第1節 行政事件訴訟法総説
第4章 行政事件訴訟法
行政事件訴訟法は、国民が行政の違法な活動から自らの権利を守るための裁判手続を定めた法律です。行政法規の実体的なルールを学んでも、それを実現する訴訟の仕組みを知らなければ権利救済は実現できません。この節では行政事件訴訟の全体像と基本的な枠組み(訴訟類型・処分性・原告適格・出訴期間)を理解し、具体的な訴訟類型を学ぶ準備をします。
行政事件訴訟の意義と種類
簡単にいうと
行政活動に不服がある場合の救済手段として、簡易迅速な行政不服審査だけでなく、慎重な裁判所による解決を求める行政事件訴訟があります。行政事件訴訟には4つの種類があり、個人の権利救済を目的とする主観訴訟(抗告訴訟・当事者訴訟)と行政の適法性確保を目的とする客観訴訟(民衆訴訟・機関訴訟)に大別されます。訴訟類型の区別は記述式でも頻出の最重要論点です。
行政事件訴訟とは、行政不服審査と並ぶ事後的な権利救済制度のひとつで、行政庁の違法な行為等について慎重な裁判所の審理のもとで解決を求める制度です。行政事件訴訟法2条は、行政事件訴訟として抗告訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟の4類型を列挙しています。
まず大きな分類として、主観訴訟と客観訴訟があります。主観訴訟とは個人の権利利益の救済を目的とする訴訟で、抗告訴訟と当事者訴訟がこれに該当します。客観訴訟とは個人の権利利益とは別に、行政の適法性や客観的な法秩序の維持を目的とする訴訟で、民衆訴訟と機関訴訟がこれに該当します。
抗告訴訟は「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」(3条1項)であり、行政事件訴訟の中心をなします。抗告訴訟には法定された5類型があります。①取消訴訟(処分・裁決の取消しを求める訴訟、3条2項・3項)、②無効等確認訴訟(処分・裁決の無効または不存在の確認を求める訴訟、3条4項)、③不作為の違法確認訴訟(行政庁が法令上の申請に対して相当の期間内に何らかの処分をすべきにもかかわらず、これをしないことの違法確認を求める訴訟、3条5項)、④義務付け訴訟(行政庁が処分をすべき旨を命ずることを求める訴訟、3条6項)、⑤差止訴訟(行政庁が処分をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟、3条7項)です。なお、これら法定5類型以外の無名抗告訴訟の余地も解釈上論じられています。
当事者訴訟は、「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの」(形式的当事者訴訟、4条前段)と、「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」(実質的当事者訴訟、4条後段)の2種類があります。後者の実質的当事者訴訟は2004年改正で積極的に活用する方向が示され、たとえば日本国籍の確認訴訟や在外邦人選挙権確認訴訟がその例に挙げられます。
民衆訴訟は「国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するもの」(5条)です。住民訴訟・選挙訴訟(選挙無効訴訟・当選訴訟)が代表例です。選挙無効訴訟は選挙権という個人の権利に関係しますが、民衆訴訟に分類される点に注意が必要です(当事者訴訟ではありません)。
機関訴訟は「国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟」(6条)です。国と地方公共団体の機関間の紛争が典型例です。
民衆訴訟・機関訴訟はいずれも客観訴訟であり、法律に特別の定めがある場合に限り(法律で定められた者のみ)提起することができます(42条)。これは客観訴訟が本来的な権利救済を目的としないため、濫訴を防ぐ趣旨です。
具体例
具体例をいくつか挙げましょう。Aさんが不当な課税処分を受けた場合、その取消しを求める訴訟は取消訴訟(抗告訴訟)です。Bさんが市に営業許可申請を出したのに何の応答もなければ、応答を求めて不作為の違法確認訴訟(抗告訴訟)を提起できます。収用裁決における補償金額が不当に低い場合に補償金の増額を求める訴訟は、処分の内容を直接争うのではなく当事者間で争う形式的当事者訴訟です。日本国籍の確認を求める訴訟や在外邦人の選挙権確認訴訟は実質的当事者訴訟にあたります。国の関与に不服な県が起こす訴訟は機関訴訟、市議会議員が市の予算の私的流用について返還を求める訴訟や選挙の無効を争う訴訟は民衆訴訟です。

行政事件訴訟の4類型
ポイント整理
- ・主観訴訟(抗告訴訟・当事者訴訟)は自己の権利利益の救済を目的とする訴訟であること
- ・客観訴訟(民衆訴訟・機関訴訟)は法律に特別の定めがある場合に限り、法律に定める者のみが提起できること(42条)
- ・抗告訴訟は行政事件訴訟法3条の定める取消訴訟・無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟・義務付け訴訟・差止訴訟の5類型に該当すること
効果
- ・抗告訴訟(取消訴訟等)・当事者訴訟は主観訴訟として個人の権利救済を目的とする
- ・民衆訴訟・機関訴訟は客観訴訟として法律に特別の定めがある場合のみ、法律で定めた者のみ提起できる(42条)
条文
【行政事件訴訟法2条】この法律において「行政事件訴訟」とは、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟及び機関訴訟をいう。 【3条1項】この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。 【4条】この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。 【5条】この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。 【42条】民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。
重要メモ
- ・「4類型(抗告・当事者・民衆・機関)+主観訴訟か客観訴訟か」の分類が最重要ポイント
- ・行政事件訴訟の4類型:抗告訴訟(3条)・当事者訴訟(4条)・民衆訴訟(5条)・機関訴訟(6条)。2条がこれを列挙
- ・主観訴訟(抗告訴訟・当事者訴訟)は個人の権利利益の救済が目的。客観訴訟(民衆訴訟・機関訴訟)は行政の適法性確保が目的
- ・民衆訴訟・機関訴訟(客観訴訟)は法律に特別の定めがある場合にのみ、法律で定めた者のみ提起できる(42条)。濫訴防止の趣旨
- ・抗告訴訟の法定5類型(3条2〜7項):取消訴訟・無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟・義務付け訴訟・差止訴訟
- ・当事者訴訟の2種類:形式的当事者訴訟(4条前段・例:収用補償金増額訴訟)と実質的当事者訴訟(4条後段・例:日本国籍確認訴訟・在外邦人選挙権確認訴訟)
- ・選挙無効訴訟は選挙権という個人の権利に関わるが、民衆訴訟に分類される(当事者訴訟ではない)点が頻出の落とし穴
- ・住民訴訟(地方自治法)は民衆訴訟の代表例。国と地方公共団体の機関間の権限争いは機関訴訟の代表例
取消訴訟の対象(処分性)
簡単にいうと
取消訴訟で争えるのは処分性のある行為だけです。どこまでが処分にあたるかは、判例の結論を覚えるのが近道になります。
裁判所は、どのような行政活動でも取り消してくれるわけではありません。取消訴訟の対象は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(3条2項)に限られます。これが処分性の問題で、訴訟要件の最初の関門です。
処分の定義
判例は、取消訴訟の対象となる行政活動を次のように定義しています。
公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの(最判昭39.10.29)
国民の権利義務に直接影響が出る行政活動のことで、行政行為(処分)がこれにあたります。
原則として処分性があるもの・ないもの
営業停止処分は、国民の権利を一方的に制限し直接影響が出るため処分性があります。これに対し行政指導は、国民の権利を一方的に制限するものではないため、原則として処分性がありません。
行政立法も、つくられただけでは国民の権利が直接制限されるわけではないので、原則として処分性はありません。
ただし実際には、行政指導にも処分性があると判断して取消訴訟を認めた判例があります。原則だけで判断すると誤ります。
処分性に関する判例まとめ
ここは結論を重視して、表の○×が言えるようになれば多くの問題が解けるようになります。
なぜ条例で結論が分かれるのか
ルールをつくる行為や計画を立てる行為は、特定の国民に対して影響を与えるわけではないため、原則として処分性がないと判断されます。
しかし保育所の廃止条例については、その保育所に通う園児や保護者のみに対して影響を与えるため、処分性があると判断されています。同じ条例制定行為でも、公立小学校の廃止や簡易水道料金の値上げは対象が特定されないので処分性が否定されました。誰に効果が及ぶかが限定されているかどうかが分かれ目です。
出題されやすいところ
病院開設中止の勧告と保育所廃止条例の制定行為はよく出題されます。医療法に基づく病院開設中止の勧告は行政指導として定められていますが、従わないと保険医療機関の指定を受けられなくなるため、処分性があるとされました。行政指導だから処分性がない、と決めつけると誤ります。
具体例
A市が市立保育所を廃止する条例を制定した場合、その保育所に通うBと保護者だけに効果が及ぶため処分性が認められ、Bらは取消訴訟を提起できます。

取消訴訟の対象(処分性)
ポイント整理
- ・公権力の主体(国・地方公共団体等)が行う行為であること(公権力性)
- ・その行為により直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定すること(直接性)
- ・その権利義務の形成・確定が法律上認められていること(法律上の根拠)
効果
- ・処分性が認められれば取消訴訟の対象となり、処分の違法を争うことができる
- ・処分性が否定されれば取消訴訟は不適法として却下され、当事者訴訟など他の訴訟類型の活用を検討する必要がある
条文
【行政事件訴訟法3条2項】この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
重要メモ
- ・処分の定義は、公権力の主体が行う行為のうち直接国民の権利義務を形成しその範囲を確定することが法律上認められているもの(最判昭39.10.29)
- ・反則金の納付通告は処分性なし、登録免許税の過誤納金還付の拒否通知は処分性あり。逆に覚えやすい組み合わせ
- ・条例制定行為は原則として処分性なし。保育所廃止条例だけは対象が園児と保護者に限られるため処分性あり
- ・病院開設中止の勧告は行政指導だが、保険医療機関の指定を受けられなくなるため処分性あり(最判平17.7.15)
- ・行政内部の行為(通達・上級庁による認可・職務命令)はいずれも処分性なし
原告適格
簡単にいうと
処分に不服があれば誰でも訴えられるわけではありません。処分を直接受けていない第三者に資格があるかが問われます。
処分に不服があるからといって、誰でも取消訴訟を提起できるわけではありません。ここでは取消訴訟を提起することができる資格を扱います。
原告適格とは
処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、取消訴訟を提起できます(9条1項)。
この「法律上の利益を有する者」とは、処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者をいいます(最判昭53.3.14)。単なる事実上の利益や反射的利益では足りません。
問題になるのはどこか
営業拒否処分や設置拒否処分を受けた者に原告適格が認められるのは当たり前です。試験で問題になるのは、直接処分を受けていない者に原告適格があるかどうかです。
たとえば飲食店の営業許可処分に対して、近隣の飲食店経営者が「営業上の利益が侵害される」と主張しても、それは法律上の利益にあたらず取消訴訟を提起できません。これに対し産業廃棄物処理施設の設置許可処分に対して、周辺住民が「生活環境が脅かされる」と主張する場合には法律上の利益が認められます。
周辺住民に原告適格が認められるかという判例が多いのですが、騒音など日常生活に直接影響するような被害を受けるおそれがある場合には、原則として原告適格が認められます。
原告適格に関する判例まとめ
ここも結論を重視して、表の○×が言えるようになることを目標にします。
間違えやすいところ
既存業者の原告適格は、質屋は×、公衆浴場は○と結論が分かれます。ここは対で覚えます。
周辺住民であれば必ず原告適格が認められるわけではありません。パチンコ店の営業許可処分では周辺住民に認められず、小田急高架訴訟では周辺住民のうち著しい被害を受ける者だけに認められました。場外車券販売施設の事案では、周辺の居住者は×、医療施設関係者のうち著しい損害のおそれが具体的に認められる者だけが○という細かい分かれ方をしています。
過去問では「公衆浴場法の適正配置規定は…既存業者には原告適格は認められない」が誤り、「定期航空運送事業に対する規制…周辺住民には原告適格は認められない」も誤りとされています。
具体例
A市に産業廃棄物処理施設の設置許可が出された場合、生活環境への影響を受ける周辺住民Bには原告適格が認められますが、近隣で同業を営むCの営業上の利益は法律上の利益にあたりません。

原告適格(第三者に認められるか)
ポイント整理
- ・当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれがあること
- ・処分の名宛人以外の第三者の場合、当該法令と関係法令の趣旨・目的、考慮されるべき利益の内容・性質・態様・程度を考慮して判断する(9条2項)
- ・単なる事実上の利益・反射的利益では原告適格が認められないこと
効果
- ・原告適格が認められれば本案審理に入り、処分の違法性を審査できる
- ・原告適格が否定されれば訴えは不適法として却下され、本案審理は行われない
条文
【行政事件訴訟法9条1項】処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。 【9条2項】裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。
重要メモ
- ・原告適格は処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(9条1項)。事実上の利益や反射的利益では足りない
- ・既存業者は、質屋営業法では認められず、公衆浴場法では認められる。対で覚える
- ・周辺住民でも必ず認められるわけではない。パチンコ店の営業許可では否定された(最判平10.12.17、14-17-ア ×)
- ・新潟空港訴訟・もんじゅ訴訟・開発許可・総合設計許可・産業廃棄物処理施設では周辺住民に認められた(14-17-ウ ×)
- ・小田急高架訴訟は周辺住民のうち騒音等で著しい被害を受ける者に限って認められた
狭義の訴えの利益
第9条簡単にいうと
訴える資格があっても、争い続ける実益がなくなれば訴訟は終わります。判例の結論をそのまま覚えるところです。
原告適格が認められたとしても、訴訟を続ける意味がなくなった場合には却下判決により訴訟が終了します。
狭義の訴えの利益とは
訴訟を継続する客観的な事情や実益のことをいいます。
たとえば、令和3年5月1日に広場を使いたいと考えていた人が使用不許可処分を受け、その取消訴訟を提起したとします。しかし審理中に5月1日を過ぎてしまえば、いまさら処分を取り消してもらっても意味がありません。この場合、争う実益がなくなるため狭義の訴えの利益が失われます。
なお、原告適格と狭義の訴えの利益を合わせて広義の訴えの利益とよびます。
判例まとめ
処分性や原告適格と同じく、ここも結論重視です。表の○×が言えるようになれば多くの問題が解けます。
消滅する場合と存続する場合の見分け方
処分の効果が期間の経過や工事の完了によって尽きてしまえば、原則として訴えの利益は消滅します。
これに対し、処分を取り消さなければ解消されない不利益が別に残っている場合には存続します。公務員の免職では給与請求権が残り、優良運転者の記載のない免許更新では優良運転者としての地位が残り、パチンコ店の営業停止では期間が過ぎても営業停止処分を受けたという記録に基づく不利益が残ります。
間違えやすいところ
運転免許停止(処分後無違反で1年経過→消滅)と優良運転者の記載のない免許更新(有効期間の経過→存続)は、どちらも運転免許の話なのに結論が逆です。
保育所廃止条例は、処分性のところでは○でしたが、狭義の訴えの利益では保育の実施期間が満了すれば×になります。同じ判例が別の論点で逆の記号になるので混同しやすい箇所です。
過去問では「市立保育所の廃止条例の制定行為の取消しを求める利益は、原告らに係る保育の実施期間がすべて満了したとしても失われない」が誤りとされました。
また「土地改良事業が完了し、社会通念上、原状回復が不可能となった場合、事業にかかる施行認可の取消訴訟は、訴えの利益を失って却下され、事情判決の余地はない」という記述も誤りとされています。原状回復が不可能でも事情判決による救済の余地があるため、狭義の訴えの利益は消滅しません。
具体例
Aが5月1日の広場使用を不許可とされ取消訴訟を提起しても、審理中に5月1日を過ぎれば争う実益がなくなり、訴えは却下されます。

狭義の訴えの利益
重要メモ
- ・狭義の訴えの利益は訴訟を継続する客観的な事情や実益。原告適格と合わせて広義の訴えの利益という
- ・運転免許停止は1年無違反で消滅、優良運転者の記載のない免許更新は有効期間経過後も存続。逆に覚えやすい
- ・保育所廃止条例は処分性では○だが、保育実施期間が満了すれば訴えの利益は消滅する(14-18-イ ×)
- ・土地改良事業が完了して原状回復が不可能でも、事情判決の余地があるため訴えの利益は消滅しない(15-16-5 ×)
- ・公務員の免職・文書公開後の非公開処分・パチンコ店営業停止はいずれも存続
被告適格と管轄裁判所
第11条簡単にいうと
誰を相手に、どの裁判所へ訴えるか。記述式で被告を書き間違えると点が入らないところです。
訴訟を進めるには、適切な相手を被告として訴えていること、そして決められた裁判所に提起していることが必要です。
被告適格は記述問題で頻出なので、間違えて記載しないよう注意が要ります。
被告適格(11条)
原則は①です。処分をしたのは知事や大臣といった行政庁ですが、訴える相手はその行政庁ではなく、行政庁が所属する国や地方公共団体になります。「A県知事を被告として」と書くと誤りです。
②は弁護士会のように、国にも地方公共団体にも属さない団体が処分をした場合です。この場合だけ行政庁自身が被告になります。
管轄裁判所(12条)
取消訴訟は、どの裁判所に提起してもよいわけではありません。
原則は、被告の普通裁判籍の所在地または処分をした行政庁の所在地を管轄する裁判所です。普通裁判籍の所在地は、試験対策上は住所地と読み替えて差し支えありません。国の処分であれば東京地方裁判所になります。
例外が2つあります。
①は、国を訴えるためだけに東京まで行かなければならないとすると負担が大きすぎるため置かれた規定です。全国に8つある高等裁判所の所在地の地方裁判所であれば提起できます。
過去問では「国を被告とする取消訴訟は、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも提起することができる」という記述が正しいものとして出題されています。
具体例
A県知事Bがした処分の取消訴訟では、被告はBではなくA県です。国の処分について名古屋市民が訴える場合は、名古屋地方裁判所に提起できます。
重要メモ
- ・被告は処分をした行政庁ではなく、その行政庁が所属する国または公共団体(11条1項)。記述式で頻出
- ・行政庁が国にも公共団体にも所属しない場合だけ、その行政庁自身が被告になる
- ・合併などで被告とすべき者がなくなった場合は、処分に係る事務の帰属する国または公共団体が被告
- ・管轄の原則は、被告の普通裁判籍の所在地または処分をした行政庁の所在地を管轄する裁判所(12条)
- ・国を被告とする場合は、原告の住所地を管轄する高等裁判所の所在地の地方裁判所にも提起できる(10-17-オ ○)
取消訴訟の訴訟要件(6つの必須要件)
簡単にいうと
訴訟要件が1つでも欠けると、裁判所は中身を見ないまま訴えを却下します。まず6つの名前を言えるようにします。
取消訴訟を提起するためには、訴状という書類を裁判所に提出しなければなりません。裁判所はまず、正しい訴訟提起がされているかをチェックします。これが要件審理です。
訴訟の流れ
訴訟の提起 → 要件審理(訴訟要件) → 本案審理(口頭弁論) → 認容判決(原告勝ち)または棄却判決(原告負け)
要件審理の段階で要件を満たさなければ、本案審理に進まずに却下判決が出されます。
必須の6要件
どれか1つでも欠けたら、訴訟却下判決が出されます。
却下と棄却を取り違えない
訴訟要件が欠けた場合は棄却判決ではなく却下判決です。ここは間違えやすいところです。
却下は中身を確認せずに訴訟を終えること、棄却は中身を確認したうえで処分は違法ではないと判断することです。門前払いか、審理したうえでの原告敗訴かという違いになります。
なお、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由に取消しを求めた場合は、訴訟要件は満たしているので棄却判決になります(10条1項)。却下ではありません。ここも却下と棄却の区別が問われる場面です。
具体例
Aが営業停止処分の取消訴訟を提起しても、処分を知った日から7カ月が経っていれば出訴期間を欠くため、処分が違法かどうかを判断されないまま却下されます。

取消訴訟の6つの訴訟要件
ポイント整理
- ・①処分性:取消訴訟の対象となる行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為であること
- ・②原告適格:処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者であること(9条)
- ・③狭義の訴えの利益:取消しによって回復すべき法律上の利益が現存すること
- ・④被告適格:処分をした行政庁の所属する国または公共団体を被告とすること(11条)
- ・⑤管轄裁判所:適法な管轄裁判所に提起すること(12条)
- ・⑥出訴期間:主観的出訴期間(知った日から6か月・14条1項)かつ客観的出訴期間(処分の日から1年・14条2項)内に提起すること
効果
- ・6つの訴訟要件を全て満たす場合のみ本案審理(口頭弁論)に進み、認容判決(原告勝ち)または棄却判決(原告負け)が出される
- ・訴訟要件を一つでも欠くと訴訟却下判決が出され、本案審理は行われない
条文
【行政事件訴訟法11条1項】処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない。 【12条1項】取消訴訟は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又は処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。 【12条4項】国又は独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人若しくは別表に掲げる法人を被告とする取消訴訟は、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(次項において「特定管轄裁判所」という。)にも、提起することができる。
重要メモ
- ・必須の6要件は処分性・原告適格・狭義の訴えの利益・被告適格・管轄裁判所・出訴期間
- ・1つでも欠ければ却下判決。棄却判決ではない点が繰り返し問われる
- ・却下は中身を見ずに終わらせること、棄却は中身を見たうえで違法でないと判断すること
- ・自己の法律上の利益に関係のない違法を主張した場合は訴訟要件を満たすため棄却判決になる(10条1項)
- ・要件審理を通過して初めて本案審理(口頭弁論)に進む
出訴期間(主観的・客観的期間制限)
簡単にいうと
知った日から6カ月、処分の日から1年。行政不服審査法の3カ月と混同しやすいところです。
取消訴訟は、あらかじめ決められている期間内にしか提起することができません。
出訴期間(14条)
- ・処分または裁決があったことを知った日から6カ月以内
- ・処分または裁決の日から1年以内
両方を満たす必要があります。どちらか一方でも過ぎれば提起できません。
「知った日から6カ月」を主観的期間、「処分の日から1年」を客観的期間といいます。処分を知らないまま1年が過ぎれば、知らなかったとしても提起できなくなります。正当な理由があるときは例外が認められます。
審査請求期間との比較
ここは数字の入れ替えで出題されるので、行政不服審査法と並べて覚えます。
審査請求の3カ月と訴訟の6カ月の違いがひっかけの定番です。また行政不服審査法は「翌日から起算して」と書かれている点も違います。
過去問では「取消訴訟は、処分のあった日から6カ月を経過したときは、提起することができない」という記述が出題され、誤りとされました。6カ月の起算点は処分があったことを知った日です。
審査請求を経た場合
審査請求を経てから訴訟を提起する場合は、裁決があったことを知った日から6カ月以内かつ裁決の日から1年以内になります(14条3項)。
出訴期間がない訴訟
出訴期間の制限があるのは取消訴訟だけです。無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟・義務付け訴訟・差止め訴訟には出訴期間の定めがありません。取消訴訟の出訴期間を過ぎてしまった場合は、無効等確認訴訟が使えないかを検討することになります。
具体例
Aが4月1日に処分を受けその日に知った場合、取消訴訟は10月1日までに提起する必要がありますが、審査請求であれば7月1日までに行わなければなりません。
ポイント整理
- ・主観的出訴期間:処分があったことを知った日から6か月以内(14条1項)
- ・客観的出訴期間:処分の日から1年以内(14条2項)
- ・審査請求を経た場合:裁決があったことを知った日から6か月以内かつ裁決の日から1年以内(14条3項)
- ・正当な理由がある場合は期間の制限が緩和される(14条1項・2項ただし書)
効果
- ・出訴期間を徒過すると訴えは不適法として却下される(正当な理由がない限り)
- ・出訴期間が徒過した場合は無効等確認訴訟や当事者訴訟の活用を検討する
条文
【行政事件訴訟法14条1項】取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から6箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。 【14条2項】取消訴訟は、処分又は裁決の日から1年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。 【14条3項】処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があったときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、これに対する裁決があったことを知った日から6箇月を経過したとき又は当該裁決の日から1年を経過したときは、提起することができない。 【8条1項】処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに処分の取消しの訴えを提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。 【10条2項】処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。
重要メモ
- ・取消訴訟の出訴期間は、知った日から6カ月以内かつ処分または裁決の日から1年以内(14条)
- ・6カ月の起算点は処分があった日ではなく、処分があったことを知った日(96-38-2改題 ×)
- ・審査請求は知った日の翌日から3カ月、取消訴訟は知った日から6カ月。数字の入れ替えに注意
- ・審査請求を経た場合は、裁決を知った日から6カ月以内かつ裁決の日から1年以内(14条3項)
- ・出訴期間の制限があるのは取消訴訟だけ。無効等確認訴訟などには定めがない
まとめ
関連判例
警察予備隊違憲訴訟
最大判昭27.10.81952年、日本社会党の党首が警察予備隊の設置・維持に関する一切の行為の無効確認を最高裁に直接提訴した事件。最高裁は、わが国の司法権は具体的な争訟事件が提起されて初めて発動されるものであり、抽象的に法律等の合憲性を判断する権限は裁判所にないと判示した。行政事件訴訟における「主観訴訟の原則」(客観訴訟は法律の特別の定めが必要)の根拠として頻出。
宝塚市パチンコ条例事件
最判平14.7.9宝塚市がパチンコ店建設業者に対し、条例違反を理由に建築工事の中止命令を発し、業者が従わないため工事続行禁止を求めて民事訴訟を提起した事件。最高裁は、国・地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対し行政上の義務履行を求める訴訟は「法律上の争訟」に当たらず不適法と判示した。行政上の義務の司法的強制の限界を問う重要判例。
医薬品ネット販売権利確認請求訴訟
最判平25.1.11改正薬事法施行規則により一般用医薬品のインターネット販売が規制されたことに対し、事業者が販売する地位の確認等を求めた事件。最高裁は、省令による一律販売禁止は法律の委任の範囲を超え違法無効と判断した。公法上の実質的当事者訴訟(地位確認訴訟)の活用例として重要で、2004年改正後の当事者訴訟の受け皿機能を示す判例。
在外選挙権制限事件
最大判平17.9.14在外邦人に国政選挙の選挙権行使を認めない公職選挙法の規定の違憲性を争い、併せて次回選挙で投票できる地位の確認を求めた事件。最高裁は、当該規定を違憲とし、公法上の確認訴訟(実質的当事者訴訟)としての地位確認の訴えを適法と認めた。2004年改正で明記された公法上の確認訴訟の活用例として頻出。
パチンコ球遊器事件
最判昭33.3.28国税庁長官の通達によりパチンコ球遊器が物品税の課税対象とされ、業者が課税処分の取消しを求めた事件。最高裁は、通達は原則として国民に対して法的拘束力を持たず、課税処分自体が法律に基づく以上、通達の内容が法の正しい解釈と合致する限り課税処分は適法と判示した。通達自体の処分性は否定される原則の根拠判例。
通達に対する取消訴訟
墓地埋葬法に関する厚生省通達について、宗教法人が取消訴訟を提起した事件。最高裁は、通達は上級行政機関が下級機関に対して発する内部的指示にすぎず、国民の権利義務を直接形成するものではないため、抗告訴訟の対象となる処分に当たらないと判示した。通達の処分性を原則否定した判例として頻出。
病院開設中止勧告の処分性
最判平17.7.15県知事が医療法に基づき病院開設中止勧告を行い、業者がその取消しを求めた事件。最高裁は、勧告自体は行政指導だが、これに従わないと相当程度の確実さで保険医療機関の指定を受けられなくなり、実際上病院開設が困難になるため、処分性が認められると判示した。形式は行政指導でも実質的効果から処分性を認めた重要判例。
みなし道路の一括指定
最判平14.1.17建築基準法42条2項による特定行政庁の一括指定(告示)により、個別の道路が建築基準法上の道路とみなされることの処分性が争われた事件。最高裁は、一括指定であっても、指定によって個々の土地所有者に建築制限等の具体的法的効果が生じるから、処分性が認められると判示した。告示形式であっても処分性が認められ得ることを示す重要判例。
新潟空港訴訟
最判平元.2.17新潟空港の定期航空運送事業免許について、航空機騒音の被害を受けるおそれのある周辺住民が免許取消しを求めた事件。最高裁は、航空法の関係法令の趣旨・目的を参酌すると、飛行場周辺住民の生活利益を個別的に保護していると解され、著しい騒音被害を受ける周辺住民に原告適格が認められると判示した。原告適格を関連法令から広く解釈した先駆的判例。
小田急高架化訴訟
最大判平17.12.7小田急線の高架化を内容とする都市計画事業認可について、周辺住民が取消しを求めた事件。最高裁大法廷は、行政事件訴訟法9条2項の考慮要素(関係法令の趣旨・目的、被害の内容・性質・程度等)に照らし、騒音・振動等による著しい被害を直接的に受けるおそれのある周辺住民に原告適格を認めた。従来判例を変更し、原告適格を拡大した記念碑的判例で頻出。
もんじゅ訴訟
最判平4.9.22高速増殖炉「もんじゅ」の原子炉設置許可に対して、周辺住民が無効確認訴訟を提起した事件。最高裁は、原子炉等規制法の趣旨は周辺住民の生命・身体の安全を個別的利益としても保護していると解し、重大な事故の危険にさらされる周辺住民に原告適格を認めた。**無効等確認訴訟(36条)**の原告適格の基準を示した判例として重要。
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行政法の重要用語
不可争力
行政行為に対して不服申立てができる期間が過ぎると、私人の側からはもう争えなくなる効力のこと。
期限
行政行為の効力の発生または消滅を、将来確実に到来する事実にかからせる附款のこと。
公用制限
公共目的のために私人の財産権に制限を加えるが、所有権自体は残したままにする行政作用のこと。
行政不服審査法
行政庁の処分や不作為に対して、国民が簡易・迅速に不服を申し立てるための手続を定めた法律のこと。
行政罰
行政上の義務違反に対して制裁として科される罰のこと。刑事罰である行政刑罰と、金銭罰である秩序罰の2種類がある。
法律行為的行政行為
行政庁の意思表示によって法律効果を発生させる行政行為のこと。許可や認可など、意思の内容どおりに効果が生じる点が特徴。
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