第1節 行政不服審査法総説
第3章 行政不服審査法
行政不服審査法は、行政庁の違法・不当な処分や不作為に対して、国民が簡易・迅速に救済を求めるための制度です。訴訟より手軽で費用もかからないため、実務でも頻繁に利用されます。行政救済制度の入口として、仕組みと特徴をしっかり理解しましょう。
行政不服審査法とは・目的(1条)
第1条条簡単にいうと
簡単にいうと、行政庁の処分に不満がある場合、裁判より手軽に申し立てられる制度が「行政不服審査」です。2014年に大改正され、第三者機関のチェックが加わるなど大幅に強化されました。試験最頻出テーマのひとつで、目的条文の文言と「不当な処分も対象」という点が繰り返し出題されます。
行政不服審査法は、行政庁の処分に対して国民が不服を申し立てる制度を規定する法律です。2014年(平成26年)に約50年ぶりの大改正が行われ、大幅に整備されました。
行政救済法の3本柱として、①行政不服審査法(行政庁に対して不服申立て)、②行政事件訴訟法(裁判所に訴訟提起)、③国家賠償法(金銭的救済)の3つが体系を形成しています。これらは、権利侵害が起きた後の事後救済を担う法律群です。
目的(1条1項)は、「この法律は、行政庁の違法または不当な処分その他の公権力の行使にあたる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下に広く行政庁に対して不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする」と定めています。
目的条文の重要なポイントは3点あります。第一に、「違法な処分」だけでなく「不当な処分」も対象となる点です。行政事件訴訟(取消訴訟)は違法な処分のみを対象とするのに対し、行政不服申立ては不当な処分まで広く対象にできます。不当な処分とは、適法ではあるが裁量権の範囲内で行った処分が妥当でない場合などを指します。第二に、国民が「簡易迅速」かつ「公正な手続」のもとで申し立てられる点です。「公正な手続」は2014年改正で追加された文言で、審理員制度や行政不服審査会への諮問制度の創設と対応しています。第三に、申立先が「行政庁」である点です。訴訟は裁判所に提起しますが、行政不服申立ては行政内部で処理される制度です。
2014年大改正の主な内容として、①不服申立ての一元化(審査請求を原則とする)、②審理員制度の創設(9条・17条)、③行政不服審査会への諮問制度の創設(43条)、④標準審理期間の設定(16条)、⑤口頭意見陳述の機会保障などが挙げられます。これにより、行政内部の判断に第三者的チェック機能が加わりました。
具体例
飲食店の営業停止処分を例にとりましょう。保健所(処分庁・都道府県知事)から「3ヶ月の営業停止」という処分を受けたAさんは、この処分が違法または不当だと考えています。Aさんは裁判所に訴訟を提起する前に、行政不服審査法に基づいて審査庁に審査請求を行うことができます。審査請求は裁判所ではなく行政庁に対して申し立てる制度なので、より手軽・迅速に救済を求められるというメリットがあります。また、処分が「不当」であっても申し立てられるのが行政不服申立ての特徴です。

行政不服審査法とは・目的(1条)
条文(第1条条)
この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下に広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。(1条1項)
重要メモ
- ・「違法だけでなく不当な処分も対象」「申立先は行政庁(裁判所ではない)」の2点が試験の核心。
- ・1条1項の目的:「違法または不当な処分」が対象(不当な処分も含む点が最重要)
- ・行政訴訟(取消訴訟)は違法な処分のみ対象、行政不服申立ては不当な処分も対象(○)[06-16-5]
- ・目的の2本柱:①国民の権利利益の救済、②行政の適正な運営を確保
- ・「簡易迅速かつ公正な手続」——「公正な手続」は2014年大改正で追加された文言
- ・行政救済法の3本柱:行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法
- ・2014年大改正(2016年施行)で審理員制度・行政不服審査会への諮問制度が創設された
- ・申立先は「行政庁」(裁判所ではない)——行政内部での救済制度
- ・審査請求の審理は書面審理が原則(口頭意見陳述の申立ては可能・31条1項)
- ・審査請求期間:処分を知った日の翌日から3か月以内(取消訴訟は6か月以内)
不服申立ての種類・概観(3種類の比較)
第2条〜6条条簡単にいうと
簡単にいうと、行政に不服を申し立てる方法は「審査請求」「再調査の請求」「再審査請求」の3種類あります。原則は審査請求で、残りの2つは法律で特に定められた場合のみ利用できます。3種類の違いと使い分けを整理しておくことが試験対策の要です。
行政不服申立ての種類は、①審査請求(原則・4条)、②再調査の請求(例外・5条)、③再審査請求(例外・6条)の3種類です。2014年大改正により、従来の「異議申立て」が廃止され、審査請求に一元化されました。
① 審査請求は行政不服申立ての原則的な形式であり、処分・不作為のいずれについても申し立てることができます。申立先(審査庁)は原則として最上級行政庁です。詳細は「審査請求と審査庁の特定(4条)」を参照してください。
② 再調査の請求は、大量の処分が行われる分野(税務・社会保険など)で、審査請求の前段階として設けられた簡易な手続です。「法律に特別の定めがある場合」に限り利用でき、対象は処分のみ(不作為は不可)です。
③ 再審査請求は、審査請求に対する裁決に不服がある場合にさらに申し立てる制度で、「法律に特別の定めがある場合」にのみ利用できます。
3種類の使い分けを整理すると、通常は「審査請求」のみを使います。一定の分野(税金・社会保険料等)では「再調査の請求→審査請求」という流れも認められています。審査請求の裁決になお不満があり、かつ法律が定めている場合のみ「再審査請求」ができます。
具体例
税務署から所得税の更正処分(追加課税)を受けたBさんを例にとりましょう。国税通則法には「再調査の請求」の規定があるため、Bさんはまず税務署長(処分庁)に対して再調査の請求をすることができます。再調査の結果にもなお不服があれば、国税不服審判所長(審査庁)に対して審査請求を行います。さらに審査請求の裁決にも不服があれば、国税通則法に基づいて再審査請求が認められる仕組みです。一方、不作為(申請に対して何も応答がない)については再調査の請求はできず、直接審査請求を行うことになります。

不服申立ての種類
重要メモ
- ・「原則=審査請求、例外的に再調査の請求・再審査請求(どちらも法律の定めが必要)」という3分類の全体像を押さえること。
- ・不服申立ての種類は3種類:①審査請求(原則・4条)、②再調査の請求(例外・5条)、③再審査請求(例外・6条)
- ・2014年大改正で「異議申立て」が廃止され、審査請求に一元化された
- ・再調査の請求・再審査請求はどちらも「法律で特に定める場合のみ」利用可能
- ・再調査の請求は処分のみ対象(不作為は不可)——不作為は直接審査請求へ
- ・再調査の請求と審査請求は選択的利用(審査請求をすれば再調査の請求は不可)
- ・再調査の請求の出訴期間:処分があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内(7条)
- ・通常の流れ:審査請求→裁決(再審査請求が法定されている場合のみさらに申立て可)
- ・裁決の種類(5種):却下裁決・棄却裁決・事情裁決・認容裁決(取消し)・変更裁決・義務付け裁決
- ・事情裁決:審査請求に理由があるが公益上取り消せない場合——裁決主文で違法・不当を宣言し棄却
審査請求と審査庁の特定(4条)
第4条条簡単にいうと
簡単にいうと、審査請求はどの行政庁に申し立てればよいかを定めるのが4条です。原則は「最上級行政庁」ですが、処分庁の立場によって例外が3パターンあります。このルールは選択肢の正誤で頻出なので、4条1〜4号の使い分けを正確に覚えましょう。
審査請求は行政不服申立ての原則的な形式です(4条4号)。処分(2条)と不作為(3条)の両方が対象となります。不作為とは、法令に基づく申請をしたにもかかわらず行政庁が何も応答しない状態のことです。
審査庁(申立先)の特定ルール(4条)
審査庁は原則として最上級行政庁ですが(4条4号)、処分庁の立場に応じて以下の例外があります。
4条1号:処分庁に上級行政庁がない場合は、処分庁自身が審査庁となります。たとえば、国の機関が行う処分について処分庁に上級行政庁が存在しない場合、特別の定めがない限り処分庁に対して審査請求を行います[17-15-2]。
4条2号・3号:処分庁が主任の大臣または宮内庁長官もしくは各委員会・各庁の長官である場合も、処分庁自身が審査庁となります。
4条4号:上記以外の場合(一般的な場合)は、最上級行政庁が審査庁となります。これが原則形式です。
審査請求の申立先を誤った場合であっても、正しい審査庁に送付される仕組みが設けられています(4条柱書)。このため、申立人は申立先を多少間違えても救済の機会を失わないよう配慮されています。
具体例
都道府県の出先機関(例:保健所)が行った営業停止処分に対して審査請求をする場合、保健所の上級行政庁である都道府県知事が審査庁となります(4条4号・最上級行政庁)。一方、主任の大臣である国土交通大臣が直接行った処分に対しては、国土交通大臣自身に審査請求します(4条2号)。
重要メモ
- ・「4条1号・2号・3号=処分庁自身が審査庁、4条4号(原則)=最上級行政庁が審査庁」の場合分けを覚えること。
- ・審査庁の原則:最上級行政庁(4条4号)
- ・処分庁に上級行政庁がない場合:処分庁自身が審査庁(4条1号)[17-15-2]
- ・処分庁が主任の大臣・委員会等の長である場合:処分庁自身が審査庁(4条2号・3号)
- ・不作為の審査庁:不作為庁の直近上級行政庁(不作為庁に上級がない場合は不作為庁自身)
- ・審査請求の対象:処分(2条)と不作為(3条)の両方
- ・申立先を誤っても正しい審査庁に送付される(4条柱書)——申立人保護
- ・審理員制度(9条):審査庁は処分に関与していない職員を審理員に指名しなければならない
- ・審理員が不要の場合:審査請求が不適法で却下する場合・処分庁が審査庁の場合など
- ・審査請求人は証拠書類の提出(32条1項)・行政庁保有文書の閲覧謄写請求(38条1項)ができる
再調査の請求・再審査請求(5条・6条)
第5条・6条条簡単にいうと
簡単にいうと、再調査の請求は審査請求の前に処分庁に申し立てる「簡易版」の手続で、再審査請求は審査請求の裁決後にさらに申し立てる「二段階目」の手続です。どちらも「法律で特に定める場合のみ」という点が最重要ポイントです。
再調査の請求(5条)
再調査の請求とは、大量の処分が行われる分野(税務・社会保険など)において、審査請求の前段階として設けられた簡易な手続です。「法律に特別の定めがある場合」に限り、審査請求に代わって、または審査請求と並行して処分庁に対して申し立てることができます。
再調査の請求には次の2つの重要な制限があります。第一に、処分のみが対象であり、不作為は対象外です。申請に対して行政庁が何も応答しない「不作為」に対しては、直接審査請求を行うことになります。第二に、再調査の請求をした後でも審査請求をすることができますが、再調査の請求の結果(決定)に不服がある場合の審査請求は、決定を知った日の翌日から1ヶ月以内に行わなければなりません(5条2項)。
再審査請求(6条)
再審査請求とは、審査請求に対する裁決に不服がある場合に、さらに別の行政庁に対して申し立てる制度です(6条1項)。これも「法律に特別の定めがある場合」に限り行うことができます。雇用保険法・労働者災害補償保険法などの社会保険分野で認められています。
再審査請求の対象は、原裁決(審査請求に対する裁決)のほか、原処分も含まれます(6条2項)。つまり、裁決に不服があるだけでなく、最初の処分そのものを争うこともできます。
両制度の共通点として、どちらも法律の特別の定めがある場合にのみ利用できる例外的な制度であること、通常の審査請求手続とは別に設けられた制度であることが挙げられます。
具体例
雇用保険法に基づく給付不支給決定に不服があるケースを考えます。まず、公共職業安定所長(処分庁)に対して再調査の請求(審査請求相当)を行い、その決定に不服があれば雇用保険審査官に審査請求を行います。さらにその裁決に不服があれば、雇用保険法が再審査請求を認めているため、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができます。
重要メモ
- ・「再調査の請求=処分庁に申し立てる事前の簡易手続、再審査請求=裁決後の二段階目、どちらも法律の定めが必要」の3点セット。
- ・再調査の請求は「法律で定める場合のみ」「処分のみ対象(不作為は不可)」(5条)
- ・再調査の請求と審査請求は選択的——審査請求をすれば再調査の請求は不可
- ・再調査の請求後の審査請求期間:決定を知った日の翌日から1ヶ月以内(5条2項)
- ・再審査請求は「法律で定める場合のみ」「裁決後の二重チェック」(6条)
- ・再審査請求の対象:原裁決だけでなく原処分も含む(6条2項)
- ・再調査の請求の申立先は処分庁、再審査請求の申立先は法律で定める行政庁
- ・代表例——再審査請求:雇用保険法(雇用保険審査官→労働保険審査会)
- ・執行停止の原則:執行不停止(審査請求中も処分の効力・執行は停止しない・25条1項)
- ・例外(必要的執行停止):申立てがあった場合、審査庁は一定要件下で執行停止をしなければならない(25条4項)——内閣総理大臣の異議で取り消し可(27条)
行政不服審査法の適用除外(7条)
第7条条簡単にいうと
簡単にいうと、行政不服審査法はすべての行政作用に適用されるわけではなく、7条で適用しない場合が列挙されています。国会・裁判所の行為や公務員の懲戒など、別の仕組みで救済される場面が除外されています。試験では「この処分に審査請求できるか」という形で問われます。
行政不服審査法7条は、同法の適用が除外される処分・不作為を列挙しています。適用除外に当たる場合は、行政不服審査法に基づく審査請求等を行うことができません。
7条1項(処分の適用除外)として、以下の処分が列挙されています。①国会・議会関係:国会の両議院もしくは一議院または地方議会の議決によってする処分(例:懲罰・資格決定)。②裁判所・裁判官関係:裁判所もしくは裁判官の裁判によってする処分(裁判は裁判所への不服申立てで対応)。③国家公務員・地方公務員に対する処分:人事院が行う人事院規則で定める処分および公平審査の申立てに基づく判定等(別途、国家公務員法・地方公務員法で不服申立て制度が設けられている)。④外国人の出入国・難民認定に関する処分(入管法の特別手続による)。⑤専ら財産の管理・処分に関する処分(例:国有財産の売払いや国の一般的な経済取引)。⑥その他政令で定める処分。
7条2項(不作為の適用除外)として、処分の適用除外(1項各号)に当たる処分についての不作為も適用除外となります。
適用除外の処分であっても、当該処分の根拠法令に別途不服申立て手続が定められている場合には、その特別法の手続によって救済を求めることができます。行政不服審査法はあくまで一般法であり、特別法が優先します。
具体例
国家公務員が懲戒免職処分を受けた場合、行政不服審査法による審査請求はできません(7条1項3号)。この場合は、国家公務員法に基づき人事院に対して審査請求(不利益処分の審査申立て)を行うことになります。また、裁判所が行う訴訟手続上の処分(例:証人尋問に関する決定)も行政不服審査法の対象外であり、民事訴訟法・刑事訴訟法の不服申立て制度によって争います。
重要メモ
- ・「国会・裁判所・公務員の懲戒など、別の救済制度がある分野は行政不服審査法の適用除外」という7条の趣旨を押さえること。
- ・7条1項:適用除外の代表例——国会・議会の議決による処分、裁判所の裁判による処分、刑事事件の捜査等
- ・条例に基づく処分も適用除外(各自治体の条例で定める)
- ・適用除外でも根拠法令に別途不服申立て制度があればその手続で救済可能(特別法優先)
- ・7条2項:処分の適用除外に当たる処分についての不作為も適用除外
- ・「行政不服審査法を適用できる処分か」という問いで7条の知識が問われる
- ・公務員の不利益処分:行政不服審査法ではなく国家公務員法・地方公務員法の手続による
- ・教示義務(82条):書面で処分をする場合、①不服申立先・②不服申立期間を書面で示す義務あり
- ・誤った教示の処理:「審査庁でない行政庁を審査庁と教示した場合」→誤った審査庁に提出でき、正しい審査庁へ転送義務
- ・行政不服審査法と取消訴訟の比較:申立期間3か月 vs 出訴期間6か月、必要的執行停止は行政不服審査法にのみ規定
まとめ
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行政法の重要用語
不可争力
行政行為に対して不服申立てができる期間が過ぎると、私人の側からはもう争えなくなる効力のこと。
期限
行政行為の効力の発生または消滅を、将来確実に到来する事実にかからせる附款のこと。
公用制限
公共目的のために私人の財産権に制限を加えるが、所有権自体は残したままにする行政作用のこと。
行政不服審査法
行政庁の処分や不作為に対して、国民が簡易・迅速に不服を申し立てるための手続を定めた法律のこと。
行政罰
行政上の義務違反に対して制裁として科される罰のこと。刑事罰である行政刑罰と、金銭罰である秩序罰の2種類がある。
法律行為的行政行為
行政庁の意思表示によって法律効果を発生させる行政行為のこと。許可や認可など、意思の内容どおりに効果が生じる点が特徴。
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