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テキスト/民法/第1節 物権総論

第1節 物権総論

第2章 物権法

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物権とは、物を直接的に支配できる権利です。債権が「人に対して何かを請求する権利」であるのに対し、物権は「物そのものを支配する権利」であり、誰に対しても主張できる強力な権利です。この節では、物権の基本的な性質・種類、物権変動のルール、対抗要件、即時取得、物権的請求権について学びます。

1

物権とは

175条

簡単にいうと

物権は物を直接支配する権利で、債権は特定の人にしか請求できない権利です。この違いが物権法全体の出発点になります。

物権とは

物権とは、物を支配して利益を受けることができる権利です。時計を買った人はその時計に所有権という物権を持ち、自由に使ったり誰かに貸したりできます。そして「自分が所有者だ」ということを、誰に対しても主張できます。

民法は財産権を物権と債権に大きく分けています。両者の違いは、誰に対して主張できるかにあります。

物権は誰に対しても主張できる

物権は物に対する権利なので、誰に対しても主張できます。これを絶対性といいます。自分の時計を持っている相手が誰であれ、所有者は返せと言えます。

これに対して債権は特定の人に対する権利です。契約の相手方(不法行為であれば加害者)にしか主張できません。これを相対性といいます。AがBに100万円を貸したのであれば、返せと言えるのはBに対してだけです。

同じ物の上に同じ内容の物権は2つ成立しない

物権にはもう1つ、排他性という性質があります。1つの物の上に、同じ内容の物権が2つ並び立つことはありません。1つの土地に完全な所有権が2つあるということはないわけです。

債権にはこの性質がありません。同じ建物について、AがBにもCにも貸す約束をすることは可能です。どちらの契約も有効で、履行できなかったほうが債務不履行の責任を負うだけです。

物権の種類は法律で決まっている

物権は、民法その他の法律に定められたものしか作れません。これを物権法定主義といいます(175条)。当事者が契約で新しい種類の物権を作ることはできません。

誰に対しても主張できる強い権利である以上、どんな権利が存在しうるのかを社会に対して明らかにしておく必要があるからです。債権が契約自由の原則によって内容を自由に決められるのと対照的です。

この違いが後の論点につながる

物権と債権の違いは、留置権と同時履行の抗弁権の違いなど、これから学ぶ多くの論点の土台になります。ここで対比を作っておくと後が楽になります。

具体例

Aが時計を買ってその所有権を持っているとします。その時計をBが持ち去り、さらにCに渡したとしても、Aは現に持っているCに対して「返せ」と言えます。誰に対しても主張できるからです。これに対し、AがBに100万円を貸している場合、返せと言えるのはBに対してだけで、Bの友人Cに請求することはできません。

ポイント整理

  • ・民法その他の法律に定められた種類の物権であること(物権法定主義・175条)
  • ・同じ物の上に同じ内容の物権が2つ成立しないこと(排他性)
  • ・誰に対しても主張できること(絶対性)

効果

  • ・物権者はすべての人に対して権利を主張できます
  • ・当事者の合意だけで法律にない新しい物権を作ることはできません(175条)
  • ・債権は契約の相手方にしか主張できません

条文(175条)

第175条(物権の創設)物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。

比較項目
物権
債権
権利の対象
物に対する権利
特定の人に対する権利
主張できる相手
誰に対しても主張できる(絶対性)
契約の相手方や加害者だけ(相対性)
排他性
あり。同じ内容の物権は2つ成立しない
なし。同じ物について複数の債権が並び立つ
種類の創設
法律に定めるものに限られる(175条)
契約自由の原則により内容を決められる
公示
不動産は登記、動産は引渡し
公示は不要

重要メモ

  • ・物権は誰にでも、債権は相手方にだけ主張できる点に注意
  • ・物権の性質は絶対性と排他性の2つ
  • ・175条: 物権は法律に定めるもののほか創設できない(物権法定主義)
  • ・債権は同じ物について複数成立しうる。二重に貸す約束もどちらも有効
  • ・この対比は留置権と同時履行の抗弁権の違いなど、後の論点の土台になる
2

物権の種類と体系

180条・206条・265条・270条・280条・295条・303条・342条・369条

簡単にいうと

民法が認める物権は10種類です。占有権を別扱いにしたうえで、所有権と制限物権に分ける形で整理します。

全部で10種類

民法が認める物権は10種類あります。占有権、所有権、地上権、永小作権、地役権、入会権、留置権、先取特権、質権、抵当権です。

この段階ですべてを覚える必要はありません。1つずつ学んだ後にこの体系に戻ってくると、位置づけがつかめます。

まず占有権を別に置く

占有権(180条以下)は、事実状態にもとづいて認められる権利です。現に物を持っているという事実そのものを保護するもので、本当に権利があるかどうかは問いません。物を盗んだ者にも占有権は認められます。

これに対して、占有を法律上正当づける権利を本権といいます。占有権は本権ではなく、本権と対になる概念です。

本権は所有権と制限物権に分かれる

本権のうち、所有権(206条以下)は物を全面的に支配できる最も強い権利です。使用・収益・処分のすべてができます。

残りは制限物権と呼ばれます。所有権の一部を切り出した形の権利で、用益物権と担保物権に分かれます。

用益物権

用益物権は、他人の土地を使って利益を受ける権利です。地上権(265条以下)は他人の土地に工作物や竹木を所有するために使う権利、永小作権(270条以下)は小作料を払って耕作や牧畜をする権利、地役権(280条以下)は自分の土地の便益のために他人の土地を利用する権利、入会権(263条・294条)は地域の住民が山林などを共同で利用する慣習上の権利です。

担保物権

担保物権は、債権の担保として物の価値をつかむ権利です。成立のしかたで2つに分かれます。

法律の定めによって当然に成立するのが法定担保物権で、留置権(295条以下)と先取特権(303条以下)がこれにあたります。当事者の約束によって成立するのが約定担保物権で、質権(342条以下)と抵当権(369条以下)がこれにあたります。

法定か約定かの区別は、担保物権の性質を考えるときに繰り返し使います。

具体例

AがBの土地の上に建物を建てるために、B所有の土地に地上権を設定したとします。これは用益物権の例です。また、AがCからお金を借りるときに、A所有の不動産に抵当権を設定したとすれば、これは約定担保物権の例になります。これに対し、時計の修理代金が支払われないため修理業者がその時計を手元に留め置く場合は、法律上当然に生じる留置権であり、法定担保物権の例です。

物権の種類

物権の種類

ポイント整理

  • ・法律または慣習法に定められた10種類に限られること(物権法定主義)
  • ・各物権はそれぞれの条文が定める要件を満たすことで成立すること

効果

  • ・所有権を持つ者は、物を使用・収益・処分できます
  • ・用益物権者は、他人の土地を一定の目的で使用・収益できます
  • ・担保物権者は、債務が履行されないときに目的物から優先弁済を受けられます
  • ・占有権は、本権の有無にかかわらず現に占有しているという事実から生じます

条文(180条・206条・265条・270条・280条・295条・303条・342条・369条)

第206条(所有権の内容)所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

分類
物権名
条文
内容
事実状態にもとづく権利
占有権
180条以下
現に占有しているという事実から生じる
本権
所有権
206条以下
使用・収益・処分ができる最も強い権利
制限物権(用益物権)
地上権
265条以下
他人の土地に工作物や竹木を所有する
制限物権(用益物権)
永小作権
270条以下
小作料を払って耕作や牧畜をする
制限物権(用益物権)
地役権
280条以下
自分の土地の便益のために他人の土地を使う
制限物権(用益物権)
入会権
263条・294条
地域の住民が山林などを共同利用する
制限物権(法定担保物権)
留置権
295条以下
弁済を受けるまで物を留め置く
制限物権(法定担保物権)
先取特権
303条以下
法定の債権者が優先弁済を受ける
制限物権(約定担保物権)
質権
342条以下
物を預かって担保にする
制限物権(約定担保物権)
抵当権
369条以下
占有を移さずに不動産を担保にする

重要メモ

  • ・物権は10種類で、留置権を落とさない点に注意
  • ・占有権は事実状態にもとづく権利で、本権とは対になる概念
  • ・本権は所有権と制限物権に分かれ、制限物権は用益物権と担保物権に分かれる
  • ・用益物権は地上権・永小作権・地役権・入会権の4つ
  • ・担保物権は、法定の留置権・先取特権と、約定の質権・抵当権の4つ
3

物権的請求権

第明文の規定はなく、物権の性質から認められる条

簡単にいうと

物権が侵されたとき、返せ・どけろ・入ってくるなと言える権利です。相手に故意や過失がなくても行使できます。

物権的請求権とは

自分の時計が誰かに奪われた場合、「返せ」と言えるのは当たり前のことに思えます。民法の世界では、これを所有権にもとづく返還請求権の行使として捉えます。

物権は物を支配する権利なので、その支配が妨げられたときには、妨げを取り除いて元の状態に戻すよう求められるはずです。これが物権的請求権です。民法に明文の規定はありませんが、物権の性質から当然に認められると解されています。

3つの型

第1は返還請求権です。物の占有を奪われた場合に、現に占有している者に対して返還を求めます。時計を奪われた、土地を不法に占拠された、という場面です。

第2は妨害排除請求権です。占有を奪われたわけではないが支配が妨げられている場合に、妨害の除去を求めます。自分の土地の上に勝手に建物を建てられた、廃棄物を投棄された、という場面です。

第3は妨害予防請求権です。まだ侵害されていないものの、そのおそれがある場合に、予防の措置を求めます。隣家が傾いて倒れてきそうだ、という場面です。

故意も過失も要らない

物権的請求権は、侵害している者に故意または過失がなくても行使できます。相手が知らずにやっていたとしても、支配が妨げられている事実があれば取り除いてもらえます。

ここが不法行為にもとづく損害賠償請求との違いです。損害賠償を求めるには、相手の故意または過失が必要です(709条)。同じ事案でも、物をどけてもらうのと、損害を賠償してもらうのとでは要件が違います。

誰に請求するか

建物を収去して土地を明け渡せという請求の相手方は、現に建物を所有して土地を占有している者です。

もっとも、それだけではありません。建物を他人に譲り渡した後も登記が自分の名義のまま残っている者に対しても、請求することができます。登記を残したまま責任を免れるのは適当でないからです。

過去問では、EがD所有の土地の上に無断で建物を建てて自分名義で保存登記をし、その建物をFに譲渡したが登記はE名義のままだった、という事案が出ています。この場合、DはFにもEにも建物の収去を求めることができます。

具体例

B所有の土地にAが廃棄物を投棄したとします。BはAに対して廃棄物の撤去を求めることができます。これは妨害排除請求権の行使であり、Aに故意や過失がなくても行使できます。ただし、投棄によって生じた損害の賠償をAに求めるには、Aの故意または過失が必要です。

物権的請求権

物権的請求権の種類と行使

ポイント整理

  • ・物権の支配が妨げられていること、または妨げられるおそれがあること
  • ・請求する者が物権を持っていること
  • ・相手方の故意または過失は不要であること

効果

  • ・返還請求権により、占有の返還を求められます
  • ・妨害排除請求権により、妨害の除去を求められます
  • ・妨害予防請求権により、予防の措置を求められます
  • ・損害の賠償を求めるには、別に相手方の故意または過失が必要です(709条)

条文(第明文の規定はなく、物権の性質から認められる条)

(明文規定なし)※物権の支配権的性質から解釈上認められる。占有訴権については180条以下に規定あり。

種類
どんな場面か
請求の内容
相手方
返還請求権
占有を奪われた
占有を返すこと
現に占有している者
妨害排除請求権
占有以外の方法で妨げられている
妨害を取り除くこと
現に妨害している者
妨害予防請求権
将来侵害されるおそれがある
予防の措置をとること
侵害するおそれのある者
建物収去・土地明渡請求
土地上に無断で建物がある
建物を収去すること
現に所有する者。登記名義が残る者にも請求できる

重要メモ

  • ・相手方の故意・過失がなくても行使できる点に注意
  • ・3つの型は、返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権
  • ・損害賠償を求めるには別に故意または過失が必要(709条)
  • ・建物収去請求は、現に建物を所有する者に対してする
  • ・建物を譲り渡した後も登記名義が残っている者に対しても請求できる

まとめ

テーマ
ポイント
注意点
物権の性質
物を直接支配、対世効あり、物権法定主義(175条)。民法上の物権は10種類
債権との区別を曖昧にしない。物権の種類は法律で定められたもの以外に創設不可
物権変動と対抗要件
意思表示で変動(176条)、不動産は登記で第三者に対抗(177条)
当事者間と第三者に対する効力を混同しない。背信的悪意者は177条の「第三者」に含まれない
即時取得
動産・取引行為・善意無過失・現実の引渡しで即座に取得(192条)
不動産には適用されない。占有改定では不成立。無過失は推定される(立証責任は原権利者側)。盗品の特例を忘れない
物権的請求権
妨害排除・妨害予防・返還を請求可能。明文規定なし、通説・判例で認められる
消滅時効にかからない(通説)、相手方の過失不要。損害賠償請求とは別個の権利

関連判例

占有改定と即時取得

最判昭35.2.11

結論は**「占有改定による即時取得は認められない」**。「善意・無過失だから即時取得が成立する」という引っかけに注意 即時取得が認められないのは占有改定のみ。残りの3つ(現実の引渡し・簡易の引渡し・指図による占有移転)では即時取得が成立し得る点との対比を押さえること 判断の核心は**「外観上の占有状態の変化」**の有無。善意・無過失は必要条件だが、それだけでは足りない 注意:指図による占有移転では即時取得が成立する(最判昭57.9.7)。占有改定と混同しやすいので要注意 民法192条の趣旨(動産取引の安全保護=外観への信頼の保護)から逆算して「外観が変わらなければ保護の根拠がない」という論理の流れを理解しておくと、応用問題にも対応できる

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背信的悪意者

最判昭43.8.2

背信的悪意者は民法177条の「第三者」に該当しないため、登記がなくても対抗できる 注意:単なる悪意(事実を知っていること)だけでは背信的悪意者にならない。信義則に反する特別な事情が必要 背信的悪意者の典型例は「登記がないことに乗じて不当な利益を得る目的」で取引した者 背信的悪意者から譲り受けた転得者については、転得者自身が背信的悪意者でなければ177条の第三者として保護される(転得者は独立して判断する) 民法177条の「第三者」から除外されるのは、背信的悪意者のほか不法占拠者・不法行為者なども同様

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