第1節 国家賠償法
第5章 国家賠償法・損失補償
国家賠償法は、公務員の違法な行為や公の営造物の設置管理の瑕疵によって私人が損害を受けた場合の救済制度です。行政法の最重要テーマであり、1条と2条の要件・効果を正確に区別することが合格の鍵となります。判例の立場を正確に理解しましょう。
国家賠償法1条(公権力の行使に基づく損害賠償)
第国家賠償法1条条公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が賠償責任を負う制度です。民法の不法行為の特則として、私人の権利救済を図ります。
具体例
警察官Aさんが交通違反の取締り中、過失で無実のBさんを誤認逮捕し、Bさんは2日間拘束された。Bさんは精神的苦痛と仕事を休んだ損害を受けた。この場合、Bさんは国に対して国家賠償を請求できる。
要件
- ・公権力の行使に当たる公務員の行為であること(権力的・非権力的作用を広く含む。判例は公立学校教員の教育活動も含むとする)
- ・公務員が職務を行うについての行為であること(職務執行行為自体のほか、外形上職務行為と認められる行為を含む)
- ・公務員に故意又は過失があること(過失の認定では結果回避義務違反が問われる)
- ・行為が違法であること(判例は違法性を客観的な法秩序違反と解し、公務員個人の主観的過失とは区別する)
- ・損害の発生と因果関係があること
効果・結論
- ・国又は公共団体が賠償責任を負う(公務員個人は被害者に対して直接責任を負わない)
- ・賠償責任の主体は、国家公務員の場合は国、地方公務員の場合は当該地方公共団体となる
- ・国又は公共団体は、公務員に故意又は重過失があったときは、その公務員に対して求償権を行使できる(1条2項)
条文(第国家賠償法1条条)
第1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。 ②前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
試験のポイント
- ・違法性と過失は別個の要件である。判例は違法性を客観的に判断し、過失は公務員の注意義務違反として主観的に判断する
- ・公権力の行使には権力的作用だけでなく非権力的作用も含まれる(例:公立学校教員の教育活動)。国公立病院の医療行為も含まれる
- ・公務員個人は被害者に対して責任を負わない(代位責任説)。求償は故意・重過失の場合のみ
- ・職務を行うについては広く解釈され、外形上職務執行と見られる行為を含む(判例)
国家賠償法2条(営造物の設置管理の瑕疵)
第国家賠償法2条条道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体が賠償責任を負う制度です。無過失責任であり、管理者の過失を立証する必要がない点が1条と異なります。
具体例
国道の路面に深い穴が空いていたのに、道路管理者が補修を怠っていた。Cさんが車で走行中にこの穴にはまり、車が損傷し、Cさんも怪我をした。Cさんは国に対し2条に基づき損害賠償を請求できる。
要件
- ・公の営造物であること(道路、河川、公園、学校施設など、国又は地方公共団体が所有・管理する有体物・物的施設)
- ・営造物の設置又は管理に瑕疵があること(通常有すべき安全性を欠いている状態。判例は瑕疵の有無を営造物の用途・場所的環境等を総合考慮して判断)
- ・瑕疵と損害との間に因果関係があること
効果・結論
- ・国又は公共団体が無過失責任を負う(管理者の故意・過失を立証不要)
- ・賠償責任の主体は、原則として営造物の設置・管理者(費用負担者が異なる場合は費用負担者、2条2項)
- ・国又は公共団体は、損害の原因について責任を有する者に対して求償権を行使できる(2条2項)
- ・被害者に重過失がある場合、過失相殺により賠償額が減額される
条文(第国家賠償法2条条)
第2条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。 ②前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
試験のポイント
- ・2条は無過失責任である点が1条と決定的に異なる。管理者の過失を立証せずに請求できる
- ・瑕疵とは営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態(客観的状態)。予算不足は瑕疵の判断を左右しない(判例)
- ・賠償責任者は原則として設置管理者だが、費用負担者が異なる場合は費用負担者が責任を負う(2条2項、頻出)
- ・公の営造物には有体物・物的施設が該当。公務員の活動自体は含まれない
国家賠償法の適用範囲と判例理論
国家賠償法の適用範囲、特に行政処分の違法と国賠請求の関係、規制権限不行使の違法性、立法行為・裁判作用の国賠法上の扱いなど、判例が形成してきた理論を学びます。訴訟実務では、処分の取消訴訟と国賠訴訟の関係が重要です。
具体例
保健所長が飲食店の営業許可を出した後、食中毒が発生した。被害者は許可処分の違法を理由に国賠請求したが、許可処分自体は取り消されていない。この場合でも国賠請求は可能か。
要件
- ・行政処分が違法である場合:処分の取消しを経ずに直接国賠請求が可能(判例)。取消訴訟の排他的管轄は国賠請求を妨げない
- ・規制権限の不行使の場合:権限行使が義務付けられていると解される場合に限り、違法となる(判例は極めて限定的に認める)
- ・立法行為の場合:立法内容が憲法の一義的文言に違反し、国会議員が意識的に放置したなど例外的な場合に限り違法(在宅投票制度廃止事件)
- ・裁判作用の場合:民事・行政事件では違法とならないが、刑事補償法の要件を満たす場合は別途救済
効果・結論
- ・処分が取り消されていなくても、その違法を理由とする国賠請求は可能
- ・規制権限不行使が例外的に違法と認められた場合、1条に基づく賠償責任が発生
- ・立法行為・裁判作用について国賠責任が認められる場合は極めて例外的
試験のポイント
- ・処分の取消訴訟を経ずに直接国賠請求が可能(判例)。ただし処分が適法と判断されれば国賠も認められない
- ・規制権限不行使の違法性は厳格に判断される。単なる権限の不行使では違法とならない(宅建業者の監督権限不行使事件など)
- ・立法不作為による国賠責任は在宅投票制度廃止事件で例外的に認められたが、極めて限定的
- ・伊方原発訴訟では、原子炉設置許可処分における裁量統制の判断枠組みが示された(安全審査の合理性を重視)
国家賠償法と民法の関係・相互保証主義
第国家賠償法6条条国家賠償法は民法の不法行為の特則であり、公務員の行為や営造物の瑕疵については国賠法が優先適用されます。また、相互保証主義(6条)により、外国人が被害者の場合、その本国が日本国民に対して同様の権利を認めている場合に限り国賠請求が可能です。
具体例
外国人のDさんが日本で警察官の違法行為により損害を受けた。Dさんの本国が日本国民に対して同様の国家賠償を認めていれば、Dさんも日本で国賠請求できる。
要件
- ・国賠法の適用場面では、民法の不法行為規定(709条等)は適用されない(特則優先の原則)
- ・外国人が被害者の場合、その本国が相互に日本国民に同様の権利を認めていること(6条の相互保証主義)
- ・ただし相互保証主義は憲法上の要請ではなく、立法政策として採用されたもの
効果・結論
- ・国賠法の要件を満たす場合、国・公共団体のみが責任を負い、公務員個人は被害者に対して責任を負わない(1条)
- ・相互保証がない外国の国民は、国賠請求が制限される
- ・国賠法が適用されない私経済作用(国や公共団体の私法行為)については、民法の不法行為規定が適用される
条文(第国家賠償法6条条)
第6条 この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。
試験のポイント
- ・国賠法は民法の特則であり、公権力の行使・営造物の瑕疵については国賠法が優先適用される
- ・相互保証主義は外国人の国賠請求を制限するが、憲法上の要請ではない(立法政策)
- ・公務員個人は被害者に責任を負わない点が民法との重要な違い(代位責任説)
- ・国・公共団体の私経済作用(例:庁舎建設の請負契約)には民法が適用される
まとめ
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