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テキスト/行政法/第1節 行政法の基本原理

第1節 行政法の基本原理

第1章 総論

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行政法は、国や地方公共団体が行う行政活動全般を規律する法分野です。「行政法典」という一冊の法律は存在せず、行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法など多数の法律の総称です。まず行政組織法・行政作用法・行政救済法の3分類で全体像をつかみ、次に行政活動を縛る最重要原則である法律による行政の原理を学びます。試験では、この基本原理が具体的な制度にどう現れるかが繰り返し問われます。

1

行政法の概念と3分類

簡単にいうと

行政法とは「行政に関する法律の集まり」であり、一冊の「行政法典」は存在しません。行政手続法・行政不服審査法・国家賠償法などを総称して「行政法」と呼びます。まずこの法律群を組織・作用・救済の3分類で整理することが学習の第一歩です。

行政法とは、行政に関する国内公法の総体です。民法・刑法のような単一の法典(「行政法典」)は存在せず、行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法など、多数の法律の総称です。

行政法は大きく次の3分類に整理されます。

分類
内容
主な法律
行政組織法
行政機関の組織・権限に関する法
内閣法、国家行政組織法、地方自治法(組織部分)
行政作用法
行政が国民に対して行う活動(作用)に関する法
行政手続法、各種規制法(食品衛生法・道路法など)
行政救済法
違法・不当な行政から国民を救済する法
行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法

事前救済と事後救済の整理

タイミング
手段
根拠法
処分の前(事前救済)
適正手続きの保障
行政手続法
処分の後(事後救済)
不服申立て
行政不服審査法
処分の後(事後救済)
行政訴訟
行政事件訴訟法
損害が発生した場合
損害賠償
国家賠償法

この3分類と事前・事後の整理は、行政法全体を俯瞰する地図になります。どの法律が何のための法律かを常に意識しながら学習することが大切です。

具体例

国土交通省が特定の土地に道路を作る場面で3分類を確認しましょう。 ①国土交通省がどのような組織・権限を持つかを定めるのが「行政組織法(内閣法・国家行政組織法)」です。 ②国土交通大臣が「この土地に道路を作る」として土地収用の処分をするのが「行政作用法(土地収用法)」の世界です。 ③その収用処分に不満がある土地所有者が不服申立てや裁判で争うのが「行政救済法(行政不服審査法・行政事件訴訟法)」、違法な収用によって損害を受けた場合に賠償を求めるのが「国家賠償法」です。

分類
内容
主な法律
行政組織法
行政機関の組織・権限に関する法
内閣法、国家行政組織法
行政作用法
行政が国民に対して行う活動に関する法
行政手続法、各種規制法
行政救済法(事前)
処分前の適正手続ルール
行政手続法
行政救済法(事後)
処分後の不服申立・訴訟・損害回復
行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法

重要メモ

  • ・「行政法=行政に関する国内公法の総体(単一の法典なし)」「組織法・作用法・救済法の3分類」と「事前救済(行政手続法)vs事後救済(不服審査法・行政訴訟法・国家賠償法)」の整理が全体の地図になる
  • ・行政法とは「行政に関する国内公法の総体」であり、単一の法典(行政法典)は存在しない
  • ・3分類:①行政組織法(行政機関の組織・権限)=内閣法・国家行政組織法、②行政作用法(行政が国民に対して行う作用)=行政手続法・各種規制法、③行政救済法(違法・不当な行政から国民を救済)=行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法
  • ・事前救済と事後救済の整理:処分前は行政手続法(適正手続の保障)、処分後は行政不服審査法(不服申立て)・行政事件訴訟法(行政訴訟)・国家賠償法(損害回復)
  • ・行政法全体の学習において「今学んでいる法律がどの分類に属するか」を常に意識することが重要
2

行政活動の特徴

簡単にいうと

行政は私たちの生活を守るために強制力を使うことができる、という点が最大の特徴です。普通の民間会社にはできない「強制」が行政には許されていますが、だからこそ法律によるコントロールが必要になります。

私たちが安全で安心した生活を送るためには、警察や消防などの行政サービスが欠かせません。これらの活動は私たちが納めた税金によって賄われています。

行政活動の最大の特徴は、強制力を伴うことが多いという点です。一般の民間企業や個人が他人に何かを強制することはできませんが、行政は法律の根拠があれば相手方の意思に関わらず強制的に行動することができます。

具体的な例を見てみましょう。課税処分(税金を払いなさいという命令)は典型例です。税金を支払いたくないと思っても、行政は財産を差し押さえる形で強制徴収することができます。国民は支払いを拒否できません。また、不衛生な飲食店への営業停止命令や、違法建築物の強制的な撤去なども、行政が強制力を行使する場面です。

行政活動のもう一つの重要な特徴は、不特定多数の国民を相手にした活動である点です。警察官が犯罪を取り締まるのも、税務署が課税処分をするのも、特定の個人との契約に基づくものではなく、法律に基づいて一方的に行われます。

さらに、行政活動は迅速かつ円滑に行われる必要があります。火事が起きたときに消防署が消火活動をするのに、相手方の同意を得てから行動していては間に合いません。このように、行政活動の迅速性・一方性も重要な特徴です。

しかし、このような強制的な行政活動を無制限に認めてしまうと、国民の権利が侵害されてしまいます。そこで生まれた考え方が「法律による行政の原理」です。行政活動は国民のつくったルールである法律に基づいて行われなければならない、とすることで国民の権利を守るわけです。

具体例

課税処分を例にとりましょう。税務署(行政)が「あなたは50万円の税金を納めなさい」という課税処分を出した場合、国民はたとえ納得していなくても支払いを拒否することはできません。もし支払わなければ、行政は強制的に財産(預金口座・不動産など)を差し押さえて徴収することができます。これが行政活動の強制力の典型例です。一方、行政が補助金を交付するような場合(国民に利益を与える行政活動)は、強制力は使われません。

行政活動の特徴

行政活動の特徴

重要メモ

  • ・「行政活動は不特定多数への一方的・強制的な活動」という特徴から、民事活動とは異なる特別なルール(公定力・自力執行力等)が認められる。だからこそ法律によるコントロール(法律による行政の原理)が必要になる
  • ・行政活動の最大の特徴は「強制力を伴うことが多い」点である(民間企業・個人は他人を強制できないが、行政は法律の根拠があれば相手方の意思に関わらず強制できる)
  • ・行政活動は不特定多数の国民を相手にした一方的な活動である(特定の個人との契約ではなく、法律に基づいて一方的に行われる)
  • ・行政活動には迅速性が求められる(消防・警察等の緊急場面では相手方の同意を得る余裕がない)
  • ・行政活動の強制力を無制限に認めると国民の権利が侵害されるため、「法律による行政の原理」によってコントロールされる
3

法律による行政の原理

簡単にいうと

行政は国民が作ったルール(法律)に基づいてしか動けない、というルールです。行政が勝手に国民の権利を侵害できないようにするための最重要原則で、試験でも頻出です。3つの内容(法規創造力・法律の優位・法律の留保)の組み合わせが問われます。

行政活動が強制力を持つ以上、それを無制限に認めると国民の権利が侵害されてしまいます。そこで、行政活動は国民のつくったルール(法律)に基づかなければならないという考え方が生まれました。これが「法律による行政の原理」です。

この原理は、次の3つの内容に分類されます。

原則
内容
すべての行政活動に適用?
①法律の法規創造力
国民の権利義務に関するルール(法規)は国会の法律に基づかなければならない
○(法律だけが法規を創造できる)
②法律の優位
あらゆる行政活動は法律に違反してはならない
○(例外なし)
③法律の留保
一定の行政活動には法律の根拠が必要
△(侵害行政のみ、通説)

①法律の法規創造力:行政に変化をもたらす一般的なルール(法規)を創造するのは、国会が制定する法律に基づかなければならないという原則。行政が独自に国民の権利義務に関するルールを作ることはできず、行政立法(政令・省令など)も法律の委任を受けて初めて作成できる。

②法律の優位:あらゆる行政活動は法律の定めに違反してはならないという原則。行政が法律に反する活動をした場合、その行政活動は違法となる。すべての行政活動に例外なく適用される。

③法律の留保:行政活動を行うにあたり、どの範囲で法律の根拠が必要かという問題。通説・判例は「侵害留保説」を採用しており、権力的に国民の権利・自由を侵害する行政活動を行う場合に限り法律の根拠が必要とされる(→次テーマで詳述)。

法律による行政の原理は、行政法総論の出発点であり、行政法の全体を貫く最も重要な原則です。

重要メモ

  • ・「①法律の法規創造力(国民の権利義務ルールは法律のみ創造できる)、②法律の優位(すべての行政活動に例外なく適用)、③法律の留保(侵害留保説が通説・判例)」の3要素をセットで覚える
  • ・法律による行政の原理は①法律の法規創造力、②法律の優位、③法律の留保の3つから構成される
  • ・法律の法規創造力:国民の権利義務に関するルール(法規)を創造できるのは国会が制定する法律のみ。行政立法(政令・省令)も法律の委任を受けて初めて制定できる
  • ・法律の優位:あらゆる行政活動は法律に違反してはならない(例外なし)。行政が法律に反した場合その行政活動は違法となる
  • ・法律の留保:通説・判例は「侵害留保説」を採用。権力的に国民の権利・自由を侵害する行政活動にのみ法律の根拠が必要(給付行政・行政指導には根拠不要)
4

法律の留保と侵害留保説

簡単にいうと

「どんな行政活動に法律の根拠が必要か」という問題です。通説の侵害留保説は「国民の権利・自由を侵害する活動にだけ根拠が必要」という立場で、試験頻出の重要論点です。

「法律の留保」とは、行政活動を行うにあたり、どの範囲で法律の根拠が必要かという問題です。学説上いくつかの考え方があり、通説・判例は侵害留保説を採用しています。

学説の比較

学説
内容
特徴
侵害留保説(通説・判例)
国民の権利・自由を侵害する行政活動にのみ法律の根拠が必要
給付行政・行政指導には根拠不要
全部留保説
すべての行政活動に法律の根拠が必要
最も広い範囲で根拠を要求
社会留保説
侵害行政に加え、給付行政(福祉・補助金等)にも法律の根拠が必要
現代の福祉国家に対応
権力留保説
権力的な行政活動(一方的・強制的なもの)には法律の根拠が必要
侵害留保説に近い立場

侵害留保説とは、権力的に国民の権利・自由を侵害する行政活動を行う場合に限り、法律の根拠が必要とする考え方です。逆に言えば、国民に利益を与える行政活動(給付行政)については、必ずしも法律の根拠は不要とされています。

法律の根拠が必要な場合(侵害的行政活動) - 課税処分(税金を徴収する)→ 一方的に財産を徴収するため法律が必要 - 営業停止処分(飲食店の営業を止める)→ 権利を一方的に制限するため法律が必要 - 用途地域の指定(土地利用を制限する)→ 財産権を制限するため法律が必要 - 強制撤去(違法建築を取り壊す)→ 財産に実力行使するため法律が必要

法律の根拠が不要な場合(侵害的でない行政活動) - 補助金交付決定(補助金を支給する)→ 国民が損をしないため法律の根拠は不要 - 国との契約(行政が業者と契約する)→ 国民の意思で決められるため法律の根拠は不要

具体例

土地利用を制限する用途地域の指定を例にとりましょう。都市計画法に基づいて特定の地域が「第1種住居地域」に指定されると、その土地の所有者は工場や風俗営業店を建てることができなくなります。これは国民の財産権(土地の利用権)を一方的に制限する侵害的行政活動ですから、侵害留保説によれば必ず法律(都市計画法)の根拠が必要です。一方、市が農家に補助金を交付する場合は国民に利益を与えるだけなので、侵害留保説によれば法律の根拠は必ずしも必要ではありません。

学説
法律の根拠が必要な場面
試験での立場
侵害留保説(通説・判例)
権利・自由を侵害する行政活動のみ
◎ これを覚える
全部留保説
すべての行政活動
参考程度
社会留保説
侵害行政+給付行政
参考程度
権力留保説
権力的(一方的・強制的)な行政活動
参考程度

重要メモ

  • ・「侵害留保説(通説)=権力的に国民を侵害する場合のみ法律の根拠が必要。補助金交付・行政との契約は不要」と覚える
  • ・法律の留保の通説・判例は「侵害留保説」:権力的に国民の権利・自由を侵害する行政活動にのみ法律の根拠が必要
  • ・4学説の比較:侵害留保説(通説・判例)=侵害行政のみ根拠必要、全部留保説=すべての行政活動に必要、社会留保説=侵害+給付行政に必要、権力留保説=権力的(強制的)な行政活動に必要
  • ・法律の根拠が必要な場面(侵害行政):課税処分・営業停止処分・用途地域の指定・強制撤去など
  • ・法律の根拠が不要な場面(侵害留保説では不要):補助金交付決定(国民が損をしない)・行政との契約(意思で決められる)・行政指導(任意の協力を求めるだけ)
5

行政法の一般原則(概要)

簡単にいうと

民法には「信義則」「権利濫用禁止」などの一般原則が条文に書かれていますが、行政法にはそういった明文規定がありません。それでも判例によって行政法の世界でも4つの一般原則が認められています。

民法には「信義則」(民法1条2項)や「権利濫用の禁止」(民法1条3項)などの一般原則が条文に明記されています。しかし、行政法にはこのような一般原則を直接規定した条文がありません。

それでも行政法においても、判例・学説によって以下の4つの一般原則が認められています。

原則
内容
民法の対応条文
①信義誠実の原則(信頼保護の原則)
行政は国民の期待を裏切るような行動をしてはならない
民法1条2項
②権限濫用禁止の原則
行政が持っている権限を不当に行使してはならない
民法1条3項
③平等原則
正当な理由なく国民を差別的に取り扱ってはならない
(憲法14条)
④比例原則
目的達成のために適切・必要最小限の手段をとらなければならない
—

特に信義誠実の原則(信頼保護の原則)は、行政と国民の信頼関係に関わる多くの判例が存在し、試験頻出の重要論点です。

行政法の一般原則

行政法の一般原則

一般原則
内容
民法の対応条文
主要判例
信義誠実の原則(信頼保護の原則)
行政は国民の期待を裏切るような行動をしてはならない
民法1条2項
最判昭62.10.30、最判昭56.1.27、最判平19.12.13
権限濫用禁止の原則
行政が持っている権限を不当に行使してはならない
民法1条3項
-
平等原則
正当な理由なく国民を差別的に取り扱ってはならない
(憲法14条)
-
比例原則
目的達成のために適切・必要最小限の手段をとらなければならない
-
-

重要メモ

  • ・行政法には一般原則の明文規定がないが、判例・学説で①信義誠実、②権限濫用禁止、③平等、④比例の4原則が認められており、違反すれば行政行為が違法となる
  • ・行政法には信義則・権利濫用禁止の明文規定はない(民法1条2項・3項に対応する条文が行政法にはない)が、判例・学説によって一般原則として認められている
  • ・行政法の一般原則4つ:①信義誠実の原則(信頼保護の原則)=行政は国民の期待を裏切る行動をしてはならない、②権限濫用禁止の原則=行政権限を不当に行使してはならない、③平等原則=正当な理由なく差別的取扱いをしてはならない(行政自己拘束の原則)、④比例原則=目的達成のため必要最小限の手段をとらなければならない
  • ・比例原則:行政の手段は目的達成に比例・必要最小限でなければならない(過剰な行政作用は禁止)
  • ・平等原則(行政自己拘束の原則):行政機関は合理的な理由がない限り、同種の事案に対して同じ基準で判断しなければならない(行政規則・先例に自己が拘束される)
  • ・一般原則違反の行政行為は違法となり、取消訴訟・国家賠償の対象となりうる
6

信義誠実の原則(信頼保護の原則)と判例

簡単にいうと

行政は国民の期待を裏切ってはならない、という原則です。ただし実際に適用が認められた例はごく限られます。

信義誠実の原則(信頼保護の原則)とは、行政は国民の期待を裏切るような行動をしてはならないという原則です。民法の信義則(民法1条2項)に対応しますが、行政法には条文がなく判例・学説によって認められています。

試験では、どの事案で適用が認められ、どの事案で認められなかったかという結論が問われます。

判例まとめ

事案
判断
租税の賦課行為(最判昭62.10.30)
租税法律関係について、信義則の適用には慎重を要し、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特段の事情があることを要する
宜野座村工場誘致政策変更事件(最判昭56.1.27)
村長の交替に伴う工場誘致政策の変更自体はやむを得ないとしても、それによって特定の者が被った積極的損害に対して何ら代替的措置をも講じないことは、信頼保護の原則に反する
公務員失職の主張(最判平19.12.13)
有罪判決を受けた公務員はその時点で失職していたはずであるが、刑事事件で有罪判決を受けたことを隠し、ほぼ27年にわたって公務員として勤務した者に対して、国が有罪判決時に失職したと主張することについて、信義則に反し、権利の濫用にあたるものということはできない

租税の分野では認められにくい

長年固定資産税が課されていなかった土地に突然税金が課されることになった、という場面を考えます。所有者からすれば「いきなり税金を取るのは信頼保護の原則に反する」と言いたくなります。

しかしここで信頼保護の原則を認めると、きちんと税金を払っているほかの国民との間で不公平感が生まれます。そのため租税関係においては、原則として信頼保護の原則は適用されません。

適用されるのは、納税者間の平等・公平を犠牲にしてもなお保護しなければ正義に反するといえるような特段の事情がある場合に限られます。ハードルが非常に高いということです。

宜野座村事件が認められた理由

政策を変更したこと自体が違法とされたわけではありません。変更はやむを得ないが、それによって企業が積極的損害を被ったのに村が何も対策をしなかった点が信頼保護の原則に反するとされました。

ここを「政策変更そのものが違法とされた」と読むと誤ります。

公務員失職の事案は認められなかった

27年という長期間が経っているので信義則違反になりそうに見えますが、本人が有罪判決を受けたことを隠していたという事情があります。そのため、国が失職を主張することは信義則違反にも権利濫用にもあたらないとされました。

信頼を裏切られた側に落ち度があれば、信頼保護は働かないという考え方です。結論を逆に覚えないよう注意が必要です。

具体例

長年固定資産税が課されていなかったAの土地に突然課税処分がされても、納税者間の公平を犠牲にしてもなお保護すべき特段の事情がなければ、信頼保護の原則は適用されません。

租税関係と信頼保護の原則 — 固定資産税が課されなかった土地に突然課税された事例。租税関係では原則として信頼保護の原則(信義則)は適用されない

租税関係と信頼保護の原則

事案
信頼保護の原則に反するか
租税の賦課行為(最判昭62.10.30)
特段の事情がある場合に限り認められる(原則として適用されない)
宜野座村工場誘致政策変更事件(最判昭56.1.27)
反する(代替的措置を何ら講じなかった点)
公務員失職の主張(最判平19.12.13)
反するものということはできない

重要メモ

  • ・租税の賦課行為では、納税者間の平等・公平を犠牲にしてもなお保護すべき特段の事情がある場合に限り信義則が適用される(12-8-3 ○)
  • ・宜野座村事件は、政策変更自体ではなく、積極的損害に何ら代替的措置を講じなかった点が信頼保護の原則に反するとされた
  • ・公務員失職の主張は、信義則に反し権利の濫用にあたるものということはできない(最判平19.12.13)
  • ・公務員失職の事案は、本人が有罪判決を隠していたという事情が結論を分けている
  • ・租税関係では、ほかの納税者との不公平が生じるため原則として信頼保護の原則は適用されない
7

行政法の適用範囲(公法と私法の関係)

簡単にいうと

行政と国民の関係にも民法が使える場面があります。どの判例が○でどれが×かを覚えるところです。

国や地方公共団体と国民との間で適用されるルールを公法、国民同士の間で適用されるルールを私法といいます。

このようにルールの適用範囲は決まっていますが、公法が適用される分野でも私法が適用されることがあります。逆に、公法上の法律関係に私法の適用がない場合もあります。

私法を適用する例

公営住宅の賃貸借契約は、行政と賃借人の間の関係なので公法上の法律関係です。しかし公営住宅法には使用関係に関するルールが置かれていないため、民法の規定が適用されます。

私法を適用しない例

公営住宅の入居者Aが死亡し、Bが相続したとします。民法では賃借権は相続の対象ですが、このルールは公営住宅では適用されません。

公営住宅法は低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸するための法律です。Aの所得が低かったとしても、相続人Bの所得が低いとは限らないため、BはAの公営住宅の使用権を主張できません。

判例まとめ(民法の適用あり○/適用なし×)

事案
適用
内容
国税滞納処分の差押え(最判昭31.4.24)
○
国税滞納処分による差押えには、民法の対抗要件の規定が適用される
公営住宅の使用関係(最判昭59.12.13)
○
公営住宅の使用関係については、原則として民法および借地借家法の適用がある
自治体の契約と双方代理(最判平16.7.13)
○
普通地方公共団体がその関連団体と契約を結ぶ場合、当該普通地方公共団体の長が代表して行う契約の締結には民法の規定が類推適用される
農地買収処分と民法177条(最大判昭28.2.18)
×
私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法177条の規定は適用されない
公営住宅法と相続(最判平2.10.18)
×
公営住宅の入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はない
建築基準法65条と民法234条(最判平元.9.19)
×
防火地域または準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物について、建築基準法により外壁を隣地境界線に接して設けることができる

覚え方

一見難しそうに感じますが、同じような問題が繰り返し出題されているだけなので、基本的には○×を覚えるだけでも対応できます。

公営住宅が2回出てくる点に注意します。使用関係は○、相続は×です。使用関係は一般の賃貸借と似ているので民法が入りますが、相続は低所得者向けという制度目的に反するので入りません。

なお民法234条1項は、建物建築の際に境界線から50cm以上空けなければならないとする規定です。建築基準法65条はその規定を使わずに外壁を設けることができるとしています。

具体例

公営住宅に入居していたAが死亡しBが相続した場合、Bは公営住宅の使用権を当然には主張できませんが、A自身の使用関係には民法と借地借家法が適用されます。

行政法の適用範囲

行政法の適用範囲

事案
民法の適用
国税滞納処分の差押え(最判昭31.4.24)
○
公営住宅の使用関係(最判昭59.12.13)
○
自治体の契約と双方代理(最判平16.7.13)
○(類推適用)
農地買収処分と民法177条(最大判昭28.2.18)
×
公営住宅法と相続(最判平2.10.18)
×
建築基準法65条と民法234条(最判平元.9.19)
×

重要メモ

  • ・公営住宅の使用関係には、原則として民法および借地借家法の適用がある(13-10-4 ×)
  • ・公営住宅の入居者が死亡しても、相続人が使用する権利を当然に承継する余地はない(最判平2.10.18)
  • ・国税滞納処分による差押えには民法の対抗要件の規定が適用される(最判昭31.4.24)
  • ・農地買収処分には民法177条が適用されない(最大判昭28.2.18)
  • ・自治体が関連団体と契約を結ぶ場合、長が代表して行う契約の締結には民法の規定が類推適用される(最判平16.7.13)

まとめ

テーマ
ポイント
注意点
法律による行政の原理
法律の優位(違反禁止)と法律の留保(根拠必要)の2本柱
優位と留保を混同しない。侵害留保説が通説
行政行為の分類
許可(禁止解除)≠特許(権利設定)≠認可(補充)
公定力は違法処分も取消まで有効扱いするだけ
行政裁量
逸脱(範囲外)・濫用(目的違反)は違法
裁量あっても無制限ではない。伊方原発判例重要
附款
条件(不確定)≠期限(確定)、負担は付随義務
附款を付すにも法令上の根拠が必要
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