第3節 人権の限界
第2章 人権
人権は無制限ではありません。他者の人権との衝突や公共の福祉による調整が必要となります。この節では、人権がどのような原理で制約されるのか、そして制約が許される限界はどこにあるのかを学びます。また、憲法の人権規定が私人間(国家ではなく個人と個人の関係)にどう及ぶかという「間接適用」の問題も重要論点です。試験では具体的事例における人権制約の合憲性判断が頻出です。
公共の福祉による人権の内在的制約
第12, 13条公共の福祉とは、人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理です。すべての人権は内在的制約として公共の福祉による制約を受けます。憲法12条・13条が明示しています。通説である一元的内在制約説は、すべての人権が等しく公共の福祉による制約を受けるとしつつ、精神的自由権と経済的自由権では審査の厳格度が異なるとします(二重の基準論)。
具体例
Aさんは自宅で深夜に大音量で音楽を聴く自由がありますが、隣人Bさんの静穏な生活を送る権利と衝突します。騒音規制法により深夜の大音量が制限されるのは、両者の人権を調整する公共の福祉による制約です。
要件
- ・人権相互の矛盾・衝突が存在すること
- ・制約が必要最小限度であること
- ・制約の目的が正当であること
効果・結論
- ・人権は絶対無制約ではなく、調整原理が働く
- ・制約の合憲性は比較衡量や厳格な基準で審査される
条文(第12, 13条)
第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。 第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
試験のポイント
- ・一元的内在制約説が通説・判例であり、すべての人権が公共の福祉による制約を受けることを理解する
- ・精神的自由権の制約には厳格な審査基準(明白かつ現在の危険、LRAの基準等)が適用される
- ・経済的自由権は目的により審査基準が異なる:消極目的規制には厳格な合理性の基準(薬局距離制限事件)、積極目的規制には明白性の原則(小売市場事件)
法人の人権享有主体性
法人も、その性質上可能な限り人権の享有主体となります。八幡製鉄政治献金事件は法人の政治的行為の自由を認め、南九州税理士会事件は法人内部の構成員の人権保護も図りました。
具体例
X株式会社が政党に政治献金をしたところ、株主Aさんが「会社は営利目的の存在で政治活動すべきでない」と訴えました。最高裁は会社も社会的実在として政治的行為の自由を有すると判示しました(八幡製鉄事件)。
要件
- ・法人が権利の性質上享有可能であること
- ・自然人と同様の保護の必要性があること
効果・結論
- ・法人も表現の自由、財産権等を享有する
- ・参政権など性質上不可能な権利は享有できない
試験のポイント
- ・八幡製鉄事件:法人も政治的行為の自由を有するが定款所定の目的範囲内に限る
- ・南九州税理士会事件:強制加入団体が構成員の思想信条に関わる政治献金を決議することは違法
- ・三菱樹脂事件:私人間の人権問題として、企業の採用の自由と労働者の思想信条の自由の調整
外国人の人権享有主体性
外国人も、権利の性質上可能な限り人権を享有します。マクリーン事件(最大判昭和53年)は、外国人への人権保障を認めつつも在留の権利は含まれないとし、在留更新の許否は法務大臣の広範な裁量に委ねられるとしました。参政権など国民主権原理に由来する権利は享有できません。
具体例
米国人Aさんは日本で在留期限更新を申請しましたが、政治活動を理由に不許可となりました。最高裁は、外国人にも基本的人権の保障は及ぶが在留の権利は保障されず、更新の許否は法務大臣の広範な裁量に委ねられると判示しました(マクリーン事件)。
要件
- ・権利の性質上、外国人にも保障が及ぶこと
- ・国民主権原理と矛盾しないこと
効果・結論
- ・精神的自由権、人身の自由等は原則として保障される
- ・参政権、入国の自由、在留の権利は保障されない
- ・社会権は立法政策により部分的に保障
試験のポイント
- ・マクリーン事件:在留更新の許否は法務大臣の広範な裁量に委ねられており、政治活動を考慮した更新拒否も裁量権の逸脱にあたらない
- ・在外選挙権制限事件:在外国民の選挙権制限は違憲とされ、国民の参政権は最大限尊重されるべきとした
- ・外国人の地方参政権は憲法上保障されないが、法律で付与することは禁止されない(傍論)
私人間における人権保障(間接適用)
憲法の人権規定は本来、国家権力から個人を守るためのものであり、私人(個人・企業)どうしの関係を直接規律するものではありません。これを間接適用説といい、判例の立場です。具体的には、民法90条(公序良俗違反)や不法行為規定などの一般条項を解釈する際に憲法の趣旨を読み込むことで、私人間にも人権保障の精神が及ぶとされます。直接適用すると私的自治の原則(個人が自由に契約・行動できる自由)が過度に制約されるため、間接的な方法が採られています。
具体例
A会社が採用試験でBさんの学生時代の政治活動を理由に本採用を拒否しました。Bさんは思想信条の自由侵害と主張しましたが、最高裁は憲法の人権規定は国家対個人の問題であり、企業と個人という私人間には直接適用されないと判断しました(三菱樹脂事件)。ただし民法の公序良俗規定等を通じて、著しく不合理な差別的取扱いは違法となりえます(日産自動車事件の考え方)。
要件
- ・私人間の法律関係であること
- ・人権保障の趣旨を及ぼす必要性があること
- ・私的自治の原則との調整が必要であること
効果・結論
- ・憲法の人権規定は私人間に直接適用されない(間接適用説・判例)
- ・民法90条(公序良俗)、不法行為等の一般条項を通じて間接的に人権の趣旨が及ぶ
- ・企業の採用の自由・契約自由と労働者の人権が調整される
試験のポイント
- ・三菱樹脂事件:憲法の人権規定の私人間への直接適用を否定し、間接適用説を採用した判例。企業の採用の自由を広く認めた
- ・日産自動車事件:男女で定年年齢を異なるものとする就業規則は公序良俗(民法90条)に違反し無効とされた。間接適用説の実践例として重要(登録外判例のため関連判例欄には含まれないが試験頻出)
- ・昭和女子大学事件:大学が学生の政治活動を理由に退学処分とした事件。部分社会の法理により大学の自律的判断が尊重された
- ・直接適用説・間接適用説・無適用説の三説の違いを整理しておく
まとめ
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