第5節 法の下の平等
第2章 人権
憲法14条が保障する法の下の平等を扱います。14条はあらゆる区別を禁じているのではなく、合理的な理由のない区別だけを禁止しています。どの区別が違憲とされ、どの区別が合憲とされたのかを判例で確認したうえで、投票価値の平等と貴族制度の否認まで見ていきます。
法の下の平等(14条1項)
憲法14条1項簡単にいうと
14条は、あらゆる区別を禁じているのではありません。合理的な理由のない区別だけを禁止しています。
「法の下に」の意味
14条1項の「法の下に」には2つの意味があります。ひとつは法適用の平等で、できあがった法律を執行機関や裁判所が平等に適用することを求めます。もうひとつは法内容の平等で、法律の中身そのものが平等でなければならないことを求めます。法適用の平等だけだと、不平等な法律を全員に平等に適用すれば足りることになってしまいます。それでは意味がないため、法内容の平等まで含むと解されています。
「平等」の意味
ここでいう平等は、すべてを機械的に同じ扱いにする絶対的平等ではありません。合理的な理由のある区別は許され、不合理な差別だけが禁止されます。これを相対的平等といいます。所得が高い人ほど高い税率が適用される累進課税が違憲にならないのは、担税力に応じた合理的な区別だからです。絶対的平等だとすれば、全員から同額の税を取ることになってしまいます。
後段の列挙事由は例示
14条1項後段は、人種・信条・性別・社会的身分・門地を挙げています。これは例示であって、限定列挙ではありません。ここに挙がっていない事由による区別であっても、不合理であれば14条に違反します。逆に、列挙された事由による区別であっても、合理的であれば違憲にはなりません。
間違えやすいところ
違憲とされた判例の多くは、区別すること自体ではなく、区別の程度が目的との関係で行き過ぎている点を問題にしています。次のテーマで扱う尊属殺重罰規定違憲判決がその典型です。
具体例
所得税で、所得の多いAに高い税率、所得の少ないBに低い税率が適用されたとします。同じ扱いではありませんが、負担能力に応じた合理的な区別なので、14条1項に違反しません。

法の下の平等(憲法14条1項)
ポイント整理
- ・国民の間に区別・別異の取扱いがあること
- ・その区別に合理的な根拠がないこと
効果
- ・不合理な区別を定める法律は14条1項に違反し無効となる
- ・合理的な区別であれば、列挙事由によるものでも違憲とならない
条文(憲法14条1項)
第14条第1項 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
重要メモ
- ・禁止されるのは不合理な差別だけで、合理的な区別は許される(相対的平等)
- ・「法の下に」は法適用の平等と法内容の平等の両方を意味する
- ・後段の列挙事由(人種・信条・性別・社会的身分・門地)は例示であって限定列挙ではない
- ・列挙されていない事由による区別でも、不合理なら14条違反となる
- ・絶対的平等ではないので、累進課税のような区別は違憲にならない
平等をめぐる違憲判例
憲法14条1項簡単にいうと
平等をめぐっては、法令そのものが違憲とされた例がいくつもあります。何が違憲とされ、何が合憲とされたかを対にして押さえます。
尊属殺重罰規定違憲判決
旧刑法200条は、尊属を殺害した場合の法定刑を死刑または無期懲役に限っていました。最高裁は、尊属に対する尊重報恩という立法目的自体は不合理ではないとしながら、法定刑が死刑と無期懲役しかなく、どれだけ酌むべき事情があっても執行猶予を付けられない点で、目的を達成する手段として著しく均衡を欠くとして14条1項に違反するとしました(最大判昭48.4.4)。目的は合憲で手段が違憲、という構造がこの判決の読みどころです。日本で初めての法令違憲判決でもあります。
非嫡出子相続分違憲決定
民法900条4号ただし書は、嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1としていました。最高裁は、立法府の裁量を考慮しても、この区別に合理的な根拠は失われていたとして違憲としました(最大決平25.9.4)。子にとって自分で選びようのない事情を理由に不利益を与える点が問題とされています。
再婚禁止期間違憲判決
民法は女性についてのみ6か月の再婚禁止期間を定めていました。最高裁は、父性の推定の重複を避けるという目的自体は正当としたうえで、100日を超える部分については合理性を欠くとして違憲としました(最大判平27.12.16)。この規定はその後に改正されています。
国籍法3条1項違憲判決
国籍法3条1項は、日本人の父から生後に認知された子について、父母の婚姻を日本国籍取得の条件としていました。最高裁は、生後認知された非嫡出子のみが著しい差別的取扱いを受けるとして、合理性を欠いた過剰な要件であり14条1項に違反するとしました(最大判平20.6.4)。
合憲とされた例
同じ日に出された夫婦同氏制についての判断では、夫婦が同じ氏を称すると定める民法の規定は14条1項に違反しないとされました(最大判平27.12.16)。違憲判例と並べて出題されるので、こちらの結論も合わせて確認します。
具体例
Aが嫡出子、Bが非嫡出子で、同じ親の相続が発生したとします。かつての民法ではBの相続分はAの2分の1でしたが、この区別は、子にとって選びようのない事情による不利益として違憲とされました(最大決平25.9.4)。

平等をめぐる違憲判例(目的と手段)
ポイント整理
- ・区別の立法目的に正当性があるか
- ・目的を達成する手段として、区別の程度が均衡を失っていないか
効果
- ・違憲とされた法令の規定は効力を失い、国会は改廃を迫られる
- ・相続分や国籍取得などの法律関係に直接の影響が生じる
重要メモ
- ・尊属殺は立法目的が合憲で手段が違憲。目的まで違憲とした判断ではない
- ・尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭48.4.4)は日本で初の法令違憲判決
- ・非嫡出子相続分違憲決定(最大決平25.9.4):民法900条4号ただし書は違憲
- ・再婚禁止期間(最大判平27.12.16):100日を超える部分のみ違憲。全部ではない
- ・夫婦同氏制は同じ日の判決で合憲(最大判平27.12.16)
一票の格差
憲法14条1項・15条簡単にいうと
同じ一票でも、選挙区によって重みが変わってしまう問題です。違憲状態と違憲を区別できるかが問われます。
選挙権の性格
憲法15条1項は公務員の選定罷免権を国民固有の権利として保障しています。選挙権は国民主権を実現するための参政権であり、外国人や法人には認められません。
財産や収入によって選挙権に差を設けない普通選挙も保障されています(15条3項)。
一票の格差とは
選挙区ごとの議員1人あたりの有権者数に差があると、有権者の少ない選挙区の一票が重く、多い選挙区の一票が軽くなります。これが一票の格差です。14条の法の下の平等から、投票価値の平等も要請されると考えられています。
違憲状態と違憲の違い
判例は2段階で判断します。
・違憲状態:格差が投票価値の平等に反する程度に達している状態。ただし、国会が是正するための合理的期間がまだ経過していない段階です。 ・違憲:違憲状態のまま合理的期間内に是正されなかった場合。ここではじめて定数配分規定が違憲となります。
事情判決の法理
定数配分規定が違憲とされても、選挙自体を無効にすると、その選挙で選ばれた議員が関与した立法まで揺らぎ、かえって混乱が生じます。そこで最高裁は、違憲であることを判決主文で宣言しつつ選挙は無効としない、という処理をしています(衆議院議員定数不均衡訴訟・最大判昭51.4.14)。
衆議院と参議院の違い
参議院は都道府県を単位とする選挙区制をとってきた経緯があり、衆議院より広い格差が許容される傾向にあります。
具体例
A選挙区の有権者が10万人、B選挙区の有権者が40万人で、どちらからも議員が1人選ばれるとします。このときA選挙区の有権者の一票は、B選挙区の有権者の4倍の重みを持つことになります。これが「1対4の格差」です。格差が大きくなりすぎると投票価値の平等に反しますが、直ちに選挙が無効になるわけではなく、まず違憲状態と判断され、合理的期間内に是正されなければ違憲となります。

一票の格差(投票価値の平等)
重要メモ
- ・違憲状態と違憲の違いは、合理的期間内に是正されたかどうかで決まる
- ・14条1項は投票価値の平等まで要求する(衆議院議員定数不均衡訴訟・最大判昭51.4.14)
- ・合理性を欠き、かつ合理的期間内に是正されない場合にはじめて違憲となる
- ・違憲とされても事情判決の法理により選挙自体は無効とされない
- ・参議院は都道府県単位の選挙区制の経緯から、衆議院より広い格差が許容される傾向にある
貴族制度の否認・栄典の限界
簡単にいうと
生まれによる特権を認めない、という14条の徹底です。戦前の華族制度を廃止したことがこの規定の出発点です。
貴族制度の禁止(14条2項)
憲法14条2項は「華族その他の貴族の制度は、これを認めない」と規定します。
戦前の日本には公・侯・伯・子・男の爵位を持つ華族という身分があり、貴族院の議員になれるなどの特権が世襲されていました。生まれによって政治的地位が決まる仕組みは法の下の平等と相いれないため、日本国憲法はこれを廃止しました。
栄典の限界(14条3項)
憲法14条3項は「栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する」と規定します。
ポイントは2つあります。
・栄典に特権を伴わせてはならない:勲章を受けたからといって、税を免除したり刑を軽くしたりすることはできません。 ・効力は一代限り:受けた本人限りで、子孫に引き継がせることはできません。
間違えやすいところ
禁止されているのは栄典に特権を伴わせることであって、栄典の授与そのものではありません。現在も勲章・褒章は授与されています。天皇が栄典を授与することは国事行為として明文で認められています(7条7号)。
具体例
国が「文化勲章の受章者には終身年金を支給する」という制度を設けたとします。年金という経済的な優遇は栄典に伴う特権にあたるため、14条3項に反することになります。さらに、その年金を受章者の子が引き継げるとすれば、一代限りという要請にも反します。栄典を与えること自体は問題ないけれども、そこに特権をぶら下げてはいけない、というのがこの条文です。
重要メモ
- ・栄典の授与は可、特権を伴わせるのは不可、というのがポイント
- ・貴族制度の禁止(14条2項):華族その他の貴族の制度は認めない
- ・栄典の限界(14条3項):栄典にいかなる特権も伴わない
- ・栄典の効力は一代限り。子孫に引き継がせることはできない
- ・勲章・褒章の授与自体は現在も行われている。天皇の国事行為として明文がある(7条7号)
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