第1節 物権総論
第2章 物権法
物権とは、物を直接的に支配できる権利です。債権が「人に対して何かを請求する権利」であるのに対し、物権は「物そのものを支配する権利」であり、誰に対しても主張できる強力な権利です。この節では、物権の基本的な性質・種類、物権変動のルール、対抗要件、即時取得、物権的請求権について学びます。
物権とは
第175条・176条条簡単にいうと
簡単にいうと、「物権」とは物を直接支配できる権利で、「債権」とは特定の人にしか請求できない権利です。この対比がポイントです。
■ 物権の意義
物権とは、物を直接かつ排他的に支配して利益を受けることができる権利です。民法は財産権を「物権」と「債権」の2種類に大別しており、両者の最大の違いは権利の主張できる相手方にあります。
■ 物権の2つの本質的性質
物権には「絶対性(対世効)」と「排他性」という2つの本質的な性質があります。絶対性とは、物権は特定の人との間にのみ成立する債権と異なり、すべての人に対して主張できるという性質をいいます。排他性とは、同一の物の上に同一内容の物権が二重に成立することはできないという性質をいいます(一物一権主義)。たとえば、土地の所有権は世界中の誰に対しても「この土地は私のものだ」と主張でき、また同一の土地の上に2つの所有権が並立することはありません。
■ 物権法定主義(175条)
物権法定主義(175条)とは、物権は民法その他の法律(または慣習法)に定められたものしか創設できないというルールです。当事者が契約によって新たな種類の物権を自由に作ることは認められません。これは、物権が対世効を持つ以上、どのような権利があるかを社会一般に明確にしておく必要があるためです。これに対して債権は契約自由の原則により当事者が自由に内容を設計できます。
■ 債権との対比
債権との対比でいえば、債権は特定の相手(債務者)に対してのみ特定の行為(給付)を請求できる権利であり、当該相手方以外の第三者には原則として主張できません(相対性)。物権は誰に対しても主張できる点で根本的に異なります。
具体例
AがBに土地を売った。その後CがAから同じ土地を買い受けた場合、登記を先に備えたCがBに対して土地の所有権(物権)を主張できる。一方、AがBに「100万円を支払え」という債権を持っている場合、その請求はBにのみできる(Bの連帯保証人を除く)。
ポイント整理
- ・物権は民法その他の法律または慣習法に定めるもののみ(物権法定主義・175条)
- ・同一物の上に同一内容の物権は並立しない(排他性・一物一権主義)
- ・物権は誰に対しても主張できる(絶対性・対世効)
効果
- ・物権者はすべての人(第三者を含む)に対して権利を主張できる
- ・後から同内容の物権が成立した場合、先に成立した物権が優先する(先後関係の問題は公示方法で決定)
- ・当事者の合意のみで民法に定めのない新種の物権を創設することはできない
条文(第175条・176条条)
第175条(物権の創設)物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
重要メモ
- ・「物権は誰にでも主張できる絶対的権利、債権は契約相手にしか主張できない相対的権利」という対比が試験の核心
- ・物権の2大性質:絶対性(対世効・すべての人に主張可)と排他性(一物一権主義・同一内容の物権が二重に並立しない)を必ずセットで押さえる
- ・物権法定主義(175条):民法その他の法律(または慣習法)に定めのない新種の物権を当事者間の契約で創設することはできない。債権は契約自由の原則により内容を自由に設計できる点と対比して理解する
- ・物権と債権の対比が行政書士試験で頻出:権利の主張相手(全員 vs 債務者のみ)・排他性の有無・種類の創設ルール(法定主義 vs 契約自由)の3軸を使いこなせるようにしておく
- ・担保物権(抵当権・先取特権など)や同時履行の抗弁権(533条)を理解する際の土台となる概念なので、この段階でしっかり固めておく
物権の種類と体系
第175条・180条・206条・265条・270条・280条・303条・342条・369条条簡単にいうと
簡単にいうと、民法が認める物権は全部で9種類で、「本権」「用益物権」「担保物権」の3グループに分類できます。この体系を整理しておくことがポイントです。
■ 物権の体系概観
民法が定める物権は9種類あり、これを大きく「本権(占有権・所有権)」「用益物権(地上権・永小作権・地役権・入会権)」「担保物権(先取特権・質権・抵当権)」という3グループに分類できます。
■ 本権
本権のうち、所有権(206条以下)は物を全面的・恒久的に支配できる最も強力な権利であり、使用・収益・処分の3権能を含みます。占有権(180条以下)は物を現実に占有している事実に基づいて認められる権利であり、本権(真の権利)の有無とは関係なく成立します。たとえば窃盗犯でも占有権は持ちます。
■ 用益物権
用益物権とは、他人の土地(物)を一定の目的のために使用・収益できる権利です。地上権(265条)は他人の土地に工作物や竹木を所有するために土地を使用できる権利です。永小作権(270条)は小作料を支払って他人の土地で耕作や牧畜をする権利です。地役権(280条)は自己の土地(要役地)の便益のために他人の土地(承役地)を一定の目的で利用できる権利です。入会権(263条・294条)は、特定地域の住民が山林・原野などを共同で利用する慣習法上の権利です。
■ 担保物権
担保物権とは、債権の担保として物の価値を把握し、債務不履行の場合に優先弁済を受ける権利です。先取特権(303条)は法律の定めた一定の債権者が他の債権者に優先して弁済を受けられる権利です。質権(342条)は債権者が担保として債務者から物を受け取り、弁済がない場合に優先弁済を受けられる権利です。抵当権(369条)は不動産を占有せずに担保にとる権利で、最も実務上重要な担保物権です。
■ 別の分類(単独物権と制限物権)
また、別の分類として、占有権と所有権が「単独物権」(独立した完全な支配)、用益物権と担保物権が「制限物権」(所有権の一部を制限する権利)とも分類されます。
具体例
AがBの土地の上に建物を建てるために、B所有の土地に地上権を設定した。これは用益物権の一例。また、AがBから金を借りる際にA所有の不動産に抵当権を設定したのが担保物権の例。

物権の種類
ポイント整理
- ・民法その他の法律・慣習法に定める9種類に限定(物権法定主義)
- ・各物権はそれぞれの条文要件を満たすことで成立
効果
- ・本権(所有権・占有権)は物を直接支配できる
- ・用益物権者は他人の土地等を一定の目的で使用・収益できる
- ・担保物権者は債務不履行時に目的物から優先弁済を受けられる
条文(第175条・180条・206条・265条・270条・280条・303条・342条・369条条)
第206条(所有権の内容)所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
重要メモ
- ・「民法が認める物権は9種類で、本権・用益物権・担保物権の3グループに分類できる」という体系図を頭に入れるのがゴール
- ・本権:所有権(206条)=使用・収益・処分の3権能を持つ最も強力な権利、占有権(180条以下)=現実の占有という事実に基づく権利(窃盗犯でも占有権は取得する)
- ・用益物権4種:地上権(265条)・永小作権(270条)・地役権(280条)・入会権(263条・294条)。それぞれの条文番号と使用目的を結びつけて記憶する
- ・担保物権3種:先取特権(303条)=法定、質権(342条)=占有移転あり、抵当権(369条)=占有移転なしで最重要。法定担保物権(留置権・先取特権)と約定担保物権(質権・抵当権)の区別も押さえる
- ・留置権(295条以下)は担保物権かつ法定担保物権である点に注意。物権の種類体系は試験で『正しい組み合わせを選べ』形式で出題されるため、全9種類を正確に分類できるようにしておく
物権的請求権
第民法条文上の明文規定なし(解釈上認められる)条簡単にいうと
簡単にいうと、物権者は侵害を受けたとき「返還・妨害排除・妨害予防」の3種類の請求ができます。相手方の故意・過失が不要である点がポイントです。
■ 物権的請求権とは
物権的請求権とは、物権の内容である円満な支配状態が侵害されたとき、または侵害のおそれがあるとき、物権者がその侵害の除去・返還・予防を請求できる権利をいいます。民法に明文規定はありませんが、物権の支配権としての性質から当然に認められると解されています。
■ 物権的請求権の3種類
物権的請求権には3種類あります。第一に「物権的返還請求権」です。物権者がその物の占有を奪われた場合(例:土地を不法占拠された、物を盗まれた)に、現在その物を占有している者に対して占有の返還を請求できる権利をいいます。第二に「物権的妨害排除請求権」です。物権の行使が占有以外の方法で妨害されている場合(例:土地に廃棄物を不法投棄された、土地上に他人の電線が通っている)に、妨害者に対して妨害の排除を求める権利をいいます。第三に「物権的妨害予防請求権」です。現在はまだ侵害されていないが、将来侵害されるおそれがある場合(例:隣の建物が傾いていて崩れ落ちそう)に、予防措置を求める権利をいいます。
■ 故意・過失不要
物権的請求権の行使には相手方の故意・過失は不要です。すなわち、たとえば隣人が善意・無過失であっても土地を侵害していれば妨害排除請求の対象となります。これは不法行為に基づく損害賠償請求(709条・故意過失必要)とは異なる点であり、試験でも頻出論点です。ただし、損害賠償を請求するには故意・過失が必要です。
■ 請求の相手方
請求の相手方は「現在の侵害者」です。物権的返還請求権については現在占有している者が相手方であり、以前占有していた者に対しては請求できません。また、建物収去・土地明渡請求については、建物の登記名義人ではなく、現実に建物を所有して土地を占有している者が相手方となります(最判昭35.6.17)。
具体例
AはB所有の土地に廃棄物を投棄した。BはAに対して廃棄物の撤去(妨害排除)を請求できる(物権的妨害排除請求権)。Aに故意・過失がなくても請求可能。別途損害賠償を求めるには故意・過失が必要。

物権的請求権の種類と行使
ポイント整理
- ・物権の円満な支配状態が侵害されていること、または侵害のおそれがあること
- ・請求者が物権者であること
- ・相手方の故意・過失は不要(ただし損害賠償は不要)
- ・物権的返還請求:現在占有している者が相手方
- ・物権的妨害排除請求:現在妨害している者が相手方
- ・物権的妨害予防請求:将来侵害のおそれがあること
効果
- ・物権的返還請求権:占有の返還を求めることができる
- ・物権的妨害排除請求権:妨害の排除を求めることができる
- ・物権的妨害予防請求権:侵害を予防するための措置を求めることができる
- ・相手方の故意・過失にかかわらず請求可能
条文(第民法条文上の明文規定なし(解釈上認められる)条)
(明文規定なし)※物権の支配権的性質から解釈上認められる。占有訴権については180条以下に規定あり。
重要メモ
- ・「物権的請求権3種類(返還・妨害排除・妨害予防)の使い分けと、故意・過失が不要である点」が試験の最重要ポイント
- ・3種類の使い分け:①物権的返還請求権(占有を奪われた場合→現在占有している者に返還を請求)、②物権的妨害排除請求権(占有以外の方法で妨害されている場合→妨害の排除を請求)、③物権的妨害予防請求権(将来の侵害のおそれがある場合→予防措置を請求)
- ・故意・過失不要:物権的請求権の行使には相手方の故意・過失は一切不要。不法行為に基づく損害賠償請求(709条)は故意・過失が必要な点と明確に区別して覚える。両者を組み合わせた複合問題が頻出
- ・請求の相手方は『現在の侵害者』:物権的返還請求では現在占有している者、妨害排除請求では現在妨害している者が相手方。元の占有者や登記名義人が相手方になるわけではない点に注意
- ・抵当権には物権的妨害排除請求権(建物収去請求)が認められない:抵当権は物を使用する権利ではなく価値支配権であるため、土地上に不法建物が建てられても建物収去請求を行使できない。地上権等の用益物権とは異なる扱いになる点が過去問で問われている
- ・建物登記名義と収去請求の相手方:土地所有者からの妨害排除請求(建物収去請求)は、原則として建物を現実に所有・占有する者に対して行う。ただし、建物登記がB名義のまま残っていればBに対しても請求できる(判例・行政書士試験17年問31肢5)
まとめ
関連判例
占有改定と即時取得
最判昭35.2.11結論は**「占有改定による即時取得は認められない」**。「善意・無過失だから即時取得が成立する」という引っかけに注意 即時取得が認められないのは占有改定のみ。残りの3つ(現実の引渡し・簡易の引渡し・指図による占有移転)では即時取得が成立し得る点との対比を押さえること 判断の核心は**「外観上の占有状態の変化」**の有無。善意・無過失は必要条件だが、それだけでは足りない 注意:指図による占有移転では即時取得が成立する(最判昭57.9.7)。占有改定と混同しやすいので要注意 民法192条の趣旨(動産取引の安全保護=外観への信頼の保護)から逆算して「外観が変わらなければ保護の根拠がない」という論理の流れを理解しておくと、応用問題にも対応できる
背信的悪意者
最判昭43.8.2背信的悪意者は民法177条の「第三者」に該当しないため、登記がなくても対抗できる 注意:単なる悪意(事実を知っていること)だけでは背信的悪意者にならない。信義則に反する特別な事情が必要 背信的悪意者の典型例は「登記がないことに乗じて不当な利益を得る目的」で取引した者 背信的悪意者から譲り受けた転得者については、転得者自身が背信的悪意者でなければ177条の第三者として保護される(転得者は独立して判断する) 民法177条の「第三者」から除外されるのは、背信的悪意者のほか不法占拠者・不法行為者なども同様
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民法の重要用語
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相続財産の範囲内でのみ債務を返済する条件で相続を承認する方法のこと。
弁済の提供
債務者が債務を履行するために、債権者が受け取れる状態にすること。口頭の提供と現実の提供の2種類がある。
不特定物の特定
不特定物債権において、債務者が具体的に引き渡すべき物を決定・分離することで、特定物債権に変わること。
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相続人が被相続人を殺害するなど重大な非行をした場合に、法律上当然に相続権を失う制度のこと。
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