第3節 失踪宣告
第1章 総則
人が長期間行方不明になった場合、その人の財産や家族関係はどうなるのでしょうか。失踪宣告は、生死不明の者を法律上死亡したものとみなす制度です。相続や再婚など、残された人々の生活を前に進めるために不可欠な制度です。また、複数の者が同時に亡くなった場合の相続関係を定める同時死亡の推定も、事例問題で頻出の重要論点です。
失踪宣告とは
第30条条簡単にいうと
家族が突然いなくなって、何年経っても生きているのか死んでいるのかわからない…そんなとき、ずっと財産の相続も再婚もできないままでは困りますよね。そこで民法が用意した解決策が「失踪宣告」制度です。
失踪宣告とは、生死不明の者を法律上「死亡したもの」とみなすことにより、残された家族が財産を相続したり再婚したりできるようにするための制度です(民法30条)。ある日突然、夫や妻、親族が失踪してしまい、生死が全くわからない状態が続いた場合、法律上は「生きている」ままとなるため、相続も開始せず、配偶者の再婚もできません。これを放置するのは残された家族にとってあまりにも酷であることから、一定期間の経過後に家庭裁判所が審判をもって「死亡したもの」とみなす制度が設けられました。
失踪宣告は大きく分けて「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があります。普通失踪は、失踪者の生死が7年間不明な場合に、利害関係人の請求に基づき家庭裁判所が審判を行うものです。特別失踪は、戦争・地震・船舶の沈没といった危難に遭遇した者が、その危難の去った後1年間生死不明である場合に認められます。いずれも利害関係人(配偶者・相続人・受遺者など)の請求が必要であり、家庭裁判所の審判によって効力が生じます。
重要なのは、失踪宣告を受けた者が実際には別の場所で生きていたとしても、その場所における権利能力(法律上の人格)は失われない点です。失踪宣告の効果はあくまでも「死亡とみなす」という法的擬制にすぎず、本人の実際の生死や権利能力とは別の問題として扱われます。また、検察官は利害関係人には含まれないため、請求権者として認められません。
具体例
夫Aが突然家を出て行方不明となり、7年間生死不明のまま経過した。妻Bは家庭裁判所に失踪宣告の申立てを行い、審判を受けた。これにより、Aは失踪開始から7年経過した時点で死亡したものとみなされ、BはAの財産を相続し、また別の男性と再婚することができるようになった。

失踪宣告とは
ポイント整理
- ・①失踪者の生死が一定期間不明であること(普通失踪:7年間、特別失踪:危難の去った後1年間)
- ・②利害関係人(配偶者・相続人・受遺者・不在者の財産管理人など)から家庭裁判所への請求があること
- ・③家庭裁判所の審判があること
効果
- ・普通失踪:7年間の期間満了時(失踪者が最後に生存確認された日から7年を経過した時)に死亡したものとみなされる
- ・特別失踪:危難の去った時(戦争終結時・船舶沈没確認時など)に死亡したものとみなされる
- ・残された家族は財産の相続・再婚などが可能となる
- ・失踪宣告を受けた者が別の場所で生存していても、その地における権利能力は失われない
条文(第30条条)
第30条(失踪の宣告) ①不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。 ②戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、前項と同様とする。 第31条(失踪の宣告の効力) 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
重要メモ
- ・「生死不明の者を法律上死亡とみなして、相続・再婚を可能にする制度(30条)」がポイント
- ・申立権者は利害関係人(配偶者・相続人・受遺者・財産管理人など)に限られ、検察官は含まれない
- ・失踪宣告を受けた者が別の場所で生存していても、その場での権利能力は消滅しない(あくまで「みなし」にすぎない)
- ・普通失踪・特別失踪どちらも、利害関係人の請求と家庭裁判所の審判が必要という手続きは共通
- ・失踪宣告の効果として、残された配偶者は相続・再婚が可能となる(ただし失踪宣告取消し時の問題が生じる)
普通失踪と特別失踪
第30条・31条条簡単にいうと
失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があります。要件の期間と死亡とみなされる時点が違うので、表でしっかり比較しておきましょう。
失踪宣告には、普通の失踪(普通失踪)と、危難に遭遇した場合の特別失踪という2つの類型があります(30条1項・2項)。どちらも「利害関係人の請求」と「家庭裁判所の審判」が必要という点は共通していますが、要件となる期間と死亡みなし時点が異なります。
普通失踪(30条1項)は、失踪者の生死が7年間にわたって不明である場合に申立てができます。この7年間とは、失踪者が最後に生存が確認された時点から起算されます。申立て権者は利害関係人(配偶者・相続人・受遺者・財産管理人など)に限られており、検察官は含まれません。家庭裁判所が審判をした場合、失踪者は「7年間の期間が満了した時点(生存確認から7年後の日)」に死亡したものとみなされます(31条)。
特別失踪(30条2項)は、戦地に赴いた者・沈没した船舶内にいた者・その他死亡の原因となりうる危難に遭遇した者が対象です。危難が去った後1年間、生死不明であれば申立てができます。審判がなされた場合、失踪者は「危難の去った時点(戦争終結時・船舶沈没確認時など)」に死亡したものとみなされます(31条)。普通失踪と比べて期間が短いのは、危難に遭遇した者は生存可能性が低いという状況を考慮したためです。
いずれの失踪宣告においても、失踪宣告を受けた者が実際に別の場所で生存していた場合でも、その場所における権利能力は消滅しません(あくまで「みなし」にすぎないため)。これは行政書士試験でも頻出の論点です。
具体例
①普通失踪の例:Aが10年前に失踪し、7年間全く生死不明のまま。利害関係人である妻Bが家庭裁判所に申立て→審判→7年の期間満了時にAは死亡とみなされ、Bは相続可能。 ②特別失踪の例:Aが船舶沈没事故に遭い、船が沈んだ後1年間生死不明。利害関係人が申立て→審判→船舶沈没時(危難の去った時)にAは死亡とみなされる。

普通失踪と特別失踪の比較
ポイント整理
- ・【普通失踪】失踪者の生死が7年間不明であること
- ・【普通失踪】利害関係人の請求があること
- ・【普通失踪】家庭裁判所の審判があること
- ・【特別失踪】戦争・船舶沈没・その他危難に遭遇した者の生死が危難の去った後1年間不明であること
- ・【特別失踪】利害関係人の請求があること
- ・【特別失踪】家庭裁判所の審判があること
効果
- ・【普通失踪】7年間の期間満了時に死亡したものとみなされる(31条)
- ・【特別失踪】危難の去った時に死亡したものとみなされる(31条)
- ・いずれも別の場所での権利能力は消滅しない
条文(第30条・31条条)
第30条(失踪の宣告) ①不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。 ②戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、前項と同様とする。 第31条(失踪の宣告の効力) 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
重要メモ
- ・「普通失踪=7年間生死不明→7年の期間満了時に死亡みなし、特別失踪=危難後1年間生死不明→危難の去った時に死亡みなし」という対比が核心(31条)
- ・死亡みなし時点の違いが最頻出:普通失踪は7年間の期間満了時、特別失踪は危難の去った時(審判時ではない)
- ・特別失踪の対象:戦地に臨んだ者・沈没した船舶内にいた者・その他死亡原因となりうる危難に遭遇した者
- ・両者とも申立権者は利害関係人のみで、検察官は含まれない(妻が望まないのに国が「夫を死亡とする」のは不適切なため)
- ・失踪宣告を受けた者が別の場所で生きていても、その地での権利能力は消滅しない点は両者共通の頻出論点
失踪宣告の取消し
第32条条簡単にいうと
失踪宣告を受けた人が実は生きていて帰ってきた場合、どうなるのでしょう?取消しの手続きと、その間に行われた財産取引の行方をしっかり確認しておきましょう。
失踪宣告がされた後でも、失踪者が実は別の場所で生存していたことが判明した場合、または失踪宣告における死亡とみなされた時と異なる時期に死亡したことが証明された場合、本人または利害関係人は家庭裁判所に失踪宣告の取消しを請求することができます(民法32条1項)。この取消しにより、失踪宣告の効果は遡及的に消滅するのが原則です。
ただし、失踪宣告の取消し前に善意でなされた行為の効力については、取消しにより直ちに無効となるわけではなく、取引の安全を保護するための規定が設けられています(32条1項ただし書き)。具体的には、失踪者が生存していた間に、Bが「失踪者Aは死亡した」と信じてAの財産を相続・転売・処分した場合を考えます。たとえば妻BがAの財産を相続し、それをCに売却した場面で、AがのちAへの返還を求めるとき、その行為(BC間の売買)の効力はBとC双方の善意・悪意によって左右されます。
BC双方が善意(失踪者Aが生きていることを知らなかった)の場合は、BC間の売買は有効なものとして維持され、土地はCが取得します。BまたはCのどちらか一方でも悪意(Aが生存していることを知っていた)であれば、BC間の売買は無効となり、土地はAに返還されます。なお、この善意・悪意の判断は行為時点(売買契約締結時)を基準とします。また、失踪宣告の取消し後、Aは相続財産としてBに引き渡されていた財産の返還を請求できますが、Bが善意で利益を消費していた場合は、現存利益(残っている分)の返還のみで足ります(32条2項)。
具体例
Aが失踪宣告を受け、妻Bが土地を相続し、それをCに売却した後、Aが実は生きていることが判明した。①BもCも善意(Aが生きていると知らなかった)の場合:BC間の売買は有効。土地はCのもの。AはBに相続財産の返還を求めるが、Bが善意で消費していた分は現存利益のみ返還。②BまたはCが悪意の場合:BC間の売買は無効。土地はAに返還される。

失踪宣告の取消し
ポイント整理
- ・失踪宣告を受けた者が実は生存していたこと(または死亡時点が異なることの証明)
- ・本人または利害関係人からの家庭裁判所への取消し請求
- ・家庭裁判所の審判による取消し
効果
- ・失踪宣告の効果が原則として遡及的に消滅する
- ・BC双方が善意の場合:取消し前の行為(BC間の取引)は有効のまま維持される
- ・BまたはCのいずれかが悪意の場合:取消し前の行為(BC間の取引)は無効となる
- ・善意の相続人Bが財産を消費・処分していた場合、Aへの返還義務は現存利益の限度に止まる(32条2項)
- ・失踪宣告中のAB間の婚姻は、Aが帰来しても、B(妻)が再婚していない限り当然に復活する
条文(第32条条)
第32条(失踪の宣告の取消し) ①失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。 ②失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
重要メモ
- ・「取消し前のBC間取引は、BC両方が善意なら有効・一方でも悪意なら無効」という善意悪意の組み合わせが最頻出(32条1項ただし書き)
- ・過去問[12-27-2]「失踪宣告後の行為はすべて効力を生じない」は誤り:双方善意であれば取消し前の行為は有効のまま維持される
- ・取消しの請求権者は本人または利害関係人で、家庭裁判所への請求が必要(「失踪宣告の取消し」は自動的に生じるのではなく、必ず審判が必要)
- ・善意の相続人Bが財産を消費・処分していた場合、Aへの返還義務は現存利益の限度にとどまる(32条2項)
- ・善意・悪意の判断基準は「Aが生存していることを知っていたか否か」であり、BC間の行為時点を基準とする
まとめ
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民法の重要用語
限定承認
相続財産の範囲内でのみ債務を返済する条件で相続を承認する方法のこと。
弁済の提供
債務者が債務を履行するために、債権者が受け取れる状態にすること。口頭の提供と現実の提供の2種類がある。
不特定物の特定
不特定物債権において、債務者が具体的に引き渡すべき物を決定・分離することで、特定物債権に変わること。
相続欠格
相続人が被相続人を殺害するなど重大な非行をした場合に、法律上当然に相続権を失う制度のこと。
未成年者
18歳未満の人のこと。単独で完全に有効な契約などの法律行為をする能力が制限される。
失踪宣告
生死不明の状態が一定期間続いた人を、法律上「死亡したもの」とみなす制度のこと。
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