第3節 地方公共団体の事務
第6章 地方自治法
地方公共団体が処理する事務は、自治事務と法定受託事務の2つに分類されます。この節では、その区別の基準と具体例を学びます。自治事務には条文上の定義がなく、法定受託事務以外がすべて自治事務という引き算の形になっている点、法定受託事務が第1号(国が本来果たすべき役割)と第2号(都道府県が本来果たすべき役割)に分かれる点が問われます。どちらにあたるかで国が行える関与の範囲も変わるため、後の第8節にもつながる分類です。
地方公共団体の事務
簡単にいうと
地方公共団体の仕事は自治事務と法定受託事務の2つに分かれます。どちらにあたるかで、国が口を出せる範囲が変わります。
地方公共団体の事務は、自治事務(2条8項)と法定受託事務(2条9項)の2つに分類されています。
2つの分類
自治事務には定義がない
自治事務について、地方自治法は具体的な定義を置いていません。法定受託事務以外がすべて自治事務という、引き算による定義です。
過去問では「自治事務とは、自らの条例またはこれに基づく規則により都道府県、市町村または特別区が処理することとした事務であり、都道府県、市町村および特別区は、当該条例または規則に違反してその事務を処理してはならない」という記述が出題され、誤りとされました。地方自治法はこのような具体的な定義づけをしていないからです。定義らしい定義が書かれていたら疑う、という判断で足ります。
法定受託事務のイメージ
第1号法定受託事務は、国の仕事ではあるけれど市町村に任せたほうが効率がよいものについて、法令で最初から市町村の仕事にしている、という構造です。戸籍の事務を国が全国一律に窓口で処理するのは現実的ではありません。
第2号は同じ構造を都道府県と市町村の間で行うものです。国政選挙が第1号、知事選挙が第2号と、選挙でも国政か都道府県かで号が分かれることを押さえておきます。
機関委任事務は廃止された
かつては「機関委任事務」という分類があり、知事や市長が国の機関として国の指揮監督のもとで事務を処理していました。2000年の地方分権一括法によりこの分類は廃止され、現在の自治事務と法定受託事務に再編されています。現在も機関委任事務があるとする記述は誤りです。
どちらにあたるかで国の関与が変わる
この分類は条文の言葉遊びではありません。国がどこまで関与できるかが変わります。自治事務には是正の要求までしかできませんが、法定受託事務には是正の指示ができ、さらに代執行まで可能です。この点は第8節で扱います。
具体例
A市が行う飲食店の営業許可は自治事務、A市が行う戸籍の事務は第1号法定受託事務、A市が行う県知事選挙の事務は第2号法定受託事務にあたります。

自治事務と法定受託事務
重要メモ
- ・自治事務は法定受託事務以外のすべて。地方自治法は自治事務に具体的な定義を置いていない(16-23-ア ×)
- ・第1号法定受託事務は国が本来果たすべき役割、第2号は都道府県が本来果たすべき役割に係る事務
- ・国政選挙の事務は第1号、都知事・県知事選挙の事務は第2号。選挙でも号が分かれる
- ・機関委任事務は2000年の地方分権一括法により廃止された
- ・自治事務か法定受託事務かで、国が行える関与の範囲が変わる
まとめ
関連判例
徳島市公安条例事件
最大判昭50.9.10明確性の原則は憲法31条から導かれる派生原則(条文には直接明記されていない) 明確性の判断基準:「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうか」 多少解釈の余地がある文言でも、一般人基準で理解可能な程度に明確であれば合憲 条例と法令の抵触判断基準:文言の対比だけでなく「趣旨・目的・内容・効果を比較して矛盾抵触があるかどうか」で判断 注意:本件は「大法廷判決(最大判)」であることを押さえること 条例が国の法令より重い罰則を定めること(上乗せ条例)も、趣旨・目的が合理的であれば許容されうる
売春条例事件
最大判昭37.5.30憲法31条は刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものではなく、法律の授権によって下位法令(条例を含む)によって定めることもできる 条例への罰則授権が合憲となる条件は、法律の授権が相当程度に具体的かつ限定的であること 注意:授権が不特定な白紙委任的なものであれば違憲となる 条例は公選の議員による議会の議決を経た自治立法であり、行政府が制定する政令等とは異なり法律に類する民主的正統性を持つ点が合憲の根拠 憲法73条6号但書(政令への罰則委任の禁止)が、授権があれば下位法令で罰則を定められるという解釈の根拠として引用されている点も重要
奈良県ため池条例事件
最判昭38.6.26憲法29条2項により、財産権は公共の福祉に適合するよう制限できる 条例による財産権の制限も、地域の特殊事情がある場合は許容される(法律に限らない) ため池の堤とうを破損・決壊させる使用行為は「財産権の行使のらちがい(埒外)」にあり、そもそも保障されていない 財産権の制限が受忍限度内であれば、憲法29条3項の損失補償は不要 注意:「財産権を制限すれば必ず補償が必要」ではなく、受忍限度を超えるか否かが補償の分かれ目 条例による罰則規定(憲法31条との関係)も合憲とされた点も押さえること(大阪市売春取締条例事件を引用)
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行政法の重要用語
不可争力
行政行為に対して不服申立てができる期間が過ぎると、私人の側からはもう争えなくなる効力のこと。
期限
行政行為の効力の発生または消滅を、将来確実に到来する事実にかからせる附款のこと。
公用制限
公共目的のために私人の財産権に制限を加えるが、所有権自体は残したままにする行政作用のこと。
行政不服審査法
行政庁の処分や不作為に対して、国民が簡易・迅速に不服を申し立てるための手続を定めた法律のこと。
行政罰
行政上の義務違反に対して制裁として科される罰のこと。刑事罰である行政刑罰と、金銭罰である秩序罰の2種類がある。
法律行為的行政行為
行政庁の意思表示によって法律効果を発生させる行政行為のこと。許可や認可など、意思の内容どおりに効果が生じる点が特徴。
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