第1節 国家賠償法
第5章 国家賠償法・損失補償
行政の違法な活動によって損害を受けた国民が、国や公共団体に賠償を求めるための法律が国家賠償法です。憲法17条が保障する国家賠償請求権を具体化したもので、行政法のなかでも出題が多い分野にあたります。この節では、公務員の不法行為について定めた1条と、道路や河川など公の営造物の瑕疵について定めた2条を柱に、賠償責任を負う者の範囲を広げた3条、民法との適用関係を定めた4条、外国人への適用を定めた6条までを学びます。1条は5つの要件を1つずつ、2条は道路と河川の判例を軸に押さえていきます。
国家賠償法とは何か
簡単にいうと
行政の違法な活動で損害を受けたとき、国や公共団体にその穴埋めを求める。そのルールを定めたのが国家賠償法です。
国家賠償法は、行政の違法な活動によって国民に損害が生じた場合に、国や公共団体へその賠償を求めるための基本ルールを定めた法律です。憲法17条が国民に国家賠償請求権を保障しており、それを具体化したのがこの法律にあたります。
行政救済法のなかでの位置づけ
行政をめぐる法律は、権利侵害が起きる前に働くものと、起きてしまった後に働くものに分かれます。行政手続法は前者で、処分の前に意見を述べる機会を用意して侵害そのものを防ぎます。これに対し、行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法は後者の事後措置です。
ただし同じ事後措置でも、不服申立てと取消訴訟が違法な行政活動そのものを取り消させる制度であるのに対し、国家賠償はすでに生じてしまった損害を金銭で埋め合わせる制度です。目的が違います。
取消訴訟との関係
営業停止処分を受けた場合、営業を再開したければ取消訴訟を提起する必要があります。しかし停止期間中の売上減少を取り戻したいのであれば、別に国家賠償請求訴訟を起こさなければなりません。
両者は目的が異なるため、取消訴訟を先に提起して勝っておくことは国家賠償請求の条件になりません。国家賠償請求訴訟だけを単独で提起することもできます。ここは「取消訴訟で勝ってからでないと国家賠償は請求できない」という誤りの選択肢の形で問われます。
主な条文
具体例
A県の職員の違法な処分でBが損害を受けた場合、Bは処分の取消訴訟を提起しなくても、いきなりA県を被告として国家賠償請求訴訟を提起できます。

国家賠償法とは何か
重要メモ
- ・取消訴訟と国家賠償請求訴訟は目的が別で、取消訴訟の勝訴は国家賠償請求の前提条件にならない点がポイント
- ・憲法17条が国家賠償請求権を保障し、それを具体化したのが国家賠償法
- ・事前措置が行政手続法、事後措置が行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法という整理
- ・1条は公務員の不法行為、2条は公の営造物の瑕疵と、責任の型が2つに分かれる
- ・4条は民法の補充適用、6条は外国人への相互保証主義を定める
民法との関係(4条)
4条簡単にいうと
国家賠償法に書かれていない部分は民法が埋めます。どちらが先に適用されるのかを整理しておきます。
損害賠償の請求には通常、民法の不法行為の規定が使われます。しかし相手が一般の私人ではなく国や公共団体である場合には、特別法である国家賠償法が優先して適用されます(4条)。
適用の順序
- ・国家賠償法に規定がある部分は、国家賠償法を適用する
- ・国家賠償法に規定がない部分は、民法を補充的に適用する
一般法と特別法の関係そのもので、国家賠償法が民法を全面的に押しのけるわけではありません。国家賠償法は条文数が少なく、書かれていない事柄が多く残されています。そこを民法が埋めます。
どこで民法が出てくるか
代表例が消滅時効です。国家賠償法には損害賠償請求権の消滅時効に関する規定が置かれていないため、この部分は民法の規定によって処理されます。
「民法の規定」の範囲
4条にいう「民法の規定」には、709条などの不法行為の条文だけでなく、失火責任法も含まれると解されています。失火責任法は、失火の場合には重過失がなければ賠償責任を負わないとする法律です。
そのため公務員の失火によって損害が生じても、軽過失にとどまる限り国や公共団体は責任を負いません。失火責任法という法律名が出てくると「民法ではないから含まれない」と判断しがちですが、4条の「民法の規定」に含まれるというのが結論です。
具体例
A市の消防職員の軽過失によって火災が広がりBの家が焼けた場合、失火責任法が4条の「民法の規定」に含まれるため、A市は賠償責任を負いません。

国家賠償法の概要・民法との関係
重要メモ
- ・国家賠償法が特別法として優先し、規定のない部分だけ民法が補充的に入る点がポイント
- ・4条にいう「民法の規定」には失火責任法も含まれる(12-20-1改題 ○)
- ・失火責任法が適用される結果、公務員の軽過失による失火では賠償責任が生じない
- ・国家賠償法には消滅時効の規定がないため、時効については民法による
- ・民法709条が一般法、国家賠償法が特別法という関係で処理する
国家賠償法1条の5つの要件(概観)
1条簡単にいうと
1条で賠償を請求するには5つの要件をすべて満たす必要があります。まず全体の形をつかみます。
国家賠償法1条は、公務員の不法行為によって生じた損害の賠償について定めた条文です。行政法のなかでも出題が多い条文にあたります。
賠償請求が認められるためには、次の5つの要件をすべて満たす必要があります。
1条の5つの要件
責任を負うのは誰か
5要件を満たした場合に賠償責任を負うのは国または公共団体であって、加害公務員個人ではありません。被害者が加害公務員本人を訴えても認められないという点は、加害者本人が責任を負うのを原則とする民法の不法行為と大きく違います。
国や公共団体が賠償したあと、加害公務員に故意または重過失があった場合に限り、国等はその公務員に求償できます(1条2項)。軽過失にとどまる場合は求償もできません。ここは「過失があれば求償できる」という形で誤りの選択肢が作られます。
損害の範囲
⑤の損害には、民法と同じく財産的な損害だけでなく精神的な損害も含まれます。
具体例
A県の職員Bの違法な処分でCが損害を受けた場合、CはB個人ではなくA県を被告として賠償を請求します。Bに重過失があれば、賠償したA県があとからBに求償します。

国家賠償法1条の5つの要件
重要メモ
- ・賠償責任を負うのは国または公共団体であり、加害公務員個人は直接責任を負わない点がポイント
- ・5要件は、公権力の行使にあたる公務員の行為・職務を行うについて・違法性・故意過失・損害の発生
- ・求償できるのは公務員に故意または重過失がある場合に限られる(1条2項)。軽過失では求償できない
- ・損害には財産的損害だけでなく精神的損害も含まれる
- ・故意・過失が要件となる点で、無過失責任の2条と対比される
国家賠償法1条の要件(公権力の行使とは)
1条簡単にいうと
1条の「公権力の行使」はかなり広い概念です。取消訴訟の処分性と同じ感覚で狭くとらえると間違えます。
国家賠償法1条は「公権力の行使」にあたる行為を対象としています。ではどこまでが「公権力の行使」なのでしょうか。
判断の枠組み
「公権力の行使」には、処分のような権力的行為だけでなく、営造物の設置管理作用と純粋な私経済活動を除くすべての行政活動が含まれます(最判平22.4.20)。除かれる2つは、それぞれ2条と民法が受け持つ領域だからです。
つまり取消訴訟の処分性のように対象を絞る概念ではなく、原則としてほぼすべての行政活動が国家賠償請求訴訟の対象になるという広い概念です。処分性と同じ感覚で狭く考えると誤ります。
なお「公権力の行使」にあたらないとされた場合でも、救済の道が閉ざされるわけではありません。国家賠償請求訴訟では争えなくなりますが、通常の民事訴訟で争うことはできます。
該当するかどうかの判例
間違えやすいところ
同じ医療行為でも結論が分かれます。拘置所で勾留中の患者に対して行われる医療行為は、患者が医師を選べず強制的な関係のもとに置かれているため該当します。これに対し国立大学付属病院での通常の医療行為は、患者が自分の意思で受診しており私人間の診療と変わらないため該当しません。定期健康診断の検診も同じ理由で該当しません。
課外クラブ活動中の顧問教諭の監督は、学校教育の一環として行われるものなので該当します。「授業ではないから公権力の行使ではない」と考えると誤ります。
具体例
A市立中学の課外クラブ活動中にBが負傷した場合、顧問教諭の監督は公権力の行使にあたるため、BはA市に国家賠償を請求できます。

国家賠償法1条の要件(公権力の行使とは)
重要メモ
- ・公権力の行使は、営造物の設置管理作用と純粋な私経済活動を除くすべての行政活動を含む広い概念(最判平22.4.20)
- ・取消訴訟の処分性と異なり、原則としてすべての行政活動が国家賠償請求訴訟の対象になる
- ・課外クラブ活動中の顧問教諭の監督は公権力の行使にあたる(最判昭58.2.18、12-20-2 ×)
- ・拘置所職員である医師の医療行為は該当し、国立大学付属病院の通常の医療行為は該当しない
- ・公権力の行使にあたらない場合でも、通常の民事訴訟で争うことはできる
国家賠償法1条の要件(公務員とは)
1条簡単にいうと
身分としての公務員に限りません。公務を委託された民間人まで含みます。記述式でも問われる論点です。
国家賠償法1条にいう「公務員」は、身分上の公務員に限られません。
「公務員」の範囲
国家公務員法や地方公務員法上の公務員だけでなく、国会議員・裁判官・公務を委託された民間人も含まれます。公務員という言葉から受ける印象より広く、その者が行っている仕事が公務にあたるかどうかで判断されます。
民間企業の職員が「公務員」にあたった例
Z県が児童養護事業を社会福祉法人Yに委託し、Yが運営する施設のなかで職員がXに不法行為を行った、という事案があります。
最高裁は、県が児童養護事業を委託していたことを理由に、施設職員を国家賠償法1条の「公務員」にあたると判断し、XのZ県に対する国家賠償請求を認めました。雇用関係があるのはYであって県ではありませんが、行っている仕事が県から委託された公務だからです。
裏返しの結論に注意
ここで重要なのは、その裏返しになる結論です。Xが国家賠償法1条に基づいてZ県に請求できる以上、民法709条や715条に基づいて施設職員個人やYに損害賠償を請求することはできません。加害公務員個人が責任を負わないという1条の構造が、委託を受けた民間人にもそのまま及びます。
過去問では「被用者個人は709条の責任を負わないが、施設を運営する使用者は715条の責任を負う」という形で出題され、誤りとされました。個人も法人も民法上の責任を負わないというのが結論です。
加害公務員の特定
国家賠償を請求するにあたって、加害公務員を特定する必要は必ずしもありません(最判昭57.4.1)。組織のなかで誰の行為によるものかを被害者が突き止めるのは困難だからです。
具体例
Z県から児童養護事業を委託された社会福祉法人Yの施設職員がXに損害を与えた場合、XはZ県に国家賠償を請求できますが、職員個人にもYにも民法上の賠償請求はできません。

国家賠償法1条の要件(公務員とは)
重要メモ
- ・国家賠償法の「公務員」には国会議員・裁判官・公務を委託された民間人も含まれる点がポイント
- ・県が委託した児童養護施設の職員も「公務員」にあたり、県が国家賠償責任を負う
- ・県に1条の責任が生じる以上、職員個人にも運営法人にも民法709条・715条の請求はできない(14-19-イ ×)
- ・加害公務員を特定できなくても国家賠償請求は認められる(最判昭57.4.1)
- ・賠償責任を負うのは国・公共団体であり、加害公務員個人は責任を負わない
国家賠償法1条の要件(職務を行うについてとは)
1条簡単にいうと
本人がどういうつもりだったかではなく、外から見て仕事に見えるかどうかで判断します。
1条は、公務員の行為が「その職務を行うについて」なされたことを要件としています。休日に私用で起こした事故まで国が責任を負うわけではない、という限定です。
外形標準説
判断は、加害行為が客観的に職務行為の外形を備えているかによって行い、公務員個人の主観的な意図は問いません(最判昭31.11.30)。これを外形標準説といいます。
第三者から見て「公務員が仕事中に起こしたこと」に見えるかどうかで決める、という考え方です。
なぜ外形で判断するのか
被害者には、目の前の公務員が職務として動いているのか私的な目的で動いているのか、内心を知る手立てがありません。外形で判断することによって、被害者が救済を受けられる範囲が広がります。被害者保護がこの説の理由です。
代表例
非番の警察官が制服を着用したうえで強盗殺人を起こしたという事案で、最高裁は国家賠償請求を認めました(最判昭31.11.30)。本人の目的はまったく私的なものでしたが、制服を着て職務質問の形をとっており、外形は職務行為そのものだったからです。
過去問では「公務員が私人として行った行為でも、客観的にみて職務執行の外形を備えている場合には含まれる」という記述が正しいものとして出題されています。「私的目的だから該当しない」と判断すると誤ります。
具体例
非番のA県警の警察官が制服のまま職務質問を装ってBから金品を奪った場合、外形は職務行為なので、BはA県に国家賠償を請求できます。
重要メモ
- ・外形標準説がポイント。客観的に職務行為の外形を備えていればよく、公務員個人の主観的意図は問わない
- ・非番の警察官が制服を着用して強盗殺人を起こした事案で国家賠償請求が認められた(最判昭31.11.30)
- ・私的な目的で行われた行為でも、外形が職務行為であれば「職務を行うについて」にあたる(98-37-2 ○)
- ・外形で判断する理由は、被害者が公務員の内心を知りえないことによる被害者保護
- ・「私的目的だから該当しない」とする選択肢は誤りになる
国家賠償法1条の要件(違法な行為とは)
1条簡単にいうと
損害が出たかどうかではなく、公務員が払うべき注意を払ったかどうかで違法性を判断します。
1条の「違法な行為」かどうかは、行為の結果ではなく公務員の注意義務を基準に判断します。
違法の判断基準
加害公務員が職務上、通常尽くすべき注意義務を尽くしたか否かによって判断します(奈良税務署推計課税事件/最判平5.3.11)。
注意して活動していたのに損害が発生してしまった場合は適法、注意を怠って活動していて損害が発生した場合は違法、という整理になります。結果として国民に損害が出たかどうかだけでは決まりません。
判例の判断基準と結論
試験では、判断基準そのものを問う出題と、その事案の結論を問う出題の両方があります。表の左右をセットで覚える必要があります。
結論が分かれた理由
規制権限の不行使の2件は、判断基準の文言がほとんど同じなのに結論が逆になっています。分かれ目は、大臣が当時その危険性を認識できたかどうかです。
副作用を認識することができなかったクロロキン薬害事件では、権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠くとはいえないとして適法とされました。危険性を認識することができたアスベスト事件では違法と判断されています。
国会議員の立法不作為も同じ構造です。基準としては原則として違法にならないのですが、在外国民の選挙権が長期にわたって確保されなかった事案では例外にあたるとして違法と判断されました。
判断基準を述べた文は「〜の場合は違法である」という形で終わります。これをその事案の結論と読むと逆になります。基準の文と結論の欄は別物として押さえてください。
具体例
A県警のパトカーがBを追跡中にBが第三者Cに衝突した場合でも、追跡の開始や方法が不相当でなければ違法とはならず、CはA県に賠償を請求できません。
重要メモ
- ・違法の基準は、加害公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたかどうか(最判平5.3.11)
- ・規制権限の不行使は著しく合理性を欠く場合に違法。危険性を認識できたアスベストは違法、認識できなかったクロロキンは適法
- ・国会議員の立法不作為は原則として違法にならないが、在外国民の選挙権の事案では例外的に違法とされた(最大判平17.9.14)
- ・無罪判決が確定しただけでは、起訴前の逮捕・勾留や起訴後の勾留は違法とならない(最判昭53.10.20)
- ・判断基準の文の語尾と、その事案の結論は別物。混同すると結論が逆になる
国家賠償法2条の要件と公の営造物
2条簡単にいうと
道路や河川の管理に問題があって損害が出た場面は2条が受け持ちます。1条との一番の違いは、過失がいらないことです。
国家賠償法2条は、道路や河川など国や公共団体が設置・管理する公の営造物の瑕疵によって生じた損害の賠償について定めています。
2条の2つの要件
- ・公の営造物であること
- ・設置または管理の瑕疵に基づく損害であること
1条と違い、故意・過失は要件になっていません。管理者がどれだけ注意していたかを問わず、客観的に瑕疵があれば責任が生じます(無過失責任)。ここが1条との最大の違いであり、比較の形で繰り返し問われます。
「公の営造物」の範囲
2条には「道路、河川その他の公の営造物」とありますが、これは例示にすぎません。公園・パトカー・空港施設・学校の施設など、公の目的に利用されているものは広く含まれます。不動産に限られず、動産も対象になります。
管理主体が法律で決まっていない場合
営造物のなかには、法律上の管理主体がはっきり定まっていないものもあります。この場合は、それを事実上管理している自治体が管理主体として賠償責任を負います(最判昭59.11.29)。法律に書かれていないことを理由に誰も責任を負わない、という結論にはなりません。
具体例
A市が管理する市道の防護柵が壊れていてBが負傷した場合、A市に過失がなくても、通常有すべき安全性を欠いていればA市は賠償責任を負います。

国家賠償法2条(公の営造物の設置・管理の瑕疵)
重要メモ
- ・2条は無過失責任がポイント。故意・過失がなくても、客観的に瑕疵があれば賠償責任が生じる
- ・2条の要件は、公の営造物であることと、設置または管理の瑕疵に基づく損害であることの2つ
- ・道路・河川は例示。公園・パトカー・空港施設なども公の営造物にあたる
- ・法律で管理主体が決まっていない営造物は、事実上管理している自治体が責任を負う(最判昭59.11.29)
- ・1条は過失責任、2条は無過失責任という対比で出題される
設置・管理の瑕疵とは(判例)
2条簡単にいうと
瑕疵があるかどうかは、管理者の落ち度ではなく営造物の状態そのものを見て決めます。道路と河川の判例が繰り返し出ます。
2条にいう「設置または管理の瑕疵」とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。管理者に落ち度があったかどうかではなく、営造物の状態を客観的に見て判断します。
判例による判断
予算不足は理由にならない
高知国道落石事件で最高裁は、防護柵の設置に多額の費用がかかり予算措置が困難であっても、道路管理者は賠償責任を免れないとしました。財政上の事情は免責の理由になりません。過去問で繰り返し問われています。
放置時間の違いが結論を分ける
道路上の障害物に関する2つの判例は結論が逆です。87時間放置されていた故障車の事案では、その間に何の措置もとっていないのだから瑕疵があるとされました。これに対し、事故の直後に後続車が追突した事案では、管理者に手の打ちようがなかったとして瑕疵は否定されています。時間の長さが分かれ目です。
河川は未改修か改修済みかで変わる
河川の2つの判例も結論が逆になります。分かれ目は改修の段階です。
未改修河川に求められる安全性は、同種・同規模の河川の一般的な管理水準に照らして是認できる程度で足ります(過渡的安全性で足りる)。予算にも時間にも限りがあるなかで順次改修していく以上、完全な安全までは求められないからです。
これに対し改修済みの河川では、過渡的安全性では足りません。改修した時点で想定していた洪水に耐えられなければ瑕疵があるとされます。一度改修した以上、その計画の水準は満たしていなければならないという考え方です。
事件名と結論の組み合わせで出題されるため、大東水害訴訟は未改修で瑕疵なし、多摩川水害訴訟は改修済みで瑕疵あり、という形で覚えます。
具体例
A県が管理する未改修の河川が大雨で氾濫しBが浸水被害を受けた場合、同規模の河川の一般的な管理水準に照らして是認できる安全性があれば、A県に賠償責任は生じません。

設置・管理の瑕疵(道路と河川)
重要メモ
- ・瑕疵とは営造物が通常有すべき安全性を欠いていること。管理者の落ち度ではなく営造物の状態で客観的に判断する
- ・予算措置が困難でも道路管理者は賠償責任を免れない(高知国道落石事件/最判昭45.8.20、10-20-2 ×)
- ・故障車が87時間放置された事案は瑕疵あり、事故直後に後続車が追突した事案は瑕疵なし
- ・未改修河川の大東水害訴訟は瑕疵なし、改修済河川の多摩川水害訴訟は瑕疵あり
- ・未改修河川は過渡的安全性で足りるが、改修済河川では過渡的安全性では足りない
国家賠償法3条(被告の選択)
3条簡単にいうと
営造物の管理者と、その費用を出している団体が違うことがあります。被害者はどちらを訴えてもかまいません。
被害者にとって、誰を被告にすればよいのかは大きな問題です。営造物の管理者と、その費用を負担している団体が食い違うことは珍しくありません。
3条は、1条・2条の責任主体以外にも賠償を請求できる道を用意しています。
被告にできる者
管理者と費用負担者が異なるとき、被害者はどちらを被告として訴えてもかまいません。どちらか一方に限られるわけではなく、両方が賠償責任を負います。
過去問では「管理者と費用負担者とが異なる場合、責任を負うのは費用負担者に限られる」という誤りの形で問われています。被害者に調査の負担をかけないための規定ですから、被告の選択肢を狭める方向の記述は誤りになります。
求償
費用負担者が賠償した場合、その者は加害公務員の選任・監督にあたる国等や、営造物の設置・管理にあたる国等に対して求償することができます(3条2項)。最終的にどちらが負担するかは、国等の間で調整されます。
具体例
A県が管理する道路の費用をB市が負担している場合、道路の瑕疵で損害を受けたCは、A県とB市のどちらを被告にしても賠償を請求できます。

国家賠償法3条(被告の選択)
重要メモ
- ・管理者と費用負担者のどちらを被告にしてもよく、両方が賠償責任を負う点がポイント
- ・3条1項は、公務員の俸給・給与の費用負担者と、営造物の設置・管理の費用負担者を責任主体に加える
- ・責任を負うのが費用負担者に限られるとする記述は誤り(09-19-4 ×)
- ・費用負担者が賠償したときは、選任監督者や設置管理者に求償できる(3条2項)
- ・被害者に被告の調査負担をかけないための規定という趣旨から考えると判断しやすい
国家賠償法6条(外国人への適用)
6条簡単にいうと
外国人が被害者のときは無条件に適用されるわけではありません。相手国との対応関係が条件になります。
国家賠償法は、外国人が被害者である場合には無条件には適用されません。
相互保証主義
外国人が被害者である場合、その外国人の本国で日本国民が同様に賠償を受けられるときに限り、国家賠償法が適用されます(6条)。これを相互保証主義といいます。
相手国が日本人を救済してくれるなら日本も相手国の国民を救済する、という対応関係です。
具体的なイメージ
イギリスの警察官から不法行為を受けた日本人が、イギリスの国家賠償制度で保護される。その関係があるからこそ、日本の警察官から不法行為を受けたイギリス人を日本の国家賠償制度で保護する、という形になります。
もし相手国に日本人を救済する制度がなければ、その国の国民は日本の国家賠償法による救済を受けられません。
1条にも2条にも及ぶ
相互保証主義は、1条(公務員の不法行為)だけの話ではありません。2条(営造物の瑕疵)の責任についても同じように必要です。
過去問では「相互保証が必要なのは1条だけで、2条については相互保証がなくても責任が生じる」という誤りの形で出題されています。6条は責任の種類を区別していません。
具体例
日本人がC国で公務員から損害を受けても賠償を受けられない場合、C国の国民が日本で道路の瑕疵により損害を受けても、国家賠償法は適用されません。

国家賠償法6条(外国人への適用・相互保証主義)
重要メモ
- ・外国人への適用には相互保証が必要。本国で日本人が賠償を受けられる場合に限り適用される(6条)
- ・相互保証主義は1条だけでなく2条の責任についても必要(11-19-3 ×)
- ・相手国に日本人を救済する制度がなければ、その国の国民に国家賠償法は適用されない
- ・出題頻度は高くないが、1条限定とする誤りの選択肢が作られやすい
- ・憲法17条の保障が及ぶ範囲を法律で調整した規定という位置づけ
まとめ
関連判例
県から市への求償
最判平21.10.23市立中学校教諭の給与費用負担者:都道府県(義務教育費国庫負担法) 学校設置者:市町村(指揮監督権あり) 国賠法3条1項:費用負担者と設置者が異なる場合、両者ともに賠償責任を負う 国賠法3条2項の「内部関係でその損害を賠償する責任ある者」:費用を負担すべき者を含む→本件では市(設置者)が全額負担 都道府県が賠償した場合の求償先・求償額:市に対して全額求償できる 平成26年度・令和3年度行政書士試験で出題された判例
複数の公務員が負う求償債務
最判令02.07.14国家賠償法1条2項の求償債務は原則として分割債務(各公務員が過失の程度に応じて負担) 複数の公務員の加害行為が一体とみなされる場合には、例外的に連帯して求償債務を負う 求償権が認められるのは、公務員に故意または重大な過失がある場合に限られる(単純な過失では求償不可) 注意:被害者は公務員個人に直接請求できず、国・自治体のみに請求できる(国賠法1条1項) 本判例は住民訴訟という形で争われた点も押さえておく(地方自治法242条の2)
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行政法の重要用語
不可争力
行政行為に対して不服申立てができる期間が過ぎると、私人の側からはもう争えなくなる効力のこと。
期限
行政行為の効力の発生または消滅を、将来確実に到来する事実にかからせる附款のこと。
公用制限
公共目的のために私人の財産権に制限を加えるが、所有権自体は残したままにする行政作用のこと。
行政不服審査法
行政庁の処分や不作為に対して、国民が簡易・迅速に不服を申し立てるための手続を定めた法律のこと。
行政罰
行政上の義務違反に対して制裁として科される罰のこと。刑事罰である行政刑罰と、金銭罰である秩序罰の2種類がある。
法律行為的行政行為
行政庁の意思表示によって法律効果を発生させる行政行為のこと。許可や認可など、意思の内容どおりに効果が生じる点が特徴。
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