第2節 能力
第1章 総則
民法において、人が法律行為を有効に行うには一定の能力が必要です。この節では、行為能力の制度を中心に、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の4類型それぞれの保護の仕組みを学びます。各類型で「誰が同意するか」「誰が取り消せるか」「単独でできる行為はどこまでか」を整理することが合格への近道です。試験では事例問題で頻出の最重要分野です。
能力とは(権利能力・意思能力・行為能力)
3条・3条の2・4条簡単にいうと
契約を有効に結ぶには「能力」が要ります。民法はこれを3種類に分けています。4歳の子どもが3,000万円の土地を買う契約をしたら、その契約は有効でしょうか。
3つの能力を分けて考える
3,000万円の土地を買う契約をすれば代金を払わなければならない、というのは当たり前のことです。ところが、契約をしたのが4歳の子どもだったら、15歳の中学生だったらどうでしょうか。民法は、1人で契約ができるかどうかを、権利能力・意思能力・行為能力の3つが備わっているかで判断します。3つは根拠条文も、欠けたときの効果も、主張できる者も違います。混同したまま問題を解くと必ず取りこぼすので、最初に区別を作っておきます。
権利能力
権利能力とは、自分の名前で契約をしたり財産を持ったりできる地位、言い換えれば権利や義務の主体になれる法律上の地位です(3条1項)。人は生まれた瞬間に取得し、死亡によって失います。会社などの法人も、法律の定めによって権利能力を持ちます。生まれる前の胎児には原則として権利能力がなく、相続・不法行為に基づく損害賠償請求・遺贈の3場面だけが例外として扱われます。
意思能力
意思能力とは、自分がした契約の中身を理解できる精神的な力です(3条の2)。おおよそ8歳から10歳ごろの発達が目安とされますが、何歳で身につくかを民法は定めていません。行為ごとに個別に判断されるため、幼児のほか、重い認知症の方や泥酔状態の人も意思能力を欠くと判断されることがあります。意思能力を欠いてした法律行為は無効です。
行為能力
行為能力とは、1人で完全な契約ができる力です。民法は18歳で成年と定めており(4条)、成年に達すれば原則として完全な行為能力を持ちます。行為能力が制限された者を制限行為能力者と呼び、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の4類型があります。
欠けたときに何が起こるか
ここが最も出題される部分です。権利能力がなければ、そもそも権利義務の主体になれません。意思能力を欠いてした法律行為は無効であり、追認して有効にすることはできず、原則として誰でも無効を主張できます。これに対し、行為能力が制限された者の行為は取り消すことができるにとどまります。取り消せば遡って無効になりますが(121条)、追認すれば確定的に有効になります。「無効」と「取消し」の落差が、以降のすべての論点の土台になります。
具体例
4歳の幼児が隣人と不動産売買契約を締結した場合、意思能力を欠くため契約は無効となります。これに対して、16歳の高校生が親の同意なくスマートフォンを購入した場合は、意思能力はあっても行為能力が制限されているため、取り消すことができます(取消可能行為)。
ポイント整理
- ・権利能力: 出生により当然に取得し、死亡で消滅する(3条1項)
- ・意思能力: その法律行為の意味を理解できる精神的な力。行為ごとに個別に判断される
- ・行為能力: 成年(18歳)に達していること、または制限が解かれていること(4条)
効果
- ・権利能力がなければ、権利義務の主体になれません
- ・意思能力を欠いてした法律行為は無効です(3条の2)。追認できず、原則として誰でも主張できます
- ・行為能力が制限された者の行為は取り消すことができます(121条)。追認すれば確定的に有効になります
条文(3条・3条の2・4条)
第3条(権利能力)私権の享有は、出生に始まる。 第3条の2(意思能力)法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。 第4条(成年)年齢十八歳をもって、成年とする。
重要メモ
- ・意思能力を欠けば無効、行為能力の制限なら取消しという結論の違いに注意
- ・権利能力(3条1項): 出生で取得し、死亡で消滅する。権利義務の主体になれる地位
- ・意思能力(3条の2): おおよそ8歳から10歳ごろの発達が目安。何歳で取得するかの規定は民法にない
- ・行為能力: 18歳で成年(4条)。制限された者の行為は取消可能で、取り消すと遡って無効になる(121条)
- ・3つの対比は、根拠条文・欠いた場合の効果・主張できる者の3点で整理する
権利能力と胎児の例外
3条1項・886条・721条・965条簡単にいうと
まだ生まれていない胎児でも、相続や損害賠償請求ができる場合があります。どんな場面が例外として認められているのかを見ていきます。
原則は出生から
権利能力とは、権利や義務の主体になれる法律上の地位です(3条1項)。人は生まれたときに取得し、死亡によって失います。裏を返せば、まだ生まれていない胎児には原則として権利能力がありません。
例外が認められる3場面
この原則を押し通すと、胎児に酷な場面が出てきます。父Aが交通事故で亡くなったとき、胎児は父の財産を相続できず、加害者に損害賠償を求めることもできなくなるからです。生まれてくる時期がわずかに違っただけで扱いが変わってしまうのは、公平とはいえません。
そこで民法は、相続(886条1項)、不法行為に基づく損害賠償請求(721条)、遺贈(965条)の3場面に限って、胎児を「既に生まれたもの」とみなしています。裏返せば、売買や贈与といった一般の取引にはこの例外が及びません。胎児のために土地を買う契約を結ぶ、といったことはできないわけです。
停止条件説とその帰結
例外の意味の捉え方には2つの説があります。生きて生まれることを条件として、そのときに遡って権利能力を認めるのが停止条件説です。これに対し、胎児の間から権利能力があり、死産だったときに遡って失われると考えるのが解除条件説です。判例は停止条件説を採っています(大判昭7.10.6)。
ここから実務的に大きな結論が導かれます。出生前の胎児はまだ権利能力を持たないため、母Bが胎児を代理して加害者Xに損害賠償を請求することはできません。請求できるのは、胎児が生きて生まれた後です。試験ではこの一点が繰り返し問われます。
間違えやすいところ
誤りの選択肢は「胎児は既に生まれたものとみなされるから、母は出生前に代理して損害賠償請求ができる」という形で出てきます。みなされるのは生きて生まれた後であって、出生前ではありません。また、死産だった場合は遡及が働かないので、権利能力は認められないままとなります。
具体例
Aが交通事故で亡くなった時点で、Aの妻Bは妊娠していました。胎児Cは、生きて生まれてきたときに限ってAの財産を相続できます(886条1項)。加害者Dに対する損害賠償請求権も、出生した後であれば行使できます(721条)。これに対し、出生前の段階でBがCを代理してDに請求することはできません(大判昭7.10.6)。

権利能力の取得と胎児の例外規定
ポイント整理
- ・相続・不法行為に基づく損害賠償請求・遺贈のいずれかの場面であること
- ・胎児が生きて生まれてきたこと(停止条件説)
効果
- ・この3場面に限り、出生の時点で遡って権利能力が認められます
- ・出生前は権利能力がないため、親が胎児を代理して請求することはできません
- ・死産だった場合は遡及が働かず、権利能力は認められません
条文(3条1項・886条・721条・965条)
第3条(権利能力)私権の享有は、出生に始まる。 第886条第1項(相続)胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。 第721条(損害賠償請求)胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。 第965条(遺贈)第886条及び第891条の規定は、受遺者について準用する。
重要メモ
- ・例外3場面の暗記と、出生前は代理できないという結論に注意
- ・原則: 胎児に権利能力はない(3条1項)
- ・例外3場面: 相続(886条1項)、不法行為に基づく損害賠償請求(721条)、遺贈(965条)
- ・判例は停止条件説(大判昭7.10.6)。生きて生まれたときに遡って権利能力を認める
- ・出生前に母が胎児を代理して損害賠償請求することはできない。死産なら遡及もない
意思能力と意思無能力者の保護
3条の2簡単にいうと
4歳の子どもが土地の売買契約をしても、その意味を理解しているとはいえません。意思能力を欠く人の契約はどうなるのでしょうか。
意思能力とは
意思能力とは、自分がしようとしている法律行為の意味を理解し、その理解にもとづいて判断できる精神的な力です。2020年施行の改正で明文化され、3条の2は「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と定めています。
判断は行為ごとに個別に行われます。おおよそ8歳から10歳ごろの発達が目安とされますが、民法に年齢の定めはありません。幼児のほか、重い認知症の方や泥酔状態にある人が意思無能力者にあたることがあります。年齢で一律に線を引く行為能力とは、ここが違います。
なぜ無効という扱いなのか
契約の意味が分からないまま結ばれた約束に、当事者を縛る力を認める理由はありません。そこで民法は、取り消せる行為にとどめず、最初から効力を認めない無効という扱いにしています。4歳の子どもが土地を買う契約をしても、代金を支払う義務は生じません。
無効と取消しはどう違うか
無効には最初から効力がないので、後から追認して有効にすることはできません。主張できる者も限定されず、原則として誰でも無効を主張できます。期間の制限もありません。
これに対し、行為能力の制限にもとづく取消しは、取消権を持つ者しか主張できません。追認すれば確定的に有効になり、追認できるときから5年、行為のときから20年で取消権は消滅します(126条)。同じように「契約が効かない」場面でも、この2つはまったく別の仕組みです。
返還の範囲
無効な行為によって受け取ったものは返さなければなりません(121条の2第1項)。ただし意思無能力者については保護の特則があり、現に利益が残っている範囲で返せば足ります(121条の2第3項)。この扱いは制限行為能力者の場合と共通です。なお、相手方の側にこの特則はなく、受け取ったものを全額返す必要があります。
具体例
重い認知症で意思能力を欠く状態にあるAが、不動産業者Bとの間で自宅の売買契約を結んだとします。Aの意思表示は意思能力を欠くため無効であり、Bは所有権を取得できません。後からAの家族が追認しても、この契約が有効になることはありません。

意思能力と契約の有効性
ポイント整理
- ・意思表示をした時点で意思能力を欠いていたこと
- ・意思能力があったかどうかは、その行為ごとに個別に判断されます
効果
- ・法律行為は無効です(3条の2)。最初から効力が生じません
- ・追認によって有効にすることはできません
- ・無効は原則として誰でも主張できます
- ・受け取ったものは返しますが、意思無能力者は現存利益の範囲で足ります(121条の2第3項)
条文(3条の2)
第3条の2(意思能力)法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
重要メモ
- ・意思無能力は無効、行為能力の制限は取消しという対比に注意
- ・意思能力の目安はおおよそ8歳から10歳ごろの発達。幼児・重い認知症・泥酔状態が典型例
- ・無効の3つの特徴: 最初から効力なし、追認で有効にできない、原則として誰でも主張できる
- ・取消しとの違い: 取消権者しか主張できず、追認すれば確定的に有効になる(126条の期間制限あり)
- ・返還の特則(121条の2第3項): 意思無能力者は現存利益の範囲で返せばよい
制限行為能力者制度の概要
4条・7条・11条・15条簡単にいうと
判断能力が十分でない人を守るために、民法は制限行為能力者制度を設けています。未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人という4つの類型の全体像から入ります。
制度の狙い
権利能力があり意思能力もある15歳の中学生が契約をすれば、その契約は有効です。とはいえ未成年者は判断能力が十分とはいえず、要らない契約をしてしまうこともあります。そこで民法は制限行為能力者制度という仕組みを用意しました。判断能力が十分でない人には1人で契約をさせず保護者を付け、保護者の同意なく結ばれた契約は後から取り消せるようにしたのです。
取り消せば契約は遡って無効になり(121条)、出ていった財産が戻ってきます。判断能力の不足につけ込まれて財産を失うことを、あらかじめ防ぐ設計です。
4つの類型
未成年者は満18歳未満の者です(4条)。2022年4月1日から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。年齢だけで決まるので、家庭裁判所の審判は要りません。
残る3類型は、いずれも家庭裁判所の審判を受けて初めて制限行為能力者になります。成年被後見人は判断能力を欠く常況にある人(7条・8条)、被保佐人は判断能力が著しく不十分な人(11条・12条)、被補助人は判断能力が不十分な人です(15条・16条)。判断能力が重い順に、成年被後見人、被保佐人、被補助人と並び、保護の必要性はその逆順になります。
審判を経て初めて対象になる
判断能力がない人がすべて成年被後見人になるわけではありません。家庭裁判所の審判を受けて、初めてその類型に入ります。ここを取り違えると、「判断能力を欠いているのだから当然に取り消せる」という誤った結論になります。審判を受けていない人の行為については、意思能力を欠いていたとして無効を主張することになります。
保護者の権限は類型ごとに違う
保護者には代理権・同意権・追認権・取消権のうち一定のものが与えられますが、その組合せは類型によって変わります。特に、成年後見人には同意権がないこと、保佐人と補助人の代理権は家庭裁判所の審判があるときだけ与えられることが、出題の分かれ目になります。まとめ表を一度自分で書き起こすと定着します。
具体例
18歳の大学生Aは成年であり、完全な行為能力を持ちます。これに対し17歳の高校生Bは未成年者なので、法定代理人の同意なく結んだ契約を取り消すことができます。また、重い認知症で判断能力を欠くCについて家庭裁判所が後見開始の審判をすると、Cは成年被後見人となり、成年後見人が保護者として付きます。
ポイント整理
- ・未成年者: 満18歳未満であること(4条)
- ・成年被後見人: 判断能力を欠く常況にあり、後見開始の審判を受けたこと(7条)
- ・被保佐人: 判断能力が著しく不十分で、保佐開始の審判を受けたこと(11条)
- ・被補助人: 判断能力が不十分で、補助開始の審判を受けたこと(15条)
効果
- ・保護者の同意なくされた行為は取り消すことができます
- ・取り消すと、その行為は遡って無効になります(121条)
- ・取消権は追認できるときから5年、行為のときから20年で消滅します(126条)
条文(4条・7条・11条・15条)
第4条(成年)年齢十八歳をもって、成年とする。 第7条(後見開始の審判)精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。 第11条(保佐開始の審判)精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。 第15条(補助開始の審判)精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、本人以外の者の請求によって補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。
重要メモ
- ・4類型の序列と、保護者ごとの権限の違いに注意
- ・4類型: 未成年者(18歳未満・審判不要)、成年被後見人(欠く常況)、被保佐人(著しく不十分)、被補助人(不十分)
- ・未成年者以外は、家庭裁判所の審判を受けて初めて制限行為能力者になる
- ・成年後見人には同意権がない。保佐人・補助人の代理権は審判があるときだけ与えられる
- ・取消権は追認できるときから5年、行為のときから20年で消滅する(126条)
未成年者の法律行為
5条・6条簡単にいうと
未成年者が親の同意なく契約をしたとき、その契約はどうなるのでしょうか。原則と、単独でできる3つの例外を見ていきます。
原則は法定代理人の同意
未成年者が契約をするには、原則として法定代理人(親権者または未成年後見人)の同意が必要です(5条1項本文)。同意を得ずにした行為は取り消すことができます(5条2項)。取消しは未成年者本人からでも、法定代理人からでもできます(120条1項)。本人からも取り消せる点は、誤りの選択肢として狙われます。
単独でできる3つの例外
第1に、単に権利を得る行為、または義務を免れる行為です(5条1項但書)。時計を無償でもらう、借金を免除してもらうといった、損をしようのない行為が当たります。ただし「時計をもらう代わりに1日働く」という負担付贈与は、ただ得をするだけではないので同意が必要です。
第2に、法定代理人から処分を許された財産を処分する行為です(5条3項)。使い道を決めずに渡されたお小遣いを使うのは自由です。一方、学費として渡されたお金をゲームの購入に充てた場合は目的の外なので、取り消すことができます。同じお金でも、渡された目的の内か外かで結論が変わります。
第3に、法定代理人から一種または数種の営業を許された場合の、その営業に関する行為です(6条1項)。親が経営する店で店番をするといった場面が典型で、許された営業の範囲では成年者と同じ行為能力を持つものとして扱われます。範囲の外に出れば、原則に戻って同意が必要です。
追認されると取り消せなくなる
契約のときに同意がなくても、後から親がその契約を認めれば、事後の同意があったものとして扱われ、以後は取り消せなくなります(122条)。これを追認といいます。未成年者本人が追認するには、成年になり、かつ取消権を持つことを知った後である必要があります(124条)。
成年擬制は廃止された
婚姻した未成年者を成年に達したものとみなす成年擬制の規定(旧753条)は、2022年の改正で削除されました。成年年齢が18歳に下がり、婚姻できる年齢と一致したため、規定を置く必要がなくなったからです。
具体例
17歳のAが親の同意を得ずに、Bから時計を5万円で買ったとします。この売買契約は、Aからでも親からでも取り消すことができます。これに対し、AがBから時計を無償でもらった場合は、単に権利を得る行為にあたるので単独でできます。ただし「時計をもらう代わりに1日働く」という約束が付いていれば、ただ得をするだけではないので親の同意が必要です。

未成年者の法律行為(契約)
ポイント整理
- ・満18歳未満の者が法律行為をしたこと
- ・法定代理人の同意を得ていないこと
- ・単に権利を得る行為、処分を許された財産の処分、許された営業に関する行為は例外になります
効果
- ・同意なくされた行為は取り消すことができます(5条2項)
- ・取り消せるのは未成年者本人と法定代理人です(120条1項)
- ・取り消せば遡って無効となり(121条)、追認すれば確定的に有効になります(122条)
条文(5条・6条)
第5条第1項(未成年者の法律行為)未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。 第5条第2項 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。 第5条第3項 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。 第6条第1項(未成年者の営業の許可)一種又は数種の営業を許可された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
重要メモ
- ・同意がなければ取消可能で、例外3つだけ単独でできる点に注意
- ・原則: 法定代理人の同意なくした行為は取り消すことができる(5条2項)。本人からも取り消せる
- ・例外1: 単に権利を得る行為・義務を免れる行為(5条1項但書)。負担付贈与は含まれない
- ・例外2: 処分を許された財産の処分(5条3項)。学費を目的外に使えば取消しの対象になる
- ・例外3: 許された営業に関する行為(6条1項)。成年擬制(旧753条)は2022年改正で廃止
法定代理人の権限(代理権・同意権・追認権・取消権)
5条・120条・121条・122条簡単にいうと
親などの法定代理人は、未成年者の契約についてどこまで関与できるのでしょうか。代理権・同意権・追認権・取消権という4つの権限を見ていきます。
4つの権限
制限行為能力者の保護者には、代理権・同意権・追認権・取消権の4つが想定されています。契約を代わりに結ぶ、事前に認める、事後に認める、なかったことにするという4方向から本人を守る組立てです。どれが与えられるかは類型によって違います。
代理権と同意権
代理権は、本人に代わって契約を結ぶ権限です。未成年者の親権者と成年後見人は当然に持ちます。保佐人と補助人は当然には持たず、家庭裁判所の審判で与えられたときだけ行使できます(876条の4第1項・876条の9第1項)。この審判を本人以外の請求でするには、本人の同意が必要です(876条の4第2項・876条の9第2項)。被保佐人や被補助人にはある程度の判断能力があり、勝手に契約をされたくないと考えるはずだからです。
同意権は、契約の前に内容を確かめて認める権限です。同意があれば本人は単独で有効に契約できます。ただし成年後見人には同意権がありません。同意を与えても本人がその意味を理解できない可能性が高く、同意どおりの契約ができるとは限らないため、同意があっても取り消せる扱いになっています。
追認と取消しの効果
追認権は、同意なくされた行為を後から認める権限です(122条)。追認すると、その行為は取り消せない確定的に有効なものになります。追認は取消権を持つ者が、取消しの原因となっていた状況がなくなった後にする必要があります(124条1項)。
取消権は、同意なくされた行為を取り消す権限です(120条1項)。保護者だけでなく制限行為能力者本人も行使できます。取り消すと行為は遡って無効になり(121条)、受け取ったものを返す義務が生じます(121条の2第1項)。制限行為能力者は現に利益が残っている範囲で返せば足ります(121条の2第3項)。
期間の制限
取消権はいつまでも残るわけではありません。追認できるときから5年、行為のときから20年のいずれかが経過すれば消滅します(126条)。相手方をいつまでも不安定な立場に置かないための線引きです。
具体例
17歳のAが親の同意なく、B楽器店で50万円のギターを買ったとします。後日、親CがこのギターをAに持たせたままでよいと判断して契約を追認すると(122条)、以後この契約を取り消すことはできません。逆にCが取消権を行使すれば、契約は遡って無効になり、AはギターをBに返し、BはAに50万円を返すことになります。

法定代理人の追認
ポイント整理
- ・代理権を使うには、代理権があり、本人のためにすることを示すこと(顕名)が必要です
- ・追認は、取消しの原因となっていた状況がなくなった後に、取消権を持つ者がします(124条1項)
- ・取消しは、取消権が期間の経過で消滅していないことが前提になります(126条)
効果
- ・同意があれば、制限行為能力者は単独で有効な契約ができます
- ・追認すると確定的に有効となり、以後は取り消せません(122条)
- ・取り消すと遡って無効になり、現存利益の返還義務が生じます(121条・121条の2第3項)
条文(5条・120条・121条・122条)
第120条第1項(取消権者)行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。 第122条(取消しと追認)取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認をすることができる。 第126条(取消権の消滅時効)取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
重要メモ
- ・成年後見人に同意権がないことと、追認・取消しの効果の違いに注意
- ・代理権: 親権者と成年後見人は当然に持つ。保佐人・補助人は審判があるときだけ持つ
- ・同意権: 親権者・保佐人にはある。成年後見人にはない。補助人は審判があるときだけ
- ・追認(122条)は取消しの原因が消えた後にする(124条1項)。追認後は取り消せない
- ・取消し(120条1項)は本人も行使できる。追認できるときから5年、行為時から20年で消滅(126条)
取消しの効果と現存利益の返還
121条・121条の2簡単にいうと
制限行為能力者が契約を取り消したとき、すでに受け取ったお金や物はどうなるのでしょうか。現存利益という考え方が鍵になります。
取り消すと最初からなかったことになる
制限行為能力者が法律行為を取り消すと、その行為は遡って無効になります(121条)。最初から契約をしていなかったものとして扱われるため、当事者は受け取ったものを相手方に返さなければなりません(121条の2第1項)。これを原状回復義務といいます。
制限行為能力者だけの特則
原則どおりなら、受け取った金額を全額返すことになります。しかし、それでは取消しによって財産を守るという制度の狙いが崩れてしまいます。使ってしまった分まで返させれば、結局は財産が出ていくからです。
そこで民法は、意思無能力者と制限行為能力者について、現に利益を受けている限度で返せばよいという特則を置きました(121条の2第3項)。これが現存利益の返還です。相手方の側にこの特則はなく、受け取ったものは全額返す必要があります。
現存利益があるかないかの分かれ目
現存利益とは、取消しの時点で手元に残っている利益のことです。判断は「使い方」で変わります。
未成年者Aが10万円の時計をBに売り、代金10万円を受け取った後に契約を取り消したとします。Aが6万円をギャンブルで使ってしまった場合、その6万円はどこにも残っていないので現存利益はなく、残った4万円を返せば足ります。
これに対し、Aが6万円を生活費に使った場合は結論が変わります。生活費はもともとAが自分の財布から出すはずだったお金です。売却代金から出したのであれば、その分だけ自分の財布に6万円が残っているはずだ、と考えます。したがって出費が節約された分も現存利益にあたり、10万円全額を返すことになります。
間違えやすいところ
「浪費したのだから返さなくてよい」と覚えると、生活費のケースで誤ります。判断の軸は、使った金額が大きいか小さいかではなく、そのお金によって本来の出費が節約されたかどうかです。
具体例
未成年者Aが親の同意なく時計をBに10万円で売り、代金10万円を受け取った後に契約を取り消したとします。Aがそのうち6万円をギャンブルで使っていた場合、手元に残る4万円を返せば足ります。これに対し、6万円を食費に使っていた場合は、その分だけ自分の出費が節約されているため、10万円全額を返すことになります。

取消しの効果(現存利益の返還)
ポイント整理
- ・制限行為能力者または意思無能力者がした法律行為であること
- ・取消しが有効にされたこと
- ・すでに給付を受け取っていること
効果
- ・取り消すと、その行為は遡って無効になります(121条)
- ・相手方は受け取ったものを全額返します(121条の2第1項)
- ・制限行為能力者と意思無能力者は、現存利益の範囲で返せば足ります(121条の2第3項)
- ・生活費に使った分は出費が節約されているため、現存利益にあたります
条文(121条・121条の2)
第121条(取消しの効果)取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。 第121条の2第1項(原状回復の義務)無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。 第121条の2第3項 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。
重要メモ
- ・制限行為能力者は現存利益の範囲で返せばよい(121条の2第3項)
- ・取消しの効果: 行為は遡って無効になり(121条)、原状回復義務が生じる(121条の2第1項)
- ・相手方(通常の成年者)には特則がなく、受け取ったものは全額返す
- ・ギャンブルなどの浪費に使った分は現存利益がなく、残額だけ返せばよい
- ・生活費に使った分は出費が節約されているため現存利益にあたり、全額を返す
成年被後見人の法律行為
7条・8条・9条簡単にいうと
判断能力をほとんど失った成年者を守るのが後見の制度です。成年被後見人がした契約は原則として取り消せますが、例外もあります。
成年被後見人とは
成年被後見人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人について、家庭裁判所が後見開始の審判をした場合の、その本人をいいます(7条・8条)。審判がされると成年後見人が選ばれます。判断能力が大きく失われた状態が想定されており、制限行為能力者の4類型のなかで保護の必要性が最も高い類型です。
判断能力を欠いていれば当然に成年被後見人になる、というわけではありません。家庭裁判所のチェックを受けて初めてこの類型に入ります。
原則は単独でできない
成年被後見人は、原則として単独で法律行為をすることができません(9条本文)。ほとんどすべての契約は、保護者である成年後見人が代理して行うことになります。
ここで押さえておきたいのが、成年後見人には同意権がないという点です。事前に同意を与えたとしても、その契約を取り消すことができます。同意をしてもらっても、本人が同意どおりの契約をできるとは限らないため、同意に意味を持たせないという判断です。「同意があれば有効になる」という選択肢は誤りになります。
日常生活に関する行為は例外
日用品の購入その他日常生活に関する行為は、単独ですることができます(9条但書)。トイレットペーパーを買う、スーパーで食料品を買うといった行為がこれにあたり、後から取り消すことはできません。金額が小さく財産が流出する心配が少ないうえ、こうした行為まで制限すると本人の生活が成り立たなくなるからです。
本人も取り消せる
取消しができるのは成年後見人だけではありません。成年被後見人本人も、自分がした行為を取り消すことができます(120条1項)。「本人は制限行為能力者である間は取り消せない」という記述は誤りです。
なお、成年後見人が本人の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要です(859条の3)。生活の拠点を失わせる行為には、別途チェックがかかります。
具体例
重い認知症のAについて後見開始の審判がされ、成年後見人Bが選ばれたとします。Aが1人で自宅の土地を売る契約をした場合、Bはこれを取り消すことができます。事前にBが同意していたとしても、取り消すことができる点が特徴です。これに対し、Aがスーパーで食料品を買う行為は日常生活に関する行為なので、取り消すことはできません。

成年被後見人の法的地位と制限
ポイント整理
- ・精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあること(7条)
- ・家庭裁判所の後見開始の審判を受けていること(7条)
- ・日用品の購入など日常生活に関する行為は例外になります(9条但書)
効果
- ・原則として、単独でした行為は取り消すことができます(9条本文)
- ・日常生活に関する行為は単独でできます(9条但書)
- ・成年後見人の同意があっても、その契約は有効になりません
- ・居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要です(859条の3)
条文(7条・8条・9条)
第9条(成年被後見人の法律行為)成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
重要メモ
- ・成年後見人に同意権がないことと、日用品購入の例外に注意
- ・要件: 事理弁識能力を欠く常況にあり、家庭裁判所の後見開始の審判を受けたこと(7条・8条)
- ・原則: 単独でした行為は取り消すことができる(9条本文)。同意があっても取り消せる
- ・例外: 日用品の購入その他日常生活に関する行為は単独でできる(9条但書)
- ・本人も取消しができる(120条1項)。居住用不動産の処分には家裁の許可が要る(859条の3)
被保佐人の法律行為
11条・12条・13条簡単にいうと
判断能力が著しく不十分な被保佐人は、どこまで1人で契約できるのでしょうか。13条1項が並べる重要な行為が線引きになります。
被保佐人とは
被保佐人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な人について、家庭裁判所が保佐開始の審判をした場合の、その本人をいいます(11条・12条)。判断能力を欠く常況にある成年被後見人よりは軽く、不十分にとどまる被補助人よりは重い状態です。
原則は単独でできる
成年被後見人と違い、被保佐人はある程度の判断能力を残しています。そこで民法は、原則として単独で契約できることにし、危ない契約に限って保佐人の同意を必要としました(13条)。同意が要らない行為については、同意がなくても取り消すことはできません。
13条1項が並べる重要な行為
同意が必要となるのは、13条1項に挙げられた行為です。元本を領収し、または利用すること。借財または保証をすること。不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。訴訟行為をすること。贈与、和解または仲裁合意をすること。相続の承認や放棄、遺産分割をすること。贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、または負担付遺贈を承認すること。新築、改築、増築または大修繕をすること。602条に定める期間を超える賃貸借をすること。これらを同意なくした場合は、取り消すことができます(13条4項)。
不動産と動産で扱いが違う
不動産は金額の大小にかかわらず、すべて同意の対象になります。これに対して動産は、時計や自動車のように高価なものもあれば、日用品のように安価なものもあります。そのため重要な財産にあたる場合だけ同意が必要になります。書店で参考書を買うような行為は同意なしでできます。
過去問では「被保佐人が動産を譲渡した場合、保佐人の同意がなければ常に取り消せる」という形で問われました。動産の譲渡が常に13条1項の行為にあたるわけではないので、誤りです。
保佐人の権限
保佐人には同意権・追認権・取消権があります。代理権は当然には与えられず、家庭裁判所の審判があるときだけ行使できます(876条の4第1項)。本人以外の請求でこの審判をするには、本人の同意が必要です(876条の4第2項)。
具体例
被保佐人Aが、保佐人Bの同意を得ずに自宅の土地をCに売ったとします。不動産に関する権利の得喪は13条1項の重要な行為にあたるため、Bはこの売買契約を取り消すことができます(13条4項)。これに対し、Aが書店で参考書を買う行為は重要な行為にあたらないので、同意がなくても取り消すことはできません。

被保佐人の制度と権限関係
ポイント整理
- ・精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分であること(11条)
- ・家庭裁判所の保佐開始の審判を受けていること(11条)
- ・13条1項に挙げられた重要な行為を、保佐人の同意なくしたこと
効果
- ・13条1項の行為を同意なくしたときは取り消すことができます(13条4項)
- ・それ以外の行為は単独でできます
- ・保佐人の代理権は家庭裁判所の審判があるときだけ与えられます(876条の4第1項)
条文(11条・12条・13条)
第11条(保佐開始の審判)精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、(略)保佐開始の審判をすることができる。 第13条第1項(保佐人の同意を要する行為等)被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。一 元本を領収し、又は利用すること。二 借財又は保証をすること。三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。(以下略) 第13条第4項 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
重要メモ
- ・13条1項に挙げられた行為だけ同意が要る点に注意
- ・要件: 事理弁識能力が著しく不十分で、家庭裁判所の保佐開始の審判を受けたこと(11条・12条)
- ・原則は単独でできる。13条1項の行為を同意なくしたときだけ取り消せる(13条4項)
- ・不動産はすべて同意の対象。動産は重要な財産にあたる場合だけ同意が要る
- ・保佐人の代理権は審判があるときだけ(876条の4第1項)。その審判には本人の同意が要る
被補助人の法律行為
15条・16条・17条簡単にいうと
被補助人は制限行為能力者のなかで制約が最も軽い類型です。家庭裁判所の審判で補助人が付く仕組みと、本人の同意が要る場面が特徴になります。
被補助人とは
被補助人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な人について、家庭裁判所が補助開始の審判をした場合の、その本人をいいます(15条・16条)。制限行為能力者の4類型のなかで制約が最も軽く、本人の判断を最大限に尊重した作りになっています。
原則は単独でできる
被補助人は、重要な契約を含めて、ほとんどの契約を単独ですることができます(17条1項本文)。同意が要らない行為について、同意がないことを理由に取り消すことはできません。
補助人の同意が必要になるのは、家庭裁判所の審判で特定の行為について同意権が与えられた場合だけです(17条1項但書)。対象にできるのは13条1項に挙げられた行為のなかから選ばれたものに限られ、補助人が危ないと判断した契約だけに絞り込まれます。指定された行為を同意なくしたときは、取り消すことができます。
本人の同意が3つの場面で要る
被補助人の制度には、ほかの類型にない特徴があります。本人の同意が3つの場面で必要になることです。
第1に、本人以外の者の請求で補助開始の審判をするとき(15条2項)。第2に、補助人に同意権を与える審判をするとき(17条2項)。第3に、補助人に代理権を与える審判をするとき(876条の9第2項)。
判断能力が被保佐人よりも残っているため、補助を受けるかどうかも自分で決められることにした、という趣旨です。後見開始と保佐開始には、本人以外の請求でも本人の同意を要求する規定はありません。ここが比較の材料になります。
補助人の権限
補助人は、当然には何の権限も持ちません。代理権も同意権も、家庭裁判所の審判で与えられた範囲でのみ行使できます。追認権と取消権も、同意権が与えられた行為についてだけ認められます。4つの権限がすべて審判次第という点が、被補助人の特徴です。
具体例
軽い認知症のAについて補助開始の審判がされ、不動産の処分について補助人Bに同意権が与えられたとします。Aがこの同意を得ずに自宅を売った場合、Bはその契約を取り消すことができます(17条1項但書)。なお、この補助開始の審判をA以外の者が請求する場合には、A自身の同意が必要です(15条2項)。

被補助人の判断能力と法的行為
ポイント整理
- ・精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分であること(15条)
- ・家庭裁判所の補助開始の審判を受けていること(15条)
- ・本人以外の者が請求する場合は、本人の同意が必要です(15条2項)
- ・審判で同意権が与えられた行為を、補助人の同意なくしたこと(17条1項但書)
効果
- ・審判で指定された行為を同意なくしたときは取り消すことができます(17条1項但書)
- ・それ以外の行為は単独でできます
- ・補助開始・同意権付与・代理権付与のいずれにも本人の同意が必要です
条文(15条・16条・17条)
第15条第1項(補助開始の審判)精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、(略)補助開始の審判をすることができる。ただし、本人以外の者の請求によって補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。 第15条第2項 本人以外の者の請求によって補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。 第17条第1項(補助人の同意を要する行為等)家庭裁判所は、(略)17条所定の行為につき補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。この場合において、その同意を得ないでした行為は、取り消すことができる。 第17条第2項 本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
重要メモ
- ・補助人の権限はすべて審判で与えられた範囲に限られる点に注意
- ・要件: 事理弁識能力が不十分で、家庭裁判所の補助開始の審判を受けたこと(15条・16条)
- ・原則は単独でできる(17条1項本文)。審判で指定された行為を同意なくしたときだけ取り消せる
- ・本人の同意が要る3場面: 補助開始の審判(15条2項)、同意権付与(17条2項)、代理権付与(876条の9第2項)
- ・後見開始・保佐開始には、本人以外の請求でも本人の同意を求める規定がない
相手方の催告権
20条簡単にいうと
制限行為能力者と契約した相手方は、いつ取り消されるかわからず不安定な立場に置かれます。そこで相手方には「催告権」が認められています。
なぜ催告権が要るのか
制限行為能力者と契約をした相手方は、いつ取り消されるか分からない不安定な立場に置かれます。そこで民法は、相手方に1か月以上の期間を定めて「追認するか取り消すか返事をしてほしい」と求める権利を認めました(20条)。これが催告権です。
返事がなかったときの扱いは相手次第
催告して確答がなかった場合の効果は、誰に催告したかで変わります。ここが出題の中心です。
判断能力のある者に催告した場合は、追認したものとみなされます。具体的には、行為能力者となった後の本人に催告した場合(20条1項)と、まだ制限行為能力者である間に法定代理人・保佐人・補助人といった保護者に催告した場合(20条2項)です。取り消すかどうかを判断できるはずの人が返事をしないのだから、取り消さない、つまり追認すると受け取るという発想です。
判断能力のない本人に直接催告した場合
未成年者や成年被後見人の本人に直接催告しても、意思表示を受け取る能力がないため、相手方は催告したこと自体を主張できません(98条の2)。追認とみなされることも、取消しとみなされることもなく、催告はなかったのと同じ扱いになります。
一方、被保佐人や被補助人の本人に対して「保佐人(補助人)の追認を得てほしい」と催告した場合は違います。期間内に追認を得た旨の通知がなければ、取り消したものとみなされます(20条4項)。本人に保護者との橋渡しを期待できる一方、放置されたときに契約を有効のまま残すのは酷だからです。
なお20条3項は、特別の方式を必要とする行為について、期間内にその方式を備えた旨の通知がないときは取り消したものとみなす、という規定です。
間違えやすいところ
成年被後見人に直接催告して返事がなかったから取り消したものとみなされる、という記述は誤りです。この場合はそもそも催告の効力を主張できません。「追認みなし」「取消しみなし」「催告の効力を主張できない」の3つを、相手ごとに対応させて覚えます。
具体例
相手方Bが、被保佐人Aの保佐人Cに対して「1か月以内に追認するかどうか返事をしてほしい」と催告したのに、Cが返事をしなかったとします。この場合は追認したものとみなされます(20条2項)。これに対し、BがA本人に「保佐人の追認を得てほしい」と催告し、期間内に追認を得た旨の通知がなかった場合は、取り消したものとみなされます(20条4項)。なお、成年被後見人に直接催告しても、Bは催告したこと自体を主張できません(98条の2)。

相手方の催告権
ポイント整理
- ・相手方が1か月以上の期間を定めて催告すること(20条)
- ・催告の相手方によって、確答がないときの効果が変わります
効果
- ・行為能力者となった後の本人へ催告し確答がない場合は追認とみなす(20条1項)
- ・保護者(法定代理人・保佐人・補助人)へ催告し確答がない場合は追認とみなす(20条2項)
- ・未成年者・成年被後見人本人への直接の催告は、その効力を主張できない(98条の2)
- ・被保佐人・被補助人本人へ追認を得るよう催告し通知がない場合は取消しとみなす(20条4項)
- ・特別の方式を要する行為で方式を備えた旨の通知がない場合は取消しとみなす(20条3項)
条文(20条)
第20条第1項(制限行為能力者の相手方の催告権)制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者となった後、その者に対して、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。 第20条第2項 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対して前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。 第20条第3項 特別の方式を要する行為については、その期間内に、その方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。 第20条第4項 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第17条第1項の審判を受けた被補助人に対しては、第一項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内に追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。
重要メモ
- ・催告の相手が誰かで、追認みなしと取消しみなしが入れ替わる点に注意
- ・追認とみなされるのは、行為能力者となった後の本人(20条1項)と保護者(20条2項)
- ・未成年者・成年被後見人の本人への直接の催告は、効力を主張できない(98条の2)
- ・被保佐人・被補助人の本人に追認を得るよう催告して通知がなければ取消しとみなす(20条4項)
- ・期間は1か月以上を定める必要がある。記述式でも問われたことがある
制限行為能力者の詐術
21条簡単にいうと
未成年者が「私は成年者です」と偽って契約をした場合にまで、制度で守る必要はありません。この場合、制限行為能力者の側は取消権を失います。
詐術を使えば保護されない
制限行為能力者制度は、判断能力が十分でない人を守るための仕組みです。しかし、本人が「私は成年者です」と偽って契約をしたのであれば、そこまで守る必要はありません。そこで民法21条は、制限行為能力者が行為能力者であると相手方に信じさせるために詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができないと定めています。
どこからが詐術か
判断の分かれ目は、相手方の誤信を積極的に作り出したかどうかです。
身分証明書を偽造する、年齢を偽って告げるといった積極的な行動は、詐術にあたります。
これに対して、契約のときに自分が制限行為能力者であることを黙っていただけであれば、詐術にはあたりません。民法は相手方に確認の義務を課していないのと同じように、本人に告知の義務も課していないからです。黙っていただけで取消権を失うとすれば、制度の保護はあってないものになります。
もっとも、黙っていたことがほかの言動と相まって、相手方を誤信させたり誤信を強めたりしたと認められるときは、詐術にあたります(最判昭44.2.13)。単なる黙秘と、黙秘に何かが加わった場合とで結論が変わる点が、判断の要になります。
効果は保護者にも及ぶ
詐術が認められると、制限行為能力者本人だけでなく、法定代理人・保佐人・補助人といった保護者も取消権を行使できなくなります(21条)。本人が不正を働いた以上、保護者の側から取り消すことも認めない、という整理です。
間違えやすいところ
21条は、相手方が行為能力者であると信じたことを前提にしています。相手方がもともと制限行為能力者だと知っていた場合には、誤信そのものがないので21条は働かず、取消しができます。「詐術があれば相手方の善意悪意を問わず取り消せなくなる」という記述は誤りです。
具体例
17歳のAが、年齢を21歳と記した偽造の身分証明書をBに見せて高額な商品を買ったとします。Aは詐術を用いたことになるので、Aも親も取消権を失います(21条)。これに対し、Aが自分が未成年者であることを何も告げずに契約しただけであれば詐術にはあたらず、取り消すことができます。

制限行為能力者の詐術
ポイント整理
- ・制限行為能力者が、行為能力者であると相手方に信じさせるために詐術を用いたこと
- ・身分証明書の偽造など積極的な行動、または黙秘に相手方の誤信を招く言動が加わったこと
- ・単に黙っていただけでは詐術にあたりません
効果
- ・制限行為能力者も保護者も、取消権を行使できなくなります(21条)
- ・その契約は確定的に有効となります
条文(21条)
第21条(制限行為能力者の詐術)制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるために詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
重要メモ
- ・単なる黙秘は詐術にあたらない点に注意
- ・詐術にあたる例: 身分証明書の偽造、年齢を偽って告げるといった積極的な行動
- ・詐術にあたらない例: 制限行為能力者であることを告げずに黙っていただけの場合
- ・黙秘に言動が加わり相手方の誤信を招いた、または強めたときは詐術にあたる(最判昭44.2.13)
- ・詐術があると保護者も取消権を失う(21条)。相手方が誤信していない場合は21条が働かない
まとめ
関連判例
阪神電鉄事件
大判昭7.10.06停止条件説(判例)によれば、胎児の間は権利能力がなく、出生後に事故時点へさかのぼって権利能力が認められる 解除条件説(有力学説)によれば、胎児の間から権利能力を持ち、出生前でも代理人による権利行使が可能だが、死産の場合は権利能力がなかったことに戻る 注意:停止条件説では胎児の間に代理人が権利を処分することはできないため、出生前の和解はその胎児を拘束しない 民法721条の例外は損害賠償請求に限られ、相続(民法886条)・遺贈(民法965条)・認知(民法783条)にも胎児保護の規定がそれぞれ別途ある 内縁の妻・子への扶養利益の侵害は民法709条の不法行為として認められる(本件で確認)
詐術の場合の取消権の否定
最判昭44.2.13相続人自身は被相続人の包括承継人であり民法177条の「第三者」にはあたらない しかし、相続人からの譲受人(第三者)は民法177条の「第三者」にあたる 被相続人からの譲受人と相続人からの譲受人は対抗関係に立ち、先に登記を備えた方が勝つ この結論は被相続人と相続人の間が贈与・売買・遺贈・死因贈与のいずれの場合にも同様に妥当する 注意:「相続人は第三者にならない=登記不要」という誤解が典型的なひっかけ問題になりやすい
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