第1節 商法総則
第1章 商法総則・商行為
商法総則は、商取引に関わるすべての人に共通するルールを定めた分野です。誰が「商人」なのか、商人の名称である「商号」はどう保護されるのか、商人を補助する「商業使用人」にはどんな権限があるのかを学びます。これらは会社法を学ぶ前提となる重要な基礎知識です。
民法と商法の関係
第商法1条条簡単にいうと
民法と商法、どちらが優先されるの?商取引の場面では商法が民法より優先して適用され、商法に規定がなければ民法が補完的に適用されます。
民法と商法は、ともに私人間の法律関係を規律するという点で共通していますが、それぞれが対象とする場面は大きく異なります。民法は一般市民同士の財産関係・家族関係を広く規律する「一般法」であるのに対し、商法は「商売(商取引)」を継続的・営利的に行う商人を念頭に置いた特別のルールを定める「特別法」です。特別法優先の原則により、特別法である商法は一般法である民法に優先して適用され、商法に規定がない事項については民法が補充的に適用されます(商法1条)。
この原則が実務上最も顕著に現れる例が利息の取扱いです。民法では、貸したお金に利息を請求するためには当事者間で利息を取るという合意(約束)が必要です(無利息が原則)。しかし商法では、商人が営業のために貸したお金については、特約がなくても当然に利息を請求することができます(商法513条1項)。金融業者が貸付業務を行う場合はまさにこれにあたり、無約定であっても利息請求が認められます。また、民法では本人が死亡すると代理権は消滅しますが(民法111条1項1号)、商行為の委任による代理権は本人の死亡によっても消滅しません(商法506条)。商取引の迅速性・継続性を確保するための特則です。
さらに、民法では契約の申込みに対して承諾する旨の通知がなければ契約は成立しませんが(民法522条1項)、商法では、商人が平常取引をする者からの申込みを受けた場合に、諾否の通知を発しないときは、申込みを承諾したものとみなされます(商法509条2項)。このように商法は大量・迅速・反復される商取引の実態に合わせて民法の原則を修正しており、試験では両者の対比が繰り返し問われます。
具体例
金融業者AがBにお金を貸した場合、商法が適用されるため、利息の取り決めをしていなくても、AはBに利息を請求することができる。一方、友人間の貸し借りには民法が適用されるため、利息の約束がなければ利息は請求できない。

民法と商法の関係
ポイント整理
- ・商法の規定が存在する場合は商法が優先適用される
- ・商法に規定がない場合に限り民法が補充適用される
効果
- ・商法が民法に優先して適用される(特別法優先の原則)
- ・商法に規定がない事項には民法が適用される
条文(第商法1条条)
商法1条:商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。2 商事に関し、この法律に定めなき事項については民法の規定を適用する。
重要メモ
- ・「商法は民法の特別法——商法に規定なければ民法が適用・商売(商取引)に特化したルールが商法」
- ・特別法と一般法の関係:特別法の商法が一般法の民法に優先する
- ・商法の適用範囲:商人(商行為をする者・店舗等で物品を販売する者)に適用される
- ・商法に規定がない事項は民法が適用される(商法の補充的適用)
商人の定義
第商法4条条簡単にいうと
「商人」って誰のこと?商法が適用される「商人」になるには2つのルートがあります。
商法が適用されるためには、原則として取引をしている者が「商人」である必要があります。商人とは、①自己の名をもって商行為をすることを業とする者(商法4条1項)、または②店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者もしくは鉱業を営む者(商法4条2項:擬制商人)のいずれかに該当する者をいいます。
①の商人(固有の商人)は、商行為(絶対的商行為・営業的商行為)を「自己の名で」かつ「業として」行うことが要件です。「自己の名で」とは、自分が権利義務の主体として行為することであり、他人の代理人として行為する者は含まれません。「業として」とは、営利目的をもって同種の行為を反復継続して行うことをいいます。1回きりの投機購買は絶対的商行為(501条1号)に該当するため商行為となりますが、これを「業として」行って初めて商人となります(なお絶対的商行為の場合は1回の行為も商行為であり、継続してこれを業にすることが商人の要件)。②の擬制商人は、商行為そのものを行っているわけではないが、店舗等の設備を用いて物品を販売する業者(例:農家が直売所で農産物を販売する場合)であり、取引の実態に着目して商人として扱われます。
なお、規模が極めて小さい商人を小商人といい(商法7条)、小商人には商業登記・商号・商業帳簿に関する規定が適用されません。また、未成年者であっても法定代理人の許可を得て営業を行う場合や、法人が商行為を業とする場合も商人となりえます。会社(株式会社・合名会社・合資会社・合同会社)は定款に定める目的の範囲内で商行為をすることを業とするため、商人とみなされます(会社法5条)。
具体例
スーパーマーケットを経営するAは、商品の仕入れ・販売(投機購買)という商行為を業として行うため、4条1項の商人にあたる。農家Bが自分の農地で育てた野菜を直売所で販売する場合、農業自体は商行為ではないが、店舗的設備で物品を販売しているため4条2項の擬制商人にあたる。

商法が適用される者(商人の判定基準)
ポイント整理
- ・①自己の名をもって商行為を業とすること(4条1項:固有の商人)
- ・または②店舗等の設備で物品を販売することを業とすること(4条2項:擬制商人)
効果
- ・商法上の商人として商法の規定が全面的に適用される
- ・商号使用・商業登記・商業帳簿作成等の義務が生じる(小商人を除く)
条文(第商法4条条)
商法4条1項:この法律において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。2 店舗その他これに類似する設備によって物品の販売を業とする者又は鉱業を営む者は、商行為を行うことを業としない者であっても、これを商人とみなす。
重要メモ
- ・「商人とは①商行為を業として行う者(4条1項)②店舗等で物品を販売する者(小商人を含む・4条2項)——この2つが商法の適用対象」
- ・固有の商人(4条1項):自己の名をもって商行為をすることを業とする者
- ・擬制商人(4条2項):商行為を行っていないが、店舗等で物品を販売する者(例:農家が農産物を直売するケース)
- ・小商人(7条):法定の7条に該当する場合は商業登記・商業帳簿・支配人に関する商法の規定が適用されない
絶対的商行為と営業的商行為
第商法501条・502条条簡単にいうと
「商行為」には1回やるだけで商行為になるものと、繰り返すことではじめて商行為になるものの2種類があります。
商行為とは商法が定める一定の行為であり、大きく①絶対的商行為(商法501条)と②営業的商行為(商法502条)に分類されます。さらに、③商人が営業のためにする行為(附属的商行為、商法503条)もありますが、行政書士試験では①②の区別が中心です。
絶対的商行為(501条)とは、行為の性質上それ自体が当然に商行為となるものであり、一度行っただけで商行為として扱われます(営利性が特に強いもの)。具体的には、第1号の投機購買およびその実行行為(利益を得て譲渡する意思で動産・不動産・有価証券を有償取得し、またはその取得したものを譲渡することを目的とする行為)、第2号の投機的貸借およびその実行行為(先に動産・有価証券を高く売り、後で安く買い入れてその差額を得る行為)、第3号の取引所においてする取引(金融商品取引所での売買等)、第4号の手形その他の商業証券に関する行為(手形の振出し・裏書・引受け・保証等)の4種類があります。特に1号の投機購買については「不動産」も含まれる点(不動産は本来民法の守備範囲だが転売目的での取得は商行為)が頻出です。
営業的商行為(502条)とは、営業として継続・反復して行うことで初めて商行為となるものです。1回きりでは商行為にはなりません。主な類型として、投資貸借(1号)、他人のためにする製造・加工業(2号:精米業・クリーニング業など)、電気・ガス・水道の供給(3号)、運送(4号:陸上・海上・航空)、作業または労務の請負(5号)、出版・印刷・撮影(6号)、場屋取引(7号:ホテル・旅館・飲食店・パチンコ店・碁会所等)、両替その他の銀行取引(8号)などがあります。場屋取引(7号)は行政書士試験で特に頻出であり、「客に施設を利用させることを目的とする取引を、営業として行うこと」と定義されます(502条7号)。
具体例
Aが転売目的でマンションを購入した場合、1回きりでも絶対的商行為(501条1号:投機購買)にあたる。一方、旅館業者Bが客を泊める行為は、営業として反復することで営業的商行為(502条7号:場屋取引)にあたる。
ポイント整理
- ・絶対的商行為(501条):1号〜4号に該当する行為であること(1回でも成立、営業性不要)
- ・営業的商行為(502条):1号〜8号等に該当する行為を営業として反復・継続して行うこと
効果
- ・当該行為が商行為と認定されることで行為者が「商人」となる(4条1項)
- ・商法上の各種規定(代理・利息・契約承諾等)が適用される
条文(第商法501条・502条条)
商法501条(絶対的商行為):次に掲げる行為は、商行為とする。一 利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為 二 他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為 三 取引所においてする取引 四 手形その他の商業証券に関する行為/商法502条(営業的商行為):次に掲げる行為は、営業としてするときは、商行為とする(各号略)。
重要メモ
- ・「絶対的商行為(501条)=一度行っただけで商行為・営業的商行為(502条)=繰り返して業とする場合に商行為」
- ・絶対的商行為(501条):①投機購買・実行行為②投機売却・実行行為③取引所での取引④手形その他商業証券に関する行為——1回でも商行為
- ・営業的商行為(502条):業として繰り返す場合に商行為となる(運送業・場屋営業・銀行取引等)
- ・附属的商行為(503条):商人が営業のためにする行為——本来は商行為でなくても商行為とみなされる
商号
第商法11条・12条条簡単にいうと
商号とはお店や会社の名前のこと。不正な目的で他人の有名な商号を使うのは禁止されています。
商号とは、商人が営業上自己を表示するために使用する名称のことです(商法11条1項)。個人商人も会社も商号を持つことができ、商人はその商号を自由に選定することができます(商号選定の自由)。選定した商号は登記することができ、登記された商号は商業登記簿に記録されて公示されます。
商号の保護に関して重要なルールが2つあります。第一に、同一市町村内において同一の営業のために他人が登記した商号と同一の商号を使用することは原則として認められません(商法12条1項・旧規定参照)。第二に、より重要なのが「不正の目的」による商号使用の禁止です(商法12条1項)。何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認させるおそれのある名称または商号を使用してはなりません。この禁止は、商号が登記されているかどうかや、相手方が善意か悪意かを問わず適用されます。「不正の目的」がない場合(たまたま同一または類似する商号を使用している場合)は禁止されません。この点が試験では頻繁に問われます。
不正目的による商号使用があった場合、その商号を使用されている商人(または使用されるおそれのある商人)は、当該使用の停止(差止請求)および損害賠償を請求することができます(商法12条2項)。なお、商号の譲渡は、①営業とともに行う場合(営業譲渡)または②営業を廃止する場合に限って認められます(商法15条1項)。商号だけを単独で売買・譲渡することはできません。
具体例
Aが「野畑法律事務所」という有名な商号に便乗して「野畑法律事務所」という商号を使い顧客を誘引しようとした場合、不正の目的による商号使用として禁止され、本家の野畑法律事務所は差止請求と損害賠償請求が可能。一方、たまたま同じ名前の商号を使っていた場合は「不正の目的」がないため禁止されない。
ポイント整理
- ・不正の目的で他の商人であると誤認させるような商号を使用すること(12条1項違反の要件)
効果
- ・商号使用者に対して差止請求が可能(12条2項)
- ・損害賠償請求が可能(12条2項)
- ・相手方の善意・悪意は不問
条文(第商法11条・12条条)
商法12条1項:何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認させるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。2 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある商人は、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
重要メモ
- ・「商号は商人が商売に使用する名称・不正目的での同一・類似商号は禁止(12条1項)・商号の登記は任意だが登記すると第三者への対抗力を持つ」
- ・商号自由の原則:商人は原則として自由に商号を選定できる
- ・不正競争の禁止(12条1項):不正の目的で他の商人と誤認させる商号の使用を禁止
- ・商号の登記(11条):商号の登記は義務ではない(任意)——ただし登記すると対抗力が生じる
- ・会社の商号:会社の種類(株式会社・合名会社等)を商号中に示す必要がある(6条)
名板貸し
第商法14条条簡単にいうと
自分の商号を他人に使わせることを「名板貸し」といいます。名前を貸した側も責任を負うのが重要ポイントです。
名板貸しとは、ある商人(名板貸人)が自己の商号を他人(名板借人)に使用させることを許諾する行為をいいます(商法14条)。名板貸人が名板借人の商号使用を許諾した場合において、名板借人の取引の相手方が、その名板借人を名板貸人本人であると誤信して取引をしたとき、名板貸人は当該取引によって生じた債務について名板借人と連帯して弁済する責任を負います。
この責任が認められるための要件は3つです。第一に、名板貸人が名板借人の商号使用を許諾していること(黙示の許諾も含まれます)。第二に、取引の相手方が名板借人を名板貸人本人であると誤信したこと(外観への信頼)。第三に、相手方が善意かつ無重過失であること(重大な過失がある場合には保護されません)。この3要件はいずれも欠かせず、すべてを満たした場合に初めて名板貸人の連帯責任が発生します。
名板貸人の責任は外観法理(権利外観法理)に基づくものです。自ら誤った外観を作出した者が、その外観を信頼した善意の第三者に対して責任を負うというのが商法の考え方です。名板貸人が連帯責任を負う場合でも、名板借人も引き続き債務者であることには変わりないため、相手方は名板貸人・名板借人の双方に請求することができます。なお、無断で他人の商号を使用した場合(許諾のない場合)は、名板貸責任は発生しません。この点も試験では問われます。
具体例
野畑商店(A)がBに「野畑商店」という商号の使用を許諾したところ、BがCと代金50万円の取引をして支払いをしなかった。CがBとAの関係について善意かつ無重過失であれば、CはAに対しても連帯して代金50万円の支払いを請求できる。

名板貸しの法的責任構造
ポイント整理
- ・名板貸人が名板借人の商号使用を許諾していること(黙示の許諾も含む)
- ・取引の相手方が名板借人を名板貸人本人であると誤信したこと
- ・相手方が善意かつ無重過失であること(重過失があると保護されない)
効果
- ・名板貸人は名板借人と連帯して取引から生じた債務を弁済する責任を負う(14条)
条文(第商法14条条)
商法14条:自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
重要メモ
- ・「名板貸し(14条):自己の商号使用を許諾した商人は、それを信じて取引した善意・無重過失の相手方に対し連帯責任を負う」
- ・名板貸しの意義(14条):商人が他人に自己の商号を使用して営業または事業を行うことを許諾した場合
- ・名板貸人の責任要件:①商号使用の許諾②相手方が許諾商人の営業と誤認したこと③相手方が善意・無重過失
- ・効果:名板貸人と名板借人が連帯して債務を弁済する責任を負う
- ・名板貸しの責任は相手方保護の趣旨——誤認を招いた点に名板貸人の帰責性あり
支配人
第商法21条・23条条簡単にいうと
支配人は商人の代わりに営業に関するすべての行為ができる最も権限の強い商業使用人です。
商業使用人とは、特定の商人に従属して、その商人の営業上の業務を補助する者のことをいいます。中でも最も強力な権限を持つのが支配人です。支配人とは、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する商業使用人をいいます(商法21条1項)。「一切の裁判上・裁判外の行為」というのが特徴であり、営業に関する限り、訴訟を起こすことも含めた包括的な代理権を持ちます。
支配人の代理権の制限については重要なルールがあります。商人(本人)が支配人の代理権に制限を加えることは可能ですが、その制限は善意の第三者に対抗することができません(商法21条3項)。例えば「2号店の営業に関する行為に限る」と制限しても、その制限を知らない善意の第三者との取引は有効となり、商人はその責任を負います。支配人の代理権が法定されていること(代理権の範囲が一律に定まっている)が、この規律の根拠です。
支配人は商人の許可を得なければ、①自ら営業を行うこと、②自己または第三者のために商人の営業の部類に属する取引をすること、③他の商人の使用人または会社の取締役等となること、④会社の業務執行社員等となることはできません(商法23条1項:競業避止義務)。支配人がこれら4つの競業避止義務に違反した場合、商人は当該行為によって支配人または第三者が得た利益を商人に生じた損害額と推定して損害賠償を請求することができます(商法23条2項:介入権)。なお、競業避止義務は商人の許可があれば解除できます。
具体例
野畑商店AがBを支配人に選任し、「2号店の取引のみ権限を与える」と定めた場合でも、Bとの取引を野畑商店全体のものと信じた善意のCとの取引はAに効果が帰属し、AはCに責任を負う。
ポイント整理
- ・商人に代わってその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有すること(21条1項)
- ・商人(または会社)による支配人としての選任があること
効果
- ・支配人は裁判上・裁判外の一切の権限を包括的に有する(21条1項)
- ・代理権への制限は善意の第三者に対抗できない(21条3項)
- ・競業避止義務を負い、違反した場合は商人が介入権(損害賠償)を行使できる(23条)
条文(第商法21条・23条条)
商法21条1項:支配人は、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。3 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
重要メモ
- ・「支配人(21条):商人に代わって営業に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする包括的代理権を持つ商業使用人・代理権制限は善意の第三者に対抗不可」
- ・支配人の権限(21条):商人の代理人として裁判上・裁判外の一切の行為を行える(包括的代理権)
- ・代理権の制限(21条3項):支配人の代理権に加えた制限は善意の第三者に対抗できない
- ・支配人の競業避止義務(23条):支配人は商人の許可なく自ら競業取引・他の商人への使用人就任等ができない
- ・支配人の選任・解任(20条):登記必要——登記により第三者に対抗できる
表見支配人
第商法24条条簡単にいうと
実際には支配人でないのに支配人という肩書きを与えられた人、取引相手はどうなるの?表見支配人として保護されます。
支配人ではない者に対して「支配人」や「営業所の主任者」等の名称を付与した場合、取引の相手方を保護する必要があります。そこで民法の表見代理(民法109条)と同様の外観保護の制度が商法にも設けられており、これを表見支配人といいます(商法24条)。
表見支配人として認められるための要件は3つです。第一に虚偽の外観の存在(商人が当該使用人に対して支配人その他営業所の主任者であることを示す名称を付与していること)、第二に商人(本人)の帰責性(商人自身が名称を付与したか、または付与することを黙認したこと)、第三に相手方が善意かつ無重過失であること(悪意または重大な過失のある相手方は保護されません)の3点です。これら3要件を満たす場合、当該使用人は当該営業所の営業に関する一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされます(商法24条)。
真正の支配人(商法21条)との決定的な違いは、権限の範囲が「裁判外の行為のみ」に限定されている点です。表見支配人は、営業に関する裁判外の取引行為については代理権があるものとみなされますが、訴訟行為など裁判上の行為については代理権があるものとはみなされません。この区別は試験で頻繁に問われる最重要ポイントです。なお、相手方に悪意または重大な過失がある場合には24条の保護は受けられないため、取引前に相手方の状況(善意・重過失の有無)を確認することが重要です。
具体例
野畑商店AがBに「2号店主任」という肩書きを与えて営業させていたが、Bは実際には支配人ではなかった。CがBを支配人と信じて善意・無重過失で取引した場合、AはCとの取引(裁判外の行為)について責任を負う。ただし、CがBを代理人として訴訟を起こすことはできない(裁判上の行為は対象外)。

支配人の権限と制限
ポイント整理
- ・支配人その他の営業所主任者を示す名称が付与されていること(虚偽の外観)
- ・商人が当該名称を付与または黙認したこと(帰責性)
- ・相手方が善意かつ無重過失であること(悪意・重過失は保護対象外)
効果
- ・当該使用人は営業所の営業に関する一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされる(24条)
- ・裁判上の行為についての権限はみなされない(真正支配人との違い)
条文(第商法24条条)
商法24条:商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、相手方が悪意であったときを除き、当該営業所の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。
重要メモ
- ・「表見支配人(24条):支配人ではないが支配人という肩書を与えられた者——善意・無重過失の相手方には裁判外の一切の行為権限があるとみなされる(裁判上は除く)」
- ・表見支配人の要件:①虚偽の外観(支配人の肩書あり)②本人の帰責性(商人が肩書を与えた)③相手方の信頼(善意・無重過失)
- ・効果:一切の裁判外の行為をする権限があるとみなされる——裁判上の行為は含まれない
- ・支配人(21条)との違い:支配人は裁判上・裁判外の一切、表見支配人は裁判外のみ
- ・表見支配人制度の趣旨:外観を信頼した取引相手の保護(禁反言の法理)
代理商
第商法27条条簡単にいうと
代理商は商人の使用人ではなく外部の独立した人です。締約代理商と媒介代理商の2種類を押さえましょう。
代理商とは、商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理または媒介をする者で、その商人の使用人でない者をいいます(商法27条)。商業使用人(支配人等)が商人に雇用されて商人の組織内部から業務を補佐するのとは異なり、代理商は商人とは独立した別の事業者として、商人の外部から取引を補助します。代理商は商人の「使用人」ではないため、指揮命令関係はなく、独立して業務を行います。
代理商には2種類があります。締約代理商とは、商人の代理人として商人に代わって第三者と直接契約を締結する権限を持つ者です(代理権あり)。締約代理商が締結した契約の効果は直接商人(本人)に帰属します。例えば保険会社の保険代理店が保険契約を代理して締結する場合が典型例です。一方、媒介代理商とは、商人に代わって契約を締結する代理権は持たず、商人と第三者との間の取引の仲介・紹介のみを行う者です(代理権なし)。媒介代理商は契約の機会を提供するにとどまり、商人と第三者が直接契約を締結します。不動産仲介業者が売主と買主を引き合わせる場合がその典型です。
代理商の義務と権利についても重要な規定があります。代理商は商人の許可を得なければ、自己または第三者のために商人の営業の部類に属する取引をすることはできません(商法28条:競業避止義務)。また、代理商は代理商期間中に生じた債権について、商人に引き渡すべき物または有価証券等を留置することができます(商法31条:代理商の留置権)。この留置権は代理商契約が終了した後も行使できます。
具体例
保険会社A(商人)のために保険契約を代理して締結する保険代理店Bは締約代理商にあたり、契約の効果はAに帰属する。一方、不動産業者CがA(売主)の物件を買主Dに紹介し、AとDが直接売買契約を締結した場合、Cは媒介代理商にあたり、代理権は持たない。

表見支配人の成立要件と効果
ポイント整理
- ・商人の平常の営業部類に属する取引の代理または媒介をすること
- ・商人の使用人でない独立した者であること(雇用関係がないこと)
効果
- ・締約代理商:契約効果が直接商人に帰属する
- ・媒介代理商:仲介のみで代理権はなく、商人と第三者が直接契約する
- ・代理商は商人の許可なく競業取引不可(28条:競業避止義務)
- ・代理商は債権について留置権を行使できる(31条)
条文(第商法27条条)
商法27条:この章において「代理商」とは、商人のためにその平常の営業の部類に属する行為の代理又は媒介をする者であって、その商人の使用人でないものをいう。
重要メモ
- ・「代理商(27条):商人のために代理または媒介する者で使用人でない独立の商人——締約代理商(代理人として契約締結)と媒介代理商(仲介のみ)の2種類」
- ・代理商の意義(27条):商人の平常の営業の部類に属する取引の代理または媒介をする独立した商人
- ・締約代理商:商人の代わりに代理人として契約を締結する
- ・媒介代理商:契約の仲介(紹介)のみ——自ら締結は行わない
- ・代理商の通知義務(27条2項):代理商は契約締結の代理・媒介をした際は遅滞なく商人に通知しなければならない
- ・代理商の留置権(31条):代理商は商人に対して報酬・費用償還を担保するために留置権を行使できる
まとめ
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