が建てられた場合の話です。法定地上権は成立しませんが、土地と建物をまとめて競売にかけられます。
なぜ一括競売が必要か
土地に抵当権を設定した後に、その土地の上に建物が建てられることがあります。この場合、抵当権の設定当時に建物がなかったので法定地上権は成立しません。
すると土地を競落した人は、建物の所有者に対して退去を求めることになります。しかし裁判の費用も時間もかかるため、そんな土地は誰も買いたがりません。結局、抵当権者も回収できなくなってしまいます。
一括競売(389条1項)
そこで民法は、抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は土地とともにその建物を競売することができる、としました(389条1項本文)。
最初から土地と建物をまとめて競売にかけ、同じ人に買ってもらえば、退去を求める手間が省けます。
優先権は土地の代価だけ
ただし、抵当権者の優先権は土地の代価についてのみ行使することができます(389条1項但書)。抵当権が設定されているのは土地だけなので、建物の代価から優先弁済を受けることはできません。
建物も一緒に売ってよいが、取り分は土地の分だけ、ということです。
するかどうかは選べる
条文は「競売することができる」と定めています。義務ではないので、抵当権者は土地だけを競売することもできます。
適用されない場合
建物の所有者が抵当地を占有することについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、一括競売の規定は適用されません(389条2項)。
正当な権利にもとづいて土地を使っている建物所有者を、巻き込んで競売にかけるわけにはいかないからです。
具体例
AがBの更地に抵当権を設定した後、Bがその土地の上に建物を建てたとします。Bが返済できなくなった場合、Aは土地と建物を一括して競売にかけることができます。Cが土地1,000万円・建物300万円で落札したとしても、Aが優先弁済を受けられるのは土地の代価1,000万円からだけです。なお、Aは土地だけを競売することも選べます。

土地と建物の一括競売(民法389条1項)
ポイント整理
- ・抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたこと(389条1項本文)
- ・建物の所有者が、抵当地の占有について抵当権者に対抗できる権利を有していないこと(389条2項)
効果
- ・抵当権者は土地とともにその建物を競売することができます(389条1項本文)
- ・優先権は土地の代価についてのみ行使できます(389条1項但書)
- ・一括競売をするかどうかは抵当権者が選べます
- ・建物所有者が対抗できる権利を持つ場合は適用されません(389条2項)
条文(389条)
第389条第1項(抵当地の上の建物の競売)抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。
重要メモ
- ・一括競売はできるが、優先権は土地の代価だけである点に注意
- ・389条1項本文: 設定後に抵当地に建物が築造されたとき、土地とともに競売できる
- ・389条1項但書: 優先権は土地の代価についてのみ行使できる
- ・条文は「できる」と定めており、土地だけを競売することも選べる
- ・389条2項: 建物所有者が抵当地の占有を抵当権者に対抗できる権利を持つ場合は適用されない
抵当権と賃借権・建物明渡し猶予制度
387条・395条簡単にいうと
抵当権の付いた建物を借りている人は、競売されると明け渡さなければなりません。その代わりに6か月の猶予が用意されています。
抵当権設定後の賃貸借は対抗できない
抵当権が設定されている土地や建物を誰かに貸すことはできます。しかし、借主は自分の賃借権を抵当権者に主張することができません。抵当権の登記のほうが先だからです。
そのため抵当権が実行されると、借主は買受人に明け渡さなければなりません。これでは借り手がつかなくなってしまいます。
抵当権者の同意の登記(387条)
そこで民法は、登記をした賃貸借について、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつその同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる、としました(387条1項)。
必要なのは3つです。賃貸借の登記があること、先に登記したすべての抵当権者が同意すること、そして同意の登記があることです。合意だけでは足りず、登記まで必要になります。
なお、抵当権者が同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者など、同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければなりません(387条2項)。転抵当権者などがこれにあたります。
建物明渡し猶予制度(395条)
抵当権が設定されている建物を借りて住んでいる人は、抵当権が実行されれば立ち退かなければなりません。これでは安心して住めません。
そこで、抵当権者に対抗することができない賃貸借により建物を使用または収益する者のうち、競売手続の開始前から使用または収益をする者などは、買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは建物を買受人に引き渡さなくてよいとされました(395条1項)。
引越し先を探す時間を確保するための猶予です。
猶予が認められない場合
ただしタダで住み続けられるわけではありません。買受人が、買受けの時より後の建物使用の対価について、相当の期間を定めてその1か月分以上の支払を催告し、その期間内に支払がないときは、猶予の規定は適用されません(395条2項)。
過去問では、1か月分以上の支払を催告しても支払われなかった事案で「買受け後6か月を経過した後に明渡しを求めることができる」と出題され、誤りとされました。6か月を待たずに明渡しを求められるからです。
具体例
AがBの建物に抵当権を設定して登記した後、BがCに建物を貸したとします。Aが抵当権を実行してDが建物を買い受けた場合、Cの賃借権はAに対抗できないため、CはDに明け渡さなければなりません。ただしCが競売手続の開始前から住んでいたのであれば、Dの買受けの時から6か月間は引き渡さなくてすみます。もっとも、DがCに相当の期間を定めて1か月分以上の使用の対価の支払を催告し、Cが支払わなければ、6か月を待たずに明渡しを求められます。

抵当権と賃借権の関係

建物明渡し猶予制度
ポイント整理
- ・387条1項: 賃貸借の登記があること、先に登記したすべての抵当権者の同意があること、同意の登記があること
- ・387条2項: 抵当権者の同意には、不利益を受けるべき者の承諾が必要であること
- ・395条1項: 抵当権者に対抗できない賃貸借で、競売手続の開始前から使用または収益をする者であること
効果
- ・同意の登記があれば、賃借権は同意をした抵当権者に対抗できます(387条1項)
- ・買受けの時から6か月を経過するまでは建物を引き渡さなくてよい(395条1項)
- ・1か月分以上の使用の対価の支払を催告され、支払わなければ猶予は適用されません(395条2項)
条文(387条・395条)
第387条① 登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有する全ての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。第395条① 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって…買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
重要メモ
- ・猶予は6か月で、対価を払わなければ猶予されない点に注意
- ・387条1項: 賃貸借の登記、先順位抵当権者全員の同意、同意の登記の3つが要る
- ・387条2項: 同意には、転抵当権者など不利益を受けるべき者の承諾が必要
- ・395条1項: 買受けの時から6か月を経過するまでは引き渡さなくてよい
- ・395条2項: 1か月分以上の対価の支払を催告され応じなければ、6か月を待たず明渡しとなる
質権とは・動産質・不動産質
342条・352条・353条・356条簡単にいうと
物を預けて担保にするのが質権です。質屋に時計を預けてお金を借りる形で、動産質と不動産質でルールが分かれます。
質権とは
質権とは、債権者が債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を占有し、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(342条)。
いわゆる質屋がこれです。時計を預かって100万円を貸し、返済があるまで時計を返さず、返済がなければ時計を売って回収します。
抵当権との最大の違いは占有が移る点です。抵当権では設定者が不動産を使い続けられますが、質権では質権者が物を預かります。
引渡しがなければ成立しない
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生じます(344条)。合意だけでは足りません。
ここで注意したいのが、質権者は質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない点です(345条)。つまり占有改定による引渡しでは質権は設定されません。預かったことにして相手の手元に置いたままでは、担保としての意味がないからです。
動産質
動産質の対抗要件は占有の継続です(352条)。質物の占有を失うと第三者に対抗できなくなります。
質権者が質物を奪われた場合、占有回収の訴えによって取り戻すことができますが、質権にもとづく返還請求はできません(353条)。
また、動産質権者は設定者の承諾がなければ質物を使用したり収益したりできません(298条2項・350条)。保存に必要な使用は例外です。
不動産質
不動産質の対抗要件は登記です(177条)。登記があれば、奪われたときに質権にもとづく返還請求ができます。
不動産質権者は、設定者の承諾がなくても質物を使用し収益することができます(356条)。動産質との大きな違いです。
その代わり、不動産質権者はその債権の利息を請求することができません(358条)。使用収益が利息の代わりになっている、という関係です。
具体例
AがBに100万円を貸し、Bが所有するブランドバッグを質権の目的として引き渡した(動産質)。BがAへの返済を怠った場合、Aはそのバッグを競売にかけて100万円を優先回収できる。Aはバッグを使用するにはBの承諾が必要。

質権とは・動産質と不動産質
ポイント整理
- ・質権設定契約の締結(合意)
- ・目的物の引渡し(344条・要物契約)
- ・動産質の対抗要件:占有の継続(352条)
- ・不動産質の対抗要件:登記(177条)
効果
- ・質権者は弁済を受けるまで質物を留置できる
- ・質権者は他の債権者に優先して弁済を受けられる
- ・動産質:質権者の使用収益には設定者の承諾が必要(298条2項・350条)
- ・不動産質:質権者は設定者の承諾なく使用収益できる(356条)
条文(342条・352条・353条・356条)
第342条 質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。第344条 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
重要メモ
- ・占有改定による引渡しでは質権を設定できない点に注意
- ・344条: 質権の設定は目的物を引き渡すことによって効力を生じる
- ・345条: 質権者は設定者に自己に代わって質物を占有させることができない
- ・動産質は占有の継続が対抗要件で、使用収益には設定者の承諾が要る(352条・350条)
- ・不動産質は登記が対抗要件で、承諾なく使用収益できるが利息は請求できない(356条・358条)
留置権とは・成立要件
295条簡単にいうと
修理代を払ってもらうまで時計を返さない、という形で働くのが留置権です。契約がなくても法律上当然に発生します。
留置権とは
留置権とは、他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる権利をいいます(295条1項)。留置権は法律の定める要件を充たすことで当然に成立する法定担保物権であり、当事者間の合意は不要です。また、動産・不動産を問わず、様々な物に成立しうます。
成立要件(4つ)
留置権の成立要件は4つあります。第1に、債権と目的物との間に牽連関係があること(目的物に関して生じた債権であること)が必要です。牽連関係の典型例は修理代金と修理された物(時計の修理代金と時計)です。これに対して、判例は土地の二重譲渡においてCが先に登記を備えた場合にAが主張する損害賠償請求権と土地との間に牽連関係はないとして留置権の成立を否定しました(最判昭43.11.21)。第2に、債権が弁済期にあることが必要です(295条1項本文)。第3に、留置権者が目的物を占有していることが必要です。第4に、占有が不法行為によって始まったものでないことが必要です(295条2項)。
牽連関係の判断基準
牽連関係の判断は実務・試験ともに重要であり、「目的物から生じた債権」または「目的物の引渡請求権と同一の法律関係・事実関係から生じた債権」に牽連関係が認められると解されています。例えば、売買代金債権と目的物(売主が売買代金を受け取るまで物を留置できる)には牽連関係が認められます。
具体例
AがBに時計の修理を依頼し、修理代金(牽連関係あり)を支払わなかった場合、Aは修理代金の弁済を受けるまで時計を留置できる(295条1項)。一方、AがBに土地を売却したが、Cが先に登記を備えて所有権を取得した場合、BのAへの損害賠償債権と土地には牽連関係がなく留置権は成立しない(最判昭43.11.21)。

留置権とは・留置権の成立要件
ポイント整理
- ・① 債権と目的物との間に牽連関係があること(目的物に関して生じた債権)
- ・② 債権が弁済期にあること(295条1項本文)
- ・③ 留置権者が目的物を占有していること
- ・④ 占有が不法行為によって始まったものでないこと(295条2項)
効果
- ・債権の弁済を受けるまで目的物を留置(返還を拒否)できる
- ・留置権は目的物を占有し続ける限り存続する
- ・優先弁済権はない(留置的効力のみ)
条文(295条)
第295条① 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。② 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。
重要メモ
- ・牽連関係があるかどうかで結論が決まる点に注意
- ・4要件は、牽連関係、債権が弁済期にあること、他人の物の占有、占有が不法行為で始まっていないこと(295条)
- ・牽連関係あり: 修理代金と修理した物、賃借建物の費用償還請求権と建物、建物買取請求権と土地
- ・牽連関係なし: 造作買取請求権と建物、二重譲渡の損害賠償債権と不動産(最判昭43.11.21)
- ・最初は適法な占有でも、後に不法な占有に変わった場合は留置権を主張できない
留置権の対抗力・留置物の保管と使用
298条・299条簡単にいうと
留置権は占有している限り誰に対しても主張でき、所有者が変わっても引き続き留置できます。ただし留置物を勝手に使ったり貸したりすることはできません。
対抗要件は占有
留置権の対抗要件は物の占有です。占有が続いている限り、所有者が変わっても留置権を主張できます。
Aが時計を修理して代金10万円を受け取っていない間に、Bがその時計をCに売ったとします。AはCに対しても留置権を主張して、時計の返還を拒むことができます。
これは債権法で学ぶ同時履行の抗弁権との違いになります。同時履行の抗弁権は契約の相手方に対する抗弁なので、所有者が変わると主張できません。留置権は物権なので、物を持っている限り誰に対しても主張できます。
善管注意義務
留置権者は、善良な管理者の注意をもって留置物を占有しなければなりません(298条1項)。自分の物より注意して扱いなさい、という意味です。これを怠って留置物を傷つければ損害賠償の責任を負います。
使用には承諾が要る
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、または担保に供することができません(298条2項本文)。
ただし、その物の保存に必要な使用をすることは承諾なしにできます(298条2項但書)。車を長く置いておくとエンジンが傷むので時々動かす、といった場面です。
承諾なく使用などをした場合、債務者は留置権の消滅を請求することができます(298条3項)。留置権が消えれば物を返してもらえます。
費用の償還
留置権者が留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができます(299条1項)。
有益費については、価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従って、支出した金額または増価額を償還させることができます(299条2項)。選ぶのは所有者であって、低いほうに自動的に決まるわけではありません。
具体例
AがBに時計を修理し、修理代未払いのまま留置していた。BがCに時計を売却しても、AはCにも留置権を主張できる。ただし、Aが無断でその時計を使用したり、第三者Dに貸したりすることは原則としてできない(298条2項)。Aが無断使用した場合、Bは留置権の消滅を請求できる(298条3項)。

留置権の対抗要件・留置物の保管と使用
ポイント整理
- ・留置権の対抗力:占有の継続(占有継続中は所有者の変更に関わらず対抗可)
- ・保管義務:善管注意義務(298条1項)
- ・使用の禁止:原則として所有者の承諾が必要(298条2項)
- ・例外:保存に必要な使用は承諾不要(298条2項但書)
効果
- ・占有継続中は誰に対しても留置権を主張できる(追及効)
- ・無断使用・賃貸をした場合、所有者から留置権消滅請求ができる(298条3項)
- ・必要費・有益費の支出は所有者に償還請求できる(299条)
条文(298条・299条)
第298条① 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。② 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。③ 留置権者が前項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
重要メモ
- ・占有が続いていれば所有者が変わっても主張できる点に注意
- ・298条1項: 留置権者は善良な管理者の注意をもって留置物を占有する
- ・298条2項: 使用・賃貸・担保提供には債務者の承諾が要る。保存に必要な使用は除く
- ・298条3項: 承諾なく使用などをすれば、債務者は留置権の消滅を請求できる
- ・299条2項: 有益費は増価が現存する限り、所有者の選択により支出額または増価額を償還させる
先取特権とは・先取特権の種類と順位
303条・306条・311条・325条・329条・330条・331条簡単にいうと
法律が定めた一定の債権者が、ほかの債権者に優先して回収できる権利です。3つの種類と、それぞれの順位を分けて見ていきます。
先取特権とは
先取特権とは、法律の規定する一定の債権を有する者が、債務者の財産(全財産または特定財産)から他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利をいいます(303条)。先取特権は法定担保物権であり、当事者間の契約によらずに法律の要件を満たすことで当然に成立します。これが抵当権(約定担保物権)との最大の違いです。
先取特権の3種類
先取特権は目的財産の範囲によって3種類に分かれます。①一般先取特権(306条)は、債務者の全財産(総財産)を対象として優先弁済を受ける権利であり、具体的には共益費用(307条)・雇用関係(308条)・葬式費用(309条)・日用品供給(310条)の4種類があります(この順に優先順位が高いです)。②動産先取特権(311条)は、特定の動産から優先弁済を受ける権利であり、不動産賃貸・旅館宿泊・運輸(第1順位)、動産保存(第2順位)、動産売買(第3順位)等があります(330条1項)。③不動産先取特権(325条)は、特定の不動産から優先弁済を受ける権利であり、不動産保存(第1順位)・不動産工事(第2順位)・不動産売買(第3順位)の順となっています(331条1項)。
抵当権との競合
先取特権と抵当権が競合する場合、一般先取特権と抵当権では登記の先後等で優先順位が決まりますが(336条)、不動産先取特権の保存・工事は登記を備えれば抵当権にも優先する場合があります(339条)。
具体例
会社が倒産した場合、従業員の給料債権は「雇用関係の先取特権」(308条・一般先取特権2位)として、会社の全財産から一般債権者に優先して回収できる。また、動産を売却した売主は「動産売買の先取特権」(311条5号)として、売却した動産から優先回収できる。

先取特権の分類
ポイント整理
- ・法律の定める特定の債権であること(303条)
- ・一般先取特権:共益費用・雇用関係・葬式費用・日用品供給(306条)
- ・動産先取特権:311条各号の規定する債権(不動産賃貸・動産売買等)
- ・不動産先取特権:325条各号の規定する債権(不動産保存・工事・売買)
効果
- ・一般先取特権:債務者の総財産から他の一般債権者に優先して弁済を受けられる
- ・動産先取特権:特定の動産から優先弁済を受けられる
- ・不動産先取特権:特定の不動産から優先弁済を受けられる
条文(303条・306条・311条・325条・329条・330条・331条)
第303条 先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。第306条(一般先取特権の種類)第311条(動産先取特権の種類)第325条(不動産先取特権の種類)
重要メモ
- ・一般・動産・不動産の3種類と、それぞれの順位を分けて覚える
- ・303条: 法律の定める債権者が債務者の財産から優先弁済を受ける法定担保物権
- ・一般先取特権(306条)の順位は、共益費用・雇用関係・葬式費用・日用品供給(329条1項)
- ・動産先取特権(311条)の順位は、不動産賃貸や旅館宿泊や運輸・動産保存・動産売買(330条1項)
- ・不動産先取特権(325条)の順位は、不動産保存・不動産工事・不動産売買(331条1項)
先取特権と第三取得者・先取特権の物上代位
304条・333条簡単にいうと
動産の先取特権は、第三取得者に引き渡されると追いかけられなくなります。その代わり、転売代金などには物上代位ができます。
不動産と動産で扱いが違う
不動産先取特権は、抵当権と同じように登記をすることができます。登記をすれば第三取得者にも対抗できます。
これに対して動産の先取特権には登記の制度がありません。外から見て先取特権が付いているかどうかが分からないため、そのまま追いかけられるとすると動産の取引が成り立たなくなります。
動産が引き渡されると行使できない
そこで民法は、先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができないと定めました(333条)。
一度引き渡されてしまえば、もうその動産を追いかけられません。これを追及効の制限といいます。
ここでいう引渡しには占有改定も含まれます。現実に動かなくても、占有改定がされた時点で先取特権は行使できなくなります。即時取得の引渡しに占有改定が含まれないのと逆になるので、混同しやすいところです。
先取特権の物上代位
先取特権にも物上代位が認められています(304条1項)。先取特権者は、その目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、先取特権を行使することができます。
ただし、その払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければなりません(304条1項但書)。ここは抵当権の物上代位と同じです。
動産が転売された場合
AがBに動産を売り、代金が未払いのままBがCに転売したとします。Aはその動産そのものには先取特権を行使できませんが(333条)、BがCに対して持っている売却代金債権には物上代位できます。
もっとも、その代金債権が第三者に譲渡され、譲受人が対抗要件を備えた後は、物上代位をすることができません。
過去問では、転売代金債権が譲渡され譲受人が対抗要件を備えた場合について「第三取得者がその譲受人に転売代金を弁済していない限り物上代位権を行使できる」と出題され、誤りとされました。
具体例
AがBに動産(機械)を売却したが代金が未払い(動産売買の先取特権・311条5号)。BがCにその機械を転売した場合、AはBのCに対する転売代金請求権に対して物上代位(差押え必要)できる。しかし、BがCに機械を引き渡した後は、Aはその機械自体に対して先取特権を行使することはできない(333条)。

先取特権と第三取得者・先取特権と物上代位
ポイント整理
- ・動産先取特権の追及効制限:第三取得者への引渡しがあったこと(333条)
- ・物上代位の行使:払渡し・引渡し前に差押えが必要(304条1項但書)
- ・不動産先取特権は登記により第三取得者にも対抗可(337条・338条)
効果
- ・動産先取特権:第三取得者に引渡し後は先取特権行使不可(333条)
- ・物上代位:売却代金・保険金・賃料等への先取特権行使可(差押え必要)
- ・不動産先取特権:登記により第三取得者にも対抗可
条文(304条・333条)
第304条① 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。第333条 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
重要メモ
- ・動産が引き渡されると先取特権を行使できなくなる点に注意
- ・333条: 第三取得者に引き渡された後は、その動産について行使できない
- ・333条の引渡しには占有改定が含まれる。即時取得の引渡しとは逆になる
- ・304条1項: 売却・賃貸・滅失・損傷による金銭にも行使できる。払渡し前の差押えが必要
- ・目的債権が譲渡され譲受人が対抗要件を備えた後は、物上代位をすることができない
まとめ
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