第7節 受益権
第2章 人権
受益権とは、個人の権利保護のために国家に一定の行為を積極的に求める権利のことをいう。自由権が「国家からの自由」として国家の干渉排除を目的とするのに対し、受益権は「国家による自由」として国家の助力・給付・救済を求める権利である。憲法が保障する受益権として、請願権(16条)・国家賠償請求権(17条)・裁判を受ける権利(32条)・刑事補償請求権(40条)の4種類がある。これらは他の人権が侵害された際に実効的な救済を得るための権利として、人権保障全体を支える基盤ともいえる。
受益権とは
第16条・17条・32条・40条条簡単にいうと
簡単にいうと、受益権は権利保護のために国家に積極的な行為を求める権利です。請願権・国家賠償請求権・裁判を受ける権利・刑事補償請求権の4種類を押さえましょう。
■ 受益権の意義
受益権とは、個人の権利保護のために国家に一定の行為を積極的に求める権利のことをいいます。自由権が「国家からの自由」として国家の干渉を排除するための権利であるのに対し、受益権は「国家による自由」として国家の助力・給付・救済を求めるための権利である点が大きく異なります。
■ 4種類の受益権
憲法が保障する受益権は大きく4つに分類されます。第一に、損害の救済・公務員の罷免・法律の制定・廃止改正などを国に求めることができる請願権(16条)です。第二に、公務員の不法行為によって損害を受けた場合に国または公共団体に賠償を求めることができる国家賠償請求権(17条)です。第三に、裁判所において裁判を受けることができる権利(32条)です。第四に、刑事手続で抑留・拘禁された後に無罪の裁判を受けた場合に国に補償を求めることができる刑事補償請求権(40条)です。
これらの権利は、他の人権が侵害されたときに実効的な救済を得るための権利という側面を持っており、人権保障全体を支える基盤ともいえます。受益権は本試験での出題頻度は低いですが、各条文の内容と特徴を正確に把握しておくことが重要です。
具体例
警察官が職務中に誤って市民の車を損傷した場合、その市民は国家賠償請求権(17条)に基づいて国または公共団体に損害の賠償を求めることができる。また、無実なのに逮捕・拘禁され、その後無罪判決が確定した場合には、刑事補償請求権(40条)に基づいて国に補償を求めることができる。

適正手続の保障(憲法31条)
条文(第16条・17条・32条・40条条)
第16条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。 第17条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。 第32条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。 第40条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
重要メモ
- ・「受益権は権利保護のために国家に一定の行為を請求する権利・4種類:請願権(16条)・国家賠償(17条)・裁判を受ける権利(32条)・刑事補償(40条)」
- ・受益権の定義:個人の権利保護のために国家に一定の行為を請求する権利——自由権とは異なり国家の積極的行為を求める
- ・4種類の受益権:①請願権(16条)②国家賠償請求権(17条)③裁判を受ける権利(32条)④刑事補償請求権(40条)
- ・受益権は社会権ではない——受益権は権利保護を目的とし、社会権は福祉・生活保障を目的とする
請願権
第16条条簡単にいうと
簡単にいうと、請願権は「何人も」行使でき、外国人・法人にも認められます。請願したことを理由とした差別的取扱いは禁止されていますが、国側に応答義務はない点がポイントです。
■ 請願権の意義
請願権とは、損害の救済・公務員の罷免・法律や命令・規則の制定・廃止・改正その他の事項について、国や地方公共団体に対して平穏に要望・希望を申し出ることができる権利をいいます(憲法16条)。
■ 請願権の特徴
請願権の重要な特徴は、法律の留保なしに無条件で保障されている点にあります。すなわち、「法律の定めるところにより」という留保文句がなく、誰でも・どんな内容でも平穏な方法であれば請願することができます。また、請願をしたことを理由にいかなる差別待遇も受けないことが明記されています。
ただし、請願を受け取った側(国会や行政機関など)には、その請願を誠実に処理する義務はありますが、請願内容に応答する憲法上の義務はありません。請願権は権利として認められているだけで、希望を達成できる保証はなく、あくまで「申し出ることができる」権利にすぎない点に注意が必要です。
具体例
市民が道路の整備・改善を求めて市役所に要望書を提出することや、国会議員に法律の制定を求める署名活動も請願権の行使にあたる。なお、請願したことで不利益な扱いを受ければ、それは憲法16条後段の差別待遇禁止に違反する。
条文(第16条条)
第16条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
重要メモ
- ・「16条:何人も損害救済・公務員罷免・法令制定改廃等について平穏に請願できる・外国人も可・請願を理由とした差別扱い禁止」
- ・請願権(16条):損害の救済・公務員の罷免・法律等の制定・廃止・改正等について平穏に請願する権利
- ・請願できる者:「何人も」——外国人・法人も含む
- ・請願を理由とした差別的取扱いの禁止(16条後段)
- ・請願は義務を課すものではない——国会・内閣等は請願に応ずる義務はない(採択するかは裁量)
- ・請願権は最も緩やかな政治参加の権利——人権侵害の救済を求める内容も含む
国家賠償請求権
第17条条簡単にいうと
簡単にいうと、公務員の不法行為による損害は国や公共団体に賠償を求めることができます。「賠償」(違法行為が前提)と「補償」(適法行為が前提)の違いに注目してください。
■ 国家賠償請求権の意義
国家賠償請求権とは、公務員の不法行為によって損害を受けた場合に、法律の定めるところにより、国または公共団体に対してその賠償を求めることができる権利をいいます(憲法17条)。これを具体化した法律が国家賠償法(国賠法)です。
■ 賠償と補償の違い
「賠償」とは、国の違法な活動によって生じた損害を補てんすることをいい、「補償」とは国の適法な活動によって生じた損害を補てんすること(例:公共の福祉による財産権の制限)と区別されます。
■ 「法律の定めるところにより」という留保
17条の「法律の定めるところにより」という留保文句に注意が必要です。これは、国家賠償請求権の具体的内容は法律(国賠法)によって定められることを意味しますが、法律による賠償規定がなければ請求できないわけではなく、たとえ具体的規定がなくても憲法29条3項を根拠として補償請求できる場合があります。また、公務員個人は原則として賠償責任を負わないとされています(最高裁判例)。
具体例
道路の管理が不十分で穴が開いており、そこに車が落ちて損傷した場合、道路を管理する国または公共団体に対して国家賠償法に基づく賠償を求めることができる。
ポイント整理
- ・公務員(公権力の行使に当たる者)による行為であること
- ・その行為が不法行為(違法かつ故意または過失があること)であること
- ・損害が発生したこと
- ・不法行為と損害の間に因果関係があること
効果
- ・国または公共団体が損害賠償責任を負う
- ・公務員個人は原則として被害者に直接賠償責任を負わない
条文(第17条条)
第17条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
重要メモ
- ・「17条:公務員の不法行為による損害は国・公共団体に賠償請求できる・国家賠償法1条(公権力行使)と2条(営造物管理)が根拠法」
- ・国家賠償請求権(17条):公務員の不法行為により損害を受けた者は国または公共団体に賠償請求できる
- ・具体化した法律:国家賠償法(1条:公権力の行使・2条:営造物の設置・管理に関する賠償責任)
- ・「法律の定めるところにより」——法律で制限が認められているが、制度の核心部分を廃止・否定することは不可
- ・外国人への適用:相互保証がある場合に限り外国人も国家賠償請求可(国家賠償法6条)
裁判を受ける権利
第32条条簡単にいうと
簡単にいうと、裁判を受ける権利(32条)はすべての法的紛争について裁判所に救済を求めることができる権利です。統治行為論・部分社会の法理による例外がポイントです。
■ 裁判を受ける権利の意義
裁判を受ける権利とは、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないことを保障するものであり(憲法32条)、司法救済の基本権として位置づけられます。この権利は、あらゆる法的紛争について裁判所に救済を求めることができることを意味し、立法・行政によって裁判所への訴訟提起を一切不可能にすることは許されません。
■ 例外(判例上認められるもの)
ただし、すべての事件について必ず裁判所が審査するわけではなく、いくつかの例外が判例上認められています。第一に、統治行為(高度に政治的な問題)については、法的判断が可能であっても司法審査の対象から除外される場合があります(苫米地事件・最大判昭35.6.8)。第二に、部分社会の法理として、自律的な法規範を持つ社会または団体の内部問題については、一般市民法秩序に直接関係しない限り、司法審査の対象にならない場合があります(富山大学事件・最判昭52.3.15)。
32条は民事・刑事・行政すべての裁判に及ぶと解されており、行政処分に対して裁判所への訴えを全面的に禁止することは許されません。また、32条により保障される「裁判」は正当な構成の裁判所による裁判でなければなりません。
具体例
ある行政処分を受けた市民が「この処分は違法だ」と主張して取消訴訟を提起することは、裁判を受ける権利の典型的な行使である。行政側が「この問題は司法審査の対象外だ」と主張しても、一般市民生活に関係する問題については裁判所は審査する義務がある。

憲法39条:刑罰法規の不遡及・二重処罰の禁止
条文(第32条条)
第32条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
重要メモ
- ・「32条:何人も裁判所で裁判を受ける権利を奪われない・行政事件(裁判所のみが最終的に判断)・行政審判前置主義も合憲」
- ・裁判を受ける権利(32条):何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われない
- ・「裁判所」:司法権を行使する機関としての裁判所——特別裁判所(行政裁判所等)で代替させることは不可
- ・行政審判前置主義:審査請求等を経た後でなければ訴訟提起できない制度——合憲(最大判昭26.4.4)
- ・判決を受ける権利には、迅速な裁判を受ける権利も含まれる(37条1項準用)
刑事補償請求権
第40条条簡単にいうと
簡単にいうと、刑事補償請求権は無罪確定後に国へ補償を求める権利であり、違法性や過失を問わずに補償が認められます。在宅起訴の場合は対象外となる点に注意が必要です。
■ 刑事補償請求権の意義
刑事補償請求権とは、刑事手続において抑留または拘禁された後に無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより国に補償を求めることができる権利をいいます(憲法40条)。これを具体化した法律が刑事補償法です。
■ 無過失補償としての性格
刑事補償請求権の特徴は、国家の行為が「違法」かどうかを問わずに補償を認める点にあります。つまり、手続上は適法に逮捕・拘禁が行われたとしても、最終的に無罪となった場合には補償が認められます。これは国家賠償請求権(17条)が違法行為を前提とするのとは異なる、無過失補償の性格を持っています。
■ 「抑留又は拘禁された後」という要件
40条の「抑留又は拘禁された後」という文言から、在宅起訴(逮捕・拘禁なしに起訴された場合)については補償の対象外となる点に注意が必要です。補償の対象となるのはあくまで「抑留・拘禁」があった場合に限られます。なお、被告人が有罪となるような行為を自ら行っていた場合でも、最終的に無罪判決が確定すれば補償の対象となりえます。補償額は刑事補償法の規定により算定されます。
具体例
Aさんが窃盗の疑いで逮捕・拘留され3ヶ月間拘禁されたが、その後証拠不十分で無罪判決が確定した場合、Aさんは刑事補償請求権に基づいて国に補償を請求することができる。逆に、在宅起訴されて無罪になった場合は40条の補償対象にはならない。
ポイント整理
- ・刑事手続において抑留または拘禁されたこと
- ・その後無罪の裁判を受けたこと
効果
- ・法律(刑事補償法)の定めるところにより国に補償を請求できる
- ・国の行為の違法性・過失の有無を問わず補償が認められる(無過失補償)
条文(第40条条)
第40条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
重要メモ
- ・「40条:抑留・拘禁された後に無罪判決を受けた者は国に補償請求できる・冤罪被害者への救済」
- ・刑事補償請求権(40条):抑留または拘禁された後に無罪の裁判を受けた者は国に補償を求めることができる
- ・具体化した法律:刑事補償法(補償額等を規定)
- ・無罪判決が確定した後に請求可——有罪から減刑された場合は40条の対象外
- ・刑事補償は賠償ではなく「補償」——違法性・故意過失は要件でない(国家賠償請求権と異なる)
まとめ
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