第5節 行政行為
第1章 総論
行政行為は、行政法の中核をなす最重要テーマです。行政庁が国民に対して一方的に権利義務を形成する行為であり、処分性・公定力・取消訴訟など、行政救済法にも直結します。この節では、行政行為の分類・効力・瑕疵・行政裁量・附款など、試験頻出の論点を体系的に学びます。
行政行為の意義と分類
行政行為とは、行政庁が法令に基づき、具体的事実について公権力の行使として行う行為で、国民の権利義務を直接形成する単独行為をいいます。行政行為は法律行為的行政行為(行政庁の意思表示を要素とする)と準法律行為的行政行為(意思表示以外の精神作用を要素とする)に大別されます。法律行為的行政行為にはさらに命令的行為(下命・禁止・許可・免除)と形成的行為(特許・認可・代理)があります。準法律行為的行政行為には確認(事実・法律関係の存否の確定)・公証(特定の事実・法律関係を公に証明)・通知(特定の事実・意思を相手方に知らせる)・受理(申請等の行為を有効に受け取る)があります。
具体例
飲食店を開業するには保健所の許可(禁止解除)が必要です。タクシー事業を始めるには運輸局の特許(新たな権利設定)が必要で、農地売買には農地法の認可(私法上の行為を補充)が必要です。一方、当選人の決定は確認、登記は公証、課税予告通知は通知の例です。
要件
- ・行政庁による行為であること
- ・法令に基づく公権力の行使であること
- ・具体的事実について行われること
- ・国民の権利義務を直接形成する単独行為であること
効果・結論
- ・国民の権利義務が形成・変動する
- ・取消訴訟の対象となる処分性を有する
- ・公定力などの行政行為の効力が付与される
試験のポイント
- ・許可と特許の最重要区別:許可は「法令による一般的禁止の解除」(飲食店営業許可・運転免許)、特許は「新たな権利・法律上の地位の設定」(公務員任命・鉱業権設定・公有水面埋立免許)。許可は相対的禁止の解除にすぎず、特許は設定前には存在しなかった権利を創設する点が根本的な違い
- ・認可は第三者の行為(私法上の法律行為)を補充して法律上の効果を完成させる行為。認可がなければ当該行為は無効となる(農地売買許可・電気事業譲渡認可等)
- ・準法律行為的行政行為(確認・公証・通知・受理)は行政庁の意思表示ではなく判断・認識・観念の表示であり、附款を付すことができないとするのが通説
行政行為の効力
行政行為には独自の法的効力が認められます。公定力とは、行政行為が違法であっても取消訴訟等で取り消されるまでは有効なものとして扱われる効力です。不可争力とは、不服申立期間・出訴期間が経過すると相手方は争えなくなる効力です。不可変更力とは、争訟裁断的行為(審査請求の裁決等)において行政庁自身も取り消せなくなる効力です。自力執行力とは、行政機関が裁判所の力を借りずに強制執行できる効力です(代執行等)。拘束力とは、行政庁・関係者がその内容に拘束される効力です。なお、重大かつ明白な瑕疵がある行政行為は当然無効であり、公定力は認められません。
具体例
Aさんへの違法な営業許可について取消訴訟を起こさないまま3か月が経過した場合、公定力により許可は有効として扱われ(公定力)、出訴期間経過後はもはや取消訴訟を提起できません(不可争力)。一方、住所が全く存在しない人への課税処分のように重大かつ明白な瑕疵がある場合は当然無効であり、公定力は生じません。
要件
- ・公定力:行政行為が外形上存在すること
- ・不可争力:不服申立期間・出訴期間が経過したこと
- ・不可変更力:審査裁断的行為(裁決・決定等)であること
- ・当然無効:瑕疵が重大かつ明白であること
効果・結論
- ・公定力により取消訴訟等で取り消されるまで有効として扱われる
- ・不可争力により一定期間経過後は争えなくなる
- ・不可変更力により審査裁断的行為は行政庁自身も取り消せなくなる
- ・重大かつ明白な瑕疵がある場合は当然無効となり公定力が認められない
試験のポイント
- ・公定力は「違法だが有効」という状態を作り出す。あくまで取消訴訟等での争いを留保するものであり、違法性が消えるわけではない
- ・不可変更力はすべての行政行為に認められるわけではない。審査請求の裁決など「争訟裁断的行為」に限られる点に注意
- ・当然無効と取消しうべき瑕疵の区別が最重要。重大かつ明白な瑕疵=当然無効(公定力なし・出訴期間制限なし)
行政行為の瑕疵
行政行為の瑕疵とは行政行為に存在する欠陥をいい、取消しうべき瑕疵(取消しまで有効・公定力あり)と当然無効の瑕疵(重大かつ明白・最初から無効)に分かれます。行政行為の消滅原因として、職権取消し(行政庁が瑕疵を理由に遡及的に効力を消滅)と撤回(適法だった行政行為を将来に向かって効力を消滅)があります。撤回は相手方の帰責性がない場合に損失補償が必要となる場合があります。瑕疵の治癒とは当初瑕疵があった行為が事後的に要件を満たし適法となること、違法行為の転換とは本来無効の行為を他の行為として有効に扱うことです。違法性の承継とは先行処分の違法が後行処分の取消事由になるかの問題で、判例は原則否定しますが、両処分が一体として機能する場合は例外的に承継を認めます。
具体例
適法に与えられた営業許可を、その後の法令改正や公益上の必要から行政庁が取り消す場合は撤回であり、相手方に補償が必要な場合があります。一方、最初から要件を欠いていた許可を取り消す場合は職権取消し(遡及効あり)です。農地買収計画と買収処分のように一連の手続として機能する場合、先行処分の違法が後行処分に承継されます。
要件
- ・職権取消し:行政行為に成立当初から瑕疵が存在すること
- ・撤回:成立当初は適法だった行政行為に事後的な事情変更があること
- ・瑕疵の治癒:事後的に欠けていた要件が充足されること
- ・違法行為の転換:転換先の行為の要件・手続が満たされていること
効果・結論
- ・職権取消しは遡及効があり、行政行為は最初からなかったことになる
- ・撤回は将来効のみであり、撤回前の法律関係には影響しない
- ・撤回により相手方が不利益を受ける場合、補償が必要となる場合がある
- ・違法性の承継が認められる場合、先行処分を争わなかった者も後行処分の取消訴訟で先行処分の違法を主張できる
試験のポイント
- ・職権取消しと撤回の最重要区別:取消しは「最初から瑕疵あり・遡及効」、撤回は「後発的事情・将来効のみ」。補償の要否は主として撤回で問題となる
- ・撤回と補償:相手方に帰責性がなく撤回によって損失が生じる場合は損失補償が必要。行政行為の撤回と損失補償事件参照
- ・違法性の承継:原則否定。ただし農地買収計画と買収処分(農地改革)のように先行・後行処分が一体として法律効果を完成させる場合は例外的に承継を認める(最判昭和事件参照)
- ・瑕疵の治癒は法的安定性・相手方の信頼保護から例外的に認められる。違法行為の転換は転換先の行為要件を満たす場合に認められる
行政裁量
第30条行政裁量とは、行政庁に一定範囲の判断の余地が認められることをいいます。覊束裁量は法令が要件・効果を厳格に定め裁量の余地がほとんどない場合、自由裁量は行政庁に広範な判断の余地が認められる場合です。裁量も無制限ではなく、裁量権の逸脱(裁量の範囲を超える)や裁量権の濫用(裁量権の趣旨・目的に反する行使)があれば違法となります(行政事件訴訟法30条)。判例は、①他事考慮(考慮すべきでない事項を考慮)、②重要事項の不考慮(考慮すべき事項を考慮しない)、③社会通念上の著しい不合理、④不当な動機・目的による行使を裁量権の逸脱・濫用の判断基準としています。
具体例
公務員に対する懲戒免職処分について、同様の非違行為に対して他の職員より著しく重い処分がなされた場合、社会通念上著しく妥当性を欠くとして裁量権の濫用となります(神戸税関事件)。また、マンション建築確認に際して日照・景観を考慮して許可を拒否した場合、考慮すべきでない事項を考慮した他事考慮として違法となります。
要件
- ・法令が行政庁に裁量を付与していること
- ・裁量判断が裁量の範囲内であること
- ・裁量判断が比例原則・平等原則に違反しないこと
- ・裁量判断に事実誤認や判断過程の過誤がないこと
効果・結論
- ・覊束裁量行為は要件充足で一定の処分が義務付けられる
- ・自由裁量行為は行政庁の合理的判断が尊重される
- ・裁量権の逸脱・濫用があれば行政事件訴訟法30条により違法として取消しの対象となる
条文(第30条)
第30条(行政事件訴訟法)行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。
試験のポイント
- ・伊方原発訴訟:原子炉設置許可は高度な専門技術的判断を伴うため広い裁量が認められる。ただし審査基準が現在の科学技術水準に照らして不合理であれば違法
- ・神戸税関事件:懲戒処分の選択が社会通念上著しく妥当性を欠く場合は裁量権の濫用として違法。処分の重さが他の事例と著しく均衡を失する場合が典型
- ・裁量権の逸脱・濫用の判断基準:①他事考慮、②重要事項の不考慮、③社会通念上の著しい不合理、④不当な動機・目的の4類型を整理する
- ・覊束裁量か自由裁量かは法令の文言(「できる」か「しなければならない」か)や規定の趣旨から判断
附款
附款とは、行政行為の効果を制限・補充するために付加される従たる意思表示です。代表的な附款として、条件(効果の発生・消滅を不確定な事実にかからせる)、期限(効果の発生・消滅を確定的な事実にかからせる)、負担(行政行為とは別個の義務を課す)、取消権の留保(一定事由が生じた場合に取り消せる旨を留保)、法律効果の一部除外があります。附款は原則として自由裁量行為にのみ付すことができ、覊束裁量行為には法律の根拠が必要です。また、準法律行為的行政行為には附款を付すことができないとするのが通説です。
具体例
Aさんが建築許可を受ける際、市が「3年以内に着工すること」(期限)、「周辺住民に説明会を開催すること」(負担)、「騒音が基準を超えた場合は許可を取り消す」(取消権の留保)という条件を付けました。負担に違反しても許可が当然無効になるわけではなく、取消しの事由となるにすぎません。
要件
- ・主たる行政行為が適法に存在すること
- ・附款が主たる行政行為と矛盾しないこと
- ・自由裁量行為か、覊束裁量行為なら法律の根拠があること
- ・附款が比例原則に違反しないこと
効果・結論
- ・条件成就・不成就により行政行為の効果が発生・消滅
- ・負担に違反した場合は行政行為の取消しや強制執行の対象となりうる
- ・違法な附款は無効だが、主たる行政行為は原則として有効
試験のポイント
- ・条件(不確定)と期限(確定)の区別:「○○した場合に効力を生じる」は条件、「○月○日から効力を生じる」は期限。将来の事実が確実かどうかが分岐点
- ・負担の独自性:負担は行政行為本体とは別個の義務を課すもの。負担違反は行政行為を当然無効とせず取消事由にとどまる点が重要
- ・準法律行為的行政行為(確認・公証・通知・受理)には附款を付すことができない(通説)。覊束裁量行為への附款には法律の根拠が必要
まとめ
関連判例
伊方原発訴訟
原子炉設置許可処分の適法性が争われた事件。最高裁は、原子炉設置許可は高度な専門技術的判断を要するため行政庁に広い裁量が認められると判示した。ただし、審査において用いた審査基準に不合理な点があったり、申請内容が審査基準に適合しないと認めたことに合理的根拠がない場合には許可処分は違法となるとした。裁量統制の基準として「審査基準の不合理性」が問われる問題で必出の判例。
神戸税関事件
税関職員が職場大会に参加したことを理由に懲戒免職処分を受けた事件。最高裁は、懲戒処分の選択が社会通念上著しく妥当性を欠くと認められる場合には裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとして違法となると判示した。裁量権の濫用の典型例として「社会通念上著しく妥当性を欠く処分」という基準が問われる問題で必ず登場する判例。
違法性の承継が認められた例(農地買収計画・買収処分)
農地改革において農地買収計画(先行処分)の違法が買収処分(後行処分)の取消事由になるかが争われた事件。最高裁は、農地買収計画と買収処分は一体として農地改革という一連の法律効果を実現するものであるとして、例外的に違法性の承継を認めた。違法性の承継は原則否定だが「先行・後行処分が一体として機能する場合」の例外が問われる問題で頻出の判例。
瑕疵の治癒が認められた例
行政行為の成立当初に手続上の瑕疵があったが、その後適法な手続が補完された事件において瑕疵の治癒が問題となった。最高裁は、法的安定性・相手方の信頼保護の観点から、事後的に欠缺していた要件が充足された場合に瑕疵の治癒を認め得るとした。瑕疵の治癒は例外的にしか認められない点と、どのような場合に認められるかの判断基準が試験で問われる。
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