第2節 人権享有主体
第2章 人権
憲法が保障する人権は、誰がどのような範囲で享有できるのでしょうか。この節では、人権の享有主体性について学びます。外国人、法人、未成年者、在監者など、様々な主体が人権をどこまで主張できるかは、試験で最も狙われる論点の一つです。判例の立場を正確に理解することが合格への近道となります。
天皇・皇族の人権
第1, 14条天皇・皇族は、その特殊な地位により、一般国民と異なる法的扱いを受けます。日本国憲法は国民主権を採用しており、天皇は日本国及び日本国民統合の象徴と位置づけられています。この象徴的地位ゆえに、天皇・皇族の人権享有には一定の制約があると解されています。
具体例
天皇が選挙で特定候補を応援したり、皇族が政治活動を行うことは認められません。また、皇族は戸籍を持たず皇統譜に登録され、結婚の自由や職業選択の自由にも制約があります。
要件
- ・象徴としての地位に基づく身分であること
- ・その地位の性質上、制約が必要不可欠であること
効果・結論
- ・参政権(選挙権・被選挙権)は認められない
- ・表現の自由、居住移転の自由、職業選択の自由などに制約を受ける
- ・婚姻の自由についても皇室会議の議を経る必要がある
条文(第1, 14条)
第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
試験のポイント
- ・天皇・皇族に人権が全くないわけではなく、その地位の性質上必要な範囲で制約されるという理解が重要
- ・国民主権と象徴天皇制の関係から、制約の正当性を説明できるようにする
外国人の人権
第3章(10条〜40条)条外国人の人権享有主体性については、憲法が「何人も」と規定する人権と「国民は」と規定する人権があります。判例はマクリーン事件(最大判昭和53年)で、権利の性質説を採用し、「権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人にも等しく及ぶ」としています。ただし同判決は、外国人の政治活動の自由は保障されるとしつつも、在留期間更新の許否は法務大臣の広範な裁量に委ねられており、政治活動を理由とした更新拒否も裁量権の逸脱にはあたらないと判示しています。
具体例
アメリカ国籍のAさんが日本で働いています。Aさんは表現の自由や職業選択の自由は保障されますが、国政選挙の選挙権は認められません。また在留期間更新の際、Aさんの政治活動を法務大臣が危険と判断した場合、それを理由に更新を不許可とすることも在留制度の裁量の範囲内とされます。
要件
- ・問題となる人権の性質を検討する
- ・その人権が「人間の権利」か「国民の権利」かを判断する
効果・結論
- ・参政権は原則として認められない(性質上日本国民のみが対象)
- ・社会権は限定的(生存権は判例上認められる方向、労働基本権は保障)
- ・入国の自由・再入国の自由は保障されない
- ・政治活動の自由は保障されるが、法務大臣の広範な裁量により在留更新で不利益を受けることがある
試験のポイント
- ・マクリーン事件の「権利の性質説」は最重要判例。政治活動の自由は保障されるが、在留更新拒否は法務大臣の裁量範囲内という二段構えの結論を正確に押さえる
- ・地方参政権については判例(最判平成7年)が「法律で付与することは憲法上禁止されていない」とする傍論に注意
- ・社会権のうち、生存権的な権利は在留外国人にも認められる傾向(塩見訴訟など)
- ・入国の自由と再入国の自由を混同しない。再入国の自由も原則として保障されない
法人の人権
第3章(10条〜40条)条法人も人権享有主体となりうるかが問題となります。判例は八幡製鉄政治献金事件(最大判昭和45年)において、性質説を採用し、「法人にも、性質上可能な限り、憲法の基本的人権の保障が及ぶ」としています。ただし、法人の人権は自然人と同等ではなく、その性質に応じた制約を受けます。またマクリーン事件と同様に性質説が採用されており、法人の人権保障の根拠として両判例は一体的に理解することが重要です。
具体例
株式会社B商事が政党に政治献金を行いました。会社が表現の自由を持つかが争われましたが、判例は会社も政治的行為をする自由を持つとしました。一方、会社には選挙権や生存権のような、人間固有の権利は認められません。また、税理士会が構成員に政治献金を強制することは、構成員の思想・信条の自由を侵害するとして許されません。
要件
- ・問題となる人権が法人の性質上享有可能か
- ・自然人を前提とする権利でないか
効果・結論
- ・財産権、経済活動の自由は当然に保障される
- ・表現の自由、政治献金の自由も認められる(八幡製鉄事件)
- ・参政権、人身の自由、社会権など自然人固有の権利は認められない
- ・法人が構成員の意思に反して政治活動への協力を強制することは許されない(南九州税理士会事件)
試験のポイント
- ・八幡製鉄政治献金事件は必須判例。会社の政治献金が憲法上の権利として認められた点を押さえる
- ・法人の人権は「性質上可能な限り」という限定がつく点に注意
- ・南九州税理士会事件:法人(税理士会)が構成員に政治献金を強制することは、構成員個人の思想・信条の自由を侵害するとして許されないとされた判例。宗教法人の信教の自由とは別論点
- ・法人の人権と、構成員個人の人権を区別する視点が重要
未成年者の人権
第13, 26条未成年者も人権享有主体ですが、精神的・肉体的に未成熟な特性から、本人保護(パターナリズム)の観点で成人とは異なる取扱いが認められます。校則・飲酒禁止・喫煙禁止など、未成年者の健全な発育を目的とした制約は合憲とされています。ただし、未成年者にも人格権は当然に認められます。
具体例
中学生のCさんは校則で髪型を規制されています。また、選挙権も18歳未満は認められません。一方で、Cさんには信教の自由や表現の自由があり、完全に親の言いなりになる必要はありません。ただし親の親権に基づく一定の制約は受けます。
要件
- ・未成年者の心身の発達段階を考慮する
- ・親権者の保護教育権との調整を図る
効果・結論
- ・精神的自由は原則として保障されるが、保護の観点からパターナリスティックな制約が許容される
- ・選挙権は18歳未満には認められない(公職選挙法)
- ・飲酒・喫煙の禁止など、本人保護のための制約は合憲
- ・親権者の懲戒権による制約も一定範囲で許容される
条文(第13, 26条)
第26条第2項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
試験のポイント
- ・未成年者の人権制約は「保護(パターナリズム)」の観点から正当化される点が重要
- ・校則による制約が問題となる場合、教育目的との合理的関連性を検討
- ・選挙権年齢の引き下げ(18歳)は平成27年改正。20歳との混同注意
- ・親の宗教教育と子の信教の自由の衝突問題も押さえる
在監者の人権
第18, 21, 31条在監者(受刑者・未決拘禁者など刑事施設に収容されている者)も人権享有主体ですが、拘禁という特殊な法律関係から、その目的達成に必要な限度で人権が制約されます。かつては「特別権力関係論」によって在監者の人権制約を広く認める考え方がありましたが、現在は目的・必要性・合理性の観点から個別に制約の正当性を判断するのが通説・判例の立場です。
具体例
刑事施設に収容されているDさんは、外部との手紙のやり取りを制限されています。また、居住移転の自由は当然に制約されます。一方で、Dさんの内心の自由(信仰・思想)や学習する権利は認められており、施設側が合理的理由なく読書を禁止したりすることはできません。新聞の閲読を制限するためには、施設の規律・秩序の維持のために真に必要な場合に限られます。
要件
- ・拘禁の目的(逃亡防止・証拠隠滅防止・刑の執行)に照らして必要な制約であること
- ・制約の程度が拘禁目的達成に必要な限度にとどまること
効果・結論
- ・拘禁の目的(逃亡防止・証拠隠滅防止・刑の執行)に必要な限度で人権が制約される
- ・表現の自由・通信の自由・居住移転の自由は施設管理上の制約を受ける
- ・信教の自由・学習の自由など内心に関わる権利は最大限保障される
- ・選挙権は受刑者には認められない(公職選挙法11条)が、未決拘禁者については争いがある
条文(第18, 21, 31条)
第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
試験のポイント
- ・「特別権力関係論」は現在は否定され、拘禁の目的・必要性・合理性から個別に判断する点が重要
- ・よど号ハイジャック新聞抹消事件:未決拘禁者の新聞閲読の自由は保障されるが、施設の規律・秩序維持のために真に必要な場合は制約できるとされた
- ・受刑者の選挙権は公職選挙法11条により制限されているが、未決拘禁者の選挙権制限は別途検討が必要
- ・在監者の人権制約は「拘禁目的に必要な限度」という基準で考える
国・公共団体の人権享有主体性
第3章(10条〜40条)条国や地方公共団体が人権享有主体となるかについては、判例は否定しています。人権とは本来、国家権力から個人を守るための権利であり、国家自身が人権の主体となることは論理矛盾だからです。ただし、国や地方公共団体も私人と対等な立場で行動する場合(私経済作用)には、一定の権利主張が可能とされます。
具体例
A県が県有地を不法占拠されたため、所有権に基づいて明渡しを求めました。この場合、県は私人と同じ立場で財産権を主張できます。しかし、県が「表現の自由を侵害された」として国を訴えることはできません。
要件
- ・問題となる権利主張が統治作用に関するものか私経済作用に関するものか
- ・国民の人権保障という憲法の趣旨に反しないか
効果・結論
- ・国・公共団体は原則として人権享有主体とならない
- ・財産権など私法上の権利は主張できる
- ・精神的自由や参政権などの主張は認められない
試験のポイント
- ・「人権とは国家からの自由」という基本原理から理解する
- ・国公立大学の学問の自由など、特殊なケースでの例外的取扱いに注意
- ・国や地方公共団体の財産権主張は「人権」としてではなく「私法上の権利」として認められる点を区別
まとめ
関連判例
マクリーン事件
日本に在留するアメリカ人が、在留期間中に行った反戦デモなどの政治活動を理由に在留期間の更新を拒否された事件。最高裁は「憲法の人権規定は、権利の性質上日本国民のみを対象としているものを除き、外国人にも等しく及ぶ」という権利の性質説を採用した。表現の自由や政治活動の自由そのものは外国人にも保障されると認めつつも、在留期間の更新を認めるかどうかは法務大臣の広範な裁量に委ねられているため、政治活動を考慮して更新を拒否しても裁量権の逸脱にはあたらないと判断した。「権利は保障される、でも在留は別の話」という二段構えの結論が試験で最もよく狙われる。
よど号ハイジャック新聞抹消事件
最大判昭58.6.22未決拘禁者(まだ刑が確定していない、裁判待ちの被疑者・被告人)が、拘置所内で購読していた新聞の一部を刑務所側に墨で塗りつぶされたことが表現の自由・知る権利の侵害にあたるかが争われた事件。最高裁は、新聞を読む自由は憲法21条のもとで保障されると認めた。ただし、拘禁という特殊な環境において施設の規律や秩序の維持のために真に必要と認められる限度であれば、制約することも許されるとした。在監者の人権はゼロではなく、制約には「真に必要な範囲」という歯止めがある点が重要。
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