第6節 差止め訴訟(抗告訴訟)
第4章 行政事件訴訟法
差止訴訟は、行政庁が一定の処分をしようとしている場合に、その処分がされることによって重大な損害を生ずるおそれがあるときに、あらかじめその処分の差止めを求める訴訟です。従来は取消訴訟で事後的救済しかできなかった問題に対し、平成16年改正で新設された事前救済の仕組みで、実務上極めて重要です。
差止め訴訟とは
簡単にいうと
義務付け訴訟のちょうど裏返しです。望まない処分を出させないようにするための訴訟になります。
義務付け訴訟が「自分の望む処分を出してもらう」ための訴訟だったのに対し、差止め訴訟は自分が望まない処分を出させないようにするための訴訟です(37条の4)。
産業廃棄物処理施設の設置許可処分がまだ出されていない段階で、それが出されると周辺住民にとって大きな問題になる、というような場面で使います。
原告適格(37条の4第3項)
行政庁が一定の処分をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき、法律上の利益を有する者に限り提起することができます。
要件(37条の4第1項)
一定の処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができます。ただし、その損害を避けるためほかに適当な方法がある場合は提起できません。
裁判所に求める内容は義務付け訴訟と真逆ですが、原告適格や要件はほぼ非申請型義務付け訴訟と同じです。セットで覚えると負担が減ります。
本案勝訴要件
差止め訴訟にも本案勝訴要件があります(37条の4第5項)。
①行政庁がその処分もしくは裁決をすべきでないことがその処分もしくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められる場合、または②行政庁がその処分もしくは裁決をすることが裁量権の範囲を超えもしくはその濫用となると認められる場合には、認容判決を出しなさいという規定です。
取消訴訟との違い
取消訴訟は処分が出たあとに争うものですが、差止め訴訟は処分が出る前に争うものです。出てしまってから取り消すのでは間に合わない場面を救うための訴訟にあたります。
具体例
A市に産業廃棄物処理施設の設置許可がまだ出されていない段階で、出されると重大な損害を受ける周辺住民Bは、差止め訴訟を提起できます。

差止め訴訟とは
重要メモ
- ・差止め訴訟は、処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り提起できる(37条の4第1項)
- ・損害を避けるためほかに適当な方法がある場合は提起できない
- ・原告適格は法律上の利益を有する者(37条の4第3項)
- ・求める内容は義務付け訴訟と真逆だが、原告適格や要件はほぼ非申請型義務付け訴訟と同じ
- ・本案勝訴要件(37条の4第5項):処分すべきでないことが根拠法令から明らかか、処分することが裁量権の範囲を超えもしくは濫用となると認められること
仮の差止め
簡単にいうと
差止め訴訟の審理中にも、処分が出されてしまうかもしれません。その間「とりあえず処分を出さないで」と求めるのが仮の差止めです。
差止め訴訟を提起しても、判決が出るまでには時間がかかります。そこで、差止め訴訟の審理中、とりあえず処分を出さないことを求めていくのが、仮の差止め制度になります(37条の5)。
【仮の差止めの要件(37条の5第2項)】 原則(37条の5第2項):①処分がされることにより生じる「償うことのできない損害」を避けるため「緊急の必要」があり、かつ、②本案について理由があるとみえるとき。 例外(37条の5第3項):公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、仮の差止めをすることができない。
仮の差止めの要件は、仮の義務付けとほぼ同一。

仮の差止め制度の要件と流れ
重要メモ
- ・仮の差止め(37条の5第2項)は差止め訴訟の審理中に暫定的に処分を止める制度で、償うことのできない損害回避の緊急の必要+本案について理由があるとみえること、が要件
- ・仮の差止め(37条の5第2項):差止め訴訟の本案判決確定前に、仮に一定の処分・裁決をしてはならない旨を命ずる暫定的措置
- ・積極的要件①:一定の処分・裁決がされることにより生ずる「償うことのできない損害」を避けるため「緊急の必要」があること(37条の5第2項)
- ・積極的要件②:本案について「理由があるとみえる」こと(37条の5第2項)
- ・消極的要件(例外):公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは仮の差止めをすることができない(37条の5第3項)
- ・内閣総理大臣の異議制度(27条)が仮の差止めにも準用される
- ・仮の義務付けとの比較:要件はほぼ同一(損害の程度・緊急の必要・本案の見通し・公共の福祉への影響)、方向性だけ逆
まとめ
関連判例
厚木基地訴訟
最判平28.12.8自衛隊機と米軍機で結論が異なる点を必ず対比して覚えること:自衛隊機→差止め訴訟は適法(重大な損害あり)だが本案で棄却、米軍機→差止め訴訟が不適法(却下) 米軍機が却下される理由は**「防衛大臣に米軍機の飛行を規制する権限がない」**こと。権限のない行為の差止めは求められない 差止め訴訟の「重大な損害を生ずるおそれ」(行訴法37条の4第1項)の解釈:取消訴訟・執行停止で容易に救済できない損害であることを要するとした最高裁の判断基準を押さえること 本案要件(行訴法37条の4第5項)の「裁量権の逸脱・濫用」は、防衛・外交分野では認められるハードルが非常に高く、「著しく不合理」でなければ差止めは認められない 注意:一・二審は差止めを認容していたが、最高裁で逆転棄却。「下級審と最高裁の結論が違う」という引っかけに注意
国歌起立斉唱行為の拒否
最判平23.5.30起立斉唱行為は慣例上の儀礼的な所作であり、教員の歴史観・世界観を否定することと不可分に結び付くものではない。思想・良心の自由への直接的制約ではない 思想・良心の自由への制約は間接的な制約にとどまるが、制約の存在自体は否定されていない(「間接的な制約となる面があることは否定しがたい」) 間接的制約の合憲性は、職務命令の目的及び内容と制約の態様等を総合的に較量して判断される。本件では必要性及び合理性が認められるとして合憲 憲法15条2項の「全体の奉仕者」としての公務員の地位の性質と職務の公共性が、職務命令への服従義務の根拠として重視されている 注意:「公務員だから思想・良心の自由は制限されて当然」は誤り。あくまで間接的制約の範囲で、目的・内容に必要性・合理性がある場合に限り許容される 関連判例として**「君が代」ピアノ伴奏拒否訴訟**(最判平19.2.27)も押さえること。こちらは「直ちに歴史観ないし世界観それ自体を否定するものとは認められない」として合憲とした先例
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行政法の重要用語
不可争力
行政行為に対して不服申立てができる期間が過ぎると、私人の側からはもう争えなくなる効力のこと。
期限
行政行為の効力の発生または消滅を、将来確実に到来する事実にかからせる附款のこと。
公用制限
公共目的のために私人の財産権に制限を加えるが、所有権自体は残したままにする行政作用のこと。
行政不服審査法
行政庁の処分や不作為に対して、国民が簡易・迅速に不服を申し立てるための手続を定めた法律のこと。
行政罰
行政上の義務違反に対して制裁として科される罰のこと。刑事罰である行政刑罰と、金銭罰である秩序罰の2種類がある。
法律行為的行政行為
行政庁の意思表示によって法律効果を発生させる行政行為のこと。許可や認可など、意思の内容どおりに効果が生じる点が特徴。
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