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テキスト/民法/第2節 不動産物権変動

第2節 不動産物権変動

第2章 物権法

不動産物権変動は、土地・建物の所有権が移転したり、抵当権が設定されたりする場合のルールです。民法では対抗要件として登記が必要とされ、登記を備えなければ第三者に権利を主張できません。取消し・解除・相続など、物権変動が生じる場面ごとに第三者との関係が変わるため、場面を正確に区別することが重要です。行政書士試験で最も出題される分野の一つです。

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不動産物権変動総説・177条の基本ルール

177条

簡単にいうと

簡単にいうと、不動産を買っても「登記」をしないと第三者に「自分の物だ」と主張できません。177条の「登記が対抗要件」というルールがポイントです。

■ 177条の基本ルール

不動産に関する物権の得喪および変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従い、登記をしなければ第三者に対抗することができません(177条)。これが不動産物権変動の大原則であり、「登記なくして対抗力なし」という考え方の根拠となる条文です。民法は176条において「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と規定しています(意思主義)。つまり、売買契約の合意時点で所有権は移転しますが、登記を備えなければその権利移転を第三者に主張することはできません。

■ 登記制度の仕組み

国は「登記制度」というしくみを設け、法務局(登記所)に行けばその不動産の所有者が誰であるかを確認できるようにしています。登記簿(登記記録)には所有権の移転経緯や担保権の設定状況が記載され、取引の安全を確保する機能を果たしています。たとえば、AがBに土地を売買した場合、所有権はその合意時点でBに移転しますが、登記名義を変更しなければBは第三者に対して「自分が所有者だ」と主張することができません。

■ 二重譲渡と登記の先後

このルールが必要な理由は、不動産取引における「二重譲渡」の問題を適切に解決するためです。AがBに土地を売った後、さらに同じ土地をCにも売った場合(二重譲渡)、BとCのどちらが所有権を取得するかは、先に登記の変更手続を完了させたほうが優先されます。また、「登記を備えていれば悪意者でも保護される」という点が重要で、たとえばCがAB間の売買を知っていたとしても(悪意)、登記さえ備えれば原則として所有権を主張できます。登記を備えることが「対抗要件」となる点が、不動産物権変動の最重要ポイントです。

具体例

AがBに土地を4月9日に売却した(物権変動A→B)。その後、AはCにも同じ土地を売却した。BとCでは先に登記を備えたCが所有権を主張できる。

不動産物権変動総説・不動産物権変動とは

不動産物権変動総説・不動産物権変動とは

ポイント整理

  • 不動産に関する物権変動(売買・贈与・取得時効・相続等)が発生していること
  • 登記の変更手続きを法務局で完了させること

効果

  • 登記を備えた者は第三者に対して物権変動を対抗できる
  • 登記を備えていない者は第三者に所有権を主張できない

条文(第177条条)

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

場面
登記あり
登記なし
自分の所有権を第三者に主張
主張できる(対抗可)
主張できない(対抗不可)
二重譲渡の場合
先に登記した者が所有者
後から登記した者に負ける

重要メモ

  • 「不動産の物権変動は登記しないと第三者に主張できない(177条)」というシンプルなルール
  • 所有権は売買契約の合意時点で移転する(意思主義・176条)が、登記を備えなければ第三者に対抗できない
  • 二重譲渡の場面では「契約の先後」ではなく「登記の先後」で勝敗が決まる
  • 買主Cが悪意(AB間の売買を知っていた)でも、登記さえ備えれば原則として保護される点が頻出の引っかけ
  • 登記が「対抗要件」となる仕組みは、不動産取引の安全を確保するための制度的背景から生まれた
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177条の第三者の範囲

177条

簡単にいうと

簡単にいうと、177条の「第三者」には当事者・相続人・不法占拠者・背信的悪意者は含まれません。誰が保護され、誰が保護されないかを整理することがポイントです。

■ 第三者の定義

177条の「第三者」とは、当事者(およびその相続人・包括承継人)以外の者で、登記の欠缺(登記がないこと)を主張することについて正当な利益を有する者をいいます(大判明41.12.15)。「正当な利益を有する者」という限定が重要で、登記がないことを利用して不当に利益を得ようとする者は保護されません。

■ 第三者にあたる例

第三者にあたる例として、①二重譲渡の譲受人、②抵当権者・地上権者等の制限物権者、③不動産賃借人が挙げられます。これらの者は登記によって利害関係を持つため、「第三者」として保護の対象となります。

■ 第三者にあたらない例

一方、第三者にあたらない者として、①当事者およびその相続人・包括承継人(もともと対抗問題とならない)、②不法行為者・不法占拠者(判例は保護に値しないとする)、③背信的悪意者(後述)が挙げられます。背信的悪意者とは、単に悪意であるだけでなく、登記の欠缺を主張することが信義則に反するような事情のある者をいいます。たとえば、AからBへの売却を知りながら、それを妨害する目的でAから土地を買い取ったCのような場合が典型例です。悪意者でも「背信的悪意者」でない限りは登記があれば177条の第三者として保護されるという点が試験でよく問われます。背信的悪意者からの転得者Dは、D自身が背信的悪意者でない限り、登記があれば保護されます。

具体例

AがBに土地を売却したが登記名義はAのまま。その後CがAから同じ土地を買い受け登記を備えた。Cは177条の第三者として所有権を主張できる。ただし、CがAB間の売買を知りながらBを妨害する目的で購入した場合(背信的悪意者)は保護されない。

177条の第三者

177条の第三者

ポイント整理

  • 当事者・相続人・包括承継人以外の者であること
  • 登記の欠缺を主張することについて正当な利益があること
  • 不法占拠者・背信的悪意者でないこと

効果

  • 第三者に該当すれば登記によって物権変動の優劣が決まる
  • 第三者に該当しない者には登記なく所有権を対抗できる

条文(第177条条)

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

区分
具体例
177条の第三者
第三者にあたる
二重譲渡の譲受人・抵当権者・不動産賃借人
あたる(登記で優劣決定)
第三者にあたらない(当事者側)
売主・買主・相続人
あたらない(対抗問題にならない)
第三者にあたらない(保護不要)
不法占拠者・背信的悪意者
あたらない(登記なく対抗可)

重要メモ

  • 「177条の第三者=当事者・相続人以外の者で、登記の欠缺を主張するについて正当な利益がある者」(大判明41.12.15)
  • 第三者にあたる例:①二重譲渡の譲受人、②抵当権者・地上権者等の制限物権者、③不動産賃借人
  • 第三者にあたらない例:①当事者・相続人・包括承継人、②無権利者・不法占拠者、③背信的悪意者
  • 単なる悪意者は「第三者」に含まれ登記があれば保護されるが、背信的悪意者(信義則違反)は保護されない
  • 背信的悪意者からの転得者Dは、D自身が背信的悪意者でない限り、登記があれば保護される
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取消しと登記

96条3項・177条

簡単にいうと

簡単にいうと、詐欺で売らされた契約を取り消した場合、取消前と取消後で第三者の扱いが変わります。適用条文と保護要件の切り替えがポイントです。

■ 取消しの効果と第三者問題

契約を取り消すと所有権は最初から移転しなかったことになります(遡及効、121条)。しかし、取消し前後に第三者が登場していた場合、その第三者との関係をどう扱うかが問題となります。取消原因としては詐欺(96条)・強迫(96条)・制限行為能力(5条・9条等)があり、それぞれ取消前後の第三者の扱いは共通して処理されます。

■ 取消前の第三者(96条3項)

取消前の第三者C(詐欺取消前にBからCへ転売された場合)については96条3項が適用されます。Cが善意かつ無過失であれば、登記の有無にかかわらずAはCに所有権を主張できません(Cが保護されます)。Cが悪意または善意有過失であればAが勝ちます。この場合は登記の先後ではなく、Cの善意・無過失という「主観的要件」で保護の有無が決まる点が重要です。なお、強迫を理由とする取消しには96条3項の適用はなく、取消前の第三者に対しても取消しを対抗できます(96条3項は「詐欺」のみ)。

■ 取消後の第三者(177条)

取消後の第三者C(詐欺取消後にBからCへ転売された場合)については177条が適用されます。取消しによってB→Aの物権変動が生じ(所有権がAに復帰)、その後BがCに転売すると二重譲渡類似の対抗関係となります。AとCは先に登記を備えたほうが勝つという関係になります(登記の先後で優劣決定)。強迫・制限行為能力を理由とする取消し後の第三者も同様に177条で処理します。取消前と取消後で適用条文・保護要件が全く異なる点が最重要であり、問題文中の「取消前」「取消後」という文言に注意する必要があります。

具体例

AがBの詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消した。取消前:BがCに転売していた場合、Cが善意無過失であればAはCに所有権を主張できない(96条3項)。取消後:BがCに転売した場合、AとCは177条の対抗関係に立ち、先に登記したほうが勝つ。

取消しと登記

取消しと登記

ポイント整理

  • 取消し原因(詐欺・強迫・制限行為能力等)が存在すること
  • 取消前の第三者Cは善意・無過失であること(96条3項による保護)
  • 取消後の第三者Cは先に登記を備えること(177条による保護)

効果

  • 取消前の第三者は善意無過失であれば登記不要で保護される
  • 取消後の第三者は先に登記を備えた者が所有権を取得する
  • AとCは取消後において177条の対抗関係に立つ

条文(第96条3項・177条条)

詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。(96条3項)

場面
適用条文
第三者Cの保護要件
取消前の第三者C
96条3項
善意かつ無過失(登記不要)
取消後の第三者C
177条
先に登記を備えること

重要メモ

  • 「取消前の第三者→96条3項(善意無過失で保護・登記不要)、取消後の第三者→177条(先登記が優先)」の2段階
  • 詐欺取消前の第三者Cは善意かつ無過失であれば登記なく保護される(96条3項)。悪意または善意有過失ならAの勝ち
  • 強迫・制限行為能力を理由とする取消しでは96条3項は適用されず、取消前の第三者にも取消しを対抗できる(Aの勝ち)
  • 錯誤取消前の第三者も善意無過失であれば保護される(95条4項)
  • 取消後の第三者は取消理由を問わず177条が適用され、AとCのうち先に登記を備えた方が優先される
  • 問題文中の「取消前」「取消後」という文言に必ず注目し、適用条文と保護要件を切り替えること
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解除と登記

545条1項但書・177条

簡単にいうと

簡単にいうと、売買契約を解除した場合も取消しと似た問題が起きますが、解除前の第三者の保護要件が取消しと異なります。混同しないように整理することがポイントです。

■ 解除の効果と第三者問題

契約を解除すると契約はなかったことになります(直接効果説・通説)。しかし取消しと同様、解除の前後に第三者が登場した場合の扱いが問題となります。解除の典型例は、BがAに売買代金を支払わないためAが解除権を行使するケース(541条・債務不履行解除)です。

■ 解除前の第三者(545条1項但書)

解除前の第三者C(解除前にBからCへ転売された場合)については545条1項但書が適用されます。Cが登記を備えていれば、Aは解除によってCに所有権を主張できません(Cが保護されます)。Cに登記がなければAの勝ちとなります。詐欺取消前の第三者(善意・無過失で保護される・96条3項)と異なり、解除前の第三者は「登記の有無」だけで保護される点に注意が必要です。つまり、Cが悪意であっても登記さえ備えれば保護されます(この点が詐欺取消前の第三者との最大の違いです)。判例は大判昭10.5.17で解除後の第三者と177条の適用を認めています。

■ 解除後の第三者(177条)

解除後の第三者C(解除後にBからCへ転売された場合)については177条が適用されます。解除によってB→Aの物権変動が生じ(所有権がAに復帰)、その後BがCに転売すると二重譲渡類似の対抗関係となります。AとCは先に登記を備えたほうが勝ちます。この点は詐欺取消後の第三者の扱い(177条)と同一の処理です。解除前の第三者の保護要件(登記の有無・545条1項但書)と詐欺取消前の第三者の保護要件(善意・無過失・96条3項)の比較が試験の最重要論点です。

具体例

BがAに対して代金を支払わないため、AはAB間の売買契約を解除した。解除前:BがCに転売しCが登記を備えていた場合、AはCに所有権を主張できない(545条1項但書)。解除後:BがCに転売した場合、AとCは177条の対抗関係に立ち先登記が優先(大判昭10.5.17)。

解除と登記

解除と登記

ポイント整理

  • 解除原因(履行遅滞等)が存在すること
  • 解除前の第三者Cは登記を備えていること(545条1項但書による保護)
  • 解除後の第三者Cは先に登記を備えること(177条による保護)

効果

  • 解除前の第三者は登記を備えれば保護される
  • 解除後の第三者は先に登記を備えた者が所有権を取得する
  • AとCは解除後において177条の対抗関係に立つ

条文(第545条1項但書・177条条)

解除権の行使は、各当事者の損害賠償の請求を妨げない。ただし、第三者の権利を害することはできない。(545条1項但書)

場面
適用条文
第三者Cの保護要件
詐欺取消前の第三者
96条3項
善意かつ無過失(登記不要)
解除前の第三者
545条1項但書
登記を備えること(善意不要)
詐欺取消後・解除後の第三者
177条
先に登記を備えること

重要メモ

  • 「解除前の第三者→545条1項但書(登記があれば保護・善意不要)、解除後の第三者→177条(先登記が優先)」
  • 解除前の第三者Cは登記を備えていれば保護される。Cが悪意でも登記さえあれば保護される点が詐欺取消前との最大の違い
  • 解除後の第三者は177条により、AとCで先に登記を備えた方が優先(大判昭10.5.17)
  • 詐欺取消前の第三者(善意無過失・96条3項)と解除前の第三者(登記のみ・545条1項但書)の保護要件の違いが最頻出比較論点
  • 「解除と第三者」は「遺産分割と第三者」と同じ処理構造でパラレルに理解すると効率的
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取得時効と登記

177条・162条

簡単にいうと

簡単にいうと、土地を長年占有して時効取得した場合、時効完成の「前」と「後」で登記が必要かどうかが変わります。このタイミングの前後がポイントです。

■ 取得時効と第三者問題

不動産を時効取得した場合にも物権変動が生じるため、第三者との関係が問題となります(最判昭41.11.22)。重要なのは「時効が完成したタイミング」と「第三者が登場したタイミング」の前後関係であり、この前後によって登記の要否が全く異なります。取得時効の成立要件は、所有の意思をもって平穏かつ公然と占有を継続することであり、善意無過失なら10年(162条2項)、それ以外は20年(162条1項)の期間が必要です。

■ 時効完成前の第三者

時効完成前の第三者Cが登場した場合(Bが占有を開始した後・時効完成前にAがCに土地を売却)、BとCは「当事者に近い関係」にあるとして対抗関係に立たないと解されています(最判昭41.11.22)。BはCに対して登記なく所有権を主張することができます。Cが登記を備えていても、Bの時効取得を妨げることはできません。時効が完成した時点でBは完全な所有者となり、Cに対して登記なく時効取得を主張することができます。

■ 時効完成後の第三者

時効完成後の第三者Cが登場した場合(時効完成後にAがCに土地を売却)、177条が適用されます。時効完成によってAからBへの物権変動が生じ(遡及効はなく時効完成時点でBが取得)、その後AがCに転売すると二重譲渡類似の対抗関係となります。BとCは先に登記を備えたほうが勝ちます。さらにBが時効完成後に新たに占有を続けた場合、再度時効が完成すれば再取得も可能ですが、起算点を任意に選択して完成時期を変えることはできません(最判昭35.7.27)。これは時効完成前後の第三者を意図的に操作することを防ぐためのルールです。

具体例

BはAの土地を平成15年から占有開始した。平成25年(時効完成)の前の平成20年にCがAから土地を買い受け登記した場合(時効完成前の第三者)、Bは登記なくCに所有権を主張できる。一方、平成25年の時効完成後にCが登場した場合は177条で先登記が優先。

取得時効と登記

取得時効と登記

ポイント整理

  • Bが一定期間(善意無過失なら10年、それ以外は20年)占有を継続していること(162条)
  • 時効完成前の第三者→Bは登記不要で時効取得を主張できる
  • 時効完成後の第三者→Bは先に登記を備えること(177条)

効果

  • 時効完成前の第三者に対してはBは登記なく所有権を主張できる
  • 時効完成後の第三者に対してはBは登記を備えないと対抗できない
  • 時効の起算点を任意に選択して完成時期を変えることはできない(最判昭35.7.27)

条文(第177条・162条条)

二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。(162条1項)

第三者登場タイミング
適用ルール
Bの登記の要否
時効完成前の第三者C
対抗関係なし(当事者類似)
不要(BがCに主張可)
時効完成後の第三者C
177条(対抗関係)
必要(先登記が優先)

重要メモ

  • 「時効完成前の第三者→登記不要(BはCに主張可・最判昭41.11.22)、時効完成後の第三者→177条(先登記が優先)」の2パターン
  • 時効完成前にCが登場した場合、BとCは「当事者に近い関係」にあるとして対抗関係に立たず、Bは登記なく時効取得を主張できる
  • 時効完成後にCが登場した場合は177条が適用され、BとCで先に登記を備えた方が優先
  • 時効取得の要件:所有の意思をもって平穏・公然と占有継続。善意無過失なら10年(162条2項)、それ以外は20年(162条1項)
  • 時効援用者は起算点を任意に選択して完成時期を変えることはできない(最判昭35.7.27)。時効完成前後の第三者の区別を操作することは認められない
  • 時効完成後の第三者Cが登記した後、Bがさらに必要な占有期間を続ければ再度の時効取得をCに主張できる(最判昭36.7.20)
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相続と登記

899条の2・939条

簡単にいうと

簡単にいうと、不動産を相続した場合も物権変動が起き、共同相続で誰かが勝手に全部売ったとしても自己の持分は登記なく主張できます。持分の範囲と相続放棄の扱いがポイントです。

■ 相続と物権変動

不動産を相続した場合にも物権変動が生じるため、第三者との関係が問題となります。相続の場面では、共同相続・持分の超過売却・相続放棄などのケースが試験によく出題されます。相続による物権変動は、登記なく相続人に帰属するのが原則ですが(意思主義の延長)、第三者が登場した場合には登記の扱いが問題となります。

■ 共同相続と持分超過売却(899条の2第1項)

共同相続の場合(BとCが各1/2の割合で相続したケース)、共同相続人の一人であるCが、自己の持分を超えて土地全部を第三者Dに売却した場合を考えます。この場合、BはDに対して、自己の持分(1/2)については登記なく所有権を主張して返還を請求できます(899条の2第1項)。Bの固有の持分については「正当権利者として登記なく主張可」という考え方によるものです。一方、Cの持分部分についてはBはDに主張できません。Dが登記を備えていればDがCの持分を取得し、Bは取り戻せません。最判昭42.1.20も参照してください。

■ 相続放棄(939条)

相続放棄をした場合(CがAの相続を放棄した場合)、Cは初めから相続人でなかったものとみなされます(939条)。相続放棄の効力は遡及するため(相続開始時に遡る)、放棄した相続人Cの持分は当初から他の相続人に帰属していたことになります。相続放棄は第三者に対しても登記なく対抗することができます(939条)。これは通常の物権変動(177条・登記が対抗要件)と異なる例外的扱いであり、行政書士試験でも問われることがあります。法定相続分と遺言による取得の場合も899条の2第1項が適用され、相続分超過部分は登記が必要となります。

具体例

AがB(1/2)とC(1/2)の子に相続された。CがAに無断でDに土地全部を売却し登記を移した場合、BはDに対し自己の1/2持分について登記なく返還請求できる(899条の2第1項)。Cの1/2持分についてはDが登記を備えていれば保護される。

相続と登記

相続と登記

ポイント整理

  • 共同相続が生じていること
  • 一部相続人が自己の持分を超えて売却していること
  • 相続放棄は家庭裁判所への申述により行うこと(915条)

効果

  • 共同相続人は自己の持分については登記なく第三者に主張できる(899条の2第1項)
  • 持分超過部分については登記のある第三者が優先される
  • 相続放棄の効力は遡及し、登記なく第三者に対抗できる(939条)

条文(第899条の2・939条条)

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。(899条の2第1項)

場面
Bの登記の要否
根拠条文
共同相続・自己持分の主張
不要(Dに対抗可)
899条の2第1項
共同相続・持分超過部分の主張
必要(登記がなければ負ける)
899条の2第1項
相続放棄の対抗
不要(登記なく第三者に対抗可)
939条

重要メモ

  • 「共同相続人は自己の持分は登記なく主張可(899条の2第1項)、持分超過部分は登記が必要」
  • 共同相続人Cが自己の持分を超えて土地全部をDに売却した場合、Bは自己の持分(1/2)については登記なくDに返還請求できる
  • Cの持分部分はDに登記があれば保護され、Bは取り戻せない(Dが善意・悪意を問わない)
  • 相続放棄は家庭裁判所への申述によって行う(915条)。放棄した者は初めから相続人でなかったものとみなされる(939条)
  • 相続放棄の効力は第三者に対しても登記なく対抗できる(939条)。通常の物権変動(177条)と異なる例外的扱い
  • 最判昭42.1.20:相続放棄の前後にかかわらずDへの売却が無効となり、Bは所有権をDに主張できる
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遺産分割と登記

909条但書・899条の2第1項

簡単にいうと

簡単にいうと、遺産分割の前後で第三者の保護要件が異なり、「解除と第三者」とまったく同じ思考で解けます。対応関係を整理することがポイントです。

■ 遺産分割と第三者問題

遺産分割とは、相続開始後に共同相続人全員が遺産の帰属を協議によって決める手続きです(906条以下)。遺産分割の効力は相続開始時に遡るとされていますが(909条本文)、第三者の権利を害することはできません(909条但書)。この例外規定が遺産分割前後の第三者問題の根拠となります。

■ 遺産分割前の第三者(909条但書)

遺産分割前の第三者D(遺産分割前に相続人Cが自己の持分(1/2)をDに売却した場合)については909条但書が適用されます。Dに登記が備わっていれば、Bは遺産分割の結果をDに主張することができません(Dが保護されます)。Dに登記がなければBの勝ちとなります。この扱いは、解除前の第三者(545条1項但書・登記で保護)とまったく同じ処理構造です。

■ 遺産分割後の第三者(899条の2第1項)

遺産分割後の第三者D(遺産分割によって土地がBの物と確定した後に、CがDに自己持分を売却した場合)については899条の2第1項が適用されます。BとDは先に登記したほうが勝ちます(遺産分割後の法律関係は対抗関係として処理されます)。この扱いは解除後の第三者(177条・先登記が優先)とまったく同じです。

■ 「解除と第三者」との対応関係

試験対策として「解除と第三者」と「遺産分割と第三者」を対応させて覚えると効率的です。解除前の第三者→545条1項但書(登記で保護)、遺産分割前の第三者→909条但書(登記で保護)、解除後の第三者→177条(先登記優先)、遺産分割後の第三者→899条の2第1項(先登記優先)という対応関係が成り立ちます。いずれも「分割・解除」という「前後の転換点」を基準に処理方法が切り替わります。

具体例

AがBとCに共同相続された(各1/2)。遺産分割前にCが自己の持分をDに売却した場合、Dに登記があればBはDに所有権を主張できない(909条但書)。遺産分割後にCがDに持分を売却した場合、BとDは先登記が優先(899条の2第1項)。

遺産分割と登記

遺産分割と登記

ポイント整理

  • 共同相続が生じており遺産分割が行われること
  • 遺産分割前の第三者Dは登記を備えていること(909条但書による保護)
  • 遺産分割後の第三者Dは先に登記を備えること(899条の2第1項による保護)

効果

  • 遺産分割前の第三者は登記を備えれば保護される(909条但書)
  • 遺産分割後の第三者は先に登記を備えた者が優先される(899条の2第1項)
  • 解除前後の第三者の扱い(545条1項但書・177条)とパラレルに理解できる

条文(第909条但書・899条の2第1項条)

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。(909条)

場面
適用条文
第三者Dの保護要件
遺産分割前の第三者D
909条但書
登記を備えること
遺産分割後の第三者D
899条の2第1項
先に登記を備えること
解除前の第三者C(対比)
545条1項但書
登記を備えること
解除後の第三者C(対比)
177条
先に登記を備えること

重要メモ

  • 「遺産分割前の第三者→909条但書(登記があれば保護)、遺産分割後の第三者→899条の2第1項(先登記が優先)」
  • 遺産分割前の第三者Dは登記を備えていればBはDに所有権を主張できない(909条但書)。Dが悪意でも登記があれば保護される
  • 遺産分割後の第三者Dは899条の2第1項が適用され、BとDで先に登記を備えた方が優先
  • 「遺産分割と第三者」は「解除と第三者」とまったく同じ処理構造:分割前≒解除前(登記で保護)、分割後≒解除後(先登記優先)
  • 遺産分割の効力は相続開始時に遡及するが(909条本文)、第三者の権利を害することはできない(909条但書)
  • 法定相続分を超えて取得した部分は登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない(899条の2第1項)

まとめ

テーマ
ポイント
注意点
物権変動と対抗要件
意思表示で効力発生、登記で第三者に対抗可能(177条)
登記に公信力はない。「対抗できない」は「無効」ではない
177条の第三者
背信的悪意者・不法占拠者は第三者に含まれない
単なる悪意者は第三者に含まれる。国税滞納処分の国も第三者にあたる
取消しと登記
詐欺取消し前は善意無過失の第三者のみ保護(96条3項)、取消し後は177条で登記の先後
強迫・制限行為能力の取消し前の第三者は保護なし。取消し前後で根拠条文が変わる
虚偽表示と登記
善意の第三者は登記不要で保護(94条2項)、転得者は登記が必要
94条2項は善意のみ(無過失不要)。96条3項(詐欺)の善意無過失と混同しない
解除と登記
解除前の第三者は登記があれば保護(545条1項ただし書き)、解除後は177条で登記の先後
解除前・解除後いずれも登記が必要だが根拠条文が異なる。解除後は善意・悪意不問
相続と登記
法定相続分の範囲内は登記不要、超える部分は登記が必要(899条の2第1項)
相続放棄には遡及効あり。放棄者から取得した第三者は登記があっても保護されない

関連判例

背信的悪意者

最判昭43.8.2

背信的悪意者は民法177条の「第三者」に該当しないため、登記がなくても対抗できる 注意:単なる悪意(事実を知っていること)だけでは背信的悪意者にならない。信義則に反する特別な事情が必要 背信的悪意者の典型例は「登記がないことに乗じて不当な利益を得る目的」で取引した者 背信的悪意者から譲り受けた転得者については、転得者自身が背信的悪意者でなければ177条の第三者として保護される(転得者は独立して判断する) 民法177条の「第三者」から除外されるのは、背信的悪意者のほか不法占拠者・不法行為者なども同様

国税滞納処分と民法177条

最判昭31.04.24

国税滞納処分で差押えを行う国の地位は、民事上の差押債権者の地位に類するものであり、民法177条の適用がある 租税債権が公法上の債権であることは、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱いを受ける理由にはならない。注意:「公法上の債権だから177条は適用されない」は誤り 国は原則として登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者にあたる。ただし、信義に反する特段の事情がある場合は別 登記の欠缺を主張する正当の利益を有しない場合とは、不動産登記法5条の事由がある場合、その他これに類する信義に反する事由がある場合(背信的悪意者)に限られる 注意:本判決の結論は破棄差戻しであり、国が第三者にあたると最終的に確定したわけではない。「特段の事情」の有無について審理をやり直すよう原審に差し戻した

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