第7節 地方自治
第3章 統治
地方自治は「民主主義の学校」と呼ばれ、憲法が1章を設けて保障する重要な制度です。国と地方の関係、住民の権利、条例制定権など、行政書士試験で頻出の論点を学びます。特に条例と法律の関係、住民投票、地方議会の権限は実務でも重要です。
地方自治の本旨
第92条条簡単にいうと
簡単にいうと、憲法がわざわざ「地方自治」の章を設けているのは、国家権力の地方への集中を防ぐためです。「団体自治」と「住民自治」という2つの柱が重要です。
■ 地方自治の本旨(92条)
憲法92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」と規定しています。「地方自治の本旨」には大きく2つの意味があります。
■ 団体自治
第一は「団体自治」です。これは、地方公共団体が国から独立した存在として、国の関与を受けずに地域の事務を自律的に処理することを意味します。議会の設置(93条1項)や条例制定権(94条)はその制度的表れです。
■ 住民自治
第二は「住民自治」です。これは、地域の政治・行政を住民自身の意思と参加に基づいて行うことを意味します。首長・議員を住民の直接選挙で選ぶ仕組み(93条2項)がその典型的な表れです。
■ 歴史的背景と意義
戦前の憲法には地方自治に関する規定がなく、地方政府は中央政府の一機関として扱われていました。現行憲法がこの規定を設けたのは、国家権力が中央に集中することを防ぐ「権力分立」の考え方を「中央政府(国)対地方政府(地方)」の関係にも及ぼすためです。なお、地方自治の具体的な組織・運営については行政法(地方自治法)でさらに詳しく学びます。
具体例
都道府県や市区町村が国の指示によらず独自に条例を制定したり、住民が直接選挙で知事や市長を選んだりすることが、団体自治・住民自治の実践例である。

地方自治の本旨(憲法92条)
ポイント整理
- ・地方公共団体の組織・運営に関する事項であること
- ・地方自治の本旨(団体自治+住民自治)に基づいていること
- ・法律によって定められること(92条)
効果
- ・地方公共団体は国から独立した自治権を持つ(団体自治)
- ・住民は地方政治の主体として直接参加できる(住民自治)
- ・中央集権を制度的に抑制する機能を果たす
条文(第92条条)
憲法第92条(地方自治の基本原則) 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
重要メモ
- ・「地方自治の本旨(92条)=団体自治(国から独立した自律的処理)+住民自治(住民の意思に基づく自治)の2要素」
- ・地方自治の本旨(92条):地方公共団体の組織・運営は地方自治の本旨に基いて法律で定める
- ・団体自治:国から独立した存在として国の関与を受けずに事務を処理する——地方分権の観点
- ・住民自治:住民の意思に基づいて地方政治を行う——直接民主主義的要素(直接請求・住民投票)
- ・地方自治の本旨を侵害する法律は違憲——地方公共団体の自律権の核心部分を廃止・縮小する立法は92条に反する可能性
地方公共団体の機関(93条)
第93条条簡単にいうと
簡単にいうと、地方の議会や知事・市長は住民が直接選ぶことが憲法で保障されています。国政と地方政治の選出方法の違いがポイントです。
■ 議会の設置義務(93条1項)
憲法93条は地方公共団体の機関について定めています。同条1項は「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する」と規定し、議会の設置を義務付けています。これは団体自治の制度的基盤を構成します。
■ 直接選挙による選出(93条2項)
同条2項は「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と規定しています。国政において国民が直接選挙するのは国会議員のみであるのに対し、地方では首長(知事・市町村長)も住民の直接選挙によって選ばれる点が大きな特徴です。これは住民自治の中心的な制度的表れです。
■ 外国人の地方参政権
「住民」の範囲については、外国人が含まれるかどうかが問題となります。判例(最高裁平成7年2月28日判決:定住外国人選挙権訴訟)は、憲法93条2項の「住民」は日本国民たる住民を意味し、在留外国人に地方参政権(選挙権・被選挙権)を保障したものではないと判示しました。もっとも、立法措置により永住外国人に地方参政権を付与することは憲法上禁止されていないとも述べています(禁止もされていないが要求もされていません)。
具体例
都道府県知事・市区町村長・都道府県議会議員・市区町村議会議員はいずれも住民の直接選挙で選ばれる。国会では衆参両院議員が直接選挙だが、内閣総理大臣は国会が指名するという違いがある。
ポイント整理
- ・地方公共団体に議会を設置すること(93条1項)
- ・長・議員は住民の直接選挙によること(93条2項)
- ・「住民」は日本国民たる住民を指す(判例)
効果
- ・地方公共団体の議会設置が憲法上の義務となる
- ・首長・議員は住民の直接民主主義的な選択に基づく正統性を持つ
- ・外国人への地方参政権付与は立法政策に委ねられる(禁止・要求ともされない)
条文(第93条条)
憲法第93条 1項 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。 2項 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
重要メモ
- ・「地方公共団体には住民が直接選挙する議会と長(首長)を置く(93条)・両者は「二元代表制」で互いに抑制・均衡」
- ・地方公共団体の機関(93条):議事機関としての議会と長(知事・市町村長)の設置義務
- ・直接選挙(93条2項):議員も長も住民の直接選挙で選ばれる——間接選挙ではない
- ・二元代表制:議会と長がともに直接選挙で選ばれ、互いに抑制・均衡する関係——内閣と国会の議院内閣制とは異なる
- ・長の権限:条例案・予算の提出権・再議権(拒否権)・不信任決議への対応権(解散・総辞職)
地方公共団体の権能・条例制定権(94条)
第94条条簡単にいうと
簡単にいうと、地方公共団体は「法律の範囲内」で独自のルール(条例)を制定できます。上乗せ条例・横出し条例の許容範囲がポイントです。
■ 94条の規定内容
憲法94条は「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」と規定しています。これは団体自治の核心的な規定であり、地方公共団体に対して自治立法権を憲法上保障するものです。
■ 「法律の範囲内」の意味
「法律の範囲内」という制約が重要です。国の法律と条例が競合する場合に、どの範囲で条例が許容されるかについて、判例(最高裁昭和50年9月10日判決:徳島市公安条例事件)は、「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨・目的・内容・効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによって決すべき」と判示しました。法律が全国一律に規制している場合でも、法律よりも厳しい規制(上乗せ条例)や法律が規制していない分野を規制する条例(横出し条例)が許容される場合があります。
■ 条例による罰則
条例に罰則を設けることについて、地方自治法14条3項は条例違反に対して「2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料」を設けることができると定めています。条例で罰則を設けること自体は憲法31条(罪刑法定主義)に違反しないと解されています。
具体例
神奈川県が国の法律よりも厳しい自動車排ガス規制を条例で定める「上乗せ条例」や、法律で規制されていない事項を地域の実情に応じて規制する「横出し条例」がある。
ポイント整理
- ・地方公共団体が制定すること
- ・法律の範囲内であること(94条)
- ・国の法令と矛盾・牴触しないこと(徳島市公安条例事件の基準)
効果
- ・地方公共団体は自治立法権(条例制定権)を持つ
- ・法律より厳しい上乗せ条例・横出し条例も許容される場合がある
- ・条例で罰則を設けることができる(2年以下の懲役等)
条文(第94条条)
憲法第94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
重要メモ
- ・「地方公共団体は財産管理・事務処理・行政執行の権能を持ち、法律の範囲内で条例を制定できる(94条)・上乗せ条例・横出し条例も一定範囲で可」
- ・地方公共団体の権能(94条):①財産を管理する②事務を処理する③行政を執行する④法律の範囲内で条例を制定する
- ・条例制定権の範囲:法律の範囲内——法律に反する条例は違憲・違法
- ・上乗せ条例:国の法律より厳しい基準を条例で規定——法律の趣旨に反しない範囲で可
- ・横出し条例:法律の規制対象外の事項を条例で規制——法律が全国統一規制を意図していない場合は可
- ・条例による罰則(地方自治法14条3項):2年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金等
地方特別法と住民投票(95条)
第95条条簡単にいうと
簡単にいうと、特定の地域だけに適用される法律(地方特別法)を国会が制定するには、その地域の住民投票で過半数の同意が必要です。住民に実質的な拒否権が与えられている点が重要です。
■ 地方特別法とは(95条)
憲法95条は「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない」と規定しています。「一の地方公共団体のみに適用される特別法」を地方特別法といいます。
■ 規定の趣旨
この規定が設けられた趣旨は、国会が特定の地方公共団体に対して差別的・不利益な立法を一方的に押し付けることを防ぐためです。住民自治の観点から、当該地域の住民に対して拒否権を与えることで、国会の立法権に対する歯止めとしています。
■ 地方特別法の判断基準と実例
地方特別法に該当するかどうかは実質的に判断されます。複数の地方公共団体に同じ内容の法律が適用されても、実質的に一の地方公共団体のみを対象としていると認められれば地方特別法に当たります(広島平和記念都市建設法、京都国際文化観光都市建設法など、戦後に複数制定された実例があります)。
■ 住民投票の要件
住民投票の要件は「過半数の同意」であり、単なる多数決ではなく投票総数の過半数が求められる点に注意が必要です。なお、この住民投票は憲法79条3項・80条1項の最高裁判所裁判官の国民審査・下級裁判所裁判官の任命とは異なる制度です。
具体例
戦後、広島市に関する「広島平和記念都市建設法」や京都市に関する「京都国際文化観光都市建設法」が地方特別法として制定され、それぞれ住民投票が実施されて過半数の同意を得た。
ポイント整理
- ・一の地方公共団体のみに適用される特別法(地方特別法)であること
- ・当該地方公共団体の住民投票を実施すること
- ・住民投票において過半数の同意を得ること(95条)
効果
- ・要件を満たして初めて国会は地方特別法を制定できる
- ・住民に実質的な拒否権が与えられ、一方的な差別立法を防止できる
- ・住民投票で過半数の同意が得られなければ、国会はその法律を制定できない
条文(第95条条)
憲法第95条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
重要メモ
- ・「一の地方公共団体にのみ適用される特別法(地方特別法)は当該地方公共団体の住民投票で過半数の同意が必要(95条)」
- ・地方特別法(95条):特定の地方公共団体にのみ適用される特別の法律——住民投票で過半数の同意が必要
- ・住民投票の目的:特定の地域住民の利害に直接影響する特別法の制定に住民の意思を反映させる
- ・地方特別法の実例:広島平和記念都市建設法・長崎国際文化都市建設法——住民投票を経て制定
- ・95条の住民投票と憲法改正国民投票(96条)・地方自治法の住民投票は別の制度
まとめ
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