第4節 教示
第3章 行政不服審査法
行政庁が処分をした際、国民が不服申立てや訴訟を提起できることを知らなければ、権利救済の機会を失ってしまいます。そこで行政不服審査法は、行政庁に対し、不服申立てができる旨・不服申立てをすべき行政庁・不服申立てができる期間を教える義務(教示)を課しています(82条)。本節では、①処分の相手方に対する教示(82条1項)と利害関係人に対する教示(82条2項・3項)、②教示をしなかった場合(83条)、③審査請求先を誤って教示した場合(22条1項・2項)、④再調査の請求ができないのにできると誤教示した場合(22条3項)、⑤再調査の請求ができる場合に審査請求ができることを教示しなかった場合(22条4項・55条)について学びます。記述式・択一式ともに頻出の分野です。
教示制度の概要(82条)
82条簡単にいうと
処分を受けた人が不服申立ての方法を知らなければ権利救済ができません。そこで行政庁に「教示」義務を課す制度が82条に定められており、試験でも繰り返し問われる重要テーマです。
教示(きょうじ)とは、行政庁が処分を行う際に、相手方に対して不服申立て(審査請求など)ができることを知らせる制度です。一般国民が行政不服申立ての仕組みを熟知しているとは限らないため、行政不服審査法82条が行政庁に教示義務を課しています。
教示義務の対象となるのは「審査請求等をすることができる処分」であり、適用除外に該当する処分には教示義務が生じません。また、教示を怠った場合や誤った教示をした場合の救済措置については、83条および22条に別途定められています。
教示の場面は大きく2つに分かれます。①処分の相手方への教示(82条1項)と、②利害関係人への教示(82条2項・3項)です。それぞれの要件・方式は異なりますので、詳細は各テーマで確認してください。
重要メモ
- ・「審査請求できる処分をする際は相手方に自動的に教示義務、利害関係人は請求があれば教示義務」(82条)
- ・教示義務の対象は「審査請求等をすることができる処分」に限られ、適用除外処分(7条)は対象外
- ・教示の場面は2つ:①処分の相手方への教示(82条1項・自動義務・書面必須)、②利害関係人への教示(82条2項・3項・請求があったとき義務)
- ・教示内容の3要素:①不服申立てができる旨、②不服申立てをすべき行政庁、③不服申立てができる期間
- ・誤教示・教示漏れの救済は22条・83条で別途規定されている(4パターン、最終的に全て審査請求とみなされる)
処分の相手方への教示(82条1項)
82条1項簡単にいうと
処分を受けた本人には、不服申立てに関する情報を行政庁が必ず書面で知らせなければなりません。「書面で」という点が試験のポイントです。
行政庁は、審査請求もしくは再調査の請求または他の法令に基づく不服申立てをすることができる処分をする場合には、処分の相手方に対して、次の事項を書面で教示しなければなりません(82条1項)。
①当該処分につき不服申立てをすることができる旨 ②不服申立てをすべき行政庁 ③不服申立てをすることができる期間
この教示は必ず書面で行う必要があります。口頭での教示は認められません。また、教示の対象は「処分の相手方」であり、処分をする場合には相手方への教示が自動的に義務づけられます。処分の通知書に教示文が記載されているのが一般的な実務です。
具体例
たとえば、運輸支局長がドライバーに対して運転免許停止処分を行う場合を考えましょう。この処分は審査請求が可能な処分であるため、運輸支局長は処分と同時に「この処分に不服がある場合は、国土交通大臣に対して処分を知った日の翌日から起算して3か月以内に審査請求をすることができます」と書面で教示しなければなりません。
重要メモ
- ・「処分の相手方への教示は必ず書面・口頭は不可・請求不要で自動的に義務発生・教示事項は3つ」(82条1項)
- ・82条1項:処分の相手方への教示は「書面で」行わなければならない(口頭は認められない)
- ・教示事項:①不服申立てができる旨、②不服申立てをすべき行政庁、③不服申立てができる期間
- ・処分をする場合には相手方への教示が自動的に義務づけられる(相手方からの請求は不要)
- ・利害関係人への教示(82条2項)との違い:相手方は「自動的・書面必須」、利害関係人は「請求があれば・書面請求には書面」
利害関係人への教示(82条2項・3項)
82条2項・3項簡単にいうと
処分の相手方以外でも、処分に利害関係を持つ人は行政庁に教示を請求できます。「請求があったとき」に義務が生じる点と、書面請求には書面で応じる点を押さえましょう。
利害関係人(処分の相手方以外で処分に利害関係を持つ者)は、行政庁に対して教示を請求することができます(82条2項)。この場合、行政庁は次の事項を教示しなければなりません。
①当該処分について審査請求をすることができる旨 ②審査請求をすべき行政庁 ③審査請求をすることができる期間
利害関係人への教示は、請求があって初めて義務が生じます。請求がなければ行政庁に教示義務は発生しません。この点が処分の相手方(自動的に義務)との大きな違いです。
また、利害関係人から書面による教示を求められた場合は、書面で教示しなければなりません(82条3項)。口頭での請求であれば口頭での教示も可能ですが、書面の請求には必ず書面で応じる必要があります。
重要メモ
- ・「利害関係人への教示は請求があって初めて義務発生・自動的には不要・書面での求めには必ず書面で対応」(82条2項・3項)
- ・82条2項:利害関係人への教示は「教示の請求があったとき」に初めて義務が生じる(請求がなければ不要)
- ・82条3項:利害関係人から書面による教示を求められた場合は、書面で教示しなければならない
- ・口頭で請求された場合は口頭での教示も可(書面請求→書面必須、口頭請求→口頭可)
- ・処分の相手方 vs 利害関係人:相手方は処分時に自動義務、利害関係人は請求があって初めて義務
誤った教示・教示漏れの救済概要(22条・83条)
22条・83条簡単にいうと
行政庁が誤った教示をしたせいで国民が損をするのは不公平です。22条と83条は、誤教示・教示漏れがあっても審査請求ができるよう保護する救済規定であり、出題頻度が高い最重要テーマです。
行政庁が誤った教示をした場合や教示をしなかった場合、正しく審査請求をすることができなくなってしまいます。この場合に審査請求が却下されてしまうと、国民にとって著しく不利益であるため、行政不服審査法は救済規定(22条・83条)を設けています。
救済パターンは以下の4つに整理されます。
①教示がなかった場合(83条):処分庁に不服申立書を提出することで、審査庁への審査請求とみなされます。
②審査請求先を誤って教示した場合(22条1項・2項):誤った行政庁が正しい審査庁に送付し、最初から正しい審査庁への審査請求とみなされます。
③再調査できないのに「できる」と誤教示した場合(22条3項):処分庁が審査庁に送付し、最初から審査庁への審査請求とみなされます。
④再調査できる場合に審査請求できると教示しなかった場合(22条4項):申立てを行うことで、再調査の請求が審査庁への審査請求とみなされます。
①②③は申立て不要で自動的に「審査庁への審査請求とみなす」ことで救済されますが、④のみ申立てが必要という点が重要な相違点です。いずれの場合も最終的な到達点は「審査庁への審査請求があったものとみなす」ことであり、誤教示・教示漏れによる不利益から国民を保護する設計になっています。

誤った教示があった場合(22条・83条)
重要メモ
- ・「4パターン全て最終的には審査庁への審査請求とみなして救済、①②③は自動・④だけ申立て必要」(22条・83条)
- ・4パターン全て最終到達点は「審査庁への審査請求があったものとみなす」で共通
- ・①教示がなかった場合(83条):処分庁に不服申立書を提出→自動的に審査請求とみなす
- ・②審査請求先を誤って教示(22条1項・2項):誤行政庁が正しい審査庁に転送→自動的に審査請求とみなす
- ・③再調査できないのに「できる」と誤教示(22条3項):処分庁が審査庁に転送→自動的に審査請求とみなす
- ・④再調査できる場合に審査請求の教示漏れ(22条4項):申立てが必要→処分庁が審査庁に転送→審査請求とみなす
- ・①②③は申立て不要(自動的にみなす)、④のみ申立てが必要である点が最頻出比較問題
教示がなかった場合の救済(83条)
83条簡単にいうと
教示がないまま処分を受けた人は、処分庁に書面を出せば救われます。申立ては要りません。
行政庁が82条1項の教示をすべきなのに教示をしなかった場合、国民は不服申立てができること自体を知らないままになってしまいます。そこで救済規定が置かれています。
83条の仕組み
1. 処分庁が教示をせずに処分をする 2. 国民が処分庁に審査請求書を提出する 3. 処分庁が審査庁に審査請求書を送付する 4. 最初から審査庁に審査請求がされたものとみなす
行政庁の教示ミスが原因なので、正しい審査請求先に書面を送付し、そのまま審査請求をスタートさせることにしています。
申立ては要らない
このパターンでは、国民の側が何かを申し立てる必要はありません。処分庁に書面を提出するだけで、送付と「みなし」の効果が自動的に生じます。
「最初からみなす」の意味
ここでいう「最初から」とは、処分庁に書面を提出した時点で審査庁に審査請求がされたものとして扱うという意味です。
審査請求期間の起算点が変わるわけではありません。起算点はあくまで処分があったことを知った日です。処分庁に出した時点でみなされるからこそ、あとから審査庁に出し直したせいで期間を過ぎてしまった、ということにならないという趣旨になります。ここは読み違えやすいところです。
具体例
A県が教示をせずにBに処分をした場合、Bは処分庁に審査請求書を出せば、最初から審査庁に審査請求がされたものとして扱われます。
重要メモ
- ・教示をすべき場合に教示がされなかったとき、処分の相手方は処分庁に審査請求書を提出できる(83条1項)
- ・処分庁は審査庁に審査請求書を送付し、最初から審査庁に審査請求がされたものとみなされる
- ・国民の側からの申立ては不要。書面の提出だけで効果が生じる
- ・「最初からみなす」とは、処分庁に提出した時点で審査請求がされたと扱うこと
- ・審査請求期間の起算点が変わるわけではない。起算点は処分があったことを知った日のまま
審査請求先を誤って教示した場合(22条1項・2項)
22条1項・2項簡単にいうと
間違った行政庁を教えられて、そこに出してしまっても大丈夫です。行政の側が正しい先へ回してくれます。
行政庁が審査請求をすべき行政庁でない行政庁を教示してしまい、国民がその行政庁に審査請求書を提出した場合の救済です。
22条1項・2項の仕組み
1. 処分庁が「B行政庁に審査請求してください」と誤って教示する 2. 国民がB行政庁に審査請求書を提出する 3. B行政庁がA審査庁に審査請求書を送付し、審査庁に送付した旨を国民に通知する(22条1項) 4. 最初からA審査庁に審査請求がされたものとみなす(22条2項)
教示がなかった場合(83条)と同じ考え方で、国民の側からの申立ては不要です。誤った行政庁に出すところまでは国民がやりますが、そこから先は行政が処理します。
通知が加わる点
83条との違いは、送付した旨を国民に通知する手続が明記されている点です。誤った行政庁に出したままだと国民は自分の書類がどこへ行ったか分からないので、通知が必要になります。
期間の扱い
「最初からみなす」とは、B行政庁に提出した時点でA審査庁に審査請求がされたものとして扱うという意味です。審査請求期間の起算点が変わるわけではありません。B行政庁に出した時点でみなされるため、そのあとの送付に時間がかかっても期間を徒過したことにはならない、という趣旨です。
具体例
A県が「B市に審査請求を」と誤って教示し、CがB市に審査請求書を出した場合、B市は正しい審査庁へ送付してCに通知し、最初からその審査庁に審査請求されたものとして扱われます。
重要メモ
- ・誤って教示された行政庁に審査請求書が提出されたときは、その行政庁が正しい審査庁に送付する(22条1項)
- ・送付したときは、審査請求人に送付した旨を通知しなければならない
- ・最初から正しい審査庁に審査請求がされたものとみなされる(22条2項)
- ・国民の側からの申立ては不要。この点は教示がなかった場合(83条)と同じ
- ・「最初からみなす」は提出時点でみなすという意味で、審査請求期間の起算点が変わるわけではない
再調査できないのに誤教示した場合(22条3項)
22条3項簡単にいうと
「再調査の請求ができる」という誤った教示を信じて行動した国民が不利益を受けないよう、最終的に審査請求を行ったものと扱われます。そもそも再調査の請求は法律に規定がないとできない点も重要です。
「再調査の請求」は、法律に個別の規定がある場合にのみ認められる手続きです(行政不服審査法5条)。したがって、法律上再調査の請求が認められていない処分について、行政庁が誤って「再調査の請求ができる」と教示してしまったケースが22条3項の問題です。
この場合、国民が教示を信じて再調査の請求書を処分庁に提出しても、そもそも再調査の請求という手続き自体が存在しないため、その請求は開始されません。再調査の請求は法律に規定がないとできないため、誤教示をしても再調査の請求がスタートするわけではありません。
救済措置として、処分庁は速やかに審査庁に再調査の請求書を送付し、審査請求人に送付した旨を通知しなければなりません(22条3項)。その結果、最初から審査庁に審査請求がなされたものとみなされます(22条3項後段)。
重要なのは、「再調査の請求ができる」という誤った教示を信じて行動した国民が、最終的に審査請求を行ったものと扱われることで救済される点です。このパターンも申立て不要で自動的に効果が生じます。
重要メモ
- ・「再調査の請求は法律の規定がないと開始できないため誤教示でも請求はスタートしない→処分庁が審査庁に転送して審査請求とみなす(申立て不要・自動)」(22条3項)
- ・再調査の請求は法律に個別の規定がある場合のみ認められる(行審法5条)←この原則が本パターンの前提
- ・法律上再調査できない処分に「再調査できる」と誤教示→国民が再調査の請求書を提出しても請求はスタートしない
- ・22条3項:処分庁は速やかに審査庁に再調査の請求書を送付し、通知義務→最初から審査庁への審査請求とみなす
- ・申立ては不要(自動的に審査請求とみなされる効果が生じる)
再調査できる場合に審査請求の教示漏れ(22条4項)
22条4項簡単にいうと
再調査の請求と審査請求の両方ができる場合なのに、審査請求できることを教示しなかった。この場合は他のパターンと違い、申立てが必要という点が最大の試験ポイントです。
法律上、再調査の請求と審査請求の両方ができる場合に(行審法5条)、行政庁が「審査請求ができる」ことを教示しなかったケースが22条4項の問題です。
この場合、国民は審査請求ができることを知らないまま再調査の請求をすることになります。救済措置として、再調査の請求人は処分庁に対して「審査庁に審査請求書を送付することを求める申立て」をすることができます(22条4項)。
この申立てがあった場合、処分庁は速やかに審査庁に再調査の請求書を送付しなければならず、送付があったときは最初から審査庁に審査請求がなされたものとみなされます(22条4項)。これにより、再調査の請求が審査請求に「変更」されたものとして扱われます。
このパターンのみ、再調査の請求が審査請求に変更されるには申立てが必要である点が他の3パターンとの大きな相違点です。83条・22条1項・22条3項は申立てなしに自動的にみなされますが、22条4項のみ申立てを要します。
重要メモ
- ・「このパターンだけ『申立て』が必要・他の3パターン(83条・22条1項・3項)は申立て不要で自動」(22条4項)
- ・前提:法律上、再調査の請求と審査請求の両方が可能な場合(行審法5条1項)に、審査請求できる旨を教示しなかったケース
- ・22条4項:再調査の請求人は処分庁に「審査庁への審査請求書の送付を求める申立て」をすることができる
- ・申立てがあった場合→処分庁が速やかに審査庁に送付→最初から審査庁への審査請求があったものとみなす
- ・4パターン中、唯一「申立てが条件」である点が最頻出比較問題(申立てがなければ審査請求とはみなされない)
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行政不服審査法
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