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テキスト/民法/第4節 意思表示

第4節 意思表示

第1章 総則

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意思表示とは、法律行為の中核をなす「一定の法律効果を発生させようとする意思の表明」です。しかし、真意と異なる表示をした場合や、相手に騙された場合など、意思と表示が一致しない場合があります。この節では、そうした意思表示の瑕疵(欠陥)について、どのような場合に法律行為が無効・取消しとなるのかを学びます。

1

意思表示とは

93条〜96条

簡単にいうと

「売ります」「買います」という言葉や行動が意思表示です。その意思表示に問題があったときのために、民法は心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫の5つを用意しています。

契約は意思表示の合致で生まれる

意思表示とは、一定の法律効果を生じさせたいという意思を、外に向かって表す行為です。売買契約であれば、売主の「売ります」という申込みと、買主の「買います」という承諾が合致することで成立し、代金支払義務と目的物引渡義務が生まれます。

意思表示は、内心にある効果意思と、外に出した表示行為の2つからできています。両者が一致していれば問題は起きません。しかし、両者がずれていたり、表示に至る過程に他人の不当な干渉があったりすると、そのまま契約を成立させてよいのかという問題が生じます。

5つの類型が置かれた理由

民法は、意思表示に問題があった場面として5つを定めています。心裡留保(93条)、虚偽表示(94条)、錯誤(95条)、詐欺(96条)、強迫(96条)です。

このうち心裡留保・虚偽表示・錯誤の3つは、「売る」という表示に対応する意思がない場面です(動機の錯誤を除きます)。これに対して詐欺と強迫は、「売る」という意思自体はあるものの、そこに相手方の不当な干渉がある場面です。この2つのグループ分けを先に持っておくと、細かい結論も整理しやすくなります。

比較の軸は2つ

学習の軸は2つです。1つ目は、その意思表示が無効になるのか、取り消せるにとどまるのか。2つ目は、後から登場した第三者が保護されるための要件が、善意だけでよいのか、善意かつ無過失まで要るのかです。

この2軸で5類型を並べた表を自分で書けるようになると、個々の条文を思い出さなくても結論にたどり着けます。表意者の落ち度が大きい類型ほど第三者が保護されやすく、落ち度が小さい類型ほど表意者が保護されやすい、という筋が通っています。

具体例

Aが「この車を売ります」とBに申し込み、Bが「買います」と承諾したとします。この2つの意思表示が合致した時点で売買契約が成立し、Aには車を引き渡す債務、Bには代金を支払う債務が発生します。

意思表示とは

意思表示とは

ポイント整理

  • ・一定の法律効果を欲する意思(効果意思)があること
  • ・その意思を外部に表示する行為があること
  • ・通常は、効果意思と表示行為が一致していること

効果

  • ・意思表示が合致すると契約が成立し、当事者に権利義務が生じます
  • ・意思表示に問題があるときは、類型に応じて無効または取消しとなります

条文(93条〜96条)

(民法93条〜96条に規定)

類型
条文
効果
第三者保護要件
心裡留保
93条
原則有効(悪意・善意有過失→無効)
善意のみ
虚偽表示
94条
無効
善意のみ
錯誤
95条
取消し(重過失→取消不可)
善意かつ無過失
詐欺
96条
取消し
善意かつ無過失
強迫
96条
取消し
第三者保護規定なし(善意者にも対抗可)

重要メモ

  • ・5類型を無効か取消しか、第三者保護の要件はどこまでかの2軸で並べる
  • ・心裡留保(93条): 原則有効。相手方が悪意または善意有過失なら無効
  • ・虚偽表示(94条): 無効。第三者保護は善意のみで足りる
  • ・錯誤(95条)・詐欺(96条): 取消し。第三者保護は善意かつ無過失が必要
  • ・強迫(96条): 取消し。第三者を保護する規定がなく、善意の第三者にも対抗できる
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心裡留保

93条

簡単にいうと

売るつもりがまったくないのに、冗談や見栄で「売ります」と言ってしまうのが心裡留保です。原則は有効で、相手が嘘だと気づけた場合だけ無効になります。

心裡留保とは

心裡留保とは、自分の真意と違うことを分かったうえで、1人で意思表示をすることです(93条1項)。相手方と示し合わせている虚偽表示とは違い、表意者が一方的にうそを言っている場面です。自分の車を冗談で「10円で売るよ」と言うようなケースがこれにあたります。

原則は有効

心裡留保による意思表示は、原則として有効です(93条1項本文)。冗談を真に受けた相手方の信頼を守るためです。うそを言った側の内心を理由に契約をなかったことにできるとすれば、相手方は誰の言葉も信用できなくなってしまいます。したがって、冗談で「10円で売る」と言った以上、原則としてその値段で売らなければなりません。

例外として無効になる場合

相手方が、それが真意ではないと知っていた場合(悪意)、または知ることができた場合(善意有過失)には、意思表示は無効になります(93条1項但書)。嘘だと分かっていた、あるいは少し注意すれば分かったはずの相手方まで守る必要はないからです。ここでいう過失とは不注意のことで、明らかな冗談を見抜けなかった場合が当たります。

第三者との関係

心裡留保による無効は、善意の第三者に対抗できません(93条2項)。第三者は善意であればよく、無過失までは求められません。うそをついた表意者の落ち度が大きいため、第三者が保護されやすい基準になっています。この「善意のみ」という水準は虚偽表示と同じで、錯誤や詐欺の「善意かつ無過失」とは区別が必要です。

具体例

Aが自分の車を、売る気がないまま冗談でBに「10円で売るよ」と言い、Bが本気にして「ありがとう」と応じたとします。原則としてこの売買契約は有効なので、AはBに車を10円で売らなければなりません。もっともBが、これは冗談だと分かっていた場合や、少し注意すれば分かったはずの場合には無効となり、Aは車を売らずにすみます。

心裡留保とは

心裡留保とは

第三者の保護(心裡留保)

第三者の保護(心裡留保)

ポイント整理

  • ・表意者が、自分の真意と違うことを知りながら意思表示をしたこと
  • ・相手方との通謀がないこと(通謀があれば虚偽表示になります)

効果

  • ・原則として意思表示は有効です(93条1項本文)
  • ・相手方が悪意または善意有過失のときは無効になります(93条1項但書)
  • ・無効は善意の第三者に対抗できません(93条2項)。無過失までは不要です

条文(93条)

第93条① 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。② 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

場面
相手方の状態
意思表示の効力
原則
善意(真意でないと知らない)
有効
例外
悪意(真意でないと知っていた)
無効
例外
善意有過失(知らなかったが過失あり)
無効
第三者
善意(無過失不要)
無効を対抗できない(第三者保護)

重要メモ

  • ・原則有効で、相手方が悪意または善意有過失のときだけ無効になる点に注意
  • ・93条1項本文: 心裡留保による意思表示は有効(相手方の信頼を守るため)
  • ・93条1項但書: 相手方が悪意、または善意でも過失があれば無効
  • ・93条2項: 無効は善意の第三者に対抗できない。無過失は不要
  • ・虚偽表示との違いは通謀の有無。第三者保護の水準はどちらも善意のみで同じ
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虚偽表示(通謀虚偽表示)

94条

簡単にいうと

債権者から財産を隠すために、示し合わせて「売ったことにする」のが虚偽表示です。互いに売る気も買う気もないので、その意思表示は無効になります。

虚偽表示とは

虚偽表示とは、相手方と示し合わせたうえで、互いに売る気も買う気もないのに、外見だけ売買があったように見せかける意思表示です(94条1項)。典型例は、債権者の差押えを逃れるための仮装売買です。

Aが債権者Cから土地を差し押さえられそうになり、友人Bに「財産隠しのために、売ったことにしてくれ」と頼んでBが応じる、という場面を思い浮かべてください。

当然に無効

虚偽表示による意思表示は無効です(94条1項)。当事者のどちらも効果が生じることを望んでいない以上、有効と扱う理由がないからです。

無効を主張できるのは当事者だけではありません。Aにお金を貸していたCも、AB間の売買が無効であることを主張して、Aの土地を差し押さえることができます。仮装売買を有効にしてしまえば財産隠しが簡単にできてしまうため、ここは債権者側から崩せる仕組みになっています。

第三者は善意なら保護される

虚偽表示による無効は、善意の第三者に対抗できません(94条2項)。善意であれば足り、無過失までは要りません。うそに加担したAの落ち度が大きいため、第三者が保護されやすい基準です。Bから土地を買ったCが善意であれば、Aは土地を返せと言えません。

誰が第三者にあたるかも問われます。Bにお金を貸しただけの一般債権者は、まだ土地に利害関係を持っていないため第三者にあたりません。その者が土地を差し押さえたり抵当権の設定を受けたりした時点で、94条2項の第三者として保護されます。

転得者はどちらの順でも保護される

B、C、Dと転売が続いた場合の扱いも出題されます。Cが悪意でDが善意なら、Dは94条2項の第三者として保護されます。逆にCが善意でDが悪意の場合も、Dは保護されます。Cが善意になった時点でAはCに無効を主張できなくなり、土地は完全にCのものになっているため、そこから買ったDが悪意でも関係ないからです。

つまり、C・Dのどちらかが善意であればDは保護される、という結論になります。

具体例

Aが債権者Cの差押えを逃れるため、Bと示し合わせて土地をBに売ったことにしたとします。AB間の売買は無効なので、CはAの土地として差し押さえることができます。一方、事情を知らないDがBから土地を買った場合、AはDに対して無効を主張できず、土地はDのものになります。

虚偽表示とは

虚偽表示とは(民法94条1項)

第三者の保護(虚偽表示)

第三者の保護(虚偽表示)

ポイント整理

  • ・相手方と通謀していること(示し合わせていること)
  • ・真意と違う、外見だけの意思表示をしていること

効果

  • ・意思表示は当然に無効です(94条1項)
  • ・当事者だけでなく、Aの債権者も無効を主張して差押えができます
  • ・無効は善意の第三者に対抗できません(94条2項)。無過失は不要です
  • ・C・Dのどちらかが善意であれば、転得者Dは保護されます

条文(94条)

第94条① 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。② 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

場面
第三者の状態
保護されるか
Bから直接買ったC
善意(無過失は不要)
保護される。Aは無効を対抗できない
転得者D(Cが悪意)
Dが善意
保護される。Dが94条2項の第三者にあたる
転得者D(Cが善意)
Dが悪意
保護される。土地はすでにCのものになっている
Bの一般債権者(差押え前)
善意
第三者にあたらない。Aは無効を対抗できる
Bの債権者(差押え・抵当権設定後)
善意
第三者にあたり保護される

重要メモ

  • ・第三者は善意だけで保護され、無過失までは要らない点に注意
  • ・94条1項: 通謀してした仮装の意思表示は無効。債権者も無効を主張できる
  • ・94条2項: 無効は善意の第三者に対抗できない
  • ・一般債権者は差押えをして初めて第三者にあたる。差押え前は第三者ではない
  • ・転得者は、Cが悪意でDが善意の場合も、Cが善意でDが悪意の場合も保護される
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錯誤

95条

簡単にいうと

自分の勘違いで意思表示をしてしまうのが錯誤です。勘違いが重要なものなら取り消せますが、自分に重大な不注意があると原則として取り消せません。

錯誤とは

錯誤とは、真意と違う意思表示をしてしまい、そのずれに表意者自身が気づいていない場合です(95条)。心裡留保や虚偽表示は本人がずれを分かっているのに対し、錯誤は分かっていない点が違います。レストランでマロンパフェを頼むつもりが、うっかり「メロンパフェください」と言ってしまう場面が典型です。

2つの種類

1つ目は表示行為の錯誤です。内心の意思と、実際に口に出したり書いたりした表示がずれている場合をいいます。メロンパフェとマロンパフェを同じものだと思い込んでいた場合(内容の錯誤)と、言い間違えた場合(表示上の錯誤)があります。

2つ目は動機の錯誤です。内心と表示はずれていないものの、そう思うに至ったきっかけに誤りがある場合で、扱いが別になります。

取り消せるかどうかの判断

錯誤による意思表示は、その錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであるときに、取り消すことができます(95条1項)。注意したいのは、無効ではなく取消しだという点です。2020年施行の改正で無効から取消しに変わりました。

ただし、表意者に重大な過失があったときは取り消せません(95条3項本文)。少し注意すれば勘違いを防げたのに怠った人を、契約を取り消される相手方より優先する理由はないからです。

重過失があっても取り消せる2つの場合

重過失があっても、次の場合には取消しを主張できます(95条3項1号・2号)。1つは、相手方が表意者に錯誤があることを知っていた、または重大な過失によって知らなかった場合です。もう1つは、相手方が表意者と同じ錯誤に陥っていた場合で、AとBの両方が安物の腕時計を高級品だと思い込んでいたような場面が当たります。

第三者との関係

錯誤による取消しは、善意かつ無過失の第三者に対抗できません(95条4項)。心裡留保や虚偽表示のように積極的にうそをついたわけではなく、表意者の落ち度が小さいため、第三者側のハードルを上げて表意者を保護しやすくしています。

具体例

Aが土地を1,000万円で売るつもりで、契約書に誤って「100万円」と書いてしまったとします。価格は契約にとって重要な事項なので、Aはこの意思表示を取り消すことができます。ただし、Aが契約書をまったく読み返さずに署名したような場合は重大な過失があるとされ、原則として取り消せません。もっとも、買主Bも1,000万円のつもりでいたのであれば、共通の錯誤として取消しが認められます。

錯誤とは

錯誤とは(民法95条)

第三者の保護(錯誤)

第三者の保護(錯誤)

ポイント整理

  • ・意思表示に錯誤があること
  • ・その錯誤が法律行為の目的と取引上の社会通念に照らして重要なものであること
  • ・表意者に重大な過失がないこと(例外は95条3項1号・2号)

効果

  • ・取り消すことができます(95条1項)。無効ではありません
  • ・取り消すと契約は遡って消滅します(121条)
  • ・表意者に重過失があると原則として取り消せません(95条3項本文)
  • ・相手方が悪意もしくは重過失、または同じ錯誤に陥っていたときは取り消せます(95条3項1号・2号)
  • ・取消しは善意かつ無過失の第三者に対抗できません(95条4項)

条文(95条)

第95条① 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。②(略・動機の錯誤)③ 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。④ 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

錯誤の種類
取消しの可否
条文
表示行為の錯誤(重要なもの)
取消し可
95条1項1号
動機の錯誤(相手方に表示した場合)
取消し可
95条1項2号・2項
動機の錯誤(相手方に表示しなかった場合)
取消し不可
95条2項反対解釈
重過失ある錯誤(原則)
取消し不可
95条3項本文
重過失あり・相手方悪意または同一錯誤
取消し可
95条3項1号・2号

重要メモ

  • ・無効ではなく取消しである点と、重過失があると原則取り消せない点に注意
  • ・95条1項: 錯誤が法律行為の目的と取引上の社会通念に照らして重要なら取り消せる
  • ・95条3項本文: 表意者に重大な過失があれば取り消せない
  • ・95条3項1号・2号: 相手方が悪意もしくは重過失、または同じ錯誤に陥っていたときは取り消せる
  • ・95条4項: 取消しは善意かつ無過失の第三者に対抗できない
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動機の錯誤(基礎事情の錯誤)

95条1項2号・2項

簡単にいうと

「駅ができるから買おう」というきっかけの部分が間違っていた場合が動機の錯誤です。内心と表示はずれていないので原則は取り消せませんが、その動機を相手に伝えていれば話が変わります。

動機の錯誤とは

動機の錯誤(基礎事情の錯誤)とは、意思表示をするきっかけとなった事情に誤りがある場合です(95条1項2号・2項)。表示行為の錯誤と違い、内心と表示にずれはありません。

たとえばAが「駅ができるから値上がりするはずだ」と考えてBの土地を買ったのに、駅の計画が存在しなかったという場面です。Aは「あなたの土地をください」と言い、内心でも買いたいと思っているので、内心と表示は一致しています。誤っているのは、そう思うに至った動機の部分だけです。

原則は取り消せない

動機の錯誤については、原則として取消しを主張できません。動機は本人の頭の中にあるもので、相手方には分かりません。世の中の勘違いの多くはこの動機の錯誤にあたるため、これを理由に取消しを認めると、取引がいつまでも確定せず経済活動が成り立たなくなってしまいます。

動機を表示していれば取り消せる

例外として、表意者が法律行為の基礎とした事情を相手方に表示していた場合には、取消しを主張できます(95条1項2号・2項)。相手方も、その事情を前提に契約を結んだと評価できるからです。Aが「駅ができるから買いたい」とBに伝えていれば、取消しの主張が可能になります。

表示は黙示でもよい

動機の表示は、はっきり言葉にした場合だけに限られません。言葉にしていなくても、やり取りの状況から相手方に伝わっていたと評価できる黙示の表示でもかまいません。

過去問では「動機が黙示的に表示されたにとどまるときは錯誤による取消しを主張できない」という形で出題され、誤りとされました。明示に限る、と覚えてしまうと取りこぼします。

第三者との関係

第三者との関係は表示行為の錯誤と同じです。取消しは、善意かつ無過失の第三者に対抗できません(95条4項)。

具体例

Aが「新駅ができるから値上がりするはずだ」と考え、Bから土地を買ったとします。この動機をBに何も伝えていなければ、駅の計画がなかったと分かっても、Aは錯誤取消しを主張できません。これに対し、AがBに「駅ができるから買いたい」と伝えていた場合や、やり取りからその前提が明らかだった場合には、取消しを主張できます。

動機の錯誤(基礎事情の錯誤)

動機の錯誤(基礎事情の錯誤)

ポイント整理

  • ・意思表示の基礎とした事情に錯誤があること
  • ・その事情が相手方に表示されていたこと(明示でも黙示でもかまいません)
  • ・その錯誤が法律行為の目的と取引上の社会通念に照らして重要なものであること

効果

  • ・動機を相手方に表示していれば取り消せます(95条1項2号・2項)
  • ・表示していなければ取り消せないのが原則です
  • ・取消しは善意かつ無過失の第三者に対抗できません(95条4項)

条文(95条1項2号・2項)

第95条② 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

動機の表示
取消しの可否
言葉ではっきり伝えた(明示)
取り消せる
状況から相手方に伝わっていた(黙示)
取り消せる
相手方に伝えていない(内心にとどまる)
取り消せない

重要メモ

  • ・原則は取消し不可で、動機を相手方に表示していた場合だけ取り消せる
  • ・内心と表示にずれがないため、表示行為の錯誤とは扱いが分かれる
  • ・95条1項2号・2項: 法律行為の基礎とした事情を相手方に表示していれば取り消せる
  • ・動機の表示は黙示でもよい。「黙示にとどまるときは取り消せない」とする記述は誤り
  • ・第三者保護は表示行為の錯誤と同じで、善意かつ無過失が必要(95条4項)
6

詐欺

96条1項・3項

簡単にいうと

だまされて「売ります」と言ってしまうのが詐欺です。無効ではなく取り消せる、という点がまず押さえどころになります。

詐欺とは

詐欺とは、わざと人をだまして勘違いさせ、その勘違いにもとづいて意思表示をさせることです(96条1項)。「あなたの土地は将来値下がりしますよ」とうそを言って安く買い取る、といった場面が典型です。

心裡留保や錯誤と違い、ここでは「売る」という表示に対応する意思自体はあります。問題は、その意思が相手方の不当な干渉によって作られたという点にあります。

無効ではなく取消し

詐欺による意思表示は取り消すことができます(96条1項)。無効ではありません。取り消すまでは有効な契約として扱われ、取り消して初めて遡って消滅します(121条)。錯誤と同じ構造で、ここは繰り返し問われます。

だまされた側から見れば、契約を維持したいこともあります。値下がりするといううそを信じて売ったが、実際には値上がりしていて代金は受け取っている、という場合です。取消しにしておけば、維持するか消すかを被害者が選べます。

詐欺が成立するための要素

詐欺というためには、だます行為があり、それによって表意者が勘違いに陥り、その勘違いにもとづいて意思表示がされたことが必要です。さらに、だます側には二段の故意が要ると解されています。勘違いに陥らせようという故意と、その勘違いにもとづいて意思表示をさせようという故意の2つです。

第三者との関係

詐欺による取消しは、善意かつ無過失の第三者に対抗できません(96条3項)。心裡留保や虚偽表示の「善意のみ」より要件が厳しく、第三者が保護されにくい分、表意者が取消しを主張しやすくなっています。だまされた表意者には積極的にうそをついたという落ち度がないため、保護の重心が表意者側に寄せられているわけです。

強迫との違い

強迫にも取消しが認められますが、第三者を保護する規定がありません。そのため、詐欺では善意かつ無過失の第三者が保護されるのに対し、強迫では善意かつ無過失の第三者であっても保護されません。この結論の差は毎年のように問われます。

具体例

Bが「あなたの土地は近く値下がりします」とうそを言い、それを信じたAが土地をBに売ったとします。AはBの詐欺を理由にこの売買を取り消すことができます。その後BがCに土地を転売していた場合、Cが事情を知らず、知らないことに過失もなければ、AはCに土地を返せと言えません。

詐欺とは

詐欺とは

第三者の保護(詐欺)

第三者の保護(詐欺)

ポイント整理

  • ・だます行為(欺罔行為)があること
  • ・それによって表意者が勘違いに陥ったこと
  • ・その勘違いにもとづいて意思表示がされたこと
  • ・だます側に二段の故意があること

効果

  • ・取り消すことができます(96条1項)。無効ではありません
  • ・取り消すと契約は遡って消滅します(121条)
  • ・取消しは善意かつ無過失の第三者に対抗できません(96条3項)

条文(96条1項・3項)

第96条① 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。③ 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

比較項目
詐欺(96条)
強迫(96条)
意思表示の効力
取り消せる
取り消せる
第三者を保護する規定
ある(96条3項)
ない
善意かつ無過失の第三者
保護される
保護されない
表意者の落ち度
だまされた点で一定の落ち度がある
ない

重要メモ

  • ・無効ではなく取消しである点と、第三者保護が善意かつ無過失である点に注意
  • ・96条1項: 詐欺による意思表示は取り消せる。取り消すまでは有効
  • ・96条3項: 取消しは善意かつ無過失の第三者に対抗できない
  • ・強迫との違い: 強迫には第三者を保護する規定がなく、善意無過失の第三者にも対抗できる
  • ・心裡留保・虚偽表示は善意のみで第三者が保護される。詐欺・錯誤は無過失まで必要
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第三者による詐欺

96条2項

簡単にいうと

だました人と契約の相手方が別人という場面です。第三者にだまされた場合は、相手方が悪意または有過失のときだけ取り消せます。

第三者による詐欺とは

詐欺の基本形は、だました人がそのまま契約の相手方になるパターンです。これに対して、だました人と契約の相手方が別人になることもあります。CがAをだまし、その結果AがBに土地を売ってしまった、という場面です。これを第三者による詐欺といいます(96条2項)。

相手方の状態で結論が変わる

この場面では、相手方Bは詐欺の事実を知らないことがあります。何も知らないBが、いきなりAから「取り消したい」と言われても困ってしまいます。そこで民法は、取消しができる場面を絞りました。

Aが取消しを主張できるのは、相手方Bが詐欺の事実を知っていた場合(悪意)、または知ることができた場合(善意有過失)に限られます(96条2項)。Bが善意でかつ過失もなければ、Aは取消しを主張できません。

第三者による強迫との対比

同じ「第三者が仕掛けた」場面でも、強迫では結論が変わります。第三者による強迫には96条2項のような規定がないため、相手方Bが善意かつ無過失であっても、Aは取消しを主張できます。

この差は、表意者の落ち度の違いから説明されます。だまされた人にはうかつだった面がありますが、脅された人にはまったく落ち度がありません。そのため強迫では表意者の保護が徹底されています。

過去問では「AがDの強迫によって契約した場合、Bが知らずかつ知らなかったことに過失がなければ取り消せない」という形で出題され、誤りとされました。第三者による詐欺の結論を強迫に当てはめてしまうと引っかかります。

96条3項との関係

なお、96条2項は取消しができるかどうかの話、96条3項は取り消した後に登場した第三者を保護するかどうかの話です。どちらも「第三者」という言葉が出てくるため混ざりやすいところです。だました第三者の話なのか、後から取引に入った第三者の話なのかを、事例図で切り分けて読む必要があります。

具体例

CがAに「あなたの土地は将来値下がりしますよ」とうそを言い、それを信じたAが土地をBに売ったとします。BがCのうそを知っていた場合、または少し注意すれば気づけた場合には、Aは売買契約を取り消すことができます。Bが事情を知らず、知らないことに過失もなければ、Aは取り消すことができません。

第三者による詐欺

第三者による詐欺(民法96条2項)

ポイント整理

  • ・契約の当事者以外の第三者が表意者をだましたこと
  • ・それによって表意者が勘違いに陥り、意思表示をしたこと
  • ・相手方が詐欺の事実について悪意または善意有過失であること

効果

  • ・相手方が悪意または善意有過失なら取り消せます(96条2項)
  • ・相手方が善意かつ無過失なら取り消せません
  • ・第三者による強迫の場合は、相手方の善意悪意を問わず取り消せます

条文(96条2項)

第96条② 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

パターン
相手方Bの状態
取消しの可否
第三者による詐欺
悪意
取消し可(96条2項)
第三者による詐欺
善意有過失
取消し可(96条2項)
第三者による詐欺
善意かつ無過失
取消し不可
第三者による強迫
善意かつ無過失
取消し可(強迫は常に可)

重要メモ

  • ・相手方が悪意または善意有過失のときだけ取り消せる点に注意
  • ・96条2項: 第三者による詐欺は、相手方が悪意または善意有過失のときに取り消せる
  • ・相手方が善意かつ無過失なら取り消せない。何も知らない相手方を守るため
  • ・第三者による強迫は、相手方が善意かつ無過失でも取り消せる。結論が逆になる
  • ・96条2項はだました第三者の話、96条3項は後から取引に入った第三者の話
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強迫

96条1項

簡単にいうと

脅されて「売ります」と言ってしまうのが強迫です。詐欺と同じく取り消せますが、第三者が登場したときの結論が詐欺と正反対になります。

強迫とは

強迫とは、わざと相手に恐怖心を生じさせ、その恐怖心にもとづいて意思表示をさせることです(96条1項)。「私に土地を売らないと、どうなっても知りませんよ」と言って売却させるような場面が当たります。

強迫が成立するには、害を加えると告げる行為があり、それによって表意者が恐怖を感じ、その恐怖にもとづいて意思表示がされたことが必要です。なお、正当な権利を行使するために相手に圧力をかける行為は、強迫にはあたりません。

効果は取消し

強迫による意思表示は取り消すことができます(96条1項)。詐欺と同じく、無効ではなく取消しです。ここまでは詐欺と変わりません。

第三者との関係が詐欺と逆になる

詐欺には96条3項という第三者を保護する規定がありますが、強迫にはこれにあたる規定がありません。そのため反対解釈により、強迫による取消しは第三者に対抗できます。第三者Cが善意かつ無過失であっても、AはCに対して「土地を返せ」と言えます。

理由は表意者の落ち度です。冗談を言った人や、うそに加担した人、だまされた人には程度の差はあれ落ち度があります。しかし脅された人にはまったく落ち度がありません。そこで民法は、強迫の場面では表意者の保護を徹底し、第三者の保護を譲る形にしています。

第三者による強迫

第三者Cに脅されてAがBに売った、という場面についても、詐欺のような規定がありません。したがって、相手方Bが善意かつ無過失であっても、Aは取消しを主張できます。第三者による詐欺ではBが善意無過失なら取り消せないので、ここも結論が逆になります。

落ち度の大小で並べ直す

心裡留保と虚偽表示では表意者の落ち度が大きく、第三者は善意だけで保護されます。錯誤と詐欺では落ち度が小さく、第三者には無過失まで求められます。強迫では落ち度がなく、第三者は保護されません。落ち度の大小で3段階に並ぶ、と理解しておくと暗記が減ります。

具体例

BがAを脅して、Aから土地を買い受けたとします。Aはこの売買を取り消すことができます。その後BがCに土地を転売していた場合でも、Cが事情を知らず過失もないときであっても、AはCに対して土地を返すよう求めることができます。詐欺の場合と結論が分かれる点に注意が必要です。

強迫とは

強迫とは

第三者の保護(強迫)

第三者の保護(強迫)

第三者による強迫

第三者による強迫

ポイント整理

  • ・害を加えると告げる行為があること
  • ・それによって表意者が恐怖を感じたこと
  • ・その恐怖にもとづいて意思表示がされたこと

効果

  • ・取り消すことができます(96条1項)
  • ・取り消すと契約は遡って消滅します(121条)
  • ・第三者を保護する規定がないため、善意かつ無過失の第三者にも対抗できます
  • ・第三者による強迫でも、相手方の善意悪意を問わず取り消せます

条文(96条1項)

第96条① 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。(強迫に関する第三者保護規定はない)

比較項目
詐欺
強迫
第三者保護規定
あり(96条3項)
なし
善意かつ無過失の第三者
保護される
保護されない
第三者による詐欺・強迫でのB善意無過失
取消不可(詐欺)
取消可(強迫)
被害者の落ち度
あり
なし→より手厚い保護

重要メモ

  • ・第三者を保護する規定がなく、善意無過失の第三者にも対抗できる点に注意
  • ・96条1項: 強迫による意思表示は取り消せる。無効ではない
  • ・詐欺との違い: 詐欺は96条3項で善意無過失の第三者を保護するが、強迫にはその規定がない
  • ・第三者による強迫は、相手方が善意かつ無過失でも取り消せる
  • ・表意者の落ち度が大きい順に、第三者は保護されやすくなる
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意思表示の第三者保護まとめ

93条2項・94条2項・95条4項・96条3項

簡単にいうと

意思表示に問題があった後に登場した第三者は守られるのでしょうか。善意だけでよいのか、無過失まで要るのかが類型で変わります。ここで一度そろえます。

3段階に分かれる

意思表示に問題があるとき、当事者の間だけでなく、その後に土地を買った人や差押えをした人との関係も問題になります。民法は類型ごとに違う基準を置いており、大きく3段階に分かれます。

善意だけで保護される類型

心裡留保(93条2項)と虚偽表示(94条2項)では、無効を善意の第三者に対抗できません。第三者は善意であればよく、無過失までは求められません。

この2つは、表意者が自分からうそを言った類型です。落ち度が大きいので、第三者側のハードルを低くして、第三者が保護されやすくしています。虚偽表示では、差押えをした債権者も94条2項の第三者に含まれます。

善意かつ無過失が必要な類型

錯誤(95条4項)と詐欺(96条3項)では、取消しを善意かつ無過失の第三者に対抗できません。善意だけでは足りず、知らなかったことに過失がないことまで必要です。

この2つは、表意者が勘違いをした、あるいはだまされた類型です。自分からうそをついたわけではないので落ち度が小さく、第三者側のハードルを上げて、表意者が取消しを主張しやすくしています。

保護される規定がない類型

強迫には、第三者を保護する規定がありません。そのため表意者は、善意かつ無過失の第三者に対しても取消しを対抗できます。脅された表意者にはまったく落ち度がないため、保護を徹底したものです。

覚え方

条文番号を個別に覚えるより、表意者の落ち度の大小で並べ替えるほうが確実です。自分からうそを言った心裡留保・虚偽表示は第三者が守られやすく、勘違いやだまされた錯誤・詐欺はその中間、落ち度のない強迫では第三者が守られない、という順になります。この筋を押さえておけば、忘れても組み立て直せます。

具体例

AがBの詐欺によって土地をBに売り、BがそれをCに転売した後、AがBとの売買を取り消したとします。Cが事情を知らず、知らないことに過失もなければ、AはCに取消しを対抗できず、Cは土地を返す必要がありません。これに対し、AがBの強迫によって売っていた場合は、Cが善意かつ無過失であってもAはCに土地の返還を求めることができます。

ポイント整理

  • ・心裡留保・虚偽表示: 第三者が善意であること(無過失は不要)
  • ・錯誤・詐欺: 第三者が善意であり、かつ無過失であること
  • ・強迫: 第三者を保護する規定がないため、要件を満たしても保護されません

効果

  • ・心裡留保・虚偽表示では、善意の第三者に無効を対抗できません
  • ・錯誤・詐欺では、善意かつ無過失の第三者に取消しを対抗できません
  • ・強迫では、善意かつ無過失の第三者にも取消しを対抗できます

条文(93条2項・94条2項・95条4項・96条3項)

93条2項(心裡留保)・94条2項(虚偽表示)・95条4項(錯誤)・96条3項(詐欺)

類型
条文
第三者保護の要件
無効 or 取消し
心裡留保
93条2項
善意(無過失不要)
無効(例外的)
虚偽表示
94条2項
善意(無過失不要)
無効
錯誤
95条4項
善意かつ無過失
取消し
詐欺
96条3項
善意かつ無過失
取消し
強迫
規定なし
保護なし(善意でも対抗可)
取消し

重要メモ

  • ・善意のみ、善意かつ無過失、保護なしの3段階に分かれる点に注意
  • ・心裡留保(93条2項)・虚偽表示(94条2項): 第三者は善意のみで保護される
  • ・虚偽表示では差押えをした債権者も第三者に含まれる。差押え前の一般債権者は含まれない
  • ・錯誤(95条4項)・詐欺(96条3項): 第三者は善意かつ無過失でなければ保護されない
  • ・強迫: 第三者を保護する規定がなく、善意無過失の第三者にも取消しを対抗できる
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意思表示の効力発生時期

97条

簡単にいうと

「売ります」という意思表示は、いつから効力が生じるのでしょうか。民法は相手方に届いた時点とする到達主義をとっています。

到達した時から効力が生じる

意思表示は、相手方に到達した時からその効力を生じます(97条1項)。これを到達主義といいます。発信した時点で効力が生じるとする発信主義とは、結論が変わります。

ここでいう到達とは、相手方が現実に読んだり聞いたりすることまでは必要ありません。相手方が知ろうと思えば知ることができる状態に置かれれば足ります。手紙であれば郵便受けに入った時点で到達したことになり、相手方がまだ開封していなくても効力は生じます。

なお、隔地者間の契約の承諾について旧民法は発信主義をとっていましたが、2020年施行の改正で到達主義に統一されました。古い教材の記憶と混ざりやすいところです。

受取りを妨げた場合

相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、通常であれば到達したはずの時に到達したものとみなされます(97条2項)。受取りを拒否すれば効力を免れる、という扱いにはなりません。

発信後に表意者に何かあった場合

表意者が通知を発した後に死亡したり、意思能力を失ったり、行為能力の制限を受けたりしても、その意思表示の効力は妨げられません(97条3項)。発信した時点で表意者の意思は確定しているため、その後の事情で効力を失わせる必要がないからです。到達の後だけでなく、到達前に生じた場合も同じです。

受け取る側に能力がない場合

意思表示を受けた時に相手方が意思能力を有しなかったとき、または未成年者もしくは成年被後見人であったときは、表意者はその意思表示を相手方に対抗できません(98条の2)。意味を理解できない相手に届いても、効力を主張させるのは酷だからです。

ただし、相手方の法定代理人が知った後、または相手方が意思能力を回復し、もしくは行為能力者となってから知った後は、対抗することができます。対象が未成年者と成年被後見人であって、被保佐人や被補助人は含まれない点に注意が必要です。

具体例

AがBに「土地を売ります」という手紙を郵送したとします。この意思表示は、手紙がBの郵便受けに入った時点で効力を生じます。Bがまだ開封していなくてもかまいません。Bが受取りを拒否した場合でも、通常届いたはずの時に到達したものとみなされます。

ポイント整理

  • ・意思表示の通知が相手方の支配する領域に入ること
  • ・相手方が知ろうと思えば知ることができる状態に置かれること

効果

  • ・到達した時から意思表示の効力が生じます(97条1項)
  • ・正当な理由なく到達を妨げたときは、届いたはずの時に到達したとみなされます(97条2項)
  • ・発信後に表意者が死亡・意思能力喪失・行為能力の制限を受けても効力は妨げられません(97条3項)
  • ・受領時に意思能力がない者、未成年者、成年被後見人には対抗できません(98条の2)

条文(97条)

第97条① 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。② 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。③ 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

場面
効力が生じる時点
条文
原則
相手方に到達した時
97条1項
相手方が正当な理由なく到達を妨げた
通常であれば到達したはずの時
97条2項
発信後に表意者が死亡・意思能力喪失
効力は妨げられない
97条3項
受領時に未成年者・成年被後見人だった
対抗できない(法定代理人が知れば対抗可)
98条の2

重要メモ

  • ・到達主義が原則で、現実に読んだかどうかは問われない点に注意
  • ・97条1項: 意思表示は相手方に到達した時から効力を生じる
  • ・97条2項: 正当な理由なく到達を妨げたときは、届いたはずの時に到達したものとみなす
  • ・97条3項: 発信後に表意者が死亡・意思能力喪失・行為能力の制限を受けても効力は妨げられない
  • ・98条の2: 受領時に意思能力のない者、未成年者、成年被後見人には対抗できない

まとめ

テーマ
ポイント
注意点
心裡留保
原則有効、相手方悪意・有過失で無効
原則と例外を逆にしない。善意の第三者保護あり(93条2項)
虚偽表示
通謀による虚偽表示は無効、善意の第三者保護
第三者に対抗要件(登記等)は不要。第三者の善意は推定される(立証責任は表意者側)
錯誤
重要な錯誤は取消可(現行法は取消し・無効ではない)、重過失は原則不可
基礎事情の錯誤(動機の錯誤)は表示が必要(黙示的表示も可)。第三者保護は善意かつ無過失が必要
詐欺
取消可能、善意無過失の第三者に取消しを対抗不可
第三者詐欺は相手方が悪意・有過失の場合のみ取消可。第三者保護は善意かつ無過失が必要
強迫
取消可能、第三者にも取消しを対抗可能
詐欺と異なり第三者保護規定なし(96条3項は詐欺のみ)。第三者強迫も相手方の善意悪意を問わず取消可(通説)

関連判例

94条2項類推適用

最判昭45.7.24

不動産の名義を他人に預けていたところ、その名義人が勝手に善意の第三者に売却してしまった事件です。最高裁は、本人が虚偽の外観(名義変更など)を作り出したことに責任がある場合、94条2項を類推適用して善意の第三者を保護すると判示しました。試験では「本人の帰責性」と「第三者の善意(または無過失)」のバランスが問われます。

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黙示的な動機の表示

最判平元.9.14

契約の前提となる動機が、言葉でハッキリ言われていない場合に錯誤取消ができるかが争われました。最高裁は、明示されなくても、周囲の状況から動機が相手方に伝わっており、かつそれが契約の基礎となっていることが客観的に認められれば「表示」にあたるとしました。行政書士試験では『黙示的な表示でもよい』というフレーズが正誤問題の鍵となります。

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詐術の場合の取消権の否定

最判昭44.2.13

未成年者が「私は二十歳です」と嘘を吐いたり、偽造した身分証を見せたりして契約した事案です。最高裁は、このように相手方を誤信させるための積極的な術策(詐術)を用いたときは、制限行為能力を理由とした取消しを認めないと判断しました。意思表示の「詐欺」と混同しやすいですが、こちらは『騙した本人の取消権』を封じるルールです。

›

錯誤による和解契約

和解契約の既判力・確定効との関係で錯誤取消しが主張された事案。最高裁は、和解の目的である争いの対象について錯誤があった場合には取消しが認められないが、争いの前提となった事実についての錯誤は取消事由となりうると判示した。試験では、和解と錯誤の交錯する場面として、「どの範囲の錯誤が取消事由となるか」という点が狙われる。

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