第5節 住民の権利
第6章 地方自治法
地方自治法における住民の権利は、地方自治の本旨を実現するための最も重要な制度です。直接請求権、住民監査請求、住民訴訟など、住民が直接地方公共団体の運営に参画・監視できる仕組みを学びます。本節は試験頻出分野であり、特に住民訴訟の類型と要件は確実に押さえる必要があります。
直接請求権
第12、13、74、75、76、80、81、86条直接請求権とは、住民が一定数の署名を集めて、条例の制定改廃、事務監査、議会解散、議員・長・主要公務員の解職を直接請求できる制度です。地方自治における直接民主制の重要な要素として位置づけられます。
具体例
A市では住民が新しい公園条例の制定を求め、有権者の50分の1の署名を集めて市長に条例制定を請求しました。市長は意見を付けて議会に付議し、議会で審議されることになりました。
要件
- ・請求者:原則として選挙権を有する者(日本国民たる年齢満18歳以上の者)
- ・必要署名数:請求内容により異なる(条例制定改廃は有権者の50分の1、議会解散・議員解職は3分の1など)
- ・請求先:条例制定改廃・事務監査は長、議会解散・議員解職は選挙管理委員会、主要公務員解職は長
効果・結論
- ・条例制定改廃請求:首長は意見を付して議会に付議する義務(ただし地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものは除外)
- ・事務監査請求:監査委員が監査を実施し結果を公表
- ・議会解散・議員解職・主要公務員解職請求:住民投票で過半数の同意により実現
- ・長の解職請求:住民投票で過半数の同意により失職
条文(第12、13、74、75、76、80、81、86条)
第12条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の条例の制定又は改廃を請求する権利を有する。 第74条 普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の50分の1以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、条例の制定又は改廃の請求をすることができる。
試験のポイント
- ・条例制定改廃請求における除外事項(地方税、分担金、使用料、手数料の徴収に関するもの)は頻出。これらは議会の専権事項
- ・必要署名数の違いに注意:条例制定改廃・監査請求は50分の1、議会解散・議員解職は3分の1、長の解職は3分の1
- ・条例制定改廃請求は議会が議決権を持つが、その他の解職・解散請求は住民投票で決する点を区別
住民監査請求
第242条住民監査請求とは、住民が、違法または不当な財務会計上の行為または怠る事実について、監査委員に監査を求め、必要な措置を講ずべきことを請求できる制度です。住民訴訟の前置手続として機能します。
具体例
A市民は、市長が違法な支出をしたと考え、監査委員に対して住民監査請求を行いました。監査委員は60日以内に監査を行い、違法性を認めて市長に返還勧告を出しました。
要件
- ・請求権者:当該地方公共団体の住民(法人含む、選挙権不要)
- ・請求対象:違法または不当な財務会計上の行為(公金の支出、財産の取得管理処分、契約の締結履行、債務その他の義務の負担、公金の賦課徴収を怠る事実、財産の管理を怠る事実)
- ・請求期間:行為のあった日または終わった日から1年以内(正当な理由がある場合を除く)
- ・前置手続:住民訴訟を提起する場合は原則として住民監査請求を経ることが必要
効果・結論
- ・監査委員は請求があった日から60日以内に監査を行い、結果を請求人に通知し公表
- ・監査委員は必要があると認めるときは、議会・長・関係職員に勧告
- ・請求人は、監査結果に不服がある場合または勧告に不満がある場合、監査結果の通知を受けた日から30日以内に住民訴訟を提起可能
- ・監査委員が60日以内に監査または勧告を行わないときも住民訴訟提起可能
条文(第242条)
第242条 普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体の被つた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。
試験のポイント
- ・請求期間は原則1年以内。ただし正当な理由がある場合は1年を超えても可。この例外の有無が論点
- ・住民監査請求は住民訴訟の前置手続。監査請求を経ずに訴訟提起はできない(242条の2第1項)
- ・請求対象は財務会計上の行為に限定。一般行政作用は対象外。「違法または不当」の両方が対象だが、住民訴訟は「違法」のみ
住民訴訟
第242条の2条住民訴訟とは、住民監査請求を経た後、地方公共団体の財務会計上の違法な行為または怠る事実について、住民が裁判所に訴えを提起できる制度です。4つの類型があり、それぞれ訴訟形態と被告が異なります。
具体例
A市民は市長の違法支出について監査請求後、市長に対して損害賠償請求する住民訴訟(4号訴訟)を提起しました。裁判所は違法性を認め、市長に返還を命じました。
要件
- ・原告適格:当該地方公共団体の住民(監査請求時に住民であれば、訴訟時に転出していても可)
- ・前置手続:原則として住民監査請求を経ることが必要
- ・出訴期間:監査結果の通知を受けた日から30日以内、または監査請求から60日経過後
- ・対象:違法な財務会計上の行為(不当では不可)
効果・結論
- ・1号訴訟(差止請求):執行機関または職員に対し、行為の全部または一部の差止めを請求
- ・2号訴訟(取消・無効確認請求):行為の取消しまたは無効確認を請求
- ・3号訴訟(怠る事実の違法確認請求):執行機関または職員に対し、怠る事実の違法確認を請求
- ・4号訴訟(損害賠償等代位請求):地方公共団体の執行機関または職員が賠償または返還の請求等の措置を講ずべきことを求める(実質は当該職員への損害賠償請求を地方公共団体に代位して求めるもの)
条文(第242条の2条)
第242条の2 普通地方公共団体の住民は、前条第1項の規定による請求をした場合において、同条第5項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第9項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第5項の規定による監査若しくは勧告を同条第6項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第9項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第1項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
試験のポイント
- ・4号訴訟が最も頻出。地方公共団体が被告となり、住民が自治体に代位して職員への損害賠償請求権の行使を求める訴訟
- ・平成14年改正前は職員個人が被告だったが、現在は地方公共団体が被告。勝訴すれば自治体が職員に求償
- ・住民監査請求との違い:監査請求は「違法または不当」が対象、住民訴訟は「違法」のみが対象
住民の権利に関する重要判例
第null条住民の権利に関する重要判例として、住民訴訟における原告適格や対象行為の範囲を示した最高裁判例があります。特に財務会計上の行為に該当するか否かの判断基準は実務上重要です。
具体例
B県知事が違法な補助金交付決定をした事案で、住民訴訟の対象となるのは支出命令や支出行為であり、補助金交付決定自体は財務会計行為ではないとされました。
要件
- ・財務会計行為該当性:支出負担行為、支出命令、支出などの財務会計上の行為に限定
- ・先行行為との関係:先行する行政処分が違法でも、それ自体は住民訴訟の対象とならない
- ・違法性の承継:先行行為の違法性が財務会計行為に承継される場合がある
効果・結論
- ・財務会計行為のみが住民訴訟の対象となる
- ・先行する行政処分自体は取消訴訟等の対象であり住民訴訟の対象外
- ・ただし先行行為が違法な場合、後続の財務会計行為も違法となりうる
- ・職員の故意・過失と財務会計行為の違法性は別個に判断
条文(第null条)
null
試験のポイント
- ・財務会計行為と行政処分の区別が重要。補助金交付決定は行政処分であり住民訴訟の直接対象外、支出命令や支出が対象
- ・違法性の承継:一般には行政行為間で違法性は承継されないが、住民訴訟では先行行為の違法が財務会計行為の違法事由となる
- ・原告適格:住民監査請求時に住民であれば、訴訟提起時に転出していても原告適格を失わない(判例)
まとめ
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