第2節 能力
第1章 総則
民法において、人が法律行為を有効に行うには一定の能力が必要です。この節では、行為能力の制度を中心に、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の4類型それぞれの保護の仕組みを学びます。各類型で「誰が同意するか」「誰が取り消せるか」「単独でできる行為はどこまでか」を整理することが合格への近道です。試験では事例問題で頻出の最重要分野です。
権利能力
第3条権利能力とは、権利義務の主体となることができる資格のこと。自然人は出生により権利能力を取得し、死亡により失う。
具体例
Aさんは生まれた瞬間から、祖父の遺産を相続する権利や、事故の損害賠償を請求する権利など、法律上の権利を持つことができる主体となった。
要件
- ・出生の事実
効果・結論
- ・権利義務の主体となる
- ・死亡により権利能力は消滅する
条文(第3条)
私権の享有は、出生に始まる。
試験のポイント
- ・胎児の権利能力の特例:相続・遺贈・不法行為による損害賠償の3場面では、胎児は既に生まれたものとみなされる
- ・胎児の権利能力は出生を停止条件として遡及的に生じる(停止条件説・判例)。出生前に母が代理して示談することはできない(阪神電鉄事件)
- ・同時死亡の推定:数人が同一の危難で死亡し先後が不明なときは同時に死亡したと推定される(32条の2)
意思能力
第3条の2条意思能力とは、自己の行為の結果を判断できる精神能力のこと。意思能力を欠く状態でした法律行為は無効となる(民法3条の2)。無効は誰でも・いつでも主張でき、取消しと異なり追認によって有効にすることはできない。
具体例
認知症が進行したAさんが、自分の行為の意味を全く理解できない状態で、訪問販売員Bに高額な健康器具を購入する契約をした。この契約は無効であり、Aさんの家族が追認しても有効にはならない。
要件
- ・法律行為時に意思能力を欠いていたこと
効果・結論
- ・当該法律行為は無効となる
- ・追認しても有効とならない
条文(第3条の2条)
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を欠く状態にあったときは、その法律行為は、無効とする。
試験のポイント
- ・無効は誰でも主張できる・追認不可(取消しとの最大の違い)
- ・個別の法律行為ごとに意思能力の有無を判断する(常に欠いているわけではない)
- ・意思能力欠缺の立証責任は主張する側にある
未成年者の行為能力
第4-6条未成年者(18歳未満)は、法定代理人(親権者または未成年後見人)の同意を得なければ、原則として有効な法律行為ができない。ただし、単に権利を得・義務を免れる行為、処分を許された財産の処分、許可された営業に関する行為は単独で可能。18歳未満でも婚姻した者は成年とみなされる(成年擬制)。
具体例
17歳のAさんが親の同意なく30万円のバイクを購入した。親はこの契約を取り消すことができ、取消しにより売買は最初からなかったことになる。一方、Aさんが小遣いとして渡された5万円の範囲で買い物をするのは単独で有効にできる。
要件
- ・18歳未満であること
- ・法定代理人の同意を得ていないこと
- ・例外(単独可能行為)に該当しないこと
効果・結論
- ・法定代理人(親権者・未成年後見人)の同意なき法律行為は取消可能
- ・法定代理人は包括的な代理権・同意権・取消権を持つ
- ・婚姻により成年とみなされる(成年擬制)
条文(第4-6条)
第4条 年齢十八歳をもって、成年とする。 第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。 ② 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
試験のポイント
- ・法定代理人の権限:同意権・代理権・取消権・追認権をすべて持つ
- ・単独でできる行為①:単に権利を得・義務を免れる行為(例:贈与を受ける、債務免除を受ける)
- ・単独でできる行為②:法定代理人が処分を許した財産の処分(小遣い・特定目的で渡した金銭)
- ・単独でできる行為③:法定代理人が許可した特定の営業に関する行為
- ・単独でできる行為④:婚姻した未成年者(成年擬制・753条)
- ・取消権者:未成年者本人または法定代理人(120条)
- ・取消権の期間:追認できる時から5年・行為の時から20年(126条)
成年被後見人の行為能力
第7-10条成年被後見人とは、精神上の障害により事理弁識能力(判断能力)を常に欠く状態にある者として、家庭裁判所が後見開始の審判をした者のこと(7条)。4類型の中で最も保護が手厚い。成年後見人は包括的な代理権を持つが、同意権はない(同意を得ても有効にならない)。本人が単独でできるのは日用品購入など日常生活に関する行為のみ。
具体例
重度の認知症で判断能力を欠くAさんについて、家庭裁判所が後見開始の審判をした。後見人Bが選任され、AさんはBの代理で不動産売買などの法律行為ができるようになった。Aさんが単独でした高額な契約はBが取り消すことができる。ただしAさんが一人でスーパーで食材を買うことは有効なままである。
要件
- ・精神上の障害により事理弁識能力を常に欠く状態にあること
- ・家庭裁判所の後見開始審判があること
効果・結論
- ・日用品の購入その他日常生活に関する行為以外はすべて取消可能
- ・成年後見人が包括的代理権を持つ
- ・同意権はなく、後見人の同意を得ても有効にならない
条文(第7-10条)
第7条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。 第9条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する法律行為については、この限りでない。
試験のポイント
- ・後見開始の要件:精神上の障害により事理弁識能力を常に欠く状態(7条)
- ・成年後見人の権限:代理権・取消権・追認権あり。同意権はなし
- ・同意権がない理由:常に判断能力を欠く状態にあるため、同意を得ても意味がない
- ・単独でできる行為:日用品の購入その他日常生活に関する行為のみ(9条但書)
- ・取消権者:成年被後見人本人または成年後見人(120条)
- ・居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要(859条の3)
被保佐人の行為能力
第11-14条被保佐人とは、精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分な者として、家庭裁判所が保佐開始の審判をした者のこと(11条)。民法13条1項に列挙された重要な財産行為(不動産の処分・借財・保証・訴訟行為など)には保佐人の同意が必要。それ以外の日常的な行為は単独で有効にできる。保佐人に代理権はなく、代理権が必要な場合は別途審判が必要。
具体例
軽度の認知症のAさんについて保佐開始の審判がされた。Aさんは日常的な買い物は一人でできるが、自宅を売却するには保佐人Bの同意が必要。BはAさんに代わって不動産売買の代理もできるが、これには別途代理権付与の審判が必要。
要件
- ・精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分であること
- ・家庭裁判所の保佐開始審判があること
効果・結論
- ・民法13条1項列挙の重要財産行為には保佐人の同意が必要
- ・同意なき重要財産行為は取消可能
- ・保佐人への代理権付与は審判による
条文(第11-14条)
第11条 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。 第13条第1項 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。(以下略)
試験のポイント
- ・保佐開始の要件:精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分(11条)
- ・保佐人の権限:同意権・取消権・追認権あり。代理権は原則なし(審判で付与可)
- ・13条1項列挙行為(要同意):①元本の領収・利用、②借財・保証、③不動産等の重要財産の得喪、④訴訟行為、⑤贈与・和解・仲裁合意、⑥相続承認・放棄・遺産分割、⑦贈与の申込みの拒絶・遺贈の放棄・負担付贈与の承諾・負担付遺贈の承認、⑧新築・改築・増築・大修繕、⑨民法602条を超える期間の賃貸借
- ・13条1項以外の行為:原則として単独で有効にできる
- ・代理権付与の審判:本人の同意が必要(876条の4)
被補助人の行為能力
第15-18条被補助人とは、精神上の障害により事理弁識能力が不十分な者として、家庭裁判所が補助開始の審判をした者のこと(15条)。4類型の中で最も制約が軽い。補助人の同意が必要な行為は、審判で個別に定めた行為(民法13条1項所定の行為の一部)のみ。補助開始・同意権付与・代理権付与のいずれにも本人の同意が必要な点が大きな特徴。
具体例
軽い判断能力の低下があるAさんについて本人の同意のもとで補助開始の審判がされた。審判で定められた特定の行為(例:不動産の売買)についてのみ補助人Bの同意が必要で、それ以外の行為はAさんが一人で自由にできる。
要件
- ・精神上の障害により事理弁識能力が不十分であること
- ・家庭裁判所の補助開始審判があること
- ・本人の同意があること
効果・結論
- ・審判で定めた特定の行為にのみ補助人の同意が必要
- ・同意なき対象行為は取消可能
- ・補助開始・同意権付与・代理権付与すべてに本人の同意が必要
条文(第15-18条)
第15条第1項 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第7条又は第11条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。 第15条第2項 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。
試験のポイント
- ・補助開始の要件:精神上の障害により事理弁識能力が不十分(15条)
- ・補助人の権限:審判で定めた特定行為への同意権・取消権・追認権。代理権は別途審判で付与
- ・同意権・代理権付与の対象:13条1項所定の行為の一部に限定される
- ・本人の同意が必要な場面:①補助開始の審判、②同意権付与の審判、③代理権付与の審判(15条・17条・876条の9)
- ・被補助人は同意なき対象行為を自ら取り消すことができる(120条)
取消し・追認・法定追認
第122-126条制限行為能力者がした行為は取り消すことができるが、追認によって確定的に有効となる。また、一定の事実があれば追認したとみなされる法定追認の制度がある(125条)。取消権には期間制限があり、追認できる時から5年、行為の時から20年で消滅する(126条)。
具体例
未成年者Aが親の同意なく締結した売買契約について、成年に達したAが代金の一部を支払った。これは法定追認(125条)にあたり、取消権は消滅する。
要件
- ・取り消すことができる行為であること
- ・追認権者が追認できる状態にあること
効果・結論
- ・取消しにより法律行為は遡及的に無効となる
- ・追認により法律行為は確定的に有効となる
- ・法定追認事由がある場合は追認したものとみなされる
条文(第122-126条)
第125条 前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
試験のポイント
- ・追認できる者:制限行為能力者本人(行為能力回復後)または法定代理人等
- ・法定追認事由(125条):①履行・履行請求、②更改、③担保の供与、④取消権があることを知った上での全部・一部の履行、⑤強制執行など
- ・法定追認は取消権があることを知りながら行った場合に成立する(悪意要件)
- ・取消権の期間制限:追認できる時から5年・行為の時から20年(126条)。どちらか早い方で消滅
制限行為能力者の相手方保護
第20-21条制限行為能力者と取引した相手方を保護するため、催告権(確答を求める権利)が認められている(20条)。催告の相手が本人か法定代理人等かによって、返事がない場合の効果が異なる点に注意。また、制限行為能力者が詐術(能力者と誤信させる術策)を用いた場合は取消しができなくなる(21条)。
具体例
未成年者Aと契約したBは、Aの親に対し「1か月以内に追認するか否か返事をください」と催告した。親が返事をしなかったので追認とみなされた。一方、Aが成年に達した後に同じ催告をしたのに返事がなければ、追認とみなされる。
要件
- ・制限行為能力者との取引であること
- ・相手方が催告等の手続を適法に行うこと
効果・結論
- ・催告に対し確答がなければ追認または取消しとみなす
- ・詐術を用いた場合は取消不可
試験のポイント
- ・催告相手が法定代理人等→確答なしで追認とみなす(20条1項)
- ・催告相手が行為能力者となった本人→確答なしで追認とみなす(20条2項)
- ・催告相手が制限行為能力者本人(能力回復前)→確答なしで取消しとみなす(20条4項)
- ・詐術(21条):単なる黙秘は原則として詐術にならないが、他の言動と相まって誤信を強めた場合は詐術となる(判例)
- ・詐術があった場合は取消不可。相手方は善意(誤信)であることが必要
まとめ
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