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テキスト/民法/第4節 意思表示

第4節 意思表示

第1章 総則

意思表示とは、法律行為の中核をなす「一定の法律効果を発生させようとする意思の表明」です。しかし、真意と異なる表示をした場合や、相手に騙された場合など、意思と表示が一致しない場合があります。この節では、そうした意思表示の瑕疵(欠陥)について、どのような場合に法律行為が無効・取消しとなるのかを学びます。

1

心裡留保

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心裡留保とは、表意者が真意でないことを知りながら意思表示をすることです。原則として意思表示は有効ですが、相手方が表意者の真意でないことを知っていたまたは知ることができた場合は無効となります。

具体例

Aさんは冗談のつもりで「この時計を100万円で売るよ」とBさんに言った。Bさんが冗談と気づかず真に受けた場合、契約は有効。しかしBさんが冗談と知っていた場合は無効となる。

要件

  • 表意者が真意でないことを知りながら意思表示をすること
  • 相手方が表意者の真意でないことを知り、または知ることができたこと(無効となる場合)

効果・結論

  • 原則として意思表示は有効
  • 相手方が悪意または有過失の場合は無効
  • 善意の第三者には無効を対抗できない

条文(第93条)

第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。 2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

場合
効果
相手方が善意無過失
有効
相手方が悪意または有過失
無効
善意の第三者が登場
無効を対抗できない(有効扱い)

試験のポイント

  • 原則有効・例外無効という構造を逆にしない
  • 相手方の主観(悪意・有過失)が要件となる点
  • 善意の第三者保護規定がある点(虚偽表示との違い)
2

虚偽表示

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虚偽表示とは、相手方と通じてする虚偽の意思表示(通謀虚偽表示)です。当事者双方がグルになって仮装の意思表示をする場合で、この意思表示は無効です。ただし、善意の第三者には無効を対抗できません。

具体例

Aさんは債権者から財産を差し押さえられるのを防ぐため、友人Bさんと相談して、実際には売る気がないのに土地の売買契約書を作成した。この契約は無効だが、それを知らないCさんがBから土地を買った場合、AはCに無効を主張できない。

要件

  • 相手方と通じてすること(通謀)
  • 虚偽の意思表示をすること

効果・結論

  • 意思表示は無効
  • 善意の第三者には無効を対抗できない
  • 第三者の善意は推定される(判例)
  • 第三者に登記等の対抗要件は不要(判例)

条文(第94条)

第94条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。 2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

場合
効果
当事者間
無効
善意の第三者
無効を対抗できない(第三者保護)
悪意の第三者
無効を対抗できる

試験のポイント

  • 第三者の善意は推定される(立証責任が表意者側にある)
  • 第三者に対抗要件(登記等)は不要という点
  • 94条2項類推適用の論点(無権利者からの取引)
3

錯誤

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錯誤とは、意思表示の内容に勘違いがあることです。意思表示の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの(基礎事情の錯誤〔動機の錯誤〕を含む)であるときは、意思表示を取り消すことができます。ただし、表意者に重過失があるときは原則として取消不可です。

具体例

Aさんは土地を購入したが、この土地に建物が建てられると思い込んでいた。実際は市街化調整区域で建築不可だった。この重要な事実についての錯誤があれば、Aは売買契約を取り消せる可能性がある。

要件

  • 意思表示の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤であること
  • 基礎事情の錯誤(動機の錯誤)の場合、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと(黙示的な表示でも足りる)
  • 表意者に重過失がないこと(原則)

効果・結論

  • 意思表示を取り消すことができる
  • 表意者に重過失がある場合は原則取消不可
  • 相手方が悪意または重過失で錯誤を知らなかった場合、または相手方も同一の錯誤に陥っていた場合は、表意者に重過失があっても取消可
  • 善意無過失の第三者には取消しを対抗できない

条文(第95条)

第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。 一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤 2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。 3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。 一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。 二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。 4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

場合
効果
重要な錯誤+無過失または軽過失
取消可能
重要な錯誤+重過失+相手方善意無過失
取消不可
重要な錯誤+重過失+相手方悪意・重過失
取消可能
基礎事情の錯誤(動機の錯誤)+表示なし
取消不可
善意無過失の第三者
取消しを対抗できない

試験のポイント

  • 基礎事情の錯誤(動機の錯誤)は、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていることが必要(黙示的な表示でも足りる)
  • 重過失がある場合の例外(相手方悪意・重過失、相手方も同一錯誤)
  • 取消しであって無効ではない点
  • 善意無過失の第三者保護規定がある点(善意のみでは不足)
4

詐欺・強迫

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詐欺とは、相手方の欺罔行為によって錯誤に陥り意思表示をすることです。強迫とは、相手方の脅迫によって恐怖心を生じて意思表示をすることです。いずれも意思表示を取り消すことができますが、詐欺の場合は善意無過失の第三者には取消しを対抗できません。

具体例

AさんはBさんから「この土地は来年必ず地価が10倍になる」と虚偽の事実を告げられて土地を購入した(詐欺)。または「買わないと家族に危害を加える」と脅されて購入した(強迫)。いずれも取り消せるが、詐欺の場合は善意無過失のCさんが登場すると取消しを対抗できない。

要件

  • 詐欺:相手方の欺罔行為、それによる錯誤、錯誤に基づく意思表示
  • 強迫:相手方の脅迫行為、それによる畏怖、畏怖に基づく意思表示
  • 第三者による詐欺の場合:相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができたこと(悪意・有過失)

効果・結論

  • 詐欺による意思表示は取り消すことができる
  • 強迫による意思表示は取り消すことができる
  • 詐欺による取消しは善意無過失の第三者に対抗できない
  • 強迫による取消しは第三者の善意・悪意を問わず対抗できる

条文(第96条)

第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。 2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。 3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

場合
効果
詐欺+善意無過失の第三者
取消しを対抗できない
詐欺+悪意または有過失の第三者
取消しを対抗できる
強迫+第三者(善意悪意問わず)
取消しを対抗できる
第三者詐欺+相手方善意無過失
取消不可
第三者詐欺+相手方悪意・有過失
取消可能

試験のポイント

  • 詐欺と強迫の第三者保護の違い(詐欺は善意無過失の第三者を保護、強迫は第三者を保護しない)
  • 第三者詐欺の場合は相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができたこと(悪意・有過失)が必要
  • 詐欺の第三者は善意無過失が必要(善意のみでは不足)

まとめ

テーマ
ポイント
注意点
心裡留保
原則有効、相手方悪意・有過失で無効
原則と例外を逆にしない。善意の第三者保護あり(虚偽表示と同様の規定)
虚偽表示
通謀による虚偽表示は無効、善意の第三者保護
第三者に対抗要件(登記等)は不要。第三者の善意は推定される(立証責任は表意者側)
錯誤
重要な錯誤は取消可、重過失は原則不可
基礎事情の錯誤(動機の錯誤)は表示が必要(黙示的表示も可)。第三者保護は善意かつ無過失が必要(善意のみでは不足)
詐欺
取消可能、善意無過失の第三者に取消しを対抗不可
第三者詐欺は相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができたこと(悪意・有過失)が必要
強迫
取消可能、第三者にも取消しを対抗可能
詐欺と異なり第三者保護規定なし。善意の第三者であっても取消しを対抗できる点が最重要

関連判例

94条2項類推適用

不動産の名義を他人に預けていたところ、その名義人が勝手に善意の第三者に売却してしまった事件です。最高裁は、本人が虚偽の外観(名義変更など)を作り出したことに責任がある場合、94条2項を類推適用して善意の第三者を保護すると判示しました。試験では「本人の帰責性」と「第三者の善意(または無過失)」のバランスが問われます。

黙示的な動機の表示

契約の前提となる動機が、言葉でハッキリ言われていない場合に錯誤取消ができるかが争われました。最高裁は、明示されなくても、周囲の状況から動機が相手方に伝わっており、かつそれが契約の基礎となっていることが客観的に認められれば「表示」にあたるとしました。行政書士試験では『黙示的な表示でもよい』というフレーズが正誤問題の鍵となります。

詐術の場合の取消権の否定

未成年者が「私は二十歳です」と嘘を吐いたり、偽造した身分証を見せたりして契約した事案です。最高裁は、このように相手方を誤信させるための積極的な術策(詐術)を用いたときは、制限行為能力を理由とした取消しを認めないと判断しました。意思表示の「詐欺」と混同しやすいですが、こちらは『騙した本人の取消権』を封じるルールです。

錯誤による和解契約

和解契約の既判力・確定効との関係で錯誤取消しが主張された事案。最高裁は、和解の目的である争いの対象について錯誤があった場合には取消しが認められないが、争いの前提となった事実についての錯誤は取消事由となりうると判示した。試験では、和解と錯誤の交錯する場面として、「どの範囲の錯誤が取消事由となるか」という点が狙われる。

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