第1節 人権の分類
第2章 人権
憲法が保障する人権は、その性質や機能によって複数の類型に分類されます。この分類を理解することで、各人権の意義や制約の程度を体系的に把握でき、試験で問われる違憲審査基準や人権相互の調整問題に対応できるようになります。行政書士試験では、この分類を前提とした事例問題が頻出するため、確実にマスターしましょう。
自由権
第18, 19, 20, 21, 22, 23, 31条自由権とは、国家権力による介入・干渉を排除して、個人の自由な活動領域を保障する人権です。消極的権利とも呼ばれ、「国家からの自由」を意味します。精神的自由権、経済的自由権、人身の自由に分類され、近代市民革命によって確立された最も古典的な人権類型です。
具体例
Aさんは自分の思想を自由に持ち、新聞で政府批判の記事を読み、選挙で支持政党に投票しています。また、好きな職業を選んで働き、休日は自由に旅行しています。警察は令状なしにAさんを逮捕することはできません。このように国家の干渉を受けずに自由に生きる権利が自由権です。
要件
- ・国家権力による制約・介入がないこと
- ・個人の自律的な判断・行動の領域であること
効果・結論
- ・国家は個人の自由な領域に原則として介入できない
- ・制約には厳格な正当化理由が必要となる
試験のポイント
- ・自由権は「国家からの自由」であり、国家に何かを要求する権利ではない点に注意
- ・精神的自由(思想・表現の自由など)と経済的自由(職業選択の自由など)では違憲審査基準の厳格度が異なる
- ・社会権との対比で「消極的」権利であることを理解する
社会権
第25-28条社会権とは、国家に対して人間らしい生活の実現のための積極的な配慮や給付を求める権利です。積極的権利とも呼ばれ、「国家を通じての自由」を意味します。20世紀に入り、資本主義の発展に伴う貧困・格差問題を背景に、ワイマール憲法(1919年)などで認められるようになった現代的人権の代表例です。
具体例
Bさんは会社の倒産で失業し生活に困窮しています。憲法25条に基づき、Bさんは国に対して生活保護の給付を求めることができます。また、Bさんの子どもは義務教育を無償で受けられ、Bさん自身も労働組合を結成して労働条件の改善を求める権利があります。
要件
- ・国家に対する作為義務(給付・配慮)を求めるものであること
- ・人間らしい生活の実現を目的とすること
効果・結論
- ・国家は積極的に施策を講じる義務を負う
- ・具体的な給付内容は立法府の広い裁量に委ねられる(プログラム規定説が通説)
条文(第25-28条)
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 ② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
試験のポイント
- ・生存権の法的性格については、朝日訴訟(最大判昭42.5.24)・堀木訴訟(最大判昭57.7.7)が頻出。いずれも最高裁は立法裁量を広く認め違憲判断を回避しており、プログラム規定説(抽象的権利説)に近い立場をとっている
- ・自由権とは異なり、財政的裏付けが必要なため立法裁量が広く認められる
- ・生存権(25条)、教育を受ける権利(26条)、勤労権・労働基本権(27条・28条)の区別を正確に
参政権
第15, 44, 93, 95条参政権とは、国民が国の政治に参加する権利です。選挙権、被選挙権、最高裁判所裁判官の国民審査権、憲法改正の国民投票権、地方自治特別法の住民投票権などが含まれます。民主政治の根幹をなす権利であり、国民主権原理を具体化するものです。
具体例
Cさんは満18歳になったので、国政選挙で投票することができるようになりました。また、Cさんの住む市では市長や市議会議員を選ぶ選挙もあります。将来Cさん自身が立候補することも可能です。さらに最高裁判所の裁判官を辞めさせるべきか審査する投票にも参加できます。
要件
- ・国民であること(外国人には原則として保障されない)
- ・法律で定める年齢要件などを満たすこと
効果・結論
- ・国民が主権者として政治に参加できる
- ・代表民主制を通じて国民の意思が政治に反映される
条文(第15, 44, 93, 95条)
第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。 ② すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。 ③ 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。 ④ すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
試験のポイント
- ・参政権は「国民固有の権利」であり、外国人には保障されない(定住外国人の地方参政権は争点)
- ・選挙権の平等(一票の較差問題)は頻出論点。議員定数不均衡訴訟(最大判昭51.4.14ほか)では最高裁が違憲状態を認定しつつ事情判決の法理を適用した点を押さえる
- ・被選挙権に対する制限は合理的理由があれば許容される。選挙権の平等(一票の較差)とは別論点であることに注意
受益権
第16, 17, 32, 40条受益権(国務請求権)とは、国家に対して一定の行為を請求することにより、他の基本的人権を守り、実効性を確保するための権利です。人権保障を確実にする手段的権利としての性格を持ち、請願権、裁判を受ける権利、国家賠償請求権、刑事補償請求権などが含まれます。
具体例
Dさんは警察官から違法な職務質問を受けて怪我をしました。Dさんは国家賠償請求訴訟を裁判所に起こし、国に損害賠償を求めることができます。また、無実の罪で拘束された場合は、刑事補償を請求する権利もあります。さらに、国会や行政機関に対して意見や要望を文書で申し出る請願権(16条)も行使できます。
要件
- ・他の基本的人権が侵害された場合または侵害のおそれがある場合
- ・法律で定める手続に従うこと
効果・結論
- ・侵害された人権の救済を受けることができる
- ・国家の違法な行為に対する抑止効果がある
条文(第16, 17, 32, 40条)
第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
試験のポイント
- ・受益権は他の人権を守るための「手段的権利」であることを理解する
- ・国家賠償請求権(17条)と損失補償請求権(29条3項)の区別に注意
- ・裁判を受ける権利(32条)は、国家に対して裁判所への訴えを認めるよう求める受益権的性格を持ち、民事・刑事・行政事件を問わず保障される
包括的基本権(幸福追求権)
第13条幸福追求権(13条)は、個別の人権規定では保障されない新しい権利を包括的に保障する規定です。プライバシー権、自己決定権、肖像権など、社会の変化に応じて登場する現代的な人権の根拠となります。憲法制定時には予想されなかった人権を保障する「一般条項」としての役割を果たします。
具体例
Eさんは自分の過去の犯罪歴をインターネットで公開されました。憲法には「忘れられる権利」の明文規定はありませんが、13条の幸福追求権を根拠として、Eさんはプライバシー権の侵害を主張し、削除を求めることができます。このように新しい人権が13条から導かれます。
要件
- ・個別の人権規定では保障されない権利であること
- ・人格的生存に不可欠な権利であること
効果・結論
- ・新しい人権の憲法上の根拠となる
- ・ただし無制限ではなく「公共の福祉」による制約を受ける
条文(第13条)
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
試験のポイント
- ・13条の保護範囲について、①一切の自由を保障する一般的自由説と、②人格的生存に不可欠な権利に限定する人格的利益説が対立する。通説・判例は②に近い立場をとるため、すべての行為が13条で保障されるわけではない点に注意
- ・プライバシー権、自己決定権、環境権などの新しい人権の根拠条文として重要
- ・個別の人権規定がある場合は、まずそちらが優先適用される(13条は補充的)
まとめ
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