第4節 裁判所
第3章 統治
裁判所は、憲法の番人として違憲審査権を行使し、国民の人権を守る最後の砦です。この節では、裁判所の組織・権限・違憲審査制の仕組みと限界を学びます。特に付随的違憲審査制や統治行為論など、試験頻出の論点を確実に理解しましょう。
法律上の争訟
第裁判所法3条1項条簡単にいうと
裁判所はどんな争いでも扱えるわけではありません。「法律上の争訟」にあたる2つの要件を満たす必要があります。
裁判所が審判できる事件は、裁判所法3条1項が定める「法律上の争訟」に限られます。法律上の争訟とは、①当事者間の具体的な権利義務または法律関係の存否に関する紛争であり、②それが法律を適用することによって終局的に解決できるものであること、という2つの要件を満たす必要があります。
具体的に「法律上の争訟にあたらない」とされた例として、「警察予備隊違憲訴訟」(最大判昭27.10.8)があります。この事件では、具体的な争訟がないまま抽象的に法律の違憲確認を求めたものであったため、裁判所は審判権を持たないと判断されました。これは日本が「付随的違憲審査制」を採用していることを示す重要な判例です。
また、「板まんだら事件」(最判昭56.4.7)では、信仰対象の価値または宗教上の教義に関する判断が争点の中核をなす場合、法律の適用による解決に適さず、法律上の争訟にあたらないとされました。このように、純粋に宗教上・信仰上の問題は裁判所の審査の外に置かれています。
具体例
「板まんだら事件」:本物の板まんだらかどうかという宗教上の教義判断が中核→法律上の争訟にあたらず裁判所は審判できない。「警察予備隊違憲訴訟」:具体的な権利侵害なしに抽象的な違憲確認を求めた→法律上の争訟なし。
ポイント整理
- ・当事者間の具体的な権利義務または法律関係の存否に関する紛争であること
- ・法律を適用することによって終局的に解決できる紛争であること
効果
- ・上記2要件を満たす場合にのみ、裁判所は審判権を持つ
- ・要件を欠く場合(抽象的違憲審査の申立て・宗教上の争いなど)は裁判所は判断できない
条文(第裁判所法3条1項条)
裁判所法3条1項:裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
重要メモ
- ・2要件のどちらかを欠けば裁判所は判断できない、というのがポイント
- ・法律上の争訟の2要件(裁判所法3条1項):①当事者間の具体的な権利義務・法律関係の存否に関する紛争であること②法令を適用することにより終局的に解決できること
- ・警察予備隊訴訟(最大判昭27.10.8):具体的事件を離れて法令の合憲性を判断することはできない。①を欠く例
- ・板まんだら事件(最判昭56.4.7):宗教上の教義の価値判断が前提となる争いは終局的に解決できない。②を欠く例
- ・信仰の対象の価値や宗教上の教義そのものは司法審査の対象とならない
司法権の限界
第憲法76条条簡単にいうと
法律上の争訟にあたっても、裁判所があえて判断しない領域があります。統治行為論と部分社会の法理の2つです。
裁判所は「法律上の争訟」に該当する事件であっても、一定の場合には司法審査を自制します。これを「司法権の限界」といい、主に3つのカテゴリーがあります。
第1に、「議院の自律権」です。国会は憲法上独自の権限を持つ機関であり、議員の資格争訟(55条)や懲罰(58条2項)など議院の内部事項については、司法権は及ばないとされています(警察法改正無効事件・最大判昭37.3.7)。
第2に、「統治行為」です。国家の高度の政治性を有する行為については、法律上の判断が可能であっても、その高度の政治的性質ゆえに司法審査の対象から外れます(苫米地事件・最大判昭35.6.8)。衆議院の解散はその典型例です。また、日米安保条約のような高度の政治性を持つ条約も原則として司法審査の対象外とされます(砂川事件・最大判昭34.12.16)ただし、一見極めて明白に違憲無効と認められる場合はこの限りではないとされています。
第3に、「部分社会の法理」です。自律的な法規範を持つ団体の内部問題については、一般市民法秩序と直接関係しない限り、司法審査の対象外とされます。ただし、大学の単位不認定は「一般市民としての権利利益」に影響するとして司法審査の対象とされます(富山大学事件・最判昭52.3.15)。地方議会議員の除名処分は司法審査の対象となりますが、出席停止処分は対象外とされていましたが、最大判令2.11.25では、出席停止処分も司法審査の対象となると変更されました。
具体例
衆議院の解散→統治行為として司法審査の対象外(苫米地事件)。大学の卒業不認定→部分社会の内部問題で対象外。大学の単位不認定→一般市民の権利に影響するため対象あり(富山大学事件)。地方議会議員の出席停止処分→対象あり(最大判令2.11.25に変更)。
ポイント整理
- ・統治行為:国家の高度の政治性を有する行為であること
- ・部分社会の法理:自律的な法規範を持つ団体の内部問題で一般市民法秩序と直接関係しないこと
効果
- ・統治行為は司法審査の対象外(ただし一見極めて明白に違憲の場合は除く)
- ・部分社会の内部問題は原則として司法審査の対象外
- ・ただし一般市民としての権利利益に影響する場合は司法審査の対象となる
条文(第憲法76条条)
憲法76条1項:すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
重要メモ
- ・地方議会の出席停止だけ結論が変わったことがポイント
- ・統治行為(苫米地事件・最大判昭35.6.8):高度の政治性を有する国家行為は司法審査の対象外
- ・議院の自律権:議事手続など議院内部の自律的判断には司法審査が及ばない(警察法改正無効事件)
- ・部分社会の法理(富山大学事件・最判昭52.3.15):大学の単位認定など団体内部の紛争は原則として司法審査の対象外
- ・地方議会の出席停止処分は司法審査の対象となる(最大判令2.11.25)。従来の判例を変更した点に注意
裁判官の独立と身分保障
第憲法76条3項・78条・79条・80条条簡単にいうと
裁判官に強い身分保障があるのは、外からの圧力を受けずに判断させるためです。罷免できる場面が限られています。
憲法76条3項は「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」と定め、司法権の独立・裁判官の職権行使の独立を保障しています。これを支えるために、憲法は裁判官に手厚い身分保障を与えています(78条・79条・80条)。
最高裁判所長官は、内閣の指名に基づいて天皇が任命します(6条2項)。最高裁判所のその他の裁判官は、内閣が任命し、天皇が認証します(79条1項)。最高裁判所裁判官は定年制(70歳・79条5項)が設けられており、任期の定めはありません。また、最高裁判所裁判官には国民審査制度があり、任命後最初の衆議院議員総選挙の際に国民の審査を受け、その後10年ごとに審査を受けます(79条2項・3項)。
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命します(80条1項本文)。任期は10年で再任されることができます(80条1項)。
裁判官の罷免は、①心身の故障による職務執行不能(分限裁判・78条)、②弾劾(国会の弾劾裁判所・78条)、③最高裁裁判官の国民審査(79条3項)の3つの場合に限られます。在任中の報酬は減額できません(79条6項・80条2項)。ただし一般の減額立法による全裁判官への減額は許容されると解されています。
具体例
最高裁長官:内閣が指名→天皇が任命。その他の最高裁判事:内閣が任命→天皇が認証。下級裁判所裁判官:最高裁名簿→内閣任命、任期10年。国民審査は最高裁判事のみ、最初の総選挙後および10年ごと。

違憲審査権
ポイント整理
- ・裁判官の罷免①:心身の故障により職務を執行できない場合(分限裁判)
- ・裁判官の罷免②:弾劾裁判所による弾劾
- ・裁判官の罷免③:最高裁判所裁判官の国民審査で罷免票が過半数
効果
- ・裁判官は良心に従い独立して職権行使ができる
- ・在任中の報酬減額は禁止される(79条6項・80条2項)
- ・上記3事由以外で罷免されることはない
条文(第憲法76条3項・78条・79条・80条条)
憲法76条3項:すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。 憲法78条:裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執行することができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。 憲法79条6項:最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
重要メモ
- ・罷免できる場面が限定されていることがポイント
- ・裁判官の独立(76条3項):その良心に従い独立して職権を行い、憲法および法律にのみ拘束される
- ・報酬は在任中減額できない(79条6項・80条2項)
- ・罷免事由:①心身の故障による執務不能の裁判②弾劾裁判による罷免(78条)③最高裁判所裁判官は国民審査(79条)
- ・行政機関が裁判官の懲戒処分を行うことはできない(78条後段)
裁判所の規則制定権
第憲法77条条簡単にいうと
裁判の手続は国会だけが決めるわけではありません。最高裁判所にも規則を定める権限があります。
憲法77条1項は「最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内規及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する」と規定し、最高裁判所に規則制定権を認めています。これは国会中心立法の原則(41条)の例外に位置づけられます。
規則制定権の対象は「訴訟手続・弁護士・裁判所内規・司法事務処理」であり、これらの事項については法律(国会立法)と最高裁規則のどちらでも定めることができるとされています(競合説が通説)。ただし、訴訟手続や弁護士に関する事項を規則で定めることができるとしても、「弁護士の資格・人権に関する事項」など法律事項の本質的な部分は法律で定める必要があります。
下級裁判所は、最高裁の定める規則に従い、独自に規則を定めることができます(77条3項)。なお、裁判所の規則制定権は最高裁の専属ではなく、下級裁判所にも委任が可能です。
具体例
民事訴訟規則・刑事訴訟規則・弁護士倫理・裁判所の事務手続きなどが規則制定権の対象。訴訟手続は法律(民事訴訟法・刑事訴訟法)でも規則でも定められる。
ポイント整理
- ・対象事項:訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内規、司法事務処理に関する事項
効果
- ・最高裁判所はこれらの事項について規則を制定できる
- ・下級裁判所も最高裁規則に従い独自規則を定めることができる(77条3項)
- ・法律事項の本質部分は規則では定められず、法律によることが必要
条文(第憲法77条条)
憲法77条1項:最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内規及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
重要メモ
- ・手続的事項に限られ、法律と抵触すれば法律が優先するのがポイント
- ・最高裁判所規則(77条1項):訴訟に関する手続・弁護士・裁判所の内部規律・司法事務処理に関する事項を定められる
- ・対象は手続的事項。犯罪と刑罰のような実体的事項は法律で定める必要がある
- ・法律と規則が抵触した場合は法律が優先する(法律優位説が通説)
- ・規則制定権は国会中心立法の原則の例外にあたる。議院規則(58条2項)も同じ位置づけ
違憲審査権
第憲法81条条簡単にいうと
裁判所は法令が憲法に反していないかを審査できます。ただし事件と切り離して審査することはできません。
憲法81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定し、最高裁判所を違憲審査権の終審裁判所と位置づけています。ただし、違憲審査権は最高裁判所の専属ではなく、下級裁判所も有しています(81条は終審としての地位を示したもの)。
日本の違憲審査制は、具体的な争訟事件が提起された際に付随して違憲審査を行う「付随的違憲審査制」(アメリカ型)を採用しています。これに対し、具体的な争訟なしに抽象的に違憲審査できる「抽象的違憲審査制」(ドイツ型)は日本では採用されていません(警察予備隊違憲訴訟・最大判昭27.10.8)。
違憲判決の効力は当該事件のみに及ぶ「個別的効力説」が通説であり、違憲とされても法律が当然に無効となるわけではなく、国会が当該法律を改廃する必要があります(「法令違憲」と「適用違憲」の区別も重要)。法令違憲の主な判例として、①尊属殺重罰規定違憲(最大判昭48.4.4)、②薬局距離制限事件(最大判昭50.4.30)、③衆議院議員定数不均衡訴訟(最大判昭60.7.17)、④郵便法免責規定違憲(最大判平14.9.11)、⑤在外日本人選挙権確認事件(最大判平17.9.14)、⑥婚姻禁止期間規定違憲(最大判平27.12.16)、⑦再婚禁止規定違憲(最大判平27.12.16)、⑧性同一性障害特例法違憲決定(最大決令5.10.25)などがある。
具体例
薬局距離制限事件(最大判昭50.4.30):薬局の開設を距離で制限する規定が職業選択の自由を侵害として法令違憲。在外日本人選挙権(最大判平17.9.14):在外日本人に選挙権を与えない公職選挙法規定が違憲。
ポイント整理
- ・付随的審査制:具体的な争訟(法律上の争訟)が前提として存在すること
- ・法令審査:法律・命令・規則・処分が対象
効果
- ・違憲と判断された法令は当該事件において適用されない(個別的効力)
- ・法律自体が廃止されるわけではない→国会が改廃する必要がある
- ・適用違憲の場合は、法律自体は合憲とされつつ具体的な適用が違憲とされる
条文(第憲法81条条)
憲法81条:最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
重要メモ
- ・具体的事件がなければ審査できない(付随的審査制)のがポイント
- ・付随的違憲審査制(81条):具体的な争訟の解決に必要な限りで違憲審査権を行使する
- ・抽象的違憲審査制(具体的事件なしに審査する制度)は採用していない
- ・法令違憲:法令そのものを違憲とする。効力は当該事件に限られるとするのが個別的効力説(通説)
- ・適用違憲:法令自体は合憲だが、当該事案への適用が違憲となる場合
裁判の公開
第憲法82条条簡単にいうと
裁判は原則として公開されます。非公開にできる場合は厳しく絞られており、判決は例外なく公開です。
憲法82条1項は「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」と規定し、裁判の公開を義務づけています。公開の趣旨は、国家権力による不当な裁判を防ぎ、裁判の公正さを外部から監視・確保することにあります。
公開が義務づけられるのは「対審」(当事者双方が裁判官の面前で主張・立証を行う手続き)と「判決」の2つです。判決は例外なく常に公開でなければならず、非公開にすることは許されません。
対審については例外があります。裁判官の全員一致で、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には、対審を非公開にすることができます(82条2項本文)。ただし、この例外にも例外があり、政治犯罪・出版に関する犯罪・憲法第3章(国民の権利及び義務)で保障する権利が問題となっている事件については、常に公開しなければなりません(82条2項但書)。これらは国民の関心が高く、非公開が許されない事件として憲法上特別に保護されています。
具体例
通常の民事事件の口頭弁論→公開が原則。わいせつ裁判→裁判官全員一致で公の秩序・善良の風俗を害するおそれがある場合は対審を非公開にできる。政治犯罪・表現の自由が問題になっている事件→常に公開(非公開不可)。
ポイント整理
- ・対審を非公開にできる要件①:裁判官の全員一致であること
- ・対審を非公開にできる要件②:公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある旨を決したこと
- ・非公開にできない例外:政治犯罪・出版に関する犯罪・憲法第3章保障の権利が問題となっている事件
効果
- ・上記要件を満たせば対審を非公開にできる
- ・判決は常に公開(非公開不可・例外なし)
- ・政治犯罪・出版犯罪・人権問題事件は対審も常に公開
条文(第憲法82条条)
憲法82条1項:裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。 憲法82条2項:裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となってゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
重要メモ
- ・非公開にできるのは対審だけで、判決は常に公開というのがポイント
- ・裁判の公開(82条1項):対審および判決は公開法廷で行う
- ・非公開の要件(82条2項):裁判官の全員一致で、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合に限り対審を非公開にできる
- ・全員一致が要件なので、1人でも反対すれば非公開にできない
- ・政治犯罪・出版に関する犯罪・憲法第3章で保障する国民の権利が問題となっている事件は、対審も常に公開しなければならない
- ・判決は、どのような事件であっても必ず公開される
まとめ
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