第7節 時効
第1章 総則
時効とは、一定期間が経過することで権利の取得や消滅という重大な法律効果が生じる制度です。長年続いた事実状態を尊重し、法的安定性を確保するために認められています。取得時効と消滅時効の要件・効果の違い、時効の援用、完成猶予・更新といった頻出論点を確実に押さえましょう。
時効とは
145条・162条・166条簡単にいうと
ある状態が長く続くと、その状態どおりの権利の取得や消滅を認めるのが時効です。取得時効と消滅時効の2つがあります。
時効とは
時効とは、ある状態が一定期間続いたことを理由に、その状態どおりの権利の取得や消滅を認める制度です。
長く続いた事実状態には、それを前提にした取引や生活が積み重なっています。何十年も前の権利関係を今さら蒸し返されると、かえって混乱が大きくなります。また、証拠となる書類が失われて本来の権利者が立証できなくなることもあります。時効は、こうした事情をまとめて処理するために置かれた仕組みです。
2つの種類
取得時効は、一定期間の経過によって権利を取得するものです(162条)。他人の土地を長く使い続けた人が、その土地の所有権を手に入れる場面です。
消滅時効は、一定期間の経過によって権利が消滅するものです(166条)。お金を貸したのに取り立てないまま放っておくと、返せと言えなくなる場面です。
取得する側から見るか、失う側から見るかの違いで、どちらも「長く続いた状態を法律上の権利として認める」という発想は共通しています。
援用がなければ効果は生じない
期間が過ぎれば自動的に権利が移ったり消えたりするわけではありません。時効の利益を受ける者が、時効の利益を受けると主張して初めて効果が生じます。この主張を援用といいます(145条)。
借りたお金を期間の経過だけで当然に返さなくてよくなるとすれば、返したいと考えている債務者にも時効を押しつけることになってしまいます。援用を必要とすることで、時効を使うかどうかを本人が選べるようにしています。
具体例
AがBに100万円を貸したまま10年以上取り立てなかったとします。消滅時効の期間は過ぎていますが、それだけでBの返済義務がなくなるわけではありません。Bが「時効なので返しません」と援用して初めて、Aは請求できなくなります。Bが返したいと考えるのであれば、援用せずに支払うこともできます。
ポイント整理
- ・一定の事実状態が続いていること
- ・法律で定められた期間が経過していること
- ・時効の利益を受ける者が援用をすること(145条)
効果
- ・取得時効では、一定期間の経過により権利を取得します(162条)
- ・消滅時効では、一定期間の経過により権利が消滅します(166条)
- ・援用がなければ時効の効果は生じません(145条)
条文(145条・162条・166条)
第145条(時効の援用)時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
重要メモ
- ・期間の経過だけでは効果が生じず、援用が要る点に注意
- ・取得時効(162条)は一定期間の経過により権利を取得する制度
- ・消滅時効(166条)は権利を行使しないまま期間が過ぎて権利が消滅する制度
- ・145条: 時効は当事者が援用しなければ、裁判所はそれによって裁判できない
- ・援用を要求するのは、時効を使うかどうかを本人に選ばせるため
取得時効とは
144条・162条・163条簡単にいうと
他人の物を長く使い続けた人が、その物の所有権を手に入れられる制度です。所有権以外の権利も対象になります。
取得時効とは
取得時効とは、他人の物を一定期間使い続けた者が、その物の所有権を取得できる制度です(162条)。
Aが所有する土地の上に、Bが勝手に建物を建てて長年住んでいる、という場面を思い浮かべてください。Bが取得時効の要件を満たせば、Bはその土地の所有権を手に入れます。
なぜ認められるのか
本来の所有者の権利を奪う制度なので、一見すると乱暴に見えます。しかし、使われないまま放置された土地の権利より、実際に使い続けている人の権利を認めたほうが、その土地は有効に活用されます。加えて、長年の間に権利関係の証拠が失われることも多く、現に続いている状態を尊重するほうが争いを減らせます。
所有権以外の権利も対象
取得時効の対象は所有権だけではありません。所有権以外の財産権についても時効取得が認められます(163条)。地上権、永小作権、地役権、不動産賃借権などがこれにあたります。
「他人の土地を自分の土地として使い続けた」のであれば所有権の時効取得になりますが、「他人の土地を通行し続けた」のであれば地役権の時効取得が問題になる、というように、どの権利として使い続けたのかで結論が変わります。
原始取得になる
時効取得は、前の所有者から権利を受け継ぐのではなく、まっさらな権利を新しく手に入れる原始取得です。時効の効力は起算日に遡るため(144条)、占有を始めた時点から制約のない完全な所有者であったことになります。
そのため、その土地に抵当権が設定されていた場合でも、時効取得によって抵当権は消滅し、何の負担もない土地の所有権を手にすることになります。
具体例
A所有の土地の上に、Bが勝手に建物を建てて長年住んでいたとします。Bが取得時効の要件を満たせば、Bはその土地の所有権を取得します。このときAがその土地にCのための抵当権を設定していたとしても、Bの時効取得は原始取得なので、抵当権は消滅します。Bは負担のない土地を手に入れることになります。

取得時効とは
ポイント整理
- ・他人の物を占有していること
- ・法律で定められた期間、占有を継続していること(162条)
- ・所有権以外の財産権についても時効取得が認められること(163条)
効果
- ・占有を開始した時点から、制約のない完全な所有者であったことになります(144条)
- ・前の所有者から受け継ぐのではなく、新しい権利を取得します(原始取得)
- ・設定されていた抵当権などの負担は消滅します
- ・地上権・永小作権・地役権・不動産賃借権なども時効取得の対象になります(163条)
条文(144条・162条・163条)
第163条(所有権以外の財産権の取得時効)所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。
重要メモ
- ・時効取得は原始取得で、抵当権などの負担が消える点に注意
- ・162条: 他人の物を一定期間占有し続けた者はその所有権を取得する
- ・163条: 地上権・永小作権・地役権・不動産賃借権なども時効取得の対象になる
- ・144条: 時効の効力は起算日に遡り、占有開始時から所有者であったことになる
- ・どの権利として使い続けたかで、時効取得される権利の内容が変わる
取得時効の要件
162条・186条簡単にいうと
取得時効には5つの要件があります。善意無過失かどうかで必要な期間が10年と20年に分かれます。
5つの要件
取得時効が認められるには、次の要件を満たす必要があります(162条)。
第1に、他人の物を占有していることです。自分の物では時効取得の問題は起きません。
第2に、所有の意思をもって占有していることです。これを自主占有といいます。自分の物として扱う意思が必要で、借りているだけの人には所有の意思がありません。物を盗んだ者には所有の意思があるとされますが、物を借りた者にはないとされる点が対比になります。
第3に、平穏かつ公然と占有していることです。暴力的な手段によらず、隠さずに普通に使っている、という意味です。
第4に、期間の継続です。占有の開始時に善意かつ無過失であった場合は10年、そうでない場合は20年です。
第5に、援用をすることです。要件がそろっても、援用がなければ効果は生じません。
要件は推定される
これらの要件をすべて占有者が証明するのは簡単ではありません。そこで民法は、所有の意思、平穏、公然、善意について推定を置いています(186条1項)。占有者の側が積極的に証明しなくてよいのが原則です。
占有の承継
前の占有者の期間を引き継いで合算することもできます。ここで注意したいのが、善意か悪意かの判断です。合算する場合、善意悪意は最初に占有を始めた者を基準に判断します。
Bが善意無過失で7年占有し、その後Cが悪意で5年占有したとします。合わせて12年ですが、基準になるのはBなので、12年の善意無過失の占有として扱われ、時効は完成します。
逆にBが悪意で7年、Cが善意で5年の場合は、12年の悪意の占有となり、20年に足りないため時効は完成しません。後から善意の人が入っても期間は短くなりません。
具体例
BがA所有の土地の占有を始めてから7年が経ち、その後CがBの占有を承継して5年間占有を続けたとします。Bが占有開始時に善意無過失であれば、Cが悪意であっても12年の善意無過失の占有として扱われ、取得時効は完成します。これに対しBが悪意であった場合は、Cが善意でも12年の悪意の占有となり、20年に届かないため時効は完成しません。

取得時効の要件
ポイント整理
- ・他人の物を占有していること
- ・所有の意思をもって占有していること(自主占有)
- ・平穏かつ公然と占有していること
- ・占有開始時に善意無過失なら10年、そうでなければ20年の占有を継続すること
- ・援用をすること(145条)
効果
- ・占有を開始した時点から完全な所有者であったことになります(144条)
- ・所有権以外の財産権も時効取得の対象になります(163条)
- ・所有の意思・平穏・公然・善意は推定されます(186条1項)
- ・前の占有者の期間を合算でき、善意悪意は最初の占有者を基準に判断します
条文(162条・186条)
第162条(所有権の取得時効) 1 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。 2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
重要メモ
- ・占有を合算するとき、善意悪意は最初に占有を始めた者を基準にする点に注意
- ・要件は、他人の物、所有の意思(自主占有)、平穏かつ公然、期間の継続、援用
- ・占有開始時に善意無過失なら10年、そうでなければ20年(162条)
- ・所有の意思・平穏・公然・善意は推定される(186条1項)
- ・物を盗んだ者には所有の意思があり、物を借りた者にはないとされる
消滅時効とは
166条・167条・724条・724条の2簡単にいうと
権利を持っていても行使しないまま時間が過ぎると、その権利は消えます。債権の種類ごとに期間と起算点が違います。
消滅時効とは
消滅時効とは、権利を取得した後に何もしないまま一定期間が経過すると、その権利が消滅する制度です(166条)。AがBに100万円を貸したまま長期間取り立てなければ、Aは返せと言えなくなります。
権利の上に眠る者は保護しない、という考え方が背景にあります。もっとも、期間が過ぎただけでは足りず、援用が必要です(145条)。
2つの起算点
消滅時効には、主観的起算点と客観的起算点の2つがあります。主観的起算点は「権利を行使することができることを知った時」、客観的起算点は「権利を行使することができる時」です。どちらか早いほうで時効が完成します。
債権の種類ごとの期間
一般の債権は、知った時から5年、権利を行使できる時から10年です(166条1項)。貸金債権が前者の例、過払金返還請求権のように契約以外から生じる債権が後者の例になります。
債務不履行にもとづく人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権は、知った時から5年、権利を行使できる時から20年です(167条)。安全配慮義務違反による損害賠償がこれにあたります。
不法行為にもとづく損害賠償請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年です(724条)。交通事故で自動車が壊れた場合の賠償請求が例です。
人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、知った時から5年、不法行為の時から20年です(724条の2)。交通事故でけがをした場合がこれにあたります。物が壊れた場合より、けがをした場合のほうが重大なので、請求できる期間が長くなっています。
債権または所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年です(166条2項)。地上権などがこれにあたります。
所有権は時効で消滅しない
所有権そのものは消滅時効にかかりません。ただし、相手から取得時効を主張された結果、所有権を失うことはあります。
具体例
AがBに100万円を貸し、返済期日を定めていたとします。期日が来たことをAが知っていれば、その時から5年で消滅時効が完成します。これに対し、交通事故でAがけがをして加害者Bに損害賠償を請求する場合は、損害と加害者を知った時から5年、事故の時から20年です。同じ事故でAの自動車が壊れただけであれば、知った時から3年になります。

消滅時効とは
ポイント整理
- ・権利を行使できる状態にあること
- ・その状態のまま法律で定められた期間が経過すること
- ・援用をすること(145条)
効果
- ・援用によって権利が消滅します
- ・主観的起算点と客観的起算点のどちらか早いほうで時効が完成します
- ・所有権そのものは消滅時効にかかりません
条文(166条・167条・724条・724条の2)
第166条第1項(債権等の消滅時効)債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
重要メモ
- ・生命・身体が害された場合は期間が長くなる点に注意
- ・一般の債権は、知った時から5年、行使できる時から10年(166条1項)
- ・債務不履行による生命・身体の侵害は、知った時から5年、行使できる時から20年(167条)
- ・不法行為は知った時から3年、生命・身体を害する不法行為は5年。どちらも行為の時から20年
- ・債権または所有権以外の財産権は行使できる時から20年。所有権自体は時効消滅しない(166条2項)
消滅時効の客観的起算点
166条1項2号簡単にいうと
消滅時効の客観的起算点は「権利を行使することができる時」です。では、それは具体的にいつを指すのでしょうか。
客観的起算点とは
消滅時効の客観的起算点は、「権利を行使することができる時」とされています(166条1項2号など)。本人が知っているかどうかに関係なく、外から見て権利を行使できる状態になった時から数え始めます。
では「権利を行使することができる時」とは具体的にいつなのでしょうか。債権の内容によって変わるため、型ごとに押さえます。
期限が付いている場合
確定期限付き債権では、期限が到来した時から数えます。令和元年10月31日に支払う約束であれば、その日が来た時が起算点です。
不確定期限付き債権でも、期限が到来した時から数えます。「次に雨が降ったら支払う」という約束であれば、雨が降った時が起算点です。いつ来るか分からないだけで、いつか必ず来る点は確定期限と同じです。
条件が付いている場合
停止条件付き債権では、条件が成就した時から数えます。「試験に合格したら支払う」という約束であれば、合格した時が起算点です。
期限と条件の違いは、将来の発生が確実かどうかです。将来必ず起きるのが期限、起きるかどうか分からないのが条件です。
期限を決めなかった場合
期限の定めのない債権では、債権が成立した時から数えます。支払期日を決めずに貸したのであれば、契約した日が起算点です。いつでも請求できる状態にあるからです。
損害賠償請求権の場合
履行不能による損害賠償請求権では、本来の債務の履行を請求できる時から数えます。令和元年10月31日に建物を引き渡す約束だったのに、売主の失火で建物が滅失した場合、起算点は令和元年10月31日です。損害賠償請求権は本来の債務が姿を変えたものなので、元の債務の期限を引き継ぎます。
不法行為にもとづく損害賠償請求権では、不法行為の時から数えます。突き飛ばされてけがをしたのであれば、その時が起算点です。
具体例
AがBに100万円を貸し、令和元年10月31日に返す約束をしたとします。客観的起算点はその日です。これに対し、支払期日を決めずに貸したのであれば、契約した日が起算点になります。また、令和元年10月31日に建物を引き渡す約束だったのに売主の失火で建物が焼失した場合、損害賠償請求権の起算点も令和元年10月31日です。
ポイント整理
- ・外から見て権利を行使できる状態になっていること
- ・本人がその事実を知っているかどうかは問われないこと
効果
- ・客観的起算点から時効期間の計算が始まります
- ・主観的起算点による期間と、どちらか早いほうで時効が完成します
条文(166条1項2号)
第166条第1項第2号(債権等の消滅時効)権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
重要メモ
- ・期限は到来した時、条件は成就した時が起算点になる点に注意
- ・確定期限も不確定期限も、期限が到来した時から数える
- ・期限の定めのない債権は、債権が成立した時から数える
- ・履行不能による損害賠償請求権は、本来の債務の履行を請求できる時から数える
- ・期限は将来の発生が確実なもの、条件は不確実なもの
時効の援用・放棄
145条・146条簡単にいうと
時効の効果を受けるには援用が必要です。誰が援用できるのか、そして時効の利益を放棄できるのはいつからかが問われます。
時効の援用
時効の効果を受けるには、直接利益を受ける者が必要な期間の経過後に時効の利益を主張しなければなりません。この主張を援用といいます(145条)。
問題になるのは、当事者以外に誰が援用できるかです。
援用できる者
保証人は援用できます。主債務が時効で消滅すれば、保証債務も消滅して支払わずにすむからです。直接に利益を受ける立場にあります。
物上保証人も援用できます。自分の財産に担保を設定している以上、主債務が消滅すれば担保も外れます。
抵当不動産の第三取得者も援用できます。買い受けた不動産に付いている抵当権が外れるかどうかは、自分の利害に直結します。
詐害行為の受益者も援用できます。
援用できない者
一般債権者は援用できません。債務者の債務が1つ減れば回収の見込みは上がりますが、それは間接的な利益にすぎません。
後順位抵当権者も援用できません。先順位の抵当権が消えれば順位が上がりますが、これも反射的な利益にとどまります。
時効の利益の放棄
時効の利益の放棄とは、時効を援用できるのにあえてしないという意思表示です。
時効の利益は、あらかじめ放棄することができません(146条)。時効完成前の放棄は認められないということです。お金を借りる際の契約書に「将来時効が完成しても援用しない」と書き込むことはできません。認めてしまえば、貸す側が必ずその条項を入れて、時効制度が骨抜きになるからです。
時効完成後の放棄は認められます。きちんと返したいと考える人が返せるようにしておく必要があるからです。
時効完成後の債務の承認
時効が完成した後に債務者が債務を承認した場合の扱いが問われます。
時効の完成を知りながら承認したときは、時効の利益の放棄となり、援用できなくなります。
では、時効の完成を知らずに承認したときはどうでしょうか。放棄には放棄する意思が要るので、時効の利益の放棄にはなりません。しかし判例は、信義則上、時効の援用ができなくなるとしています(最大判昭41.4.20)。承認された相手方は、もう時効を持ち出されないと期待するからです。
具体例
AがBに100万円を貸し、Cが保証人になっていたとします。主債務の消滅時効が完成した場合、Cは自分で時効を援用して保証債務を免れることができます。これに対し、Bに対する別の一般債権者Dは、Bの債務が減れば回収しやすくなるとしても、この時効を援用することはできません。また、Bが時効完成を知らずに「2週間待ってください」とAに伝えた場合、放棄にはなりませんが、信義則上Bは時効を援用できなくなります。

時効の援用・放棄
ポイント整理
- ・時効期間が経過していること
- ・援用できるのは、時効によって直接利益を受ける者であること(145条)
- ・時効の利益の放棄は、時効が完成した後にすること(146条)
効果
- ・援用によって時効の効果が生じます
- ・時効完成前の放棄は無効です(146条)
- ・時効完成後の放棄は有効で、以後は援用できなくなります
- ・完成を知って承認すれば放棄となり、知らずに承認しても信義則上援用できません(最大判昭41.4.20)
条文(145条・146条)
第146条(時効の利益の放棄)時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
重要メモ
- ・一般債権者と後順位抵当権者は援用できない点に注意
- ・援用できるのは保証人・物上保証人・抵当不動産の第三取得者・詐害行為の受益者(145条)
- ・146条: 時効の利益はあらかじめ放棄できない。完成前の放棄は無効
- ・時効完成後の放棄は有効で、以後は援用できなくなる
- ・完成を知らずに承認した場合も、信義則上援用できなくなる(最大判昭41.4.20)
時効の完成猶予・更新
147条・150条・151条・152条簡単にいうと
債権者が権利を行使すると、時効の完成が先送りされたり、数えた期間がゼロに戻ったりします。2つの違いが出発点です。
2つの制度の違い
権利を行使しないまま放っておくと時効が完成しますが、期間の途中で債権者が動いた場合には、時効の完成猶予と時効の更新という2つの効果が生じます。
完成猶予は、猶予事由が生じても時効の進行そのものは止まらないものの、本来の満了時期を過ぎても一定期間は時効が完成しない、という制度です。時計は動き続けるが、ゴールテープが先に延びるイメージです。
更新は、それまで経過した期間が時効の完成にとってまったく無意味になり、新たに時効が進行を始める制度です。数えてきた年数がゼロに戻ります。
権利を行使した段階では完成猶予、権利の存在が確定した段階では更新、と整理すると覚えやすくなります。
裁判上の請求
訴えを提起した段階では、完成猶予が生じます(147条1項)。争っている途中に時効期間が満了しても、裁判が確定するまでは時効は完成しません。
裁判が確定して権利の存在が認められた段階では、更新が生じます(147条2項)。カウントはゼロに戻り、新しく時効が進行します。
なお、仮差押えや仮処分には裁判上の請求ほど強い効力はなく、完成猶予にとどまります(149条)。
裁判外の催告
裁判によらずに「お金を返せ」と連絡を入れることを催告といいます。催告があった時から6か月を経過するまでは、時効は完成しません(150条1項)。
ここで注意したいのは、催告を繰り返しても意味がないという点です。催告による完成猶予の間に再び催告をしても、完成猶予の効力は生じません(150条2項)。認めてしまえば、催告を繰り返すだけで時効をいつまでも延ばせることになるからです。
権利の承認
債務者が債務の存在を認めた場合、時効は更新されます(152条)。支払猶予の申入れがその例です。自分で借りていると認めた以上、それまでの期間は意味を失い、カウントはゼロに戻ります。承認は完成猶予ではなく更新の事由である点が問われます。
協議を行う旨の合意
裁判ではなく話し合いで解決したい当事者のために、協議による完成猶予が用意されています(151条1項)。書面で協議を行う旨の合意をすれば、当事者が定めた期間、時効の完成が猶予されます。定められる期間は1年以内です。
猶予されている間にされた再度の合意も有効です(151条2項本文)。催告が一度しか使えないのと対照的で、当事者双方が話し合った結果である点が違います。ただし、合意を重ねても、本来の時効完成時から通算して5年を超えることはできません。
天災などの場合
天災などで権利を行使できない場合にも、その障害が止んだ後一定期間は時効の完成が猶予されます(161条)。
具体例
AがBに100万円を貸し、時効期間の満了が近づいたとします。Aが訴えを提起すれば、裁判中に期間が満了しても時効は完成しません(147条1項)。判決が確定すれば、そこからカウントがゼロに戻ります(147条2項)。訴えるのではなく「返してください」と連絡しただけの場合は、その時から6か月は完成が猶予されますが、繰り返し連絡しても延びません。一方、BがAに「2週間待ってください」と伝えれば、承認にあたり時効は更新されます。

時効の完成猶予・更新
ポイント整理
- ・完成猶予: 裁判上の請求、仮差押え・仮処分、催告、協議を行う旨の合意、天災などがあること
- ・更新: 確定判決等により権利が確定したこと、または債務者が権利を承認したこと
- ・協議による猶予は書面での合意が必要であること(151条1項)
効果
- ・完成猶予では、本来の満了時期を過ぎても一定期間は時効が完成しません
- ・更新では、それまでの期間が無意味になり新たに時効が進行します
- ・催告による猶予は6か月で、繰り返しても効力は生じません(150条2項)
- ・協議による猶予は再度の合意もできますが、通算5年が上限です(151条2項)
条文(147条・150条・151条・152条)
第152条第1項(承認による時効の更新)時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
重要メモ
- ・権利行使の段階は完成猶予、権利確定と承認は更新と整理する
- ・訴えの提起は完成猶予(147条1項)、裁判の確定は更新(147条2項)
- ・仮差押え・仮処分は完成猶予にとどまる(149条)
- ・催告は6か月の完成猶予。繰り返しても効力は生じない(150条2項)
- ・債務者の承認は更新事由(152条)。協議の合意は完成猶予で再度の合意も可(151条)
まとめ
関連判例
時効の援用権者・詐害行為の受益者
最判平10.6.22詐害行為の受益者は、取消債権者の被保全債権の消滅時効を援用することができる 援用できる根拠:被保全債権が消滅すれば詐害行為取消権も行使できなくなり、受益者が得た利益を守ることができるという直接的な利益があるから 本判決の判例法理は平成29年改正で民法145条に明文化された(「権利の消滅について正当な利益を有する者」として受益者が含まれる) 注意:「反射的な利益にすぎない」として援用が認められない例→後順位抵当権者(最判平11.10.21)は先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できない 一般債権者(ライバルの債権者)も直接の利益がないため、原則として他人の時効を援用できない
時効完成後の債務の承認
最判昭41.04.20時効完成後に債務を承認した場合、債務者はその後に消滅時効を援用できない 「時効完成を知らなかった」という事情は関係ない。知らなくても援用は許されない 法的根拠は民法1条2項の信義則(信義誠実の原則) 注意:時効完成前の承認は時効の更新(民法152条・時効のリセット)の問題であり、本判決とは場面が異なる。混同しないこと 試験では「時効完成の事実を知らなかった場合でも援用できない」という部分がひっかけとして出やすい
消滅時効の援用権の代位行使
最判昭43.9.26物上保証人は被担保債権の消滅時効を援用できる(直接利益を受ける者にあたるため) 物上保証人の援用権は平成29年改正で民法145条に明文化 債権者代位による時効援用:①債務者が無資力、②自己の債権保全に必要な限度、という要件のもとで認められる 時効援用権は一身専属的な権利ではないため債権者代位権の対象となりうる 対比:後順位抵当権者は先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できない(最判平11.10.21)→順位上昇は反射的利益にすぎないため 本判決は1つの判決で時効援用の2つの重要論点をカバーしている点を押さえること
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