第1節 行政手続法総説
第2章 行政手続法
不適切な行政活動によって国民の利益が侵害された場合、裁判所に訴えるなどして救済を求めることができます。しかし、そうした活動がそもそも行われないようルールを決めておくことも大切です。その趣旨で制定されたのが行政手続法です。この節では、権利侵害が起きる前に働く事前措置としての位置づけ、行政手続法が規律する5つの対象(申請に対する処分・不利益処分・行政指導・届出・命令等を定める手続)、そして1条の目的を学びます。行政契約や行政計画についての手続規定が置かれていない点もあわせて押さえます。
行政手続法とは
簡単にいうと
飲食店の営業許可を突然取り消されないように、行政活動のルールを事前に決めたのが行政手続法です。不適切な行政活動が起きてから裁判で争うのではなく、そもそも起きないようにするための「事前手続ルール」を定めた法律です。
行政機関が国民に対して行政処分を下したり、行政指導を行ったりする場合には、その手続の公正さと透明性を確保する必要があります。しかし、行政手続法が制定される以前は、各行政機関がそれぞれ独自のやり方で行政活動を行っており、統一的な手続基準が存在していませんでした。
このような状況を改善するために制定されたのが行政手続法(平成5年制定、平成6年施行)です。行政手続法の根本的な考え方は「事前手続規制」にあります。つまり、不適切な行政活動によって国民の権利利益が侵害された後に、行政不服審査法や行政事件訴訟法によって「事後的に救済する」のではなく、そもそも不適切な行政活動が行われないよう、行政機関の活動に手続的なルールを課す点に特徴があります。
行政手続法の位置づけを理解するには、行政活動の全体像を把握することが大切です。行政活動に対する法的コントロールには大きく「事前コントロール」と「事後コントロール」の二種類があります。行政手続法は事前コントロールの代表例であり、行政処分等を行う際の手続を適正に規律します。一方、行政不服審査法(行政審判手続)と行政事件訴訟法(裁判所による司法審査)は、処分等がなされた後の事後コントロールの手段です。
また、行政手続法は「行政手続に関する一般法」として機能しており、他の個別法に特別の規定がある場合にはそちらが優先されますが(法律の特別法優先原則)、個別法に規定がない事項については行政手続法が適用されます。
なお、参考書では「処分に関する手続が行政手続法の中心テーマ」とされており、処分には大きく「申請に対する処分(5条〜11条)」と「不利益処分(12条〜31条)」の2種類があることを最初に意識しておくことが、この章全体を理解する鍵となります。
具体例
飲食店を開業しようとするAさんを例にとりましょう。Aさんが保健所に営業許可申請を提出した場合、行政手続法により保健所は審査基準を公表しておく義務があり、一定期間内に許可・不許可の判断を示さなければなりません。また、既にAさんの飲食店が営業中であるところ、行政庁が営業停止処分(不利益処分)を下そうとする場合には、事前にAさんへ意見陳述の機会を与えなければなりません。このように、行政手続法はAさん(国民)の立場を守るための「行政活動のルール集」なのです。

行政手続法とは
重要メモ
- ・「行政手続法は処分を受ける前の事前手続ルールを定めた一般法で、事後救済(行政不服審査法・行政事件訴訟法)とは役割が異なる」がポイント
- ・行政手続法(平成5年制定・平成6年施行)は行政手続に関する一般法で、個別法に特別の規定がある場合は個別法が優先される
- ・事前コントロール(行政手続法)と事後コントロール(行政不服審査法・行政事件訴訟法)の対比を整理して覚える
- ・処分には「申請に対する処分(5〜11条)」と「不利益処分(12〜31条)」の2種類があることを最初に把握する
- ・行政手続法は行政契約・行政計画には適用されない(手続規定が置かれていない)
行政手続法の内容
簡単にいうと
行政手続法は処分・行政指導・届出・命令等制定の手続を定めています。行政契約と行政計画は対象外という点が試験でよく問われます。
行政手続法が規律する行政活動の範囲は明確に定められています。行政手続法の主な内容(規律対象)を整理すると、以下の4つに分類されます。
①処分に関する手続:処分はさらに「申請に対する処分(5条〜11条)」と「不利益処分(12条〜31条)」の2種類に分かれます。申請に対する処分とは、法令に基づき行政庁の許認可等を求める行為(申請)に対して行政庁が諾否の応答をするものです(2条3号)。これに対して不利益処分とは、行政庁が法令に基づき特定の者を名あて人として、直接にその権利を制限し、またはその権利に制限を課する処分です(2条4号)。
②行政指導に関する手続(32条〜36条の2):行政指導とは、行政機関がその任務や所掌事務の範囲内において、一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為・不作為を求める指導・勧告・助言等のことをいいます。強制力はありませんが、行政実務では頻繁に用いられます。
③届出に関する手続(37条):届出とは、行政庁に対して一定の事項を通知する行為であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているものです。申請と異なり、諾否の応答を求めるものではありません。
④命令等を定める手続(38条〜45条):命令等(法律に基づく政令・省令等の行政立法)を制定する際の手続を規定しています。パブリックコメント(意見公募手続)が代表例です。
重要な点として、行政契約(国や地方公共団体が私人と結ぶ契約)および行政計画(まちづくり計画等)については、行政手続法上の手続規定が置かれていません。これは試験で頻繁に問われる論点ですので確実に押さえてください。
また、行政手続法は国の行政機関だけでなく、地方公共団体の機関が処分・行政指導・届出に関する手続を行う場合も一部適用されます(ただし命令等の制定手続については地方公共団体は含まれず、各地方公共団体が条例で定める)。
具体例
行政手続法の適用対象を具体例で考えましょう。飲食店営業許可申請(申請に対する処分)・営業停止処分(不利益処分)・建築指導(行政指導)・廃業の届出(届出)・厚生労働省令の制定(命令等)はすべて行政手続法の対象です。一方、国有地の売却契約(行政契約)や都市計画決定(行政計画)については行政手続法に手続規定がなく、対象外となります。

行政手続法の内容
重要メモ
- ・「行政手続法が規律する対象は①申請処分②不利益処分③行政指導④届出⑤命令等制定手続の5つで、行政契約・行政計画は対象外」がポイント
- ・行政手続法の規律対象:①申請に対する処分(5〜11条)、②不利益処分(12〜31条)、③行政指導(32〜36条の2)、④届出(37条)、⑤命令等制定手続(38〜45条)
- ・行政契約・行政計画は行政手続法の対象外(過去問頻出論点)
- ・行政指導は強制力がないが行政手続法の適用対象である(2条6号)
- ・地方公共団体の機関が行う命令等の制定手続については行政手続法は適用されず、各地方公共団体が条例で定める
行政手続法の目的
第1条簡単にいうと
行政手続法の目的条文は試験で直接問われます。「公正の確保」と「透明性の向上」の2つがキーワードで、その先にある「国民の権利利益の保護」が最終目的です。条文をそのまま覚えてしまいましょう。
行政手続法の目的は1条1項に定められており、試験でも頻出の重要条文です。
行政手続法第1条1項(目的等) 「この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第46条において同じ)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする」
この条文の構造を整理すると、「共通事項を定める」→「公正の確保・透明性の向上」→「国民の権利利益の保護」という目的の連鎖になっています。
透明性の定義が条文中に明示されている点は重要です。「行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること」と定義されており、単に結果だけでなく、意思決定の過程(プロセス)も明らかにすることが求められています。この定義は第46条でも同じ意味で使われます。
目的として挙げられているのは「公正の確保」と「透明性の向上」の2つですが、最終的な目的(「もって」以下)は「国民の権利利益の保護」です。つまり、公正・透明な行政手続は国民の権利利益を守るための手段と位置づけられています。
なお、1条2項は、行政手続法の解釈・運用にあたって当事者の利益保護のみを目的とするのではなく、公益との調整も考慮するという趣旨を定めています(試験ではやや発展的な内容)。
具体例
A市が市民Bさんに対して不利益処分を下す場面を例にとりましょう。処分に至るまでの理由(なぜその処分をするのか)や、審査の経過(どのような判断プロセスを経たのか)を国民に明らかにすることが「透明性の向上」の実践です。こうした手続的な透明性の確保が、最終的にBさんの権利利益を守ることにつながるのです。
条文(第1条)
この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第46条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
重要メモ
- ・「目的条文(1条1項)は公正の確保・透明性の向上→国民の権利利益の保護という目的の連鎖を覚える」がポイント
- ・目的条文(1条1項)のキーワードは「公正の確保」「透明性の向上」「国民の権利利益の保護」の3つ
- ・透明性の定義(1条1項括弧書き):「行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること」
- ・最終目的は「国民の権利利益の保護」で、公正の確保・透明性の向上はそのための手段と位置づけられる
- ・透明性の定義は第46条でも同じ意味で使われる(1条1項括弧書きが46条を参照する形)
まとめ
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不可争力
行政行為に対して不服申立てができる期間が過ぎると、私人の側からはもう争えなくなる効力のこと。
期限
行政行為の効力の発生または消滅を、将来確実に到来する事実にかからせる附款のこと。
公用制限
公共目的のために私人の財産権に制限を加えるが、所有権自体は残したままにする行政作用のこと。
行政不服審査法
行政庁の処分や不作為に対して、国民が簡易・迅速に不服を申し立てるための手続を定めた法律のこと。
行政罰
行政上の義務違反に対して制裁として科される罰のこと。刑事罰である行政刑罰と、金銭罰である秩序罰の2種類がある。
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