第5節 住民の権利
第6章 地方自治法
住民が地方政治に関わるための権利をまとめて扱う節です。選挙権・被選挙権の要件から始め、一定数の署名で条例の制定や長の解職を求める直接請求、そして税金の使われ方を1人でも問いただせる住民監査請求までを学びます。国政にはない仕組みが多く、署名数の要件(50分の1か3分の1か)と請求先がどこかを取り違えやすいところです。住民監査請求は、結果に不服があれば住民訴訟へつなげられる点も押さえます。
選挙権
簡単にいうと
地方の議員や長を選ぶ権利です。国政選挙と違って、3カ月以上その市町村に住んでいることが条件に入ります。
地方公共団体の議員・長の選挙権についても、地方自治法で要件が定められています。
選挙権の要件
- ・日本国民たる年齢18歳以上であること
- ・引き続き3カ月以上市町村の区域内に住所を有すること
議員の選挙権と長の選挙権に違いはなく、どちらも同じ要件です。
国政選挙との違い
国政選挙の選挙権には住所要件がありません。地方選挙で住所要件が課されているのは、その地域に暮らしている人がその地域の代表を選ぶ、という地方自治の考え方によるものです。
過去問では「日本国民たる年齢満18歳以上の者で引き続き一定期間以上市町村の区域内に住所を有するものは、その属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する」という記述が正しいものとして出題されています。
直接請求の署名数の基準になる
この「選挙権を有する者」という概念は、選挙の場面だけのものではありません。直接請求の署名数を算定する基準にもなります。
条例制定改廃請求の50分の1も、解職請求の3分の1も、すべて「選挙権を有する者の総数」を母数として計算します。住民の総数ではない点に注意が必要です。地方自治法全体を通じて出てくる概念なので、ここで正確に押さえておきます。
具体例
A市に引き続き4カ月住んでいる18歳の日本国民Bは、A市長と市議会議員の選挙権を持ち、直接請求の署名数を数えるときの母数にも含まれます。
重要メモ
- ・選挙権の要件は、日本国民・18歳以上・引き続き3カ月以上市町村の区域内に住所を有すること
- ・議員の選挙権と長の選挙権は同じ要件(13-24-1 ○)
- ・国政選挙と異なり住所要件がある点が地方選挙の特徴
- ・「選挙権を有する者」の総数は直接請求の署名数を算定する母数になる
- ・署名数の母数は住民の総数ではなく選挙権を有する者の総数
被選挙権
簡単にいうと
立候補できる権利です。知事だけ30歳以上で、長には住所要件がありません。ここが繰り返し問われます。
被選挙権は、役職ごとに要件が異なります。
選挙権・被選挙権の一覧
住所要件があるのは議員だけ
一覧を見比べると分かるとおり、長の被選挙権にだけ3カ月の住所要件がありません。知事も市町村長も、その地域に住んでいなくても立候補できます。
過去問では「都道府県知事の被選挙権は、当該都道府県の住民ではなくとも、法定の年齢以上の日本国籍を有する者であれば認められる」という記述が正しいものとして出題されています。
外部から人材を招いて首長にすることを妨げない、という制度設計です。これに対し議員には住所要件が課されています。
年齢の整理
年齢だけを抜き出すと次のようになります。
- ・選挙権はすべて18歳以上
- ・被選挙権は、都道府県知事だけ30歳以上、市町村長と議員は25歳以上
30歳という数字が出てくるのは都道府県知事だけです。市町村長を30歳以上とする記述は誤りになります。
具体例
B県に住んでいない30歳の日本国民Aは、A県の知事選挙に立候補できますが、A県議会議員の選挙には3カ月以上の住所がないと立候補できません。
重要メモ
- ・被選挙権は、都道府県知事が30歳以上、市町村長と議員が25歳以上
- ・住所要件があるのは議員だけ。知事にも市町村長にも住所要件はない(10-23-ア ○)
- ・選挙権は長も議員も同じで、18歳以上かつ引き続き3カ月以上の住所が必要
- ・30歳以上という要件は都道府県知事だけ。市町村長を30歳以上とするのは誤り
- ・長は住んでいない地域からでも立候補できる点が、議員との最大の違い
直接請求の概要
簡単にいうと
一定数の住民が署名を集めて、条例の制定や長の解職を直接求められる制度です。国政にはありません。
地方政治では、国政と異なり一定以上の住民が署名を集めて条例の制定を求めたり、長の解職を求めたりすることができます。これが直接請求制度です。
直接請求のまとめ
役員等とは、副知事・副市町村長のほか、総合区の区長なども含みます。
署名を集めれば通るわけではない
それぞれ、署名を集めて請求したら住民の要求がそのまま通るわけではありません。条例制定改廃請求は議会に付議されるだけで、議会が否決することもあります。解散・解職は住民投票で過半数の同意が必要です。
例外は事務監査請求で、これは請求すれば監査が行われます。
直接請求できない条例
地方税の賦課徴収、分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例については、直接請求をすることができません。
税金を安くする条例や使用料をなくす条例を住民の署名で求められるとすると、自治体の財政が成り立たなくなるからです。ここは条文に明記された除外であり、出題されます。
覚え方
いきなりすべてを覚えようとせず、まず署名要件(50分の1か3分の1か)、次に請求先、最後に請求後の流れの順に押さえると整理しやすくなります。
具体例
選挙権者が30,000人のA市で条例の制定を請求するには600人以上の連署が必要ですが、市長の解職を請求するには10,000人以上の連署が必要です。

地方自治法上の直接請求制度
重要メモ
- ・50分の1グループは条例制定改廃請求と事務監査請求、3分の1グループは解散・解職請求
- ・請求先は、条例制定改廃が長、事務監査が監査委員、解散・議員長の解職が選挙管理委員会、役員等の解職が長
- ・地方税の賦課徴収や分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例は直接請求の対象外
- ・署名を集めれば要求が通るわけではない。事務監査請求だけは請求すれば監査が行われる
- ・署名数の基準は「選挙権を有する者」の総数で算定する
条例制定改廃請求・事務監査請求
簡単にいうと
50分の1グループの2つです。条例を変えてほしいときは長へ、仕事を調べてほしいときは監査委員へ、と請求先が分かれます。
直接請求のうち、選挙権を有する者の総数の50分の1以上の連署で請求できるものが、条例制定改廃請求と事務監査請求です。
2つの比較
請求先の違いが最も問われます。条例制定改廃請求は議会ではなく長に行う点に注意が必要です。
条例制定改廃請求でできないこと
条例制定改廃請求は、条例をつくれ・変えろ・やめろと求めるものです。議会の議決そのものを阻止する制度ではありません。
過去問では「特定の市立保育所の廃止条例の制定に関する議決を阻止するため、一定数の選挙人の署名により、地方自治法上の直接請求をすることができる」という記述が出題され、誤りとされました。条例の制定に関する議決を阻止することは、条例制定改廃請求の対象ではないからです。
また地方税の賦課徴収、分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例については、そもそも直接請求ができません。
事務監査請求は1人ではできない
過去問では「普通地方公共団体の事務の執行に関する事務監査請求は、当該普通地方公共団体の住民であれば、1人でも行うことができる」という記述が出題され、誤りとされました。選挙権を有する者の総数の50分の1以上の連署が必要です。
1人でもできるのは、あとで学ぶ住民監査請求のほうです。名前が似ているので混同しないようにします。事務監査請求は事務全般が対象ですが署名が要る、住民監査請求は財務会計上の行為に限られるが1人でできる、という対応関係になっています。
具体例
A市の選挙権者30,000人のうち600人が連署してA市長に条例の制定を請求すると、市長は20日以内に議会に付議し、その結果を通知・公表します。
重要メモ
- ・どちらも50分の1以上の連署が必要。請求先は条例制定改廃が長、事務監査が監査委員
- ・条例制定改廃請求を受けた長は20日以内に議会に付議し、結果を通知・公表する
- ・条例の制定に関する議決を阻止することは条例制定改廃請求の対象ではない(18-26-4 ×)
- ・事務監査請求は1人ではできず、50分の1以上の連署が必要(09-22-2 ×)
- ・地方税の賦課徴収や使用料の徴収に関する条例は直接請求の対象外
議会解散・解職請求(リコール)
簡単にいうと
3分の1グループです。署名を集めただけでは解散・失職せず、住民投票で過半数の同意が要ります。
直接請求のうち、議会の解散や議員・長の解職を求めるものは、選挙権を有する者の総数の3分の1以上の連署が必要です。
3つのリコール
いずれも請求先は選挙管理委員会です。長ではありません。条例制定改廃請求の請求先が長であることと混同しないようにします。
署名だけでは失職しない
署名を集めて請求しただけでは、議会は解散せず長も失職しません。そのあとに住民投票が行われ、選挙権を有する者の過半数の同意があって初めて効力が生じます。
住民の一部が集めた署名で代表者の地位を奪えるとすると、選挙で選んだ住民の意思を覆すことになってしまいます。だからもう一度住民全体に問う、という構造です。
役員等の解職請求は別ルート
副知事・副市町村長、総合区の区長などの役員等の解職請求は、同じ3分の1以上の連署が必要ですが、そのあとの手続が違います。
役員等は住民が選挙で選んだわけではないので、住民投票ではなく議会の判断に委ねられています。請求先が長であることと、住民投票ではなく議会の議決であることの2点が、ほかのリコールとの違いです。
なお選挙人数が40万を超える場合、3分の1という署名数の計算方法には別の方式が用意されています。
具体例
A市の選挙権者30,000人のうち10,000人が連署して市長の解職を請求すると住民投票が行われ、過半数の同意があれば市長は失職します。
重要メモ
- ・議会解散・議員解職・長の解職はいずれも3分の1以上の連署が必要で、請求先は選挙管理委員会
- ・署名だけでは失職せず、住民投票で選挙権を有する者の過半数の同意が必要
- ・役員等の解職請求だけは請求先が長で、議会に付議され3分の2以上出席・4分の3以上の同意で失職する
- ・役員等は住民が選んだわけではないため、住民投票ではなく議会の議決による
- ・条例制定改廃請求の請求先が長であることと、解散・解職の請求先が選挙管理委員会であることを混同しない
住民監査請求
簡単にいうと
税金の使い方が違法または不当だと思ったら、住民が1人でも監査委員に監査を求められます。事務監査請求との違いが問われます。
住民が納めている税金は適切に使われるべきです。そこで住民は、地方公共団体の財務会計上の行為について違法または不当な点があれば、監査委員に監査を請求することができます(242条1項)。
住民監査請求のポイント
- ・違法または不当な財務会計上の行為および怠る事実が対象となる
- ・正当な理由があるときを除き、違法または不当な行為があった日から1年以内に請求しなければならない(怠る事実の場合は期間制限なし)
- ・住民であれば、選挙権の有無を問わず、外国人でも住民監査請求ができる
「怠る事実」とは、お金を出すべきなのに出さなかったことや、取り立てるべきなのに取り立てなかったことが違法または不当だ、という意味です。何かをしたことだけでなく、しなかったことも対象になります。
過去問では「住民監査請求の対象は、公金の支出などの地方公共団体の職員等の作為に限られ、公金の賦課徴収を怠るなどの不作為は、対象とならない」という記述が出題され、誤りとされました。財務会計上の怠る事実についても対象となるからです。
監査の結果
監査の結果、請求に理由があれば、監査委員は長や議会に必要な措置をとるよう勧告しなければなりません。勧告するかどうかを監査委員が選べるわけではありません。
事務監査請求との違い
監査委員の監査については、住民監査請求のほかに、住民の署名を集めて監査を求める事務監査請求があります。両者を比較させる問題が出ます。
対象が狭いかわりに1人でできて訴訟につなげられるのが住民監査請求、対象が広いかわりに署名が要って訴訟につなげられないのが事務監査請求、という対応です。
過去問では「住民監査請求の対象となるのは財務会計上の行為または怠る事実であるとされているが、こうした行為または怠る事実は、事務監査請求の対象となる当該地方公共団体の事務から除外されている」という記述が出題され、誤りとされました。事務監査請求は事務全般が対象なので、財務会計上の行為も含まれます。
具体例
A市の職員が公金を私的に流用していると考えたA市の住民Bは、1人でA市の監査委員に監査を請求できます。Bが外国人でも同じです。

住民監査請求の仕組み
重要メモ
- ・住民監査請求は住民であれば1人でもでき、選挙権の有無を問わず外国人も請求できる
- ・対象は違法または不当な財務会計上の行為および怠る事実。不作為も対象になる(09-24-2 ×)
- ・請求期間は行為があった日から1年以内。怠る事実には期間制限がない
- ・請求に理由があれば監査委員は長や議会に必要な措置をとるよう勧告しなければならない
- ・事務監査請求は事務全般が対象なので財務会計上の行為も含まれる(13-21-3 ×)
まとめ
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