第8節 参政権
第2章 人権
参政権とは、国民が政治に参加する権利です。選挙権・被選挙権を中心に、国民主権を実現する重要な権利として憲法で保障されています。選挙制度の合憲性や在外邦人の選挙権など、試験頻出論点を確実に押さえましょう。
参政権と選挙の基本原則
第15条条簡単にいうと
簡単にいうと、選挙権は国民固有の権利であり、外国人・法人には認められません。普通・平等・自由・直接・秘密選挙の5原則が重要です。
■ 参政権の意義
参政権とは、国民が国家の政治に参加する権利の総称であり、憲法15条が「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と規定することがその根拠となります。選挙権は国民が直接行使できる最も基本的な参政権であり、普通選挙・平等選挙・自由選挙・直接選挙・秘密選挙の5原則のもとで保障されます。
■ 選挙の5原則
普通選挙とは、財産・納税額・身分などによる制限を設けず、一定年齢に達した者すべてに選挙権を認める原則です。平等選挙とは、選挙権の数的平等を保障し、一人一票の原則を徹底するものです。自由選挙とは、有権者が自由な意思によって投票できることを保障し、投票を強制されないことを意味します。直接選挙とは、有権者が候補者に直接投票する制度であり、間接的な方法(例:都道府県知事が自動的に参議院議員になる等)は直接選挙の原則に反するとされます。秘密選挙(秘密投票)とは、誰に投票したかを第三者に知られないようにする原則であり、投票の自由を実質的に担保します。
■ 注意点
「普通選挙」と「平等選挙」は混同しやすいですが、前者は「誰に権利を与えるか」、後者は「その権利を何票として扱うか」という観点で区別されます。
具体例
年齢に関係なく全員に選挙権があるのが普通選挙の典型。一人が二票持てる制度は平等選挙に反する。無記名投票は秘密選挙を実現している。
ポイント整理
- ・普通選挙:一定年齢(18歳以上)に達した者に選挙権を認める
- ・平等選挙:一人一票、選挙権の数的平等
- ・自由選挙:有権者が自由な意思で投票できる
- ・直接選挙:有権者が候補者に直接投票する
- ・秘密選挙:誰に投票したかを秘密にする
効果
- ・選挙権の行使が制限される場合、正当化できる必要不可欠な理由が必要
- ・直接選挙の原則に反する制度は違憲
条文(第15条条)
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。 2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。 3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。 4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
重要メモ
- ・「選挙の5原則:普通・平等・自由・直接・秘密選挙(15条)・選挙権は国民固有の権利・外国人・法人には認められない」
- ・選挙の5原則:①普通選挙(財産による制限なし)②平等選挙(一人一票)③自由選挙④直接選挙⑤秘密選挙(15条3・4項)
- ・公務員の選定罷免権(15条1項):国民固有の権利——外国人・法人への選挙権は認められない
- ・すべての公務員は全体の奉仕者(15条2項)——一部の利益のために働いてはならない
- ・立候補の自由(被選挙権)も15条1項に保障される——選挙権と表裏一体
在外日本人の選挙権(在外日本人選挙権確認等請求事件)
第15条条簡単にいうと
簡単にいうと、国民の選挙権を制限するには「やむを得ない事由」が必要であり、在外国民への投票制限はこれを満たさず違憲とされました(最大判平17.9.14)。
■ 事件の概要
在外日本人選挙権確認等請求事件(最大判平成17年9月14日)は、国外に居住する日本国民(在外国民)が国政選挙において投票できないとされていた公職選挙法の規定が憲法15条1項等に違反するかどうかを争った事件です。
■ 事案の詳細
在外国民は在外選挙人名簿への登録が別途必要とされており、かつて比例代表選挙のみに限定されていたため、選挙区選挙では投票できない状態が続いていました。
■ 最高裁の判断
最高裁は、国民の選挙権またはその行使を制限することは原則として許されず、そのような制限をするためには「やむを得ない事由」がなければならないと判示しました。在外国民を選挙人名簿に登録しないことや、一部の選挙についてのみ在外国民の投票を認めないことには「やむを得ない事由」があるとは認められないとして、当該公職選挙法の規定を違憲(違法)と判断しました。この判決を受けて、その後の法改正により在外日本人はすべての選挙で投票できるようになりました。
また、公職選挙法が投票を認めないことは15条1項に違反するとされました。この判決は実質的当事者訴訟(行訴法4条)による確認訴訟が認められた先例でもあります。
具体例
海外赴任中の日本人サラリーマンが、在外選挙人名簿に登録していれば大使館等を通じて投票できるようになったのは、この判決後の法改正の成果。

選挙権の保障と選挙の基本原則
ポイント整理
- ・選挙権の制限は原則として許されない
- ・例外として制限が許されるのは「やむを得ない事由」がある場合のみ
- ・在外国民を名簿に登録しないことにやむを得ない事由は認められない
効果
- ・在外国民への投票制限規定は違憲(違法)
- ・公職選挙法が投票を認めないことは15条1項に違反
- ・判決後の法改正で在外日本人のすべての選挙での投票が可能になった
条文(第15条条)
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
重要メモ
- ・「在外日本人の選挙権を制限するにはやむを得ない事由が必要・公職選挙法の制限は15条等に違反し違憲」(最大判平17.9.14)
- ・在外日本人選挙権確認等請求事件(最大判平17.9.14):国民の選挙権を制限するにはやむを得ない事由が必要
- ・公職選挙法が在外国民の比例代表選挙への投票のみを認め小選挙区の投票を認めなかったことは15条等に反し違憲
- ・選挙権は国民主権の根幹——制限には厳格な審査基準が適用される
- ・この判決は実質的当事者訴訟(行訴法4条)による確認訴訟が認められた先例でもある
在外日本人の国民審査権(在外日本人国民審査権確認等請求訴訟)
第79条・15条条簡単にいうと
簡単にいうと、国民審査権の制限にも「やむを得ない事由」が必要であり、在外国民に審査権を認めないことは違憲とされました(最大令和4年5月25日)。
■ 事件の概要
在外日本人国民審査権確認等請求訴訟(最大令和4年5月25日)は、外国に住む日本人(在外国民)が最高裁判所裁判官の国民審査(憲法79条)を行使できないとされていた法律の規定が違憲かどうかを争った事件です。
■ 国民審査の制度
国民審査は、最高裁判所の裁判官が任命された後の最初の衆議院議員総選挙の際に国民の投票によって審査される制度(憲法79条2項)であり、罷免を可とする投票が有効投票の過半数に達すると当該裁判官は罷免されます。選挙権と同様に国民審査権も国民主権の実現手段の一つです。
■ 事案と判断
在外国民は国民審査の投票を行うための選挙人名簿に登録されず、在外公館での審査投票が認められていなかったため、国民審査を行使できない状態が続いていました。最高裁は、国民審査権の制限についても、選挙権の制限と同様に「やむを得ない事由」を基準として判断するとし、在外国民に国民審査の投票を認めないことには「やむを得ない事由」があるとは認められないとして、当該規定を違憲と判断しました。選挙権(在外日本人選挙権確認等請求事件)の判断枠組みを国民審査権にも拡張した点で意義深い判例です。
具体例
衆議院総選挙と同時に行われる最高裁裁判官の審査票。海外に住む日本人がこれに参加できなかったことが問題となった。
ポイント整理
- ・国民審査権の制限も「やむを得ない事由」がなければ違憲
- ・在外国民が審査できない状態にはやむを得ない事由は認められない
効果
- ・在外国民への国民審査権行使制限規定は違憲
- ・判決後の法改正で在外国民も国民審査が可能になった
条文(第79条・15条条)
第79条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。 2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
重要メモ
- ・「国民審査権も在外国民に保障・立法整備なしはやむを得ない事由にならず違憲」(最大令4.5.25)
- ・在外日本人国民審査権確認等請求訴訟(最大令4.5.25):最高裁裁判官の国民審査を在外国民に認めないことは違憲
- ・国民審査の制限にもやむを得ない事由が必要——立法整備がないことはやむを得ない事由ではない
- ・在外選挙権(最大判平17.9.14)と同趣旨の判断——国民固有の権利への制限には厳格な審査
立候補の自由(被選挙権)
第15条条簡単にいうと
簡単にいうと、立候補の自由(被選挙権)は15条1項で保障され、選挙権と表裏一体の関係にあります。労働組合が立候補を統制し処分することは許されないとした三井美唄炭鉱事件がポイントです。
■ 立候補の自由の根拠
憲法15条1項は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と定めますが、この条文は選挙権(選定権)のみを明文で規定しており、立候補の自由(被選挙権)については直接の規定がありません。しかし、判例・通説は、被選挙権(立候補の自由)は選挙権と表裏一体の関係にあることから、15条1項によって同様に保障されると解しています。
■ 三井美唄炭鉱労組事件(最大判昭和43年12月4日)
市議会議員選挙において労働組合が統一候補を決定したにもかかわらず、Aが独自の立場で立候補したため、組合がAを統制違反者として扱い組合員としての地位を停止した事案です。最高裁は、労働組合はその目的達成に必要かつ合理的な範囲内において組合員に対する統制権を有するとしました。しかし、立候補の自由は15条1項によって保障される重要な基本的人権であり、組合は組合員に対して立候補を思いとどまるよう勧告・説得することは正当な統制権の行使として許されますが、立候補を取りやめなかったことを理由に当該組合員を統制違反者として処分することは許されないと判示しました。
具体例
労働組合が「組合として○○さんを推薦する」と決定した後、別の組合員が独自に出馬した場合、組合は説得できるが除名処分は許されない。
ポイント整理
- ・立候補の自由は15条1項により保障される(選挙権と表裏一体)
- ・労働組合の統制権は目的達成に必要かつ合理的な範囲内で有効
- ・組合の統制権は組合員への勧告・説得の範囲にとどまる
効果
- ・立候補した者を統制違反者として処分することは許されない
- ・立候補の自由は労働組合の統制権に優先する
条文(第15条条)
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
重要メモ
- ・「立候補の自由(被選挙権)は15条1項に保障・選挙権(投票の自由)と表裏一体・労働組合による立候補统制は許されない(三井美唄炭鉱事件)」
- ・立候補の自由(被選挙権)は憲法15条1項に含まれる——選挙権と表裏一体の関係
- ・三井美唄炭鉱事件(最大判昭43.12.4):労働組合が立候補を統制し(除名等で)圧力をかけることは、立候補の自由を侵害して許されない
- ・立候補制限立法は選挙制度の整備の範囲内で許容される——ただし合理性の必要性は高い
- ・選挙運動の自由:「ある程度」憲法上保障される——ただし立法による合理的な制限は許容
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