第2節 人権享有主体
第2章 人権
憲法が保障する人権を、誰がどこまで主張できるのかを見ていきます。外国人・法人・公務員・在監者は、それぞれ違う理由で一般の国民とは異なる扱いを受けます。どの権利が保障され、どの権利が保障されないのか、判例がどんな理由でそう判断したのかを対にして確認します。
外国人の人権
憲法15条1項・22条簡単にいうと
外国人にも、権利の性質に応じて人権は保障されます。ただし入国や在留については国の裁量が広く認められます。
保障されるかどうかは権利の性質で決まる
憲法が保障する人権は、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、外国人にも及びます(マクリーン事件・最大判昭53.10.4)。これを性質説といいます。外国人だからすべて保障されない、あるいは日本国民とまったく同じ、というどちらの考え方も判例は採っていません。権利ごとに、その性質が国民であることを前提にしているかを見ていきます。
出入国と在留
出国の自由は保障されます(最大判昭32.12.25)。これに対し、入国の自由は保障されません(最大判昭32.6.19)。誰を受け入れるかは国家が決めることだからです。一度出国した人が戻ってくる再入国の自由も、新たな入国と同じ扱いになるため保障されません(森川キャサリーン事件・最判平4.11.16)。在留を続ける権利も保障されず、在留期間を更新するかどうかは法務大臣の裁量に委ねられます。
マクリーン事件の読み方
マクリーン事件では、在留中にベトナム反戦デモに参加したことを理由に在留期間の更新が拒否されました。最高裁は、政治活動の自由は外国人の地位にかんがみ相当でないと認められるものを除いて保障されるとしながら、在留の権利は保障されないため、在留中の行為を消極的な事情として更新の判断材料にすることは許されるとしました。権利が保障されることと、その行使を理由に不利益を受けないこととは別だ、という構造がこの判例の読みどころです。
参政権・公務就任・社会権
選挙権は国民固有の権利(15条1項)なので、国政でも地方でも外国人には保障されません。ただし、法律をつくって永住者等に地方公共団体の選挙権を与えることは憲法上禁じられていない、というのが判例です(最判平7.2.28)。保障されないことと、与えてはいけないことは違います。公務就任権については、住民の権利義務を直接形成する公権力行使等地方公務員への就任を日本国民に限る措置は合憲とされました(東京都保健師管理職選考事件・最大判平17.1.26)。社会権は原則として国籍国が保障すべきものとされ、限られた財源のもとで自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許されます(塩見訴訟・最判平元.3.2)。
具体例
アメリカ人のマクリーンさんが在留期間中にベトナム戦争反対のデモに参加し、その後の在留期間更新を拒否されました。最高裁は、政治活動の自由自体は外国人にも保障されるとしつつ、在留の権利は保障されないため、在留期間中の行為を消極的な事情として更新拒否の判断材料にすることは国の裁量として許される、としました。権利が保障されることと、その行使を理由に不利益を受けないこととは別だ、という点がこの判例の勘所です。

外国人の人権(出入国と在留)
重要メモ
- ・権利の性質上、日本国民のみを対象とするかどうかで保障の有無が決まる(性質説)
- ・出国の自由は保障、入国・再入国の自由は保障されない(森川キャサリーン事件・最判平4.11.16)
- ・在留の権利は保障されず、更新の可否は法務大臣の裁量(マクリーン事件・最大判昭53.10.4)
- ・地方選挙権は保障されないが、法律で永住者等に与えることは禁じられていない(最判平7.2.28)
- ・公権力行使等地方公務員への就任を日本国民に限るのは合憲(最大判平17.1.26)
法人の人権
簡単にいうと
法人にも性質上可能な範囲で人権が保障されます。ただし加入が強制される団体では、会員に政治的な協力を強いることはできません。
法人の人権保障(性質説)
法人も、その性質上可能な限りにおいて憲法上の権利の保障を受けます(八幡製鉄政治献金事件・最大判昭45.6.24)。権利の性質上可能な限り、法人にも人権保障が及ぶというのが判例の立場です。
法人の政治活動の自由
会社は自然人と同様に政治活動の自由を持ちます(八幡製鉄政治献金事件・最大判昭45.6.24)。任意加入団体(株式会社)による政治献金は、社会的活動の一環として認められます。
強制加入団体の限界
強制加入団体(税理士会・弁護士会等)は、会員に特定の政治活動への協力を強制することができません。税理士会は強制加入団体であり、政治献金のための特別会費徴収決議は目的の範囲外として無効とされます(南九州税理士会事件・最判平8.3.19)。
公益的活動の許容
司法書士会による阪神淡路大震災被災司法書士会への支援寄付は目的の範囲内として許容されます(群馬司法書士会事件・最判平14.4.25)。整理すると、営利法人(会社)の政治献金は可、強制加入団体の政治献金は不可、公益目的の支出は可となります。
具体例
株式会社が特定の政党に政治献金をした事案では、会社にも自然人と同じく政治活動の自由があるとして、献金は会社の目的の範囲内とされました(八幡製鉄事件)。ところが税理士会が同じことをすると結論が変わります。税理士は登録しなければ業務ができず、税理士会は事実上加入が強制される団体です。そこで政治献金のための特別会費を徴収する決議は、思想信条の異なる会員に協力を強いるものとして目的の範囲外で無効とされました(南九州税理士会事件)。分かれ目は、その団体を抜ける自由があるかどうかです。

法人の人権(脱退の自由があるかで分かれる)
重要メモ
- ・加入が任意か強制かで政治献金の可否が分かれるのがポイント
- ・法人にも権利の性質上可能な限り人権保障が及ぶ(性質説)
- ・会社の政治献金は目的の範囲内で可(八幡製鉄政治献金事件・最大判昭45.6.24)
- ・強制加入団体の政治献金は目的の範囲外で無効(南九州税理士会事件・最判平8.3.19)
- ・強制加入団体でも公益目的の寄付は許容される(群馬司法書士会事件・最判平14.4.25)
公務員の人権
憲法15条2項簡単にいうと
公務員にも人権はありますが、全体の奉仕者という立場から、政治活動と争議行為に特別の制限がかかります。
なぜ公務員だけ制限されるのか
公務員も国民ですから、人権は当然に保障されます。ただし15条2項は公務員を全体の奉仕者と位置づけています。特定の政党や立場に肩入れしていると見られると、行政が公正に行われているという信頼が崩れます。そこで政治活動の自由と労働基本権について、一般の国民より広い制限が認められています。
政治活動の自由をめぐる2つの判決
国家公務員法は公務員の政治的行為を禁じています。この規定について最高裁は、処罰の対象となる政治的行為を、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが観念的なものにとどまらず現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものに限る、と読み込みました。
同じ日に出された2件の判決で結論が分かれています。管理職的地位になく、職務の内容や権限に裁量の余地のない職員が、休日に職務と関係なく政党機関紙を配布した行為は、処罰の対象となる政治的行為にあたらないとされました(堀越事件・最判平24.12.7)。これに対し、管理職的地位にあって指揮命令や職務配分に影響力を持つ職員の同様の行為は、政治的行為にあたるとされました(世田谷事件・最判平24.12.7)。禁止規定そのものが違憲とされたのではなく、どこまでが処罰の対象になるかを絞り込んだ判断である点に注意します。
争議行為の一律全面禁止
労働基本権についても、公務員の地位の特殊性と職務の公共性から、国民全体の共同利益の見地による制限が認められます。最高裁は、公務員の争議行為を一律全面的に禁止する国家公務員法の規定を28条に違反しないとしました(全農林警職法事件・最大判昭48.4.25)。
具体例
Aは管理職ではない一般職の国家公務員で、休日に職務とは無関係に政党の機関紙を配布しました。この場合、職務の政治的中立性を損なうおそれが現実的に生じるとはいえないため、処罰の対象となる政治的行為にはあたりません(堀越事件)。

公務員の「政治的行為」に該当するか
ポイント整理
- ・公務員の地位の特殊性と職務の公共性があること
- ・制限が国民全体の共同利益の見地から必要やむを得ない限度にとどまること
効果
- ・政治的行為の禁止規定は、中立性を損なうおそれが現実的な場合に限って適用される
- ・争議行為を一律全面的に禁止する規定も28条に違反しない
条文(憲法15条2項)
第15条第2項 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
重要メモ
- ・管理職的地位にあるかどうかで政治的行為の該当性が分かれる点に注意
- ・政治的行為とは、政治的中立性を損なうおそれが現実的に起こり得ると実質的に認められるもの
- ・堀越事件(最判平24.12.7):管理職的地位にない職員の機関紙配布はあたらない
- ・世田谷事件(最判平24.12.7):管理職的地位にある職員の同様の行為はあたる
- ・全農林警職法事件(最大判昭48.4.25):争議行為の一律全面禁止は28条に反しない
在監者の人権
憲法21条簡単にいうと
刑事施設に収容されている人にも人権はあります。制限が認められるのは、逃走を防ぎ施設の規律を守るために必要な範囲に限られます。
在監者にも人権はある
刑事施設に収容されている在監者にも人権は保障されます。ただし、逃走や罪証隠滅を防ぐという拘禁の目的と、施設内の規律や秩序を維持する必要から、一般の国民より広い制限が認められます。制限できるのは、この目的を達成するために必要な合理的範囲に限られます。
喫煙の禁止
未決拘禁者に喫煙を禁止した措置について、最高裁は、喫煙を許すと罪証隠滅や火災発生のおそれがあるとして、必要かつ合理的な制限であり合憲としました(喫煙禁止事件・最大判昭45.9.16)。
新聞・図書の閲読の制限
在監者にも、新聞や図書を読む自由は原則として保障されます。制限が許されるのは、閲読を許すことで施設内の規律や秩序が害される一般的・抽象的なおそれがあるだけでは足りず、障害が生じる相当の蓋然性があると認められる場合に限られます(よど号ハイジャック記事抹消事件・最大判昭58.6.22)。この相当の蓋然性という基準が出題の的になります。抽象的なおそれで足りると書かれた選択肢は誤りです。
具体例
刑事施設が、収容中のAが読もうとした新聞のハイジャック関連記事を墨で塗りつぶしたとします。これが許されるのは、その記事を読ませると施設の規律や秩序に障害が生じる相当の蓋然性がある場合に限られます(よど号ハイジャック記事抹消事件)。

在監者の閲読の自由と制限
ポイント整理
- ・拘禁の目的または施設内の規律・秩序の維持のために必要であること
- ・閲読の制限については、障害が生じる相当の蓋然性があると認められること
効果
- ・必要かつ合理的な範囲を超える制限は違憲・違法となる
- ・抽象的なおそれだけでは閲読の制限は正当化されない
重要メモ
- ・閲読の制限には相当の蓋然性が要る点に注意。抽象的なおそれでは足りない
- ・在監者にも人権は保障され、拘禁の目的と施設の規律維持に必要な範囲で制限される
- ・喫煙禁止事件(最大判昭45.9.16):未決拘禁者への喫煙禁止は必要かつ合理的で合憲
- ・よど号ハイジャック記事抹消事件(最大判昭58.6.22):閲読の自由は原則として保障される
- ・同判決は、規律や秩序に障害が生じる相当の蓋然性がある場合に限り制限を認めた
未成年者・天皇・皇族の人権
簡単にいうと
未成年者にも天皇・皇族にも人権はありますが、その地位や状況に応じた制限を受けます。制限の理由がそれぞれ違う点を見ます。
未成年者の人権
未成年者にも人権は保障されます。ただし、判断能力がまだ十分に育っていないことを考慮して、本人を守るための制限が認められます。飲酒や喫煙の禁止がその例です。他人の人権との調整ではなく本人の保護を理由とする制限なので、パターナリスティックな制約と呼ばれます。
天皇の人権
天皇も人権の享有主体ですが、日本国の象徴という地位(1条)から、一般国民とは異なる扱いを受けます。国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を持ちません(4条)。その職務の性質から、選挙権や被選挙権はありません。政治的な発言の自由も、象徴という地位と両立する範囲に限られます。
皇族の人権
皇族についても、皇位の世襲を支えるという地位の性質から、職業選択の自由や婚姻の自由などが皇室典範によって制限されています。
制限の理由が違う
未成年者の制限は本人を守るためのものです。天皇・皇族の制限は本人の保護ではなく、その地位の性質から導かれます。同じ人権の制限でも根拠が異なるので、入れ替えた形の出題に注意します。
具体例
未成年者に飲酒や喫煙が禁じられているのは、本人を害から守るためです。本人の保護が理由なので、判断能力の発達に応じた合理的な制限として許されます。これに対し、天皇に選挙権がないのは天皇を守るためではありません。天皇は国事行為のみを行い政治的権限を持たないという地位そのものから導かれる制限です。同じ「人権の制限」でも、理由がまったく違います。
重要メモ
- ・未成年者は本人の保護、天皇・皇族は地位の性質と、制限の理由が違う点に注意
- ・未成年者:人権は保障されるが、本人を守るための制限が認められる(パターナリスティックな制約)
- ・天皇:国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を持たない(4条)
- ・天皇には職務の性質上、選挙権・被選挙権がない
- ・皇族:職業選択の自由・婚姻の自由等が皇室典範により制限される
まとめ
関連判例
マクリーン事件
最大判昭53.10.4日本に在留するアメリカ人が、在留期間中に行った反戦デモなどの政治活動を理由に在留期間の更新を拒否された事件。最高裁は「憲法の人権規定は、権利の性質上日本国民のみを対象としているものを除き、外国人にも等しく及ぶ」という権利の性質説を採用した。表現の自由や政治活動の自由そのものは外国人にも保障されると認めつつも、在留期間の更新を認めるかどうかは法務大臣の広範な裁量に委ねられているため、政治活動を考慮して更新を拒否しても裁量権の逸脱にはあたらないと判断した。「権利は保障される、でも在留は別の話」という二段構えの結論が試験で最もよく狙われる。
よど号ハイジャック新聞抹消事件
最大判昭58.6.22未決拘禁者(まだ刑が確定していない、裁判待ちの被疑者・被告人)が、拘置所内で購読していた新聞の一部を刑務所側に墨で塗りつぶされたことが表現の自由・知る権利の侵害にあたるかが争われた事件。最高裁は、新聞を読む自由は憲法21条のもとで保障されると認めた。ただし、拘禁という特殊な環境において施設の規律や秩序の維持のために真に必要と認められる限度であれば、制約することも許されるとした。在監者の人権はゼロではなく、制約には「真に必要な範囲」という歯止めがある点が重要。
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