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テキスト/憲法/第9節 社会権

第9節 社会権

第2章 人権

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社会権は、20世紀に登場した新しい人権です。生存権・教育を受ける権利・勤労の権利・労働基本権を学びます。自由権が「国家からの自由」であるのに対し、社会権は「国家による自由」として、国家に積極的な配慮を求める権利です。試験では生存権の法的性格と労働基本権の制約が最頻出です。

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生存権

簡単にいうと

25条は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しますが、この条文だけを根拠に国にお金を請求することはできません。

生存権の意義

憲法25条1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定し、生存権を保障します。

プログラム規定説

判例は、25条1項が直接個々の国民に具体的な権利を与えたものではなく、国に対して施策を講ずべき責務を定めたにとどまるという立場をとっています。実際に給付を受けるには、生活保護法のような法律が制定されている必要があります。

朝日訴訟(最大判昭42.5.24)

生活保護の基準額が低すぎると争われた事件です。最高裁は、何が「健康で文化的な最低限度の生活」にあたるかの認定判断は厚生大臣の裁量に委ねられるとしました。

ただし裁量が無制限というわけではありません。裁量権の限界を超えたり濫用があったりした場合には、裁判所の審査が及びます。

堀木訴訟(最大判昭57.7.7)

障害福祉年金と児童扶養手当を同時には受け取れないとする併給禁止規定が争われた事件です。最高裁は、どのような給付制度を設けるかは立法府の広い裁量に委ねられるとして合憲としました。

塩見訴訟(最判平元.3.2)

障害福祉年金の受給要件に国籍要件を設けることが争われた事件です。最高裁は、限られた財源のもとで福祉的給付を行うにあたり自国民を優先させることも許されるとして、合憲としました。

間違えやすいところ

プログラム規定と説明されるからといって、25条にまったく法的な意味がないわけではありません。制定された法律の解釈や裁量審査の場面では25条が基準として働きます。

具体例

生活保護の支給額が低すぎると感じた人が、25条1項だけを根拠に「もっと支給せよ」と裁判所に請求しても認められません。判例の立場では25条は直接の請求権を与えていないからです。実際には生活保護法という法律に基づいて支給が決まり、その基準の設定が厚生大臣の裁量を逸脱していないかという形で争うことになります。これが朝日訴訟の構図です。

憲法25条だけを根拠に給付を請求することはできず、生活保護法のような法律が制定されてはじめて具体的な請求ができる

生存権は法律があってはじめて請求できる

判例
争われた内容
結論
朝日訴訟(最大判昭42.5.24)
生活保護の基準額
25条1項は具体的権利を与えたものではない。認定判断は厚生大臣の裁量
堀木訴訟(最大判昭57.7.7)
障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止
併給調整を行うかは立法府の裁量の範囲
塩見訴訟(最判平元.3.2)
障害福祉年金の国籍要件
自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許される

重要メモ

  • ・25条だけでは請求できず、法律があってはじめて給付を受けられるのがポイント
  • ・生存権(25条1項):健康で文化的な最低限度の生活を営む権利
  • ・朝日訴訟(最大判昭42.5.24):最低限度の生活の認定は厚生大臣の裁量。裁量の逸脱・濫用があれば司法審査が及ぶ
  • ・堀木訴訟(最大判昭57.7.7):障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止は立法裁量の範囲内で合憲
  • ・塩見訴訟(最判平元.3.2):福祉的給付にあたり自国民を優先することも許される
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教育を受ける権利

簡単にいうと

義務教育が「無償」といっても、ただになるのは授業料だけです。教育の中身を誰が決めるのかという論点もあわせて見ます。

子どもの学習権

26条1項は、すべて国民が能力に応じてひとしく教育を受ける権利を持つと定めます。条文はすべて国民と書いていますが、実際には、自分では学習できない子どもが大人に対して適切な教育を求める権利という意味合いが強くなっています。これを子どもの学習権といいます。親や国の都合で子どもが教育の機会を奪われないようにするための規定です。

教育を受ける権利の4つの意義

学習権としての意義に加えて、教育条件を整備させるという社会権的意義、主権者を育てるという参政権的意義、国家の不当な干渉を排除するという自由権的意義があります。社会権の一つに分類されますが、自由権の性質も併せ持ちます。

教育内容を決めるのは誰か

26条2項は親に普通教育を受けさせる義務を負わせていますが、国も教育を施す義務を負うと考えられるため、教育内容を決める権利が誰にあるかが問題になります。旭川学テ事件(最大判昭51.5.21)で最高裁は、普通教育の教師にも一定程度の教授の自由は認められるものの、完全な教授の自由までは認められないとしました。そのうえで、親や教師だけでなく、国も必要かつ相当と認められる範囲で教育内容を決定する権能を持つとしています。教育権が誰か一方に独占されるのではなく、親・教師・国が役割に応じて分担する、という整理です。

義務教育の無償の範囲

26条2項の無償とは授業料の無償を意味します。したがって教科書代金を徴収しても憲法に違反しません(最大判昭39.2.26)。学用品その他の一切の費用まで無償としなければならない、と書かれた選択肢は誤りです。なお現在の教科書は、法律によって無償とされています。

具体例

公立小学校に子どもを通わせても授業料はかかりません。26条2項の無償がこれにあたります。しかし教科書を使い、ノートや体操服を買い、給食費を払うことになります。判例は、無償の範囲は授業料に限られるとしているので、これらの負担は憲法違反ではありません。なお教科書については、憲法上の要請としてではなく、法律に基づく無償配付として現に実施されています。

子どもの学習権を満たす教育内容は、親や教師だけでなく国も必要かつ相当と認められる範囲で決定する権能を持つ

教育内容を決めるのは誰か

論点
結論
判例
普通教育の教師の教授の自由
一定程度は認められるが完全な自由は認められない
旭川学テ事件・最大判昭51.5.21
教育内容を決定する権能
親・教師だけでなく国も必要かつ相当な範囲で持つ
旭川学テ事件・最大判昭51.5.21
全国一斉学力テスト
適法
旭川学テ事件・最大判昭51.5.21
義務教育の無償の範囲
授業料の無償を意味し、教科書代金の徴収は違憲ではない
最大判昭39.2.26

重要メモ

  • ・無償の範囲は授業料に限られる、というのがポイント
  • ・教育を受ける権利(26条1項):能力に応じてひとしく教育を受ける権利。子どもの学習権を含む
  • ・義務教育の無償(26条2項):無償とは授業料の無償を意味し、教科書代・学用品代は含まない(最大判昭39.2.26)
  • ・旭川学テ事件(最大判昭51.5.21):国は必要かつ相当な範囲で教育内容を決定する権能を持つ
  • ・同判決は、普通教育における教師の完全な教授の自由は認められないが、一定程度の自由はあるとした
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労働基本権

簡単にいうと

労働三権は団結権・団体交渉権・団体行動権の3つです。公務員については、公務の性質から強い制限が認められています。

労働三権

28条は勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を保障します。使用者と労働者では労働者が弱い立場に置かれるため、団結して交渉できるようにした規定です。内容は3つで、労働組合を組織する団結権、労働条件について使用者と交渉する団体交渉権、要求を認めさせるために争議行為を行う団体行動権(争議権)です。正当な争議行為については刑事責任を負わず、民事上の責任も免除されます。

労働組合の統制権とその限界

労働組合は目的を達成するために必要かつ合理的な範囲で組合員を統制できます。ただし限界があります。三井美唄炭鉱事件(最大判昭43.12.4)で最高裁は、立候補の自由は選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり15条1項で保障されるとしたうえで、統一候補以外の者に立候補を思いとどまるよう勧告・説得することはできるものの、立候補を取りやめなければ統制違反者として処分することは許されないとしました。

臨時組合費の納入義務

組合が特別に徴収する臨時組合費について、国労広島地本事件(最判昭50.11.28)は目的ごとに結論を分けました。労働者の権利利益に直接関係する立法や行政措置を促進するための活動費用は納入義務があります。安保反対闘争そのものを実施するための活動費用は、政治的活動にあたり目的の範囲外なので納入義務がありません。一方、安保反対闘争によって不利益処分を受けた組合員を救援する費用は納入義務があります。救援は組合員の助け合いにあたるためです。

公務員の労働基本権

公務員にも労働基本権は保障されますが、その地位の特殊性と職務の公共性から、国民全体の共同利益の見地による制限が認められます。最高裁は、公務員の争議行為を一律全面的に禁止する国家公務員法の規定を28条に違反しないとしました(全農林警職法事件・最大判昭48.4.25)。なお、政治的な目的で行われるいわゆる政治ストは28条の保障を受けません。

具体例

民間企業の労働組合が賃上げを求めてストライキを行っても、それが正当な争議行為であれば刑事責任も民事責任も問われません。ところが同じことを国家公務員が行うと、国家公務員法により一律に禁止されています。最高裁は、公務員の地位の特殊性と職務の公共性、勤務条件が国会の定める法律で決まること、代償措置として人事院勧告の制度があることなどを理由に、この一律禁止を合憲としました(全農林警職法事件)。

28条は団結権・団体交渉権・団体行動権を保障するが、公務員については職務の公共性から争議行為が一律全面的に禁止されている

労働三権と公務員の制限

臨時組合費の徴収目的
納入義務
理由
労働者の権利利益に直接関係する立法や行政措置を促進する活動費用
あり
組合の目的の範囲内
安保反対闘争を実施するための活動費用
なし
政治的活動で目的の範囲外
安保反対闘争で不利益処分を受けた組合員を救援する費用
あり
組合員の助け合いにあたる

重要メモ

  • ・民間と公務員で結論が分かれるのがポイント
  • ・労働三権(28条):①団結権②団体交渉権③団体行動権(争議権)
  • ・公務員も労働基本権は保障されるが、公務の公共性から必要やむを得ない限度の制限を受ける
  • ・全農林警職法事件(最大判昭48.4.25):国家公務員の争議行為の一律全面禁止は合憲
  • ・三井美唄炭鉱事件(最大判昭43.12.4):労働組合の統制権は合理的範囲で認められるが、組合員の立候補を統制することは許されない

まとめ

テーマ
ポイント
注意点
生存権(25条)
抽象的権利。立法裁量広いが著しく不合理なら違憲
朝日訴訟・堀木訴訟で具体的権利説は採用されていない
教育を受ける権利(26条)
義務教育無償は授業料不徴収を意味する
教科書代は無償の範囲外というのが判例
勤労の権利(27条)
抽象的権利。勤労義務は道徳的義務
国に直接雇用を請求する具体的権利ではない
労働基本権(28条)
労働三権。公務員は職務性質により制約可能
代償措置があれば公務員の争議権禁止も合憲
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