第2節 憲法の意味
第1章 総論
憲法という言葉には複数の意味があります。この節では、形式的意味・実質的意味・立憲的意味という3つの使い分けを確認したうえで、憲法が最高法規とされる理由と、日本国憲法を支える3つの原理を見ていきます。前文がどこまで裁判で使えるのかも、ここで扱います。
憲法とは
簡単にいうと
憲法は国家権力を縛るためのルールです。国民を縛る法律とは向きが逆だという点から入ります。
憲法の定義と立憲主義
憲法とは、国家権力を制限し、国民の人権を守るための最高法規です。
一般の法律が国民に向けたルールであるのに対し、憲法は国家(政府・行政)に向けたルールであり、国家が守らなければならない義務を定めたものです。この考え方を立憲主義といいます。日本国憲法は個人の尊重(13条)を基本原理としています。
なぜ向きが逆なのか
国家は警察力や課税権といった強大な力を持っています。その力を法で縛っておかなければ、少数者の権利は多数者の意思で簡単に押しつぶされてしまいます。だから憲法は、権力を持つ側に手かせをはめる形で書かれています。人権規定を読むときに「これは国家に対する制限だ」と意識すると、私人間効力の議論が理解しやすくなります。
憲法の3つの意味
・形式的意味の憲法:「憲法」という名前の成文の法典。日本国憲法はこれにあたります。 ・実質的意味の憲法:国家の統治の基本を定めたルール。成文・不成文を問いません。英国の不文憲法もこれにあたります。 ・立憲的意味の憲法:国家権力を制限し、国民の人権を保障するルールを指します。
日本国憲法の位置づけ
日本国憲法は、形式的意味の憲法であり、かつ立憲的意味の憲法でもあります。どのような原理がこの憲法を支えているかは、次のテーマで扱います。
具体例
英国には「憲法」という名前の法典がありません。しかしマグナ・カルタや権利章典など、国家の統治の基本を定めた文書や慣習が積み重なっています。ですから英国は、形式的意味の憲法は持たないけれども、実質的意味の憲法および立憲的意味の憲法は持っている、ということになります。「憲法典がない国には憲法がない」わけではない、という点がこの3分類の意味です。
重要メモ
- ・3つの意味を英国の例で区別できるかが問われる
- ・形式的意味の憲法:憲法という名前の成文の法典。日本国憲法はこれにあたる
- ・実質的意味の憲法:国家の統治の基本を定めたルール。成文・不成文を問わない
- ・立憲的意味の憲法:国家権力を制限し国民の人権を保障するルール
- ・憲法尊重擁護義務(99条)を負うのは公務員であって、一般国民は含まれない
憲法の最高法規性
簡単にいうと
憲法はすべての法令の頂点に立ちます。ここから違憲審査権や憲法尊重擁護義務の話がつながります。
最高法規性(98条1項)
憲法は国の最高法規であり(98条1項)、憲法に反する法律・命令・詔勅その他の国務に関する行為は、その効力を有しません。法律は憲法の下位に位置し、憲法に違反する法律を裁判所が違憲と判断することができます(違憲審査権)。
法の効力の序列
法の効力の序列は、憲法>条約>法律>政令>省令>条例の順になっています。上位の法規範に反する下位のものは効力を有しません。
違憲審査制(81条)
最高裁判所が法律等の憲法適合性を最終的に判断します(付随的審査制)。また、憲法前文には法規範性はありますが裁判規範性はなく、前文に基づいて直接裁判上の請求をすることはできません。
憲法尊重擁護義務(99条)
憲法尊重擁護義務は、天皇・摂政・国務大臣・国会議員・裁判官その他の公務員が負います。一般国民には課されていない点に注意してください。
具体例
国会が「特定の宗教団体には補助金を出す」という法律をつくったとします。この法律は憲法20条・89条の政教分離に反しますから、98条1項により効力を持ちません。ただし裁判所が自分から進んでその法律を審査することはできません。実際に補助金の支出をめぐる訴訟が起こされ、その事件を解決するために必要な範囲ではじめて憲法判断がされます。これが付随的審査制です。

憲法の最高法規性と違憲審査
重要メモ
- ・最高法規性と付随的審査制はセットで問われるのがポイント
- ・最高法規性(98条1項):憲法に反する法律・命令・詔勅等は効力を有しない
- ・法の効力の序列:憲法>条約>法律>政令>省令>条例
- ・違憲審査制(81条):最高裁が最終的に判断する。具体的事件を前提とする付随的審査制
- ・憲法尊重擁護義務(99条)は公務員が負う。一般国民には課されていない
憲法の基本原理と前文
憲法前文・96条簡単にいうと
日本国憲法を支えている柱は3本です。その柱は前文に書かれていて、前文自体も憲法の一部として扱われます。
三大原理
日本国憲法を支えているのは、①基本的人権の尊重、②国民主権、③平和主義の3つです。基本的人権の尊重は、人が生まれながらに持つ人権は国家によって侵されないという原理で、個人の尊重(13条)を出発点とします。国民主権は、国の政治を最終的に決定するのは国民であるという原理で、前文と1条に示されています。平和主義は、過去の戦争への反省に基づいて戦争の放棄を宣言するもので、9条に表れています。
国民主権と間接民主制
国民主権といっても、国民全員が直接政治を動かすわけではありません。日本国憲法は、国民が選挙で代表者を選び、その代表者を通じて政治を行う間接民主制を原則としています。直接民主制の仕組みは、憲法改正の国民投票(96条)、最高裁判所裁判官の国民審査(79条)、地方特別法の住民投票(95条)に限られます。
前文の法的性質
前文は憲法の一部です。したがって前文を変更するには、96条の憲法改正手続が必要になります。ここまでは争いがありません。問題になるのは、前文を根拠に裁判で権利を主張できるかです。通説は、前文に法規範性はあるが裁判規範性はないと考えます。つまり前文は憲法の解釈指針として働くけれども、前文を直接の根拠として訴えを起こすことはできません。
間違えやすいところ
前文には法規範性がない、と書かれた選択肢は誤りです。ないのは裁判規範性のほうです。この2つを入れ替えた出題が多いので、前文は「基準にはなるが、それ単独では裁判の武器にならない」と押さえます。
具体例
Aが、前文にある平和のうちに生存する権利を直接の根拠として国を訴えたとします。前文には裁判規範性がないため、前文だけを根拠に請求することはできません。

日本国憲法の三大原理
ポイント整理
- ・前文の変更には96条の憲法改正手続が必要であること
- ・裁判上の請求には、前文ではなく本文の条文を根拠とすること
効果
- ・前文は憲法の解釈指針として働く(法規範性あり)
- ・前文を直接の根拠とする裁判上の請求はできない(裁判規範性なし)
重要メモ
- ・前文に法規範性はあるが裁判規範性はない。この2つの入れ替えに注意
- ・三大原理は基本的人権の尊重・国民主権・平和主義の3つ
- ・日本国憲法は間接民主制が原則。直接民主制は96条・79条・95条の3つに限られる
- ・前文も憲法の一部なので、変更には96条の改正手続が必要
- ・国民主権は前文と1条に、平和主義は9条に表れている
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