第8節 行政契約
第1章 総論
行政活動は命令的な行政行為だけでなく、相手方との合意に基づく行政契約という手法でも行われます。この節では、行政契約の意義、種類(準備行政・給付行政・侵害行政の各場面)、および契約自由の原則との関係を学びます。行政契約であっても行政法上の原則による制約を受ける点を理解することが重要です。試験では、指名競争入札における業者排除、給水契約の締結拒否、公害防止協定の拘束力などの判例が出題されます。
行政契約の意義
行政契約とは、行政主体が行政目的を達成するために、相手方との合意に基づいて締結する契約です。行政行為が行政庁の一方的な意思表示であるのに対し、行政契約は双方の合意を基礎とする点で異なります。行政契約には行政行為のような公定力や不可争力は認められず、契約としての拘束力は民法の一般原則に準じます。行政目的のために用いられる契約を広く含み、公法上の契約と私法上の契約の両方を包含する概念です。
具体例
市が建設業者と公共工事の請負契約を締結する場合、市の一方的な意思表示ではなく業者との合意に基づいて契約が成立します。この契約に公定力はなく、紛争が生じた場合は民事訴訟で解決されます。
要件
- ・行政主体が少なくとも一方の当事者であること
- ・行政目的の達成を目的とすること
- ・相手方との合意に基づくこと
効果・結論
- ・合意に基づくため一方的な変更・撤回は原則として認められない
- ・行政行為と異なり公定力・不可争力などの特権は認められない
- ・契約の法的性質(公法上か私法上か)により紛争解決手段が異なる
試験のポイント
- ・行政行為との違い(一方的意思表示 vs 合意、公定力の有無)を押さえる
- ・行政契約には公定力・不可争力・不可変更力・自力執行力は認められない
- ・行政契約は行政目的のための契約を広く含む概念
行政契約の種類
行政契約は、行政活動の場面に応じて準備行政における契約、給付行政における契約、侵害行政における契約に分類できます。それぞれ契約自由の原則が及ぶ範囲や法律上の制約が異なるため、場面ごとの特徴を理解することが重要です。
具体例
市が庁舎の清掃業務を委託する契約(準備行政)、市が住民に公営住宅を提供する使用許可(給付行政)、市がマンション建設業者との間で開発に伴う負担金について協定を結ぶ場合(侵害行政)は、それぞれ異なる法的制約を受けます。
要件
- ・行政活動の場面(準備・給付・侵害)に応じて分類される
- ・各場面ごとに法律上の制約の程度が異なる
効果・結論
- ・準備行政の契約は地方自治法上の手続規制に服する
- ・給付行政の契約は平等原則等の制約を受ける
- ・侵害行政の契約は法律の留保の原則による厳格な制約を受ける
試験のポイント
- ・準備行政における契約:物品購入・工事請負など行政活動の基盤整備のための契約。地方自治法234条により一般競争入札が原則。指名競争入札・随意契約は例外的に認められる。判例では指名競争入札における村外業者の排除が違法とされた
- ・給付行政における契約:公営住宅の使用関係、水道の給水契約、補助金交付に伴う協定など。平等原則の制約を受け、正当な理由のない契約締結拒否は違法となる。判例では行政指導に従わないことを理由とする給水拒否が違法とされた(武蔵野マンション事件)
- ・侵害行政における契約:公害防止協定、開発負担金に関する協定など、国民の権利制限・義務賦課に関わる契約。法律の留保の原則が及び、法律の根拠なく契約形式で権利を制限することはできない。公害防止協定の拘束力や事業承継者への効力が論点となる
行政契約と契約自由の原則
私法上の契約には契約自由の原則(締結の自由・相手方選択の自由・内容決定の自由・方式の自由)が妥当しますが、行政契約においては行政法上の諸原則による制約を受けます。具体的には、法律の留保(権利制限・義務賦課には法律の根拠が必要)、平等原則(合理的理由のない差別的取扱いの禁止)、比例原則(行政目的との関係で過大な負担を課すことの禁止)、信義誠実の原則(行政主体による一方的な約束違反の禁止)が適用されます。
具体例
市がマンション建設業者Fに対し、指導要綱に基づく教育施設負担金の寄付に従わないことを理由として水道の給水契約の締結を拒否しました。最高裁は、水道法の趣旨に反し違法であるとしました(武蔵野マンション事件)。行政契約においても契約自由は無制限ではなく、法律の趣旨や平等原則による制約を受けます。
要件
- ・契約自由の原則は行政契約にも一定程度妥当する
- ・ただし法律の留保・平等原則・比例原則・信義則による制約を受ける
- ・制約の程度は行政活動の場面(準備・給付・侵害)により異なる
効果・結論
- ・平等原則に反する相手方排除は違法となる(指名競争入札判例)
- ・行政指導に従わないことを理由とする契約締結拒否は違法となりうる(武蔵野マンション事件)
- ・法律の根拠なき権利制限は契約形式でも無効となりうる
- ・行政主体による信義則に反する約束違反は違法となる(宣野座村工場誘致事件)
試験のポイント
- ・相手方選択の自由の制約:指名競争入札で村外業者を一律排除することは不合理な差別として違法(判例)
- ・締結の自由の制約:行政指導に従わないことを理由とする給水拒否は水道法に反し違法(武蔵野マンション事件)
- ・内容決定の自由の制約:法律の根拠なく契約形式で権利制限・義務賦課をすることはできない(法律の留保)
- ・信義則による制約:工場誘致の約束を施策変更で一方的に破棄することは信義則に反し違法となりうる(宣野座村工場誘致事件)
まとめ
関連判例
指名競争入札における村外業者の排除
最判平18.10.26村が指名競争入札において、村外業者であることのみを理由に指名から排除したことが争われた事件。最高裁は、地方公共団体が競争入札に参加させようとする者を指名するにあたり、地元業者を優先する運用自体は一定の合理性があるとしつつも、村外業者であることのみを理由として一律に排除することは、不合理な差別的取扱いとして違法であるとした。試験では、指名競争入札における裁量の限界と平等原則が問われる。
武蔵野マンション事件
武蔵野市がマンション建設業者に対し、行政指導(教育施設負担金の寄付)に従わないことを理由に水道の給水契約の締結を拒否した事件。最高裁は、指導要綱に基づく行政指導に従わないことを理由として水道の給水契約の締結を拒否することは、水道法の趣旨に反し違法であるとした。行政指導の限界と給水契約の締結義務が問われる重要判例であり、試験では行政契約と行政指導の関係が出題される。
宣野座村工場誘致事件
宣野座村が工場誘致のため企業との間で優遇措置を約束したが、後に議会の反対等を理由にこれを履行しなかった事件。最高裁は、地方公共団体が契約の締結に際して法的拘束力のある合意をした場合には、信義誠実の原則に基づきその履行義務を負うとし、施策変更により契約上の義務の履行を拒否することは信義則に反し違法となりうるとした。試験では、行政契約における信義則の適用と施策変更の限界が問われる。
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