第5節 代理
第1章 総則
代理とは、本人に代わって代理人が法律行為を行い、その効果が本人に帰属する制度です。しかし、代理権のない者が代理行為をした場合(無権代理)、その行為は原則として本人に効果が帰属しません。この節では、無権代理における本人・相手方の保護の仕組みと、無権代理でありながら有効な代理として扱われる表見代理について学びます。無権代理と相続の組合せは試験頻出の難問です。
代理とは
99条・102条簡単にいうと
自分の代わりに誰かに契約を結んできてもらい、その効果がそのまま自分に生じる。それが代理です。まず成立の3要件から入ります。
代理という仕組み
代理とは、代理人Bが本人Aのために相手方Cと契約をし、その効果が直接Aに生じる仕組みです(99条1項)。成年被後見人のように自分では契約ができない場合だけでなく、交渉が苦手な人が得意な人に任せる、といった場面でも使われます。
効果が「直接」Aに生じるという言い回しは、選択肢でよく狙われます。いったんBに効果が生じてからAに移るのではありません。AとCの間に売買契約があったものとして扱われます。
成立するための3要件
第1に、本人から代理人への代理権授与行為があることです。これがなければ無権代理になります。
第2に、代理人が顕名をすることです。顕名とは「Aの代理人として来ました」と相手方に示すことをいいます。これを欠くと、原則として効果は代理人自身に生じます。
第3に、代理権の範囲内で代理行為がされることです。範囲を超えれば権限外の行為となり、表見代理が成立するかどうかの問題に移ります。
代理人に行為能力は要らない
代理人は相手方と交渉して契約を結ぶため、意思能力は必要です。しかし行為能力は必要ありません(102条本文)。未成年者を代理人に選ぶこともできます。
効果が生じるのは本人であって代理人ではないため、代理人が不利な契約をしても代理人自身が損をするわけではないからです。そして、あえて未成年者を代理人に選んだ以上、その結果は本人が引き受けるべきだと考えられています。
そのため、制限行為能力者が代理人としてした行為を、行為能力の制限を理由に取り消すことはできません(102条本文)。この結論は繰り返し問われます。
具体例
AがBに「私の土地を売ってきてほしい」と頼み(代理権授与)、BがCに「Aの代理人として来ました」と告げて(顕名)土地の売買契約を結んだとします(代理行為)。このとき、代金を請求する権利も土地を引き渡す義務も、すべて直接Aに生じます。Bが17歳であっても、この契約を行為能力の制限を理由に取り消すことはできません。

代理とは
ポイント整理
- ・本人から代理人への代理権授与行為があること
- ・代理人が顕名をすること(本人のためにすることを示すこと)
- ・代理人が代理権の範囲内で代理行為をすること
効果
- ・代理行為の効果は直接本人に生じます(99条1項)
- ・代理人は行為能力者でなくてもかまいません(102条本文)
- ・代理人には意思能力が必要です
条文(99条・102条)
第99条(代理行為の要件及び効果) 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。 第102条(代理人の行為能力) 制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。
重要メモ
- ・代理人に行為能力は要らないが意思能力は要る点に注意
- ・3要件は、代理権授与、顕名、代理権の範囲内であること
- ・効果は直接本人に生じる(99条1項)。代理人を経由して移るのではない
- ・未成年者を代理人にできる。行為能力の制限を理由に取り消すことはできない(102条本文)
- ・顕名を欠くと効果は代理人に生じ、範囲を超えれば表見代理の問題になる
任意代理と法定代理
103条・104条・105条簡単にいうと
代理には、本人が自分で頼んで生まれる任意代理と、法律が当然に与える法定代理があります。代理権の範囲の決まり方が違います。
2つの代理
代理は、代理権がどこから生まれるかで2つに分かれます。
法定代理は、法律の規定によって当然に代理権が与えられるものです。未成年者に対する親権者、成年被後見人に対する成年後見人が典型例です。本人が頼んだわけではないのに代理関係が生じる点が特徴です。
任意代理は、本人が自分の意思で代理権を与えるものです。土地の売却を頼まれて委任状を受け取った人が典型例です。
代理権の範囲はどう決まるか
法定代理では、代理権の範囲は法律によって決まります。本人の意思で広げたり狭めたりするものではありません。
任意代理では、代理権の範囲は本人が決めた授権の内容によります。「この土地を売ってきてほしい」と頼んだのであれば、代理権はその範囲にとどまります。
範囲が定まっていない場合
任意代理で、代理権の範囲がはっきり定められていないこともあります。この場合、代理人ができるのは2つだけです(103条)。
1つは保存行為で、財産の現状を維持する行為です。雨漏りする家を修理する、といった行為が当たります。もう1つは、代理の目的である物または権利の性質を変えない範囲内での利用行為・改良行為です。家をリフォームする、預金を定期預金に組み替えるといった行為です。
家を売るような処分行為はできません。「財産の管理を頼む」とだけ言われた代理人が土地を売ることはできない、ということです。ここは繰り返し問われます。
具体例
12歳のAの母Bが、親権者としてAの土地を管理する場合が法定代理です。これに対し、AがBに「私の財産の管理をお願いします」とだけ頼んだ場合は任意代理になりますが、代理権の範囲が定まっていません。Bは家の雨漏りを修理したりリフォームしたりできますが、その土地を売ることはできません。
ポイント整理
- ・法定代理: 法律の規定により代理権が与えられていること
- ・任意代理: 本人の授権行為によって代理権が与えられていること
- ・範囲の定めがない任意代理では、保存行為と、性質を変えない範囲の利用・改良行為だけができます(103条)
効果
- ・法定代理では代理権の範囲が法律で決まります
- ・任意代理では代理権の範囲が本人の授権の内容で決まります
- ・範囲の定めがない任意代理人は処分行為ができません(103条)
条文(103条・104条・105条)
第103条(権限の定めのない代理人の権限) 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。一 保存行為 二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
重要メモ
- ・範囲の定めがない任意代理人は処分行為ができない点に注意
- ・法定代理の例は親権者と成年後見人。本人の意思と関係なく代理権が生じる
- ・任意代理の代理権の範囲は、本人が決めた授権の内容による
- ・103条で認められるのは、保存行為と、性質を変えない範囲の利用行為・改良行為
- ・復代理人を選べる要件も、任意代理(104条)と法定代理(105条)で違う
自己契約・双方代理の禁止
108条簡単にいうと
代理人が自分で相手方になったり、売主と買主の両方の代理人を兼ねたりする形です。本人の利益が害されやすいため、原則として禁じられています。
代理人は本人の利益のために動く
代理人は、本人にとって最も有利になるような契約をしなければなりません。ところが、その立場と相容れない形になってしまう場面が2つあります。自己契約と双方代理です。どちらも原則として禁止されています(108条1項)。
自己契約
自己契約とは、代理人が本人の代理人として、同時に自分が契約の相手方になることです。
Aから「土地を売ってきてほしい」と頼まれたBが、自分がその買主になる場合を考えてください。Bは代理人としてはできるだけ高く売るべきなのに、買主としてはできるだけ安く買いたいはずです。時価3,000万円の土地を100万円で自分に売る、ということが起こりかねません。
双方代理
双方代理とは、1人の代理人が契約の両当事者の代理人を兼ねることです。
売主Aの代理人と買主Cの代理人を、どちらもBが務める場合です。高く売ればCが損をし、安く売ればAが損をします。どちらかの利益が必ず犠牲になるため、やはり禁止されています。
違反するとどうなるか
禁止に反してされた自己契約・双方代理は、代理権を有しない者がした行為、つまり無権代理として扱われます(108条1項)。本人が追認しない限り、効果は本人に生じません。無効になるのではなく無権代理になる、という点が問われます。
2つの例外
例外として、次の場合は認められます。1つは、本人があらかじめ許諾していた場合です。本人が納得しているのであれば、禁止する理由がありません。もう1つは、債務の履行にあたる場合です。売買契約が成立した後の登記手続を、売主と買主が同じ司法書士に任せるような場面がこれにあたります。すでに内容が決まっており、代理人の判断で本人が不利になる余地がないからです。
具体例
AがBに土地の売却を頼んだところ、Bが自分でその買主となり、時価3,000万円の土地を100万円で買い受けたとします。これは自己契約にあたるので無権代理となり、Aが追認しない限り効果は生じません。また、売主Aの代理人と買主Cの代理人をどちらもBが務めた場合も双方代理として無権代理になります。もっとも、AC間の売買契約が成立した後の登記手続をBが双方から任される場合は、債務の履行にあたるため認められます。

自己契約・双方代理の禁止
ポイント整理
- ・例外1: 本人があらかじめ許諾していること
- ・例外2: 債務の履行にあたること(売買成立後の登記手続の代理など)
効果
- ・違反した行為は無権代理として扱われます(108条1項)
- ・本人が追認すれば契約時に遡って有効になります(116条)
- ・本人が追認を拒絶すれば無効に確定します
条文(108条)
第108条(自己契約及び双方代理の禁止) 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした意思表示は、代理権を有しない者がした意思表示とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
重要メモ
- ・違反した場合は無効ではなく無権代理になる点に注意
- ・自己契約は、代理人が自分で契約の相手方になること
- ・双方代理は、1人の代理人が両当事者の代理人を兼ねること
- ・例外1は本人があらかじめ許諾していた場合。事後の許諾では足りない
- ・例外2は債務の履行。売買成立後の登記手続を双方から任される場合が典型
代理権の濫用
107条簡単にいうと
代理人が代理権を悪用して自分の利益をはかる場面です。形のうえでは範囲内の行為なので、相手方の事情で結論が変わります。
代理権の濫用とは
代理権の濫用とは、代理人が与えられた代理権の範囲内で行為をしながら、本人のためではなく自分または第三者の利益をはかる目的で代理行為をすることです(107条)。
Aから土地の売却を任されたBが、代金を着服するつもりでCに売る、という場面です。「Aの代理人として来ました」と顕名もしており、売却は代理権の範囲内です。形のうえでは何も欠けていません。
原則は有効
代理権の濫用による契約は、原則として有効です。範囲内の行為である以上、相手方Cから見れば正常な代理行為と区別がつきません。Cを保護しなければ、代理人と取引する人がいなくなってしまいます。したがってAは土地をCに渡さなければなりません。
相手方が気づけた場合は無権代理
例外として、相手方が代理人の目的を知っていた場合、または知ることができた場合には、その行為は代理権を有しない者がした行為とみなされます(107条)。つまり無権代理として扱われ、Aが追認しない限り土地をCに渡す必要はありません。
代金を着服するつもりだと分かっていた、あるいは少し注意すれば分かったはずの相手方まで守る理由はないからです。
心裡留保との対比
この構造は心裡留保とよく似ています。内心では自分のため、表示は本人のため、というずれがあり、原則有効で、相手方が悪意または善意有過失のときに例外が働くという流れが同じです。
違うのは結論です。心裡留保では意思表示が無効になるのに対し、代理権の濫用では無権代理になります。無権代理であれば本人が追認して有効にする道が残ります。ここが分かれ目です。
具体例
AがBに土地の売却を任せたところ、Bは代金を自分のものにするつもりでCに売ったとします。Cがその事情を知らず、知らないことに過失もなければ契約は有効で、AはCに土地を渡さなければなりません。これに対し、CがBの着服の意図を知っていた場合や、少し注意すれば気づけた場合は無権代理となり、Aが追認しない限り土地を渡す必要はありません。

代理権の濫用(民法107条)
ポイント整理
- ・代理人が代理権の範囲内で行為をしていること
- ・代理人が自分または第三者の利益をはかる目的であること
効果
- ・原則として代理行為は有効です
- ・相手方が悪意または善意有過失のときは無権代理とみなされます(107条)
- ・無権代理とみなされた場合、本人が追認しない限り効果は生じません
条文(107条)
第107条(代理権の濫用) 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は代理権を有しない者がした行為とみなす。
重要メモ
- ・原則有効で、相手方が悪意または善意有過失のときだけ無権代理になる点に注意
- ・代理権の範囲内の行為なので、形のうえでは有効な代理行為に見える
- ・107条: 相手方がその目的を知り、または知ることができたときは無権代理とみなす
- ・心裡留保と流れは同じだが、結論は無効ではなく無権代理
- ・無権代理になるので、本人が追認すれば有効にできる
顕名
99条・100条簡単にいうと
代理人が「Aの代理人として来ました」と相手方に示すことが顕名です。これがあるかどうかで、契約の効果が誰に生じるかが変わります。
顕名とは
顕名とは、代理人が本人のためにすることを相手方に示すことです(99条1項)。「Aの代理人のBです」と名乗る、委任状を示す、といった形で行われます。口頭でも書面でもかまいません。
なぜ必要かというと、相手方が誰と契約しているのかを知る必要があるからです。代金を請求する先も、履行を求める先も変わってきます。
顕名があれば本人に効果が生じる
顕名があれば、契約の効果は本人Aに生じます(99条1項)。AとCの契約として扱われます。
顕名がなければ代理人に効果が生じる
顕名をしないでした意思表示は、代理人が自分のためにしたものとみなされます(100条本文)。BとCの契約として扱われるということです。
このとき、売った土地がAのものであれば、BはCに対して他人の物を売ったことになります。他人物売買の問題として処理されます(561条)。
相手方が知っていた場合は本人に効果が生じる
例外として、相手方が、代理人が本人のためにすることを知っていた場合、または知ることができた場合には、99条1項が準用され、効果は本人に生じます(100条但書)。
相手方がBはAの代理人だと分かっていたのであれば、形式的に顕名がなかったというだけで本人への効果を否定する理由はないからです。
相手方からの意思表示
代理人が相手方から意思表示を受ける場合を受動代理といいます。この場合にも99条1項が準用され、効果は本人に生じます(99条2項)。相手方Cが代理人Bに対して契約の申込みをすれば、それはAに対してしたものとして扱われます。
具体例
BがCに土地を売るときに「Aの代理人として売ります」と告げていれば、売買の効果はAに生じます。これに対しBが「私の土地を売ります」とだけ言った場合、効果はBに生じ、BC間の他人物売買として処理されます。もっとも、CがBをAの代理人だと知っていた場合や、知ることができた場合には、効果はAに生じます。

代理における顕名の効果
ポイント整理
- ・顕名があること(本人のためにすることを相手方に示すこと)
- ・顕名がない場合の例外: 相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、または知ることができたこと
効果
- ・顕名があれば効果は本人に生じます(99条1項)
- ・顕名がなければ代理人が自分のためにしたものとみなされます(100条本文)
- ・相手方が悪意または有過失のときは本人に効果が生じます(100条但書)
- ・相手方からの意思表示を受ける場合も本人に効果が生じます(99条2項)
条文(99条・100条)
第99条(代理行為の要件及び効果)1項 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。2項 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。
重要メモ
- ・顕名を欠いた場合の根拠は100条であって99条2項ではない点に注意
- ・顕名があれば効果は本人に生じる(99条1項)
- ・顕名がなければ代理人が自分のためにしたものとみなされ、他人物売買の問題になる(100条本文)
- ・相手方が代理関係を知り、または知ることができたときは本人に効果が生じる(100条但書)
- ・99条2項は、代理人が相手方から意思表示を受ける受動代理の規定
復代理
104条・105条簡単にいうと
頼まれた代理人が、さらに別の人を代理人として選ぶのが復代理です。任意代理と法定代理で、選べる条件が大きく違います。
復代理とは
契約を頼まれた代理人が、病気やけがで動けなくなることもあります。そうした事態に備えて、代理人がさらに代理人を選ぶ仕組みが用意されています。これが復代理です(104条・105条)。
復代理人は本人の代理人
まず押さえたいのは、復代理人Cは代理人Bの代理人ではなく、本人Aの代理人だという点です。CがDと契約すれば、その効果はAに生じます。AとDの契約になるわけです。
そのためCは「Aの代理人として来ました」と顕名する必要があります。「Bの代理人として」では足りません。
また、復代理人を選んでも代理人B自身の代理権は消えません。BとCの両方が、本人Aのために動けることになります。
任意代理では原則として選べない
任意代理人は、原則として復代理人を選ぶことができません(104条)。本人AがBを信頼して任せた以上、Bが勝手に別の人に振ることは、その信頼を裏切ることになるからです。
例外は2つです。1つは本人の許諾があるとき、もう1つはやむを得ない事由があるときです。急病や災害で自分では動けない、といった場面が後者に当たります。
法定代理では自分の責任で選べる
法定代理人は、自分の責任で復代理人を選ぶことができます(105条)。本人が選んだ代理人ではないうえ、親権者や後見人は本人の財産を守る職務を負っており、自分の手に負えない場面でも投げ出せないからです。たとえば親Bが子Aの不動産を売ろうとしても、知識がなくて困ることがあります。
責任の重さにも違いがあります。法定代理人は原則として復代理人の行為について全面的に責任を負い、やむを得ない事由があって選任したときに限り、選任と監督についての責任だけを負います(105条)。
具体例
AがBに不動産の売却を頼んだとします(任意代理)。BがCを復代理人に選ぶには、Aの許諾があるか、やむを得ない事由があることが必要です。選任が認められてCがDに土地を売った場合、その契約はAとDの契約になります。このときCは「Aの代理人として来ました」と顕名する必要があります。

復代理
ポイント整理
- ・任意代理: 本人の許諾があること、またはやむを得ない事由があること(104条)
- ・法定代理: 制限はなく、自分の責任で選任できること(105条)
- ・復代理人は本人の代理人として顕名する必要があります
効果
- ・復代理人の行為の効果は本人に生じます
- ・復代理人を選任しても代理人自身の代理権は消滅しません
- ・法定代理人は原則として全面的に責任を負い、やむを得ない事由による選任のときだけ選任・監督の責任にとどまります(105条)
条文(104条・105条)
第104条(任意代理人による復代理人の選任) 委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。 第105条(法定代理人による復代理人の選任) 法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
重要メモ
- ・任意代理は原則選任できず、法定代理は自分の責任で選任できる点に注意
- ・復代理人は代理人の代理人ではなく本人の代理人。顕名も本人の名で行う
- ・任意代理の例外は、本人の許諾があるときとやむを得ない事由があるとき(104条)
- ・復代理人を選任しても、代理人自身の代理権は消滅しない
- ・法定代理人の責任が選任・監督に限られるのは、やむを得ない事由があるときだけ(105条)
代理行為の瑕疵
101条簡単にいうと
代理では、実際に交渉するのは代理人です。だから詐欺や錯誤、知っていたかどうかは代理人を基準に判断します。
誰を基準に判断するか
代理では、本人ではなく代理人が相手方と交渉します。そのため、詐欺があったか、錯誤があったか、ある事情を知っていたかといった判断は、代理人について決めるのが原則です(101条1項・2項)。これを代理人基準といいます。
代理人が相手方をだました場合
AがBに土地の売却を任せ、BがCをだまして売ったとします。本人Aはだましていませんが、代理人Bがだました以上、Aがだましたものとして扱います。したがってCは詐欺を理由に売買を取り消すことができます(96条1項)。
ここで注意したいのは、これが第三者による詐欺(96条2項)ではないという点です。代理人は本人の側の人間なので、契約の相手方による詐欺として扱われます。
代理人がだまされた場合
逆に、CがBをだまして不利な契約を結ばせたとします。本人Aはだまされていませんが、代理人Bがだまされた以上、Aがだまされたものとして扱います。したがってAは詐欺を理由に取り消すことができます(101条1項)。
本人が知っていた場合
代理人基準を貫くと、おかしな結果になる場面があります。本人が事情を知っていながら、何も知らない代理人を立てて「代理人は善意だ」と主張する、という抜け道です。
そこで民法は、特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自分が知っていた事情について代理人が知らなかったと主張することはできない、と定めました(101条3項)。過失によって知らなかった事情についても同じです。
つまり、原則は代理人基準ですが、本人が悪意または有過失であった場合には、その事情が本人に跳ね返ってくることになります。
具体例
AがBに土地の売却を任せ、BがCに「この土地には地下水が豊富だ」とうそを言って売ったとします。だましたのは代理人Bですが、Cは詐欺を理由にAとの売買を取り消すことができます。逆にCがBをだまして相場より高く買わせた場合は、Aが取消しを主張できます。また、Aがその土地に問題があることを知りながら、事情を知らないBに売却を任せた場合、Aは「Bは知らなかった」と主張することはできません。

代理行為の瑕疵(民法101条)
ポイント整理
- ・代理人が相手方にした意思表示の効力は、代理人について判断します(101条1項)
- ・相手方が代理人にした意思表示の効力も、代理人について判断します(101条2項)
- ・特定の法律行為を委託された場合、本人が知っていた事情は本人に跳ね返ります(101条3項)
効果
- ・代理人が相手方をだませば、相手方は詐欺を理由に取り消せます(96条1項)
- ・代理人がだまされれば、本人が詐欺を理由に取り消せます(101条1項)
- ・本人が悪意または有過失なら、代理人が善意であったことを主張できません(101条3項)
条文(101条)
第101条(代理行為の瑕疵)1項 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決する。2項 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決する。
重要メモ
- ・判断は代理人を基準にするのが原則である点に注意
- ・代理人が相手方をだました場合、相手方は96条1項で取り消せる。第三者詐欺ではない
- ・代理人がだまされた場合、本人が取り消せる(101条1項)
- ・相手方から代理人への意思表示についても代理人を基準に判断する(101条2項)
- ・本人が知っていた事情を代理人の善意で覆すことはできない(101条3項)
無権代理とは
113条簡単にいうと
本人から頼まれていないのに、勝手に本人の代理人として契約してしまう。これが無権代理です。本人と相手方の双方をどう守るかが論点になります。
無権代理とは
無権代理とは、代理権を持たない者が本人の代理人として相手方と契約をしてしまうことです(113条)。
代理権がない以上、その行為の効果は本人に生じません。頼んでもいない契約で権利義務を負わされるのは不当だからです。条文も「本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない」という書き方をしています。無効と言い切っていない点が特徴で、追認によって有効になる余地が残されています。
2つの場面
無権代理には2つの場面があります。1つは、代理権がまったく与えられていない場合です。子が親に無断で親の土地を売る、といった場面です。
もう1つは、代理権はあるけれどもその範囲を超えた場合です。「100万円借りてきて」と頼まれた人が1,000万円借りてくる、といった場面がこれにあたります。
本人と相手方の両方を守る
無権代理では、勝手に契約されてしまった本人と、代理権があると信じて契約した相手方の、両方を守る必要があります。そこで民法は両側に手段を用意しました。
本人の側には、追認権と追認拒絶権があります(113条)。認めたければ追認し、認めたくなければ拒絶できます。1,000万円の土地を無権代理人が3,000万円で売ってきたのであれば、追認する利益もあります。
相手方の側には、催告権(114条)、取消権(115条)、無権代理人への責任追及(117条)の3つがあります。
追認の効果は遡る
本人が追認すると、契約は追認した日からではなく、無権代理行為がされた時に遡って有効になります(116条本文)。ここは誤りの選択肢としてよく使われます。ただし、第三者の権利を害することはできません(116条但書)。
具体例
兄Bが弟Aに無断で、Aの代理人としてAの土地をCに売ったとします。Aが追認しなければ、この売買の効果はAに生じません。一方、土地の時価が1,000万円なのにBが3,000万円で売ってきたのであれば、Aには追認する利益があります。Aが追認すれば、売買は契約をした時に遡って有効になります。

無権代理とは
ポイント整理
- ・代理権を持たない者が本人の代理人として行為をしたこと
- ・または、代理権の範囲を超えた行為をしたこと
効果
- ・本人が追認しなければ、効果は本人に生じません(113条1項)
- ・本人が追認すれば、契約の時に遡って有効になります(116条本文)
- ・追認によって第三者の権利を害することはできません(116条但書)
- ・本人が追認を拒絶すれば無効に確定します
条文(113条)
第113条(無権代理)1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
重要メモ
- ・追認の効果は追認した日ではなく契約の時に遡る点に注意
- ・無権代理には、代理権がまったくない場合と範囲を超えた場合がある
- ・113条1項は「効力を生じない」と定める。当然に無効なのではなく追認の余地が残る
- ・本人には追認権と追認拒絶権、相手方には催告権・取消権・117条の責任追及がある
- ・追認の遡及効は第三者の権利を害することができない(116条但書)
本人の保護(無権代理)
113条・116条簡単にいうと
勝手に契約されたとき、本人は認めるか認めないかを選べます。どちらを選ぶかで法律関係が決まります。
本人には2つの選択肢
無権代理がされた場合、本人には追認拒絶権と追認権があります(113条)。土地をCに渡したくなければ追認を拒絶し、渡してもよければ追認する、という形です。
追認拒絶権
追認拒絶とは、無権代理行為を認めないという意思表示です。拒絶すると無権代理行為は無効に確定し、以後は相手方も取消しなどを行使する余地がなくなります。
一度拒絶した後で気が変わって追認することはできません。相手方をいつまでも不安定な立場に置かないためです。
追認権
追認とは、無権代理行為を認める意思表示です。追認すると、その行為は無権代理行為がされた時に遡って有効になります(116条本文)。
追認した日から有効になるのではない、という点が繰り返し問われます。時価1,000万円の土地を無権代理人が3,000万円で売ってきたのであれば、本人にとって追認する利益があります。追認するかどうかは本人が自由に決められます。
誰に対してするか
追認も追認拒絶も、相手方に対してしなければ相手方に対抗できません(113条2項)。無権代理人に向かって「認めない」と言っただけでは、相手方には主張できないということです。
ただし、相手方がその事実を知っていれば、無権代理人に対してした追認や追認拒絶でも相手方に対抗できます(113条2項但書)。
遡及効の限界
追認には遡及効がありますが、第三者の権利を害することはできません(116条但書)。追認前にすでに生じていた第三者の権利は、追認によって覆されることはありません。
具体例
BがAに無断で、Aの代理人としてAの土地をCに売ったとします。AがCに対して「その売買を認める」と伝えれば、売買は契約をした時に遡って有効になります。逆にAがCに「認めない」と伝えれば無効に確定し、その後でAが気を変えて追認することはできません。AがBにだけ「認めない」と伝えた場合、Cがその事実を知らなければ、AはCに対して追認拒絶を主張できません。

本人の保護(無権代理)
ポイント整理
- ・追認または追認拒絶は、原則として相手方に対してすること(113条2項)
- ・無権代理人に対してした場合でも、相手方がその事実を知っていれば対抗できます(113条2項但書)
効果
- ・追認をすれば、契約の時に遡って有効になります(116条本文)
- ・追認拒絶をすれば無効に確定し、その後に追認することはできません
- ・相手方に対してしなければ相手方に対抗できません(113条2項)
- ・追認によって第三者の権利を害することはできません(116条但書)
条文(113条・116条)
第113条2項 前項の規定により契約の追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。 第116条(無権代理行為の追認) 追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
重要メモ
- ・追認の効果が契約の時に遡る点と、相手方への通知が要る点に注意
- ・追認権と追認拒絶権はどちらも本人の権利(113条)
- ・追認すると無権代理行為がされた時に遡って有効になる(116条本文)
- ・追認拒絶をすると無効に確定し、後から追認に転じることはできない
- ・相手方が知っていれば、無権代理人にした追認・追認拒絶でも対抗できる(113条2項但書)
相手方の保護(無権代理)
114条・115条・117条簡単にいうと
無権代理に巻き込まれた相手方には3つの手があります。催告するか、取り消すか、無権代理人に責任を問うかです。
3つの手段
無権代理では、相手方には催告権(114条)、取消権(115条)、無権代理人の責任追及(117条)の3つが用意されています。行使できる条件がそれぞれ違うため、比較して覚える必要があります。
催告権(114条)
本人が追認するかどうかを知りたいとき、相手方は本人に対して、相当の期間を定めて追認するかどうかを答えるよう催告できます。
期間内に確答がなければ、追認を拒絶したものとみなされます。無権代理であることを知っていた相手方でも催告はできます。単に返事を求めるだけなので、悪意でも構わないわけです。
取消権(115条)
取引を中止したいとき、相手方は無権代理行為を取り消すことができます。取り消せるのは、本人が追認するまでの間に限られます。本人の追認と相手方の取消しは早い者勝ちで、追認が先に来れば取消しはできません。
取消権を行使できるのは、無権代理であることを知らなかった相手方だけです。知っていた相手方は、そのリスクを承知で契約したのだから保護する必要がないからです。
無権代理人の責任追及(117条)
契約の履行や損害賠償を求めたいときは、無権代理人に責任を追及できます(117条1項)。次の条件を満たす場合です。
代理人が代理権を証明できないこと。本人の追認が得られないこと。相手方が取消権を行使していないこと。そして相手方が善意かつ無過失であること(117条2項1号・2号)。さらに、無権代理人が行為能力の制限を受けていた場合には責任を追及できません(117条2項3号)。
なお、相手方に過失があっても、無権代理人が自分に代理権がないことを知っていた場合には、責任を追及できます(117条2項2号但書)。
具体例
BがAに無断でAの土地をCに売ったとします。Cは「2週間以内に追認するかどうか答えてほしい」とAに催告でき、返事がなければ追認拒絶とみなされます。Cが無権代理だと知らなかったのであれば、Aが追認するまでの間に売買を取り消すこともできます。さらにCが善意かつ無過失で、Aの追認も得られない場合には、CはBに対して土地の引渡しまたは損害賠償を請求できます。

相手方の保護(無権代理)
ポイント整理
- ・催告権: 相当の期間を定めて本人に催告すること。悪意でも行使できます(114条)
- ・取消権: 無権代理であることを知らなかったこと、本人の追認前であること(115条)
- ・責任追及: 代理権を証明できないこと、本人の追認がないこと、取消権を行使していないこと、相手方が善意かつ無過失であること(117条)
効果
- ・催告をして期間内に確答がなければ追認を拒絶したものとみなされます(114条)
- ・取消しをすれば無権代理行為は効力を失います(115条)
- ・責任追及により、契約の履行または損害賠償を請求できます(117条1項)
- ・無権代理人が行為能力の制限を受けていた場合は責任を追及できません(117条2項3号)
条文(114条・115条・117条)
第114条(無権代理の相手方の催告権) 前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。 第115条(無権代理の相手方の取消権) 代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。 第117条1項(無権代理人の責任) 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
重要メモ
- ・3つの手段で行使できる相手方の要件が違う点に注意
- ・催告権(114条)は悪意でも行使できる。確答がなければ追認拒絶とみなす
- ・取消権(115条)は善意の相手方だけ。本人が追認するまでの間に限られる
- ・責任追及(117条)は善意かつ無過失が必要。無権代理人が制限行為能力者なら追及できない(117条2項3号)
- ・相手方に過失があっても、無権代理人が代理権のないことを知っていれば追及できる(117条2項2号但書)
無権代理と相続(無権代理人が本人を単独相続した場合)
113条・116条(判例)簡単にいうと
勝手に売った本人が亡くなり、その無権代理人が相続した場合です。追認拒絶ができるかどうかが結論を分けます。
相続で立場が入れ替わる
無権代理がされた後に、本人や無権代理人が亡くなって相続が起こることがあります。すると、追認拒絶できる立場と、勝手に売った立場が1人に重なります。このとき無権代理行為がどうなるかが問題になります。
出題されるパターンは決まっているので、事例図ごとに結論を覚えるのが確実です。
無権代理人が本人を単独相続した場合
無権代理人Bが本人Aの土地を勝手にCへ売った後、Aが死亡してBが単独で相続したとします。この場合、無権代理行為は有効になります(最判昭40.6.18)。
BはAの地位を受け継いだので、形のうえでは追認拒絶権もBのものになります。しかし、自分で勝手に売っておきながら、相続したとたんに「認めない」と言って土地を取り戻すのはあまりに身勝手です。そのような追認拒絶は認められません。
本人が追認を拒絶した後に死亡した場合
同じ単独相続でも、Aが生前に追認を拒絶していた場合は結論が変わります。この場合、無権代理行為は無効のままです(最判平10.7.17)。
Aが追認を拒絶した時点で、その行為が無効であることはすでに確定しています。後からBが相続したからといって、いったん確定した結論が覆るわけではありません。したがってBは無効を主張して、土地の返還を求めることができます。
間接的に相続した場合
無権代理人Bを相続した者が、その後さらに本人Aを相続した場合も、無権代理人が本人を相続したものとして扱われます(最判昭63.3.1)。間に1人挟まっても結論は変わりません。
具体例
BがAに無断でAの土地をCに売った後、Aが死亡してBが単独で相続したとします。このとき売買は有効となり、BはCに土地を引き渡さなければなりません。これに対し、Aが生前に「認めない」と追認を拒絶していた場合は、その後にBが相続しても売買は無効のままで、BはCに土地の返還を求めることができます。

無権代理と相続(無権代理人が本人を単独相続した場合)
ポイント整理
- ・有効となる場合: 無権代理人が本人を単独相続し、本人の生前に追認拒絶がなかったこと
- ・無効のままの場合: 本人が生前に追認を拒絶した後に、無権代理人が相続したこと
効果
- ・追認拒絶がなければ、無権代理行為は有効になります(最判昭40.6.18)
- ・生前に追認拒絶があれば、無権代理行為は無効のままです(最判平10.7.17)
- ・無権代理人を相続した者が後に本人を相続した場合も同じ扱いになります(最判昭63.3.1)
条文(113条・116条(判例))
第113条(無権代理)1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
重要メモ
- ・本人の生前に追認拒絶があったかどうかで結論が分かれる点に注意
- ・無権代理人が本人を単独相続した場合、無権代理行為は有効になる(最判昭40.6.18)
- ・理由は、自ら無権代理をした者が追認拒絶をするのは信義に反すること
- ・本人が生前に追認を拒絶していれば、その後に相続しても無効のまま(最判平10.7.17)
- ・無権代理人を相続した者が後に本人を相続した場合も同じ扱い(最判昭63.3.1)
無権代理と相続(その他のパターン)
113条(判例)簡単にいうと
共同相続の場合と、本人のほうが無権代理人を相続した場合です。単独相続とは結論が変わります。
無権代理人が本人を共同相続した場合
無権代理人Bが本人Aの土地を勝手にEへ売った後、Aが死亡し、BがC・Dとともに共同相続したとします。この場合、ほかの共同相続人全員が共同して追認しない限り、無権代理行為は有効になりません(最判平5.1.21)。
単独相続なら有効としてよかったのは、追認拒絶できる立場が完全にBに移ったからです。しかし共同相続では、C・Dも土地の共有者になります。Bの身勝手を理由に、何の関係もないC・Dの持分まで失わせるわけにはいきません。
Bの相続分に相当する部分だけが当然に有効になる、ということもありません。追認権は相続人全員に不可分に帰属するからです。
本人が無権代理人を単独相続した場合
今度は逆に、無権代理人Bが死亡して本人Aが相続したとします。この場合、Aは追認を拒絶できます(最判昭37.4.20)。
Aはもともと追認拒絶できる立場にありました。Bを相続したからといって、その権利が消える理由はありません。自分で無権代理をしたわけでもないので、身勝手だという評価も当てはまりません。
ただし117条の責任は免れない
もっとも、AはBの地位も受け継いでいます。そのため相手方Cから無権代理人の責任(117条)を追及された場合、Aはこれを拒むことができません(最判昭48.7.3)。
追認は拒絶できるので土地を渡す必要はありませんが、Bが負っていた損害賠償などの責任は引き継ぐ、ということです。追認拒絶ができることと、117条の責任を免れることは別だという点が要になります。
具体例
BがAに無断でAの土地をEに売った後、Aが死亡してB・C・Dが共同相続したとします。このときC・Dも共同して追認しない限り、売買は有効になりません。Bの相続分に相当する部分だけが有効になることもありません。逆に、Bが死亡してAが単独で相続した場合、Aは追認を拒絶できますが、CからBの責任を追及されたときにこれを拒むことはできません。

無権代理と相続(その他のパターン)
ポイント整理
- ・共同相続の場合: 共同相続人全員が共同して追認すること(最判平5.1.21)
- ・本人が無権代理人を相続した場合: 本人は追認拒絶権を行使できます(最判昭37.4.20)
効果
- ・共同相続では、全員の共同の追認がない限り無権代理行為は有効になりません
- ・無権代理人の相続分に相当する部分だけが当然に有効になることもありません
- ・本人が無権代理人を相続した場合、本人は追認を拒絶できます(最判昭37.4.20)
- ・ただし無権代理人の責任(117条)を拒むことはできません(最判昭48.7.3)
条文(113条(判例))
第113条(無権代理)1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
重要メモ
- ・共同相続では全員の共同の追認が要る点に注意
- ・共同相続の場合、無権代理人単独の追認では有効にならない(最判平5.1.21)
- ・無権代理人の相続分に相当する部分だけが当然に有効になることもない
- ・本人が無権代理人を単独相続した場合、本人は追認を拒絶できる(最判昭37.4.20)
- ・追認は拒絶できても、117条の責任追及は拒めない(最判昭48.7.3)
表見代理とは(3パターン総論)
109条・110条・112条簡単にいうと
無権代理でも、本人に落ち度があり相手方が信じてよい状況だったなら、有効として扱う制度です。落ち度の形で3つに分かれます。
表見代理という制度
無権代理行為は、本人が追認を拒絶すれば無効になり、相手方は土地を手に入れられません。しかし、本人の側にそれを招いた落ち度があるのに、何も知らない相手方だけが損をするのは公平とはいえません。
そこで、無権代理人に代理権があると信じた相手方を守るために表見代理が用意されています。表見代理が成立すると、無権代理行為が有効なものとして扱われ、相手方は本人に契約の履行を求めることができます。
成立のための2つの柱
表見代理が成立するには、本人の側に落ち度(帰責性)があることと、相手方が善意かつ無過失であることが必要です。
通常は本人に落ち度がないので本人の保護を優先しますが、本人に落ち度があるときは相手方の保護に傾けるという考え方です。本人の落ち度が大きい場面なので、相手方には善意だけでなく無過失まで求めるのが3つに共通するルールです。
3つのパターン
民法は本人の落ち度を3つの形に分けています。
第1は、代理権授与の表示による表見代理です(109条1項)。代理権を与えていないのに、与えたかのような表示をした場合です。委任状を渡すつもりがないのに交付してしまった、といった場面が当たります。
第2は、権限外の行為の表見代理です(110条)。私法上の代理権を与えていたけれども、代理人がその範囲を超えた行為をした場合です。100万円の融資を受ける代理権を与えたのに1,000万円借りてきた、といった場面です。
第3は、代理権消滅後の表見代理です(112条1項)。過去に代理権を与えていたけれども、それが消滅した後に代理行為をした場合です。解任したのに代理人として契約してきた、といった場面です。
これらを組み合わせた場合についても規定が置かれています(109条2項・112条2項)。
具体例
Aが「Bに代理権を与えた」とCに伝えたものの実際には与えていなかった場合が第1のパターンです。Aが賃貸の代理権だけをBに与えたのに、Bが売買契約を結んできた場合が第2のパターンです。Aが代理人Bを解任した後にBが契約してきた場合が第3のパターンです。いずれもCが善意かつ無過失であれば表見代理が成立し、AはCに土地を返せと言えません。

表見代理とは
ポイント整理
- ・本人の側に落ち度があること(3つのパターンのいずれかにあたること)
- ・相手方が善意かつ無過失であること(3つのパターンに共通)
効果
- ・表見代理が成立すると、無権代理行為は有効なものとして扱われます
- ・相手方は本人に対して契約の履行を求めることができます
- ・表見代理を主張するかどうかは相手方が決められます
条文(109条・110条・112条)
第109条1項(代理権授与の表示による表見代理等) 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。 第110条(権限外の行為の表見代理) 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。 第112条1項(代理権消滅後の表見代理等) 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理人がした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。
重要メモ
- ・3つのパターンに共通して相手方の善意かつ無過失が要る点に注意
- ・代理権授与の表示による表見代理(109条1項)は、代理権を与えていないのに与えたと表示した場合
- ・権限外の行為の表見代理(110条)は、代理権の範囲を超えた行為をした場合
- ・代理権消滅後の表見代理(112条1項)は、代理権が消滅した後に代理行為をした場合
- ・本人に落ち度がまったくない場合には表見代理は成立しない
権限外の行為の表見代理(110条)
110条簡単にいうと
代理権はあったけれど、その範囲を超えてしまった場合です。何が「基本代理権」にあたるかが分かれ目になります。
110条が使われる場面
権限外の行為の表見代理とは、代理人が与えられた代理権の範囲を超えた行為をした場合に、相手方に代理権があると信ずべき正当な理由があれば、表見代理が成立するという制度です(110条)。
109条は代理権がまったくないことを前提にしていますが、110条は代理権が一応あることを前提にしています。この違いが出発点です。
3つの要件
第1に、代理人に基本代理権があることです。まったくの無権代理人には110条は使えません。
第2に、その基本代理権の範囲を超えた行為をしたことです。賃貸の代理権しかない者が売買をした、といった形です。
第3に、相手方に代理権があると信ずべき正当な理由があることです。これは善意かつ無過失を意味します。
基本代理権にあたるかどうか
出題の中心はここです。
私法上の代理権は基本代理権にあたります。賃貸借契約の代理権、融資を受ける代理権などです。
勧誘業務の代行権限は基本代理権にあたりません。契約を結ぶ権限ではなく、単に勧誘をする権限にすぎないからです。
公法上の代理権は、原則として基本代理権にあたりません。役所に印鑑証明書を取りに行ってもらう代理権などがこれにあたり、表見代理は成立しません。
ただし例外があります。登記申請の代理権は公法上の代理権ですが、売買のような私法上の取引の一環としてされた場合には基本代理権にあたります(最判昭46.6.3)。この例外は繰り返し問われます。
間違えやすいところ
過去問では「代理人は与えられた権限の範囲で行為をするのだから、権限を超えた行為が有効となる余地はない」という形で出題され、誤りとされました。110条によって有効となる余地が残ります。
具体例
AがBに賃貸借契約の代理権を与えたところ、Bはその範囲を超えてAの土地をCに売ってしまったとします。賃貸借契約の代理権は私法上の代理権なので基本代理権にあたります。Cが代理権があると信じ、そう信じたことに過失もなければ、表見代理が成立してAはCに土地を返せと言えません。これに対し、AがBに印鑑証明書の取得だけを頼んでいた場合は、公法上の代理権にとどまるため表見代理は成立しません。

権限外の行為の表見代理(110条)
ポイント整理
- ・代理人に基本代理権があること(私法上の代理権であること)
- ・基本代理権の範囲を超えた代理行為をしたこと
- ・相手方に代理権があると信ずべき正当な理由があること(善意かつ無過失)
効果
- ・3つの要件を満たすと表見代理が成立し、無権代理行為は有効として扱われます
- ・本人は相手方に対して契約上の義務を負います
条文(110条)
第110条(権限外の行為の表見代理) 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
重要メモ
- ・基本代理権にあたるかどうかが結論を分ける点に注意
- ・110条は代理権が一応あることを前提にする。109条との違いがここにある
- ・私法上の代理権は基本代理権にあたる。勧誘業務の代行権限はあたらない
- ・公法上の代理権は原則としてあたらないが、登記申請の代理権は例外(最判昭46.6.3)
- ・「権限を超えた行為が有効となる余地はない」とする記述は誤り
無権代理と表見代理の関係
110条・117条簡単にいうと
表見代理も無権代理人への責任追及も使える場面では、相手方がどちらを選んでもかまいません。
両方の要件を満たすことがある
無権代理がされた場合、表見代理の要件と無権代理人の責任追及(117条)の要件を、どちらも満たすことがあります。相手方が善意かつ無過失であれば、両方の道が開けているからです。
このとき相手方は、どちらを選んでもかまいません。
相手方が選べる
1つ目の道は、本人に表見代理の成立を主張することです。無権代理行為が有効なものとして扱われ、本人に契約の履行を求められます。
2つ目の道は、表見代理をあえて主張せず、無権代理人に117条の責任を追及することです。履行または損害賠償を請求できます。
どちらが有利かは場合によります。本人に資力がなければ無権代理人を相手にしたほうがよいこともありますし、目的物が欲しいのであれば本人に履行を求めるほうが確実なこともあります。相手方を守るための制度である以上、どちらを使うかは相手方が決められます。
無権代理人の側からは主張できない
注意したいのは方向です。表見代理は相手方を保護するための制度なので、無権代理人の側から「表見代理が成立するのだから自分は責任を負わない」と主張することはできません。
相手方が117条の責任を追及してきたときに、無権代理人が「本人に請求してくれ」と言って逃れることはできない、ということです。表見代理を持ち出せるのは相手方だけです。
具体例
AがBに賃貸の代理権だけを与えていたところ、BがAの土地をCに売ったとします。Cが善意かつ無過失であれば、CはAに対して表見代理の成立を主張して土地の引渡しを求めることができます。あるいは表見代理を主張せず、Bに対して履行または損害賠償を請求することもできます。このときBのほうから「表見代理が成立するのだから自分は責任を負わない」と主張することはできません。

無権代理と表見代理の関係
ポイント整理
- ・表見代理の主張: 本人に落ち度があり、相手方が善意かつ無過失であること
- ・117条の責任追及: 本人の追認がなく、相手方が善意かつ無過失であること
効果
- ・相手方は表見代理の主張と117条の責任追及のどちらでも選べます
- ・表見代理を主張するかどうかは相手方が決められます
- ・無権代理人の側から表見代理の成立を主張して責任を免れることはできません
条文(110条・117条)
第117条1項(無権代理人の責任) 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
重要メモ
- ・相手方がどちらを選んでもよい点と、無権代理人の側からは主張できない点に注意
- ・表見代理を主張すれば本人に履行を求められる(109条・110条・112条)
- ・表見代理を主張せずに無権代理人へ履行または損害賠償を求めてもよい(117条)
- ・どちらが有利かは本人の資力などによる。選択は相手方に委ねられる
- ・無権代理人が「表見代理が成立するから責任を負わない」と主張することはできない
まとめ
関連判例
本人が無権代理人を相続
最判昭37.04.20Aが無権代理行為をされた後、Aが無権代理人Bを相続した事案。最高裁は、本人Aは追認拒絶できるとし、無権代理行為は当然には有効にならないと判示した。一方、BのAに対する117条の損害賠償責任はAが相続しているため、相手方はAにその責任を追及できる。試験では「誰が誰を相続したか」の方向を問う問題で頻出。
無権代理人が本人を単独相続
最判昭40.6.18Bが無断でA名義の法律行為をした後、BがAを唯一の相続人として相続した事案。最高裁は、BはAの地位を承継したため、本人として追認を拒絶することは信義則上許されないとし、無権代理行為は当然に有効になると判示した。単独相続か共同相続かで結論が変わる点が試験のポイント
無権代理人を相続した者が後に本人を相続
最判昭63.3.1無権代理人Bをいったん相続したCが、その後本人Aも相続した事案。最高裁は、Cは無権代理人の地位とともに本人の地位も持つことになるため、追認拒絶は信義則上許されず無権代理行為は当然有効になると判示した。相続が複数回行われる複合問題として出題される。
夫婦の日常家事代理権と表見代理
最判昭44.12.18夫が妻の日常家事代理権(761条)を基本代理権として、権限外の法律行為(不動産売買等)をした事案。最高裁は、日常家事の範囲を超える行為への110条の表見代理の成立について、相手方が日常家事の範囲内と信じるにつき正当な理由がある場合に限り類推適用を認めた。「基本代理権+日常家事」の組み合わせは頻出論点。
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