第2節 取消訴訟(抗告訴訟)
第4章 行政事件訴訟法
取消訴訟は行政事件訴訟の中核であり、違法な行政処分を取り消すための訴訟です。前節で訴訟要件の基本(処分性・原告適格・出訴期間)を学びましたが、本節ではさらに訴えの利益・被告適格・原処分主義などの訴訟要件の全体像、本案審理における主張制限や訴えの変更、判決の種類と効力(既判力・形成力・第三者効・拘束力)、そして執行停止制度まで、取消訴訟の手続全体を体系的に学びます。試験では毎年複数問が出題される最重要分野です。
行政事件訴訟法特有のルール
簡単にいうと
本案審理の場面で、民事訴訟にはない2つの仕掛けが用意されています。裁判所が動ける範囲が少し広くなります。
訴訟要件を満たすと、次は本案審理に進みます。処分が違法かどうかを実際に審理する段階です。
本案審理では民事訴訟のルールが基本になりますが、行政事件訴訟には特有のルールが2つ置かれています。行政側が情報を握っていて国民の側が立証しにくい、という不均衡を補うためのものです。
釈明処分の特則(23条の2)
裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、被告である行政庁に対し、処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができます。
処分の理由を書いた資料は行政の側にしかありません。原告が自力で集めるのは難しいので、裁判所が出させる仕組みです。
職権証拠調べ(24条)
裁判所は、必要があると認めるときは、職権で証拠調べをすることができます。
民事訴訟では当事者が出した証拠だけで判断するのが原則ですが、行政事件訴訟では裁判所が自ら証拠を集めることが認められています。
ただしこれは、あくまで裁判所が証拠を集めてくるだけです。当事者が主張していない事実まで判断してくれるわけではありません。職権証拠調べは認められても、職権探知(当事者が主張していない事実を裁判所が拾い上げること)までは認められていない、という限界があります。
違法だけを争える
本案審理で判断されるのは処分が違法かどうかです。違法ではないが不適切という意味の不当は、取消訴訟では争えません。
不当な処分を争いたい場合は、審査請求を使う必要があります。審査請求は違法と不当の両方を審理できる点が取消訴訟との大きな違いです。
具体例
A県の処分を争う取消訴訟で、裁判所は処分理由を示す資料の提出をA県に求めたり、必要と認めれば職権で証拠調べをしたりできます。

訴訟参加制度(行政事件訴訟法22条・23条)
重要メモ
- ・釈明処分の特則(23条の2):裁判所は被告である行政庁に処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができる
- ・職権証拠調べ(24条):裁判所は必要があると認めるときは職権で証拠調べができる
- ・職権証拠調べは認められるが、当事者が主張していない事実まで判断する職権探知は認められない
- ・取消訴訟で争えるのは違法のみ。不当を争いたい場合は審査請求による
- ・いずれも行政の側が情報を持つという不均衡を補うための規定
取消事由の制限
簡単にいうと
取消訴訟で主張できる違法事由は「自己の法律上の利益に関係するもの」に限られます(10条1項)。無関係な違法を理由にした請求は「棄却」されます(「却下」ではない点が重要です)。また処分の取消訴訟では「裁決固有の違法」は主張できません(原処分主義・10条2項)。さらに取消訴訟は「違法」のみが争え、「不当」は審査請求で争うことになります。
取消訴訟において、原告が主張できる違法事由には制限が設けられています。
主張制限(10条1項)
原告は「自己の法律上の利益に関係のない違法」を理由として取消しを求めることができません(10条1項)。例えば、飲食店の営業停止処分を受けた事業者が訴訟を提起する場合、食品衛生法上の手続違反など自分の権利利益に直接関連する違法であれば主張できますが、まったく無関係な法律の手続違反を理由にしても認められません。
この主張制限に反する訴えは、訴訟要件自体は満たしているため、「却下」ではなく「棄却判決」となります。「却下(訴訟要件の欠缺→本案審理なし)」と「棄却(本案に理由なし)」の区別は試験でよく問われます。
原処分主義(10条2項)
処分の取消訴訟において、審査請求に対する裁決固有の違法(例:審査庁が審理手続を誤ったなど、裁決そのものに固有の問題)を主張することはできません(10条2項)。裁決固有の違法は、「裁決の取消訴訟」を別途提起して争うべきものとされています。これを原処分主義といいます。
なお逆の場合も整理しておきましょう。裁決取消訴訟では、処分の違法(原処分固有の違法)を主張することはできません。これも原処分主義の一側面です。
違法のみを争える(不当は争えない)
取消訴訟で争えるのは処分の違法性のみです。処分が「不当」(違法ではないが不合理・不適切)であっても、それだけでは取消訴訟で請求は認められません。不当な処分を争いたい場合は、行政不服申立て(審査請求)を利用する必要があります。審査請求は違法・不当の両方について争うことができる点が、取消訴訟との根本的な違いです。

取消事由の制限(行政事件訴訟法10条1項)
重要メモ
- ・「取消訴訟は違法のみ争える・自己の法律上の利益に関係のない違法は主張不可(10条1項)→棄却判決」がポイント
- ・取消事由の制限(10条1項):自己の法律上の利益に関係のない違法事由は取消しの根拠として主張できない。請求は棄却
- ・原処分と裁決の関係(10条2項):処分の取消訴訟において裁決固有の違法は主張できない。裁決固有の違法は裁決取消訴訟で主張すべき
- ・取消訴訟(違法のみ)vs 審査請求(違法+不当):審査請求では不当な処分も争えるが取消訴訟では違法のみ
- ・原告適格(9条1項):「法律上の利益を有する者」。保護範囲の判断は根拠法令の趣旨・目的および関係法令も参酌(9条2項)
訴えの併合・変更
簡単にいうと
処分を取り消してほしいのと損害を賠償してほしいのは別の訴訟です。それを1つの手続にまとめる仕組みがあります。
営業停止処分に対して処分の取消しを求めるなら取消訴訟、損害の賠償を求めるなら国家賠償請求訴訟を提起しなければなりません。しかしこれらの訴訟は1つにまとめたり、別の訴訟に変更したりすることが認められています。
訴えの併合(16条〜19条)
取消訴訟に、関連する国家賠償請求訴訟を一緒に提起することができます。この国家賠償請求訴訟のことを関連請求といいます。
併合には2つの形があります。
- ・客観的併合:最初から2つの訴訟を併合して提起する
- ・追加的併合:取消訴訟の係属中に、国家賠償請求訴訟を追加して提起する
追加的併合は、口頭弁論が終結するまでに行わなければなりません。
過去問では「処分に対する取消訴訟に当該処分の違法を理由とする国家賠償を請求する訴訟を併合して提起することは許されない」という記述が出題され、誤りとされました。取消訴訟に関連請求に係る訴えを併合することは許されます。
関連請求の移送(13条)
取消訴訟と国家賠償請求訴訟を別々の裁判所に提起している場合、取消訴訟が行われている裁判所に国家賠償請求訴訟を移すことができます。これを移送といいます。
訴えの変更(21条)
原告の請求により、取消訴訟を国家賠償請求訴訟に変更することができます。訴えの変更も、口頭弁論が終結するまでに行わなければなりません。
訴えの変更のよいところは、取消訴訟で提出した証拠資料等がそのまま国家賠償請求訴訟に引き継がれるという点です。一から訴訟をやり直す必要がありません。
被告の変更(15条)
被告を誤って訴えを提起してしまった場合、裁判所の許可を得て被告を変更することができます(15条)。取消訴訟の被告は行政庁ではなく国または公共団体なので、間違えやすいところです。
具体例
Aが違法な営業停止処分の取消訴訟を提起したあと、停止期間中の損失について国家賠償請求訴訟を追加したい場合、口頭弁論終結までであれば追加的併合ができます。

訴えの併合・変更
重要メモ
- ・取消訴訟に関連請求である国家賠償請求訴訟を併合して提起することは許される(10-19-4 ×)
- ・客観的併合は最初から併合して提起、追加的併合は係属中に追加して提起する
- ・追加的併合も訴えの変更も、口頭弁論が終結するまでに行う必要がある
- ・訴えの変更の利点は、取消訴訟で提出した証拠資料がそのまま引き継がれること
- ・別々の裁判所に係属している場合は、関連請求の移送(13条)で1つの裁判所にまとめられる
訴訟参加
簡単にいうと
取消判決は第三者にも効力が及ぶ(対世効・32条)ため、利害関係を持つ者が事前に手続に関与できるよう設けられているのが訴訟参加制度です。「第三者の参加(22条)」と「行政庁の参加(23条)」の2種類があり、申立てまたは裁判所の決定・命令によって参加できます。
取消判決が下された場合、その効力は訴訟の当事者(原告・被告)だけでなく第三者にも及びます(第三者効・32条)。そのため、自分が当事者でないにもかかわらず、判決によって法律上の地位が変動してしまうという問題が生じます。この問題に対処するために設けられているのが訴訟参加の制度です。
第三者の訴訟参加(22条)
訴訟の結果に法律上の利害関係を有する第三者は、裁判所の決定または当事者・第三者の申立てによって訴訟に参加することができます(22条1項)。
具体例として、土地収用処分の取消訴訟を考えてみましょう。被収用者(土地の元の所有者)が収用処分の取消訴訟を提起し、認容判決が出た場合、その土地を行政庁から買い受けた者は土地を返還しなければならない立場になります。このような利害関係者は、訴訟に参加して自分の主張・立証を行う機会が保障されます。
行政庁の訴訟参加(23条)
裁判所は、処分・裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることが必要と認めるときは、その行政庁に参加を命ずることができます(23条1項)。申立てによって行政庁自身が参加することもできます。複数の行政機関が関係する複雑な処分が争われる場合などに活用されます。
訴訟参加制度の趣旨
民事訴訟の判決効は原則として当事者間にしか及びません。しかし取消判決は対世効を持つため、訴訟外の第三者も判決に拘束されます。そこで、判決に拘束される可能性のある者が手続に関与し、自分の利益を主張・防御する機会を保障することが訴訟参加制度の目的です。訴訟参加した第三者は、職権証拠調べ(24条)の恩恵も受けることができます。
重要メモ
- ・「第三者参加(22条)と行政庁参加(23条)の2種類・裁判所の決定または申立てによる」がポイント
- ・第三者の参加(22条):訴訟結果に利害関係を有する第三者。裁判所の決定または当事者・第三者の申立てで参加
- ・行政庁の参加(23条):関係行政庁は裁判所の命令または決定により訴訟参加。職権での参加命令も可
- ・職権証拠調べ(24条):裁判所は必要があれば職権で証拠調べができる。民事訴訟の当事者主義と異なる行政訴訟特則
- ・訴訟参加の趣旨:取消判決は第三者にも効力が及ぶ(第三者効・32条)ため、事前に利害関係者を手続に関与させる制度
判決の種類
簡単にいうと
取消訴訟の判決は「却下(訴訟要件の欠缺→本案審理なし・門前払い)」「棄却(違法性なし→原告負け)」「認容(違法性あり→処分取消・原告勝ち)」の3種類です。認容判決には形成力があり、処分の効力が遡及的に消滅します(最初から処分がなかった状態に戻ります)。
裁判所が下す最終的な判断を判決といい、大きく3種類に分かれます。行政不服審査法の裁決(却下・棄却・認容)と同様の構造ですが、それぞれの内容と効果を正確に理解することが重要です。
①却下判決
訴訟要件(処分性・原告適格・被告適格・出訴期間など)のいずれかが欠けている場合、裁判所は本案(処分が違法かどうかという実体的な審理)に入らずに訴えを却下します。いわゆる「門前払い」です。
例えば、出訴期間(処分を知った日から6か月・処分日から1年)を過ぎて提起した訴え、そもそも「処分」にあたらない行政指導を対象とした訴えなどは却下となります。
②棄却判決
訴訟要件は満たしているものの、本案審理(口頭弁論での審理)において処分に違法性がないと判断された場合の判決です。原告の請求を退け、処分の効力はそのまま維持されます。「自己の法律上の利益に関係しない違法」を主張した場合(10条1項違反)も棄却となります(却下ではないことに注意)。
③認容判決
本案審理において処分・裁決に違法性があると判断された場合の判決です。処分・裁決を取り消す「形成判決」としての性質を持ちます。認容判決が確定すると、処分の効力が遡及的に消滅します(最初から処分がなかった状態に戻ります)。この遡及的消滅の効力を「形成力」といいます。
訴えの利益(狭義)との関係
取消訴訟は、訴訟を提起した後でも「訴えの利益」が失われた場合、それ以降は却下されることがあります。例えば、営業停止処分の停止期間が訴訟係属中に経過してしまった場合、もはや処分を取り消す意義がなくなるため訴えの利益が消滅することがあります。ただし、処分を取り消さなければ解消されない法律上の不利益(懲戒処分の記録が残る場合など)があれば、訴えの利益は維持されます(判例)。

判決の種類
重要メモ
- ・「却下(訴訟要件不備→本案審理なし)・棄却(違法なし)・認容(違法あり→取消)の3種類」がポイント
- ・却下判決:処分性なし・原告適格なし・出訴期間徒過など訴訟要件を欠く場合。門前払いで本案審理に入らない
- ・棄却判決:訴訟要件は満たすが処分に違法性がないと判断された場合。原告の請求理由なし
- ・認容判決:処分・裁決に違法性が認められる場合→処分・裁決を取り消す形成判決
- ・取消判決の形成力:判決確定により処分効力が遡及的に消滅(最初から処分がなかった状態に)
- ・訴えの利益(狭義):判決確定前に状況が変化した場合は訴えの利益が消滅することがある。出訴期間後の処分消滅・期日経過等
事情判決
簡単にいうと
事情判決(31条)とは、処分が「違法」であるにもかかわらず、取り消すと公の利益に著しい障害が生ずる場合に、例外的に請求を棄却しつつ、判決の「主文」において違法を宣言する特別な棄却判決です。「違法宣言は判決の理由中ではなく主文に記載される」点が最重要ポイントで、試験頻出です。
通常、処分が違法と判断されれば認容判決が出て処分が取り消されます。しかし、処分を取り消すことによって社会的・経済的に大きな混乱が生じる場合もあります。そのような場合に認められる特例が事情判決です(31条)。
事情判決の要件(31条1項)
以下の要件をすべて満たした場合に事情判決が出されます。 ①処分・裁決が違法であること ②これを取り消すことにより公の利益に著しい障害が生ずること ③原告の受ける損害の程度、その賠償・防止の方法その他一切の事情を考慮した上で、取消しが公共の福祉に適合しないと認められること
典型例として、ダムの建設許可処分が違法であることが判明した時点で、既にダムが完成していた場合が挙げられます。完成したダムを撤去すれば周辺都市への水供給が止まるなど公益への著しい障害が生じるため、このような場合に事情判決が用いられます。
事情判決の主文(最重要)
事情判決は「請求を棄却する」という形をとりますが、通常の棄却判決とは異なり、判決の「主文」において処分・裁決が違法であることを宣言しなければなりません(31条1項後段)。
「判決の理由中において宣言される」という記述は誤りです。「主文において宣言しなければならない」という点は試験頻出事項であり、正確に覚えてください。
原告への救済(31条2項)
事情判決によって請求が棄却されても、違法な処分によって生じた損害についての国家賠償請求は妨げられません(31条2項)。つまり、処分は取り消されないが、損害賠償を別途求めることは可能です。
事情判決 vs 行審法の事情裁決
行政不服審査法にも同様の「事情裁決」制度があります。大きな違いは、取消訴訟の事情判決は「違法」な処分のみが対象ですが、行審法の事情裁決は「違法・不当」の両方が対象となる点です。また、事情判決の規定は無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟には準用されません(取消訴訟固有のルール)。

事情判決の仕組み
重要メモ
- ・「処分は違法でも取消が公益に著しく反する場合→棄却判決(事情判決)・ただし主文で違法を宣言しなければならない(31条)」がポイント
- ・事情判決(31条1項):処分・裁決が違法であるが、取消しにより公の利益に著しい障害を生ずる場合の例外的棄却判決
- ・事情判決の要件:①処分・裁決が違法、②取消しにより公益に著しい障害、③原告の損害の程度等を考慮して取消しが公共の福祉に適合しない
- ・事情判決の主文:違法宣言(処分が違法であることの確認)が主文に明示される。重要(理由中ではなく主文に記載)
- ・事情判決 vs 事情裁決:事情判決は「違法」のみ対象、行審法の事情裁決は「違法・不当」両方対象
- ・原告への救済(31条2項):事情判決で棄却されても損害賠償請求は妨げられない
- ・準用:無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟には事情判決の規定は準用されない(取消訴訟固有のルール)
判決の効力
簡単にいうと
判決の効力は4つ。どれが認容判決だけに生じ、どれが棄却判決でも生じるのかが分かれ目です。
裁判所の判断結果である判決には、様々な効力が認められています。
4つの効力
どの判決で生じるか
ここが試験の分かれ目です。
既判力は棄却判決の場合にも生じます。これに対し形成力・第三者効・拘束力は、認容判決だけに生じる効力です。
棄却判決でも「この処分は違法ではない」という判断が確定するので、あとから蒸し返せなくなります。しかし処分が取り消されるわけではないので、形成力も拘束力も出てきません。
第三者効があるからこそ、判決の影響を受ける第三者を手続に関与させる訴訟参加の規定(22条)が置かれています。
拘束力の限界
拘束力があるといっても、行政庁が必ず申請どおりの処分をしなければならないわけではありません。
営業許可の申請が拒否され、その拒否処分の取消判決が出た場合、手続は拒否処分の決定の段階から再スタートになります。行政庁は判決の趣旨に従って改めて審査しますが、理由等が異なれば再び拒否処分を出すことができます。これが拘束力の限界です。
過去問では「申請を拒否する処分が判決により取り消された場合、その処分をした行政庁は、当然に申請を認める処分をしなければならない」という記述が出題され、誤りとされました。判決の趣旨に従って改めて処分をしなければならないだけで、理由が異なれば拒否処分をすることができます。
確実に許可を得たいなら
拒否処分を取り消してもらうだけでは、また拒否される可能性が残ります。確実に営業許可処分を出してもらいたければ、義務付け訴訟を併合提起する必要があります。裁判所に許可処分を義務付けてもらうには、国民の側から義務付け訴訟を提起しなければなりません。
具体例
Aの営業許可申請の拒否処分が取り消されても、A県は判決の趣旨に従って審査し直すだけで、別の理由があれば再び拒否できます。確実に許可を得たいならAは義務付け訴訟を併合提起します。

判決の効力
重要メモ
- ・既判力は棄却判決でも生じるが、形成力・第三者効・拘束力は認容判決だけに生じる
- ・第三者効(32条1項):取消判決は第三者に対しても効力を有する。訴訟参加の規定がある理由になる
- ・拘束力(33条):行政庁は判決の趣旨に従って行動する義務を負う
- ・拒否処分が取り消されても、理由等が異なれば再び拒否処分をすることができる(18-18-3 ×)
- ・確実に許可処分を得たい場合は、義務付け訴訟を併合提起する必要がある
執行停止制度とは
簡単にいうと
取消訴訟を提起しただけでは処分の効力は止まりません(執行不停止の原則・25条1項)。判決が出るまでの間、処分の効力を暫定的に止める申立て制度が「執行停止」(25条2項)です。①処分の効力の停止②処分の執行の停止③手続の続行の停止の3種類があり、行審法と違い「その他の措置」という4つ目の類型はありません。
取消訴訟と執行停止の関係は、行政救済法の実務上も重要なテーマです。
執行不停止の原則(25条1項)
取消訴訟を提起しただけでは、処分の効力・執行・手続の続行は自動的に停止しません。これを「執行不停止の原則」といいます(25条1項)。
例えば、営業許可の取消処分を受けた事業者が取消訴訟を提起しても、判決が確定するまで(場合によっては数年かかることもあります)は処分の効力が維持されているため、営業を再開することができません。これは当事者にとって大きな不利益となる場合があります。
行政不服審査法(行審法)でも同様に執行不停止の原則が採られています(行審法25条1項)。
執行停止制度(25条2項)
そこで、取消訴訟の審理中に処分の効力を停止するよう申し立てることができる制度が設けられています。裁判所に申立てを行い、裁判所の決定によって停止が認められます。
執行停止の種類は以下の3つです。 ①処分の効力の停止:処分そのものの効力を止める(最も効果が広い停止) ②処分の執行の停止:処分の実現行為(強制執行など)のみを止める ③手続の続行の停止:処分に続く行政手続の進行を止める
重要なのは、①処分の効力の停止は、②または③の方法によって目的を達することができる場合は選択できないという「補充性の要件」があることです(25条2項ただし書)。
行審法との比較(重要)
行審法の執行停止には「その他の措置」という第4の類型が存在しますが(行審法25条2項)、行訴法にはこれがありません。行審法と行訴法の比較問題で頻出の相違点です。

執行停止制度とは
重要メモ
- ・「取消訴訟提起だけでは処分の効力は停止しない(執行不停止原則・25条1項)・執行停止は裁判所の決定が必要」がポイント
- ・執行不停止の原則(25条1項):取消訴訟の提起により処分の効力・執行・手続の続行は自動停止しない
- ・執行停止の申立て(25条2項):申立て→裁判所の決定。内閣総理大臣の異議があれば決定できない(27条)
- ・執行停止の種類(25条2項):①処分の効力の停止②処分の執行の停止③手続の続行の停止。「その他の措置」は行訴法にはない(行審法との違い)
- ・行審法では「審査庁が職権で」執行停止可。行訴法は「申立てを受けた裁判所の決定」が必要(職権発動も可だが申立てが原則)
- ・行審法の必要的執行停止(25条4項):重大な損害の発生防止のため審査庁は職権で執行停止しなければならない。行訴法には必要的執行停止の規定なし
裁量的執行停止
簡単にいうと
執行停止は裁判所が勝手にはできません。申立てが必要という点が、行政不服審査法との一番の違いです。
執行停止が認められるかどうかは、裁判所が要件を判断したうえで決定します。申立てをすれば必ず認められるわけではありません。
申立てが必要(職権ではできない)
裁判所による執行停止は、職権で行うことができず、申立てによることが必要です(25条2項)。
過去問では「裁判所は、処分の執行停止の必要があると認めるときは、職権で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止をすることができる」という記述が出題され、誤りとされました。行政事件訴訟法は職権による執行停止を認めていません。
行政不服審査法では審査庁が職権でも執行停止できるので、ここが両者の分かれ目になります。
裁判所による執行停止ができる場合
例外の①と②は「または」の関係です。「かつ」ではありません。どちらか一方に当たれば執行停止はできなくなります。ここは接続詞の入れ替えで出題されます。
必要的執行停止はない
執行停止をしなければならないという必要的執行停止の制度は、行政事件訴訟法にはありません。行政不服審査法には規定があります(行審法25条4項)。すべて裁量的執行停止です。
執行停止の取消し
執行停止の決定が確定した後であっても、停止すべき理由が消滅したときは、相手方の申立てにより執行停止を取り消すことができます(26条1項)。ここでも申立てが必要で、職権ではできません。行政不服審査法では職権で取り消します。
具体例
営業許可の取消処分を受けたAが取消訴訟を提起し執行停止を申し立てた場合、重大な損害を避ける緊急の必要があれば認められますが、裁判所が自ら進んで停止することはできません。
重要メモ
- ・裁判所による執行停止は職権ではできず、申立てが必要(25条2項、14-18-4 ×)
- ・原則の要件は、重大な損害を避けるため緊急の必要があること
- ・例外は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、または本案について理由がないとみえるとき(25条4項)。「または」であって「かつ」ではない
- ・行政事件訴訟法には必要的執行停止の規定がない
- ・執行停止の取消しも相手方の申立てによる(26条1項)。職権ではできない
内閣総理大臣の異議
簡単にいうと
執行停止に対して内閣総理大臣が異議を述べると、裁判所は執行停止ができなくなります。行政事件訴訟法だけの制度です。
執行停止の申立てがあった場合、内閣総理大臣は裁判所に対し異議を述べることができます(27条1項)。行政不服審査法には対応する規定がなく、行政事件訴訟法だけの制度です。
異議があった場合の効果
裁判所に判断の余地はありません。異議が述べられれば、決定前なら停止できず、決定後なら取り消さなければならない、という強い効果です。
いつ述べるか
異議は執行停止の決定の前でも後でも述べることができます。過去問では「内閣総理大臣の異議は、裁判所による執行停止決定の後に述べなければならず、決定を妨げるために決定以前に述べることは許されない」という記述が出題され、誤りとされました。決定の前に述べることもできます。
手続上の歯止め
内閣総理大臣は異議を述べるにあたって、理由を付さなければなりません(27条2項)。またやむをえない場合でなければ異議を述べてはならず、異議を述べたときは次の常会において国会に報告しなければなりません(27条6項)。
司法判断を行政が覆す制度なので、濫用を防ぐための歯止めが置かれています。
制度の背景
行政活動を迅速に進めるため、戦後GHQ主導でつくられたのが内閣総理大臣の異議の規定です。実際には運用実績がないまま、条文のみが残されているような状況にあります。
具体例
Aの執行停止の申立てに対して内閣総理大臣が異議を述べると、裁判所は執行停止をすることができず、すでに決定していればそれを取り消さなければなりません。
重要メモ
- ・内閣総理大臣の異議は行政事件訴訟法だけの制度で、行政不服審査法には規定がない
- ・異議があれば、決定前は執行停止ができず、決定後は執行停止の決定を取り消さなければならない(27条4項)
- ・異議は執行停止の決定の前でも後でも述べることができる(11-17-1 ×)
- ・異議には理由を付さなければならない(27条2項)
- ・やむをえない場合でなければ異議を述べられず、述べたときは次の常会において国会に報告する(27条6項)
行政不服審査法上の執行停止との比較
簡単にいうと
2つの執行停止は似ていて紛らわしいところです。片方を固めてから、もう片方と見比べるのが早道になります。
行政不服審査法と行政事件訴訟法は、どちらも執行不停止を原則としていますが、細部が違います。両方を同時に覚えようとすると混乱するので、どちらかをしっかり覚えてから比較すると整理しやすくなります。
執行停止制度の比較
覚え方
行政事件訴訟法の側はすべて申立てで動きます。裁判所は当事者が求めていないのに自分から動くものではない、という考え方が一貫しています。
行政不服審査法の側は職権が出てきます。審査庁は行政機関なので、自ら判断して動くことが許されています。必要的執行停止があるのも行政不服審査法だけです。
内閣総理大臣の異議だけは逆で、行政事件訴訟法にしかありません。行政の判断を司法に押し通す制度なので、行政内部の手続である審査請求には出番がないからです。
どこが出題されるか
裁量的執行停止で行政事件訴訟法にも職権を認める記述、必要的執行停止が行政事件訴訟法にもあるとする記述、内閣総理大臣の異議が行政不服審査法にもあるとする記述の3つが、誤りの選択肢として作られやすい形です。
具体例
審査請求の場合は審査庁が自ら判断して執行停止できますが、取消訴訟の場合はAが申し立てなければ裁判所は執行停止できません。
重要メモ
- ・行政事件訴訟法はすべて申立てで動き、職権による執行停止も職権による取消しも認められない
- ・必要的執行停止の規定があるのは行政不服審査法だけ(25条4項)
- ・内閣総理大臣の異議の規定があるのは行政事件訴訟法だけ(27条)
- ・執行停止の取消しは、行政事件訴訟法が申立て、行政不服審査法が職権と逆になる
- ・執行不停止を原則とする点だけは両者共通
まとめ
関連判例
運転免許停止処分取消請求事件
運転免許の効力停止処分を受けた者が、停止期間経過後も取消訴訟を継続し、なお訴えの利益があるかが争われた事件。最高裁は、停止処分後1年間無違反で経過すれば処分の効果は消滅し、前歴として残ることによる事実上の不利益は名誉・感情等の問題にすぎず、回復すべき法律上の利益には当たらないとして訴えの利益を否定した。9条1項かっこ書の狭い解釈を示した頻出判例。
建築確認取消請求事件
最判昭59.10.26建築主事の建築確認を受けて建築工事が完了した後、周辺住民らが建築確認の取消訴訟を継続した事件。最高裁は、建築確認は工事を適法に行うための手続的効果にとどまり、工事完了後は取消しによっても原状回復されないから、訴えの利益は失われると判示した。処分の効果消滅と訴えの利益の関係を示す典型判例として頻出。
先行処分の加重事由がある場合の訴えの利益(平成27年)
最判平27.3.3風俗営業の営業停止処分について、停止期間経過後も取消訴訟の訴えの利益が存続するかが争われた事件。最高裁は、先行処分の存在が後行処分の加重要件として法令に定められている場合、当該先行処分の取消しを求める法律上の利益が認められると判示した。運転免許停止事件と対比して、加重規定の有無で結論が分かれる点
原告の死亡と免職処分の取消訴訟
最判昭49.12.10生活保護の変更決定を争う訴訟(朝日訴訟)の上告審係属中に原告が死亡した事件。最高裁は、生活保護受給権は一身専属的権利であり相続の対象とならず、訴訟は承継されないとして訴えを終了させた。権利の性質によって訴えの利益の承継の可否が分かれることを示す典型判例。
選挙の立候補と免職処分の取消訴訟
最判昭40.4.28地方公務員が懲戒免職処分を受けた後、公職選挙に立候補して公務員の地位を失った場合、免職処分取消訴訟の訴えの利益があるかが争われた事件。最高裁は、立候補により公務員としての地位は回復できないが、免職期間中の給与請求権の回復という法律上の利益が残るから訴えの利益は消滅しないと判示した。9条1項かっこ書の典型適用例。
伊方原発訴訟
伊方原発の原子炉設置許可処分について、周辺住民が取消しを求めた事件。最高裁は、原子炉設置許可には高度な専門技術的判断を要するため行政庁の合理的裁量に委ねられるとしつつ、①具体的審査基準に不合理な点がないか、②調査審議及び判断過程に看過し難い過誤・欠落がないかを審査する判断過程審査の枠組みを示した。専門技術的裁量の司法審査基準として頻出。
違法判断の基準時
取消訴訟において処分の違法性を判断する基準時が争われた事件。最高裁は、取消訴訟は処分時の違法を争うものであるから、違法判断の基準時は処分時であると判示した。処分後の事情変更は違法判断に影響を与えない点が重要で、事情変更がある場合は別途執行停止等で対応することになる。
違法性の承継が認められた例(農地買収計画・買収処分)
最判昭25.9.15農地買収計画とその実施としての買収処分について、後行処分(買収処分)の取消訴訟で先行処分(買収計画)の違法を主張できるかが争われた事件。最高裁は、両処分が同一目的で一連の手続を構成する場合には、例外的に違法性の承継が認められると判示した。違法性の承継の原則否定・例外肯定の典型判例。
違法行為の転換が認められた例
最判昭29.7.19ある行政行為が違法であっても、他の行政行為として適法に行われたものと解することができる場合に、違法行為の転換を認めた事件。最高裁は、当初の処分と転換後の処分の目的・要件・効果が実質的に同一である等、一定の要件の下で違法行為の転換を認めた。取消判決の回避手法として重要。
宗教法人解散命令事件
最決平8.1.30オウム真理教に対して裁判所が宗教法人法に基づき解散命令を発した事件(本件は非訟手続で裁判所が命令を発するもの)。最高裁は、解散命令は法人格を失わせる重大な効果を有するが、宗教団体としての活動は引き続き可能であるから、信教の自由への制約は間接的・事実上のものであり合憲と判断した。宗教法人法81条に基づく解散命令の法的性質と憲法適合性を示す判例。
病院開設中止勧告の処分性
最判平17.7.15県知事が医療法に基づき病院開設中止勧告を行った事件。最高裁は、勧告は形式的には行政指導だが、従わないと相当程度の確実さで保険医療機関の指定を受けられなくなり、実際上病院開設が困難になるため、処分性が認められると判示した。実質的効果から処分性を認めた重要判例で、処分性論の応用問題として頻出。
通達に対する取消訴訟
墓地埋葬法の解釈に関する厚生省通達について宗教法人が取消訴訟を提起した事件。最高裁は、通達は行政組織内部の指示にすぎず、国民の権利義務を直接形成するものではないため、抗告訴訟の対象となる処分には当たらないと判示した。通達の処分性を原則否定した頻出判例。
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行政法の重要用語
不可争力
行政行為に対して不服申立てができる期間が過ぎると、私人の側からはもう争えなくなる効力のこと。
期限
行政行為の効力の発生または消滅を、将来確実に到来する事実にかからせる附款のこと。
公用制限
公共目的のために私人の財産権に制限を加えるが、所有権自体は残したままにする行政作用のこと。
行政不服審査法
行政庁の処分や不作為に対して、国民が簡易・迅速に不服を申し立てるための手続を定めた法律のこと。
行政罰
行政上の義務違反に対して制裁として科される罰のこと。刑事罰である行政刑罰と、金銭罰である秩序罰の2種類がある。
法律行為的行政行為
行政庁の意思表示によって法律効果を発生させる行政行為のこと。許可や認可など、意思の内容どおりに効果が生じる点が特徴。
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