第10節 行政計画
第1章 総論
行政計画とは、行政が一定の目標を達成するために策定する計画です。道路建設、都市計画、環境保全など、現代の行政活動において計画は不可欠な手段となっています。この節では、行政計画の意義・法的性質、計画裁量と策定手続、そして計画に対する司法審査(処分性の有無)について学びます。
行政計画とは・法律根拠・行政手続法
簡単にいうと
行政計画とは行政活動の目標とその達成手段を定めた計画のことです。「法律の根拠が必要かどうか」は国民の権利義務に影響を与えるか否かで決まり、行政手続法の適用はないという点が試験でよく問われます。
行政計画とは、行政活動の目標と、その達成の手段を定めた計画をいいます。
公共事業・都市計画・社会保障・産業振興など、さまざまな分野で策定され、行政の設計図として方向性を示します。
法律の根拠が要るかどうか
行政計画には、いつでも法律の根拠が要るわけではありません。計画の中身によって分かれます。
①国民の権利義務に影響する計画
土地区画整理事業計画のように、地区内での建築行為を制限する効果が生じるものです。法律による行政の原理が及ぶので、法律の根拠が必要です。
②国民の権利義務に影響しない計画
子育て支援計画のように、予算の方向性や行政内部の指針を定めるにとどまるものです。法的義務を課すわけではないので、法律の根拠は要りません。
行政手続法は適用されない
行政手続法は、処分・行政指導・届出・命令等の手続を規律します。
しかし行政計画については手続の規定が置かれていません。行政契約も同じです。
そのため、行政計画をどう作るかは、都市計画法などの個別の法律に委ねられています。
どこで間違えるか
「行政手続法は行政計画の策定手続を定めている」という選択肢は誤りです。
また「行政計画の策定には常に法律の根拠が必要」という選択肢も誤りです。権利義務への影響があるかどうかで分かれます。
具体例
A市が「子育て支援計画」を作り、保育所を増やす方針を示したとします。これはA市の予算の方向性を示すだけで、住民に義務を課すものではありません。法律の根拠がなくても作れます。 これに対してA市が土地区画整理事業の計画を決定すると、地区内のBは建築行為の制限を受けます。こちらは法律の根拠が要ります。

行政計画と法律の根拠
重要メモ
- ・権利義務に影響すれば法律の根拠が要り、影響しなければ要らない点に注意
- ・影響する例は土地区画整理事業計画、影響しない例は子育て支援計画
- ・行政手続法には行政計画の手続規定がない。行政契約も同じ
- ・策定手続は都市計画法などの個別法に委ねられている
- ・「常に法律の根拠が必要」「行政手続法が定めている」はいずれも誤り
行政計画の処分性(抗告訴訟の対象となるか)
簡単にいうと
行政計画が違法でも「処分性がない」と判断されれば取消訴訟を起こせません。用途地域の指定は処分性なし、土地区画整理事業計画は処分性ありと判例が分かれており、その違いは「具体的な法律効果が生じるか否か」です。
行政計画が違法だったとき、その取消しを裁判所に求められるかが問題になります。行政事件訴訟法でいう処分性の問題です。
判例は計画の種類によって結論を分けています。
処分性なし:用途地域の指定・変更
都市計画法上の用途地域の指定は、区域内の不特定多数の人に対する一般的・抽象的な制限にとどまります。建ぺい率や容積率の制限などです。
特定の個人に具体的な不利益を直接及ぼすものではないため、抗告訴訟の対象になりません(最判昭57.4.22)。
処分性あり:土地区画整理事業計画の決定
事業計画が決定されると、その地区内では建築行為が制限されるなど、具体的な法律効果が土地所有者に直ちに生じます。
そのため最高裁大法廷は、事業計画の決定に処分性があるとしました(最大判平20.9.10)。
かつての判例(最大判昭41.2.23)は処分性を否定していましたが、平成20年の判決で変更されました。
分かれ目
具体的な法律効果が特定の個人に直ちに生じるかどうかです。
一般的・抽象的な効果しか生じない計画には処分性がなく、特定の人に具体的な権利制限が直接発生する計画には処分性があります。
どこで間違えるか
「計画だから処分性はない」と一律に考えると誤ります。土地区画整理事業計画のように、処分性が認められるものもあります。
具体例
市が「A地区を住居地域から商業地域に変更する」と用途地域を変更したとします。A地区全体の建ぺい率や容積率が変わりますが、これは区域内の不特定多数への一般的な効果にとどまります。A地区の土地所有者Xは、これを自分への処分として取消訴訟を起こせません。 一方、市が土地区画整理事業の計画を決定すると、Xは地区内で建築制限を直ちに受けます。この場合Xは、計画の取消しを求めて抗告訴訟を起こせます。
重要メモ
- ・一般的・抽象的な効果なら処分性なし、特定の人への具体的効果なら処分性ありという区別に注意
- ・用途地域の指定・変更には処分性がない(最判昭57.4.22)
- ・土地区画整理事業計画の決定には処分性がある(最大判平20.9.10)
- ・平成20年の大法廷判決は、処分性を否定していた従来の判例を変更したもの
- ・計画だから一律に処分性がない、と考えると誤る
行政計画の変更と信頼保護(宜野座村事件)
簡単にいうと
行政機関が一度策定した計画を正当な理由もなく変更した場合、その計画を信頼して行動した国民には損失補償が認められることがあります。これを示したのが宜野座村工場誘致政策変更事件(最判昭56.1.27)です。
行政が一度決めた計画を後から変えることがあります。その計画を信じて動いた人が損害を受けたとき、どう扱うかが問題になります。
宜野座村工場誘致政策変更事件(最判昭56.1.27)
村が工場の誘致を進めており、企業はそれを信じて土地を取得するなど準備を進めました。ところが村長が交代し、誘致政策が変更されました。
判決の組み立て
最高裁は2段階で判断しました。
まず、村長の交代にともなって誘致政策が変更されること自体はやむを得ないとしました。政策は状況に応じて変わりうるものだからです。
そのうえで、それによって特定の者が被った積極的な損害に対して、何ら代替的な措置も講じないことは、信頼保護の原則に反するとしました。
変更そのものは違法ではない
ここを取り違えないようにします。計画を変更したことが違法になるのではありません。
変更したうえで、信頼して動いた人を放置したことが問題になります。
救済の中身
計画の変更を取り消させるのではなく、損害の回復という形で救われます。計画を元に戻せと求めることはできません。
一般原則とのつながり
この判例は、行政法の一般原則のうち信義誠実の原則(信頼保護の原則)を具体化したものです。条文はありませんが、判例が歯止めをかけている場面のひとつです。
具体例
A村が工場の誘致を働きかけ、B社がそれを信じて土地を買い、建設の準備を進めたとします。 その後に村長が交代し、誘致政策が白紙に戻りました。政策を変えること自体はやむを得ないと判断されます。 しかし、B社がすでに支出した費用について、A村が何の手当てもしなければ、信頼保護の原則に反することになります。
重要メモ
- ・計画の変更そのものではなく、何の代替措置もとらないことが問題になる点に注意
- ・村長の交代にともなう政策の変更自体はやむを得ないとされた(最判昭56.1.27)
- ・特定の者が被った積極的損害に何ら代替措置を講じないことは信頼保護の原則に反する
- ・救済は損害の回復であって、計画を元に戻させることはできない
- ・信義誠実の原則(信頼保護の原則)を具体化した判例
まとめ
関連判例
宣野座村工場誘致事件
最判昭56.1.27宣野座村が工場誘致のため企業に税の減免等の優遇措置を約束したが、後に議会の反対等を理由にこれを履行しなかった事件。最高裁は、地方公共団体が法的拘束力のある合意をした場合には信義誠実の原則に基づき履行義務を負うとし、施策の変更を理由とする一方的な約束違反は信義則に反し違法となりうるとした。試験では、行政計画の変更・廃止における信頼保護原則の適用と限界が問われる。
小田急高架化訴訟
最大判平17.12.7小田急線の連続立体交差事業に係る都市計画事業認可の取消しが求められた事件。最高裁(最大判平17.12.7)は、都市計画事業の認可について周辺住民の原告適格を一定範囲で認めるとともに、都市計画に関する裁量統制のあり方を示した。行政計画における裁量審査の枠組みとして参照される判例であり、試験では計画に対する司法審査における原告適格の判断基準が問われる。
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行政法の重要用語
条例
地方公共団体が自主的に制定する法規のことで、その地域内においてのみ効力を持つ自治立法のこと。
100条調査権
地方議会が、地方公共団体の事務について調査を行い、関係人の出頭・証言や記録の提出を求めることができる権限のこと。
秩序罰
届出義務違反など、行政上の秩序を乱す軽微な義務違反に対して科される過料のこと。
不可争力
行政行為に対して不服申立てができる期間が過ぎると、私人の側からはもう争えなくなる効力のこと。
期限
行政行為の効力の発生または消滅を、将来確実に到来する事実にかからせる附款のこと。
公用制限
公共目的のために私人の財産権に制限を加えるが、所有権自体は残したままにする行政作用のこと。
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